デジタルベリーのTOKYO PRO Market上場|株主3名の資本政策と相互牽制の内部監査【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年9月18日、埼玉県さいたま市に本社を置く株式会社デジタルベリー(DigitalBerry Co., Ltd.)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)への上場承認を受けました。上場予定日は2026年10月8日です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場となります。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。

結論からいえば、デジタルベリーのケースは「従業員20名・売上高2.6億円のWeb制作会社が、直前1期の監査と担当J-Adviserの調査を経て、資金調達を伴わずにTPMへ上場する例」です。株主は代表取締役社長・その配偶者・取締役の3名だけで、代表取締役社長が95.41%を所有する支配株主です。上場前に1株を2,000株に分割して単元株制度を導入し、取締役3名と社外監査役1名という最小限の機関設計のもとで、管理部と技術部が互いを監査する内部監査の仕組みを整えています。会計面では、請負の制作案件は検収時、保守サポートなどのサブスクリプション型サービスは期間にわたって収益を認識するという区分が明確に示されており、小規模な会社がTPMを使うときの論点が具体的に読み取れます。

デジタルベリーはどんな会社で、いつTPMに上場する予定か

デジタルベリーは、2004年8月にホームページ制作と価格比較サイトサービスを目的として、有限会社ベリーオフとしてさいたま市浦和区に設立された会社です。2007年9月に株式会社へ改組して現在の商号となり、2022年6月に本社をさいたま新都心のランド・アクシス・タワーへ移転しました。決算期は3月で、上場時点の直前事業年度は第22期(2026年3月期)です。

上場の手続面では、2026年9月4日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、9月18日に上場承認を受けました。上場予定日は10月8日で、担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場を承認」とされている流れどおりの日程です。申請に先立つ2026年6月27日には、1株を2,000株とする株式分割と、1単元を100株とする単元株制度の導入を行っています。

デジタルベリーのTOKYO PRO Market上場までの日程2026年3月31日直前事業年度末(第22期末)2026年6月27日株式分割単元株の導入2026年9月4日申請受付・発行者情報公表2026年9月18日上場承認2026年10月8日TPM上場(予定)申請受付から上場承認まで10営業日、上場承認から上場予定日まで20日(暦日、本記事の計算)特定投資家向け取得勧誘等(公募・売出しに当たる勧誘)は行わない予定第22期の財務諸表の監査報告書日は2026年9月2日(ひかり監査法人)

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場予定日)をもとに作成

項目 内容
会社名 株式会社デジタルベリー(DigitalBerry Co., Ltd.)、証券コード645A
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年10月8日(上場予定)
上場承認日 2026年9月18日
申請受付日 2026年9月4日(発行者情報の公表日)
担当J-Adviser フィリップ・キャピタル証券株式会社
上場時の開示書類 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし)
本店 埼玉県さいたま市中央区新都心(ランド・アクシス・タワー19階)
設立 2004年8月(有限会社ベリーオフ)、2007年9月 株式会社へ改組
決算期 3月(第22期=2026年3月期)
事業 クロスメディアマーケティング事業の単一セグメント
従業員 20名、平均年齢30.5歳、平均勤続年数6.0年、臨時雇用者なし(2026年8月31日現在)
監査 ひかり監査法人(第22期の財務諸表の監査)

従業員は20名で、平均年齢は30.5歳です。発行者情報の事業等のリスクでも「小規模な組織体制であるため、最低限の人員で内部管理体制を築いております」と自ら記載しています。

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

デジタルベリーの発行者情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を説明する記載はありません。対処すべき課題として「製造業ドットコム」の拡大、製造業に依存しない顧客の創出、優秀な人材確保と幹部育成、デジタルマーケティングサービスの強化、内部管理体制及びコーポレート・ガバナンス体制の強化の5項目が挙げられていますが、これらを上場と直接結びつけた説明はないため、本記事では同社の選択理由を推測することは控えます。

一般論として、TPMには一般市場と異なる特徴があります。株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。2026年6月15日時点の東証の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」は1割程度です。

これからTPMを検討する会社は、「何のために上場するのか」を社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしておくことが求められる流れにあります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか

TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。デジタルベリーの発行者情報の冒頭にも、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合がある、という投資者向けの注意事項が置かれています。

上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「ガバナンス・内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係がないこと等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請発行者情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

デジタルベリーの発行者情報には、上場適格性要件の「企業としての相応性」に関わる記載として、上場予定日(2026年10月8日)から12か月間の運転資本は「自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分であると認識しております」という一文があります。資金調達をしない会社でも、上場後1年間の資金繰りを説明できるようにしておく必要があります。

