ネイスのIPO|創業者100%保有からの資本政策とFC収益の会計【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年6月30日、子ども向けの体操教室「ネイス体操教室」と、運動療育を特徴とする発達支援施設「ネイスぷらす」を運営するネイス株式会社が東京証券取引所グロース市場に上場しました。本記事では、同社が提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを、ガバナンス、内部監査・内部統制、会計・開示、資本政策の順に整理します。

結論からいえば、ネイスのⅠの部は「VCなどの外部株主を入れず、創業者が実質100%を保有したまま上場に至った資本政策」と「直営とフランチャイズ(FC)を組み合わせた多店舗型ビジネスの収益認識・店舗減損・資産除去債務」という2つの論点を、具体的に学べる事例です。あわせて、監査役3名全員を社外とした監査役会設置会社の機関設計、独立部署を置かずに外部の公認会計士を活用する内部監査体制、流通株式比率に関するリスク開示など、上場準備の実務で判断を迫られる論点が数多く含まれています。

この記事の論点を自社と比べられる「ネイスのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

ネイスはどんな会社で、いつどの市場に上場したのか?

ネイス株式会社(英訳名 NEIS Co., Ltd.)は、2010年9月に東京都港区で設立された会社です。Ⅰの部の沿革には、体操選手として現役時代に培ったノウハウを活用し、現社長の南友介氏が体操教室を開校するために設立したと記載されています。本店は東京都千代田区にあり、決算期は8月末です。直近の事業年度は第15期(2025年8月期)で、Ⅰの部には第16期の中間期(2025年9月1日〜2026年2月28日)の中間財務諸表も含まれています。

上場市場は東京証券取引所グロース市場で、Ⅰの部の本文にも「東京証券取引所グロース市場への上場に伴い」という記載があります。従業員数は2026年4月30日現在で334名(臨時従業員は外数で123名)、平均年齢は32.0歳、平均勤続年数は2.0年です。セグメント別には体操教室事業252名、発達支援事業56名、全社共通26名という構成で、現場で子どもを指導するコーチ・スタッフが従業員の大半を占める労働集約型の事業であることがわかります。

項目 内容
社名 ネイス株式会社(NEIS Co., Ltd.)
上場日・市場 2026年6月30日・東京証券取引所グロース市場
事業 体操教室事業(ネイス体操教室)、発達支援事業(ネイスぷらす)
設立 2010年9月(東京都港区)
本店所在地 東京都千代田区
決算期 8月末(第15期=2025年8月期)
従業員数 334名(臨時従業員123名は外数、2026年4月30日現在)
代表者 代表取締役社長 南 友介
機関設計 監査役会設置会社
会計監査人 そうせい監査法人(継続監査期間2年間)
連結 連結財務諸表は作成せず(非連結子会社1社〔マレーシア〕は重要性が乏しいため)

ひとつ目の特徴は、連結財務諸表を作成していない点です。同社は2024年10月にマレーシアに子会社 NEIS Gymnastics SDN. BHD. を設立していますが、重要性が乏しいため連結の範囲に含めず、Ⅰの部は単体の財務諸表で構成されています。子会社があっても、資産・売上高・損益・利益剰余金などの観点から重要性が乏しければ非連結とすることができます。ただし、上場準備の段階で子会社をつくる場合は、将来の連結決算の体制や子会社管理の仕組みを、監査法人・主幹事証券と早めにすり合わせておくのが実務的です。

もうひとつの特徴は、上場前の株主が2名だけという点です。この点は後ほど資本政策の章で詳しく見ます。会社全体の上場準備の流れを先に押さえておきたい方は、IPO準備の全体像(N-3期〜N期)もあわせてご覧ください。

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ネイスは何で稼いでいるのか?事業内容と収益モデル

Ⅰの部によると、同社のビジョンは「子どもの未来をつくるサードプレイス。」、ミッションは「夢中体験を、次々と。」です。事業は体操教室事業と発達支援事業の2つの報告セグメントで構成されています。

体操教室事業では、「ネイス体操教室」を直営とフランチャイズ(FC)で運営しています。対象は2歳から中学1年生までで、マット・とび箱・鉄棒・トランポリンの4種目を指導します。売上は主に会員からの月謝で、週1回コースで8,900円前後と記載されています。店舗の約9割がショッピングセンター内にあり、2026年4月末の店舗数は直営49店、FC128店(加盟社34社)、合計177店です。同社はFC本部として加盟店からロイヤリティを収受しています。

発達支援事業では、児童発達支援・放課後等デイサービス施設「ネイスぷらす」を運営しています。体操指導による「運動療育」が特徴で、売上は児童福祉法に基づき、利用日数に報酬単価を乗じて算定されます。利用者の自己負担は原則1割(所得に応じて月額上限あり)で、残りは国民健康保険団体連合会(国保連)に請求する仕組みです。2026年4月末時点で直営11店、すべて関東にあります。

ネイスの事業と収益の流れネイス株式会社本部(直営運営・FC本部)体操教室事業「ネイス体操教室」直営49店/FC128店(加盟社34社)発達支援事業「ネイスぷらす」直営11店(全て関東)直営店の会員月謝・入会金等(一定期間で認識)FC加盟店ロイヤリティ・加盟料開業支援料等利用日数×報酬単価(児童福祉法)国保連への請求+利用者負担1割(提供完了時点で認識)収益の柱は会員の月謝。KPIは店舗数と会員数(加えて入会率・退会率)会費等は回収代行業者を通じて入金される仕組み

図1 Ⅰの部の事業の内容・収益認識の注記をもとに作成(店舗数は2026年4月末)

主要な顧客については、「相手先別販売実績が総販売実績の10%以上の相手先はない」と記載されています。個人の会員から月謝を受け取るBtoCモデルのため、特定の取引先への依存度が低いのは自然です。一方、貸借対照表の売掛金の相手先をみると、2025年8月末で国民健康保険団体連合会が48,313千円と最も大きく、発達支援事業の報酬の請求先が売掛金の最大の相手先になっている点は、月謝中心の体操教室事業とは異なる特徴です。

KPIとしては「店舗数及び会員数」を掲げ、加えて入会率・退会率を重視していると記載されています。経営者による財政状態等の分析(MD&A)では、売上高成長率と経常利益率を重要な指標としており、第14期は売上高成長率25.3%・経常利益率4.8%、第15期は23.0%・12.6%でした。

KPIの開示は審査でどう見られるか

グロース市場の審査では、事業計画の合理性と、その前提になっているKPIの妥当性が重視されます。店舗ビジネスなら「店舗数」「店舗当たり会員数」「入会率・退会率」といった指標が、売上計画にどうつながっているかを説明できることが重要です。同社は、体操教室の店舗数を2021年8月期末の31店から2025年8月期末の151店まで、会員数を9,783人から44,616人まで伸ばしてきた推移を開示しており、計画値(2026年8月期見込みで195店・55,000人)と並べて示しています。

