Allganize HoldingsのIPO|日本の持株会社への再編と優先株式の一斉転換【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

企業向けの生成AI・LLMアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」を日本・米国・韓国で提供するAllganize Holdings株式会社(証券コード656A)が、2026年9月30日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年11月4日に東証グロース市場へ上場する予定です。グループの創業は2017年7月の米国カリフォルニア州で、2021年に日本で設立した持株会社を最終親会社とする組織再編を行ったうえで、日本での上場を申請しました。Ⅰの部によれば、連結売上高は第4期(2024年9月期)の684百万円から第5期(2025年9月期)は1,336百万円へ伸び、第6期(2026年9月期)は第3四半期累計で営業利益237百万円を計上しています。

結論からいえば、Allganize HoldingsのⅠの部から学べるのは、①米国で創業したグループが三角合併によって日本の持株会社を最終親会社とし、その株式を上場する再編の組み立て方と、それに伴う日米の税務リスクの開示、②A種・A-2種・B種の優先株式を上場前に取得して普通株式を交付し、同日に消却するまでの一連の手続、③B種優先株式の発行価格、株式の移動価格、ストック・オプションの行使価額をDCF法による価格を基礎にそろえた資本政策、④SaaSのライセンスとオンプレミスの構築で収益認識の考え方を分けた会計方針、⑤独立部署を置かずに4名の担当者で相互に監査する内部監査と、監査役全員を社外監査役とする監督体制の5点です。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の記載をもとに、上場準備の実務の目線でこれらを整理します。

Allganize Holdingsはどのような会社で、どの市場に上場するのか

まず、会社と上場の概要を確認します。Allganize Holdingsは東京都渋谷区広尾に本店を置く持株会社で、韓国のAllganize Korea Co., Ltd.、日本のAllganize Japan株式会社、米国テキサス州のAllganize Inc.の3社を100%子会社として傘下に持っています。同社自身は「純粋持株会社として当社グループの経営管理のみを行っております」と記載されており、提出会社の従業員は2名(2026年8月31日現在)です。連結の従業員数は77名で、最も従業員数が多いのはAllganize Japan(24名)です。

代表取締役のイ・チャンス氏は、2017年に米国で旧Allganize Inc.のCEOに就任した創業者です。決算期は9月30日で、Ⅰの部の最近事業年度は第5期(2025年9月期)、上場予定日は第7期(2026年10月〜2027年9月)の期初にあたります。事業は「AIソリューション事業」の単一セグメントで、金融商品取引法上の親会社等はありません。

上場市場はグロース市場です。グロース市場では、高い成長可能性に関する事業計画とその進捗の説明が重視されます(グロース市場の「高い成長可能性」とは)。同社は第5期まで営業損失を計上していましたが、第6期に入って営業黒字となっており、成長と収益化をどのような指標で説明しているかが読みどころの一つです。

項目 内容
会社名 Allganize Holdings株式会社(英訳名 Allganize Holdings, Inc.)
証券コード・市場 656A・東証グロース市場
上場予定日 2026年11月4日(上場承認日 2026年9月30日)
本店所在地 東京都渋谷区広尾一丁目3番1号
代表者 代表取締役 イ・チャンス(創業者)
設立 2021年11月8日(グループの創業は2017年7月、米国カリフォルニア州)
決算期 9月30日(最近事業年度は第5期・2025年9月期)
事業 生成AI・LLMアプリプラットフォーム等のAIソリューション事業(単一セグメント)
従業員数 連結77名、提出会社2名(2026年8月31日現在)
子会社 Allganize Korea Co., Ltd.、Allganize Japan株式会社、Allganize Inc.(いずれも100%)
会計監査人 EY新日本有限責任監査法人
現在のグループ構成Allganize Holdings(持株会社)純粋持株会社・従業員2名Allganize Korea韓国ソウル市開発及び販売Allganize Japan東京都渋谷区販売Allganize Inc.米国テキサス州開発及び販売売上高 899百万円売上高 804百万円米国拠点韓国・日本の子会社は、いずれも連結売上高の10%超を占める特定子会社100%100%100%

図1 2026年8月31日現在。子会社の売上高は第5期(2025年9月期)、連結会社間の内部取引消去前(Ⅰの部「関係会社の状況」をもとに筆者作成)

子会社のうち、Allganize KoreaとAllganize Japanは、いずれも連結売上高に占める割合が10%を超えています。第5期の売上高(連結会社相互間の内部取引消去前)は、Allganize Koreaが899百万円、Allganize Japanが804百万円です。持株会社の単体の営業収益は子会社からの経営指導料(第5期26百万円)に限られるため、上場審査では、持株会社がどのように子会社の業務執行を把握し、管理しているかが論点になります。この点は後半の内部監査・子会社管理の項で取り上げます。

なぜ米国で創業したグループが日本で上場するのか

Ⅰの部の冒頭には、通常の「沿革」の前に「当社グループの変遷」と「当社が日本において上場する目的」が置かれています。上場の目的として、プロダクト開発・研究体制の強化、営業・マーケティング人材の拡充、海外展開の加速に向けた資金調達能力の拡大と信用・知名度の向上を挙げたうえで、上場先については、売上高を踏まえ日本が重要市場の1つであること、日本の資本市場は事業内容と成長性について投資家の理解を得やすいと考えられることなどから、日本での上場が最も適切と判断したと説明しています。

さらに、日本の会社法に基づく株式を上場する形が投資家にとって親和性があり、投資家保護の観点からも望ましいと判断したため、グループ内の組織再編を行い、同社を最終持株会社としたうえで上場申請に至ったと記載されています。

Allganize Holdingsグループの変遷旧Allganize Inc.を米国カリフォルニア州で設立(グループの創業)韓国にAllganize Korea、日本にAllganize Japanを設立旧Inc.の完全子会社として同社を東京都品川区に設立同社子会社を存続会社、旧Inc.を消滅会社とする三角合併(対価は同社株式。存続会社は現Allganize Inc.)Allganize Inc.からKorea・Japanの株式を取得し3社の親会社に東証グロース市場に上場予定(上場承認日 2026年9月30日)2017年7月2018年5月・2019年1月2021年11月2021年12月2023年7月2026年11月4日

図2 米国で創業したグループが日本の持株会社を最終親会社とするまでの流れ(Ⅰの部「企業の概況(はじめに)」「沿革」をもとに筆者作成)

再編の骨格は次のとおりです。2021年11月に旧Allganize Inc.の完全子会社として同社を設立し、同年12月に同社の子会社であるAllganize Merger Sub, Inc.を存続会社、創業会社の旧Allganize Inc.を消滅会社とする三角合併を行いました。合併の対価は同社株式で、存続会社は合併後に商号をAllganize Inc.に変更しています。その後、2023年7月にAllganize Inc.からAllganize KoreaとAllganize Japanの株式を取得し、同社が3社の親会社となりました。

この再編には税務上の帰結も伴っています。Ⅰの部によれば、同社は過年度に実施したインバージョン取引により米国税法上のインバージョン税制の適用を受けており、米国連邦法人税の観点では米国法人として取り扱われます。そのため日本と米国の双方で税務申告を行っており、事業等のリスクに「法人税に対する二重課税」と「配当政策及び配当に対する二重課税」を独立した項目として記載しています。配当については、証券会社等による配当の支払処理の整備が整っていない状況であり、整備がなされるまでは配当を実施する予定はないとしています。海外で創業した会社が日本で上場する場合、こうした税務・株式事務の論点を早い段階で洗い出し、投資家が判断できる形で開示することが求められます。