開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を公表しますが、デジタルベリーは勧誘を行わないため、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています。表紙の書類名が「発行者情報」になっているのはこのためです。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します。これらは一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類です。

上場時の開示書類はどう決まるか(デジタルベリーのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)デジタルベリー:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後はいずれも年次・中間の「発行者情報」を各期末後3か月以内に公表(一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類)行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

監査についても一般市場と違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。デジタルベリーは第22期(2026年3月期)の財務諸表について、特例110条5項の規定に基づきひかり監査法人の監査を受けています。主要な経営指標の注記では「第20期及び第21期の財務諸表については、当該監査を受けておりません」と明記され、監査報告書の「その他の事項」にも前事業年度の財務諸表が監査されていない旨が記載されています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人と契約する時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。

一般市場(グロース・スタンダード)との比較

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買付けができる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準 なし(数値基準がない) 株主数・流通株式等の形式基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 東証の上場審査
申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認 一般市場の審査日程による
新規上場時の監査期間 最近1年間 直前2期
開示書類 特定証券情報・発行者情報 有価証券届出書・有価証券報告書等
四半期開示 任意 四半期決算短信(取引所規則)
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS等 日本基準・米国基準・IFRS等
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 J-Adviser制度なし

表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。一般市場の会社を前提にしたルール(実質審査基準など)を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。一般市場の審査の考え方はIPOの実質審査基準とはで整理しています。

事業内容と収益モデル:製造業向けのクロスメディア提案

デジタルベリーは、「クロスメディアで世界を元気に!」日本を代表するクロスメディア総合提案カンパニーへ、というビジョンを掲げ、顧客企業の「商品PR・集客」「ブランド向上」「効率化・コスト削減」「海外拡販」「採用支援」を支援しています。セグメントはクロスメディアマーケティング事業の単一セグメントですが、提供コンテンツは「ホームページ制作」「ホームページ保守サポート」「デジタルカタログ」「印刷物・動画・TV」「デジタルマーケティング」の5つに分類されています。これらを組み合わせる「クロスメディアマーケティング提案」を得意としています。

ホームページ制作は、製造業向けに特化した「製造業ドットコム」と、埼玉県内の企業向けに特化した「埼玉専門ホームページ制作」に分かれます。製造業ドットコムの取引実績は累計350社、自社サイトによる集客実績は累計2,300社以上と記載されています。

デジタルベリーの事業の仕組み(クロスメディアマーケティング)デジタルベリーディレクター・デザイナー・エンジニアが一貫対応ホームページ制作ホームページ保守サポートデジタルカタログ印刷物・動画・TVデジタルマーケティング製造業の顧客(製造業ドットコム)取引実績 累計350社埼玉県内の企業・法人(埼玉専門ホームページ制作)複数のサービスを組み合わせて提案(クロスメディアマーケティング提案)青:主に請負(検収時に収益認識)緑:主に準委任・サブスクリプション型売上高の10%以上を占める販売先はない(会社の記載)

図4 発行者情報「事業の内容」の記載をもとに作成。セグメントはクロスメディアマーケティング事業の単一セグメント

収益構造の要になっているのがホームページ保守サポートです。ホームページ公開後の運用サポートとして、毎月定額で更新作業の代行、アクセスログ解析、バックアップ、専任による相談対応を行う3つのプランを用意しており、ホームページ公開後に81.8%の顧客が保守プランに加入すると記載されています。

このほか、紙のカタログをWeb上でめくるように閲覧できるデジタルカタログ、印刷物・動画制作、テレビ埼玉に制作協力する製造業応援番組「ググっと!製造業」(2024年度から毎年1〜3月に放送)、SEO対策・リスティング広告・AIO対策などのデジタルマーケティングを提供しています。売上高の10%以上を占める販売先はありません。

サービス 第21期(千円) 第22期(千円) 前期比 主な契約形態・収益認識
ホームページ制作 69,700 43,918 63.0% 主に請負・検収時
ホームページ保守サポート 104,094 125,929 121.0% 主に準委任・期間にわたり
デジタルカタログ 47,904 48,281 100.8% 主に請負・検収時
印刷物・動画・TV 26,158 31,676 121.1% 主に請負・検収時
デジタルマーケティング 1,750 12,852 734.5% 主に準委任・期間にわたり
合計 249,607 262,659 105.2% -

第22期は、ホームページの新規構築・リニューアルの依頼件数が前期比15.2%減となり、ホームページ制作の売上高は前期比63.0%に減少しました。会社は、関税政策や中東情勢の不透明感からWeb投資に慎重な顧客が増えたと説明しています。一方で、保守サービス利用顧客によるAI向けWebサービスの追加導入やマーケティングサービスの新規導入が増え、保守サポートは121.0%、デジタルマーケティングは734.5%と伸びています。

