※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
首都圏で不動産の買取再販を手がける株式会社東京みらい不動産(東京都新宿区、英文社名 Tokyo Mirai Real Estate Co., Ltd.)が、2026年9月25日に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)への上場承認を受け、10月13日に上場する予定です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報と訂正発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。
結論からいえば、東京みらい不動産のケースは「従業員16名・売上高21億円規模の不動産会社が、直前1期の監査と中間期のレビュー、担当J-Adviserの調査を経て、資金調達を伴わずにTPMへ上場する例」です。同業者を主要取引先とするBtoB型の買取再販モデル、借入金と在庫に依存する財務構造、取締役3名・社外監査役1名という最小限の機関設計、代表者による債務保証の解消、資産管理会社への株式移動、事業部と管理部のクロス監査など、小規模な会社がTPMを使うときに論点になりやすい項目が具体的に書かれています。
この記事の見出し
- 東京みらい不動産はどんな会社で、いつTPMに上場するのか
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか
- 事業内容と収益モデル:同業者を取引先とするBtoB型の買取再販
- 沿革と上場までの道のり
- 業績の推移と読み方
- 財務構造:借入金と在庫に依存するビジネスをどう説明しているか
- 資本政策と株主構成
- コーポレート・ガバナンス:取締役3名・社外監査役1名の最小構成
- 内部監査・内部統制:独立部門を置かずにどう牽制するか
- 会計・開示の論点
- 事業等のリスクとJ-Adviser契約
- 一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
- 上場準備会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
東京みらい不動産はどんな会社で、いつTPMに上場するのか
東京みらい不動産は2012年7月、現在の代表取締役である大塚文彦氏が東京都立川市で設立した会社です。設立当初から不動産売買を主な目的とし、仲介事業を基盤にしながら不動産買取再販事業へと領域を広げ、現在は「仕入・再生・販売を一体とした事業体制」を構築していると説明されています。事業は不動産事業の単一セグメントで、決算期は12月です。上場時点の直前事業年度は第14期(2025年12月期)にあたります。
上場の手続面では、2026年9月8日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、9月25日に上場承認を受けました。上場予定日は10月13日で、担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。申請受付から上場承認までは10営業日(9月21日〜23日の祝日・休日を除いて本記事で計算)で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場承認」とされている流れどおりの日程です。さらに9月30日には、2026年1月〜6月の中間会計期間の記載を追加した訂正発行者情報が公表されています。
図1 発行者情報・訂正発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場予定日)をもとに作成
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社東京みらい不動産(Tokyo Mirai Real Estate Co., Ltd.)、証券コード647A |
| 市場 | 東京証券取引所 TOKYO PRO Market |
| 上場予定日 | 2026年10月13日 |
| 上場承認日 | 2026年9月25日 |
| 申請受付日 | 2026年9月8日(発行者情報の公表日) |
| 担当J-Adviser | フィリップ・キャピタル証券株式会社 |
| 上場時の開示書類 | 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし)、2026年9月30日に訂正発行者情報 |
| 本店 | 東京都新宿区新宿一丁目 |
| 設立 | 2012年7月(東京都立川市) |
| 決算期 | 12月(第14期=2025年12月期) |
| 事業 | 不動産事業の単一セグメント(不動産買取再販、仲介・管理、自社保有不動産の運用) |
| 従業員 | 16名(臨時0名)、平均年齢35.9歳、平均勤続年数2.2年(2026年8月31日現在) |
| 監査 | オリエント監査法人(第14期の財務諸表の監査、第15期中間会計期間の期中レビュー) |
従業員の平均年間給与は4,241千円で、管理職に占める女性労働者の割合は約67%と記載されています。役員4名のうち女性は1名です。子会社・関連会社はなく、財務諸表は単体のみです。期末の従業員数は第12期9名、第13期13名、第14期18名と増えており、組織を急速に拡大しながら上場準備を進めてきたことがわかります。
なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
東京みらい不動産の発行者情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を説明する記載はありません。上場に関係する記載は、表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」(上場予定日と、特定投資家向け取得勧誘等を行わないこと)、運転資本の説明(上場予定日から12か月間の運転資本は十分)、担当J-Adviserとの契約に関するリスクなどにとどまります。業績の説明の中で、販売費及び一般管理費の増加を「将来の持続的成長及び東京プロマーケットへの株式上場を見据えた」ものと述べている箇所はありますが、TPMを選んだ理由そのものは書かれていないため、本記事では同社の選択理由を推測することは控えます。
