※本記事は2026年11月3日時点の公表資料に基づきます。
M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(証券コード669A)は、2026年10月29日に東京証券取引所の上場承認を受け、2026年12月3日にグロース市場へ上場予定です。2021年11月に設立された、中堅・中小企業を主な対象とするM&A仲介会社で、設立から約5年での上場予定となります。本記事では、同社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、上場準備会社が自社の準備に生かせる論点を、公認会計士の視点で整理します。
結論からいえば、この事例で特に参考になるのは、①信託型ストック・オプション(第1回新株予約権)を全部放棄したうえで、役職員向けの新株予約権を段階的に発行している資本政策、②代表取締役2名が資産管理会社を含めて発行済株式の74.8%を保有する株主構成と、その株式移動の開示、③独立した内部監査部門を置かず、取締役2名の相互監査と外部専門家の補助で内部監査を運用している体制、④M&Aの成立時点で収益を認識する成功報酬型ビジネスの会計と、期末に成約が集中しやすいことのリスク開示、の4点です。
この記事の見出し
M&Aロイヤルアドバイザリーはどんな会社か
Ⅰの部によると、同社は2021年11月30日に東京都千代田区で、M&A仲介業務を事業目的として資本金30百万円で設立されました。本店は東京都千代田区丸の内、決算期は10月31日です。事業はM&A仲介事業の単一セグメントで、子会社・関連会社はなく、連結財務諸表は作成していません。金融商品取引法上の親会社等もありません。
従業員数は2026年9月30日現在で215名(臨時雇用者は年間平均23名、外数)、平均年齢31.6歳、平均勤続年数1.9年、平均年間給与13,478千円と記載されています。内訳はアドバイザー120名、ミドルオフィス(提携支援部・コーポレートアドバイザリー部)39名、バックオフィス(インサイドセールス部を含むその他の部署)56名です。最近日までの1年間で従業員数が33名増え、平均臨時雇用者数は27名減ったと説明されています。
| 項目 | Ⅰの部の記載 |
|---|---|
| 会社名 | M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(証券コード669A) |
| 市場 | 東京証券取引所 グロース市場 |
| 上場承認日/上場予定日 | 2026年10月29日/2026年12月3日 |
| 設立 | 2021年11月30日(資本金30百万円) |
| 本店所在地 | 東京都千代田区丸の内 |
| 代表者 | 代表取締役社長 橋場 涼 |
| 決算期 | 10月31日(第1期は11ヶ月と1日) |
| 事業 | M&A仲介事業(単一セグメント) |
| 従業員数 | 215名(2026年9月30日現在、臨時雇用者は外数で平均23名) |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(取締役8名うち社外2名、監査役3名全員社外) |
| 会計監査人 | 監査法人A&Aパートナーズ |
グロース市場の上場審査では、「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点」という実質審査基準が使われます(IPOの実質審査基準とは)。また、グロース市場の会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードは基本原則のみです。以下では、Ⅰの部の記載がこれらの観点とどう結びつくかを意識しながら読み進めます。
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何で稼ぐ会社か:分業体制と成功報酬
同社はM&A関連サービス(仲介、アドバイザリーなど)を主たる事業としており、非上場企業のM&A案件を中心に、上場企業のカーブアウト案件や投資ファンドのEXIT案件まで支援していると記載されています。創業から2026年7月末までの成約実績のうち、売り手企業の売上高が5億円以上の案件の割合は51.3%とされています。
特徴として説明されているのが分業体制です。案件を受託するコンサルタント(M&Aアドバイザー)に加えて、インサイドセールス部が組織的に売り手候補を探し、提携支援部が買い手候補へ網羅的に打診します。基本合意の後は、公認会計士等が在籍するコーポレートアドバイザリー部と外部の会計・税務専門家がデューデリジェンスや契約の実行支援(エグゼキューション)を主導し、資料作成や見込み顧客との関係維持(ナーチャリング)は企画部が支援します。これにより、コンサルタントは売り手と買い手の合意形成に注力できる、というのが同社の説明です。
図1 コンサルタントを専門部隊が支える分業体制(Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成)
Ⅰの部では、この体制の成果を示す指標として、コンサルタント1人当たりの成約件数(各期の成約件数を前期の期初・期末の平均アドバイザー数で割ったもの)が2023年10月期3.20件、2024年10月期2.27件、2025年10月期1.42件と開示されています。あわせて、入社1年以上のアドバイザーの離職率6.1%(2025年10月末時点)、第1期から第4期までの成約のうち手数料1億円以上の案件の割合(大型案件率)15.1%も記載されています。
指標を開示するときは、この会社のように算定方法を注記で明示することが大切です。比較対象(中小企業庁のM&A支援機関登録制度の登録データベースで専従者数上位のM&A仲介専業5社)や基準日を明記しておけば、審査や投資家との対話で数字の意味を説明しやすくなります。
報酬体系:エクイティレーマン方式と完全成功報酬
報酬は、譲渡対価に応じた割合を報酬とする「エクイティレーマン方式」を売り手・買い手の双方に採用しています。移動総資産額(主に譲渡額+負債額)を基準とする総資産レーマン方式と比べて、調整の余地が少なく客観的で、同じ料率なら報酬が低くなることが想定される、と説明されています。報酬の発生時点は次の表のとおりで、売り手は原則として完全成功報酬、買い手はマッチング時の中間報酬とM&A成立時の成功報酬です。
| アドバイザリー契約締結時 | 相手先の確定(マッチング)時 | M&A成立時 | |
|---|---|---|---|
| 売り手企業(エクイティレーマン方式) | - | - | 成功報酬 |
| 買い手企業(エクイティレーマン方式) | - | 中間報酬 | 成功報酬 |
