LiNKXのIPO|同族役員と社外取締役の構成、有償SOと事業の切り出し【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年6月23日、LiNKX株式会社(証券コード584A)が東京証券取引所グロース市場に上場しました。金融機関をはじめとする「ミッション・クリティカル・システム」のモダン化を、クラウドネイティブとAIの技術で支援する会社です。本記事では、同社が上場にあたって提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできる論点を整理します。

結論からいえば、LiNKXのⅠの部は「創業者が大株主であるオーナー企業が、社外役員の数・機関設計・内部監査の方法をどう組み立て、少数株主保護をどう説明しているか」を学ぶのに適した事例です。あわせて、有償ストック・オプションの継続的な活用、上場前の事業の切り出し(新設分割と株式の現物配当)、提携先への第三者割当といった資本政策の具体例も確認できます。

この記事の論点を自社と比べられる「LiNKXのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

LiNKXはどんな会社で、どの市場に上場したのか?

まずは基本情報を確認しておきましょう。LiNKXは2020年7月に「リンクス株式会社」として東京都港区に設立され、2025年11月に現在の社名に変更しています。本店所在地は東京都港区赤坂です。決算期は6月30日で、2025年6月期が第5期、上場申請を行った期が第6期にあたります。

Ⅰの部では「東京証券取引所グロース市場への上場を予定」と記載されています。代表者は代表取締役社長CEOのオサムニア・モハメッド氏で、代表取締役会長の小西享氏との二代表制をとっています。子会社はなく、連結財務諸表は作成していません。

項目 内容
社名 LiNKX株式会社(英訳名 LiNKX, Inc.)。2025年11月にリンクス株式会社から社名変更
上場日・市場 2026年6月23日・東京証券取引所グロース市場
設立 2020年7月(東京都港区)
本店所在地 東京都港区赤坂一丁目
決算期 6月30日(申請期は第6期)
事業 システムモダナイゼーション事業(単一セグメント)
従業員数 109名(2026年4月30日現在、単体)、平均年齢34.5歳、平均勤続年数1.9年
代表者 代表取締役社長CEO オサムニア・モハメッド、代表取締役会長 小西 享
機関設計 監査役会設置会社(2024年8月に移行)
会計監査人 ESネクスト有限責任監査法人
連結 子会社なし(単体のみ)。関連会社として株式会社アラヤ(議決権20.53%)

従業員数は第1期の38名から第5期には87名へ、さらに2026年4月末には109名へと増えています。外国人従業員比率は約40%で、世界20ヵ国以上から採用していること、全従業員の8割超がソフトウェアエンジニアでその半数以上が海外出身であることが記載されています。人材構成そのものが事業の特徴になっている会社だといえます。

女性活躍に関する指標も開示されており、管理職に占める女性の割合は14.3%、男性の育児休業取得率は83.3%です。上場準備会社では、こうした人的資本に関する数値を早めに集計できるようにしておくと、開示書類の作成がスムーズになります。

上場準備の全体像を先に押さえておきたい方は、IPO準備の全体像(N-3期〜N期)もあわせてご覧ください。

自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします

IPO支援:ショートレビュー、資本政策、内部管理体制、Ⅰの部の作成、審査対応まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
IPO支援の内容を見る / 相談内容を送る

何で稼ぐ会社なのか?事業内容と収益モデル

LiNKXはビジョンとして「テクノロジーで、高度生産性社会のその先へ」を掲げ、金融をはじめとするミッション・クリティカル・システムのモダン化(システムモダナイゼーション)を支援しています。セグメントはシステムモダナイゼーション事業の単一セグメントです。

重点領域として、金融機関向けの①APIゲートウェイシステム開発支援、②データ基盤システム開発支援、③勘定系システム開発支援、④その他(インターネットバンキング、電子マネーアプリ、非金融領域)が挙げられています。事例として、みんなの銀行のBaaS開発支援、SU-PAYの決済システム開発支援、北國銀行の次世代勘定系システム開発パートナーなどが記載されています。勘定系では大手SIerと連携し、難易度の高い機能を中心に分担する体制です。

プロジェクトはどう進み、どう収益になるのか?

Ⅰの部では、プロジェクトの流れが「DXコンサル(3ヶ月程度)→PoC(3〜6ヶ月)→本開発(5〜15名、最低6ヶ月〜数年)→保守・運用」と説明されています。収益構造は、DXコンサル・PoC・システム開発支援によるフロー型収入(主に準委任契約)が97.9%、保守・運用や自社ソリューション・他社サービスのライセンスによるストック型収入が2.1%です(2025年6月期)。

LiNKXの事業モデル(プロジェクトの流れと収益構造)DXコンサル3ヶ月程度PoC3〜6ヶ月本開発5〜15名6ヶ月〜数年保守・運用フロー型収入 97.9%DXコンサル・PoC・システム開発支援(主に準委任)ストック型収入 2.1%保守・運用・ライセンス主な販売先:北國銀行、SU-PAY、ゼロバンク・デザインファクトリー、第一三共 など

図1 プロジェクトはDXコンサルからPoC、本開発、保守・運用へと進む流れ。収益の大半はフロー型(2025年6月期)。Ⅰの部をもとに作成

自社サービスとしては、AIでレガシーシステムをモダン化する「AXcelerator」、銀行向けのAPIゲートウェイ接続「BX Connect」、研究開発分野向けの「LabHub」、視覚障がい者向けナビ「shikAI」が紹介されています。また、要件定義から保守・運用まで開発の全工程でAI駆動開発を実践していると記載されています。

なお、他社のクラウドサービスやSaaSの利用料については、ライセンス販売によるマージン分のみを収益として認識する(純額表示)と記載されています。これは会計・開示の論点でもあるので、後ほど詳しく触れます。

主要な顧客とKPIは?