一般論として、TPMには一般市場と異なる特徴があります。形式基準(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。東証が公表した2026年6月15日時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。
これからTPMを検討する会社は、「何のために上場するのか」を社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしておくことが求められる流れにあります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか
TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。同社の発行者情報の冒頭にも「TOKYO PRO Marketは、特定投資家等を対象とした市場」であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合がある旨の注意書きが置かれています。
上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「ガバナンス・内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係がないこと等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。
図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
東京みらい不動産の発行者情報には、上場適格性要件の「企業としての相応性」に対応する記載として、「上場予定日(2026年10月13日)から12か月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分であると認識しております」という一文があります。買取再販は物件の仕入資金を借入で賄うビジネスであるため、この運転資本の説明は、後述する有利子負債や在庫の状況と合わせて読む必要があります。
開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を公表しますが、東京みらい不動産は勧誘を行わないため、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています。表紙の書類名が「発行者情報」になっているのはこのためです。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します(一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類です)。
図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成
監査についても一般市場と違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。東京みらい不動産は第14期(2025年12月期)の財務諸表についてオリエント監査法人の監査を受けており、主要な経営指標の注記で「第12期及び第13期の財務諸表については、当該監査を受けておりません」と明記しています。訂正発行者情報で追加された第15期中間会計期間(2026年1月〜6月)の中間財務諸表は、同監査法人の期中レビューを受けています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が必要とされるため、監査法人との契約時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。
一般市場(グロース・スタンダード)との比較
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) | 一般投資家を含む |
| 形式基準 | なし(数値基準がない) | 株主数・流通株式等の形式基準あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 | 東証の上場審査 |
| 申請から承認まで | 原則として申請から10営業日後に承認 | 一般市場の審査日程による |
| 新規上場時の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 開示書類 | 特定証券情報・発行者情報 | 有価証券届出書・有価証券報告書等 |
| 四半期開示 | 任意 | 四半期決算短信(取引所規則) |
| 内部統制報告書 | 任意 | 金融商品取引法に基づき提出 |
| 会計基準 | 日本基準・米国基準・IFRS等 | 日本基準・米国基準・IFRS等 |
| 開示言語 | 英語又は日本語 | 日本語(有価証券報告書等) |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約の維持 | J-Adviser制度なし |
表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。なお、一般市場の会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードや実質審査基準を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。TPMで問われるのは、あくまで担当J-Adviserが確認する上場適格性要件であり、ガバナンスや内部管理体制も「企業の規模や成熟度等に応じて」整備・機能しているかが見られます。
事業内容と収益モデル:同業者を取引先とするBtoB型の買取再販