何で稼いでいるのか:SaaSとオンプレミスの2つの提供形態

同社グループの中核サービスは、オールインワン生成AI・LLMアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」です。社内ドキュメントからの回答自動生成、議事録自動作成、契約書チェックといった目的別に100個以上の生成AI・LLMアプリを事前に用意しており、Ⅰの部では国内外の239社(2026年3月時点)に提供していると記載されています。2026年4月からは、自然言語のチャット指示で業務アプリケーションやAIエージェントを生成するエンタープライズ向けバイブコーディングプラットフォーム「Alli Coworker」の提供も始めています。

事業の特徴として強調されているのが、これらのサービスをSaaS(クラウドサービス)とオンプレミスの両形態で同時に提供できる点です。クラウド利用が難しい金融機関や官公庁など、セキュリティ要件が厳格な顧客にも同等の機能を提供できるとしています。技術面では、コアドメインと一般ドメインを分けて顧客ごとの要件をプラグインとして実装するアーキテクチャ、自社開発LLM「Alpha v2」と外部LLMを切り替えられる構成、Agentic RAGなど6つの要件を単一のアーキテクチャで満たす点を独自性として説明しています。

2つの提供形態でエンタープライズ顧客を深耕する事業モデル同社グループAlli LLM App Market・Alli CoworkerSaaS(クラウド)月額課金・定期定額のライセンス売上高 851百万円オンプレミス環境の構築・導入(大型案件)売上高 484百万円エンタープライズ顧客(契約社数240社)金融・保険・製造・小売・官公庁 等重要な経営指標:売上高・契約社数・ARPA・営業利益拡張部門単位で導入全社展開・機密領域

図3 売上高は第5期(2025年9月期)の提供形態別販売実績。契約社数は2026年9月期第3四半期時点(Ⅰの部「事業の内容」「経営方針」「販売実績」をもとに筆者作成)

ビジネスモデルについて、Ⅰの部は、顧客基盤は大企業を中心としたエンタープライズ顧客であり、中小企業や個人を対象とするセルフサーブ型のビジネスモデルは採用していないと明記しています。SaaSは大企業の特定部門や子会社が低い導入コストで利用を始める入り口として機能し、オンプレミスは高度なセキュリティ要件や既存システムとの統合ニーズを持つ大企業向けに、個別カスタマイズやコンサルティングを含めて提供する位置づけです。SaaSで導入実績を積み、全社展開や機密領域への対応としてオンプレミス契約や他部門展開へ発展させる「拡張(クロスセル)」を戦略の柱に据えています。

収益の性格も異なります。SaaSはサブスクリプション収入を中心としたストック型である一方、オンプレミスは大口契約やライセンス提供による高単価の収入で、受注までのリードタイムが長い傾向があると説明されています。この違いは、後で見る収益認識の会計方針や、事業等のリスクの「売上計上時期の期ずれ」にもつながっています。

売上の地域別・提供形態別の内訳

販売実績は、地域別と提供形態別の2つの切り口で開示されています。総販売実績の10%以上を占める相手先はないと記載されており、特定顧客への依存は開示上の論点になっていません。

区分 第5期(2025年9月期) 第6期中間(6か月) 第6期3Q累計(9か月)
日本 804百万円(172.5%) 520百万円(144.5%) 773百万円(143.0%)
韓国 448百万円(262.2%) 378百万円(151.5%) 566百万円(186.5%)
米国 84百万円(177.5%) 34百万円(182.2%) 58百万円(79.7%)
SaaS 851百万円(135.8%) 565百万円(141.2%) 852百万円(141.0%)
オンプレミス 484百万円(841.9%) 367百万円(161.0%) 546百万円(174.0%)
合計 1,336百万円(195.2%) 933百万円(148.4%) 1,398百万円(152.3%)

括弧内はⅠの部に記載された前年同期比です。第5期の増収について、Ⅰの部は、日本と米国でのAlli LLM App Marketの月額課金又は定期定額契約による顧客の増加と、韓国での主に金融機関・公的機関向けのオンプレミス環境でのLLMアプリケーション提供の増加によるものと説明しています。オンプレミスの売上が前期の約8.4倍になっている点は、大型案件の獲得が業績に与える影響の大きさを示しています。

重要な経営指標(KPI)の置き方

同社は、売上高、契約社数、ARPA(顧客1社当たりの平均売上高)、営業利益を重要な経営指標としています。成長ドライバーを「ARPAの向上」と「契約社数の増加」に分解し、前者はサービス戦略と地域戦略、後者は販売推進戦略で実現すると整理しているのが特徴です。経営方針で示した指標を、MD&A(経営者による財政状態等の分析)の「目標とする客観的な指標等の推移」で実績として示しており、方針と実績の記載が対応しています。

重要な経営指標(契約社数・ARPA)の推移契約社数(社)ARPA(百万円)2025/9期2026/9期中間2026/9期3Q2025/9期2026/9期中間2026/9期3Q2232392405.46.46.8オンプレミスの受注単価:44百万円(2025年9月期)→115百万円(2026年9月期第3四半期時点)

図4 受注単価は新規の初期導入契約(20百万円超)の初期導入費用の総額を件数で除したもの(Ⅰの部「経営者による…分析」「経営方針」をもとに筆者作成)

契約社数は2025年9月期の223社から2026年9月期第3四半期時点で240社に、ARPAは5.4百万円から6.8百万円に増えています。また、オンプレミスの受注単価は2025年9月期の44百万円から2026年9月期第3四半期時点で115百万円に上昇したと記載されています。受注単価の定義(新規に獲得した初期導入契約の初期導入費用の総額を件数で除し、小型受注を除くため20百万円超の契約に限定)が用語集に明記されている点は、KPIを開示する際の参考になります。

グロース市場の審査では、事業計画の合理性として、計画の前提となる指標が実績と整合しているか、社内で継続的に把握・管理されているかが確認されます(IPO審査の「事業計画の合理性」)。KPIを開示する場合は、定義、集計範囲、集計方法を社内規程やマニュアルで固め、月次で同じ方法により集計できる体制にしておくことが前提になります。

沿革から読む上場までの道のり

Ⅰの部の「沿革」は、同社(Allganize Holdings)の沿革と、消滅会社である旧Allganize Inc.の沿革の2つに分けて記載されています。組織再編を経た会社では、上場申請会社の法人格の歴史と、事業の歴史が一致しないため、このように分けて示すことで事業の連続性を説明しています。

プロダクトと資金調達の主なできごとプロダクト2018年8月AIチャットボットAlli 提供開始2023年9月Alli LLM AppMarket 提供開始2025年2月Alli Agent提供開始2026年4月Alli Coworker提供開始2026年6月末Coworker有料顧客19社資本2019年4月シリーズA約500万米ドル2021年2月シリーズA-2約1,000万米ドル2021年12月三角合併で同社が親会社に2023年12月シリーズB約2,020万米ドル2026年7月優先株式を普通株式へ

図5 旧Allganize Inc.と同社の沿革をあわせて記載(Ⅰの部「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに筆者作成)

プロダクト面では、2018年8月にAIチャットボット「Alli」の提供を開始し、2023年2月に回答自動生成型検索サービスをAlliの新機能として提供、2023年9月に「Alli LLM App Market」、2025年2月にAIエージェント「Alli Agent」、2026年4月に「Alli Coworker」と、生成AIの技術動向にあわせて主力サービスを切り替えてきました。Alli Coworkerは2026年6月末時点で日本・米国・韓国の累計19社の有料顧客に導入されたと記載されています。