上場準備会社としては、KPIを「経営会議で毎月見ている数字」と一致させておくことがポイントです。Ⅰの部で開示するKPIと社内の管理資料の定義がずれていると、引受審査や取引所審査で「どの数字が正しいのか」という確認に時間を取られます。事業計画の作り方についてはIPO審査の「事業計画の合理性」で詳しく解説しています。

体操教室の会員数と店舗数の推移014,00028,00042,00056,0002021/82022/82023/82024/82025/8中間期9,783人16,378人24,186人35,069人44,616人49,598人31店58店86店115店151店171店店舗数

図2 Ⅰの部の対処すべき課題に記載のKPI。中間期は2026年8月期中間期末。店舗数は体操教室(直営+FC)

期末 体操教室店舗 発達支援店舗 会員数(体操)
2021年8月 31 1 9,783
2022年8月 58 4 16,378
2023年8月 86 7 24,186
2024年8月 115 10 35,069
2025年8月 151 10 44,616
2026年2月(中間) 171 11 49,598
2026年8月(見込) 195 12 55,000

市場環境としては、国内の子ども向け習い事市場が2026年に約7,450億円(うちスポーツ系約3,650億円、矢野経済研究所)、障害児通所支援市場が2024年度に8,826億円と記載されています。また、水泳教室が約6,800拠点あるのに対して体操教室は約1,200拠点(当社調べ)であることから、体操教室の潜在市場を約750億円と試算しています。外部データと自社調べを区別して出典を明記している点は、Ⅰの部の書き方として参考になります。

設立から上場まで、どのような道のりをたどったのか?

Ⅰの部の沿革によると、同社は2010年9月に設立され、同年12月に埼玉県川口市へ本社を移転し、レンタルスタジオで体操教室を開業しました。2011年2月に川口市で「ネイス体操教室」の1号校、2012年3月にショッピングセンター内の2号校を開校しています。2012年2月にはオリジナルのエアートランポリンを開発し、製造を開始しました。

2015年4月に初のFC校を開校し、2017年4月には10号校のオープンとあわせてコールセンター部門を開設、同年7月にプライバシーマークの認定を取得しています。2020年1月にはFC加盟募集と「のれん分け独立制度」(自社の従業員が初期投資を抑えて独立し、店舗を構える制度)を開始しました。

2021年は事業の幅が広がった年です。4月にオリジナル体操器具の開発・販売を行っていたバックヤード株式会社を吸収合併し、5月に「ネイスぷらす」の1号校を開所、6月に本社を東京都新宿区へ移転、9月に大阪支社を開設しています。その後、2023年8月に本社を千代田区へ移転し、2024年2月に「ネイス体操教室」が全国100教室を突破、同年5月に「ネイスぷらす」の10号校を開所しました。2024年10月にはマレーシアに子会社を設立し、2025年4月には「ネイスキッズゼリー」の販売・提供を始めています。

設立から上場までの主な出来事2010年9月会社設立(東京都港区)2015年4月初のFC校(東浦和校)2021年ぷらす1号校器具会社を合併2024年全国100教室分割・SO付与2026年分割・単元株グロース上場体操教室1校から出発し、FC化と発達支援事業の追加で拡大

図3 Ⅰの部の沿革・株式の状況をもとに作成。上場は2026年6月30日(東証グロース)

沿革から読み取れる上場準備のタイミング

沿革の欄には記載されていませんが、株式の状況などを見ると、2024年6月3日に1株を10,000株に分割し、翌6月4日に第1回新株予約権(ストック・オプション)を付与しています。さらに2024年7月以降に社外監査役・取締役が相次いで就任し、2024年8月22日の取締役会で内部統制システム構築の基本方針を決議しています。監査法人の継続監査期間が2年間であることとあわせると、2024年が上場準備の体制づくりを本格化させた時期であったと読み取れます。

上場準備では、「監査を受ける2期間(直前々期・直前期)」の期首までに、会計監査を受けられる体制と、ガバナンスの基本形をそろえておく必要があります。同社の場合、監査対象は第14期(2024年8月期)と第15期(2025年8月期)であり、第11〜13期は会社計算規則に基づく数値で監査を受けていないと記載されています。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるか、スケジュールが遅れやすい場面は上場スケジュールはどこで遅れるかで整理しています。

また、2021年の吸収合併のように、上場準備より前に関係会社を整理しておくことは、審査上も意味があります。オーナー系の会社では、創業者が関与する別会社との取引や、グループ内の役割分担が複雑になりがちです。上場前に合併・清算・取引の解消などで関係を整理しておくと、関連当事者取引や企業グループの説明がシンプルになります。

業績はどう推移し、どう読めばよいか?

Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」によると、同社の売上高は第11期(2021年8月期)の822,366千円から第15期(2025年8月期)の2,855,346千円へと、4期で約3.5倍に拡大しています。経常利益は第12期に△17,229千円と損失になったものの、第13期以降は黒字で、第15期は358,755千円でした。当期純利益は第15期に248,907千円です。

回次(決算年月) 売上高 経常利益 当期純利益 純資産額 総資産額 自己資本比率
第11期(2021/8) 822,366 43,359 26,461 61,629 610,976 10.1%
第12期(2022/8) 1,141,112 △17,229 △39,060 22,568 832,171 2.7%
第13期(2023/8) 1,851,984 138,214 12,428 34,996 1,157,228 3.0%
第14期(2024/8) 2,321,388 112,217 27,051 62,048 1,479,489 4.2%
第15期(2025/8) 2,855,346 358,755 248,907 310,956 2,060,585 15.1%

(単位:千円。第11〜13期は会社計算規則に基づく数値で、監査法人の監査を受けていません)

売上高の推移(単位:百万円)08001,6002,4003,2002021/82022/82023/82024/82025/88221,1411,8512,3212,855

図4 第11期〜第15期。百万円未満切り捨て。第11〜13期は会社計算規則に基づく数値で監査対象外

経常利益と当期純利益の推移(単位:百万円)-15001503004502021/82022/82023/82024/82025/8経常利益当期純利益43-17138112358

図5 第12期は収益認識会計基準の適用及び資産除去債務の計上に伴い損失。百万円未満切り捨て

第12期の損失はなぜ生じたのか

第12期の経常損失・当期純損失について、Ⅰの部は「収益認識基準の適用及び資産除去債務の計上に伴い」と記載しています。同社は収益認識に関する会計基準を第12期の期首から適用しました。上場準備会社では、それまで税務基準で処理していた収益や費用を、上場会社と同じ会計基準に合わせて見直す過程で、利益水準が変わることがよくあります。

