MabGenesisのIPO|優先株式の普通株式化とクロス型の内部監査【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

MabGenesis株式会社(証券コード653A)は、2026年9月28日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年11月2日に東証グロース市場へ上場する予定です。藤田医科大学と宮崎大学で開発された抗体取得技術をもとに2019年6月に設立された会社で、イヌ・ネコ用の抗体医薬品の「種」となる抗体を見つけ、その権利を動物用医薬品企業に導出(ライセンス供与や権利譲渡)して収益を得ています。Ⅰの部に記載された第3期から第6期までは損失が続いていましたが、直前期(2026年3月期)は売上高337,548千円で経常利益・当期純利益とも黒字となりました。従業員は13名という、少人数の研究開発型企業です。

本記事では、同社が提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、事業と業績、資本政策、ガバナンス、内部監査、会計・開示の論点を整理し、上場準備会社が自社の準備に生かせるポイントを解説します。結論からいえば、MabGenesisのケースは「優先株式を取得条項で普通株式にそろえ、株式分割・単元株の採用までを上場前の数か月で順序よく片付ける資本政策」と「従業員13名の小さな組織でも、部門の担当者どうしのクロス監査と全員社外の監査役会で牽制を効かせる管理体制」の2点で、研究開発型の上場準備会社にとって参考になる事例です。

MabGenesisはどんな会社で、いつどの市場に上場するのか?

MabGenesis株式会社(英訳名 MabGenesis Inc.)は、2019年6月に東京都中央区で設立され、2020年1月に本社を横浜市港北区へ移しました。現在の本店は神奈川県横浜市港北区新横浜三丁目です。決算期は3月31日で、2026年3月期が第7期にあたります。

Ⅰの部の提出日は2026年9月28日で、同日に上場承認を受けています。上場予定日は2026年11月2日、市場は東証グロース市場です。子会社・関連会社はなく、財務諸表は単体のみです。研究拠点は名古屋大学内と宮崎大学内にあり、いずれも契約に基づいて大学の施設を研究所として使っています。

従業員数は2026年8月31日現在で13名(ほかに臨時雇用者2名)、平均年齢は47.8歳、平均勤続年数は4.6年、平均年間給与は5,369,903円です。製薬会社や研究機関で経験を積んだ人材が中心の、少人数の研究開発組織であることがわかります。

項目 内容
社名 MabGenesis株式会社(MabGenesis Inc.)
証券コード・市場 653A・東証グロース市場
上場承認日 2026年9月28日
上場予定日 2026年11月2日
設立 2019年6月(東京都中央区で設立、2020年1月に横浜市港北区へ本社移転)
本店所在地 神奈川県横浜市港北区新横浜三丁目7番18号
代表者 代表取締役 新庄 勝浩
決算期 3月31日
事業 動物用(イヌ・ネコ)抗体医薬品の研究開発(医薬品の研究開発事業の単一セグメント)
従業員数 13名〔臨時雇用者2名、外数〕(2026年8月31日現在)
財務諸表 単体(関係会社なし)
会計監査人 三優監査法人
Ⅰの部提出日 2026年9月28日

Ⅰの部とⅡの部の違いや、上場申請書類の全体像についてはⅠの部とⅡの部は何が違うかで解説しています。

MabGenesisは何で稼ぐビジネスなのか?

同社の基盤は、自社で構築したイヌとネコのファージディスプレイ抗体ライブラリー(「イヌMOURAライブラリー」「ネコMOURAライブラリー」)と、そこから目的の抗体を効率よく取り出すモノクローナル抗体単離技術です。Ⅰの部によると、各MOURAライブラリーは約10億種類の抗体から構成されており、同社は藤田医科大学と宮崎大学が保有するファージディスプレイ抗体技術に関するノウハウの独占実施権の許諾を受けて創業しました。

収益の基本構造は「導出」です。同社が取得した抗体について、その開発・製造・販売の権利を製薬企業(パートナー)にライセンス供与または譲渡し、その対価を受け取ります。抗体の特性評価に必要な試験の一部は、大学等との共同研究や医薬品開発業務受託機関(CRO)への委託も活用していると記載されています。

MabGenesisの事業モデル(導出型の創薬ビジネス)藤田医科大学宮崎大学(技術・ノウハウ)MabGenesisイヌ・ネコMOURAライブラリー+単離技術パートナー動物用医薬品企業(開発・製造・販売)対価一時金・マイルストーンロイヤリティプロジェクトは2種類自社プロジェクト(自社で標的設定)共同研究プロジェクト(標的を合意)独占許諾権利を導出対価の受領

図1 大学から独占的に許諾を受けた技術で抗体を取得し、その開発・製造・販売の権利を製薬企業に導出して対価を得る(Ⅰの部 事業の内容をもとに作成)

プロジェクトには2つの種類があります。1つは、同社が自ら標的抗原を設定して抗体を取得し、一定の前臨床試験を経てパートナーへ導出する「自社プロジェクト」。もう1つは、パートナーと標的抗原や抗体の品質条件について合意したうえで共同研究契約を結び、条件を満たした抗体を導出する「共同研究プロジェクト」です。共同研究では、1つの標的抗原について1社とだけ独占的に契約し、パートナーの判断で中止された場合には独占的権利が消滅して自社プロジェクトとして継続できるよう、可能な限り契約で定めているとされています。実際に2件の共同研究がパートナーの判断で中止され、現在は自社プロジェクトとして続けていると記載されています。

2026年8月末時点のパイプラインは19件です。前臨床段階が7件で、そのうち4件はCeva Santé Animale S.A.(以下 Ceva社)、Virbac S.A.(以下 Virbac社)、日本曹達株式会社、共立製薬株式会社へ導出済みです。探索段階のペット用プロジェクトは11件で、そのうち10件は国内外の大手動物薬企業との共同研究です。ほかに、すい臓がんを適応としたヒト用抗体の共同研究を国内の公的研究機関と行っています。

受け取る対価は、Ⅰの部の「当社の収益構造」で5つに区分されています。契約時一時金(アップフロント)、共同研究の進捗に応じた研究マイルストーン、導出後の開発進展や承認取得に応じた開発マイルストーン、製品売上の一定料率の販売ロイヤリティ、年間売上が所定額に達したときの販売マイルストーンです。事業等のリスクでは、現時点の収益構造は契約時一時金と研究開発段階でのマイルストーン達成等に伴う一時金収入が中心と説明されており、経営戦略では2030年以降にパートナーによる製品の製造販売開始を見込むとしています。

収益の種類と受け取るタイミング契約時一時金契約締結時研究マイルストーン共同研究の進捗開発マイルストーン導出後の開発進展販売ロイヤリティ製品売上の一定率販売マイルストーン年間売上の到達現在の収益の中心(一時金・研究開発段階のマイルストーン)製品化後(2030年以降を見込む)

図2 Ⅰの部の「当社の収益構造」の5区分。現時点の収益は契約時一時金と研究開発段階のマイルストーンが中心で、ロイヤリティ等は製品化後に見込むものと説明されている(Ⅰの部 事業の内容・事業等のリスク・経営戦略をもとに作成)

