往査でのヒアリングがうまくいかない原因のほとんどは準備の不足です。何を確かめたいかを決めずに現場へ行くと、業務の説明を一通り聞いて終わってしまいます。
準備として、確かめたい事実を3つから5つ書き出しておきます。この一覧があれば、話が広がっても本題に戻れます。
この記事では、ヒアリングの設計、質問の順序と型、避けたい聞き方、記録の残し方、相手の負担への配慮までを整理します。
- ヒアリングを5段階で設計する進め方
- 開いた質問から閉じた質問へ移る順序と5つの質問の型
- 説明が抽象的なときに使う具体化の質問
- 統制が破られやすい例外の場面をどう聞き出すか
- 避けたい5つの聞き方と、その言い換え
- 聞いた事実と自分の評価を分けて記録する理由
図 ヒアリングの質問の設計
📌 結論 聞くことを先に決める
往査でのヒアリングがうまくいかない原因のほとんどは、準備の不足です。何を確かめたいかを決めずに現場に行くと、業務の説明を一通り聞いて終わってしまいます。説明を聞くこと自体は必要ですが、それだけでは監査になりません。
準備として、確かめたい事実を3つから5つ書き出しておきます。承認が課長で行われているか、例外的な処理がどのくらいあるか、記録がどこに残るか、といった形です。この一覧があれば、話が広がっても本題に戻れます。
資料を読めば分かることを聞くと、相手の協力が得にくくなる
🧭 質問の順序
質問は、広く聞くものから狭く聞くものへと移していきます。最初から、承認は課長が行っていますかと聞くと、はいという答えで終わり、実態が出てきません。まず、この業務はどう進めていますかと聞いて全体を話してもらい、そのなかで気になった点を1つずつ確定していきます。
開いた質問で流れを聞き、閉じた質問で事実を固める
説明が抽象的なときは、直近の例を1つ教えてくださいと頼みます。一般論としては規程どおりだと説明していても、実際の1件を追うと違う流れが出てくることがあります。具体化の質問は、実態に近づくための最も簡単な方法です。
もう1つ効くのが、例外を聞くことです。急ぎのときはどうしますか、担当者が休んでいるときはどうしますかと聞くと、標準以外の流れが出てきます。統制が破られるのは、たいてい例外の場面です。
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📊 避けたい聞き方
聞き方によって、得られる情報の量はまったく変わります。規程は守れていますかという質問には、はいとしか答えようがありません。なぜ守らなかったのですかという聞き方は、責める調子になり、相手の口が重くなります。
その場で結論を言わないことが、次の往査での協力につながる
特に注意したいのが、その場で結論を言ってしまうことです。この点は問題ですねと言うと、相手は防御的になり、それ以降の話が出てこなくなります。気になった点は持ち帰って確認しますと伝え、事実の確認に徹します。
誘導も避けます。普通はこうしますよねという聞き方をすると、相手はそれに合わせて答えてしまいます。実際にはどうされていますかという中立な聞き方であれば、実態が出てきます。
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🗂 記録をどう残すか
聞いた内容は、その場でメモを取り、往査の当日中に調書に落とします。翌日以降にまとめようとすると、細部が失われます。メモには、相手の氏名と役職、日時、聞いた内容、そのとき見せてもらった資料を書きます。
重要なのが、ヒアリングの終わりに要点を読み上げることです。今日うかがった内容はこういうことでよいですかと確認すると、認識の相違がその場で解消できます。後から報告書の段階で事実が違うと言われることを防げます。
記録するときは、聞いた事実と、それに対する自分の評価を分けて書きます。担当者はこう説明したという事実と、この運用は権限の分離が働いていないという評価は、別のものです。混ぜて書くと、後から事実だけを取り出せなくなります。
⚖️ 相手の負担と関係づくり
ヒアリングは相手の業務時間を使う作業です。事前に資料を読み、資料で分かることを質問から外すだけで、必要な時間はかなり短くなります。準備をしてきていることが伝われば、相手の協力も得やすくなります。
時間は1回あたり1時間を目安にします。それ以上になると集中が続かず、後半の内容が薄くなります。確かめることが多い場合は、日を分けるか、対象者を分けるほうが結果として効率的です。
最後に、聞いた内容の扱いについて一言添えます。内部通報のような場面でなくても、担当者は自分の発言がどう使われるか気にしています。報告書には個人名は書かず、業務の運用として記載するという方針を伝えておくと、話しやすくなります。実際にその方針を守ることで、次の往査での協力につながります。
❓ よくある質問
A. 確かめたい事実を3つから5つ書き出します。あわせて事前に資料を読み、資料で分かることは質問から外しておきます。
A. 広く聞くものから狭く聞くものへ移します。まず業務の流れを話してもらい、気になった点を1つずつ確定していきます。
A. 直近の例を1つ教えてくださいと頼みます。規程どおりだという説明でも、実際の1件を追うと違う流れが出てくることがあります。
A. 例外を聞きます。急ぎのときはどうしますか、担当者が休んでいるときはどうしますかと聞くと、標準以外の流れが出てきます。
A. 避けます。相手が防御的になり、それ以降の話が出てこなくなります。持ち帰って確認しますと伝え、事実の確認に徹します。
A. その場でメモを取り、往査の当日中に調書に落とします。翌日以降にまとめると細部が失われます。
A. ヒアリングの終わりに要点を読み上げて確認します。後から報告書の段階で事実が違うと言われることを防げます。
A. 1時間を目安にします。それ以上になると集中が続かず後半が薄くなるため、日を分けるか対象者を分けるほうが効率的です。
📄 まとめ
ヒアリングは準備で決まります。確かめたい事実を先に書き出し、資料で分かることは質問から外します。
質問は広いものから狭いものへ移し、抽象的な説明には直近の1件を求めます。例外の場面を聞くと統制の抜けが出てきます。
その場で結論を言わず、誘導もしません。事実の確認に徹することが、次の往査での協力につながります。
記録では、聞いた事実と自分の評価を分けて書きます。混ぜて書くと後から事実だけを取り出せなくなります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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