資金調達面では、旧Allganize Inc.が2019年4月にシリーズAで約500万米ドル、2021年2月にシリーズA-2で約1,000万米ドルを調達し、三角合併後の2023年12月に同社がシリーズBで約2,020万米ドル(約30.5億円)を調達しています。本社は2023年10月に渋谷区道玄坂、2024年2月に渋谷区広尾へ移転しました。

沿革の書き方は、上場審査で事業の継続性や組織再編の経緯を説明する出発点になります。Ⅰの部とⅡの部の役割の違いも含めて、どの情報をどこに書くかは早めに整理しておくとよいでしょう(Ⅰの部とⅡの部は何が違うか)。

業績はどう推移し、どう読めばよいか

同社は2021年11月設立のため、連結の主要な経営指標は第4期と第5期の2期分が記載されています。いずれも東京証券取引所の有価証券上場規程第216条第6項に基づき、EY新日本有限責任監査法人の監査を受けています。単体の指標は第1期から第5期までの5期分ですが、第1期から第3期は会社計算規則に基づく数値で、監査証明は受けていないと注記されています。

項目(連結) 第4期(2024年9月期) 第5期(2025年9月期) 第6期3Q累計(9か月)
売上高 684百万円 1,336百万円 1,398百万円
営業損益 △719百万円 △206百万円 237百万円
経常損益 △790百万円 △5百万円 482百万円
親会社株主に帰属する当期(四半期)純損益 △746百万円 9百万円 405百万円
純資産額 2,942百万円 2,961百万円 3,418百万円
総資産額 3,250百万円 3,572百万円 4,148百万円
自己資本比率 90.52% 82.89% -
営業活動によるキャッシュ・フロー △555百万円 △2百万円 -(中間は20百万円)
従業員数 63名 76名 -

第6期第3四半期累計の数値は、Ⅰの部の「経理の状況」の「その他」に、2026年8月21日の取締役会で報告された四半期連結財務諸表として掲載されたもので、監査ではなく監査法人の期中レビューを受けたものです。第3四半期累計の四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成していないと注記されているため、表の営業キャッシュ・フローは第6期中間(2025年10月〜2026年3月)の数値を参考に併記しています。

連結業績の推移売上高(百万円)04008001,2001,600第4期第5期第6期3Q累計6841,3361,398営業損益(百万円)第4期(2024年9月期) △719第5期(2025年9月期) △206第6期中間(6か月) 192第6期3Q累計(9か月) 237

図6 第6期第3四半期累計(2025年10月〜2026年6月)は9か月間の数値で、Ⅰの部「その他」に掲載された期中レビュー済みの四半期連結財務諸表による(Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」「経理の状況」をもとに筆者作成)

第4期と第5期の経常損失・営業キャッシュ・フローのマイナスについて、Ⅰの部は、売上高が増加した一方で、事業拡大に伴う人件費、開発費等の費用の増加に売上高の増加が追いつかなかったことによると注記しています。第5期は、売上高が前期比95.2%増の1,336百万円となり、売上総利益は前期の281百万円から874百万円に増えました。販売費及び一般管理費は1,081百万円(前期比8.1%増)にとどまり、営業損失は前期の719百万円から206百万円に縮小しています。

第6期は、中間連結会計期間(6か月)で営業利益192百万円、第3四半期累計(9か月)で営業利益237百万円となりました。MD&Aでは、先行投資により整備した組織・システム基盤の活用が進み、売上高の増加ペースが費用の増加ペースを上回るようになったと分析しています。また、対処すべき課題の「財務上の課題」では、現時点で財務上の課題は認識していないとしたうえで、営業損失と営業キャッシュ・フローのマイナスはプロダクト開発への先行投資によるものと説明しています。

営業利益と経常利益の差は何から生じているのか

同社の損益を読むうえで見落とせないのが、営業外損益の大きさです。第5期は営業損失206百万円に対し、受取利息103百万円と為替差益108百万円を中心に営業外収益216百万円を計上し、経常損失は5百万円にとどまりました。第6期第3四半期累計でも、営業利益237百万円に対して受取利息62百万円、為替差益187百万円を含む営業外収益254百万円があり、経常利益は482百万円となっています。

第6期第3四半期累計の損益の内訳売上高1,398売上原価-503販管費-657営業利益237営業外収益+254営業外費用-9経常利益482法人税等-76純利益405

図7 単位:百万円。2025年10月〜2026年6月の9か月間(期中レビュー済み)。営業外収益の主な内容は受取利息62百万円と為替差益187百万円(Ⅰの部「その他」の四半期連結損益計算書をもとに筆者作成)

事業等のリスクの「為替変動リスク」では、売上高と経費の多くを海外又は外貨建てで行っていること、米ドル建ての経費が米ドル建ての売上高を上回っているため、円安になると営業利益にはマイナス、保有する米ドル建て預金の為替差益により経常利益にはプラスの影響があることを具体的に説明しています。対応として、収益と費用の通貨をできる限り一致させるナチュラル・ヘッジ、現預金の一部を米ドルで保有すること(2026年6月末において15,854千米ドル)、為替ポジションのモニタリングなどを挙げています。

上場準備会社が業績を説明する際には、本業の損益(営業損益)と、為替や金利など本業以外の要因を分けて示すことが大切です。特に外貨建ての資産・負債や取引が多い会社では、為替の前提を事業計画にどう織り込むか、予実差異が生じたときにどう説明するかを決めておくと、審査や上場後の業績予想の開示で慌てずに済みます。

グロース市場の審査で何が問われるか

グロース市場の実質審査基準は、「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点」の5つです(IPOの実質審査基準とは)。利益の額そのものは形式要件になっておらず、成長可能性と、それを支える事業計画の合理性が説明できるかが中心になります。

実質審査基準(グロース市場) Ⅰの部で対応する主な記載
企業内容、リスク情報等の開示の適切性 事業等のリスク(23項目、発生可能性・時期・影響度つき)、KPIの定義
企業経営の健全性 関連当事者取引「該当事項なし」、特別利害関係者等の株式等の移動状況
事業計画の合理性 経営戦略、契約社数・ARPA・受注単価の推移、第6期の営業黒字
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 監査役会、任意の委員会、内部監査担当者4名、子会社管理
その他公益又は投資者保護の観点 日米の二重課税、配当の支払処理の整備状況の開示

同社の場合、赤字から黒字へ転じた経緯を、人件費・クラウドサーバー費用などの先行投資と、その後の売上拡大との関係で説明し、契約社数・ARPA・受注単価という指標で裏付ける構成になっています。また、オンプレミスの大型案件で要件定義の遅延や検収の長期化により売上計上が翌四半期・翌事業年度にずれる可能性を、「売上計上時期の期ずれ」として事業等のリスクに記載しています。大型案件の比重が高まる会社では、案件ごとの進捗とパイプラインの管理が、予算の精度と業績予想の信頼性を左右します。

資本政策と株主構成はどうなっているか

同社の資本政策は、三角合併で旧Allganize Inc.の株主構成を引き継いだところから始まります。2021年12月23日の三角合併に伴い、普通株式のほかA種優先株式3,580,448株、A-2種優先株式3,229,750株が発行され、Ⅰの部には旧Allganize Inc.の株主に対して割当てを行ったと記載されています。その後、2023年11月30日のB種優先株式の発行、2024年3月の無償減資、2026年7月の優先株式の普通株式への転換という流れで、上場申請時には普通株式のみの資本構成になっています。