上場準備の観点で注目したいのは、契約内容の開示の仕方です。共同研究や導出済みのプロジェクトについて、動物種・標的分子・適応疾患・開発ステージ・契約の経済条件はパートナーの機密情報に当たるとして開示を控え、「重要な契約等」に記載した各契約とパイプラインとの対応関係も示していません。そのうえで、この開示の制約そのものを「契約内容及びパイプライン等の情報開示に関する事項」として事業等のリスクに掲げ、発生可能性を「大」としています。守秘義務と開示の要請がぶつかる場面で、「何を開示しないか」と「開示しないことで投資家に何が起こり得るか」を明記する書き方は、ライセンス型の事業を営む会社の参考になります。

目標とする経営指標については、契約一時金やマイルストーンによる売上高は将来の製造販売開始後の事業価値を正確に反映していないとして、経営指標等は定めていません。その代わりに、各パイプラインの研究開発の進捗状況と、ポートフォリオの充実状況を四半期ごと又は適宜モニタリングし、視覚化して開示していくとしています。グロース市場では事業計画と成長可能性に関する説明が重視されるため、売上高や利益以外の何を進捗の物差しにするかを早めに決めておくことが大切です(グロース市場の「高い成長可能性」とは)。

設立から上場承認までどのような道のりをたどったのか?

Ⅰの部の沿革によると、同社は2019年6月の設立後、2019年12月にシードラウンド、2020年5月にシリーズA-1の第三者割当増資を行いました。2020年9月に完全イヌ型抗体ライブラリーが完成してイヌ抗体創薬事業を始め、2021年11月には完全ネコ型抗体ライブラリーが完成してネコ抗体創薬事業を開始しています。

提携の面では、2021年2月にCeva社、2021年12月にBoehringer Ingelheim Animal Health、2023年4月に共立製薬株式会社、2024年12月にMSD Animal Health(以下 MSD AH)と共同研究契約を結び、2024年4月にCeva社、2025年2月にVirbac社、2026年3月に日本曹達株式会社と抗体の譲渡契約を締結しました。大学との関係では、2021年4月に宮崎大学に共同研究講座を、2022年11月に名古屋大学に産学協同研究講座を開設しています。

MabGenesisの沿革(主要イベント)2019年6月会社設立2020年9月イヌ型抗体ライブラリー完成2021年3月取締役会設置会社へ移行2021年11月ネコ型抗体ライブラリー完成2022年11月シリーズB第三者割当2024年4月Ceva社と抗体の譲渡契約2024年12月シリーズB増資MSD AHと契約2025年2月Virbac社と抗体の譲渡契約2026年3月日本曹達と抗体の譲渡契約2026年11月東証グロース上場予定

図3 設立から上場承認までの主な出来事(Ⅰの部の沿革をもとに作成。上場予定日は2026年11月2日)

ガバナンス面の節目としては、2021年3月に取締役会設置会社へ移行し、2024年6月に監査役会を設置しています。会計監査は三優監査法人が担当しており、継続監査期間は2年間と記載されています。主要な経営指標等の推移では、第6期(2025年3月期)と第7期(2026年3月期)の財務諸表が同監査法人の監査を受けており、第3期から第5期は会社計算規則に基づく数値で監査証明を受けていない旨が注記されています。

上場申請の直前々期と直前期の2期分について監査を受けることは、IPOスケジュールの前提になります。監査契約の時期が遅れると申請時期そのものが後ろにずれるため、監査法人はいつまでに決めるかも参考に、N-2期の期首より前に監査法人との関係を作っておくことをおすすめします。

業績はどのように推移し、どう読めばよいのか?

同社の売上高は、第3期(2022年3月期)は計上がなく、第4期3,820千円、第5期66,161千円、第6期144,459千円、第7期337,548千円と増加しています。経常損益は第3期から第6期まで損失(△118,149千円、△119,310千円、△147,911千円、△103,525千円)が続き、第7期に36,436千円の経常利益となりました。当期純損益も同様に、第7期に36,131千円の当期純利益を計上しています。

回次(決算年月) 売上高 経常損益 当期純損益 純資産額 自己資本比率
第3期(2022年3月) - △118,149 △118,454 84,519 94.4%
第4期(2023年3月) 3,820 △119,310 △119,615 314,104 95.2%
第5期(2024年3月) 66,161 △147,911 △148,215 165,888 71.3%
第6期(2025年3月) 144,459 △103,525 △103,830 532,058 92.5%
第7期(2026年3月) 337,548 36,436 36,131 568,190 97.2%

(単位:千円。Ⅰの部 主要な経営指標等の推移より。第3期〜第5期は監査証明を受けていない数値)

売上高の推移(単体、百万円)01002003004002022/3期2023/3期2024/3期2025/3期2026/3期計上なし3.866.1144.4337.5第3期第4期第5期第6期第7期

図4 第3期(2022年3月期)から第7期(2026年3月期)までの売上高。第3期は売上高の計上なし。第3〜5期は会社計算規則に基づく数値で監査証明を受けていない(Ⅰの部 主要な経営指標等の推移をもとに作成、百万円未満切捨て)

第7期の売上高が前期比133.7%増となった主な理由について、Ⅰの部は新規の共同創薬研究契約の締結を挙げています。具体的には、Ceva社と3件、MSD AHと4件、日本曹達株式会社と2件の共同研究契約を新たに結んで契約一時金を受け取ったほか、共立製薬株式会社との共同研究で特許共同出願のマイルストーン、MSD AHとの共同研究で初回の研究マイルストーンを達成しました。さらに自社プロジェクトのネコ用サイトカイン抗体を第4四半期に日本曹達株式会社へ導出し、契約一時金を受領しています。

費用面では、販売費及び一般管理費が300,250千円(前期258,259千円)で、そのうち研究開発費が158,939千円です。増加の主な理由は、事業推進部の役員就任による体制強化で役員報酬が48,000千円(前期36,000千円)となったことと説明されています。営業利益は35,876千円(前期は116,285千円の営業損失)でした。

第7期(2026年3月期)の売上高から営業利益まで(百万円)売上高337.5売上原価-1.4研究開発費-158.9その他販管費-141.3営業利益35.9

図5 売上高337.5百万円から売上原価・研究開発費・その他の販売費及び一般管理費を差し引くと営業利益35.9百万円となる。研究開発費は一般管理費に含まれる(Ⅰの部 損益計算書・注記をもとに作成、百万円未満は四捨五入)

一方で、直近の第8期第1四半期累計期間(2026年4月〜6月)は、売上高41,857千円、営業損失37,198千円、四半期純損失36,970千円です。この期間には、Ceva社との共同研究で欧州特許庁への特許出願のマイルストーンを達成し、MSD AHとは既存3プロジェクトの標的分子の変更契約に合意して契約一時金を受け取っています。Ⅰの部では、第2四半期以降に研究開発マイルストーンの達成と契約一時金の受領を、第3四半期以降に自社プロジェクトの導出契約の締結を見込むと記載されています。なお、この四半期財務諸表はⅠの部の「その他」に掲載されたもので、監査ではなく三優監査法人の期中レビューを受けたものです。