サービス別の売上高(第21期と第22期)ホームページ制作69,70043,918ホームページ保守サポート104,094125,929デジタルカタログ47,90448,281印刷物・動画・TV26,15831,676デジタルマーケティング1,75012,852淡色:第21期 濃色:第22期前期比:制作63.0%、保守121.0%、カタログ100.8%、印刷物等121.1%、デジタルマーケティング734.5%

図5 発行者情報「生産、受注及び販売の状況」「収益認識関係」より(単位:千円)。淡色が第21期(2025年3月期)、濃色が第22期(2026年3月期)

サービスを契約形態で分けると、売上高の半分強が期間にわたって収益を認識するサブスクリプション型のサービスになっています。会社は事業等のリスクで、3月末決算の顧客が多いことやホームページ制作の制作期間が長期化しやすいことから売上が特定の時期に偏る傾向があると説明し、「定額保守サポートなどのストック型ビジネスの展開に積極的に取り組んで」いると記載しています。

第22期の売上高:期間で認識する収益と検収時に認識する収益保守サポート+デジタルマーケティング138,781千円(52.8%)制作・カタログ・印刷物等123,875千円(47.2%)主に準委任契約(サブスクリプション型)サービス提供期間にわたり収益を認識主に請負契約成果物の納品後、顧客の検収完了時に収益を認識ホームページ公開後、81.8%の顧客が保守プランに加入(会社の記載)季節変動リスクに対し、定額保守サポートなどのストック型ビジネスに取り組むと記載

図6 発行者情報「収益認識関係」の分解情報をもとに本記事で集計。区分の合計は262,656千円で、売上高262,659千円と3千円の端数差がある。構成比は売上高262,659千円に対する本記事の計算

沿革と上場までの道のり

沿革を見ると、デジタルベリーは設立当初のホームページ制作と価格比較サイトから出発し、2005年3月にデジタルカタログ制作、2011年5月にホームページ保守サービス、2013年4月に印刷物制作、2019年11月に動画制作と、提供するサービスを段階的に広げてきました。2007年9月の株式会社への改組と同時に価格比較サイトサービスを停止し、2018年8月には製造業向けの「製造業ドットコム」を開始しています。

2021年11月には、Web集客支援サービス(現在のデジタルマーケティングサービス)を開始するとともに、全サービスを包括した「クロスメディアマーケティング」として事業を再定義しました。

有限会社ベリーオフからクロスメディア総合提案へ(沿革)2004年8月有限会社ベリーオフ設立2007年9月株式会社へ改組デジタルベリーに2011年5月ホームページ保守サービス開始2018年8月製造業ドットコム開始2021年11月クロスメディアとして事業再定義2005年3月 デジタルカタログ制作、2013年4月 印刷物制作、2019年11月 動画制作を開始2009年11月 プライバシーマーク取得/2022年6月 本社をさいたま新都心に移転2024年1月 テレビ埼玉の製造業応援番組「ググっと!製造業」の放送開始(制作協力)2026年10月8日 TOKYO PRO Marketに上場予定

図7 発行者情報「沿革」より主要な出来事を抜粋

上場に直接関わる手続としては、2026年6月11日の取締役会で株式分割を決議し、6月27日付で1株を2,000株に分割するとともに、定款変更により単元株制度を導入しています。第22期の財務諸表の監査報告書日は2026年9月2日で、その2日後の9月4日に申請が受け付けられ、発行者情報が公表されました。

業績はどう推移しているか

主要な経営指標等の推移は次のとおりです。第20期は消費税等の会計処理に税込方式を採用しており(第21期から税抜方式)、売上高には消費税等が含まれています。また、第20期・第21期の財務諸表は監査を受けていません。比較の際はこれらの点に注意が必要です。

項目(千円) 第20期 2024年3月期 第21期 2025年3月期 第22期 2026年3月期
売上高 249,579 249,607 262,659
経常利益 3,107 6,198 9,514
当期純利益 2,449 △1,420 7,843
純資産額 114,311 112,891 120,735
総資産額 239,640 242,190 245,610
自己資本比率 47.70% 46.61% 49.16%
自己資本利益率 2.12% △1.25% 6.72%
1株当たり純資産額 262.18円 258.92円 276.92円
従業員数 16名 17名 17名

売上高は2.5億円前後で推移し、第22期は262,659千円(前期比5.2%増)でした。経常利益は3,107千円、6,198千円、9,514千円と2期連続で増加しています(第20期・第21期は未監査)。第21期だけ当期純損失(1,420千円)となっていますが、これは特別損失「20周年記念行事費用」8,365千円の計上によるものです。配当は3期とも行っていません。