東京みらい不動産は「不動産業を通じてお客様に愛と感動を提供する」という経営理念のもと、首都圏を中心に事業を展開しています。最大の特徴は、一般顧客だけでなく、不動産会社や建設会社などの同業者を主要な取引先と位置付けている点です。発行者情報は、自社での一般顧客の集客に過度に依存せず、同業者の顧客基盤と集客機能を活用する「BtoB型ビジネスモデル」によって、営業人員を大幅に増やすことなく仕入と販売の機会を創出していると説明しています。
同業者との取引には実務上の利点も挙げられています。仕入時には仲介会社が一般顧客への説明や条件調整の一部を担うため業務負担が軽くなり、販売時には買主が宅地建物取引業者となるケースが多いため、契約不適合責任等のリスク低減にもつながるとされています。事業等のリスクでは、同業者への販売については契約不適合責任を免責している一方、一般顧客への販売では責任を負う場合がある、と書き分けています。
図4 発行者情報「事業の内容」「業績等の概要」をもとに作成。不動産事業の単一セグメントで、サービス区分別に記載されている
サービスは3つに区分されています。主力の不動産買取再販サービスは、戸建住宅・土地・一棟アパート・収益ビル・中古区分マンション等を買い取り、再生後に一般顧客、投資家、同業他社等へ販売するものです。仲介・管理サービスは売買仲介と賃貸仲介・賃貸管理で、当社の査定で直接仕入に至らない場合に売主の意向に応じて仲介へ切り替える使い方もされています。3つ目は、取得した不動産の一部を自社で保有して賃貸運用するサービスです。
仕入面では、同業者とのネットワークを通じて市場流通前の物件情報を取得する体制と、独自開発のAI査定システム(インターネット上の公開情報を自動収集して多数の物件情報を短時間で分析するもの)を組み合わせていると説明されています。
再建築不可や権利関係の複雑な物件をどう再生するのか
同社は、再建築不可物件や権利関係が複雑な不動産など、一般に流通が難しいとされる物件も積極的に取り扱うとしています。再生の手法として、リフォーム(内外装工事、設備交換、間取りの最適化、耐震補強、防蟻処理、住宅瑕疵保険の活用等)、権利関係調整(借地権、共有持分、相続案件、孤独死、事故物件等を専門家と連携して整理)、商品化・出口戦略設計(居住用・収益用・新築等のターゲット設定)の3つが挙げられています。
具体例として紹介されているのが、自社の本社ビル2棟です。第1本社ビルは廃業した印刷会社の建物を取得して事務所用途にリノベーションしたもので、1階・4階を自社利用、2階・3階を貸店舗として賃料収入を得ています。第2本社ビルは居住用戸建を各階独立の事務所区画に再生したもので、従前の賃料水準と比べて坪単価ベースで約2.5倍の水準に収益性を高めたと記載されています。
図5 発行者情報「事業の内容」の記載をもとに作成。坪単価の比較は会社の記載による
売上の構成と主な販売先
2025年12月期の売上高2,113,830千円のうち、不動産買取再販サービスが2,080,160千円と98%超を占めます。仲介・管理サービスは19,508千円、自社保有サービスは14,162千円です。主な相手先としては、2025年12月期に「個人」426,079千円(20.2%)、株式会社アスレ225,008千円(10.6%)、エムトラスト株式会社200,659千円(9.5%)が記載されています。2026年6月中間期には株式会社ハウジング・オークラ向けが309,891千円(30.4%)となっており、1件あたりの取引金額が大きい買取再販では、期によって主な販売先と比率が大きく入れ替わることが読み取れます。
図6 発行者情報「販売実績」「収益認識関係」から本記事で構成比を計算(2025年12月期の売上高2,113,830千円)。販売先の比率は会社の記載
| サービス | 2025年12月期(千円) | 前期比 | 2026年6月中間期(千円) |
|---|---|---|---|
| 不動産買取再販サービス | 2,080,160 | 127.0% | 996,892 |
| 仲介・管理サービス | 19,508 | 150.5% | 7,957 |
| 自社保有サービス | 14,162 | 82.9% | 13,448 |
| 合計 | 2,113,830 | 126.7% | 1,018,297 |
収益認識関係の注記では、自社保有不動産の賃料(その他の収益)は「リース取引に関する会計基準」に基づく収益として、顧客との契約から生じる収益とは区分して開示されています。サービスの説明と会計方針・注記が対応しているかは、開示書類全体の一貫性として確認される部分です(上場審査で問われる収益認識)。
許認可はどう開示されているか
不動産の買取再販や仲介は、宅地建物取引業の免許を前提とする事業です。事業等のリスクの「法令・規制等に関するリスク」では、免許の番号・有効期間・取消事由が表で示されています。免許番号の括弧内の数字は免許の更新に応じて増える数字で、沿革に記載された2012年8月の取得時の「東京都知事(1)第94515号」が、現在は「(3)」となっています。許認可の有効期限と取消事由を一覧にしておくのは、上場準備会社にとって参考になる開示の形です(IPOで許認可はどこまで見られるか)。
| 許認可の名称 | 許可番号 | 有効期間 | 取消事由 |
|---|---|---|---|
| 宅地建物取引業免許 | 東京都知事(3)第94515号 | 令和4年8月11日〜令和9年8月10日 | 宅地建物取引業法第66条 |
沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、同社は2012年7月に立川市で設立され、翌8月に宅地建物取引業免許を取得して売買仲介・不動産買取再販サービスを始めています。2013年6月に本社を新宿区西早稲田へ移し、賃貸仲介・賃貸管理事業を開始しました。2017年5月の移転後は早稲田大学周辺エリアで賃貸仲介と買取再販を強化し、2019年1月には都心部の富裕層・投資家ニーズに対応するため銀座支店を開設しています。
2021年10月には新宿区新宿一丁目に初の本社自社ビルを取得し、本社機能と銀座支店を集約しました。2025年4月には同じ新宿一丁目に2棟目の本社自社ビルを取得し、「ストック型収益の強化及び財務基盤の安定化」を進めたとしています。上場準備の最終段階では、2026年4月24日の株式分割(1株→10,000株)と単元株制度の導入、5月28日の資産管理会社への株式移動を経て、9月8日の申請受付に至っています。