たとえば、入会金や加盟金のように「入金時に一括で売上にしていたもの」を、サービスの提供期間にわたって認識する方法に変えると、変更した年度は売上が後ろにずれます。また、賃借している店舗の原状回復義務を資産除去債務として計上すると、資産計上した除去費用の減価償却費と利息費用が毎期の費用になります。どちらも現金の出入りは変わりませんが、損益には影響します。上場準備の初期にショートレビューで論点を洗い出し、どの期から適用するかを決めておくことが重要です(ショートレビューとは)。

第15期の増益の中身

第15期の売上高は前期比23.0%増、営業利益は312,278千円で前期の78,203千円から約4倍になりました。売上総利益は1,000,561千円から1,302,786千円に増え、販売費及び一般管理費は922,358千円から990,508千円と小幅な増加にとどまっています。売上原価の明細をみると、労務費の構成比が53.1%から49.4%に下がっており、店舗の増加に対して本部の固定的な費用の伸びが抑えられた結果、利益率が改善したと説明できる構造です。

セグメント別にみると、体操教室事業の売上高は2,586,459千円(前期比24.2%増)、セグメント利益は713,030千円(同54.0%増)でした。発達支援事業は売上高268,886千円(同12.2%増)、セグメント利益は前期の△27,817千円から6,684千円に改善しています。なお、同社のセグメント利益は経常利益ベースで、全社費用の調整額は△360,959千円です。

第15期のセグメント利益から経常利益へ(千円)体操教室713,030発達支援+6,684調整額-360,959経常利益358,755

図6 セグメント利益は経常利益ベース。2025年8月期(Ⅰの部「セグメント情報」をもとに作成)

営業外収益には助成金収入が計上されており、第14期29,335千円、第15期38,491千円、第16期中間期26,002千円です。特別損失には減損損失が第14期35,156千円、第15期10,744千円計上されています。

税負担率の大きな変化

税効果会計の注記では、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率の差異が開示されています。同社の税負担率は第14期64.70%、第15期27.64%です。第14期は住民税均等割(7.52%)、寄付金の損金不算入(4.09%)、評価性引当額の増減(28.61%)などが差異の要因として記載されています。

利益の規模が小さい時期は、住民税均等割のような利益に比例しない税金の影響が相対的に大きくなり、税負担率が高く見えます。また、繰延税金資産の回収可能性の判断(企業の分類)が変わると、評価性引当額が大きく動きます。上場準備会社では、監査対象期間に入ったら税効果会計の適用と回収可能性の判断を早めに監査法人と協議しておくと、決算の手戻りを防げます。

グロース市場の「成長可能性」とどう結びつくか

グロース市場では、上場申請にあたって「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が求められ、上場後も定期的な更新が必要です。同社のⅠの部では、将来的に「ネイス体操教室」全国1,000店舗を目指し、中期的なターゲットとして530店舗を掲げ、出店ペースを年間60〜100店舗に加速する方針が示されています。中期目標の530店舗は、少子化による人口動態の変化も勘案して設定しているとリスク情報の中で説明されています。

このように、成長戦略の数字と、それを妨げるリスク(人口減少、FC加盟意欲の減退、人材確保など)を同じ文書の中で対応させて説明している点は、成長可能性の説明として参考になります。グロース市場の考え方はグロース市場の「高い成長可能性」とはで解説しています。

キャッシュ・フローと運転資本の見方

第15期の営業キャッシュ・フローは660,261千円の収入で、税引前当期純利益344,004千円に加え、預り金・契約負債の増加260,689千円などが寄与しています。投資キャッシュ・フローは△156,466千円、財務キャッシュ・フローは長期借入金の返済などで△107,696千円でした。

一方、第16期の中間期では営業キャッシュ・フローが△137,476千円となり、現金が332,427千円減少しています。Ⅰの部はこの理由を、会費等の回収代行業者からの入金が約定に基づき翌月入金となったため、契約負債が221,508千円、預り金が183,090千円減少したと説明しています。月謝や会費を前受けするビジネスでは、期末日と入金日の関係によって、期末の現金・契約負債・預り金が大きく変動します。Ⅰの部で変動要因を具体的に説明しておくことは、読み手の誤解を防ぐうえで有効です。

会費の入金タイミングと中間期の営業キャッシュ・フロー会員(月謝・会費)回収代行業者ネイス約定に基づき翌月入金第16期中間期:営業キャッシュ・フロー △137,476千円(現金は332,427千円減少)契約負債221,508千円減少預り金183,090千円減少

図7 第16期中間期に営業キャッシュ・フローがマイナスとなった理由(Ⅰの部の記載をもとに作成)

第16期中間期の業績は、売上高1,690,174千円、営業利益275,236千円、経常利益311,106千円、中間純利益200,933千円です。中間財務諸表はそうせい監査法人の期中レビューを受けています。

資本政策と株主構成はどうなっているか?

ネイスの資本政策で最も特徴的なのは、上場前の株主が2名だけという点です。Ⅰの部の「所有者別状況」(2026年4月30日現在)では、株主数は「その他の法人」1名(60.00%)と「個人」1名(40.00%)です。その他の法人は代表取締役社長の資産管理会社である株式会社みなみの島、個人は南友介氏本人であり、役員の状況では南氏の所有株式数4,000,000株は資産管理会社の持分を含むと記載されています。つまり、創業者が発行済株式の100%を実質的に保有した状態で上場申請に至っています。

種類株式の発行はなく、発行済株式は普通株式のみです。ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社からの出資もなく、株式の第三者割当増資の記載もありません。資本金は設立以来38,000千円のまま変動していないと記載されています。

上場前の株主構成(第四部 株主の状況)株式会社みなみの島(代表者の資産管理会社)2,400,000株 54.91%南 友介(代表取締役社長)1,600,000株 36.61%取締役2名(全て新株予約権)各88,000株 各2.01%従業員40名(全て新株予約権)合計194,800株株主名簿上の株主は2名(2026年4月30日現在)。比率は潜在株式を含む4,370,800株ベース

図8 Ⅰの部 第四部「株主の状況」をもとに作成。VC等の外部投資家はいない

株主 所有株式数 割合 備考
株式会社みなみの島 2,400,000株 54.91% 代表取締役社長の資産管理会社
南 友介 1,600,000株 36.61% 代表取締役社長
山崎 拓也 88,000株(88,000株) 2.01% 取締役。全て新株予約権
田島 幸樹 88,000株(88,000株) 2.01% 取締役。全て新株予約権
従業員 8,400株(8,400株) 0.19% 新株予約権
計 4,370,800株(370,800株) 100.00% ( )内は新株予約権による潜在株式

(Ⅰの部 第四部「株主の状況」より主な株主を抜粋。割合は潜在株式を含む株式総数に対する比率)