売上高と経常利益の推移売上高075,000150,000225,000300,000第20期第21期第22期経常利益02,5005,0007,50010,000第20期第21期第22期売上高:249,579 → 249,607 → 262,659 経常利益:3,107 → 6,198 → 9,514当期純利益:第20期 2,449、第21期 △1,420、第22期 7,843

図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より(単位:千円)。第20期は消費税等の税込方式。第20期・第21期は監査を受けていない

第22期の損益の内訳を見ると、売上原価は151,906千円で前期(159,801千円)から減少し、売上総利益は110,752千円に増えました。一方で販売費及び一般管理費は100,489千円と前期(83,212千円)から増加しています。主要な費目では、支払手数料が7,232千円から21,815千円に増えています。営業利益は10,262千円(前期比55.6%増)でした。

第22期 営業利益から当期純利益まで営業利益10,262営業外収益+392営業外費用-1,141経常利益9,514特別利益+401税引前9,915法人税等-2,072純利益7,843前期(第21期)は特別損失「20周年記念行事費用」8,365千円により当期純損失1,420千円

図9 発行者情報 損益計算書より(単位:千円)。営業外収益・費用の差引は1千円の端数差がある

財政状態とキャッシュ・フロー

第22期末の総資産は245,610千円、純資産は120,735千円で、自己資本比率は49.16%です。資本金は100,000千円で、利益剰余金は20,735千円です。資産側では現金及び預金80,042千円、売掛金64,672千円のほか、本社の敷金23,291千円、保険積立金40,463千円が目立ちます。負債側では、長期借入金(1年内返済予定を含む)40,130千円と社債39,000千円(第2回・第3回無担保社債)があり、本社の原状回復義務に係る資産除去債務15,076千円も計上されています。

キャッシュ・フローは、第21期に売上債権の増加(25,985千円)で営業キャッシュ・フローが9,350千円のマイナスとなりましたが、第22期は売上債権の減少(12,590千円)もあって26,396千円のプラスに転じました。財務活動では、第22期に長期借入れで40,000千円を調達する一方、短期借入金の純減10,000千円、長期借入金の返済14,884千円、社債の償還16,000千円を行い、財務キャッシュ・フローは1,304千円のマイナスでした。期末の資金は80,042千円です。

キャッシュ・フローの推移(第21期・第22期)第21期(2025年3月期)第22期(2026年3月期)営業CF △9,350売上債権の増加 25,985投資CF △7,271保険積立金の積立 6,802財務CF △20,551社債償還 16,000・借入返済 14,131営業CF +26,396売上債権の減少 12,590投資CF △7,552保険積立金の積立 6,609財務CF △1,304長期借入 +40,000、返済・償還等 △41,304期末資金 62,504期末資金 80,042第22期の財務CF:短期借入純減10,000、長期返済14,884、社債償還16,000、リース420+17,538

図10 発行者情報 キャッシュ・フロー計算書より(単位:千円)。第20期はキャッシュ・フロー計算書を作成していない

資本政策と株主構成:株主3名と上場前の株式分割

デジタルベリーの株主は3名だけです。発行者情報の「株主の状況」(2026年8月31日現在)によると、代表取締役社長の赤羽根康男氏が416,000株(95.41%)、その配偶者の赤羽根奈都氏が16,000株(3.67%)、取締役管理部長の谷本浩子氏が4,000株(0.92%)を所有しています。いずれも特別利害関係者等に該当する旨が注記されています。

資本政策の観点で特徴的なのは、上場前の資本取引がほとんどないことです。新株予約権・ストックオプションはなく、第三者割当等による株式の発行も、特別利害関係者等の株式等の移動も「該当事項はありません」と記載されています。資本金は100,000千円のまま変動がなく、自己株式もありません。形式基準のないTPMでは、創業者がほぼすべての株式を持ったままでも上場できる点が一般市場との大きな違いです。

株主の状況(2026年8月31日現在)赤羽根 康男(代表取締役社長)95.41%赤羽根 奈都(代表取締役社長の配偶者)3.67%(16,000株)谷本 浩子(取締役管理部長)0.92%(4,000株)株主数は計3名(いずれも個人)。代表取締役社長の所有は416,000株で、支配株主に当たる新株予約権・ストックオプション、第三者割当、特別利害関係者等の株式移動はいずれも「該当事項なし」