図7 発行者情報「沿革」「株式等の状況」「株式公開情報」から主な項目を抜粋
業績の推移と読み方
発行者情報の「主要な経営指標等の推移」は、第12期(2023年12月期)から第14期(2025年12月期)までの3期分と、訂正で追加された第15期中間会計期間(2026年6月)が掲載されています。売上高は2期で約1.9倍に増えた一方、経常利益は2024年12月期の140,557千円から2025年12月期は123,807千円に減少しました。中間期は売上高1,018,297千円、経常利益127,529千円で、半年で前期1年分の経常利益を上回っています。なお、監査を受けているのは第14期のみで、第12期・第13期は監査を受けていない数値です。また第12期はキャッシュ・フロー計算書を作成していません。
図8 発行者情報・訂正発行者情報「主要な経営指標等の推移」より。第12期・第13期は監査を受けていない数値、第14期は監査済み、第15期中間は期中レビュー済み。中間期の売上高は1,018,297千円
| 項目(千円) | 第12期 2023年12月期 | 第13期 2024年12月期 | 第14期 2025年12月期 | 第15期中間 2026年6月 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,088,275 | 1,667,932 | 2,113,830 | 1,018,297 |
| 経常利益 | 24,642 | 140,557 | 123,807 | 127,529 |
| 当期(中間)純利益 | 24,190 | 96,550 | 86,488 | 88,959 |
| 純資産額 | 244,168 | 340,719 | 427,207 | 516,167 |
| 総資産額 | 1,109,985 | 1,377,746 | 1,333,895 | 1,614,356 |
| 自己資本比率 | 22.00% | 24.73% | 32.03% | 31.97% |
| 自己資本利益率 | 10.42% | 33.01% | 22.53% | 18.86% |
| 営業活動によるCF | ― | 60,744 | 157,032 | △144,125 |
| 従業員数 | 9 | 13 | 18 | 19 |
増収なのに営業利益が減ったのはなぜか
2025年12月期の売上高は前期比26.7%増、売上総利益は515,914千円(同28.8%増)で、売上総利益率は24.0%から24.4%とほぼ維持されました。一方、営業利益は153,598千円で前期の164,350千円から6.5%減少しています。発行者情報はその理由を、主として「将来の持続的成長及び東京プロマーケットへの株式上場を見据えた一般管理費の増加」と説明しています。
具体的には、経営・管理体制の強化と人材の採用・育成に伴う人件費等の増加(合計199,942千円、前期比40.3%増)、ガバナンス強化と事業拡大に伴うシステム導入費用や専門家報酬等の増加(合計30,578千円、同324.8%増)が挙げられています。さらに仲介の活用が増えたことで、支払仲介手数料が6,691千円から32,444千円へ増えました。この結果、販売費及び一般管理費は362,315千円(同53.4%増)となっています。
図9 発行者情報の損益計算書・販売費及び一般管理費の主要費目と「業績等の概要」の支払仲介手数料から本記事で増減を計算(千円)。「その他販管費」は販管費全体の増加額126,084千円から4費目の増加額を差し引いた残り
| 販管費の主な費目(千円) | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 62,504 | 87,832 | +25,328 |
| 役員報酬 | 60,040 | 86,630 | +26,590 |
| 租税公課 | 17,801 | 45,062 | +27,261 |
| 支払仲介手数料 | 6,691 | 32,444 | +25,753 |
| 減価償却費 | 8,162 | 6,653 | △1,509 |
| 販売費及び一般管理費 合計 | 236,231 | 362,315 | +126,084 |
上場準備では、管理部門の採用、規程やシステムの整備、監査法人・J-Adviser・弁護士などの専門家への報酬といったコストが先行して発生します。東京みらい不動産の記載は、こうした上場準備コストが損益に与える影響を、金額と増加率で具体的に説明している例といえます。事業計画を作る段階で、上場準備コストを織り込んだ利益水準を示せるようにしておくことが大切です(IPOにかかる費用はいくらか)。
中間期は在庫を積み増し、営業キャッシュ・フローがマイナスに
キャッシュ・フローを見ると、2025年12月期は棚卸資産の減少(135,987千円の収入)により営業キャッシュ・フローが157,032千円のプラスとなり、短期借入金の純減少150,463千円などで借入金の返済を進めました。投資活動では、第2本社ビルの取得に伴う有形固定資産の取得60,443千円と無形固定資産(主に借地権)の取得98,956千円がありました。
これに対し2026年6月中間期は、税引前中間純利益134,533千円を計上したものの、棚卸資産が297,758千円増えたため、営業キャッシュ・フローは144,125千円のマイナスとなりました。資金は短期借入金の純増加228,591千円で手当てしています。買取再販では、利益が出ていても仕入を増やす局面では営業キャッシュ・フローがマイナスになるのが通常の姿であり、その理由を在庫の増加と借入で説明できるようにしておくことが重要です。
図10 発行者情報・訂正発行者情報のキャッシュ・フロー計算書より。第12期(2023年12月期)はキャッシュ・フロー計算書を作成していない
財務構造:借入金と在庫に依存するビジネスをどう説明しているか