外部資本を入れない資本政策のメリットと論点

VCから資金調達をしない場合、優先株式やみなし清算条項、上場時の売却圧力といった論点は生じません。同社は、第15期に営業キャッシュ・フローで660,261千円を生み出し、長期借入金の残高は236,543千円(平均利率0.9〜1.0%)にとどまっています。対処すべき課題の中でも「財務上の課題は特段認識していない」と記載されています。資金需要については、自己資金、金融機関からの借入、新株発行で対応する方針です。

一方、創業者が株式の大半を持ったまま上場する場合、上場時に流通株式の基準を満たすために、公募増資や創業者・資産管理会社による売出しで株式を市場に出す必要があります。同社は事業等のリスクの中で、上場日現在の流通株式比率がグロース市場の上場維持基準である25%以上の水準に近接していると記載し、公募増資の実施、大株主への売出しの要請、ストック・オプションの行使などにより流動性の向上に努める方針を示しています。

創業者保有の会社の流通株式の確保創業者が実質100%を保有(株主名簿上の株主は2名)上場日現在の流通株式比率は、上場維持基準25%以上の水準に近接流動性向上の方針公募増資の実施大株主への売出しの要請ストック・オプションの行使

図9 流通株式比率に関するリスクと流動性向上の方針(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに作成)

流通株式は、役員や10%以上を保有する大株主、自己株式などを除いて数えます。創業者や資産管理会社の持分は流通株式に含まれないため、オーナー比率が高い会社ほど、上場時の公募・売出しの規模設計と上場後の比率の維持が重要になります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方、創業者の持株比率の考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかをご覧ください。

2度の株式分割と単元株制度

発行済株式総数は、第13期まで200株でした。2024年6月3日の臨時株主総会で定款を変更して発行可能株式総数を8,000,000株とし、1株を10,000株に分割して2,000,000株になりました。さらに2026年2月10日の取締役会、2月27日の臨時株主総会を経て、3月1日に1株を2株に分割して4,000,000株となり、3月2日に単元株式数を100株とする単元株制度を採用しています。発行可能株式総数は16,000,000株です。

上場準備会社では、設立時の少ない株式数のままでは1株当たりの価値が大きすぎ、ストック・オプションの設計や上場時の投資単位の調整がしにくくなります。そのため、上場準備の早い段階で大きな株式分割を行い、上場直前に投資単位を調整するための分割と単元株制度の導入を行うのが一般的です。同社の流れはこの典型例といえます。

なお、株式分割を行った場合、Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」では、分割が最初の期の期首に行われたと仮定した1株当たり情報を参考として注記します。同社も、第11期期首に分割を行ったと仮定した1株当たり純資産額・1株当たり当期純利益を記載しています。

資本政策の主な動き2024/6/3株式分割1:10,0002024/6/4第1回新株予約権2026/2/27臨時株主総会分割・定款変更2026/3/1株式分割1:22026/3/2単元株制度100株発行済株式数 200株 → 2,000,000株 → 4,000,000株普通株式のみ。資本金38,000千円は設立以来変動なし

図10 Ⅰの部の株式の状況・第三者割当等の概況をもとに作成

ストック・オプションはどのように設計されているか

同社が発行した新株予約権は第1回の1種類のみで、2024年6月3日の臨時株主総会で会社法236条・238条・239条に基づき決議され、6月4日に付与されています。付与対象は当社従業員55名で、そのうち2名がその後取締役に就任しています。発行数は分割後換算で普通株式430,800株、行使価額は276円(分割前552円)、行使期間は2026年6月4日から2034年6月3日までです。

行使条件としては、権利行使時に当社または子会社の取締役・監査役・従業員・顧問・社外協力者等の地位にあること(取締役会が正当な理由を認めた場合を除く)、当社株式が上場していること、相続人による行使はできないこと(取締役会が承認した場合を除く)などが定められています。譲渡には取締役会の承認が必要です。

行使価額は、DCF法により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。また、未公開企業として、ストック・オプションの公正な評価単価を本源的価値で見積もっており、費用計上はしていないと記載されています。

項目 内容
名称 第1回新株予約権
決議・付与 2024年6月3日 臨時株主総会決議/2024年6月4日 付与
付与対象 当社従業員55名(うち2名が後に取締役に就任)
目的となる株式数 普通株式430,800株(分割後換算)
行使価額 276円(分割前552円)。DCF法により算出した価格を総合的に勘案
行使期間 2026年6月4日〜2034年6月3日
主な行使条件 権利行使時に役職員等の地位にあること、上場していること 等
会計処理 本源的価値により評価、費用計上なし
潜在株式 370,800株(発行済株式4,000,000株の9.27%、提出日現在)

退職などにより従業員13名分60,000株の権利が失われており、提出日現在の潜在株式数は370,800株、発行済株式総数に対する比率は9.27%です。事業等のリスクでは、新株予約権の行使による株式の希薄化を発生可能性「高」、影響度「低」と評価しています。

第1回新株予約権の目的株式数(株)付与時430,800権利喪失-60,000提出日現在370,800提出日現在の潜在株式は発行済株式4,000,000株の9.27%

図11 分割後換算。権利喪失は従業員13名分(Ⅰの部の記載をもとに作成)

上場準備会社がストック・オプションを発行する際のポイントは3つあります。1つ目は、行使価額の根拠となる株価算定の方法と時期です。資本政策のなかで株価の連続性が問われるため、DCF法、純資産法、類似会社比較法などの選択と、直前の取引価格との整合を説明できるようにしておきます(未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。2つ目は税制適格要件を満たす設計にするかどうかで、権利行使期間や年間の権利行使価額の上限などの要件があります(税制適格ストックオプション)。3つ目は、潜在株式の比率です。一般に、潜在株式比率が高すぎると上場後の希薄化が懸念されるため、全体の付与枠を資本政策の中で計画的に決めておく必要があります。

株式の移動がない上場前の資本政策

Ⅰの部の第四部「株式公開情報」では、特別利害関係者等の株式等の移動状況が「該当事項なし」とされています。第三者割当等の概況も第1回新株予約権のみで、取得者の株式等の移動状況も「該当事項なし」です。上場申請直前期の末日の2年前から上場日の前日までの期間の株式移動は、第四部でその内容を開示することになっており、移動価格やその算定根拠も審査の対象になります。

同社のように株式の移動が全くない場合、第四部の記載はシンプルになります。逆に、上場直前に親族間・役員間で株式を譲渡したり、第三者割当で外部株主を入れたりすると、その価格の妥当性や継続所有の確約が論点になります。上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で詳しく整理しています。

自己株式は保有しておらず、配当は創業以来行っていません。配当政策としては、期末配当の年1回を基本とし、定款で2月末日を基準日とする中間配当を取締役会決議で行えるようにしています。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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コーポレート・ガバナンスはどう設計されているか?