図11 発行者情報 第三部「株主の状況」より。発行済株式436,000株に対する割合

事業等のリスクでは「経営者への依存について」として、代表取締役社長が発行済株式総数の95.41%の議決権を所有していること、今後も支配株主として一定の議決権を保有し、その議決権行使にあたっては株主共同の利益を追求するとともに少数株主の利益にも配慮する方針であることが記載されています。あわせて、インサイダー取引防止規程を制定し、当社株式の売買等を行う場合は事前に適切な承認を得ることで、議決権行使状況への影響を最小化する体制を整えているとしています。

上場直前の資本政策として行われたのが、株式分割と単元株制度の導入です。2026年6月11日の取締役会決議に基づき、6月27日付で普通株式1株を2,000株に分割し、発行済株式総数は218株から436,000株になりました。同日付で定款を変更して発行可能株式総数を1,744,000株とし、1単元を100株とする単元株制度を採用しています。目的は「株式単位当たりの金額の引下げを行うことで株式の流動性を高めること」と説明されています。財務諸表の注記では、この株式分割が重要な後発事象として記載され、1株当たり情報は前事業年度の期首に分割が行われたと仮定して算定されています。

上場前の株式分割と単元株制度の導入分割前発行済株式 218株資本金 100,000千円2026年6月27日1株を2,000株に分割(増加 435,782株)分割後発行済株式 436,000株単元株式数 100株目的:株式単位当たりの金額を引き下げ、株式の流動性を高める(会社の記載)発行可能株式総数 1,744,000株議決権 4,360個1株当たり情報は期首に分割と仮定

図12 発行者情報「株式等の状況」「重要な後発事象」より

決算日後に株式分割を行う場合は、後発事象の注記と1株当たり情報の遡及的な算定が必要になる点を押さえておきましょう。資本政策の全体の考え方は上場準備の資本政策で解説しています。

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コーポレート・ガバナンス:取締役3名と社外監査役1名

デジタルベリーは、Web制作を中心とした事業の特性を踏まえ、コンプライアンス及び情報セキュリティ・リスク管理を徹底し、顧客や取引先の情報を適切に管理することを経営上の重要な課題と位置づけています。そのうえで、取締役会の監督機能と社外監査役の客観的視点を通じたガバナンス体制の構築を図るとしています。

機関設計は、取締役会と監査役を置く形です。取締役会は3名の取締役(代表取締役社長、取締役管理部長、取締役技術部長)で構成され、定例取締役会を毎月1回、必要に応じて臨時取締役会を開催しています。監査役は社外監査役1名で、監査役監査規程に基づき取締役の業務執行状況を監査し、取締役会に出席して意見を述べています。社外取締役は選任していません。定款では取締役を5名以内、監査役を2名以内と定めています。

デジタルベリーの機関設計株主総会取締役会(3名)社外取締役なし定例月1回+臨時監査役(1名)社外監査役・公認会計士監査役会は置いていない代表取締役社長会計監査ひかり監査法人リスク・コンプライアンス委員会3か月に1回弁護士等の外部専門家(助言)選任・解任選任・解任選定・監督監査連携役員・部門長で構成

図13 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載をもとに作成

役職 氏名 主な経歴 所有株式数
代表取締役社長 赤羽根 康男 岩谷産業を経て2004年8月に有限会社ベリーオフ(現:当社)を設立。2024年4月から埼玉大学ALL SAITAMAミライ機構オープンイノベーションセンター客員教授 416,000株
取締役 管理部長 谷本 浩子 2009年11月入社、2023年9月から取締役管理部長 4,000株
取締役 技術部長 粳田 愛友 2008年8月入社、2024年3月から取締役技術部長 -
監査役(社外) 井上 正之 監査法人トーマツを経て公認会計士登録(2008年3月)。事業会社勤務の後、2017年7月に井上公認会計士・税理士事務所を開設。2024年3月から当社監査役 -

役員は男性2名・女性2名で、女性の比率は50%です。社外監査役の井上氏は公認会計士で、会社は「公認会計士としての経験及び知見を有しており、客観的・専門的な視点からの当社の監査役体制の強化を期待し」選任したと説明しています。同氏と会社との間に利害関係はなく、社外役員の独立性に関する明確な基準はないと記載しています。

TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じて」コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が整備・機能していることが求められます。デジタルベリーの体制は、取締役会設置会社として最小限の構成に、公認会計士の社外監査役を組み合わせたものです。一般市場を目指す場合の社外役員の考え方は社外取締役は何人必要か、機関設計の選び方はIPO審査の「機関設計」とはで整理しています。