着手金を受け取らず成功報酬が中心の報酬体系は、顧客にとって負担が少ない一方、会社の売上は案件が成立したタイミングに左右されます。この点は後で見る収益認識と事業等のリスクに直結します。
KPIの推移:成約件数とアドバイザー数
同社は経営上の目標の達成状況を判断する指標として売上高と営業利益率を重視し、それに影響する成約件数、成約平均単価、M&Aアドバイザー数を重要な指標として管理していると記載しています。Ⅰの部には四半期ごとの成約件数・新規受託件数・受託残件数と、期末の人員構成の推移が表で開示されています。
図2 通期の成約件数と期末のアドバイザー数(Ⅰの部「各種指標の推移」「従業員数の推移」)
通期の成約件数は2022年10月期2件、2023年10月期16件、2024年10月期42件、2025年10月期66件、成約単価は117百万円、79百万円、79百万円、61百万円です。新規受託件数は37件、103件、290件、584件と推移し、受託残件数は2025年10月期第4四半期末で441件、2026年10月期第3四半期末で487件とされています。アドバイザー数は期末で9名、27名、66名、104名、2026年10月期第3四半期末で115名です。
グロース市場の審査では「事業計画の合理性」が問われ、KPIと事業計画の前提がつながっているかが確認されます(IPO審査の「事業計画の合理性」)。人員数・成約件数・単価のように、売上を分解した指標を四半期単位で管理し、その推移を説明できるようにしておくことは、どの業種の上場準備会社にも共通する実務上のポイントです。
沿革:設立から上場承認まで
Ⅰの部の沿革は、設立と拠点の新設・移転が中心です。2022年2月に日本橋オフィスを新設し、2023年5月に大阪支社、2024年6月に東京サテライトオフィス、2025年3月に日本橋第2オフィス、2026年1月に日本橋第3オフィスを新設しています。株式等の状況や株式公開情報の記載とあわせると、資本政策やガバナンスの主な出来事は次の図のように整理できます。
図3 沿革と資本政策の主な出来事(Ⅰの部「沿革」「株式等の状況」「株式公開情報」をもとに作成)
このほか、設備の新設計画として、拠点の移転・集約に伴う「日本橋本町オフィス(仮称)」の設備投資(投資予定額798百万円、既支払額17百万円、自己資金、2026年8月着手・2027年5月完了予定)が記載されています。集約に伴い、既存の日本橋オフィス・日本橋第2オフィス・東京サテライトオフィスの建物等の一部は、集約の予定年月までに全額を償却または除却する予定とされています。
上場準備の期間中に拠点の新設・移転が続く会社では、敷金・資産除去債務・固定資産の除却や耐用年数の見直しといった会計処理が毎期のように発生します。移転計画が決まった段階で、償却期間の見直しや除却損の見込みを経理と共有しておくと、決算や予算の精度が上がります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
業績の推移をどう読むか
主要な経営指標等の推移(単体)は次のとおりです。第1期・第2期の数値は会社計算規則に基づくもので、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準じた監査を受けていないと注記されています。第3期・第4期の財務諸表は、有価証券上場規程第216条第6項に基づき、監査法人A&Aパートナーズの監査を受けています。
| 項目(千円) | 第1期(2022年10月期) | 第2期(2023年10月期) | 第3期(2024年10月期) | 第4期(2025年10月期) |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 234,075 | 1,257,318 | 3,320,319 | 4,010,914 |
| 経常利益 | △89,395 | 214,547 | 940,653 | 296,309 |
| 当期純利益 | △58,779 | 155,093 | 676,508 | 312,295 |
| 純資産額 | △24,329 | 130,763 | 806,222 | 1,118,517 |
| 総資産額 | 489,812 | 1,248,785 | 2,384,823 | 2,471,625 |
| 自己資本比率 | △5.2% | 10.4% | 33.8% | 45.3% |
| 営業活動によるCF | - | - | 1,060,829 | △64,057 |
| 従業員数(臨時) | 27(2) | 50(7) | 110(33) | 188(48) |
| 監査 | 金商法に準じた監査なし | 金商法に準じた監査なし | 監査済み | 監査済み |
図4 売上高の推移と各期の経常利益・当期純利益(単位:百万円、百万円未満四捨五入。第1期・第2期は監査を受けていない数値)
第1期(2021年11月30日〜2022年10月31日の11ヶ月と1日)は経常損失89,395千円、純資産△24,329千円の債務超過でしたが、第2期から第4期は経常利益を計上し、第4期末の純資産は1,118,517千円、自己資本比率は45.3%です。資本金は2022年6月の第三者割当以降33,400千円のままで、純資産の増加は利益の積み上げによるものです。
第4期は売上高が4,010,914千円(前期比20.8%増)と増えた一方、営業利益は308,495千円(同68.5%減)、経常利益は296,309千円(同68.5%減)でした。Ⅰの部は、将来の成長に向けた先行投資として期末人員を110名から188名へ大幅に増やし、人件費を中心に費用が増えたことを理由に挙げています。
図5 第3期から第4期への営業利益の増減(単位:百万円、百万円未満四捨五入)
内訳を見ると、売上原価は1,813,657千円(前期比66.4%増)となり、売上総利益率は67.2%から54.8%へ12.4ポイント低下しています。増員したアドバイザーの人件費が先行して発生し、成約への寄与は翌期以降になること、提携先から紹介を受けた案件の成約が増えて案件紹介料(第3期29,000千円→第4期194,284千円)が増えたことが要因とされています。販売費及び一般管理費も1,888,762千円(同50.9%増)と、管理部門の人件費、採用関連費用、ダイレクトメール等の通信費、拠点の増設・増床に伴う地代家賃が増えました。成約平均単価は60,771千円(前期79,055千円)で、幅広い規模の案件が成約したためと説明されています。