事業等のリスクの「有利子負債への依存と資金調達について」では、物件の取得資金を主に金融機関からの借入で調達しており、2025年12月期末の有利子負債残高は841,580千円、純資産ベースの有利子負債比率は約197%、総資産に占める比率は63.1%と記載されています。同社は「特定の金融機関に依存することなく、プロジェクトごとに物件収支計画の妥当性を精査したうえで資金調達を行って」いるとしています。借入金等明細表によると、平均利率は短期借入金2.10%、長期借入金2.38%です。
担保の状況も注記されています。2025年12月期末の商品575,326千円のうち549,783千円、借地権192,090千円、建物63,458千円、土地10,190千円が担保に供され、担保付債務は641,839千円です。2026年6月末には商品が859,966千円(前期末比284,639千円増)、短期借入金が724,127千円まで増えました。対処すべき課題でも「事業資金の確保」を掲げ、融資枠の拡大、自己資本の充実、資本政策の最適化に取り組むとしています。
図11 発行者情報「事業等のリスク」「貸借対照表関係(担保資産)」「借入金等明細表」、訂正発行者情報の中間貸借対照表をもとに作成
在庫の内訳も開示されています。2025年12月期末の商品は中古戸建251,407千円、中古マンション91,874千円、土地232,044千円で、地域別では東京都区部が449,970千円と大半を占めます。運転資本が十分であるという説明と、借入金・在庫・担保の状況が一貫しているかは、J-Adviserが「企業としての相応性」を確認する際にも重要な材料になると考えられます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
資本政策と株主構成
東京みらい不動産の株主は2名だけです。代表取締役の大塚文彦氏が1,500,000株(75.00%)、同氏の資産管理会社である株式会社HAKUINが500,000株(25.00%)を所有しています。役員の状況では、大塚氏の所有株式数を、HAKUINが所有する株式を含めた実質所有株式数として2,000,000株と記載しており、関連当事者情報でも大塚氏の議決権の被所有割合は100.0%とされています。新株予約権(ストック・オプション)、自己株式、従業員持株会などの制度はなく、上場前の第三者割当もありません。
上場直前の株式移動として、2026年5月28日に大塚氏からHAKUINへ500,000株が単価214円で譲渡されています。移動理由は「資産管理の効率化及び長期的な資本政策の安定化」で、価格は「当社の財務状況、純資産価額及び将来収益見通し等を総合的に勘案のうえ、当事者間で協議し合理的に決定」したと説明されています。参考までに、2025年12月期末の1株当たり純資産額(株式分割を考慮)は213.60円です。
図12 発行者情報「株式公開情報(特別利害関係者等の株式等の移動状況、株主の状況)」をもとに作成。株式数は2026年4月24日の株式分割後
株式公開情報の注記には、特例115条と同施行規則106条の規定により、上場日から5年間、2024年1月1日から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式移動の状況について記録を保存するものとされていることも書かれています。上場前に創業者から資産管理会社へ株式を移す例は少なくありませんが、その価格と算定根拠は記録として残り、説明を求められる前提で準備する必要があります(上場前に株式を動かすとどうなるか、未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。
株式分割と単元株制度の導入
発行済株式総数は長く200株でしたが、2026年3月16日の取締役会決議に基づき、4月24日付で1株を10,000株に分割し、2,000,000株になりました。同日に単元株式数を100株とする単元株制度を導入し、発行可能株式総数も800株から8,000,000株に増えています。分割の目的は「株式単位当たりの金額の引下げを行うことで株式の流動性を高めること」とされています。資本金は2022年3月26日に61,000千円増加して70,000千円となっており、それ以降の変動はありません。
図13 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「重要な後発事象」「株式公開情報」をもとに作成
上場後の株式の流通という観点では、TPMには株主数や流通株式の形式基準はありません。一般論として、一般市場への上場を目指す場合には流通株式等の形式基準があるため、創業者が実質的に全株式を持つ構成からどのように株主を広げていくかが資本政策の論点になります(上場準備の資本政策)。
コーポレート・ガバナンス:取締役3名・社外監査役1名の最小構成
東京みらい不動産の機関設計は、取締役会と監査役を置く形です。取締役会は代表取締役の大塚氏、取締役統括部長の吉富芹奈氏、取締役事業部長の小柳典章氏の3名で構成され、定時取締役会を毎月1回、必要に応じて臨時取締役会を開いています。社外取締役はいません。監査役は社外監査役1名(蓮井玄二郎氏、公認会計士)で、監査役規程に基づき取締役の業務執行を監査し、取締役会に出席して意見を述べるほか、代表取締役と定期的に会合を持っているとされています。
会計監査については、「会社法上の会計監査人は設置しておりませんが、オリエント監査法人と監査契約を締結し、独立した立場から『特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例』第110条第5項の規定に基づき監査を受けて」いると記載されています。会社法上の会計監査人としての監査と、上場のための財務諸表の監査証明は別のものであることが、この書き方からよくわかります。監査を執行した公認会計士は2名(継続監査年数はいずれも7年以内)、補助者は公認会計士3名です。
図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成。会社法上の会計監査人は設置しておらず、オリエント監査法人と監査契約を締結