主要販売先は、2025年6月期で株式会社北國銀行が679,781千円(49.5%)、株式会社SU-PAYが303,202千円(22.1%)、ゼロバンク・デザインファクトリー株式会社が125,597千円(9.1%)、第一三共株式会社が112,000千円(8.2%)です。上位2社で71.6%を占め、金融領域のプロジェクト比率は87.7%、金融機関向け取引は65.6%とされています。

主要販売先の売上高比率(2025年6月期)株式会社北國銀行49.5%株式会社SU-PAY22.1%ゼロバンク・デザインF9.1%第一三共株式会社8.2%

図2 上位2社で71.6%。第6期第3四半期累計では北國銀行の比率が53.9%。Ⅰの部「主要な販売先」をもとに作成

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、営業キャッシュ・フローの拡充、営業利益率、期末手元流動性比率、ハイエンド・エンジニア数、1名あたり年間平均売上高が挙げられています。「ハイエンド・エンジニア」は、独自のコーディングテスト等の採用選考を通過して顧客プロジェクトにアサインされる稼働対象人員(エンジニアとソリューション・コンサルタント)と定義されています。

指標 2024年6月期 2025年6月期
営業利益率 16.7% 24.5%
手元流動性比率 12.6ヶ月 11.7ヶ月
ハイエンド・エンジニア数 45人 72人
1名あたり年間平均売上高 2,357万円 2,294万円

ハイエンド・エンジニア数は2026年3月末に86名となっています。人材がそのまま売上の源泉となる受託・準委任型のビジネスでは、「稼働人員数×1人あたり売上高」という分解でKPIを示すと、事業計画の根拠が説明しやすくなります。KPIの定義(誰を数えるのか、分母は期中平均か期末か)を文章で明確に書いている点は、上場準備会社にとって参考になります。

ハイエンド・エンジニア数の推移02550751002024年6月期2025年6月期2026年3月末45人72人86人

図3 稼働対象人員(エンジニアとソリューション・コンサルタント)の人数。Ⅰの部をもとに作成

実務上のポイント:KPIは、上場審査で事業計画の合理性を説明する際の土台になります。定義が曖昧だと、期ごとの数字の比較ができず、引受審査や取引所審査で質問が重なる原因になります。KPIの定義・集計方法・集計責任者を、N-2期頃までに社内で文書化しておくことをおすすめします。詳しくはIPO審査の「事業計画の合理性」で解説しています。

どのような道のりで上場に至ったのか?沿革を読む

LiNKXの出発点は、2019年にプログレス・テクノロジーズ株式会社(製造業向けの設計開発ソリューションを提供する会社)の新規事業としてスタートしたことです。2020年7月にリンクス株式会社を設立し、同年9月にプログレス・テクノロジーズからシステムモダナイゼーション事業とラボオートメーション事業を分割により継承しました(スピンアウト)。設立の中心メンバーは、現取締役の小西祐一氏、現代表取締役会長の小西享氏、現社長CEOのオサムニア・モハメッド氏、現CTOのベイレリャン・アンソニー氏らで、同社から従業員が転籍しています。

その後、2021年8月にみんなの銀行のスマホアプリのレコード機能を共同開発、2022年9月に同行の「BaaSプラットフォーム」を共同開発し、2022年12月には北國銀行との取引を開始してシステム開発の内製化支援を始めています。

2023年11月には、ラボオートメーション事業を新設分割してトーチ株式会社へ継承しました。沿革では、これを「選択と集中」と位置づけています。2024年4月には北國フィナンシャルホールディングス(現 CCIグループ)と資本業務提携を結び、次世代勘定系システムの開発パートナーとなりました。2025年1月にはこの提携を強化し、2025年4月にはふくおかフィナンシャルグループとも資本業務提携を結んでいます。さらに、2025年5月に日本テラデータ株式会社と戦略的パートナーシップ、2026年5月にキンドリルジャパン株式会社とAIパートナーシップ協定を締結しています。

沿革(設立から上場まで)2019年プログレス社の新規事業2020年7月リンクス株式会社設立2020年9月事業を分割継承2022年12月北國銀行と取引開始2023年11月ラボオートメ事業を新設分割2024年4月北國FHDと資本業務提携2024年8月監査役会設置会社へ2025年4月ふくおかFGと資本業務提携2025年11月LiNKXへ社名変更2026年6月東証グロース上場

図4 プログレス・テクノロジーズの新規事業から独立し、事業の選択と集中、資本業務提携を経て上場へ。Ⅰの部の沿革をもとに作成

沿革の年表には載っていないものの、上場準備の観点で重要な出来事もあります。2024年8月の監査役会設置会社への移行、2026年3月1日の1:100の株式分割、2026年4月の本社オフィス移転です。

沿革から読み取れる上場準備のポイントは?

親会社や関係会社の新規事業から独立した会社は、上場審査で「事業の継続性」や「旧所属会社との関係」を説明する場面が出てきます。LiNKXの場合、プログレス・テクノロジーズは親会社ではなく、Ⅰの部では金融商品取引法上の親会社等はないと記載されています。それでも、事業の継承の経緯、転籍した従業員、継承した資産(関連会社株式など)について、時系列で整理して説明できるようにしておくことが大切です。

また、上場前に事業を切り出す(あるいは取り込む)組織再編は、比較可能性の観点から財務数値の見え方にも影響します。LiNKXの第4期(2024年6月期)にはラボオートメーション事業の売上高と損益が含まれており、第5期以降は単一セグメントになっています。期間比較をする読者のために、Ⅰの部ではセグメント情報や収益の分解情報でこの違いを確認できるようになっています。

親会社等との関係が論点になるケースについては、IPO審査の「親会社等からの独立性」や親会社がある状態で上場できるのかで詳しく解説しています。

業績はどう推移してきたのか?数字の読み方

Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」によると、売上高は第1期の297,652千円から第5期の1,373,673千円まで、5期連続で増加しています。経常利益は第1期・第2期が赤字で、第3期(2023年6月期)から黒字に転じています。

回次 売上高 経常利益 当期純利益 純資産額 従業員数
第1期(2021年6月期) 297,652 △96,830 △97,096 1,141,677 38名
第2期(2022年6月期) 537,154 △20,281 △255,593 885,960 38名
第3期(2023年6月期) 672,391 56,236 76,656 958,864 41名
第4期(2024年6月期) 827,152 137,699 87,280 884,932 53名
第5期(2025年6月期) 1,373,673 336,366 227,612 1,292,750 87名

(単位:千円。第1〜3期は会社計算規則に基づく数値で、上場規程に基づく監査を受けていません。第4期・第5期はESネクスト有限責任監査法人の監査を受けています)

業績の推移(単体)売上高(百万円)経常利益(百万円)04008001,2001,6002021/62022/62023/62024/62025/6-15001503004502021/62022/62023/62024/62025/62985376728271374△97△2056138336

図5 売上高は5期連続で増加し、経常利益は第3期(2023年6月期)から黒字。第1〜3期は上場規程に基づく監査を受けていない数値。Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」をもとに作成

第1期・第2期の損失の理由として、設立直後で受注案件が少なく、エンジニアの稼働率が低く外注比率が高かったことが説明されています。また、第2期の当期純損失には、2022年6月期に計上した投資有価証券評価損235,452千円(特別損失)が含まれています。このほか、第1期から第4期までは関連会社である株式会社アラヤの当期純損失による持分法投資損失が生じていたことも、参考情報として記載されています。

第5期の売上高は前期比66.1%増、営業利益は336,380千円(同143.5%増)、当期純利益は227,612千円(同160.8%増)です。次世代勘定系システムや決済システムの開発支援など、金融領域の案件拡大が要因とされています。売上原価は人件費の増加により691,576千円(50.9%増)、販管費は役員報酬・人件費の増加により345,716千円(49.9%増)でした。売上原価明細を見ると、労務費が565,598千円(81.8%)を占め、外注費は104,841千円です。

第5期(2025年6月期)の売上高から営業利益まで(千円)売上高1,373,673売上原価-691,576販管費-345,716営業利益336,380

図6 売上原価は人件費の増加、販管費は役員報酬・人件費の増加が主因。Ⅰの部をもとに作成

直近期(第6期)の状況は?