なお、第4期の法人税等合計は△15,985千円で、税引前当期純利益296,309千円より当期純利益312,295千円のほうが大きくなっています。賃上げ促進税制の税額控除の繰越控除に係る繰延税金資産を計上したことによる、と記載されています(後述の「重要な会計上の見積り」参照)。
第5期(中間・第3四半期累計)の状況
第5期については、中間会計期間(2025年11月1日〜2026年4月30日)と第3四半期累計期間(2025年11月1日〜2026年7月31日)の数値が開示されています。いずれも監査法人A&Aパートナーズによる「期中レビュー」を受けたもので、年度の財務諸表のような監査意見が付されたものではありません。また、同社は当中間会計期間から中間財務諸表、当第3四半期累計期間から四半期財務諸表を作成しているため、前年同期との比較は行っていません。
| 項目(千円) | 第5期 中間会計期間 | 第5期 第3四半期累計期間 |
|---|---|---|
| 期間 | 2025年11月1日〜2026年4月30日 | 2025年11月1日〜2026年7月31日 |
| 売上高 | 3,151,907 | 4,304,545 |
| 営業利益(売上高営業利益率) | 759,300(24.1%) | 793,106(18.4%) |
| 経常利益 | 750,781 | 783,373 |
| 中間(四半期)純利益 | 487,767 | 507,421 |
| 成約件数/成約平均単価 | 45件/70,042 | 67件/64,246 |
| 自己資本比率 | 45.5% | 47.0% |
| 保証の種類 | 期中レビュー | 期中レビュー |
図6 2025年10月期と2026年10月期(第3四半期まで)の四半期別成約件数(淡色は2026年10月期)
四半期別の成約件数は、2025年10月期が第1四半期14件、第2四半期13件、第3四半期14件、第4四半期25件、2026年10月期が22件、23件、22件です。Ⅰの部の事業等のリスクでも、成約時期は個々の案件の進捗で決まり、事業年度の末期に成約が集中する傾向があると説明されています。
グロース市場では、赤字か黒字かよりも「高い成長可能性」とその説明が重視されます(グロース市場の「高い成長可能性」とは)。この会社のように、先行投資で利益率が下がった期がある場合には、費用増の中身(人件費・採用費・紹介料など)と、増員した人員が売上に寄与するまでの時間差を数字で説明できるようにしておくことが重要です。
資本政策と株主構成
代表取締役2名で74.8%:申請時点の持株比率
事業等のリスク「大株主との関係に関するリスク」によると、本書提出日現在、代表取締役社長の橋場涼氏は資産管理会社を通じた間接保有を含めて10,566千株(発行済株式総数に対する所有割合31.6%)、代表取締役キャピタルマーケッツ本部長の荒川有理氏は14,406千株(同43.1%)を保有し、両氏合計で24,972千株(同74.8%)です。この所有割合は、創業時の資金調達で両氏が負担したリスクの程度を参考に決めたもので、2022年2月に荒川氏が代表取締役に就任した際に、橋場氏が保有株式の一部を荒川氏に譲渡したと説明されています。
図7 資産管理会社を通じた間接保有を含む持株比率(発行済株式33,400,000株に対する割合。上場申請時点の数値であり、上場時は売出し等により変動)
両氏は上場時の売出しで所有株式の一部を売却する予定ですが、引き続き大株主となる見込みとされています。また、両氏は株主共同の利益と少数株主の利益に配慮する方針である一方、双方の意見が必ず一致するわけではないため利益相反が生じる可能性がある、とリスクとして開示しています。
ここで注意したいのは、74.8%はあくまで上場申請時点(Ⅰの部の記載時点)の比率だということです。上場時には公募・売出しで株主構成が変わるため、上場後の比率はⅠの部だけでは分かりません。記事や社内資料で数字を使うときは、基準日を必ず書き分けましょう。
2026年9月30日現在の株主数は25名(その他の法人6、個人その他19)で、所有株式数の割合はその他の法人39.76%、個人その他60.24%です。資産管理会社4社(株式会社SH、株式会社RH、MOONLIGHT株式会社、SUNRISE株式会社)は、Ⅰの部の株主の状況で「役員等により総株主等の議決権の過半数を所有されている会社」と区分されています。
一般に、流通株式の計算では、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(役員の配偶者・二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが除かれます。資産管理会社を使う場合、その持分は流通株式に数えられない点を前提に、上場時の流通株式比率(グロース市場の形式基準は25%以上)を資本政策の段階から試算しておく必要があります(流通株式比率の計算式と調べ方、創業者の持株比率はどこまで下げてよいか)。
発行済株式の推移と株式移動の価格
発行済株式総数、資本金等の推移を見ると、2021年11月30日の設立時に30,000,000株(発行価格1円)を発行し、2022年6月6日に個人4名を割当先とする有償第三者割当で3,400,000株(発行価格1円)を発行して、発行済株式総数は33,400,000株、資本金は33,400千円となりました。以後、発行済株式総数は変わっておらず、Ⅰの部に株式分割の記載はありません。種類株式・自己株式もありません。2025年3月31日の臨時株主総会では、1単元を100株とする単元株制度の導入と、発行可能株式総数を100,000,000株に減らす定款変更を行っています。
図8 株式の発行と主な株式移動の価格(1株当たり。Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」)
1株1円で設立し、その後の株式数を変えずに上場準備を進めたため、1株当たりの金額は小さく、1株当たり純資産額は第4期末で33.49円です。上場前に株式分割で株数を調整する会社も多いなかで、この会社はⅠの部の時点まで株式分割を行わず、単元株制度(100株)を導入しています。
特別利害関係者等の株式移動
第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、基準事業年度の末日から起算して2年前の日(2023年11月1日)以降の株式移動が記載されています(有価証券上場規程施行規則第266条)。主な内容は次のとおりです。
図9 代表取締役2名からの主な株式移動(Ⅰの部 第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」)