資本政策の主な時系列三角合併により普通株式・A種優先株式・A-2種優先株式の構成に旧Allganize Inc.の株主に同社株式を割当て第1回〜第3回新株予約権(ストック・オプション)を決議行使価額 0.0001〜0.4米ドルB種優先株式 3,145,883株を有償第三者割当発行価格 6.4289米ドル(974円)、DCF法を基礎に算出欠損填補を目的とする無償減資(減資割合94.8%)資本金 1,527百万円→80百万円優先株式をすべて取得し普通株式を交付、同日消却単元株制度(100株)を採用、種類株式の定めを廃止発行済株式 18,415,288株(普通株式のみ)上場予定日 2026年11月4日2021年12月2021年12月〜2023年11月2024年3月2026年7月2026年8月末

図8 Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「新株予約権等の状況」「重要な後発事象」をもとに筆者作成

資本政策は、一度実行すると後から修正しにくいという特徴があります(資本政策はなぜやり直せないか)。同社のように、海外の投資家が多く、複数回の優先株式の発行とストック・オプションの付与を重ねてきた会社では、各時点の株主構成、株式の種類と権利内容、価格の根拠を時系列で一覧にしておくことが、Ⅰの部の作成と審査対応の土台になります。

優先株式を上場前にどのように普通株式へ整理したか

同社は、2026年6月19日の取締役会決議に基づき、A種・A-2種・B種の優先株式のすべてを2026年7月7日付で自己株式として取得し、対価として優先株式1株につき普通株式1株を交付しました。取得した優先株式は同日付で会社法第178条に基づきすべて消却しています。交付した普通株式は9,956,081株で、重要な後発事象の注記には交換後の発行済普通株式数が18,415,288株と記載されています。

優先株式から普通株式への一斉転換(2026年7月7日)A種優先 3,580,448株A-2種優先 3,229,750株B種優先 3,145,883株同社が取得普通株式1株を交付同日消却交付 9,956,081株普通株式 17,998,399株普通株式 18,415,288株既存の普通株式 8,042,318株2026年8月31日現在SO行使 416,889株

図9 優先株式1株につき普通株式1株を交付し、取得した優先株式は同日付で会社法第178条に基づき消却(Ⅰの部「発行済株式」「重要な後発事象」をもとに筆者作成)

続く2026年7月17日の臨時株主総会では、種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止し、発行可能株式総数を70,000,000株に変更するとともに、1単元を100株とする単元株制度を採用しました。優先株式の取得・消却、定款変更、単元株制度の導入という一連の手続を、上場申請前の短期間にまとめて実施した構成です。

優先株式が残っている間は、1株当たり情報にも影響が出ます。同社の連結の1株当たり純資産額は第4期△233.40円、第5期△229.17円とマイナスですが、これは優先株主に対する残余財産の分配額を控除して算定しているためと注記されています。また、第5期は親会社株主に帰属する当期純利益9百万円を計上しながら、優先株式に係る累積的な優先配当額を控除するため1株当たり当期純損失(△35.13円)となっています。純資産がプラスでも1株当たり純資産がマイナスになることがあるため、投資家向けの説明では注記の意味を正しく伝えることが必要です。種類株式を上場前にどう整理するかの一般的な論点は、種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで解説しています。

欠損填補のための無償減資

2024年3月29日には、欠損填補を目的とした無償減資(減資割合94.8%)とその他資本剰余金への振替が行われ、資本金は1,527百万円から80百万円になりました。単体の株主資本等変動計算書では「資本金から剰余金への振替」として資本金△1,447百万円、その他資本剰余金+1,447百万円が記載されており、第5期末の単体貸借対照表でも、その他資本剰余金1,447百万円と繰越利益剰余金△314百万円がそれぞれ計上されています。

単体の純資産の内訳 第4期末(2024年9月) 第5期末(2025年9月)
資本金 80百万円 82百万円
資本準備金 1,527百万円 1,529百万円
その他資本剰余金 1,447百万円 1,447百万円
繰越利益剰余金 △533百万円 △314百万円
純資産合計 2,522百万円 2,744百万円

一般論として、資本金の額の減少には、会社法第447条に基づく株主総会決議と、第449条に基づく債権者保護手続が必要です。また、その他資本剰余金で繰越利益剰余金のマイナスを填補する処理は、純資産の内訳を組み替えるものであり、それ自体で分配可能額を増やすものではありません。減資を検討する際は、目的(欠損の解消、資本金の規模の見直しなど)と、会計・税務・登記への影響を整理したうえで、資本政策全体のなかで位置づけることが重要です。

B種優先株式の発行価格と株式の移動価格

B種優先株式3,145,883株は、2023年11月30日に有償第三者割当で発行されました。発行価格は1株6.4289米ドル(974円)、発行価額の総額は20,224,567.24米ドルで、Ⅰの部の「第三者割当等の概況」には、発行価格はDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)により算出した価格を基礎として算出したと記載されています。割当先は、SK TELECOM INNOVATION FUND, L.P.(622,190株)、Murex Wave No.3 Fund(598,858株)、INTERVEST DEEP-TECH FUND(598,858株)、KDDI Open Innovation Fund3号(232,427株)など韓国・米国・日本のファンドに加え、株式会社三井住友銀行(29,273株)や個人が含まれます。

日付 内容 株数 価格(単価) 価格の決め方
2023年11月6日 A種優先株式の譲渡(ファンド→Murex Wave No.3 Fund) 34,339株 4.5米ドル B種の発行価格を参考に当事者間で協議
2023年11月6日 A種優先株式の譲渡(ファンド→INTERVEST DEEP-TECH FUND) 34,339株 4.5米ドル 同上
2023年11月30日 B種優先株式の有償第三者割当 3,145,883株 6.4289米ドル DCF法による価格を基礎
2026年1月27日 取締役 佐藤康雄氏の新株予約権の行使 計125,000株 0.26/0.4米ドル 発行時に決定した行使価額
2026年3月25日 取締役 シン・キビン氏の新株予約権の行使 170,000株 0.0001米ドル 発行時に決定した行使価額

「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、基準事業年度末日の2年前の日(2023年10月1日)以降の移動が記載されます。A種優先株式の譲渡理由は「移動前所有者のファンド運用期間が満期を迎える時期が近づいているため」とされ、移動価格はB種優先株式の発行価格を参考に当事者間で協議して決めたと注記されています。上場前の株式の移動では、価格の算定根拠と、同時期の他の取引価格との関係を説明できるようにしておくことが欠かせません(未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。

なお、B種優先株式の割当ての「保有期間等に関する確約」の欄は「-」とされています。有価証券上場規程施行規則第268条の継続所有の確約が必要になるのは、上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日以後に行われた第三者割当等であり、同社の基準事業年度の末日は2025年9月30日です。確約の対象になる取引の範囲は、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で確認できます。

ストック・オプションは何回、どの条件で発行されているか

同社は第1回から第18回までの新株予約権(ストック・オプション)を発行しており、行使価額はすべて米ドル建てです。第1回(0.0001米ドル)、第2回(0.26米ドル)、第3回〜第7回(0.4米ドル)、第8回〜第15回(1.2米ドル)、第16回(1.9米ドル)、第17回・第18回(1.1米ドル)と推移しています。付与対象は同社の取締役のほか、子会社の取締役・従業員、執行役員などで、子会社の従業員が多いのは事業を子会社が担う持株会社体制を反映しています。