項目 第6期中間(2025/7〜12) 第6期第3四半期累計(2025/7〜2026/3)
売上高 887,743 1,386,649
売上総利益 435,237 696,023
営業利益 248,953 383,772
経常利益 248,700 382,894
純利益 154,954 238,667
純資産 1,447,628 1,531,169

(単位:千円)第6期の第3四半期累計で、売上高はすでに第5期の通期を上回っています。中間財務諸表・四半期財務諸表はいずれも監査法人のレビューを受けています。なお、第3四半期累計の営業外費用には、グロース市場の上場審査料が含まれていると記載されています。

グロース市場の「成長可能性」とどうつながるのか?

グロース市場は、高い成長可能性を有する企業向けの市場です。上場後も「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が求められます。LiNKXのⅠの部では、短期・中期・長期の経営戦略として、短期は金融機関向け開発支援とAI開発ノウハウの蓄積、中期はAIモダナイゼーションサービス・保守運用・自社ソリューション、長期は製造・ヘルスケア・物流・小売・公共などへの横展開を挙げています。具体策としては、①フロー型収入の安定と拡大、②ストック型収入の拡大、③開発体制強化とAI活用による生産性向上が示されています。

経営環境の説明では、IPA「DX動向2025」や金融庁のレポートを引用し、国内銀行のシステム経費の規模や地域銀行の勘定系のオープン化の見通しなど、市場の背景を公的資料で示しています。事業計画の前提を客観的な外部資料で裏づけるやり方は、上場準備会社でも取り入れやすい工夫です。

実務上のポイント:赤字期間がある会社でも、赤字の理由(立ち上げ期の稼働率、外注比率、一時的な特別損失など)を具体的に説明し、その後の改善が数字で確認できれば、審査上の説明はしやすくなります。逆に、理由を整理しないまま申請期を迎えると、主幹事証券の引受審査で何度も質問を受けることになります。グロース市場の「高い成長可能性」とは、IPO審査の「企業の継続性及び収益性」もご参照ください。

資本政策と株主構成はどうなっているのか?

ここからは、上場準備会社にとって特に関心の高い資本政策を見ていきます。LiNKXの資本政策は、ベンチャーキャピタルの名前は株主に見当たらず、創業者が大半の株式を持ったまま、事業上の提携先からの出資と、従業員向けの有償ストック・オプションを組み合わせてきた点に特徴があります。

株主構成はどうなっているか?

2026年4月30日現在の発行済株式総数は6,598,300株(普通株式のみ)で、株主数は6名です。種類株式の記載はなく、普通株式だけで資本政策を組み立ててきたことがわかります。第四部「株主の状況」の大株主の一覧(潜在株式を含む)では、取締役の小西祐一氏が5,323,000株(74.50%)、代表取締役会長の小西享氏が556,000株(7.78%)、代表取締役社長のオサムニア・モハメッド氏が418,000株(うち潜在株式68,000株、5.85%)、QR2号ファンド投資事業有限責任組合が215,000株(3.01%)、株式会社福岡銀行が54,300株(0.76%)などとなっています。

大株主の所有割合(潜在株式を含む)小西 祐一(取締役)74.50%小西 享(代表取締役会長)7.78%オサムニア・モハメッド(社長)5.85%QR2号ファンド3.01%ベイレリャン・アンソニー1.40%株式会社福岡銀行0.76%

図7 創業者である取締役の割合が最も大きい(発行済株式総数に対しては80.7%)。第四部「株主の状況」をもとに作成

事業等のリスクでは、取締役小西祐一氏の所有株式が発行済株式総数の80.7%にあたること、同氏を創業者であり安定株主と認識していることが記載されています。また、上場時の流通株式比率は25.1%にとどまる見込みであり、株式の流動性に関するリスクとして開示されています。

グロース市場の上場審査基準では、流通株式比率は25%以上とされています。流通株式からは、役員やその親族、10%以上を所有する大株主などが保有する株式が除かれるため、オーナー比率の高い会社では、公募・売出しの規模を設計する段階で流通株式比率の見込みを早めに計算しておく必要があります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方、流通株式数の数え方で解説しています。

第三者割当はいつ、誰に、いくらで行われたのか?

発行済株式総数・資本金の推移と第三者割当等の概況によると、上場前の株式による資金調達は次の3回です(株式数・価格は株式分割後の換算)。

発行日 株式数 発行価格 総額 割当先
2024年4月5日 77,000株 650円 50,050,000円 QR2号ファンド投資事業有限責任組合
2025年1月31日 138,000株 920円 126,960,000円 QR2号ファンド投資事業有限責任組合
2025年4月25日 54,300株 920円 49,956,000円 株式会社福岡銀行

QR2号ファンドは、株式会社QRインベストメント(石川県金沢市)を無限責任組合員とする投資事業有限責任組合で、資本業務提携先が出資するファンドと説明されています。株式会社福岡銀行は資本業務提携先の子会社です。いずれも、沿革に出てくる資本業務提携と時期が対応しています。発行価格は、DCF法により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。

このうち2025年1月と4月の割当てについては、上場日以後6ヶ月間(割当日以後1年を経過していない場合は1年間)を経過する日まで所有を継続する旨の確約が取られています(有価証券上場規程施行規則第268条)。上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日以後に第三者割当を行う場合は、この継続所有の確約がセットになると考えておきましょう。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。

創業者から経営陣への株式移動はどう説明されているか?