一時金とマイルストーンが収益の中心である以上、四半期ごと、さらには年度ごとの売上高は契約の締結時期や研究の進捗に左右されます。同社も事業等のリスクで「収益の変動性」を発生可能性「中」・影響度「中」と評価し、相手方の任意解除権や支配権の移転を理由とする解除権などの契約終了事由があることも記載しています。

主要な販売先と売上高に占める割合第7期(2026年3月期)売上高 337,548千円日本曹達株式会社130,000千円(38.5%)MSD Animal Health98,392千円(29.1%)Ceva Santé Animale70,268千円(20.8%)第8期第1四半期累計期間 売上高 41,857千円MSD Animal Health29,675千円(70.9%)Ceva Santé Animale9,832千円(23.5%)

図6 第7期と第8期第1四半期累計期間の主な相手先別の販売実績。割合が10%未満の相手先は記載が省略されている(Ⅰの部 生産、受注及び販売の実績をもとに作成)

販売先は少数の大手企業に集中しています。第7期は日本曹達株式会社が130,000千円(38.5%)、MSD AHが98,392千円(29.1%)、Ceva社が70,268千円(20.8%)で、第8期第1四半期累計期間はMSD AHが29,675千円(70.9%)、Ceva社が9,832千円(23.5%)でした。地域別では、第7期の売上高のうち日本が162,221千円、欧州が76,934千円、米国が98,392千円です。金融商品の注記では、第6期末・第7期末とも営業債権の100%が特定の大口顧客に対するものと記載されています。

キャッシュ・フローを見ると、第7期の営業キャッシュ・フローは11,567千円の収入、投資キャッシュ・フローは研究開発用機器の取得などで44,732千円の支出、財務キャッシュ・フローはゼロでした。期末の現金及び現金同等物は451,906千円で、借入金はありません。主な資金需要は研究開発費で、過去の増資資金と株式公開による資金調達で賄う予定と記載されています。設備の新設計画として、フローサイトメトリー(20,000千円)、セルサイトソーター(50,000千円)、抗体の親和性測定機器(50,000千円)を増資資金で取得する予定も示されています。

グロース市場の審査では、利益の額そのものよりも、事業計画が合理的に作られ、その前提が説明できるかが問われます。グロース市場の実質審査基準は「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点」の5つです。マイルストーン型の収益を計画に織り込む場合は、契約ごとの達成条件と時期の見立て、達成しなかった場合の影響をセットで説明できるようにしておく必要があります(IPO審査の「事業計画の合理性」)。

資本政策と株主構成はどうなっているのか?

MabGenesisの資本政策は、普通株式に加えてA-1種優先株式とB種優先株式を使い、大学系のベンチャーキャピタル(VC)や地域ファンド、事業会社から資金を集めてきた点に特徴があります。発行済株式総数、資本金等の推移には、2022年以降の増資と減資が次のように記載されています(株式数・価格はいずれも2026年6月の株式分割前のものです)。

年月日 内容 資本金残高
2022年9月30日 普通株式640株を発行(発行価格30,000円)。割当先は長久厚氏、古田晃浩氏、小泉信一氏、河合昭好氏、新庄勝浩氏 109,600千円
2022年11月24日〜12月2日 B種優先株式8,250株を発行(発行価格40,000円)。割当先は大学系ファンド等4者 274,600千円
2023年3月22日 資本金174,600千円・資本準備金22,284千円を減少し、その他資本剰余金の全額を欠損填補に充当 100,000千円
2024年12月23日 B種優先株式11,750株を発行(発行価格40,000円)。割当先はファンド3者 335,000千円
2025年3月27日 資本金245,000千円・資本準備金22,831千円を減少し、その他資本剰余金の全額を欠損填補に充当 90,000千円
2026年6月11日 A-1種優先株式13,000株・B種優先株式20,000株を取得し、普通株式33,000株を交付(同日消却) 90,000千円
2026年6月30日 普通株式1株を100株に分割(発行済株式総数7,114,000株) 90,000千円
資本政策の時系列(設立から上場予定まで)2019年12月シード第三者割当2020年5月シリーズA-1第三者割当2022年9月普通株式640株1株30,000円2022年11月B種優先8,250株1株40,000円2023年3月減資・欠損填補2024年12月B種優先11,750株1株40,000円2025年3月減資・欠損填補2025年3月・5月SO第4回・第5回を付与2026年6月優先株を普通株へ1株→100株に分割2026年11月東証グロース上場予定

図7 第三者割当増資、2回の減資・欠損填補、ストック・オプション、種類株式の普通株式化と株式分割の順序。発行価格は株式分割(2026年6月30日、1株→100株)前の金額(Ⅰの部 沿革・発行済株式総数、資本金等の推移をもとに作成)

2回の減資・欠損填補は何のためか?

同社は2023年3月と2025年3月の2回、臨時株主総会の決議により資本金と資本準備金を減少させ、生じたその他資本剰余金の全額を繰越利益剰余金の欠損填補に充てています。目的は「資本政策の柔軟性・機動性を確保すること」と記載されています。第6期の株主資本等変動計算書を見ると、期首の繰越利益剰余金△267,831千円が、減資によるその他資本剰余金267,831千円の充当でゼロに戻り、そこから当期純損失103,830千円が加わって期末は△103,830千円となっています。

実務上の注意点として、欠損填補はその他資本剰余金と繰越利益剰余金の間の振替なので、振替そのもので分配可能額は変わりません。資本金・資本準備金の減少によって欠損(剰余金のマイナス)は解消されますが、生じたその他資本剰余金を全額填補に充てた場合、剰余金はゼロになるだけで、配当の原資が生まれるわけではありません。資本金の額の減少には会社法447条、資本準備金の額の減少には448条による株主総会決議が必要で、さらに449条の債権者異議手続(官報公告・知れている債権者への個別催告)が必要です。研究開発型の会社では、資本金の額が税務上の扱いなどに影響することもあり、減資を検討する場面は少なくありませんが、目的と効果を取締役会・株主に説明できるよう整理しておくことが大切です。なお、同社の配当政策には、繰越利益剰余金がマイナスであることなどを理由に当面は配当を行わない方針が記載されています。

優先株式はどのように普通株式へそろえられたのか?