同社の機関設計は監査役会設置会社で、株主総会、取締役会、監査役会、会計監査人を置いています。役員は男性6名・女性2名で、女性比率は25%です。取締役は5名(うち社外取締役2名)、監査役は3名で、監査役は常勤監査役を含めて全員が社外監査役です。

ネイスの機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会(原則月1回)取締役5名(うち社外2名)監査役会(原則月1回)監査役3名(全員社外)代表取締役社長リスク・コンプライアンス委員会四半期1回・取締役会へ報告内部監査責任者 管理本部GM+外部CPA会計監査人そうせい監査法人監査報告連携

図12 Ⅰの部のコーポレート・ガバナンスの状況・監査の状況をもとに作成

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の記載から抜粋)
代表取締役社長 南 友介 2010年9月 当社設立・代表取締役
取締役COO 体操教室事業本部GM 山崎 拓也 小売・通信等の事業会社を経て2021年11月入社、2024年9月取締役
取締役CFO 管理本部GM 田島 幸樹 証券会社・事業会社を経て2023年8月入社、2024年11月取締役
社外取締役 大津 武 商業施設のプロパティマネジメント会社の経営等。2024年11月就任
社外取締役 西野 比呂子 弁護士。2022年11月就任
社外監査役(常勤) 古木 美也子 上場企業での内部監査・監査役監査の経験。2024年7月就任
社外監査役 佐藤 孝幸 弁護士。金融機関・会計事務所での経験
社外監査役 安本 拓樹 公認会計士。監査法人・事業会社の経理財務の経験。2024年9月就任

常勤監査役も社外という構成

監査役会設置会社では、監査役を3名以上置き、その半数以上を社外監査役とし、常勤監査役を1名以上選定する必要があります(会社法335条3項、390条3項)。同社は3名全員を社外監査役としており、常勤監査役には上場企業での内部監査・監査役監査の経験者を、非常勤には弁護士と公認会計士を選任しています。法律・会計・実務の3つの専門性を監査役会の中でそろえた構成です。

上場準備会社では、常勤監査役の人選に苦労するケースが少なくありません。社内出身者を常勤監査役にすると業務への理解は深い一方、独立性の説明が必要になります。社外の経験者を常勤で迎える場合は、業務の理解に時間がかかるため、就任後に現場の往査や会議への出席を重ねる仕組みが必要です。常勤監査役の要否と人選の考え方は常勤監査役は必要か、監査役の会計知識については監査役に会計の知識は必要かで解説しています。

社外取締役は何を期待されているか

社外取締役2名の選任理由として、Ⅰの部はプロパティマネジメント会社での事業運営・経営の経験と、弁護士としての専門的な知見を挙げています。店舗の約9割がショッピングセンター内にある同社にとって、商業施設の運営側の視点を持つ社外取締役がいることは、出店戦略の議論に役立つ構成といえます。

社外役員の独立性については、当社との人的関係・資本的関係・取引関係その他の利害関係はないとし、独自の独立性基準は定めず、東証の独立役員の判断基準等を参考にしていると記載されています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで整理しています。

取締役会の運営と出席状況

取締役会は原則月1回開催し、必要に応じて臨時に開催しています。議長は代表取締役社長です。取締役会では、監査役会からの報告、業績報告、活動報告を月次で、決算報告を四半期で行うと記載されています。最近事業年度を含めた期間の出席状況は、南氏29回中29回、山崎氏29回中29回、田島氏26回中26回、大津氏26回中26回、西野氏29回中29回で、監査役も全員が全回出席しています。

上場審査では、取締役会が実際に機能しているかどうかが、議事録や付議資料によって確認されます。月次の業績報告を定例の議題にしておくこと、監査役会からの報告を受ける場を設けることは、取締役会の監督機能を示す材料になります。審査で確認される機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とはをご覧ください。

任意の委員会と役員報酬の決め方

任意の機関として、リスク・コンプライアンス委員会を設置しています。委員長は代表取締役社長で、常勤取締役2名、常勤監査役1名、内部監査人等で構成され、原則として四半期に1回開催し、取締役会に報告します。指名委員会・報酬委員会のような任意の諮問委員会の記載はありません。

役員報酬は、株主総会で定めた限度額の範囲内で、取締役の個別の報酬は取締役会の決議により決定しています。限度額は2024年11月29日の定時株主総会で、取締役が年額100,000千円以内、監査役が年額30,000千円以内と定められています。最近事業年度の報酬はすべて固定報酬で、取締役(社外取締役を除く)3名に51,000千円、社外取締役3名に4,950千円、社外監査役2名に7,200千円、合計63,150千円です。業績連動報酬、退職慰労金、非金銭報酬はありません。

関連当事者取引はどう開示されているか

関連当事者との取引の注記には、2つの取引が記載されています。1つ目は、代表取締役社長による店舗・本社の賃貸借契約への連帯保証です。第15期は44件の賃貸借契約について連帯保証を受けており、取引金額として年間の支払家賃164,388千円が記載されています。保証料の支払いはありません。

2つ目は、取締役の配偶者が100%を保有するlala合同会社とのFC取引です。同社はネイス体操教室のFCとして1店舗を運営しており、第15期のFC契約に基づくロイヤリティ売上・加盟売上は9,935千円です。取引条件は、独立第三者間取引と同様の一般的な取引条件で行っていると記載されています。

関連当事者との取引(第15期)南 友介(代表取締役社長)lala合同会社(取締役の配偶者が100%保有)ネイス第15期 支払家賃 164,388千円保証料の支払いなしロイヤリティ・加盟売上 9,935千円一般的な取引条件と記載賃貸借契約44件を連帯保証FC契約(1店舗)

図13 関連当事者との取引の注記に記載された2つの取引(Ⅰの部をもとに作成)

期 相手 取引の内容 金額(千円)
第14期 南 友介(代表取締役社長) 教室及び本社の賃貸契約38件に対する被連帯保証 142,697
第15期 南 友介(代表取締役社長) 教室及び本社の賃貸契約44件に対する被連帯保証 164,388
第15期 lala合同会社(取締役の近親者が議決権の過半数を所有) FC契約に基づくロイヤリティ売上及び加盟売上 9,935

代表者による債務保証は、オーナー企業の上場準備でよく見られる論点です。上場審査では、関連当事者取引について、取引の必要性と取引条件の妥当性が確認され、必要性の乏しい取引は上場前に解消することが求められます。賃貸借契約の連帯保証は、貸主との交渉が必要なため解消に時間がかかることが多く、保証会社の利用や敷金の積み増しなどの代替手段を早めに検討しておくのが実務的です。IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)、社長個人と会社の取引はどう解消するかで詳しく解説しています。

役員の近親者が経営する会社をFC加盟店とする取引については、他の加盟店と同じ契約条件であることを、契約書やロイヤリティ率の比較で示せるようにしておくことがポイントです。開示の書き方は関連当事者との取引の注記の記載例が参考になります。

その他のガバナンス上の仕組み

定款では、取締役の員数を7名以内とし、自己株式の取得、中間配当、取締役・監査役の責任免除を取締役会で決議できるようにしています。社外取締役・監査役とは会社法427条1項に基づく責任限定契約を締結し、役員等賠償責任保険(D&O保険)にも加入しています。反社会的勢力の排除については、所轄の警察署、公益社団法人警視庁管内特殊暴力防止対策連合会、弁護士等と連携する体制が記載されています。いずれも上場会社として一般的な整備項目であり、上場準備の段階で定款変更と規程整備をまとめて行うことになります。

内部監査・内部統制はどのような体制か?