回 決議日 主な付与対象 行使価額 2026年8月末の個数
第1回 2021年12月23日 取締役2名・子会社従業員4名 0.0001米ドル 310,000個
第2回・第3回 2021年12月23日 取締役2名・子会社従業員 0.26/0.4米ドル 47,000個/20,000個
第4回・第5回 2022年12月22日/2023年2月28日 取締役・子会社従業員 0.4米ドル 80,508個/68,227個
第6回 2023年4月27日 取締役2名 0.4米ドル 700,000個
第7回〜第15回 2023年7月〜2024年11月 子会社取締役・従業員、執行役員 0.4〜1.2米ドル (各回の記載による)
第16回 2025年3月21日 子会社従業員1名 1.9米ドル 3,000個
第17回・第18回 2026年2月20日 子会社従業員19名 1.1米ドル 139,456個/15,000個
ストック・オプション(第1回〜第18回)の概要新株予約権の行使価額(米ドル)第1回第2回第3〜7回第8〜15回第16回第17・18回0.00010.260.41.21.91.1上場日から180日は行使不可第6・10・11・14・18回継続所有の確約(272条)第14〜18回株式報酬費用の計上なし本源的価値(DCF法が基礎)

図10 行使価額はすべて米ドル建て。180日の行使制限と確約の対象回はⅠの部「新株予約権等の状況」「第三者割当等の概況」による(筆者作成)

行使条件にも特徴があります。第6回・第10回・第11回・第14回・第18回の新株予約権には、上場日から起算して180日間が経過するまで行使できないという条件が付されています(支配権の移転などの場合を除く)。また、第14回〜第18回については、施行規則第272条第1項第1号に基づき、割当てを受けた役員・従業員等との間で、原則として割当日から上場日の前日又は行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を行っていると記載されています。

会計処理の面では、ストック・オプションに係る費用計上額は第4期・第5期とも「該当事項はありません」とされています。付与日時点で未公開株式であるため、公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積もっており、その本源的価値はDCF法により算出した価格を基礎としていると注記されています。企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」では、未公開企業は本源的価値による見積りが認められています。また、第三者割当等の概況には、普通株式1株の価格は優先株式1株との権利の違いを考慮した価格であると記載されています。B種優先株式、株式の移動、ストック・オプションの価格を同じDCF法を基礎に整理している点は、価格の一貫性を説明するうえで参考になります。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例も参照してください。

希薄化については、事業等のリスクで、本書提出日現在の新株予約権による潜在株式数が1,825,259株で、発行済株式総数18,415,288株の9.9%に相当すると記載し、発生可能性を「高」、発生時期を「短期」、影響度を「低」と評価しています。

株主構成と流通株式の考え方

Ⅰの部の「株主の状況」では、筆頭株主は代表取締役のイ・チャンス氏で、所有株式数7,403,998株、割合は36.61%です。続いてAtinum Growth Fund 2020(11.09%)、KDDI Open Innovation Fund3号(5.17%)、Intervest Deep-Tech Fund(4.89%)、取締役の佐藤康雄氏(4.79%、うち新株予約権による潜在株式3.71%)が並びます。この割合の分母は、新株予約権による潜在株式を含む株式総数20,226,017株(うち潜在株式1,810,729株)です。いずれもⅠの部記載時点の比率であり、公募・売出し後の上場時の比率ではありません。

大株主の状況(上位8名)イ・チャンス(代表取締役)36.61%Atinum Growth Fund 202011.09%KDDI Open Innovation Fund3号5.17%Intervest Deep-Tech Fund4.89%佐藤 康雄(取締役)4.79%Sparklabs Ventures Ignition Fund3.76%Murex Wave No.3 Fund3.13%SK TELECOM INNOVATION FUND3.08%役員ファンド等分母は新株予約権による潜在株式を含む株式総数 20,226,017株(Ⅰの部記載時点)

図11 Ⅰの部「株主の状況」の所有株式数の割合。役員の割合は新株予約権による潜在株式を含む。上場時(公募・売出し後)の比率ではない(筆者作成)

所有者別状況(2026年8月31日現在)を見ると、株主数は68名で、外国法人等(個人以外)が39.15%、外国法人等(個人)が49.83%を占めます。海外のファンドや個人が株主の大半を占める点は、海外創業の会社ならではの特徴です。

上場時の流通株式の計算では、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが流通株式から除かれます(流通株式比率の計算式と調べ方)。株主構成が公募・売出しや新株予約権の行使でどう変わるかを、上場時点の数字で試算しておくことが大切です。

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コーポレート・ガバナンスはどう設計されているか

同社は、株主総会、取締役会、監査役会及び会計監査人を置く監査役会設置会社です。Ⅰの部は、全員が社外監査役で構成される監査役会が公正かつ独立の立場から監査を実施し、この体制が取締役会の監督機能を強化し、経営の効率性・健全性・透明性を高めると説明しています。任意の機関として、取締役会の諮問機関である指名・報酬委員会と、リスク管理・コンプライアンス委員会を設けています。

機関設計と会議体の関係株主総会取締役会(4名)うち社外取締役1名・原則月1回監査役会(3名)全員社外・常勤1名・原則月1回指名・報酬委員会議長:社外取締役代表取締役イ・チャンス内部監査担当者4名代表取締役が任命リスク管理・コンプライアンス委員会会計監査人EY新日本有限責任監査法人選任選任監査諮問・答申任命議長連携

図12 監査役会設置会社。監査役はリスク管理・コンプライアンス委員会にも出席して報告を受ける(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに筆者作成)

取締役会は取締役4名(うち社外取締役1名)で構成され、原則として毎月1回開催されます。最近事業年度は12回開催され、4名全員が12回すべてに出席しています。具体的な検討内容として、月次の業績報告と予算・事業計画の進捗確認、重要な契約の締結と投資の実行、組織体制と人事、内部統制システムの整備・運用状況の確認などが挙げられています。監査役会は常勤1名・非常勤2名の3名全員が社外監査役で、最近事業年度は12回開催され、3名とも全回出席しています。

機関設計の選択肢としては、監査役会設置会社のほかに監査等委員会設置会社などがあり、それぞれ社外役員の人数や監査の進め方が異なります(監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?)。なお、グロース市場の上場会社に適用されるのはコーポレートガバナンス・コードの基本原則のみです。社外取締役の人数は、コードの各原則の適用の有無だけでなく、取締役会の監督機能をどう確保するかという観点で検討することになります(社外取締役は何人必要か)。

取締役・監査役の構成と社外役員の独立性

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の略歴から) 所有株式数
代表取締役 イ・チャンス SK Telecom、5Rocks設立、Tapjoy等を経て2017年7月に旧Allganize Inc. CEO 7,403,998株
取締役 佐藤 康雄 ニフティ、LINEヤフー、楽天等を経て2019年1月からAllganize Japan代表取締役 218,000株
取締役 シン・キビン NHN、LINE Plus等を経て2018年5月からAllganize Korea CTO 170,000株
社外取締役 イ・ウンゴン Mastercard Korea、OnePredict等を経てNeosapience(Typecast)CBO -
常勤社外監査役 浅見 加津明 丸紅、丸紅ユティリティ・サービス代表取締役社長、常勤監査役の経験 -
社外監査役 松田 淳 アドウェイズ・ベンチャーズ取締役等、ベンチャーキャピタルとベンチャー経営の経験 -
社外監査役 橋本 阿友子 弁護士(企業法務・知的財産) -

役員は男性6名・女性1名で、女性の比率は14%です。社内取締役3名は、創業者のほか、日本子会社の代表取締役と韓国子会社のCTOであり、持株会社の取締役会に主要子会社の責任者が入る構成です。執行役員として、カン・ムンシク氏(CTO)、小林健作氏(CFO)、イ・ジョンフン氏(CAIO)が置かれています。