上場前の資本政策で最も手順が多いのが、種類株式の整理です。同社は2026年5月25日の臨時取締役会で、A-1種優先株式とB種優先株式の全部を定款に定める取得条項に基づいて取得することを決議し、2026年6月11日に自己株式として取得しました。対価は優先株式1株につき普通株式1株です。取得した優先株式は同日の臨時取締役会決議により消却し(会社法178条)、2026年6月26日の定時株主総会で、種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止しています。

続いて、2026年6月30日付で普通株式1株を100株に分割し、同日から1単元を100株とする単元株制度を採用しました。株式分割の目的は、投資単位当たりの金額を引き下げて投資家が投資しやすい環境を整え、流動性を高めることと説明されています。発行可能株式総数は、発行済株式数の4倍以内という上限の範囲で28,456,000株に変更されています。

種類株式を普通株式にそろえる手続(2026年5〜6月)5月25日臨時取締役会取得を決議6月11日取得条項で取得普通株を1:1交付6月11日取得した優先株を消却6月26日定時総会で種類株の定め廃止6月30日1株→100株単元100株優先株式 33,000株A-1種13,000株・B種20,000株普通株式 71,140株(交付33,000株を含む)普通株式 7,114,000株(株式分割後)

図8 取得条項に基づく取得と普通株式の交付、消却、定款変更、株式分割までの流れ(Ⅰの部 株式等の状況・重要な後発事象をもとに作成)

この一連の手続は、取締役会の決議(取得と消却)、株主総会の決議(定款変更)、株式分割の基準日公告(2026年6月12日)と基準日(6月29日)がからむため、日程を逆算して組む必要があります。特別利害関係者等の株式等の移動状況にも、6月11日付で大株主のファンド等が優先株式を手放し、同数の普通株式を受け取った移動が「価格-」で記載されています。種類株式の整理をいつ、どの順番で行うかについては種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかもあわせてご覧ください。

大株主はだれで、株式はどう分布しているのか?

Ⅰの部の株主の状況(第四部)では、新株予約権による潜在株式を含めた7,676,000株に対する割合で大株主が示されています。上位は、名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー2号投資事業組合(15.96%)、九州広域復興支援投資事業有限責任組合(13.03%)、代表取締役の新庄勝浩氏(12.43%)、従業員の黒澤仁氏(12.12%)、アクシル・ライフサイエンス&ヘルスケアファンド2号投資事業有限責任組合(8.14%)です。黒澤仁氏は創業時の技術の担い手の1人で、現在は当社従業員で最高技術責任者と記載されています。同じく創業時の技術に関わった森下和広氏(6.25%)も当社従業員です。

大株主上位10名(Ⅰの部記載時点)名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー2号15.96%九州広域復興支援投資事業有限責任組合13.03%新庄 勝浩(代表取締役)12.43%黒澤 仁(従業員)12.12%アクシル・ライフサイエンス&ヘルスケア2号8.14%小泉 信一(取締役)6.64%(株)アニヴェルセルHOLDINGS6.51%森下 和広(従業員)6.25%柴崎 友一朗(従業員)4.40%みやぎん宮崎大学夢応援投資事業有限責任組合3.26%ファンド(VC等)役員・従業員事業会社

図9 所有割合は、自己株式を除く株式数に新株予約権による潜在株式を加えた7,676,000株に対する割合で、上場申請時点(Ⅰの部記載時点)のもの。公募・売出し後の上場時の比率ではない(Ⅰの部 第四部 株主の状況をもとに作成)

これらの割合は上場申請時点(Ⅰの部の記載時点)のものであり、公募・売出し後の上場時の比率とは異なる点に注意してください。所有者別状況(2026年8月31日現在)では、株主数は18名で、その他の法人が56.93%、個人その他が43.07%です。事業等のリスクでは、VC等及び事業会社の所有割合が本書提出日現在56.9%であり、上場後に株式が売却されれば需給が短期的に損なわれる可能性があると説明し、発生可能性を「大」としています。

流通株式の計算では、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが流通株式から除かれます。VCの持分がどう扱われるかは保有割合などによって変わるため、流通株式数の数え方とベンチャーキャピタルの持株は流通株式から除かれるかで整理しておくと安心です。

直前の第三者割当とストック・オプションの価格はどう決められたのか?

第四部の「第三者割当等の概況」には、2024年12月23日のB種優先株式、2025年3月27日の第4回新株予約権、2025年5月30日の第5回新株予約権の3件が記載されています。株式分割後の数値で、B種優先株式は1,175,000株を1株400円(発行価額の総額470,000,000円)で、アクシル・ライフサイエンス&ヘルスケアファンド2号に625,000株、九州広域復興支援投資事業有限責任組合に500,000株、みやざき未来応援3号ファンドに50,000株を割り当てています。第4回・第5回の新株予約権の行使時の払込金額はいずれも1株130円です。

価格の算定方法については、株式の発行価額及び行使に際して払い込むべき金額を、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。上場前の株価算定は、審査で「なぜその価格なのか」を必ず確認される論点です。直前の増資価格とストック・オプションの行使価格の関係、算定の前提となった事業計画との整合性を、算定書とともに説明できるようにしておきましょう(未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。

ストック・オプションはどのように設計されているのか?

Ⅰの部のストック・オプション等関係の注記には、第1回から第5回までの新株予約権が記載されています。株式分割後の数値で、第1回(2021年11月22日付与、20,000株、行使価格60円)、第2回(2023年3月29日付与、72,000株、300円)、第3回(2024年3月29日付与、149,000株、300円)、第4回(2025年3月27日付与、349,000株、130円)、第5回(2025年5月30日付与、193,000株、130円)です。このうち第2回と第3回は、第6期(2025年3月期)に全数が失効しています。失効の理由はⅠの部には記載されていません。

ストック・オプション(新株予約権)の各回回付与日株式数行使価格Ⅰの部記載時点の状況第1回2021年11月22日20,000株60円未行使(上場まで行使不可)第2回2023年3月29日72,000株300円第6期に全数失効第3回2024年3月29日149,000株300円第6期に全数失効第4回2025年3月27日349,000株130円未行使(上場後に段階行使)第5回2025年5月30日193,000株130円未行使(上場後に段階行使)

図10 株式数と行使価格は2026年6月30日の株式分割(1株→100株)後の数値。第2回・第3回は第6期(2025年3月期)に全数が失効している(Ⅰの部 ストック・オプション等関係の注記をもとに作成)

第4回の付与対象者は取締役3名・監査役3名・従業員14名、第5回は取締役4名・監査役3名・従業員13名で、監査役にも付与されています。第四部の取得者の概況では、社外取締役や社外監査役を含む役員への割当株数が個別に開示されています(例:第4回では前田龍氏38,000株、新庄勝浩氏30,000株、河合昭好氏20,000株、初澤寛成氏20,000株など)。株主の状況の合計欄によると、新株予約権による潜在株式は562,000株で、潜在株式を含む株式総数7,676,000株の7.32%にあたります。

第4回・第5回の行使条件には、いくつかの特徴があります。上場日を経過するまでは一切行使できず、上場後も「上場日から12カ月間は割当総数の50%」「その後の12カ月間は80%」「上場日から24カ月経過後は100%」と、行使できる割合が段階的に広がります。権利行使時に当社または子会社の取締役・執行役・監査役・従業員または社外協力者の地位にあることが原則として求められ、相続人による行使はできません。一方で、定義された「買収」について株主総会等の承認決議が行われた日以降は行使できる定めも置かれています。

第4回・第5回ストック・オプションの行使条件上場日まで行使不可上場日から12カ月割当総数の50%までその後の12カ月割当総数の80%まで24カ月経過後割当総数の100%権利行使時の地位当社・子会社の取締役、執行役、監査役、従業員又は社外協力者であること主な例外・その他任期満了退任・当社都合退職・取締役会承認相続人は行使不可、買収時は行使可

図11 上場日を経過するまでは行使できず、上場後も割当総数に対する行使可能割合が段階的に広がる設計(Ⅰの部 新株予約権等の状況をもとに作成)

段階行使の条件は、上場直後に権利行使と売却が集中することを抑え、役職員に中長期で在籍してもらう動機づけになります。社外協力者を対象に含める場合は、契約書の内容(役務の範囲や期間)と付与の目的を明確にしておくことが、審査でも税務でも重要です。

会計処理の面では、両事業年度とも「ストック・オプションに係る費用計上額」は該当なしとされています。同社は未公開企業であるため、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値を見積る方法を採り、その基礎となる株式の評価にはDCF法を用いたと記載されています。付与日における公正な評価単価は「-」、期末の本源的価値の合計額も「-千円」です。未公開企業では本源的価値による見積りが認められていますが、行使価格の決め方次第で費用が発生し得るため、株価算定と行使価格の関係を事前に確認しておく必要があります。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例も参考になります。

継続所有の確約はどの割当てに求められたのか?