このほか、代表取締役を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会が概ね2か月に1回開かれ、必要に応じて弁護士等の専門家から意見を聴く体制とされています。TPMでは一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、「柔軟なガバナンス設計」が可能とされますが、上場適格性要件として、企業の規模や成熟度等に応じたガバナンス・内部管理体制の整備と運用は確認されます。小規模な会社でも、取締役会の定期開催、監査役による監査、委員会による法令遵守の確認といった牽制の仕組みを、議事録などの記録で示せるようにしておくことが必要です(IPO審査の「機関設計」とは)。
| 役名 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報の記載の要旨) |
|---|---|---|
| 代表取締役 | 大塚 文彦 | 株式会社武富士、株式会社住建ハウジング、中川地所株式会社を経て2012年7月に当社を設立。2026年5月に資産管理会社の株式会社HAKUINを設立し代表取締役 |
| 取締役 統括部長 | 吉富 芹奈 | 2018年4月入社、部長、統括部長を経て2025年4月から取締役統括部長。事務連絡者 |
| 取締役 事業部長 | 小柳 典章 | 不動産会社3社を経て2021年6月入社、営業部長を経て2025年4月から取締役事業部長 |
| 監査役(社外) | 蓮井 玄二郎 | 公認会計士。複数の監査法人等を経て蓮井公認会計士事務所代表、監査法人MMPGエーマック代表社員。2025年4月就任 |
役員報酬は、2025年12月期に取締役(社外取締役を除く)3名へ85,280千円(基本報酬65,280千円、賞与20,000千円)、社外役員1名へ1,350千円が支給されています。役員報酬の総額は前期の60,040千円から86,630千円に増えており、前述の販管費増加の一因になっています。定款では、取締役5名以内・監査役1名以上3名以内、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和、取締役会決議による自己株式の取得と中間配当、取締役・監査役の責任免除、社外監査役との責任限定契約などを定めています。
関連当事者取引はどう整理されたか
オーナー企業の上場準備で必ず論点になるのが、代表者やその親族との取引です。東京みらい不動産の関連当事者情報では、代表取締役による一部の金融機関借入への債務保証(保証を受けていた借入の期末残高:2024年12月期217,121千円、2025年12月期191,564千円)と、社用車のリース契約への債務保証(同13,655千円、12,183千円)が開示されています。いずれも保証料の支払いはなく、2026年6月をもって解消したと記載されています。
また、2024年12月期には代表取締役の親族から30,000千円を借り入れていましたが、2025年11月28日に全額返済しています。あわせて、支配株主との取引については一般の取引条件と同等の条件で決定し、関連当事者取引には取締役会の承認を必要とする方針が示されています。代表者保証は金融機関との交渉が必要で時間がかかるため、上場準備の早い段階から解消の計画を立てておくことが大切です(社長個人と会社の取引はどう解消するか、IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。
図15 発行者情報「関連当事者情報」の注記をもとに作成。金額は各期末の残高
内部監査・内部統制:独立部門を置かずにどう牽制するか
東京みらい不動産は「小規模組織であることから独立した内部監査部門は設置しておりません」と明記したうえで、代表取締役が選任した内部監査担当者が全部門の業務全般を「クロス監査」する体制をとっています。管理部が主管部署となり、事業部と管理部の相互牽制の観点から部門間で相互に監査を実施し、「自己が所属する部門の監査は行わない」ことで独立性を確保するとしています。監査結果は代表取締役と被監査部門に報告され、必要に応じて改善指示を行い、改善状況を継続的に確認します。
さらに、内部監査担当者・監査役・監査法人の三者が情報や意見を交換する場を定期的に設けていると記載されています。内部監査担当者は監査法人と定期的に面談し、監査役は内部監査担当者から随時報告を受け、代表取締役や監査法人とも定期的に意見交換を行う、という三様監査の連携です。事業等のリスクの個人情報管理の項目でも、各部署が個人情報保護法を遵守しているかを内部監査の監査項目として相互にチェックしていると書かれています。
図16 発行者情報「内部監査」「内部監査及び監査役の状況」の記載をもとに作成
従業員が十数名規模の会社では、専任の内部監査担当者を置くのは現実的でないことが多く、兼務者による相互監査は一般的な選択肢です。その際に押さえるべきなのは、自己の業務を自分で監査しない仕組み(自己監査の回避)、監査計画・調書・報告・改善確認の記録、代表取締役への報告ラインです。内部統制面では、職務権限規程や業務分掌規程により業務を分担し、特定の組織や担当者に権限が集中しないようにしているとされています(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。
会計・開示の論点
収益は「引渡し時点」で認識する
重要な会計方針では、不動産買取再販サービスについて「不動産売買契約で定めた売買代金を受領すると同時に、対象不動産を引き渡すことで履行義務が充足される」ため、引渡し完了時点で収益を認識すると記載されています。賃貸仲介は賃借人が入居し貸主へ受け渡す家賃が発生した時点、賃貸管理は役務提供完了時点で収益を認識し、自社保有不動産の賃料は賃貸期間の経過に応じてリース会計基準に従って認識します。
事業等のリスクでは、売上計上は売買契約締結時ではなく引渡し完了時点であるため、工事進捗や引渡時期の変動で売上計上が期をまたぐと業績に影響し、1件あたりの取引金額が大きいので影響も相対的に大きい、と説明しています。会計方針とリスク情報が同じ論点を指していることは、開示の一貫性という点で参考になります。