社外役員の独立性について、同社は独立性に関する基準や方針を明確に定めたものはないとしつつ、東京証券取引所の独立役員の判断基準等を参考にして判断していると記載しています。社外取締役と社外監査役3名のいずれについても、同社との間に人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はないとしています。社外監査役については、浅見氏は企業統治、松田氏は財務・会計の見識に基づく内部統制の有効性、橋本氏はコンプライアンスと、それぞれの観点が明示されています。監査役の役割分担を経歴と結びつけて説明する書き方は、監査役会の実効性を示すうえで参考になります(監査役に会計の知識は必要か)。

役員報酬はどのように決めているか

取締役の報酬限度額は2021年12月23日の株主総会で年額100百万円以内、監査役の報酬限度額は2023年9月29日の株主総会で年額20百万円以内と決議されています。取締役の個人別の報酬は、指名・報酬委員会で審議して取締役会に答申し、取締役会で決定する方針です。指名・報酬委員会の構成は、議長が社外取締役のイ・ウンゴン氏、委員が代表取締役のイ・チャンス氏の2名です。

取締役報酬の決定の流れ株主総会で報酬の上限を決議取締役 年額100百万円以内(2021年12月)/監査役 年額20百万円以内(2023年9月)指名・報酬委員会で審議(議長:社外取締役、委員:代表取締役)2024年12月に1回開催し、職務内容・負荷・貢献度を踏まえた水準を審議取締役会へ答申し、同月の取締役会で個人別の報酬額を決議決定過程が方針に沿うことを委員会・取締役会で確認取締役の報酬は月額の固定報酬のみ最近事業年度:社外を除く取締役3名 72百万円、社外役員4名 13百万円監査役の個人別の報酬は、監査役会で協議のうえ決定

図13 取締役の報酬等の総額には連結子会社からの役員報酬と使用人兼務役員1名の使用人分給与16百万円を含む(Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに筆者作成)

取締役の報酬は月額の固定報酬のみとし、役員が担う機能・役割に応じて、職務の内容と負荷を勘案した相当額として、グローバルで競争力を有する報酬水準を基に決定すると記載されています。最近事業年度は、2024年12月に指名・報酬委員会を1回開催し、同月の取締役会で答申どおり個人別の報酬額を決定しました。報酬等の総額は、社外取締役を除く取締役3名で72百万円、社外役員4名で13百万円です。取締役の報酬等の総額には、連結子会社からの役員報酬と、使用人兼務役員1名への使用人分給与16百万円が含まれると注記されています。

報酬の決定方針や決定の手続の記載は、有価証券報告書の記載事項として開示府令に定められているもので、上場後も毎期開示が続きます。持株会社の役員が子会社の役員を兼ねる場合は、子会社から支払う報酬も含めて、誰がどの機関でどの範囲を決めるのかを整理しておくことが重要です。

関連当事者取引と特別利害関係者

関連当事者との取引は、第4期・第5期とも「該当事項はありません」と記載されています。役員や大株主との取引が上場審査で問題になるケースは多く、取引の必要性と条件の妥当性の説明、あるいは上場前の解消が求められます(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。同社は関連当事者取引がない状態で申請しており、特別利害関係者等の株式等の移動も、前述の取締役によるストック・オプションの行使とファンド間のA種優先株式の譲渡に限られています。

確認項目 Ⅰの部の記載
関連当事者との取引(第4期・第5期) 該当事項なし
金融商品取引法上の親会社等 なし
特別利害関係者等の株式等の移動 取締役2名の新株予約権の行使、ファンド間のA種優先株式の譲渡
社外役員と同社との利害関係 人的関係・資本的関係・取引関係その他の利害関係なし

内部監査と内部統制はどのような体制か

内部監査について、同社は小規模組織のため独立した組織としての内部監査部署は設置していないとしたうえで、同社と連結子会社のAllganize Japanの担当者4名が監査計画に基づいて監査を実施していると記載しています。内部監査担当者は代表取締役が任命し、原則として同社の全部門と関係会社を対象とします。監査結果は代表取締役、取締役会、監査役会と実施部署に報告し、改善が必要な事項は対応結果を確認して代表取締役に報告する流れです。

内部監査の体制と三様監査の連携代表取締役内部監査担当者4名同社・Allganize Japanの担当者監査役会常勤社外監査役会計監査人EY新日本同社の各部門Allganize JapanAllganize Korea・Inc.担当者は自己が所属する部門以外を監査し、自己監査を避ける任命・結果報告連携連携監査

図14 独立した内部監査部署は置かず、同社とAllganize Japanの担当者4名が監査計画に基づき実施(Ⅰの部「内部監査の状況」「企業統治の体制」をもとに筆者作成)

自己監査の回避については、内部監査担当者が自己の所属する部門以外の監査を担当することで、自己監査とならないよう留意していると記載されています。兼務者による内部監査では、自部門を監査しない割当てと、計画から改善確認までの記録が審査で確認されます(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。また、内部監査担当者、監査役会、会計監査人はそれぞれの監査を踏まえて情報交換を行い、三様監査の実効性を高めているとしています(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

常勤監査役の活動と子会社管理

常勤監査役の主な活動として、取締役会その他重要な会議への出席、リスク管理・コンプライアンス委員会への出席、取締役・従業員・内部監査担当者へのヒアリング、稟議書・契約書などの重要書類の閲覧、会計監査人との連携、代表取締役との意見交換に加え、Allganize Korea Co., Ltd.への往査(労務管理その他の内部管理体制のヒアリング)が挙げられています。監査役会の検討事項には「上場準備に伴う内部統制体制の整備状況の確認」も含まれています。

会議体 構成 開催の頻度・実績
取締役会 取締役4名(うち社外1名)、監査役3名も出席 原則毎月1回。最近事業年度12回(全員出席)
監査役会 社外監査役3名(常勤1名) 原則毎月1回。最近事業年度12回(全員出席)
指名・報酬委員会 社外取締役(議長)、代表取締役 必要に応じて開催。最近事業年度1回
リスク管理・コンプライアンス委員会 代表取締役(議長)、取締役2名、執行役員3名 原則半年に1度(年2回以上)

子会社管理については、関係会社管理規程に基づき、子会社から業績と経営課題の報告・相談を受けて経営状況を把握し、同社の取締役会で子会社の業務執行状況を報告・討議する体制としています。さらに、同社の内部監査担当者と常勤監査役が子会社を直接監査できる体制を構築していると記載されています。持株会社が上場する場合、実際の事業と従業員の大半は子会社にあるため、子会社の情報がどの経路で、どの頻度で持株会社に上がってくるかが、内部管理体制の有効性の中心になります。海外子会社がある場合は、言語や労務慣行の違いも踏まえた監査計画が必要です。

内部統制システムとリスク管理

取締役会で定めた「内部統制システムに関する基本方針」では、コンプライアンス規程とリスク管理規程の整備、リスク管理・コンプライアンス委員会による全社横断の統括、職制から独立した内部通報窓口の設置(内部通報規程を子会社にも適用し、必要に応じて外部の独立第三者機関を窓口とする)、文書管理規程に基づく取締役会・株主総会の資料の保存、監査役の職務を補助する使用人の独立性の確保などが定められています。内部通報で把握された情報は監査役に共有されるとされています(内部通報体制は上場審査でどこまで見られるか)。

基本方針の主な項目 整備の内容
コンプライアンス コンプライアンス規程、行動規範、リスク管理・コンプライアンス委員会
リスク管理 リスク管理規程、平時の予防体制と不測事態への対応
内部通報 職制から独立した窓口、子会社にも適用、必要に応じ外部の独立第三者機関
子会社管理 関係会社管理規程、管理部門への報告、取締役会・委員会への出席
監査役監査の実効性 補助使用人の任命・異動に監査役の同意、内部通報情報の共有