リスク・コンプライアンス委員会と役員報酬

取締役会・監査役のほかに、法令遵守や企業倫理の徹底を目的としたリスク・コンプライアンス委員会を設置しています。代表取締役社長を含む役員と部門長で構成し、3か月に1回開催して、リスクマネジメント及び法令遵守に関する事項等を審議・決定しています。リスク管理の主管部署は管理部で、必要に応じて弁護士等の専門家から助言を受ける体制です。内部統制システムの整備については、業務分掌規程と職務権限規程の遵守により、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを回避し、内部牽制機能が働くよう努めていると記載しています。

役員報酬は、2026年3月期に取締役(社外取締役を除く)3名に24,300千円、社外役員1名に700千円、合計25,000千円で、いずれも基本報酬のみです(賞与・ストックオプションはなし)。定款では、取締役選任と特別決議の定足数の3分の1への緩和、取締役会決議による自己株式の取得・中間配当・役員の責任免除を定めています。社外監査役とは会社法427条1項に基づく責任限定契約を結び、限度額は法令が定める最低限度額としています。

関連当事者との取引は、第21期・第22期とも「該当事項はありません」と記載されています。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)を参照してください。

内部監査と内部統制:管理部と技術部の相互牽制

従業員20名の会社では、内部監査の専任部署を置くことは負担が大きくなりがちです。デジタルベリーは、管理部を内部監査の主管部署としつつ、「管理部の監査は、技術部が実施しており、相互に牽制する体制」をとっています。管理部が自部門を監査すると自己監査になってしまうため、管理部自身の監査は別の部門に担わせるという、小規模な会社でよく採られる工夫です。各部の監査結果と改善点は、内部監査担当者から代表取締役に報告書と改善要望書として提出されます。

監査役は、内部監査担当者から監査の実施状況について随時報告を受けるとともに、代表取締役及び監査法人と定期的に意見交換を行い、取締役会以外の場でも課題・改善事項を共有して監査役監査の実効性を高めるとしています。社外監査役は内部監査担当者・監査法人と定期的に情報交換を行い、随時監査結果の報告を受けるなど緊密に連携していると記載されています。

管理部と技術部の相互牽制による内部監査と三様監査管理部(内部監査の主管部署)技術部各部(管理部以外)管理部代表取締役(報告書・改善要望書)管理部の監査は技術部が実施し相互に牽制(自己監査の回避)監査役は代表取締役・監査法人とも定期的に意見交換(会社の記載)(監査役と監査法人の直接の連携は図では省略)社外監査役(公認会計士)内部監査担当者ひかり監査法人業務執行社員2名監査監査随時報告情報交換

図14 発行者情報「内部監査及び監査役の状況」「社外取締役及び社外監査役の状況」の記載をもとに作成

内部監査を兼務で行う場合は、①誰が誰を監査するのかの割当て(自己監査の回避)、②内部監査規程と年間の監査計画、③監査調書と改善状況のフォローアップの記録、の3点をそろえておくと、担当J-Adviserの調査や監査法人とのやり取りで説明しやすくなります。兼務の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で詳しく解説しています。

会計・開示の論点:請負と準委任で異なる収益認識

デジタルベリーの財務諸表は、財務諸表等規則に基づき、特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。会計面で最も参考になるのは、サービスごとの収益認識の整理です。

重要な会計方針によると、ホームページ制作、デジタルカタログ、印刷物・動画・TVは、主に請負契約で、成果物を顧客に納品し、顧客による検収が完了した時点で履行義務が充足されると判断し、検収完了時に収益を認識しています。これに対し、ホームページ保守サポートとデジタルマーケティングは、主に準委任契約によるサブスクリプション型のサービスで、サービスを提供する時間の経過に応じて履行義務が充足されると判断し、サービス提供期間にわたり契約で約束された金額に基づいて収益を認識しています。

サービスごとの収益認識の時点請負契約(主に)ホームページ制作・デジタルカタログ・印刷物・動画・TV準委任契約(主に)ホームページ保守サポート・デジタルマーケティング成果物の納品後、顧客の検収が完了した時点(一時点)で認識サービスを提供する期間にわたり約束された金額に基づき認識制作中の原価は仕掛品(個別法)第22期末 1,442前受分は契約負債第21期末 251 → 第22期末 1,517契約資産の計上なし。契約期間が1年を超える重要な取引がないため残存履行義務の記載は省略原価計算は実際原価による個別原価計算(売上原価明細書)

図15 発行者情報 注記「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」「収益認識関係」より。金額は第22期(千円)

デジタルベリーは仕掛品を個別法による原価法で評価し、原価計算は実際原価による個別原価計算で行っています。第22期末の仕掛品は1,442千円です。前受けした対価は契約負債として計上され、第21期末251千円から第22期末1,517千円に増えています。契約資産の計上はなく、契約期間が1年を超える重要な取引がないため、残存履行義務の記載は省略されています。