特別利害関係者等の株式等の移動状況には、2024年6月20日に小西祐一氏から3名への株式の譲渡が記載されています。代表取締役の小西享氏とオサムニア・モハメッド氏にそれぞれ350,000株、従業員のベイレリャン・アンソニー氏に90,000株で、単価はいずれも194.65円(分割後換算)です。移動理由は「2020年12月18日締結の株式譲渡予約権付与契約に基づく権利行使」とされ、価格はDCF法により算出した価格を総合的に勘案し、譲渡人・譲受人が協議して決定したと記載されています。

創業者が経営陣に株式を渡す方法として、あらかじめ「株式譲渡予約権」の契約を結んでおき、一定の時期に約定の価格で譲渡するという設計です。上場準備会社では、同じ時期の株式の移動価格と第三者割当の価格に差がある場合、その理由を説明できるようにしておくことが大切です。この事例のように、価格を決めた時点(契約締結時)と算定方法を明確に記録しておくことが、審査対応の基本になります。株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで整理しています。

株式分割と単元株はいつ整えたか?

2026年2月13日の取締役会決議により、2026年3月1日付で1株を100株に分割し、発行済株式総数は65,983株から6,598,300株になりました。あわせて2026年2月25日に単元株式数を100株とする単元株制度を採用しています。上場時の投資単位を適切な水準にするための、典型的な上場直前の手続です。

資本政策の主な出来事2020〜22年SO第1〜3回(有償)2023年11月新設分割・現物配当2023年12月SO第4回(有償)2024年4月第三者割当650円2024年6月創業者から役員らへ譲渡2024年12月SO第5回(有償)2025年1・4月第三者割当920円2026年3月株式分割1:1002026年4月SO第6回(公開価格)2026年6月東証グロース上場

図8 有償ストック・オプションの継続的な発行、事業の切り出し、提携先への第三者割当、株式分割を経て上場。価格は株式分割後の換算。Ⅰの部をもとに作成

ストック・オプションはどう設計されているか?

LiNKXは、第1回から第6回まで新株予約権(ストック・オプション)を発行しています。第1回から第5回はいずれも有償で発行され、公正な評価はモンテカルロ・シミュレーションで行われています。有償発行のストック・オプションも実務対応報告第36号に基づきストック・オプションに準じて会計処理されますが、LiNKXでは費用計上額は「該当事項はありません」とされています。

行使条件には、上場等を条件とすることに加え、割当日以降に行使価額を下回る価格での株式の発行・取引や、上場後の終値が行使価額を下回った場合などには行使できなくなるという条項が共通して設けられています。権利行使時に在籍していることも条件とされ、相続は認められていません。

ストック・オプション(新株予約権)の各回の状況回付与日当初付与株式数現在の目的株式数行使価額第1回2020/12/18229,500株16,500株195円第2回2021/12/1796,000株35,000株200円第3回2022/12/16187,000株56,000株200円第4回2023/12/8293,500株231,500株650円第5回2024/12/6222,000株4,500株920円第6回2026/4/24203,000株203,000株公開価格

図9 第1〜5回はいずれも有償発行。株式数・行使価額は2026年3月の株式分割(1:100)後の換算、現在は2026年4月30日時点。Ⅰの部をもとに作成

各回の状況を見ると、当初付与株式数(分割後換算)は第1回229,500株、第2回96,000株、第3回187,000株、第4回293,500株、第5回222,000株でした。一方、2026年4月30日現在の目的株式数は、第1回16,500株、第2回35,000株、第3回56,000株、第4回231,500株、第5回4,500株です。第5回については、従業員36名の退職による権利の喪失と権利放棄により222,000株から4,500株になったと記載されています。

第4回については、会社が従業員1名から職位変更に伴い本人の合意を得て40,800株分の新株予約権を取得し(2024年12月13日)、そのうち15,000株分と3,000株分を別の従業員に処分し、残りの22,800株分を消却したことが記載されています。

さらに、申請直前の2026年4月23日の臨時株主総会で、従業員28名を対象とする第6回新株予約権(203,000株)の発行を決議しています。行使価額は公開価格とされています。この結果、潜在株式の合計は546,500株となり、発行済株式総数6,598,300株の8.3%にあたります。

実務上のポイント:ストック・オプションは、発行時の設計だけでなく、退職や職位変更があったときの「失効・放棄・取得・再配分」の管理が欠かせません。行使条件・失効事由・会社による取得条項を、発行要項と割当契約で明確にしておき、新株予約権原簿を常に最新にしておくことが上場準備の基本です。有償ストック・オプションも実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じて会計処理するため、条件によっては費用計上が生じうるほか、評価の前提や行使条件の内容を注記で説明する必要があります。税制適格ストック・オプションとの比較は税制適格ストックオプション、注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例をご参照ください。

自己株式と事業の切り出しはどう処理されたか?

2024年6月期の期首には710株(分割前)の自己株式を保有していましたが、2023年10月18日に消却しており、現在は保有していません。

また、2023年11月1日付でラボオートメーション事業を新設分割してトーチ株式会社に承継させ、新設会社の株式(63,290株)を当社の株主に配当しています。この配当は株式の現物配当で、配当財産の帳簿価額は213,598千円、その他資本剰余金を原資としています。共通支配下の取引等として処理され、移転した資産は231,984千円(うち流動資産219,703千円)、負債は18,385千円です。キャッシュ・フロー計算書には「会社分割に伴う現金及び現金同等物の減少額」として200,000千円が表示されています。

ラボオートメーション事業の切り出しLiNKX(分割会社)トーチ株式会社(新設会社)LiNKXの株主新設会社株式63,290株配当財産の帳簿価額 213,598千円(その他資本剰余金を原資)共通支配下の取引等として処理事業を承継(新設分割)現物配当

図10 新設分割と株式の現物配当による事業の切り出し(2023年11月1日)。Ⅰの部をもとに作成

上場前に、上場会社として継続しない事業を切り出す手法の一例です。分割の対価として受け取った株式を株主に配当すると、分割後の会社の株主構成と、分割会社の株主構成が一致します。上場準備会社がこうした組織再編を行う場合は、会計処理(共通支配下の取引)と税務(適格要件)の検討に加えて、分割先との取引関係や役員兼務の整理も同時に進めることが大切です。資本政策の全体設計については上場準備の資本政策もご覧ください。

コーポレート・ガバナンスはどう組み立てられているのか?