このほか、監査役との間では会社法第427条第1項に基づく責任限定契約を締結し、取締役会の決議によって取締役と監査役の責任を法令の限度で免除できる旨を定款に定めています。取締役の員数は7名以下、取締役の解任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その3分の2以上で行うとされています。

会計・開示で押さえるべき論点は何か

提供形態ごとに分けた収益認識

同社の収益認識の会計方針は、提供形態に応じて2つに分かれています。1つは、Alli LLM App Marketを一定期間利用させるライセンスの供与です。履行義務は、契約期間にわたりソフトウェアへのアクセスを可能な状態に維持し、機能アップデート等のサポートを提供することと判断しており、ライセンスを供与する際の約束の性質がライセンス期間にわたり存在する知的財産にアクセスする権利であることから、一定期間にわたり収益を認識しています。

もう1つは、オンプレミス環境の構築等です。履行義務は顧客の要件に応じたシステムの構築・導入作業を提供することで、履行義務の充足に係る進捗度に基づいて一定の期間にわたり収益を認識し、進捗度は見積総原価に対する発生原価の割合(インプット法)で見積もっています。契約期間がごく短い取引は代替的な取扱いを適用し、役務の提供や成果物の納品など、履行義務を完全に充足した時点で収益を認識するとしています。

提供形態ごとの収益認識の考え方SaaS(ライセンスの供与)オンプレミス環境の構築等履行義務:契約期間にわたりアクセス可能な状態の維持とアップデート等履行義務:顧客の要件に応じたシステムの構築・導入作業一定期間にわたり収益を認識(知的財産へのアクセス権)契約期間がごく短いか完全に充足した時点で認識一定期間にわたり認識インプット法(発生原価/見積総原価)契約資産=作業完了分のうち未請求の部分(主にオンプレミス) 契約負債=顧客からの前受金第5期末の契約負債は187百万円(前期末57百万円)はいいいえ

図15 Ⅰの部「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項(重要な収益及び費用の計上基準)」「収益認識関係」をもとに筆者作成

ソフトウェアのライセンスが「アクセスする権利」か「使用する権利」かは、収益を一定期間で認識するか一時点で認識するかを分ける論点で、収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)に判断の考え方が示されています。オンプレミス環境でソフトウェアを提供する場合は、構築作業とライセンスを別の履行義務とするか、一体として扱うかも含めて、契約ごとに検討が必要です。上場審査では、売上の計上基準と、それを裏付ける証憑・承認の流れが重点的に確認されます(上場審査で問われる収益認識)。

インプット法で進捗度を見積もる場合、見積総原価の精度が売上の金額を左右します。案件ごとの原価の集計方法、見積総原価の見直しのタイミングと承認者、見積りの変更が生じたときの記録を整えておくことが、内部統制上の要点になります。

契約資産・契約負債と残存履行義務

収益認識関係の注記では、契約資産は主にオンプレミス環境の構築等で業務の全部又は一部が完了しているものの、期末日時点で支払に対する権利を得ていない未請求の売掛金、契約負債は顧客からの前受金と説明されています。オンプレミスの取引は着手金・中間金・完了時精算などの支払条件に従うため、履行義務の充足時期と支払時期の差から契約資産・契約負債が生じるとしています。

項目 第4期(2024年9月期) 第5期(2025年9月期)
顧客との契約から生じた債権(期末) 79百万円 136百万円
契約資産(期末) 41百万円 69百万円
契約負債(期末) 57百万円 187百万円
期首の契約負債から当期に認識した収益 36百万円 57百万円
残存履行義務に配分した取引価格 注記すべき重要なものなし 195百万円(1年以内 約20%、1年超3年以内 約45%、残り約35%は4年以降)

第5期の契約負債が187百万円に増えた理由について、MD&Aは顧客との複数年契約の増加によるものと説明しています。残存履行義務は、当初の契約期間が1年以内のものを注記の対象から除く実務上の便法を適用したうえで、ライセンス供与に関するものとして195百万円が開示されています。複数年契約が増えると、前受金の管理と期間按分の計算が売上計上の正確性に直結するため、契約管理台帳と会計システムの連携が重要になります(収益認識基準 完全ガイド)。

重要な会計上の見積り、税効果、その他の注記

連結財務諸表の「重要な会計上の見積り」の注記は、第4期・第5期とも「該当事項はありません」とされています。MD&Aでは、会計上の見積りを行っている主な項目として固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、貸倒引当金等を挙げたうえで、固定資産の残高が総資産に占める割合が小さいこと、Allganize KoreaとAllganize Japanに減損の兆候がないこと、繰延税金資産の総資産に占める割合が小さいこと、貸倒実績が僅少であることから、重要な影響を及ぼす可能性のある会計上の見積りはないと判断したと説明しています。

繰延税金資産(連結) 第4期末 第5期末
研究開発費 110百万円 197百万円
繰越税額控除 131百万円 175百万円
税務上の繰越欠損金 363百万円 253百万円
繰延税金資産小計 635百万円 663百万円
評価性引当額 △635百万円 △637百万円
繰延税金資産合計 - 26百万円

税効果会計では、第4期末は繰延税金資産635百万円の全額に評価性引当額を計上していましたが、第5期末は評価性引当額637百万円を控除したうえで繰延税金資産26百万円を計上しています。繰延税金負債には子会社留保利益5百万円が含まれます。このほか、海外連結子会社がIFRS第16号「リース」を適用して使用権資産を計上していること、新リース会計基準(企業会計基準第34号)を2028年9月期の期首から適用予定で影響額は評価中であることも注記されています。第6期からは自社利用ソフトウェアの資産計上が始まり、第3四半期末のソフトウエアは82百万円です。

持株会社の単体財務諸表では、子会社の債務超過に対応して関係会社貸倒引当金や関係会社事業損失引当金を計上し、第5期に子会社の債務超過が解消したことに伴い戻し入れています。第5期の単体の当期純利益219百万円には、こうした引当金の戻入額のほか、受取利息と為替差益が含まれます。持株会社形態で上場する場合、連結だけでなく単体の数字の動きも説明できるようにしておく必要があります。

監査法人と監査報酬

会計監査人はEY新日本有限責任監査法人で、継続監査期間は2年間、業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士5名・その他18名と記載されています。監査法人の選定は、日本監査役協会の「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」を基にした評価基準で、規模、審査体制、監査日数・従事者の構成・監査費用の合理性、監査実績などを総合的に判断したとしています(監査法人はいつまでに決めるか)。

区分 前連結会計年度 最近連結会計年度
提出会社の監査証明業務に基づく報酬 29百万円 37百万円
提出会社の非監査業務に基づく報酬 - -
同一ネットワーク(Ernst & Young)への報酬(監査証明業務、計) 5百万円 48百万円
同一ネットワークへの報酬(非監査業務、計) 14百万円 11百万円

同一ネットワークに対する非監査業務の報酬は、税務関連業務等に係るものと注記されています。監査報酬は監査計画・監査内容・監査日数を勘案して協議のうえ決定し、監査役会の同意を得ているとしています。日米双方で税務申告を行う同社のように、海外の税務アドバイスを監査法人のネットワークから受ける場合は、独立性の観点から業務の範囲を整理しておくことが前提になります。

事業等のリスクと審査で問われやすい点

同社の事業等のリスクは、事業に関するリスク10項目、事業体制に関するリスク5項目、その他のリスク8項目で構成され、各項目に発生可能性・発生時期・影響度が付されています。影響度を「大」としているのは技術革新で、発生可能性を「高」としているのはストック・オプションの行使による株式価値の希薄化です。