有価証券上場規程施行規則268条は、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に第三者割当等による募集株式の割当てを行った場合に、割当てを受けた者との間で継続所有等の確約を求めています。役員・従業員等への報酬としての新株予約権については272条が同様の確約を求めています。同社の基準事業年度の末日は2026年3月31日です。

Ⅰの部では、2024年12月23日のB種優先株式と2025年3月27日の第4回新株予約権の確約欄が「-」で、2025年5月30日の第5回新株予約権について、施行規則272条1項1号に基づき、原則として割当日から上場日の前日または行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を行ったと記載されています。上場前の割当てであればすべてに確約が必要というわけではなく、時期によって対象が分かれる点を押さえておきましょう。なお、主幹事証券との間で結ぶロックアップの合意は、この継続所有の確約とは別の制度です。

上場前の割当てと継続所有等の確約(このケースの当てはめ)基準事業年度の末日:2026年3月31日割当日は基準事業年度の末日から起算して1年前より後か対象外(確約欄は「-」)B種優先株式(2024年12月23日)第4回新株予約権(2025年3月27日)確約あり(施行規則272条)第5回新株予約権(2025年5月30日)割当日から上場日の前日等まで所有いいえはい

図12 有価証券上場規程施行規則268条(第三者割当等による募集株式)・272条(報酬としての新株予約権)は、基準事業年度の末日から起算して1年前より後の割当てを対象とする。Ⅰの部では第5回新株予約権のみ確約欄に記載がある(Ⅰの部 第四部 第三者割当等の概況をもとに作成)

上場直前期に増資やストック・オプションの付与を行う場合は、確約の対象になるかどうかで手続と書類の準備が変わります。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

コーポレート・ガバナンスはどのような体制なのか?

同社は会社法上の機関として取締役会と監査役会を置く監査役会設置会社です。取締役会が迅速かつ機動的な意思決定と取締役の職務執行の監督を行い、監査役・監査役会が独立した立場から職務執行を監査することで実効性を確保すると説明しています。あわせて、取締役会と代表取締役から一定の範囲で業務執行権限を委譲する執行役員制度を導入し、意思決定・監督機能と業務執行機能の分離を図っています。

取締役会は、代表取締役の新庄勝浩氏を議長とし、取締役の小泉信一氏・前田龍氏、社外取締役の河合昭好氏・山口時男氏の5名で構成され、原則月1回開催されます。監査役会は、常勤監査役の工藤利秋氏を議長とし、非常勤監査役の初澤寛成氏・西井大輔氏の3名で構成され、3名とも社外監査役です。会計監査人は三優監査法人です。

MabGenesisの機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会(5名)うち社外取締役2名・原則月1回監査役会(3名)全員社外・常勤1名・毎月1回代表取締役新庄 勝浩会計監査人三優監査法人内部監査担当者(3名)各部の担当者が相互に監査執行役員会議(月2回)リスク・コンプライアンス委員会選任選任選定・監督監査連携任命・報告議長・委員長

図13 取締役5名(うち社外2名)、監査役3名(全員社外、常勤1名)。執行役員制度を採用し、執行役員会議とリスク・コンプライアンス委員会を置く(Ⅰの部 コーポレート・ガバナンスの概要をもとに作成)

業務執行側の会議体としては、代表取締役を議長とし、取締役2名と執行役員2名(事業推進部長の柴崎友一朗氏、管理部長の山本和規氏)で構成する執行役員会議が原則隔週(月2回)開かれ、常勤監査役がオブザーバーとして参加しています。また、代表取締役を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会が「リスク・コンプライアンス規程」に基づいて設置され、定例で四半期に1回、必要に応じて社外役員を含めて臨時に開催されます。

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の略歴より要約)
代表取締役 新庄 勝浩 鐘淵化学工業、ファイザー(中央研究所 生物科学研究部長)、生化学工業、日本イーライリリー(エランコアニマルヘルス研究開発部長)を経て2019年11月就任。獣医学博士
取締役(事業推進部管掌) 小泉 信一 日本チバガイギー、ファイザー、ラクオリア創薬(取締役専務執行役員)等。2025年4月就任
取締役(執行役員研究開発部長) 前田 龍 理化学研究所、ジーンテクノサイエンス(開発部部長)等を経て2021年10月入社、2024年4月取締役
社外取締役 河合 昭好 ファイザー(創薬化学第1研究部長)、国立長寿医療研究センター等。2021年3月就任
社外取締役 山口 時男 山之内製薬(現アステラス製薬)薬理研究所所長、理化学研究所等。2026年7月就任
常勤社外監査役 工藤 利秋 明治製菓(現Meiji Seikaファルマ)研究開発管理部長・監査部専任部長、他社の常勤社外監査役。2024年10月就任
社外監査役 初澤 寛成 弁護士。2021年3月就任
社外監査役 西井 大輔 公認会計士・税理士。2024年4月就任

取締役会と監査役会はどのくらい開かれているのか?

最近事業年度(2026年3月期)の取締役会は17回開催され、在任していた取締役は全員が17回すべてに出席しています。社外取締役の澤邉岳彦氏は2026年6月26日付で退任し、山口時男氏が2026年7月1日付で就任しました。取締役会では、年度予算・中期経営計画の策定、社内規程の制定・改定、ストック・オプションの発行などを審議・決議したと記載されています。

監査役会は2024年6月に設置され、月1回開催されています。2026年3月期は15回開催で、3名とも15回すべてに出席しました。監査役の構成は、製薬会社で研究開発・管理・監査の経験を持つ常勤監査役、弁護士、財務・会計に相当程度の知見を持つ公認会計士という組合せです。監査役会設置会社では、会社法上、監査役3名以上・その半数以上が社外監査役・常勤監査役1名以上が求められますが、同社は3名全員を社外監査役としています。常勤監査役の選び方は常勤監査役は必要か、機関設計の選択肢は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で詳しく解説しています。

社外役員の独立性については、社外取締役の河合昭好氏が普通株式4,000株と新株予約権300個(30,000株)を、社外監査役の工藤利秋氏・初澤寛成氏・西井大輔氏がそれぞれ新株予約権を保有しているほかは、人的関係、資本的関係又は取引関係その他特別の利害関係はないと記載されています。社外役員に新株予約権を付与する場合は、その目的と規模を説明できるようにしておくことが大切です。なお、グロース市場の上場会社に適用されるのはコーポレートガバナンス・コードの基本原則のみであり、独立社外取締役の人数などは各社の判断になります(社外取締役は何人必要か)。

取締役の兼業もリスクとして開示されています。取締役の小泉信一氏は株式会社AskAtと株式会社坪田ラボを兼業しており、Ⅰの部ではこれらの事業領域は当社と大きく異なり競合しないとしたうえで、将来兼業先が事業領域を変えた場合の影響を事業等のリスクに記載しています。役員の兼業は、利益相反や情報管理の観点から審査で確認されやすい事項であり、競業の可能性と管理方法を整理しておくことが重要です。

役員報酬はどう決めているのか?