図17 発行者情報「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」をもとに作成。自社保有不動産の賃料は「リース取引に関する会計基準」に従い、顧客との契約から生じる収益の対象外
棚卸資産の評価が重要な会計上の見積り
重要な会計上の見積りとして挙げられているのは棚卸資産(商品)の評価です。商品は個別法による原価法(収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)で評価し、期末の正味売却価額が取得原価を下回る場合には正味売却価額まで切り下げます。正味売却価額の算定における主要な仮定は「将来の販売見込額」で、類似不動産の取引事例や過去の実績等を総合的に勘案するとされています。買取再販の会社では、物件ごとの販売見込額の根拠資料と、長期滞留物件の把握が監査上も重要になります。
このほか特徴的な注記として、商品から固定資産への保有目的の変更(2025年12月期に土地14,600千円・建物17,954千円、中間期に土地6,851千円・建物6,060千円)、本社ビル2棟の借地権付き建物について契約終了時の解体・更地返還義務に係る資産除去債務(2025年12月期末10,363千円)、本社ビル2棟の賃貸部分を対象とした賃貸等不動産の時価(収益還元法、還元利回り6.0%で183,300千円)があります。未適用の会計基準として、新リース会計基準を2028年12月期の期首から適用予定で、影響額は評価中と記載されています。
監査報酬と中間財務諸表
最近事業年度の監査報酬は、監査証明業務に基づく報酬6,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。決定方針は「事業規模等を勘案して」とされています。中間財務諸表は第1種中間財務諸表として作成され、オリエント監査法人の期中レビューを受けています。TPMの上場会社は上場後、年次に加えて中間の発行者情報も期末後3か月以内に公表する必要があるため、中間決算とレビューに対応できる決算体制を上場前に整えておくことが求められます。
事業等のリスクとJ-Adviser契約
事業等のリスクには21項目が挙げられています。不動産市況、有利子負債への依存、仕入・販売、在庫、保有資産の価値下落、外注、個人情報、契約不適合責任、人材、代表取締役への依存、東京都エリアへの依存、競合(宅地建物取引業者数は令和6年度末で132,291業者、11年連続増加)、訴訟、近隣住民とのトラブル、売却時期による業績変動、法令・規制、自然災害、配当政策、小規模組織、土壌汚染・地中埋設物、J-Adviserとの契約です。
最後の「J-Adviserとの契約について」では、フィリップ・キャピタル証券との担当J-Adviser契約が新規上場と上場維持の前提であり、契約が解除され他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止となることを明記したうえで、即日無催告解除ができる事由と事前催告に関する条項を詳しく開示しています。
| 区分 | J-Adviser契約の主な内容(発行者情報の記載の要旨) |
|---|---|
| 財務・存続に関する事由 | 債務超過(猶予期間内に解消できない場合)、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止 |
| 組織再編等 | 不適当な合併等、完全子会社化、全部取得、株式売渡請求、特定の者以外を端数とする株式併合 |
| 開示・監査 | 発行者情報等の提出遅延(遅延理由が適切でない場合)、虚偽記載、不適正意見・意見不表明(影響が重大な場合) |
| 株主の権利・その他 | 支配株主との取引の健全性の毀損、株主の権利の不当な制限、株式の譲渡制限、反社会的勢力の関与、重大な法令・上場規程違反 等 |
| 事前催告・任意解除 | 義務違反は相当の期間(特段の事情がない限り1か月)を定めて催告。合意解除や1か月前の書面通知による解除も可能。解除時はJ-Adviserが東証に事前通知 |
J-Adviser契約の解除事由は、上場廃止事由と同じような内容が並びます。TPMの上場会社にとっては、担当J-Adviserとの関係維持そのものが上場維持の条件であり、上場後も適時開示や発行者情報の公表について助言・指導を受けながら運営していくことになります(IPOの適時開示体制)。
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
東京みらい不動産の発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場の変更についての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMを経て一般市場を目指す会社一般にとっての示唆を整理します。
まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する形で行われています(2025年12月にTPMからグロース市場へ移ったAlbaLinkの例)。東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ、相応の負担があるという現状認識を示しました。2026年4月には「26年秋めど」にTPMでの実績を勘案した一般市場の審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表していますが、本記事の執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません。
したがって、TPMで整えた体制は一般市場の審査で改めて確認される前提で考える必要があります。たとえば、一般市場の新規上場では直前2期の監査が必要とされ、内部統制報告制度や株主数・流通株式などの形式基準もあります。TPM上場の段階から、監査対象期間の延長、内部監査の記録、関連当事者取引の整理、株主構成の設計を一般市場の水準で意識しておくと、後の負担を減らすことができます(IPOの実質審査基準とは)。
上場準備会社が学べること