Ⅰの部によると、同社は独立した内部監査部門を設けていません。内部監査責任者である管理本部GMの関与のもと、管理本部2名・体操事業本部1名の内部監査担当者を選任し、さらに外部の公認会計士資格保有者1名と業務委託契約を結んで内部監査を行う体制です。管理本部GMは取締役CFOが兼ねています。

監査の対象は全部門と一部の直営店で、店舗については内部監査の初年度は全店舗を対象とし、以降は3年のローテーションで監査すると記載されています。監査は年1回、組織及び制度監査、業務監査、会計監査、システム監査の観点で行い、指摘事項についてはフォローアップ監査を実施します。監査結果は代表取締役社長に報告したうえで、取締役会にも直接報告する仕組みです。

内部監査の体制内部監査責任者管理本部GM(取締役CFOが兼務)管理本部担当者2名体操事業本部担当者1名外部の公認会計士1名(業務委託)対象:全部門と一部の直営店(店舗は初年度に全店、以降3年のローテーション)報告先:代表取締役社長と取締役会。指摘事項はフォローアップ監査

図14 独立した内部監査部門を置かず、兼務の担当者と外部の公認会計士で行う体制(Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成)

小規模な会社の内部監査はどう組み立てるか

上場準備会社では、専任の内部監査室を置くだけの人員を確保できないことが多く、他部署の担当者が兼務したり、外部の専門家に業務委託したりする体制がよく採られます。兼務で内部監査を行う場合に問題になるのが「自己監査」です。担当者が自分の所属部署を監査すると、客観的な評価ができないため、所属部署の監査は他部署の担当者や外部の委託先が行うといった手当てをし、その運用を内部監査規程や監査計画で明確にしておくことが求められます。

同社のように、管理本部と事業本部の双方から担当者を選び、外部の公認会計士も加えておくと、監査対象に応じて担当者を割り当てることができます。内部監査の報告先を社長だけでなく取締役会にも広げている点も、内部監査の独立性を補う仕組みとして参考になります。体制の組み方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、内部監査の人数と体制、報告先については内部監査の報告先は社長だけでよいのかで詳しく解説しています。

多店舗展開での内部監査のポイント

直営49店・FC128店を展開する同社にとって、店舗の運営状況をどう把握するかは内部統制の重要な論点です。Ⅰの部では、内部監査の店舗ローテーションのほか、対処すべき課題として、見守りカメラ(CCTV)による品質管理、目安箱やコールセンターでの意見収集、口コミの全件確認、覆面調査・臨店といった取り組みが記載されています。見守りカメラは、個人情報保護のリスク対応(追跡手段)としても挙げられています。

多店舗型のビジネスでは、すべての店舗を毎年往査するのは現実的ではありません。リスクの高い店舗(新規開設店、売上の変動が大きい店、苦情が多い店など)を優先するリスクアプローチと、カメラ映像や売上データなどの遠隔モニタリングを組み合わせ、内部監査で「店舗の自主点検が機能しているか」を確認する設計が有効です。

三様監査の連携常勤監査役(社外監査役)内部監査管理本部GM+担当者3名会計監査人そうせい監査法人原則 四半期1回の会合で、監査計画や指摘事項を共有情報交換情報交換情報交換

図15 常勤監査役・内部監査人・会計監査人は原則として四半期に1回会合を持つと記載されている

三様監査と内部統制の基本方針

監査役監査については、常勤監査役が取締役会等の重要な会議への出席、決裁書類の閲覧、従業員への聞き取り、内部監査人・会計監査人との情報交換を行うと記載されています。常勤監査役・内部監査人・会計監査人の三者は、原則として四半期に1回会合を持ち、情報を共有しています。

内部統制システム構築の基本方針は2024年8月22日の取締役会で決議されており、法令適合体制、情報の保存・管理、損失の危険の管理(BCPを含む)、職務執行の効率性、監査役を補助する使用人とその独立性、監査役への報告体制、通報者の保護、監査費用、監査の実効性確保などの項目で構成されています。内部通報制度は「内部通報規程」に基づいて運用されています。三様監査の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)、内部通報体制の審査上の位置づけは内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかをご覧ください。

リスク管理は、前述のリスク・コンプライアンス委員会が中心となります。委員会が四半期ごとにリスクを洗い出し、取締役会へ報告する流れです。また、弁護士・社会保険労務士・税理士・公認会計士などの社外専門家から必要に応じて助言を受ける体制が記載されています。

回収代行と預り金をめぐる統制

同社の貸借対照表には、2025年8月末で預り金466,219千円(うちFC加盟店に係る預り金423,004千円)、長期預り保証金173,328千円(全額FC加盟店に係る預り保証金)が計上されています。会費等は回収代行業者を通じて入金されています。このように、FC加盟店に関係する資金を本部が預かる場合、加盟店ごとの残高管理、精算のタイミング、残高確認の手続などを内部統制として整備しておく必要があります。

金額が大きい預り金は、財務報告に係る内部統制(J-SOX)の評価範囲の検討でも論点になりやすい科目です。上場後の内部統制報告制度を見据えて、業務の流れを文書化しておくと効率的です(J-SOXの進め方、内部統制の3点セット)。

会計・開示ではどこに注目すべきか?