同社は2025年6月30日の取締役会で、取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定方針を決議しています。取締役(業務執行取締役・社外取締役とも)の報酬は月例の固定金銭報酬である基本報酬のみで構成され、地位・職責、他社水準、業績、従業員給与の水準を総合的に勘案して、定時株主総会後の取締役会で決定するとしています。株主総会の決議(2025年6月30日)による報酬枠は、取締役が年額2億円以内(使用人兼務取締役の使用人分給与は含まない)、監査役が年額3,000万円以内です。

当事業年度の取締役の個人別の固定報酬額は、取締役会から一任を受けた代表取締役の新庄勝浩氏が決定しており、社外取締役の関与・助言を得て客観性・公平性を担保する措置を講じていると記載されています。最近事業年度の報酬総額は、取締役(社外取締役を除く)が36,000千円(3名)、社外役員が12,000千円(4名)で、すべて固定報酬です。監査役の報酬は、株主総会で決議された枠の範囲内で監査役の協議により決定しています。

役員報酬の決め方株主総会(2025/6/30)取締役 年額2億円以内監査役 年額3,000万円以内取締役会(2025/6/30)個人別報酬等の決定方針を決議代表取締役に一任社外取締役の関与・助言を得る個人別の固定報酬月例の固定金銭報酬(定時総会後に決定)監査役の報酬株主総会の枠内で監査役の協議により決定固定報酬(基本報酬)のみ最近事業年度の報酬総額取締役(社外除く)36,000千円・3名社外役員 12,000千円・4名

図14 取締役・監査役とも固定報酬のみで構成される。取締役の個人別の固定報酬額は、取締役会から一任された代表取締役が決定している(Ⅰの部 役員の報酬等をもとに作成)

報酬の決定方針や代表取締役への委任の内容は、有価証券報告書の記載事項(企業内容等の開示に関する内閣府令)として開示が求められるものです。任意の報酬委員会を置かない場合でも、委任の範囲と、委任された権限が適切に行使されるための措置を具体的に書けるようにしておく必要があります。

関連当事者との取引については、第6期・第7期とも「該当事項はありません」と記載されています。親会社等もありません。関連当事者取引は、上場審査の「企業経営の健全性」で確認される代表的な項目で、取引がないことを示すにも、役員や大株主への定期的な調査と記録が前提になります(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。

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13名の組織で内部監査・内部統制をどう回しているのか?

従業員13名の会社にとって、専任の内部監査室を置くことは簡単ではありません。同社は、研究開発部・事業推進部・管理部のそれぞれに内部監査担当者を置き、担当者が自部門以外を監査する仕組みをとっています。具体的には、管理部は研究開発部の担当者が、研究開発部は事業推進部と管理部の担当者が、事業推進部は研究開発部と管理部の担当者が、それぞれ監査します。Ⅰの部では「小規模組織で実効性がありかつ相互牽制が働く内部監査を行うため」の仕組みと説明され、監査の状況の項では内部監査担当者3名で相互牽制が働く体制と記載されています。

内部監査のクロス監査体制(自己監査の回避)被監査部門\監査する担当者研究開発部の担当者事業推進部の担当者管理部の担当者研究開発部(自部門)○○事業推進部○(自部門)○管理部○-(自部門)代表取締役が内部監査計画を承認担当者が他部門を監査結果を代表取締役に報告被監査部門に改善を指示改善結果の報告・管理部門にも共有三様監査連絡会(監査役・内部監査担当・会計監査人)を四半期に一度開催

図15 専任の内部監査部署を置かず、研究開発部・事業推進部・管理部に置いた内部監査担当者(計3名)が自部門以外を監査する。○は監査を担当する組合せ(Ⅰの部 コーポレート・ガバナンスの概要・監査の状況をもとに作成)

内部監査担当者は代表取締役が任命し、事業年度ごとに内部監査計画を作成して代表取締役の承認を得たうえで監査を行います。監査結果は代表取締役に報告し、被監査部門に改善を指示して、その結果を報告させます。監査結果は内部統制の状況把握のため管理部門にも共有されます。内部統制システムの基本方針では、代表取締役が内部監査の計画、実施の経過と結果を監査役に報告することも定めています。

兼務による内部監査では、担当者が自分の業務を自分で監査する「自己監査」をどう避けるかが最大のポイントです。同社のように担当者を部門ごとに置き、監査する部門と監査される部門の組合せを表で決めておくと、審査でも説明しやすくなります。一方で、兼務者は本来業務との時間配分や監査スキルの確保が課題になりやすいため、監査計画に必要工数を見込み、研修やチェックリストで品質をそろえる工夫が欠かせません(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、内部監査の人数と体制)。

三様監査とリスク管理はどう連携しているのか?

監査役、内部監査担当、会計監査人は、四半期に一度の「三様監査連絡会」を設けて情報と意見を交換しています。監査役とは内部監査報告書等の共有や定期的なコミュニケーションも行っていると記載されています。常勤監査役は、重要な会議への出席、会計監査人・内部監査担当との連携、各部門責任者との個別面談、重要書類の閲覧を通じて情報を集め、他の社外監査役に適時報告しています。三様監査の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)でも解説しています。

リスク管理は、管理部門がリスク管理活動を統括し、リスク・コンプライアンス委員会が会社全体のリスクを把握・分析・評価し、優先的に対応すべきリスクを選んでモニタリングし、取締役会に報告する体制です。内部通報制度の窓口には、社内のほか第三者機関(弁護士事務所)を加えると定め、内部通報規程で通報者が不利益な扱いを受けない旨を規定しています。監査役から求められた場合には、専任または兼任の従業員を監査役スタッフとして配置し、その人事には監査役会の同意を必要とすることも定めています。

情報管理も重要なテーマです。同社は製薬企業の創薬ターゲットに関する情報など社内外の機密情報を扱っており、情報セキュリティのリスクを影響度「大」と評価しています。パートナーの機密を預かるビジネスでは、アクセス権限の管理や社員教育といった統制が、取引継続の前提にもなります。

会計・開示ではどこがポイントになるのか?

一時金とマイルストーンの収益はいつ認識するのか?