2024年1月31日には、橋場氏から株式会社SHと株式会社RHへ各3,000,000株、荒川氏からMOONLIGHT株式会社とSUNRISE株式会社へ各3,340,000株が、いずれも1株25円で移動しています。移動後所有者の代表取締役はそれぞれ橋場氏・荒川氏で、理由は「所有者の事情による」と記載されています。
2024年10月31日には、両氏から取締役の阿藤剛氏と従業員へ、1株20円で株式が譲渡されています(橋場氏から阿藤氏と従業員4名へ各42,312株、荒川氏から阿藤氏と従業員4名へ各57,688株)。さらに2026年4月25日には、橋場氏から従業員2名へ各101,000株、荒川氏から従業員2名へ各137,700株が1株158円で譲渡されています。2024年10月と2026年4月の譲渡の理由は、いずれも「経営参画への意識向上のため」と記載されています。移動価格は、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式で算出した価格を総合的に勘案し、譲渡人と譲受人が協議のうえ決めたと注記されています。
上場前の株式移動は、価格の算定根拠と移動の理由が審査で確認されます。また、新規上場申請者は上場日から5年間、移動状況の記載内容に係る記録を保存することとされています(同施行規則第267条)。移動のたびに、算定方法・算定資料・契約書を一式で保管しておくことが実務上のポイントです(未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前に株式を動かすとどうなるか)。
ストック・オプション:信託型の放棄と第2回〜第5回の発行
同社の資本政策で最も特徴的なのが新株予約権(ストック・オプション)です。ストック・オプション等関係の注記によると、第1回新株予約権(付与日2022年5月1日、普通株式7,500,000株、行使価格10円)は、及川武士氏を受託者とする信託に割り当てられ、信託期間満了時点の役職員等のうち受益者として指定された者に交付される、いわゆる信託型のストック・オプションでした。この第1回新株予約権は2024年10月31日に全部放棄され(第3期に7,500,000株が失効)、第3期(2024年10月期)には権利不行使による失効に伴う新株予約権戻入益1,050千円が特別利益に計上されています。
Ⅰの部には放棄の理由は書かれていません。一般論としては、2023年5月に国税庁が信託型ストック・オプションの課税関係についての考え方(権利行使時の経済的利益を給与として課税する整理)を公表して以降、信託型ストック・オプションの取扱いは上場準備会社にとって重要な検討事項になっています(信託型ストックオプションはなぜ給与課税か)。放棄と同じ2024年10月31日には、取締役3名・従業員110名を対象とする第4回新株予約権(6,295,000株、行使価格20円)が付与されています。
| 回 | 決議・付与(割当)日 | 付与対象者(当初) | 行使価格 | 目的株式数(2026年9月30日現在) | 行使期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1回 | 付与 2022年5月1日 | 受託者1名(信託型) | 10円 | 2024年10月31日に全部放棄 | - |
| 第2回 | 決議 2022年10月31日 | 取締役1・従業員27・外部協力者2 | 1円 | 146,669株 | 2024年11月1日〜2032年10月31日 |
| 第3回 | 付与 2023年11月1日 | 取締役3・監査役1・従業員52・外部協力者2 | 3円 | 255,000株 | 2025年11月1日〜2033年10月31日 |
| 第4回 | 付与 2024年10月31日 | 取締役3・従業員110 | 20円 | 6,245,454株 | 2026年11月1日〜2034年10月31日 |
| 第5回 | 割当 2026年2月1日 | 取締役4・従業員57 | 36円 | 1,332,455株 | 2028年1月29日〜2043年1月28日 |
図10 新株予約権(ストック・オプション)の各回の概要(株数は2026年9月30日現在の目的となる株式数)
本書提出日現在の新株予約権による潜在株式数は7,979,578株で、発行済株式総数33,400,000株の23.9%に相当すると事業等のリスクに記載されています。第四部の株主の状況では、潜在株式を含めた総数41,379,578株に対し、潜在株式の割合は19.28%です。同じ「潜在株式の比率」でも、分母が発行済株式数か、潜在株式を含めた総数かで数字が変わる点に注意が必要です。
取得者の概況を見ると、第4回は桜井博一氏(専務取締役)772,596株、阿藤剛氏213,990株、倉澤瑞樹氏135,269株のほか従業員96名に5,123,599株、第5回は桜井氏95,000株、中田一徳氏70,000株、阿藤氏35,000株、倉澤氏15,000株のほか従業員56名に1,117,455株が割り当てられています。代表取締役2名への割当ては記載されていません。
図11 上場後に段階的に行使できる設計(Ⅰの部「新株予約権等の状況」の行使条件をもとに作成)
行使条件は各回に共通で、上場までは行使できず、上場から2年以内は付与数の30%、その後の1年間は60%、それ以降は100%まで行使できる段階的な設計です。行使時には当社や関係会社の取締役・監査役・使用人等の地位にあることが求められ、発行済株式総数の過半数の株式を特定の第三者に移転する合意が成立し当社が承認した場合には、全部を行使できるとされています。所定の期限までに上場しなかった場合は、会社が無償で取得できる取得事由も定められています。
ストック・オプションの会計処理と注記
会計面では、第2回〜第4回について、未公開株式であるため公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値(株式の評価額-行使価格)で見積もり、株式の評価は純資産価額方式によっていると注記されています。ストック・オプションにかかる費用計上額は第3期・第4期とも「該当事項はありません」で、当事業年度末の本源的価値の合計額は第3期7,800千円、第4期114,890千円と開示されています。
未上場会社が本源的価値で見積もる方法はストック・オプション会計基準で認められた取扱いですが、付与時の株式評価額と行使価格の関係、その後の株式移動の価格との整合は、審査や監査で確認されやすい論点です。なお、有償で発行する権利確定条件付きの新株予約権(いわゆる有償ストック・オプション)も、実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じて会計処理するため、「有償だから費用が出ない」わけではありません。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例で解説しています。