上場準備では、検収の証跡の残し方と、期末をまたぐ案件の売上計上時期の確認手続が問われます。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で整理しています。

税効果会計・資産除去債務・新リース会計基準

重要な会計上の見積りとしては、繰延税金資産の回収可能性が挙げられています。第22期末の繰延税金資産(純額)は2,946千円で、内訳は賞与引当金1,583千円、資産除去債務5,159千円、未払事業税209千円などの繰延税金資産6,952千円から、資産除去債務に対応する除去費用の繰延税金負債4,006千円を差し引いたものです。

法定実効税率34.2%に対し、第22期の税効果会計適用後の法人税等の負担率は20.9%です。差異の主な要因は、中小法人の軽減税率の適用による影響(△9.1%)と賃上げ促進税制による税額控除(△3.8%)で、住民税均等割が+1.8%の要因になっています。

第22期の税負担率はなぜ法定実効税率より低いのか法定実効税率34.2住民税均等割+1.8賃上げ税制-3.8中小軽減税率-9.1その他-2.2負担率20.934.2% +1.8 -3.8 -9.1 -2.2 = 20.9%(賃上げ税制=賃上げ促進税制による税額控除)

図16 発行者情報 注記「税効果会計関係」より(単位:%)。第21期は税引前当期純損失のため注記省略

資産除去債務は本社の原状回復義務等で、使用見込期間10年、割引率1.497%で算定し、第22期末は15,076千円です。本社建物は賃借物件で、年間賃借料は23,827千円と記載されています。

未適用の会計基準等としては、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を2028年3月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中と記載されています。本社の賃貸借契約のような不動産賃借がある会社では、適用時の影響の見積りが今後の論点になります。

会計監査は、ひかり監査法人が特例110条5項に基づいて行っています。2026年3月期の監査を執行した公認会計士は2名(いずれも継続監査年数7年以内)で、補助者は公認会計士9名です。監査報酬は監査証明業務に基づく報酬8,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報告書(2026年9月2日付)は第22期の財務諸表について無限定適正意見を表明しています。

事業等のリスクとJ-Adviser契約

事業等のリスクには、製造業を中心とした景気動向、競合の増加、AI技術などの技術革新、経営者への依存、小規模な組織体制、季節変動、情報セキュリティ、J-Adviserとの契約など12項目が挙げられています。

TPMの会社に特有なのが、J-Adviser契約に関するリスクです。デジタルベリーは取締役会決議に基づきフィリップ・キャピタル証券を担当J-Adviserに指定し、担当J-Adviser契約を締結しています。この契約はTPMにおける新規上場と上場維持の前提となる契約で、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は、TPMから上場廃止になると記載されています。

J-Adviser契約と上場維持の関係担当J-Adviserフィリップ・キャピタル証券デジタルベリー取締役会決議に基づき契約担当J-Adviser契約義務違反:相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面催告合意によりいつでも解除可、又は1か月前の書面通知で解除可即日無催告解除の事由:債務超過、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載 等19項目J-Adviser契約の解除他の担当J-Adviserを確保できないTOKYO PRO Marketから上場廃止発行者情報の開示日現在、契約の解除条項に該当する事象は生じていない(会社の記載)

図17 発行者情報「事業等のリスク(J-Adviserとの契約について)」をもとに作成

発行者情報には、契約の解除に関する条項が詳しく記載されています。担当J-Adviserが即日・無催告で契約を解除できる事由として、債務超過(1年以内に解消できない場合)、破産・再生・更生手続、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など19項目が並んでいます(条項は①〜⑳ですが、④は破産手続等に該当しても再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨の定めで、解除事由ではありません)。義務違反の場合の書面催告(特段の事情のない限り1か月)や、1か月前の書面通知による解除も定められています。発行者情報の開示日現在、解除条項に該当する事象は生じていないと記載されています。

TPMを検討する会社にとっては、J-Adviser契約の解除事由が実質的に上場廃止事由と重なる構造になっていることを理解し、発行者情報の期限内の公表や適時開示の体制を整えることが、上場維持の前提になるといえます。適時開示体制の作り方はIPOの適時開示体制で解説しています。

一般市場へのステップアップを考える会社への示唆

デジタルベリーの発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場変更に関する記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す場合の一般的な留意点を整理します。

まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する手続として扱われます。実例として、AlbaLinkは2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場しています。東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場審査は非上場企業と同様に一から確認が行われていると現状を整理し、2026年4月の資料では「26年秋めど」にTPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表しています(本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません)。