収益認識の方法は、第7期の重要な会計方針に区分ごとに記載されています。共同プロジェクトの契約一時金は、契約締結から終了までの履行義務が一時点で充足される場合は充足した時点で収益を計上し、一時点で充足されない場合は契約負債として計上したうえで、履行義務の充足に従い一定期間にわたって収益を認識します。マイルストーン収入は、顧客との契約に定められた条件を達成し履行義務が充足されたと判断した時点で収益を認識します。自社プロジェクトの導出に伴う契約一時金は、導出が完了した時点で一時点で充足されるものとして収益を認識します。コンサルティング(バイオ後続品開発に関する業務委託)は、タイムチャージ方式で算定した対価を毎月報告し、委託者が報告内容を承認した時点で収益を認識しています。

収益の区分と収益を認識する時点共同プロジェクト契約一時金一時点で充足→充足時点で計上一時点でない→契約負債とし一定期間で計上共同プロジェクトマイルストーン収入契約に定めた条件を達成し履行義務が充足された時点で計上自社プロジェクトの導出契約一時金導出が完了した時点で一時点で計上コンサルティングタイムチャージ方式毎月の報告内容を委託者が承認した時点で計上

図16 第7期の重要な会計方針に記載された収益認識の方法を整理したもの(Ⅰの部 注記事項(重要な会計方針)をもとに作成)

ライセンスや共同研究の契約は、1つの契約の中に「研究役務の提供」「知的財産の使用許諾や譲渡」「成果に応じた変動対価」が混在することが多く、収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)のもとで、履行義務をどう識別し、取引価格をどう配分するかが論点になります。同社の注記でも、マイルストーンに係る収益は顧客と合意したマイルストーンの達成まで不確実性が解消しないため、売上高や使用料に基づくロイヤリティは報告を受けるまで不確実性が解消しないため、いずれも残存履行義務に配分した取引価格に含めていないと説明しています。契約ごとに判断の根拠を文書化しておくことが、監査と審査の両方への備えになります(上場審査で問われる収益認識)。

契約負債は、主に共同研究契約に基づいて受け取った研究開発役務に関する前受金で、研究開発役務の進捗や当社の知的財産の利用に関する提供期間の経過に応じて取り崩されます。残高は第6期首49,860千円、第6期末29,111千円、第7期末2,775千円と減少しました。第7期に認識した収益のうち期首の契約負債に含まれていた額は26,336千円です。一方、顧客との契約から生じた債権(売掛金)は第7期末で78,852千円(Ceva社45,852千円、日本曹達株式会社33,000千円)となっています。

契約負債(前受金)と顧客との契約から生じた債権の推移(千円)025,00050,00075,000100,000第6期首(2024/4/1)第6期末(2025/3/31)第7期末(2026/3/31)契約負債債権(売掛金)49,86029,1112,77566043,76178,852

図17 契約負債は主に共同研究契約に基づき受領した研究開発役務に関する前受金で、役務の進捗等に応じて取り崩される(Ⅰの部 注記事項(収益認識関係)をもとに作成)

重要な会計上の見積りには何が挙げられているのか?

重要な会計上の見積りとして、同社は「固定資産の減損」と「繰延税金資産の回収可能性」の2つを挙げています。固定資産については、医薬品の研究開発事業の単一セグメントであることから全社を1つの単位として資産をグルーピングしています。第6期は営業活動から生じる損益が継続してマイナスであることから減損の兆候があると認め、減損損失の認識の要否を判定した結果、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を上回ったため減損損失は計上していません。第7期末の計上額は有形固定資産47,900千円、無形固定資産495千円、長期前払費用15千円です。

割引前将来キャッシュ・フローの見積りは事業計画を基礎としており、開発医薬品の市販を含むマイルストーンの達成時期、研究開発の成功確率、将来予想される医薬品売上高などの仮定が含まれると記載されています。研究開発型の会社では、減損判定に使う事業計画と、上場審査に提出する事業計画、株価算定に使う事業計画が別々に作られて食い違うことがあります。同じ前提から作られているか、違うならなぜかを説明できるよう、計画の版管理をしておくことが大切です。

繰延税金資産は、第6期・第7期とも計上額はゼロです。第7期末では、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産191,431千円の全額に評価性引当額が計上されています。回収可能性は「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)の会社分類に基づいて判断し、課税所得の見積りは取締役会で承認された翌事業年度の予算等を基礎としていると記載されています。第7期の税効果会計適用後の法人税等の負担率は0.8%で、法定実効税率34.0%との差は主に評価性引当額の増減(△34.4%)によるものです。

過年度の数値と監査はどう扱われているのか?

主要な経営指標等の推移の注記には、第6期について為替換算に係る誤謬の訂正を遡及して反映しているため、定時株主総会で承認された計算書類の数値と一部異なる旨が記載されています。同社は海外の企業と外貨建てで取引しており、外貨建金銭債権債務は決算日の直物為替相場で円換算し、換算差額を損益として処理しています。為替変動のリスクは事業等のリスクで影響度「大」とされ、現状はヘッジ取引を行っていないと記載されています。

上場準備の過程で過年度の誤りが見つかった場合は、影響額を集計し、監査法人と相談のうえで修正の方法と開示を決めることになります(過年度の会計処理に誤りが見つかったとき)。外貨建取引のある会社では、換算レートの選び方や換算の手順を規程と手順書で固めておくことが再発防止につながります。

会計監査人は三優監査法人で、業務を執行した公認会計士は吉川雄城氏と鈴木啓太氏、補助者は公認会計士2名とその他5名です。監査報酬は次のとおりで、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、監査公認会計士等の見積提案をもとに、会社の規模・特性、監査計画、監査内容、監査工数等を勘案して協議し、監査役会の同意を得て決定するとしています。

区分 最近事業年度の前事業年度 最近事業年度
監査証明業務に基づく報酬 12,200千円 13,720千円
非監査業務に基づく報酬 - -

このほか、財務諸表等の適正性を確保するための特段の取組として、新日本法規出版のLEGALCONNECTIONの各種手引き等を通じて情報を収集し、会計基準等の内容を把握していると記載されています。未適用の会計基準等としては、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)と後発事象に関する会計基準(企業会計基準第41号)がいずれも2028年3月期の期首から適用予定と記載されています。リース会計基準の適用による影響額は、現時点で評価中とされています。

事業等のリスクと、審査で問われやすい点は何か?