継続所有の確約:第5回だけが対象になった理由
第四部「第三者割当等の概況」には、第3回(2023年11月1日、300,000株、1株3円)、第4回(2024年10月31日、6,295,000株、1株20円)、第5回(2026年2月1日、1,340,000株、1株36円)の新株予約権が記載されています。「保有期間等に関する確約」の欄は、第3回と第4回が「-」、第5回は確約ありです。
図12 基準事業年度(2024年11月1日〜2025年10月31日)と各回の割当日の関係(Ⅰの部「第三者割当等の概況」)
同施行規則第272条は、新規上場申請者が基準事業年度の末日から起算して1年前より後に、役員又は従業員等に報酬として新株予約権を割り当てた場合に、割当てを受けた者との間で所有等の確約を書面で行うことを求めています。同社の基準事業年度の末日は2025年10月31日で、第5回(2026年2月1日割当)はこの期間に入るため、原則として割当日から上場日の前日または新株予約権の行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を行っていると記載されています。
上場前の第三者割当や新株予約権の付与が、どの日付から確約の対象になるかは、基準事業年度の末日から逆算して決まります。上場前の割当てがすべて確約の対象になるわけではありません。また、継続所有の確約は取引所規則に基づくもので、主幹事証券との合意で売却を制限するロックアップとは別の制度です。資本政策表には、各割当ての日付と確約の要否を並べて管理しておくと安全です。
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コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と全員社外の監査役
同社は、会社法上の機関として取締役会、監査役会及び会計監査人を設置しています。監査役会設置会社を選んだ理由として、取締役会が適正かつ迅速に経営の基本方針や重要な業務執行を決定し、全員が社外監査役で構成される監査役会が独立した立場から取締役の職務執行を監査する体制が、経営の効率性と健全性の確保に有効と判断したため、と記載されています。
図13 監査役会設置会社としての機関設計(2026年10月29日現在。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成)
取締役会は取締役8名(うち社外取締役2名)で構成され、毎月1回定時で開催されています。第4期の取締役会は13回開催され、在任期間中の取締役・監査役は全員が全回出席しています(社外取締役の髙井孝佳氏は就任後の6回すべてに出席)。具体的な検討内容として、経営方針、経営計画、月次予算実績差異分析、業務執行状況のほか、株式上場に向けた内部管理体制の整備、単元株制度の導入に伴う定款変更、M&Aアドバイザーの採用計画、新たな事業所の賃貸借契約の締結などが挙げられています。
業務執行側には、取締役(社外取締役を除く)と常勤監査役で構成し原則毎週1回開催する経営会議と、原則四半期に1回(必要に応じて臨時)開催するリスク・コンプライアンス委員会があります。同委員会は代表取締役社長が委員長を務め、代表取締役、専務取締役、取締役3名、常勤監査役の計7名で構成されています。任意の指名委員会・報酬委員会の記載はありません。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部の略歴から) |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 橋場 涼 | 銀行、M&A仲介会社を経て2021年11月に当社設立 |
| 代表取締役キャピタルマーケッツ本部長 | 荒川 有理 | 事業会社、M&A関連会社、投資会社等を経て2022年2月に当社代表取締役 |
| 専務取締役投資銀行本部長 | 桜井 博一 | 銀行、FAS、M&A仲介会社を経て設立時に取締役CFO。公認会計士事務所を営む |
| 取締役企画本部長 | 阿藤 剛 | 事業会社を経て2022年6月入社 |
| 取締役経営管理室長 | 中田 一徳 | 大蔵省・金融庁を経て2025年8月入社、2026年2月取締役 |
| 取締役管理本部長 | 倉澤 瑞樹 | 銀行を経て2022年7月入社 |
| 社外取締役 | 髙井 孝佳 | 食品メーカーの代表取締役副社長等 |
| 社外取締役 | 岡田 和弘 | 銀行の取締役常務執行役員等 |
| 常勤監査役(社外) | 佐藤 瞬也 | 監査法人を経て公認会計士事務所 |
| 監査役(社外) | 嶋方 拓郎 | 監査法人を経て公認会計士事務所 |
| 監査役(社外) | 田原 一樹 | 法律事務所の弁護士 |
監査役3名はいずれも社外監査役で、佐藤瞬也氏(常勤)と嶋方拓郎氏は公認会計士として財務・会計に関する相当程度の知見を、田原一樹氏は弁護士として企業法務に関する相当程度の知見を有すると記載されています。会社法では監査役会設置会社の監査役の半数以上を社外監査役とし(第335条第3項)、監査役会は常勤の監査役を選定する必要があります(第390条第3項)。この会社は、常勤監査役も含めて全員を社外監査役とし、常勤監査役に公認会計士を充てている例です(監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、常勤監査役は必要か、監査役に会計の知識は必要か)。
社外役員の独立性をどう説明しているか
社外取締役は髙井孝佳氏と岡田和弘氏の2名です。同社は社外役員の独立性に関する基準・方針を明確には定めていないものの、経歴や当社との関係を踏まえ、東京証券取引所が定める独立性基準に抵触しないと判断して選任していると記載しています。また、社外監査役の佐藤瞬也氏が第3回新株予約権6,000個(目的となる株式6,000株)を保有していることを明示したうえで、それ以外に社外役員や兼職先と当社との間に人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はないと説明しています。