LiNKXは監査役会設置会社です。Ⅰの部によると、2024年8月に監査役会設置会社へ移行しており、それ以前の2024年7月は「監査役協議会」として活動していました。監査役3名(石上裕史氏、前田晴美氏、村岡竜介氏)はいずれも2024年6月に監査役に就任しています。上場申請の2期前にあたる時期に、機関設計を上場会社仕様に整えたことがわかります。

機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会(5名)うち社外取締役2名監査役会(3名)全員社外・常勤1名代表取締役(2名)社長CEO・会長内部監査室(2名)代表取締役社長直轄経営会議(原則隔週)リスク・コンプライアンス委員会会計監査人ESネクスト有限責任監査法人選任選任監査選定・監督指示連携三様監査

図11 取締役会5名(うち社外2名)、監査役会3名(全員社外)、社長直轄の内部監査室(2名)、会計監査人の体制。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成

機関 構成・運営
取締役会 5名(うち社外取締役2名)。毎月1回の定時開催+臨時開催。監査役3名も出席
監査役会 3名(全員社外、常勤1名・非常勤2名)。毎月1回+臨時開催
経営会議 常勤取締役3名・執行役員2名・グループ長5名の10名。常勤監査役がオブザーバー。原則隔週
リスク・コンプライアンス委員会 経営会議と同じ10名。委員長は代表取締役社長。常勤監査役・内部監査室長がオブザーバー。原則3ヶ月に1回
内部監査室 代表取締役社長直轄、2名
執行役員 2名(COO デジタル部長、CFO コーポレート部長)

最近事業年度の取締役会の出席状況も開示されています。常勤取締役3名と社外取締役の中尾隆一郎氏、監査役3名は15回中15回、2024年9月に就任した社外取締役の柏木彩氏は就任後11回中10回の出席で、欠席の1回は他社の取締役会と重なったためと記載されています。出席状況とともに欠席理由まで書いておくと、社外役員の関与度を説明しやすくなります。

同族の取締役がいる場合、社外取締役は何人置くのか?

LiNKXのガバナンスの説明で特徴的なのは、同族関係にある取締役への対応です。取締役の小西祐一氏は代表取締役会長の小西享氏の兄で、常勤取締役3名のうち2名が同族関係にあたります。Ⅰの部では、常勤取締役のうち2名が同族であることから、同数の社外取締役2名を選任し、少数株主の保護を図っていると説明されています。

同族の常勤取締役と社外取締役の人数小西 享代表取締役会長小西 祐一取締役オサムニア・モハメッド代表取締役社長CEO中尾 隆一郎社外取締役柏木 彩社外取締役同族関係(兄弟)の常勤取締役 2名社外取締役 2名同族の常勤取締役と同数の社外取締役を置き、少数株主の保護を図る同数を選任

図12 取締役会5名の構成。同族の常勤取締役2名に対し社外取締役2名を選任(Ⅰの部をもとに作成)

上場審査では、特定の者が経営を支配することによって会社の利益が損なわれないか、牽制が働く体制かどうかが確認されます。同族の役員がいること自体が問題になるわけではありませんが、その場合に「どのような牽制の仕組みを置いているのか」を数と役割の両面から説明できることが重要です。LiNKXの説明は、同族役員の人数と社外取締役の人数を対応させるという、わかりやすい考え方を示しています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで解説しています。

二代表制はどう説明されているか?

LiNKXは代表取締役が2名の二代表制をとっています。Ⅰの部では、外国籍の社長を補完する目的で、コーポレート部門の知見を有する小西享氏を代表取締役会長としていると説明されています。常勤取締役の役割分担として、社長は全社を管掌し、会長は助言・監督と社長不在時の意思決定、取締役の小西祐一氏は経営戦略に関する助言と両代表不在時の意思決定を担うと記載されています。

二代表制と常勤取締役の役割分担役職役割代表取締役社長CEO全社を管掌代表取締役会長助言・監督、社長不在時の意思決定取締役(小西 祐一氏)経営戦略に関する助言、両代表不在時の意思決定二代表制の目的:外国籍の社長を、コーポレート部門の知見を持つ会長が補完

図13 常勤取締役3名の役割分担(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成)

代表取締役が複数いる場合、審査では「誰が最終的に意思決定するのか」「権限の重複や空白がないか」が確認されます。役割分担を職務権限規程や業務分掌規程に落とし込み、Ⅰの部でも文章で説明できるようにしておくことが大切です。

社外役員の構成と経歴は?

役員は男性6名・女性2名で、女性比率は25%です。社外取締役は、リクルートグループの経営者などの経歴を持つ中尾隆一郎氏と、マネーフォワードの広報部長などを経験した柏木彩氏の2名です。中尾氏は2020年7月から当社の監査役を務め、2024年6月に取締役に就任しています。社外監査役は、税理士でソニー銀行の経理部長などを務めた常勤の石上裕史氏、事業会社の管理部門や複数社の監査役を経験した前田晴美氏、税理士の村岡竜介氏の3名です。

社外役員の独立性については、独自の基準は特段定めておらず、会社法の社外要件と東京証券取引所の独立役員の基準を参考にしていると記載されています。監査役のうち2名が税理士であり、財務・会計の知見を持つ監査役が複数いる構成です。監査役の会計知識については監査役に会計の知識は必要か、常勤監査役の要否については常勤監査役は必要かで解説しています。

役員報酬はどう決めているか?

役員報酬は、株主総会で総額を決めたうえで、取締役の個別報酬はコーポレート部が報酬案を作成し、社外取締役・社外監査役の客観的な意見を踏まえ、コーポレート部長が各取締役と協議したうえで代表取締役社長が決定する流れです。監査役の報酬は監査役の協議で決めます。報酬限度額は、取締役が年額100,000千円以内、監査役が年額13,200千円以内です。

取締役の個別報酬の決定の流れ株主総会で総額を決定コーポレート部が報酬案を作成社外取締役・社外監査役の意見を踏まえるコーポレート部長が各取締役と協議代表取締役社長が決定限度額:取締役 年額100,000千円以内、監査役 年額13,200千円以内監査役の報酬は監査役の協議で決定

図14 取締役の個別報酬の決定手続(Ⅰの部の記載をもとに作成)

最近事業年度(2025年6月期)の報酬は、社外役員を除く取締役3名が38,600千円、社外役員5名が14,800千円で、いずれも固定報酬のみです。業績連動報酬、退職慰労金、非金銭報酬はありません。任意の指名委員会・報酬委員会についての記載は見当たりませんが、社外役員の意見を決定プロセスに組み込んでいることが文章で示されています。

関連当事者取引はどう開示されているか?