一般市場を視野に入れる会社にとっては、TPMで求められない項目、たとえば直前2期の監査、株主数・流通株式の形式基準、内部統制報告書などへの対応を別途計画する必要があります。株主が少なく持株比率が集中している会社では、流通株式の確保が大きな課題になります(流通株式比率の計算式と調べ方)。準備の全体像はグロース市場事前チェックリストで確認できます。

上場準備会社がデジタルベリーの事例から学べること

1. 資金調達をしない上場という選択肢:デジタルベリーは特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報で上場します。

2. 直前1期の監査と未監査期の明示:監査は第22期のみで、未監査の期を明示しています。

3. 株主3名・支配株主のいる上場:形式基準がないTPMでは、創業者が95%超を持ったままでも上場できます。

4. 上場前の株式分割と後発事象:決算日後の株式分割は後発事象として注記し、1株当たり情報は期首に分割したものとして算定します。

5. 最小限の機関設計と専門性の補完:取締役3名と社外監査役1名の体制で、社外監査役に公認会計士を選任しています。

6. 小規模組織の内部監査:管理部の監査を技術部が行う相互牽制で自己監査を避けています。

7. 契約形態ごとの収益認識:請負は検収時、準委任のサブスクリプション型は期間にわたり認識する、という区分を明確にしています。

8. J-Adviser契約の理解:解除事由と事前催告の条項を把握し、上場維持の前提として開示体制を整える必要があります。

デジタルベリーの事例から学べること資金調達なしの上場運転資本の説明監査は直前1期未監査期は明記株主3名・支配株主少数株主への配慮小規模組織の相互牽制の内部監査請負と準委任で異なる収益認識J-Adviser契約の解除条項を理解

図18 本記事で取り上げた論点のまとめ

  • 上場目的(なぜTPMか、上場をどう活用するか)を社内で言語化している
  • 直前事業年度の監査を受ける監査法人と、担当J-Adviserの候補が決まっている
  • 上場後12か月の運転資本の十分性を説明できる資金計画がある
  • 支配株主がいる場合の少数株主保護の方針と、役員・大株主の株式売買の事前承認の手続がある
  • 内部監査を兼務で行う場合の割当て(自己監査の回避)と監査記録がそろっている
  • 契約形態ごとの収益認識の方針と、検収・役務提供の証跡を管理する手続がある

よくある質問

Q1. デジタルベリーの上場時の書類が「特定証券情報」ではなく「発行者情報」なのはなぜですか?

上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項の規定により「発行者情報に相当する情報」を公表して上場するためです。

Q2. TPMの上場に必要な監査は何期分ですか?

新規上場時に求められる監査期間は最近1年間です。デジタルベリーは第22期(2026年3月期)の財務諸表についてひかり監査法人の監査を受けており、第20期・第21期は監査を受けていないことを明記しています。

Q3. 株主が3名だけでもTPMに上場できるのですか?

TPMには株主数や流通株式などの形式基準(数値基準)がありません。デジタルベリーの株主は代表取締役社長・その配偶者・取締役の3名で、代表取締役社長が95.41%を所有しています。一般市場を目指す場合は形式基準への対応が別途必要です。

Q4. 担当J-Adviserとの契約が解除されるとどうなりますか?

J-Adviser契約は上場維持の前提です。デジタルベリーの発行者情報では、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合はTPMから上場廃止となると記載され、即日無催告で解除できる事由も具体的に列挙されています。

最初の一歩は「監査を受ける1期」と「体制の説明」の逆算から

TPMを検討する会社が最初に取り組みたいのは、上場目的を言語化したうえで、監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの調査期間から上場時期を逆算し、自社の規模に合ったガバナンスと内部管理の体制をどう説明するかを決めることです。自社の現状を把握するには、まずショートレビューで課題を洗い出すのが近道です。

まとめ

デジタルベリーは、2026年9月18日にTOKYO PRO Marketへの上場承認を受け、10月8日に上場する予定です。特定投資家向け取得勧誘等を行わず、直前1期の監査を受けた発行者情報で上場する形で、申請受付(9月4日)から上場承認(9月18日)までは10営業日、担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。

発行者情報からは、株主3名で代表取締役社長が95.41%を所有する株主構成と上場前の株式分割、取締役3名と公認会計士の社外監査役1名による機関設計、管理部と技術部の相互牽制による内部監査、請負と準委任で異なる収益認識、詳細なJ-Adviser契約の解除条項など、小規模な会社がTPMを使う際の論点を具体的に読み取ることができます。TPMを検討する会社にとっては、形式基準がないからこそ「自社の体制を、どの水準で、どう説明できるか」を整えておくことが大切だといえます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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