上場会社は独立役員を1名以上確保する必要があります。社外取締役の人数については、コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日改訂後の原則4-10)がプライム市場で3分の1以上、その他の市場で2名以上の独立社外取締役を求めていますが、グロース市場の会社に適用されるのは基本原則のみです(社外取締役は何人必要か)。また、東京証券取引所は2026年7月の上場規則改正(7月10日施行)で独立性基準を広げ、上場会社の主要株主(議決権10%以上)やその業務執行者(最近において該当していた者を含む)等は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会から独立役員の要件を満たさないこととしました。社外役員の候補を選ぶ際は、こうした最新の基準に照らして確認しておく必要があります。
役員報酬の決め方と関連当事者取引
取締役の報酬は、月例の固定報酬である基本報酬と業績連動報酬等で構成され、社外取締役は基本報酬のみです。業績連動報酬は、アポイント取得の推進を担当する取締役を対象に「企画本部長インセンティブ賞与支給規程」に基づいて支給され、企画本部が取得したアポイントのうち成約に至り売上計上された件数に、1件当たりの金額を掛けて算定します。この指標に目標値は設定されておらず、第4期の実績は42件と記載されています。
個人別の報酬は社外取締役の答申を踏まえて取締役会で決議しており(基本報酬は2025年1月17日の取締役会、役員賞与は2026年1月28日の臨時取締役会)、取締役会は決定方針に沿うものと判断しています。報酬限度額は、取締役が年額1,000,000千円以内(2026年1月28日の株主総会決議、使用人分給与を含まない)、監査役が年額30,000千円以内(2025年1月29日の定時株主総会決議)です。
| 役員区分 | 報酬等の総額(千円) | 基本報酬 | 業績連動報酬 | 対象人数 |
|---|---|---|---|---|
| 取締役(社外取締役を除く) | 180,310 | 167,710 | 12,600 | 5名 |
| 社外役員 | 22,200 | 22,200 | - | 5名 |
取締役の個人別報酬の決定方針や、その決定の委任に関する事項の開示は、有価証券報告書の記載事項(開示府令)として求められるものです。業績連動報酬を入れる場合は、この会社のように指標の内容と選定理由、実績値を開示できるよう、規程と算定資料を整えておくことがポイントです。
なお、関連当事者情報は第3期・第4期とも「該当事項はありません」と記載されています。上場審査では関連当事者取引の有無と、その必要性・条件の妥当性が確認されます(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。
内部監査・内部統制:取締役2名の相互監査
Ⅰの部によると、同社は比較的小規模の会社・組織であることから、独立した内部監査部門を設置していません。代表取締役社長が選任した内部監査責任者1名(取締役管理本部長 倉澤瑞樹氏)と内部監査担当者1名(取締役企画本部長 阿藤剛氏)が内部監査を行い、内部監査業務の補助を外部の専門家に委託しています。
図14 独立した内部監査部門を置かず、取締役2名の相互監査と外部専門家の補助で運用(Ⅰの部「内部監査の状況」)
自己監査の回避については、「管理本部に対する内部監査は、自己監査とならないよう、取締役企画本部長 阿藤剛が実施」と明記され、内部監査責任者が所属する部門は他部門の内部監査担当者が監査する相互監査の体制としています。監査結果は代表取締役社長に報告され、社長は被監査部門に監査結果と要改善事項を通達して改善状況報告を提出させます。内部監査責任者はフォローアップ監査で改善状況を確認します。また、監査結果を含む活動状況は、代表取締役のほか取締役会と常勤監査役にも直接報告するとされています。
内部監査を専任部署なしで始める会社は少なくありませんが、その場合に審査で確認されやすいのが、①監査する人が自分の所属部門を監査しないこと、②監査結果が社長だけでなく取締役会・監査役にも届くこと、③指摘事項の改善が確認されていること、の3点です。この会社の記載は、この3点をそれぞれ文章で説明している例として参考になります(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、内部監査の人数と体制、内部監査の報告先は社長だけでよいのか)。
三様監査の連携
監査役は、会計監査人や内部監査担当者と監査計画や監査結果等の情報を共有する場を持ち、具体的には常勤監査役を中心に半期ごとに三様監査会議を実施すると記載されています。常勤監査役は内部監査責任者と密に情報共有し、内部監査の実施に立ち会うことで実効性を確保しているとされ、内部監査と会計監査人の間でも監査計画・監査結果の説明と内部監査の実施状況の共有が行われています。
図15 監査役・内部監査・会計監査人の連携(Ⅰの部「業務の適正を確保するための体制」「内部監査の状況」)
第4期の監査役会は14回開催され、3名全員が14回すべてに出席しています。監査役会の検討内容として、監査計画・監査方針の策定、監査業務の分担、取締役の職務執行の監査、内部統制システムの妥当性、会計監査人の選任及び報酬等に関する同意、監査報告書の作成が挙げられています。三様監査の会議体を「半期ごと」のように頻度まで決めて記載しておくと、運用の実態を説明しやすくなります(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。
リスク管理・コンプライアンスの仕組み
業務の適正を確保するための体制として、コンプライアンス規程、社外に通報窓口を設けた内部通報制度、文書管理規程・情報セキュリティ管理規程、リスク管理規程、職務権限規程・職務分掌規程、反社会的勢力排除規程などが整備されていると記載されています。監査役の職務を補助する使用人を置く場合の独立性(任命・異動・人事評価・懲戒に監査役の同意を要する)や、監査役へ報告した者が不利な取扱いを受けないための体制も定められています。
このほか、会社法第430条の3第1項に規定する役員等賠償責任保険契約(保険料は全額会社負担)を締結し、業務執行取締役等でない取締役と監査役との間で責任限定契約を結んでいます。定款では、取締役の定数を10名以内とし、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上、剰余金の配当等を取締役会決議で行えること、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上とすることなどを定めています。こうした定款変更は上場準備の過程でまとめて行うことが多いため、株主総会のスケジュールに組み込んでおきましょう。
会計・開示の論点
収益認識:株式譲渡等の成立時点で一時に認識