同社の事業等のリスクは、医薬品の研究開発事業一般、事業活動、知的財産、業績・財務・資本政策、人材・組織、自然災害等、その他の7つに分類され、各項目に発生可能性・発生する可能性がある期間・影響度が付されています。冒頭では、創薬事業は本質的に高い不確実性を内包していると述べたうえで、ヒトで製品化されている抗体医薬品と同じ標的抗原に対する動物用抗体医薬品を研究開発することで失敗のリスクを抑えていると説明しています。

事業等のリスク:発生可能性と影響度による整理可能性\影響影響度:小影響度:中影響度:大発生可能性大契約内容・パイプライン情報の開示VC等・事業会社の株式保有(56.9%)(該当する項目なし)発生可能性中研究用資材の調達外部委託新株発行・予約権行使研究開発の不確実性競合製品・契約上の制約収益の変動性・人材依存為替変動発生可能性小医薬品行政・研究所の使用取締役の兼業・知的財産配当政策・社歴の浅さ 等薬機法などの規制市場・技術革新・法的紛争資金繰り・災害 等情報セキュリティ感染症コンプライアンス

図18 Ⅰの部では各リスクに発生可能性・時期・影響度が付されている。主な項目を発生可能性と影響度の組合せで配置した(Ⅰの部 事業等のリスクをもとに作成)

発生可能性が「大」とされたのは、VC等及び事業会社による株式保有と、契約内容及びパイプライン等の情報開示の2項目です。影響度が「大」とされたのは、為替変動、情報セキュリティ、感染症、コンプライアンスです。研究所については、名古屋大学との契約が2026年10月末に期限を迎えるものの3年間の延長に合意して2029年10月末まで使用可能となっていること、宮崎大学との契約は2029年3月末までで、いずれも相手方による解約条項がないことが具体的に書かれています。使用できなくなった場合は県内でレンタルラボを手配し、研究の再開まで半年程度を想定していることまで記載されています。

このケースで審査上問われやすいと考えられる論点を、一般論として整理すると次のとおりです。第一に、収益が少数の大手企業との契約に集中し、一時金やマイルストーンで変動する中で、事業計画の前提をどう説明するか。第二に、大学から独占的に許諾を受けた技術(宮崎大学・藤田学園との契約期間はいずれも2039年まで)や大学内の研究所など、事業の基盤となる契約が継続する見込みをどう示すか。第三に、パートナーとの守秘義務を守りながら、投資家に必要な情報をどこまで開示するか。第四に、少人数の組織で内部統制と内部監査の実効性をどう確保するか、です。リスクの書き方と開示の考え方はIPO審査の「企業内容等の開示の適正性」も参考になります。

上場準備会社がこのケースから学べることは何か?

ここまでの内容をもとに、MabGenesisのⅠの部から上場準備会社が学べるポイントを7つにまとめます。

論点 このケースの事実 上場準備会社への示唆
種類株式の整理 取得条項で取得→普通株式を1:1交付→同日消却→定款の定めを廃止(2026年5〜6月) 取締役会・株主総会・基準日公告の日程を逆算し、株式分割や単元株の採用まで一連で計画する
減資・欠損填補 2023年3月と2025年3月に資本金・資本準備金を減少し欠損填補 目的と効果(欠損は解消するが配当原資は生まれない点を含む)を株主に説明できるよう整理する
株価算定 B種優先株式・新株予約権の価格をDCF法による価格を勘案して決定 増資価格と行使価格、事業計画の整合を算定書とともに説明できるようにする
ストック・オプション 上場後の段階行使、権利行使時の地位要件、確約は第5回のみ 付与時期で継続所有の確約の要否が変わることを踏まえて設計する
ガバナンス 監査役3名全員社外、取締役5名中社外2名、執行役員制度 少人数でも専門性の異なる社外役員で監督と監査の質を確保する
内部監査 専任部署なし、3部門の担当者による相互のクロス監査 監査の組合せを明文化して自己監査を避け、三様監査で補完する
開示 守秘義務で契約条件等を非開示とし、それ自体をリスクとして記載 開示しない情報と、その結果投資家に生じる影響をあわせて書く

なかでも、研究開発型の会社やライセンス型の会社にとっては、「売上高や利益では事業の進捗が測りにくい」という事情をどう説明するかが共通の課題です。同社はパイプラインの進捗とポートフォリオの充実状況を物差しとして示しました。自社の事業で何を進捗の指標にするのかを、上場準備の早い段階から社内で定義し、取締役会の報告資料にも組み込んでおくと、Ⅰの部の記載と審査対応の両方がぶれにくくなります。

上場準備のチェックリスト

  • 種類株式の転換方法(取得条項・取得請求権など)と、定款変更・株式分割・単元株採用までの日程を決めているか
  • 直前期以降の増資・ストック・オプション付与について、継続所有の確約の対象かどうかを確認しているか
  • 株価算定に使った事業計画と、減損判定・審査用の事業計画の前提がそろっているか
  • ライセンス・共同研究契約ごとに、履行義務と収益認識の時点を判断した根拠を文書化しているか
  • 兼務で内部監査を行う場合に、自己監査とならない監査の組合せを規程や計画で定めているか
  • 守秘義務のある契約について、開示する情報・しない情報と、その理由を整理しているか

よくある質問

Q1. 優先株式は上場前に必ず普通株式に転換しなければならないのですか?

このケースでは、取得条項に基づいて優先株式を取得し、対価として普通株式を交付したうえで消却し、定款の種類株式の定めも廃止しています。上場する株式は普通株式であることが一般的で、多くの会社が上場前に種類株式を整理しています。どの方法と時期で行うかは、定款の定めや株主との契約の内容によって変わるため、主幹事証券や弁護士と早めに確認することをおすすめします。

Q2. 監査役全員を社外監査役にする必要はありますか?

会社法上、監査役会設置会社では監査役の半数以上が社外監査役であれば足ります。MabGenesisは3名全員を社外監査役とし、常勤監査役も社外監査役です。社内出身の監査役を置くか、社外から選ぶかは、会社の規模や監査役に求める知見によって判断します。

Q3. 内部監査担当者が他の業務と兼務していても上場できますか?

兼務自体が直ちに問題になるわけではありませんが、自分の担当業務を自分で監査しない仕組みが必要です。このケースでは3部門の担当者が自部門以外を監査する組合せを定め、結果を代表取締役に報告し、監査役・会計監査人とも四半期ごとに連携しています。

Q4. 上場前に付与したストック・オプションには、すべて継続所有の確約が必要ですか?

有価証券上場規程施行規則272条の確約の対象は、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に報酬として割り当てた新株予約権です。このケースでも、第5回は確約の対象、第4回は確約欄が「-」となっています。付与の時期と確約の要否は事前に確認しておきましょう。

最初の一歩は「資本政策と契約の棚卸し」から

MabGenesisのように外部の投資家や事業パートナーとの契約が多い会社では、上場準備の最初に、株主間契約・種類株式の内容・新株予約権の発行要項・ライセンス契約・共同研究契約を一覧にし、上場までに「何を、いつ、どの順番で」整理するかを決めることが近道です。この棚卸しが、資本政策、収益認識、開示の各論点の土台になります。全体の進め方はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)もご覧ください。

まとめ

MabGenesis株式会社は、大学発の抗体技術を基盤に、イヌ・ネコ用抗体医薬品の権利を動物用医薬品企業へ導出するビジネスで、2026年11月2日に東証グロース市場へ上場する予定です。直前期(2026年3月期)に黒字となった一方、一時金とマイルストーンが中心の収益は契約の時期や研究の進捗で変動し、販売先も少数の大手企業に集中しています。

上場準備の観点では、優先株式の普通株式化から株式分割・単元株の採用までを短期間で順序よく進めた資本政策、付与時期によって確約の要否が分かれたストック・オプション、全員社外の監査役会と部門間のクロス監査による小規模組織の牽制、そしてライセンス型ビジネス特有の収益認識と開示の考え方が参考になります。自社の状況に置き換えて、早めに論点を洗い出していきましょう。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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