FCビジネスの収益認識:履行義務をどう分けたか

同社の重要な会計方針の注記では、収益を6つに区分し、それぞれの履行義務と充足の時点が記載されています。とくにFC関連の収益について、ロイヤリティ、開業支援料、加盟料を別々の履行義務として識別し、認識のタイミングを分けている点が参考になります。

収益の種類 主な履行義務 認識のタイミング
体操教室売上 受講サービスの提供 一定期間(入会月からサービス提供期間にわたり認識)
イベント売上 イベント参加サービスの提供 一時点(提供完了時点)
FCロイヤリティ 商標等の継続使用、ノウハウ提供、経営指導、広告宣伝・販促 等 一定期間(契約金額を毎月認識)
FC開業支援料 開業前研修、開業準備支援・開業時指導、必要物品の提供 一時点(提供完了時点)
FC加盟料 FCの付与、ノウハウ開示、標章等の使用許諾 一定期間(契約期間にわたり認識)
発達支援 児童発達支援・放課後等デイサービスの提供 一時点(提供完了時点)

FC契約の契約期間は5年で、以後2年ごとの自動更新とされています。加盟料を契約期間にわたって認識する処理は、加盟料が「FC加盟の権利」という契約期間を通じて提供されるサービスの対価と整理していることを示しています。一方、開業支援料は開業準備という個別のサービスの対価として、提供が完了した時点で認識しています。

FC契約の収益はいつ計上されるか開業支援料提供完了時点で認識(一時点)加盟料契約期間にわたり認識ロイヤリティ契約金額を毎月認識開業契約期間5年(以後2年ごとの自動更新)

図16 FC関連収益の認識のタイミング(Ⅰの部「重要な会計方針」をもとに作成)

フランチャイズ契約は、収益認識基準のもとでライセンスの供与(知的財産へのアクセス権か使用権か)や、複数の履行義務の識別が問題になる典型的な取引です。上場準備の段階では、契約書の条項ごとに「顧客に何を約束しているか」を整理し、その判断根拠を文書として残しておくと、監査法人との協議や審査の質問にスムーズに対応できます。詳しくは上場審査で問われる収益認識をご覧ください。

契約負債は第14期末249,780千円から第15期末360,313千円に増加しており、その理由として、FC加盟社への直営店舗の譲渡に係る前受金の増加と、FC店舗数の増加に伴う加盟金売上の増加が挙げられています。残存履行義務は1年以内306,956千円、1年超53,357千円です。第15期の収益の分解では、一時点で認識する収益が648,071千円、一定期間にわたり認識する収益が2,207,275千円です。

発達支援事業の収益と国保連への債権

発達支援事業の収益は、サービスの提供が完了した時点で認識しています。報酬は利用日数に報酬単価を乗じて算定され、利用者の自己負担分を除いた部分は国民健康保険団体連合会に請求します。2025年8月末の売掛金の最大の相手先が国民健康保険団体連合会(48,313千円)であるのはこのためです。

障害福祉サービスなどの公的報酬を受け取る事業では、報酬改定や加算・減算の要件、請求の正確性が収益に直結します。同社も事業等のリスクで、児童福祉法の改正と報酬改定(原則3年ごと)を挙げ、第15期の発達支援事業の業績について令和6年度報酬改定の影響に触れています。請求データと利用実績の照合を内部統制として組み込んでおくことが、上場準備の実務上のポイントです。許認可事業の審査上の扱いはIPOで許認可はどこまで見られるかで解説しています。

重要な会計上の見積り:店舗の減損と「2年間の猶予期間」

重要な会計上の見積りとして、同社は繰延税金資産の回収可能性と固定資産の減損の2つを挙げています。固定資産の減損では、原則として店舗単位で資産をグルーピングし、営業損益が2期連続でマイナスとなった店舗に減損の兆候があると判断します。そのうえで、新規出店から当初2年間は、出店時の損益計画から著しく下方に乖離していなければ、立ち上げ期間として減損の兆候がないものとして扱うと記載されています。

店舗の減損の兆候の判定店舗単位でグルーピング出店から2年以内か出店時の計画から著しく下方に乖離営業損益が2期連続マイナスか兆候なし(立ち上げ期間)減損の兆候あり兆候なしはいいいえはいいいえはいいいえ

図17 新規出店から当初2年間の扱いを含む減損の兆候の判定(Ⅰの部「重要な会計上の見積り」をもとに作成)

新店は開業から黒字化までに時間がかかるため、「開業直後の赤字」をそのまま減損の兆候とすると、出店のたびに減損を検討することになります。そこで、出店時の計画を基準に一定の猶予期間を設ける運用は、多店舗型のビジネスで一般的にみられる考え方です。ただし、この扱いをとるには、出店時の事業計画を店舗ごとに作成し、実績との比較を継続的に行う仕組みが前提になります。

同社は減損損失を第14期に35,156千円(千葉・大阪・埼玉・神奈川・東京の店舗等)、第15期に10,744千円(埼玉の2店舗)計上しています。本社などは共用資産、物販・レンタル用の資産は体操事業本部の事業用資産としてグルーピングしています。

資産除去債務と新リース会計基準

同社はすべての事業所を賃借しており、年間の賃借料は313,751千円です。店舗の原状回復義務について資産除去債務を計上しており、使用見込期間は取得から6年、割引率は0.068%〜1.157%です。第14期には、直近の原状回復費用の実績等にもとづいて見積りを変更し、78,582千円を加算しています。資産除去債務の期末残高は第15期末で150,647千円です。

また、未適用の会計基準として、新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等)を2028年8月期の期首から適用する予定であり、影響額は評価中と記載されています。店舗を賃借して展開するビジネスでは、新基準の適用により賃貸借契約の多くが貸借対照表に資産・負債として計上されることになるため、上場準備会社でも契約の洗い出しと影響額の試算を早めに始めておくのが望ましいでしょう。

監査法人と監査報酬

会計監査人はそうせい監査法人で、継続監査期間は2年間、業務執行社員は2名、補助者は公認会計士6名です。監査報酬は、前事業年度が監査証明業務7,000千円、最近事業年度が10,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査法人の選定理由としては、独立性・専門性・品質管理体制・監査報酬等を総合的に勘案したと記載されています。

上場準備では、監査を受ける期間の前に、ショートレビューと期首残高の確認が必要です。監査報酬は、会社の規模や論点の多さ、内部統制の整備状況によって大きく変わります。IPO全体の費用感はIPOにかかる費用はいくらかで整理しています。

事業等のリスクと、審査で問われやすい点は何か?