重要な会計方針によると、同社は売手・買手のM&A両当事者にアドバイザリー(仲介)契約に基づくM&A関連サービスを提供して報酬を得ており、売手と買手の間で株式譲渡・事業譲渡等に係る最終契約の締結が実現し、株式譲渡・事業譲渡等が成立した時点で履行義務が充足されると判断して、その時点で収益を認識しています。対価は履行義務の充足から概ね1ヶ月以内に受領しており、重要な金融要素は含まないとされています。
図16 報酬の発生時点と収益を認識する時点(Ⅰの部「事業の内容」「重要な会計方針」をもとに作成)
収益認識関係の注記では、契約負債を「履行義務を充足する前に顧客から受け取った対価」と説明し、第4期の期首56,336千円・期末120,375千円、期首の契約負債から当期に認識した収益が45,615千円と開示しています。売上債権(顧客との契約から生じた債権)は期首286千円・期末104,500千円です。
成功報酬型のビジネスでは、「何をもって成立とするか」(最終契約の締結か、クロージングか)を会計方針として明確にし、契約書・クロージングの証憑と売上計上日を照合できるようにしておくことが重要です。また、成立前に受け取る報酬がある場合は、履行義務との関係を整理し、契約負債として管理する必要があります(上場審査で問われる収益認識)。
重要な会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性
重要な会計上の見積りとして開示されているのは、繰延税金資産の回収可能性です。第4期末の繰延税金資産は小計392,267千円で、うち繰越税額控除が215,952千円、未払費用が134,210千円です。評価性引当額112,132千円を控除した280,135千円から、繰延税金負債(未収還付事業税)7,353千円を相殺した純額272,781千円が貸借対照表に計上されています。評価性引当額の増加は、賃上げ促進税制による税額控除の繰越控除に係るものと説明されています。
図17 重要な会計上の見積りとして開示された繰延税金資産(単位:千円、Ⅰの部「税効果会計関係」)
税効果会計関係の注記では、法定実効税率34.6%に対し、税効果会計適用後の法人税等の負担率が△5.4%となった差異の内訳(繰越税額控除限度超過額に係る繰延税金資産の増減額△72.9%、評価性引当額の増減37.8%など)も示されています。また、防衛特別法人税の創設に伴い、2026年11月1日以後開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異等については、法定実効税率を34.59%から35.43%に変更して計算した(影響は軽微)と記載されています。
税額控除の繰越のように回収期間が長くなりやすい項目は、将来の課税所得の見積り(事業計画)と結びつくため、事業計画の前提と税効果の見積りを同じ数字で説明できるようにしておくことがポイントです。
財務制限条項・資産除去債務などの注記
重要な契約等として、2024年6月18日に政府関係金融機関他(シンジケート団)と締結した財務上の特約付きの金銭消費貸借契約が記載されています。第4期末の債務残高は315,000千円(前期末405,000千円)、弁済期限は2029年4月末日、無担保で、①各事業年度末の純資産の部の金額を2023年10月期末の純資産の部の金額の75%以上に維持すること、②2023年10月期以降の各事業年度末の経常損益が2期連続して損失とならないこと、の2つの財務制限条項が付されています。
このほか、オフィスの原状回復義務について、資産除去債務を負債に計上する代わりに、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当期の負担に属する金額を費用計上する方法を採用しています。未適用の会計基準等として、新リース会計基準(企業会計基準第34号等)を2028年10月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。賃借オフィスが多い会社では、新リース会計基準の適用で使用権資産・リース負債が計上されるため、拠点計画とあわせて早めに影響を試算しておくと安心です。
監査法人と監査報酬
会計監査人は監査法人A&Aパートナーズで、継続監査期間は2年、業務を執行した公認会計士は指定社員・業務執行社員の木間久幸氏と松本浩幸氏、補助者は公認会計士8名・その他7名です。監査法人の選定にあたっては、監査法人の概要、監査日数、監査期間、具体的な監査実施体制、監査報酬の見積額等の資料を入手し、質問・面談のうえ総合的に判断したと記載されています。
| 項目 | 最近事業年度の前事業年度(第3期) | 最近事業年度(第4期) |
|---|---|---|
| 監査証明業務に基づく報酬 | 13,860千円 | 18,480千円 |
| 非監査業務に基づく報酬 | - | - |
| 監査証明の対象 | 財務諸表(監査) | 財務諸表(監査) |
グロース市場への新規上場では、上場申請日の直前事業年度と直前々事業年度の財務諸表について監査を受ける必要があり、この会社も第3期・第4期について有価証券上場規程第216条第6項に基づく監査を受けています。監査法人との契約は、監査対象となる期の開始前後には固めておく必要があります(監査法人はいつまでに決めるか)。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
同社の事業等のリスクは、外部環境(競合、法的規制、景気悪化・自然災害)、事業内容(業績の変動、収益の計上時期による偏重、M&A仲介業への依存、技術革新、訴訟)、その他(人材、情報管理、代表取締役への依存、急速な組織拡大、配当政策、新株予約権による希薄化、大株主との関係)に分けて記載され、項目ごとに顕在化可能性・発生する可能性のある時期・影響度が示されています。
図18 Ⅰの部「事業等のリスク」に記載された顕在化可能性と影響度による整理
顕在化可能性が「高」とされたのは同業他社との競合で、M&A仲介事業は行政等からの許認可がなく大規模な設備投資も要しないため参入障壁が比較的低い、と説明されています。法的規制については、現在M&A仲介業を制限する直接的な法的規制は存在しないものの、今後規制が適用された場合には受託案件数の減少等の影響がありうるとしています。経営成績の状況の説明では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)や「中小M&A専門人材(個人)向け使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」(2025年4月)に準拠した教育プログラムに取り組んでいることも記載されています。