図18 本記事の整理。いずれも発行者情報の記載事実をもとに、上場準備の一般的な論点として整理したもの
1. 直前1期の監査でも、監査法人の選定は早めに。同社は第14期のみ監査を受け、第12期・第13期は監査を受けていません。TPMでは監査期間が最近1年間で足りますが、監査対象期の期首残高の検証や中間期のレビューまで考えると、監査法人との契約は監査対象期の始まる前後に済ませておくのが安全です。会社法上の会計監査人を置くかどうかと、上場のための監査証明を受けることは別の論点として整理されています。
2. 申請から承認までは10営業日。準備は申請前に終える。申請受付(9月8日)から上場承認(9月25日)までは10営業日でした。その前にJ-Adviserの調査と意向表明、東証の面談があるため、規程・体制・開示書類は申請前に完成させておく必要があります。
3. 上場準備コストを事業計画に織り込む。2025年12月期は増収ながら、専門家報酬等(前期比324.8%増)や人件費等の増加で営業減益となりました。上場準備コストを見込んだ計画と、その説明の準備が欠かせません。
4. 代表者の債務保証と親族からの借入は計画的に解消する。同社は親族借入を2025年11月に返済し、代表者の債務保証を2026年6月に解消しました。金融機関との交渉が必要な保証の解消は時間がかかるため、早めの着手が必要です。
5. 資産管理会社への株式移動は価格の根拠を残す。上場直前の株式移動は記録の保存対象になり、価格の決め方も開示されます。純資産価額などとの関係を説明できる資料を残しておきましょう。
6. 小規模でも牽制の仕組みを形にする。独立した内部監査部門がなくても、クロス監査による自己監査の回避、リスク・コンプライアンス委員会、公認会計士の社外監査役、三様監査の連携の場といった形で牽制を示しています。
7. 借入依存のビジネスは資金繰りの説明が生命線。有利子負債比率、担保の状況、在庫の増減と営業キャッシュ・フローの関係を、運転資本の十分性の説明と矛盾なく示すことが求められます。
- 監査対象となる事業年度と、監査法人との契約時期・中間レビューの体制を決めている
- 上場目的(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を社内で言語化している
- 代表者による債務保証や、役員・親族との取引の解消計画を立てている
- 上場前の株式移動について、価格の算定根拠と記録を残している
- 兼務者による内部監査で自己監査を避ける仕組みと、監査記録の様式を整えている
- 上場後12か月の運転資本を、借入・在庫・担保の状況と整合する形で説明できる
よくある質問
東京みらい不動産は「会社法上の会計監査人は設置しておりません」としたうえで、オリエント監査法人と監査契約を結び、特例110条5項に基づく財務諸表の監査(中間は期中レビュー)を受けています。TPMの機関設計の要件を規程の条文で確認したわけではないため一般化は避けますが、少なくとも上場のための監査証明は必要であり、「監査が不要」ということではありません。
同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行わないため、上場時の資金調達はありません。対処すべき課題では、金融機関との取引関係の深化による融資枠の拡大や自己資本の充実を掲げています。上場後の資金調達の方針について、発行者情報に具体的な記載はありません。
同社は従業員16名(2026年8月31日現在)で、独立した内部監査部門は置かず、事業部と管理部のクロス監査で内部監査を行っています。TPMではガバナンス・内部管理体制が「企業の規模や成熟度等に応じて」整備・機能しているかが確認されるため、規模に見合った仕組みを記録で示せることが重要です。
JPXの新規上場会社情報によると、申請受付が2026年9月8日、上場承認が9月25日、上場予定日が10月13日です。申請から承認までは10営業日で、その前にJ-Adviserの調査と意向表明(申請の約30営業日前まで)が必要です。
最初の一歩は「自社の現状把握」から
TPMは形式基準がない分、「自社の規模に応じた体制ができているか」を自ら説明する必要がある市場です。東京みらい不動産のように、監査の受け方、代表者との取引の整理、少人数での内部監査、借入と在庫の説明など、論点は会社ごとに異なります。まずはショートレビューで課題を洗い出し、監査法人とJ-Adviserの選定、規程と体制の整備の順序を決めることが近道です。
まとめ
東京みらい不動産は、同業者を主要取引先とするBtoB型の不動産買取再販を中心に事業を展開する会社で、2026年9月25日に上場承認を受け、10月13日にTOKYO PRO Marketへ上場する予定です。特定投資家向け取得勧誘等を行わず、直前1期の監査を受けた発行者情報で申請し、中間期の記載を訂正発行者情報で追加しました。申請受付(9月8日)から上場承認までは10営業日で、担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。
発行者情報からは、上場準備コストによる増収減益、借入金と在庫に依存する財務構造、創業者が実質100%を持つ株主構成と資産管理会社への株式移動、代表者保証の解消、クロス監査による内部監査など、小規模な会社がTPMを使う際の論点を具体的に読み取ることができます。形式基準がないTPMだからこそ、「何を、どの水準で説明できるか」を自社で整えておくことが大切です。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「東京みらい不動産 発行者情報」(2026年9月8日公表)
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「東京みらい不動産 訂正発行者情報」(2026年9月30日公表)
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ「上場廃止の決定:(株)AlbaLink」(2025年11月11日)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
あわせて読みたい