関連当事者との取引は、2024年6月期が「記載すべき重要な取引はありません」、2025年6月期が「該当事項はありません」とされています。代表取締役会長と取締役の小西兄弟は、ラボオートメーション事業の承継先であるトーチ株式会社の取締役を兼務していることが役員の経歴に記載されています。

実務上のポイント:上場準備では、役員が兼務する会社や、役員・大株主の近親者が関係する会社との取引を洗い出し、取引の必要性と条件の妥当性を確認する手続が欠かせません。取引がない場合でも、「調査した結果、該当がない」と言えるだけの記録(役員へのアンケート、取引先マスタとの照合など)を残しておくことが重要です。詳しくはIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)と関連当事者との取引の注記の記載例をご覧ください。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る

内部監査・内部統制はどう運用されているのか?

次に、内部監査と内部統制の体制を見ていきます。LiNKXの内部監査は、代表取締役社長直轄の内部監査室が担当しており、人員は2名です。社員100名前後の会社で内部監査を専任者だけで回すのは難しく、多くの上場準備会社が「兼務者を含む少人数の内部監査」をどう設計するかで悩みます。LiNKXのⅠの部は、この点について具体的な工夫を示しています。

兼務者がいる場合、自己監査はどう避けるのか?

Ⅰの部によると、内部監査は、内部監査担当者が兼務する部門を除く部門を対象に実施されます。そのうえで、自己監査を避けるために、デジタル部は内部監査室長が監査し、コーポレート部はデジタル部長が監査するという、いわゆるクロス監査の体制をとっています。

内部監査のクロス監査(自己監査の回避)内部監査室長デジタル部デジタル部長(内部監査を担当)コーポレート部兼務部門は別の担当者が監査報告先:社長・取締役会・監査役会・経営会議・リスク・コンプライアンス委員会監査監査

図15 内部監査担当者が兼務する部門は、別の担当者が監査する。結果は社長・取締役会・監査役会などへ報告。Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成

内部監査の結果は、代表取締役社長、取締役会、監査役会、経営会議、リスク・コンプライアンス委員会に報告されます。改善が必要な事項については、代表取締役社長名で改善通知を出し、その後の改善状況をフォローアップする流れです。

内部監査の独立性を保つ基本は、「自分が担当する業務を自分で監査しない」ことです。専任の内部監査人を置けない段階では、兼務者の所属部門を別の担当者が監査する、外部の専門家に一部を委託する、といった方法で自己監査を避けるのが一般的です。どの部門を誰が監査するのかを内部監査規程や年間監査計画に明記しておくと、審査の場でも説明がしやすくなります。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と内部監査の人数と体制をご覧ください。

報告先を複数にしている意味は?

内部監査の報告先が社長だけになっていると、社長自身が関わる領域の問題が取締役会や監査役に伝わりにくくなります。LiNKXのように、社長に加えて取締役会や監査役会にも報告する体制にしておくと、内部監査の結果がガバナンスの仕組みの中で共有されます。報告先の考え方については内部監査の報告先は社長だけでよいのかで詳しく解説しています。

三様監査はどう連携しているか?

監査役監査は、常勤1名・非常勤2名の計3名(全員社外)で行われています。監査役の活動として、重要な会議への出席、文書・情報管理の監査、役職員へのインタビュー、往査が挙げられ、三様監査の中心的な役割を担うと記載されています。内部監査室・監査役・会計監査人の三者は、定期的に意見交換を行っています。

監査役会設置会社への移行後の最初の事業年度では、監査役協議会が1回、監査役会が13回開催され、3名とも全回に出席しています。三様監査の連携の実務は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)と監査役監査と内部監査の連携で解説しています。

リスク管理・コンプライアンス・内部通報の体制は?

リスク管理は「リスク・コンプライアンス管理規程」に基づき、代表取締役社長を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会が担っています。委員会は経営会議と同じ10名で構成され、常勤監査役と内部監査室長がオブザーバーとして参加し、原則として3ヶ月に1回開催されます。重大な事案が生じた場合には、社長の指揮下で対策本部を設置する方針が内部統制システムの基本方針に記載されています。

内部統制システムの基本方針は10項目からなり、法令遵守体制、情報の保存(文書管理規程)、損失の危険の管理、職務執行の効率性、監査役の補助使用人、監査役への報告体制、監査費用、財務報告の信頼性、反社会的勢力の排除(反社会的勢力対応規程)などが定められています。財務報告の信頼性については、内部監査室がリスク評価を行うとされています。

内部通報については、社内の内部通報窓口とハラスメント相談窓口に加えて、外部の独立した弁護士を窓口とする通報・相談窓口が設けられています。社外の窓口を置くことで、社内の上司や管理部門に相談しにくい内容でも通報できるようになります。詳しくは内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかをご覧ください。

情報管理の面では、情報セキュリティ規程と個人情報適正管理規程を定め、ISMS認証を取得していることが記載されています。金融機関の基幹システムに関わる事業であることを考えると、情報管理体制は事業の前提条件ともいえます。子会社はないため、子会社管理に関する記載はありません。

実務上のポイント:上場審査では、規程が「ある」ことよりも、規程どおりに「運用されている」ことが確認されます。委員会の議事録、内部監査の計画・報告書・改善報告、内部通報の受付記録など、運用の証跡を最低でも1年分は揃えておくことを目標にしましょう。IPO審査の「社内規程」、内部監査の始め方もあわせてご覧ください。

会計・開示ではどんな論点があるのか?

収益認識はどう記載されているか?

LiNKXの主な収益は、システム開発サービスと保守サービスです。業務委託契約または保守契約に基づいて役務を提供する履行義務があり、主に準委任契約であることから、一定の期間にわたり履行義務を充足するものとして、契約期間の役務提供に応じて収益を認識しています。前事業年度まであったラボオートメーションサービスは請負契約で、進捗に応じて充足し、総原価を合理的に見積もれる場合は原価比例法によっていました。

区分 2025年6月期 2026年6月期中間
準委任契約に係るサービス 1,354,471 874,830
請負契約に係るサービス 6,920 5,850
その他 12,281 7,062
合計 1,373,673 887,743

(単位:千円)2024年6月期は、システムモダナイゼーション事業で準委任756,871千円・請負9,148千円・その他12,060千円、ラボオートメーション事業で準委任14,799千円・請負34,272千円と、事業ごとに分解して開示されています。事業の切り出し後は、売上の大半が準委任契約によるものになっています。

また、他社のクラウドサービスやSaaSの利用料は、ライセンス販売によるマージン分のみを収益として認識しています。これは、収益認識会計基準の「本人か代理人か」の判断に基づき、純額で表示するものです。他社製品を扱う会社では、総額表示か純額表示かで売上高の見え方が大きく変わるため、判断の根拠を整理しておく必要があります。収益認識の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。

「重要な会計上の見積り」はどう開示されているか?

