資本政策はなぜやり直せないか|順番を間違えたときに起きること

資本政策はやり直せない、とよく言われます。理由は簡単で、会社が一方的に株式を取り戻す方法がないからです。

自己株式の取得はできますが、会社法第461条第1項が分配可能額を超えてはならないとしています。資金があっても、剰余金がなければ買い取れません。

そして払込金額は次の調達の基準になります。安く出した1回目は、2回目以降の価額の説明にそのまま効いてきます。

この記事でわかること

  • 募集株式の決定機関が有利発行かどうかで変わること
  • 支配株主が入れ替わるときの追加手続
  • 2分の1超と10分の1の使い分け
  • 議決権の割合で何ができるか
  • 3分の1超の根拠が条文にないこと
  • 自己株式の取得が財源規制を受けること

📌 結論 戻せないのは財源規制があるから

図1 募集株式の発行等の決定手続場面決定機関根拠原則株主総会の決議第199条第2項公開会社(有利発行を除く)取締役会の決議に読み替え第201条第1項特に有利な払込金額のとき公開会社でも株主総会。取締役が必要とする理由を説明第199条第3項株主総会への委任数の上限と払込金額の下限を定めて委任。決議日から1年以内の払込期日に限る第200条第1項・第3項株主割当て株主は有する株式の数に応じて割当てを受ける権利を有する第202条第1項・第2項

有利発行かどうかで、公開会社でも決定機関が変わります。第201条第1項の書き出しが第199条第3項に規定する場合を除き、となっているためです。

会社法第199条第2項は、募集事項の決定は株主総会の決議によらなければならない、としています。第201条第1項が、公開会社ではこれを取締役会に読み替えます。

ただし第201条第1項の書き出しは、第199条第3項に規定する場合を除き、です。特に有利な払込金額で発行するときは、公開会社でも株主総会が要ります。第309条第2項第5号が第199条第2項の株主総会を掲げているため、特別決議です。

そして一度払い込まれた株式を会社が取り戻すには、自己株式の取得によるほかありません。第461条第1項は、その帳簿価額の総額が効力発生日における分配可能額を超えてはならない、としています。

🧭 支配株主が入れ替わるとき

図2 支配株主が入れ替わるときの追加手続(第206条の2)内容第1項引受人の議決権が総株主の議決権の2分の1を超える場合、払込期日の2週間前までに引受人の氏名・名称・住所等を株主に通知第2項通知は公告で代えることができる第4項総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が反対の通知をしたときは、株主総会の決議を要す第5項その株主総会の決議は普通決議(出席株主の議決権の過半数)

10分の1という数字は反対通知の側の要件です。引受人の側は2分の1超。2つの割合を混同しないでください。

第206条の2の見出しは、公開会社における募集株式の割当て等の特則です。引受人の議決権が総株主の議決権の2分の1を超える場合に適用されます。

払込期日の2週間前までに、引受人の氏名または名称と住所などを株主に通知します。公告で代えることもできます。

そして総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が反対の通知をしたときは、株主総会の決議が必要になります。第5項により、この決議は普通決議です。

ただし、財産の状況が著しく悪化している場合で事業の継続のため緊急の必要があるときは除かれます。

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🧾 議決権の割合で何が変わるか

図3 議決権の割合で何が変わるか割合できること根拠過半数普通決議を単独で可決できる第309条第1項3分の2以上特別決議を単独で可決できる第309条第2項3分の1超特別決議の成立を阻止できる(決議要件が出席株主の議決権の3分の2以上であることの裏返し)第309条第2項100分の3以上株主総会の招集請求(第297条)、会計帳簿の閲覧等の請求(第433条第1項)100分の1以上または300個以上株主提案権(第303条第2項、第305条第1項)

3分の1超で特別決議を阻止できる、と定めた条文はありません。第309条第2項の決議要件から導かれる帰結です。

第309条第1項が普通決議、第2項が特別決議です。第2項は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数、としています。

3分の1超を持てば特別決議を阻止できる、という説明が広く出回っています。ただ、そう定めた条文はありません。決議要件が出席株主の議決権の3分の2以上であることの裏返しです。

定足数は定款で3分の1以上まで引き下げられます。引き下げられていれば、阻止に必要な割合も変わります。定款を先に確認してください。

少数株主権は割合が細かく分かれます。株主総会の招集請求と会計帳簿の閲覧等の請求は100分の3以上、株主提案権は100分の1以上または300個以上です。非公開会社では6か月の保有期間要件がありません。

📅 新株予約権も同じ構造

図4 順番を間違えると戻せない場所創業時の持株比率を決める最初の第三者割当を行う(払込金額が以後の基準になる)ストックオプションの権利行使価額を決める追加の資金調達を重ねる上場申請。流通株式比率の要件を満たすか確かめる上場

一度払い込まれた株式は、会社が勝手に取り戻せません。自己株式の取得も分配可能額の範囲内です(第461条第1項)。

新株予約権の募集事項の決定も同じ形です。第238条第2項が株主総会の決議、第240条第1項が公開会社での取締役会への読み替えです。特に有利な条件または金額のときは第238条第3項が理由の説明を求めます。

委任は第239条第1項、割当日が決議日から1年以内の募集に限られるのが第239条第3項です。

上場時の流通株式比率の要件は流通株式数・流通株式時価総額・流通株式比率の計算方法にまとめています。持株比率の設計は、この数値から逆算してください。

❓ よくある質問

Q. 公開会社なら取締役会で新株を出せますか。

A. 有利発行に当たらない場合です。特に有利な払込金額のときは第199条第3項により株主総会が必要です。

Q. 有利発行の決議は特別決議ですか。

A. 第309条第2項第5号が第199条第2項の株主総会を掲げています。特別決議です。

Q. 支配株主が変わる割当てで何が要りますか。

A. 引受人の議決権が2分の1を超える場合、払込期日の2週間前までの通知が要ります(第206条の2第1項)。

Q. 株主が反対したらどうなりますか。

A. 総株主の議決権の10分の1以上の反対通知があれば株主総会の決議が必要です。普通決議です。

Q. 出した株を会社が買い戻せますか。

A. 自己株式の取得によります。ただし第461条第1項により分配可能額を超えられません。

Q. 3分の1超で拒否権が持てますか。

A. そう定めた条文はありません。第309条第2項の決議要件からの帰結です。定款で定足数を下げていれば変わります。

Q. 帳簿を見せろと言われたら。

A. 第433条第1項の要件(議決権または発行済株式の100分の3以上)を満たす株主からの請求です。

Q. 委任決議の有効期間はありますか。

A. 第200条第3項により、決議日から1年以内の払込期日の募集にのみ効力があります。

📄 まとめ

有利発行かどうかで、公開会社でも決定機関が変わります。

支配株主が入れ替わる割当ては、2分の1超で通知、10分の1以上の反対で株主総会です。

3分の1超の拒否権は条文ではなく、決議要件からの帰結です。定款を確認してください。

やり直せないのは、会社が自由に取り戻せないからです。出す前に、上場時の比率から逆算してください。

📚 参考(公的な一次情報)

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