収益の計上時期については、発生する可能性のある時期を「各事業年度末」とし、期末付近に成約を予定していた案件が翌期にずれ込んだ場合の影響を明記しています。リスクの記載は、自社のビジネスモデルの弱点を具体的に書き、対応策とセットで説明することが基本です。グロース市場の審査で重視される「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」の観点からも、記載の具体性と整合性が確認されます(IPO審査の「企業内容等の開示の適正性」)。
上場準備会社がこの事例から学べること
| 論点 | この会社のⅠの部の記載 | 上場準備会社の実務ポイント |
|---|---|---|
| 信託型SOの扱い | 第1回(信託型)を2024年10月31日に全部放棄、同日に第4回を付与 | 既存のSOの課税・会計上の扱いを早めに棚卸しし、見直す場合は放棄・再付与の手続と会計処理(戻入益など)を整理する |
| 確約の要否 | 第5回のみ施行規則272条の確約、第3回・第4回は「-」 | 基準事業年度末の1年前の日を起点に、割当日ごとに確約の要否を資本政策表で管理する |
| 持株比率の基準日 | 資産管理会社を含め代表取締役2名で74.8%(本書提出日現在) | 申請時点と上場時(公募・売出し後)の比率を分けて試算し、流通株式比率も確認する |
| 内部監査の体制 | 専任部署なし、取締役2名の相互監査+外部専門家の補助 | 自己監査の回避、報告先(取締役会・監査役)、フォローアップを文書で説明できるようにする |
| 監査役会の構成 | 監査役3名全員が社外、常勤監査役は公認会計士 | 常勤監査役の候補探しは早めに。会計・法務の専門性の組み合わせを意識する |
| 収益認識 | 株式譲渡等の成立時点で一時に認識、期末集中をリスク開示 | 「成立」の定義を会計方針で明確にし、証憑と計上日を照合できる体制を作る |
| 先行投資と利益率 | 第4期は増員で営業利益率7.7%、第5期第3四半期累計は18.4% | 費用増の内訳と人員が売上に寄与するまでの時間差を、KPIで説明できるようにする |
この会社の事例から特に意識したいのは、資本政策・ガバナンス・会計の各論点が日付と数字でつながっていることです。新株予約権の付与日は確約の要否に、株式移動の価格は株式評価や本源的価値の算定に、増員計画は利益率や繰延税金資産の回収可能性に影響します。資本政策は一度実行するとやり直しが難しいため(資本政策はなぜやり直せないか)、各論点を横断して確認できる担当者や外部専門家を早い段階から置くことが有効です。
- 既存のストック・オプション(信託型を含む)の課税・会計上の扱いを棚卸ししたか
- 新株予約権・第三者割当の日付ごとに、継続所有の確約の要否を確認したか
- 持株比率を「申請時点」と「上場時」に分けて試算し、流通株式比率を確認したか
- 内部監査で自己監査を避ける体制と、取締役会・監査役への報告ルートを決めたか
- 収益を認識する「成立」の時点を会計方針で定め、証憑で裏付けられるか
- 株式移動の価格算定の資料と記録を、上場後5年間保存できるよう整理したか
よくある質問
Ⅰの部では、この会社が独立した内部監査部門を置かず、取締役管理本部長を内部監査責任者、取締役企画本部長を内部監査担当者として相互監査を行い、外部専門家に補助を委託していると記載されています。専任部署の有無よりも、自己監査を避けているか、監査結果が取締役会や監査役に届いているか、改善のフォローがされているかが重要です。
この会社では、第1回新株予約権(信託型)を2024年10月31日に全部放棄し、第3期に新株予約権戻入益1,050千円を特別利益として計上しています。放棄の会計処理や税務上の取扱いは個々の契約内容によって異なるため、監査法人や税理士と事前に確認してください。
いいえ。Ⅰの部の持株比率は本書提出日(上場申請時点)のものです。この会社でも、代表取締役2名は上場時の売出しで所有株式の一部を売却する予定と記載されており、上場後の比率は公募・売出しの結果によって変わります。
この会社の第5期の中間会計期間と第3四半期累計期間の財務諸表は、監査法人による期中レビューを受けたものです。年度の財務諸表に対する監査とは保証の水準が異なるため、「監査済み」とは区別して扱います。
最初の一歩は、資本政策表に「日付」と「確約」の列を足すこと
これから上場準備を本格化させる会社は、まず現在の資本政策表に、株式の発行・移動・新株予約権の付与の日付、価格と算定方法、継続所有の確約の要否、信託型かどうかといった列を加えてみてください。この会社のⅠの部のように、日付と数字が並ぶと、どの取引が審査や開示で説明を求められるかが見えてきます。全体像の確認にはIPO準備 完全ガイドと上場準備の資本政策も参考になります。
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M&AロイヤルアドバイザリーのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
M&Aロイヤルアドバイザリーの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
M&Aロイヤルアドバイザリーは、2026年10月29日に上場承認を受け、2026年12月3日にグロース市場へ上場予定のM&A仲介会社です。Ⅰの部からは、信託型ストック・オプションの放棄と第2回〜第5回の新株予約権による段階的なインセンティブ設計、代表取締役2名と資産管理会社による株主構成と株式移動の開示、全員社外の監査役会と取締役2名の相互監査による内部監査、成功報酬型ビジネスの収益認識と期末集中のリスク開示といった、上場準備の実務に直結する論点を読み取ることができます。
自社の準備に当てはめるときは、どの数字が「いつ時点」のものか、どの手続がどの日付を基準に決まるのかを意識して、資本政策・ガバナンス・会計を一体で整理していくことが大切です。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 新規上場会社情報「M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」
- 日本取引所グループ「新規上場銘柄一覧(株式)」
- 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
- 国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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