財務諸表の注記「重要な会計上の見積り」は、前事業年度・当事業年度とも「該当事項はありません」とされています。準委任契約中心で期間にわたり収益を認識するモデルであり、のれんや多額の固定資産、退職給付債務もないことから、見積りの要素が比較的少ない財務構造であることがうかがえます。貸倒引当金も、貸倒実績や貸倒懸念債権がないため計上されていません。

一方で、上場準備会社が「該当なし」とする場合でも、監査法人とは「なぜ重要な見積りがないと判断したのか」を議論しておく必要があります。請負契約の原価比例法、繰延税金資産の回収可能性、固定資産の減損などは、事業内容によっては重要な見積りになり得る項目です。

税金の注記からは何が読み取れるか?

税効果会計の注記では、法定実効税率と税負担率の差異の内訳として、留保金課税(2025年6月期6.06%)と特別税額控除(同△4.67%)が記載されています。税負担率は32.37%です。また、2024年4月の第三者割当増資で資本金が増加したことにより外形標準課税が適用されることになり、法定実効税率が34.59%から30.62%に変わったと記載されています。

資本金の増加と税務への影響2024年4月第三者割当増資資本金が増加外形標準課税の適用対象に法定実効税率34.59%→30.62%特定同族会社の留保金課税にも注意2025年6月期の税率差異:留保金課税6.06%、特別税額控除△4.67%

図16 第三者割当増資に伴う外形標準課税の適用と、オーナー企業に特有の留保金課税(Ⅰの部「税効果会計関係」をもとに作成)

留保金課税は、資本金1億円超の特定同族会社が一定額を超えて利益を内部留保した場合に課される税金で、オーナー比率の高い会社に特有の論点です。また、資本金が1億円を超えると外形標準課税の対象になります。上場前の増資で資本金をいくら増やすかは、税務上の影響も踏まえて検討することが大切です。

繰延税金資産は、関係会社株式評価損61,670千円や投資有価証券評価損12,544千円などに対してほぼ全額の評価性引当額が計上されています。

関連会社の持分法損益と特徴的な注記は?

関連会社の株式会社アラヤ(議決権20.53%)は、プログレス・テクノロジーズから継承した株式です。LiNKXは連結財務諸表を作成していないため、持分法を適用した場合の投資損益が注記で開示されています。2024年6月期は持分法投資損失26,780千円、2025年6月期は持分法投資利益38,832千円、2026年6月期中間は持分法投資利益14,033千円です。

関連会社アラヤに係る持分法投資損益(注記)(千円)△26,78038,83214,0332024年6月期2025年6月期2026年6月期中間

図17 持分法を適用した場合の投資損益(千円)。連結財務諸表を作成していないため注記で開示(Ⅰの部をもとに作成)

このほか、未適用の会計基準として、新リース会計基準(企業会計基準第34号)を2028年6月期の期首から適用予定で、影響額は評価中と記載されています。本社オフィスは賃借で、2026年4月に移転しています。賃借オフィスの多い会社では、新リース会計基準の適用で貸借対照表に計上される資産・負債が増える可能性があるため、上場準備と並行して影響額の把握を進めておくとよいでしょう。

監査法人と監査報酬は?

会計監査人はESネクスト有限責任監査法人で、継続監査期間は2年間です。監査報酬(監査証明業務)は前事業年度12,000千円、最近事業年度16,000千円で、非監査業務の報酬はありません。監査法人の選定方針として、品質管理体制、独立性、事業規模・内容への適合性が挙げられています。第1期から第3期の数値は上場規程に基づく監査を受けておらず、監査を受けた2期間(第4期・第5期)の財務諸表がⅠの部に掲載されています。

グロース市場への上場では、直前2事業年度の財務諸表について監査法人の監査を受ける必要があります。監査契約の締結が遅れると、上場スケジュール全体が後ろにずれることになります。監査法人の選定時期は監査法人はいつまでに決めるか、ショートレビューとはで解説しています。

事業等のリスクで何が開示され、審査で何が問われやすいか?

LiNKXの「事業等のリスク」では、各リスクについて顕在化の可能性・時期・影響度を示したうえで、対応策が記載されています。主な項目を整理すると次のとおりです。

リスク項目 顕在化の可能性 影響度 主な内容
特定取引先への依存 高 中 上位2社で71.6%、北國銀行が49.5%(2025年6月期)
特定領域への依存 高 中 金融領域のプロジェクト比率87.7%
人件費の上昇 高 中 売上原価の大部分が人件費
外国人採用及び雇用 低 大 外国人従業員比率約40%。入管法の改正などによる採用の制約
人材の確保・流出・育成 中 中 エンジニアの採用・定着が事業の前提
新株予約権の行使による希薄化 高 小 潜在株式は発行済株式総数の8.3%
株式の流動性 低 小 上場時の流通株式比率は25.1%の見込み
大株主 低 小 取締役が発行済株式総数の80.7%を所有

顧客の集中については、対処すべき課題として「収益基盤の拡大(上位2社への依存度の低下)」が挙げられており、リスクの記載と経営方針・課題の記載が対応しています。また、外国人採用に関するリスクの影響度を「大」と評価している点は、人材構成を事業の強みとしている会社ならではの開示です。

審査で問われやすい点:一般に、特定顧客への売上依存度が高い会社では、取引が継続する根拠(契約内容、取引の経緯、相手先との関係)、取引条件の妥当性、依存度を下げる具体的な施策が確認されます。主要顧客と資本業務提携先が同じグループに属する場合は、取引条件が一般の取引と同様の水準であることを説明できるよう資料を準備しておくことが重要です。また、オーナー比率が高い会社では、少数株主の利益を損なう取引がないこと、取締役会の牽制が実際に働いていることが確認されます。IPOの実質審査基準とはと主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかもご参照ください。

上場準備会社はLiNKXのケースから何を学べるか?