同社の「事業等のリスク」には24項目が記載され、それぞれに発生可能性・発生時期・影響度が示されています。リスクごとに3つの軸で評価を示す書き方は、読み手がリスクの重みを比較しやすく、近年のⅠの部で増えている形式です。主な項目は次のとおりです。

リスク 発生可能性 影響度 Ⅰの部の主な記載
人口動態の変化 高 大 少子化。中期目標530店舗は人口減少を勘案して設定
児童福祉法の改正と法対応 高 低 報酬改定(原則3年ごと)、指定取消等
主力事業への収益依存 中 中 海外展開・新規事業による多角化
新規出店計画の達成 低 中 FC加盟意欲が減退した場合は直営比率が上昇
人材確保・サービス品質 低 中 採用時の実技試験、入社後20日間の研修
個人情報の保護 低 中 Pマーク、権限管理、PCログ、見守りカメラ
FC店舗の統一性の維持 低 中 今後の出店はFC中心の方針
新株予約権による希薄化 高 低 潜在株式370,800株(9.27%)
流通株式比率 低 中 上場維持基準25%の水準に近接、流動性向上の方針

審査の観点から特に問われやすいと考えられるのは、次の3点です。1つ目は出店計画の実現可能性です。年間60〜100店舗への出店ペースの加速を掲げる以上、FC加盟社の獲得見込み、出店候補地の確保、コーチの採用・育成計画との整合が問われます。2つ目はFC本部としての管理体制です。今後の出店はFC中心とする方針が示されており、加盟店のサービス品質の統一、加盟店の法令遵守、加盟店から預かる資金の管理などが論点になります。3つ目は子どもを預かる事業としての安全管理です。レッスン中の安全確保や個人情報の保護は、事故や漏えいが起きた場合の影響が大きいため、規程と運用の両面で説明できることが求められます。

加えて、創業者への依存(特定人物への依存)もリスクとして挙げられています。創業者が実質100%を保有する会社では、経営の意思決定が創業者に集中しやすいため、取締役会や監査役会が実質的に機能していることを示すことが、審査上の重要な論点となります(IPO審査の「経営管理組織」とは)。

ネイスの事例から上場準備会社が学べることは何か?

ここまでの内容を踏まえ、上場準備会社が実務に活かせるポイントを7つにまとめます。

1. 外部資本を入れない場合は、流通株式の確保を最初から設計する

創業者が株式の大半を持つ会社は、上場時の公募・売出しで流通株式を確保する必要があります。上場維持基準まで見据えて、上場後に段階的に流動性を高める計画もあわせて考えておくことが大切です。

2. 株式分割とストック・オプションは順序と株価の根拠をセットで決める

同社は大きな株式分割の翌日にストック・オプションを付与し、行使価額はDCF法による価格を勘案して決めています。分割・付与・株価算定を一連の資本政策として設計し、根拠資料を残しておくことが重要です(上場準備の資本政策)。

3. 監査役会は専門性の組み合わせで設計する

常勤には内部監査・監査役監査の実務経験者、非常勤には弁護士と公認会計士という組み合わせは、監査役会の専門性を説明しやすい構成です。

4. 内部監査は兼務と外部委託を組み合わせ、自己監査を避ける

専任部署がなくても、複数部署からの担当者と外部の専門家を組み合わせ、報告先を取締役会まで広げることで、内部監査の実効性を確保できます。

5. FC契約は履行義務ごとに収益認識を整理する

加盟料・開業支援料・ロイヤリティを区分し、それぞれの認識時点を説明できるようにしておくことが、FC本部の会計の基本です。

6. 店舗の減損ルールは出店計画の管理とセットで作る

新店の猶予期間のようなルールは、店舗ごとの計画と実績の比較が前提です。店舗別損益の管理体制を早めに整えましょう。

7. 代表者の保証と役員の近親者との取引は、早めに方針を決める

賃貸借契約の連帯保証や近親者の会社との取引は、解消または条件の妥当性の説明が必要になります。件数が多い場合ほど、早い段階から対応方針を決めておくことが重要です。

上場準備のチェックリスト

  • 上場時・上場後の流通株式比率を、公募・売出しの規模とあわせて試算しているか
  • 株式分割・ストック・オプション付与の時期と株価算定の根拠を資料として残しているか
  • 監査役会(または監査等委員会)の構成で、法律・会計・業務の専門性をそろえているか
  • 内部監査の担当者が自分の所属部署を監査しない仕組みを、規程と監査計画で明確にしているか
  • FC契約や会員契約の履行義務と収益認識の時点を、契約条項ごとに整理しているか
  • 代表者の債務保証や役員の近親者との取引を洗い出し、解消または条件の妥当性を説明できるか

よくある質問

Q1. VCから出資を受けずに上場することはできますか?

できます。ネイスのように、創業者と資産管理会社だけが株主の状態から上場した事例もあります。ただし、上場時には流通株式の基準を満たす必要があるため、公募増資や創業者による売出しで一定の株式を市場に出すことになります。上場後も上場維持基準を満たし続けるための計画が必要です。

Q2. 内部監査の専任部署がなくても上場審査は通りますか?

専任部署の設置は必須ではありません。ネイスのように、他部署の担当者の兼務と外部の専門家への業務委託を組み合わせる体制もあります。重要なのは、自己監査を避ける仕組み、年間の監査計画、指摘事項のフォローアップ、経営者・取締役会への報告が実際に運用されていることです。

Q3. FC加盟金は入金時に一括で売上にしてよいですか?

契約の内容によります。収益認識基準のもとでは、加盟金が何の対価なのか(FCの権利の付与なのか、開業支援などの個別のサービスなのか)を検討し、履行義務ごとに認識時点を判断します。ネイスは加盟料を契約期間にわたって、開業支援料を提供完了時点で認識しています。

Q4. 代表者が店舗の賃貸借契約を連帯保証している場合、上場前に解消が必要ですか?

関連当事者取引として開示の対象となり、審査では取引の必要性と条件の妥当性が確認されます。解消の要否や方法は、主幹事証券や貸主と協議しながら検討するのが一般的です。保証会社の利用など代替手段の検討には時間がかかるため、早めに着手することをおすすめします。

最初の一歩は、自社の「株主構成」と「関連当事者」の棚卸しから

上場準備を始めるときは、まず現在の株主構成と、代表者・役員・その近親者が関係する取引を一覧にしてみてください。資本政策と関連当事者取引は、どちらも後から修正するのに時間がかかる論点です。現状を正確に把握することで、監査法人や主幹事証券との最初の打ち合わせを具体的に進めることができます。

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ネイスのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

ネイスの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

ネイス株式会社のⅠの部は、創業者が実質100%を保有する状態から、VCを入れずに上場に至った資本政策の事例です。2度の株式分割、従業員向けのストック・オプション、流通株式比率に関するリスク開示など、オーナー企業の上場準備で検討すべき論点が具体的に示されています。

ガバナンスでは、監査役3名全員を社外とする監査役会設置会社を採用し、内部監査は社内の兼務担当者と外部の公認会計士を組み合わせた体制です。会計面では、FC収益の履行義務の区分、店舗減損の判定ルール、資産除去債務の見積り、新リース会計基準への対応など、多店舗型ビジネスに共通する論点がそろっています。自社の上場準備と照らし合わせながら、参考にしていただければ幸いです。上場準備の全体像はIPO準備 完全ガイドでも解説しています。

上場準備の体制づくりを相談したい方へ

ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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