事業等のリスクの発生可能性と影響度大中~大中低低低~中中高発生可能性 →影響度技術革新システム障害情報管理・知的財産特定人物・災害・訴訟AI関連市場法的規制競合の動向為替変動内部管理体制コンプライアンス小規模組織 ほか事業の拡大売上計上の期ずれ人材の採用・育成法人税の二重課税配当の二重課税資金使途SO行使による株式価値の希薄化

図16 Ⅰの部「事業等のリスク」に記載された発生可能性・影響度の区分に主な項目を配置(「特定人物」は特定の人物への依存、「災害」は大規模な自然災害等、「小規模組織 ほか」には繰越欠損金・投融資を含む。筆者作成)

上場準備の観点から注目したいのは、次の3つの性格のリスクが並んでいる点です。第一に、AI関連市場、技術革新、競合の動向といった事業環境のリスクで、LLMを提供する大手企業がサービス領域を広げていることは、対処すべき課題でも最優先の課題として取り上げられています。第二に、売上計上時期の期ずれや為替変動のように、業績の数字の振れに直結するリスクです。第三に、法人税と配当の二重課税のように、組織再編の結果として生じたリスクです。

事業体制に関するリスクでは、代表取締役への依存、内部管理体制、小規模組織であることを挙げ、権限委譲や管理部門の人員拡充で対応するとしています。事業等のリスクは、Ⅰの部の中でも投資家の判断に直結する記載であり、審査では、記載したリスクに対して実際にどのような管理を行っているかが確認されます(IPO審査の「企業内容等の開示の適正性」)。リスクの記載と、リスク管理・コンプライアンス委員会での議論、取締役会への報告の内容が一致していることが大切です。

上場準備会社がこのケースから学べること

Allganize HoldingsのⅠの部から学べること① 日本の持株会社を最終親会社に三角合併で米国本体を再編② 優先株式の一斉転換取得・交付・消却と定款変更③ 価格の根拠をDCF法でそろえるB種・株式移動・SO④ 提供形態ごとの収益認識アクセス権とインプット法⑤ 少人数の内部監査相互監査と三様監査⑥ 社外中心の監督体制監査役全員社外・任意委員会

図17 本記事で取り上げた論点のまとめ(筆者作成)

1.どの会社を上場させるかを最初に決める。同社は、米国の創業会社ではなく日本の持株会社を最終親会社とし、その株式を上場する構成を選びました。海外に本体や子会社がある場合、上場会社をどこに置くか、再編の手法、税務上の帰結を早い段階で決める必要があります。

2.組織再編の副作用も開示する。インバージョン税制による二重課税や配当時の源泉徴収、配当の支払処理の整備状況まで、事業等のリスクで具体的に記載しています。再編を行う場合は、上場後の株主にどのような影響が残るかを洗い出しておきます。

3.種類株式の整理は手順と日程で考える。取締役会決議、取得と普通株式の交付、同日の消却、定款変更、単元株制度の採用を一連の手続として実施しています。投資契約上の権利の扱いも含め、主幹事証券会社や専門家と早めに段取りを決めることが重要です。

4.価格の根拠をそろえる。B種優先株式の発行価格、株式の移動価格、ストック・オプションの行使価額を、DCF法による価格を基礎として説明しています。株式の発行・移動のたびに、算定方法と根拠資料を保存しておきます。

5.提供形態ごとに会計方針を分ける。SaaSとオンプレミスで履行義務と収益認識のタイミングを分け、契約資産・契約負債・残存履行義務の注記につなげています。事業の多様化にあわせて、会計方針と業務フローを見直すことが必要です。

6.小さな組織でも監査の独立性を確保する。独立部署を置かず4名の担当者で相互に監査し、監査役全員を社外監査役とし、常勤監査役が海外子会社まで往査しています。人数が少ない会社でも、仕組みと記録で独立性と実効性を示すことができます。

  • 上場会社とする法人と、グループ再編の手順・税務上の影響を整理している
  • 種類株式の取得・普通株式の交付・消却・定款変更の日程を主幹事証券会社と確認している
  • 株式の発行・移動・ストック・オプションの価格の算定方法と根拠資料を保存している
  • 提供形態ごとに履行義務と収益認識の時点を定め、進捗度の見積りの承認手続を決めている
  • 内部監査の担当者が自部門を監査しない割当てと、子会社まで含めた監査計画がある
  • 為替など本業以外の要因を分けて、事業計画と予実管理を説明できる

よくある質問

Q1. 海外で創業した会社でも、日本の会社を親会社にすれば東証に上場できますか。

同社は、米国で創業したグループが日本に設立した持株会社を最終親会社とし、三角合併などの組織再編を経て、その日本法人の株式の上場を申請しました。ただし、再編の手法によっては税務上の取扱いや株主の課税関係に影響が生じ、同社も米国税法上は米国法人として扱われるため、日米の二重課税のリスクを開示しています。再編を検討する段階から、税務・法務の専門家と主幹事証券会社を交えて設計することが必要です。

Q2. 優先株式は、上場前にどのような手続で普通株式にするのですか。

同社では、取締役会決議に基づき優先株式のすべてを自己株式として取得し、対価として優先株式1株につき普通株式1株を交付したうえで、同日に会社法第178条に基づき消却しています。その後の臨時株主総会で種類株式の定めを廃止しました。具体的な手続は定款の定めや投資契約の内容によって異なるため、早い段階で確認しておくことが大切です。

Q3. 内部監査の専任部署がなくても上場できますか。

同社は、小規模組織のため独立した内部監査部署は置かず、同社と子会社の担当者4名が監査計画に基づいて内部監査を行い、担当者が自己の所属部門以外を監査する体制です。専任部署の有無よりも、自己監査を避ける割当て、計画・実施・報告・改善確認の記録、監査役・会計監査人との連携が整っているかが確認されます。

Q4. ストック・オプションを付与しているのに費用が計上されないのはなぜですか。

同社は、付与日時点で未公開株式であるため、公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積もっており、ストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項はありません」と記載しています。未公開企業では本源的価値による見積りが認められていますが、本源的価値の前提となる株価の算定方法(同社ではDCF法による価格を基礎)を説明できるようにしておく必要があります。

最初の一歩は、グループ構成と株式の履歴の一覧化から

同社のように、海外拠点を持ち、複数回の優先株式の発行やストック・オプションの付与を重ねてきた会社では、まず、グループ各社の資本関係と事業の役割、これまでの株式・新株予約権の発行と移動を、価格の根拠とあわせて時系列で一覧にすることから始めるのがおすすめです。そのうえで、上場会社をどこに置くか、種類株式をいつどう整理するか、内部監査と子会社管理をどう回すかを、上場予定時期から逆算して計画に落とし込むと、課題の優先順位が見えてきます。現状を客観的に把握する方法としては、ショートレビューの活用も有効です。

まとめ

Allganize Holdings株式会社は、米国で創業し、日本・米国・韓国で企業向けの生成AIプラットフォームを提供するグループの持株会社で、2026年9月30日に上場承認を受け、2026年11月4日に東証グロース市場へ上場する予定です。Ⅰの部からは、三角合併による日本の持株会社への再編とそれに伴う税務リスクの開示、優先株式から普通株式への一斉転換、DCF法を基礎にした価格の一貫性、SaaSとオンプレミスで分けた収益認識、少人数の内部監査と社外中心の監督体制など、上場準備の実務に直結する具体例を読み取ることができます。

特に、海外に本体や子会社を持つ会社にとって、上場会社の選び方と、再編の副作用まで含めた開示の考え方は大いに参考になります。自社の状況に置き換えて、早い段階から論点を整理しておきましょう。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で確認できます。

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ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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