ここまでの内容をもとに、上場準備会社が自社の準備に生かせるポイントを8つに整理します。

このケースから学べる8つのポイント① オーナー比率と流通株式比率② 同族役員と社外取締役の数③ 二代表制の役割分担の説明④ 監査役会への移行時期⑤ 少人数の内部監査とクロス監査⑥ 有償SOと失効・取得の管理⑦ 株式移動・割当価格の根拠⑧ 上場前の事業の切り出し

図18 LiNKXのⅠの部から引き出せる上場準備の実務上の示唆

① オーナー比率が高い場合は、流通株式比率を早めに試算する

LiNKXでは、創業者である取締役が発行済株式総数の80.7%を所有し、上場時の流通株式比率は25.1%の見込みと開示されています。オーナー比率の高い会社は、公募・売出しの株数によって流通株式比率が大きく変わります。資本政策を組む段階から、上場時の流通株式比率・流通株式時価総額を試算し、基準を満たす計画になっているか確認しておきましょう。創業者の持株比率はどこまで下げてよいかも参考になります。

② 同族役員がいるなら、牽制の仕組みを「数」で説明する

同族の常勤取締役2名に対して社外取締役2名を選任するという説明は、少数株主保護の考え方をシンプルに示しています。自社に同族役員がいる場合は、社外取締役の人数、取締役会での審議の実態、関連当事者取引の承認手続を組み合わせて、牽制が働いていることを説明できるようにしておきましょう。

③ 代表取締役が複数いるなら、役割分担を文書化する

二代表制の目的と、平時・不在時の意思決定の分担が文章で説明されている点は参考になります。代表者が複数いる会社は、職務権限規程や取締役会規程で決裁権限を明確にし、誰が最終責任者かを説明できるようにしておくことが大切です。

④ 機関設計の移行はN-2期までに済ませる

LiNKXは2024年6月に監査役3名を選任し、同年8月に監査役会設置会社へ移行しています。監査役会や社外役員の運用実績は、審査で確認される重要な証跡です。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、IPO審査の「機関設計」とはで解説しています。

⑤ 少人数の内部監査は、クロス監査で独立性を確保する

内部監査室2名で、兼務部門は別の担当者が監査するという体制は、多くの上場準備会社がそのまま参考にできる設計です。年間監査計画に「誰がどの部門を監査するか」を明記し、報告先を社長だけでなく取締役会・監査役会まで広げておくと、審査での説明がしやすくなります。

⑥ ストック・オプションは「発行後の管理」まで設計する

有償ストック・オプションを継続して発行する一方で、退職による失効、権利放棄、会社による取得・再処分・消却が生じています。発行要項・割当契約・新株予約権原簿・登記を一致させ、異動のたびに記録を残す運用が欠かせません。

⑦ 株式移動と割当の価格は、根拠と時点を記録する

株式譲渡予約権に基づく譲渡(194.65円)と、第三者割当(650円・920円)は、いずれもDCF法により算出した価格を勘案して決めたと説明されています。価格を決めた時点や算定の前提が異なれば、価格に差が出るのは自然なことです。株価算定書や取締役会議事録など、説明の根拠となる資料を必ず保管しておきましょう。

⑧ 上場しない事業は、上場前に整理しておく

ラボオートメーション事業の新設分割と株式の現物配当は、上場前に事業の範囲を整理した事例です。事業を切り出す場合は、会計・税務の検討に加えて、切り出し先との取引や役員兼務の扱いまで整理しておくと、関連当事者取引や独立性の論点にスムーズに対応できます。

上場準備のチェックリスト

  • 創業者・同族役員の持株比率を前提に、上場時の流通株式比率と流通株式時価総額を試算しているか
  • 同族役員や大株主がいる場合の牽制の仕組み(社外取締役の人数・役割)を説明できるか
  • 機関設計の移行と社外役員の選任を、申請の2期前までに済ませる計画になっているか
  • 内部監査の担当者と監査対象部門の組合せで、自己監査を避ける設計になっているか
  • ストック・オプションの発行・失効・取得・消却の記録が、原簿・登記と一致しているか
  • 上場前の株式移動・第三者割当の価格について、算定方法と決定時点の資料を保管しているか

よくある質問

Q1. 内部監査の担当者が2名しかいなくても、上場審査は通るのでしょうか?

人数そのものよりも、独立性が確保され、計画どおりに監査が実施されているかが重要です。LiNKXのように内部監査室が2名で、兼務部門は別の担当者が監査するクロス監査の体制をとる方法があります。会社の規模や拠点数に見合った監査計画と、改善までの記録を揃えておきましょう。

Q2. 創業者の持株比率が高いままでも、グロース市場に上場できますか?

持株比率の上限があるわけではありませんが、流通株式比率25%以上などの形式基準を満たす必要があります。また、少数株主の利益を損なわない体制になっているかが実質審査で確認されます。LiNKXでは、大株主に関するリスクや流通株式比率の見込みをⅠの部で開示しています。

Q3. 有償ストック・オプションと無償の税制適格ストック・オプションは、どちらがよいですか?

有償ストック・オプションも、従業員等に権利確定条件付きで付与する場合は実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じた会計処理が必要ですが、払込金額が公正な評価額に見合っていれば費用計上額は小さくなります。一方、付与対象者は払込みを行う必要があります。税制適格ストック・オプションは、要件を満たせば権利行使時に課税されないという特徴があります。付与対象者、発行時期、行使条件の設計によって向き不向きが変わるため、資本政策全体の中で検討しましょう。

Q4. 上場前に事業を切り出すときの注意点は何ですか?

会社分割の会計処理(共通支配下の取引等)と税務上の適格要件の検討に加えて、切り出した事業との今後の取引関係や、役員の兼務の扱いを整理しておくことが大切です。財務数値の期間比較に影響するため、セグメント情報などでの開示も意識しておきましょう。

最初の一歩は「株主構成と役員構成の一覧化」から

LiNKXの事例から自社の準備を始めるなら、まずは現在の株主構成(潜在株式を含む)と役員構成(同族関係・兼務先を含む)を一覧にしてみることをおすすめします。この一覧があれば、流通株式比率の試算、社外役員の必要人数、関連当事者取引の洗い出しといった、上場準備の主要な論点を一度に見通すことができます。IPO準備 完全ガイドも参考にしてください。

無料ダウンロード

LiNKXのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

LiNKXの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

LiNKX株式会社のⅠの部からは、創業者が大株主であるオーナー企業が、同族役員と同数の社外取締役の選任、二代表制の役割分担、監査役会設置会社への移行、クロス監査による内部監査といった仕組みで、ガバナンスを組み立てている様子が読み取れます。資本政策では、有償ストック・オプションの継続的な活用、提携先への第三者割当、上場前の事業の切り出しと株式の現物配当、株式分割といった具体例を確認できました。

上場準備では、こうした一つひとつの仕組みを「なぜその設計にしたのか」まで説明できることが求められます。他社のⅠの部を読み比べながら、自社に合った体制づくりを進めていきましょう。

上場準備の体制づくりを相談したい方へ

ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

相談内容を送る料金・支援内容を見る

公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ

書くより話すほうが早いときは、お電話でも承ります TEL 03-6820-0406