ルクレのIPO|買い切りからサブスクへの転換と創業者88.8%からの資本政策【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年9月8日、株式会社ルクレ(証券コード648A)は東京証券取引所から上場承認を受け、2026年10月15日に東証グロース市場へ上場する予定です。同社は工事写真の整理・台帳作成を支援する「蔵衛門(くらえもん)」シリーズを中核に、建設、保育・教育、修理・整備といった「フィジカル産業」の現場に向けて、写真を起点とする記録DXサービスを提供しています。本記事では、同社が提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、上場準備会社が実務の参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、ルクレのⅠの部は「買い切り型ソフトの会社がサブスクリプション型へ収益モデルを切り替えながら上場準備を進めるとき、業績・KPI・会計・資本政策がどう表れるか」を確認できる教材です。買い切り型からの移行期に2期連続で経常損失を計上したあと黒字化していること、ARRやストック売上比率などのKPIを定義・算定方法まで開示していること、ベンチャーキャピタルが入らず創業者グループが88.8%を保有する支配株主の構成から上場時の売出しで支配株主に該当しなくなる予定であること、発行済株式の19.47%にあたる自己株式を保有していることなど、IPO実務の論点が多く含まれています。

ルクレはどんな会社で、いつどの市場に上場するのか?

まず基本情報を確認しておきましょう。ルクレは1995年9月、富士通株式会社の社内ベンチャー制度により「株式会社トリワークス」として設立され、2011年10月に現在の商号に変更しました。2009年3月に富士通との資本関係を解消しており、Ⅰの部では「以降は一切の関係を有していない」と記載されています。本店は東京都港区北青山、決算期は9月で、2025年9月期が第31期にあたります。

子会社・関連会社はなく、財務諸表は単体のみです。セグメントは「記録DXプラットフォーム事業」の単一セグメントで、従業員数は2026年7月31日現在で47名(ほかに臨時従業員68名)、平均年齢32.1歳、平均勤続年数7.2年となっています。

項目 内容
社名 株式会社ルクレ(英訳名 LECRE Inc.)
証券コード・市場 648A・東京証券取引所グロース市場
上場承認日 2026年9月8日
上場予定日 2026年10月15日
設立 1995年9月(株式会社トリワークスとして設立、2011年10月に商号変更)
本店所在地 東京都港区北青山一丁目
代表者 代表取締役 有馬 弘進
決算期 9月(第31期=2025年9月期)
従業員数 47名(臨時従業員68名、2026年7月31日現在)
セグメント 記録DXプラットフォーム事業の単一セグメント
機関設計 監査役会設置会社(会計監査人:太陽有限責任監査法人)

同社の事業は単一セグメントですが、顧客の業界と記録の対象に応じて、建設業界向けの「施工記録領域」、保育・教育業界向けの「成長記録領域」、修理・整備業界向けの「整備記録領域」の3つに分けて説明されています。Ⅰの部では、各領域は独立した製品の集合ではなく、写真を現場で取得し、AIで意味付けし、クラウドで共有する共通基盤を業界ごとに展開したものだと位置づけられています。

ルクレの記録DXプラットフォーム(3領域と共通基盤)施工記録領域(建設)蔵衛門Pad・蔵衛門プレミアム第31期売上 2,011百万円成長記録領域(保育・教育)みんなの写真屋さん第31期売上 903百万円整備記録領域(車体整備)AITURBO(2026年6月〜)立ち上げ・先行投資期共通基盤「記録DXプラットフォーム」写真で記録 → AI(RecAI)で認識・構造化 → クラウドで共有・活用 + 写真証明基盤2025年9月期の売上高のうち施工記録領域が68.8%を占める中核事業

図1 単一セグメント(記録DXプラットフォーム事業)の中で、施工記録・成長記録・整備記録の3領域を共通基盤の上に展開しています。売上高は2025年9月期。Ⅰの部「事業の内容」「経営成績等の分析」をもとに作成

業績面での位置づけもはっきり書かれています。施工記録領域は「売上の過半を占めるとともに、利益の大半を創出している中核事業」、成長記録領域は一定の売上規模があるものの「全社利益への貢献は限定的」、2026年6月に始めた整備記録領域は「事業の立ち上げ及び先行投資のフェーズ」とされています。グロース市場の審査では、事業の現状と今後の成長の道筋を投資者に分かりやすく説明することが重視されます。領域ごとに「稼いでいる事業」「安定収益の事業」「先行投資の事業」を書き分ける開示は、グロース市場の「高い成長可能性」をどう説明するかを考えるうえで参考になります。

ルクレは何で稼いでいるのか?フロー収益とストック収益の組み合わせ

施工記録領域の中核は、粉塵や水濡れのある建設現場で使う専用端末「蔵衛門Pad」と、写真や図面を現場と事務所で共有するクラウド「蔵衛門クラウド」、その有料プランである「蔵衛門プレミアム」です。1998年から販売してきた買い切り版のPCソフト「蔵衛門御用達」シリーズ(現行版は「蔵衛門御用達2021」)が長年の収益源で、Ⅰの部では約11万社(2026年6月時点)の顧客基盤を持つと説明されています。

収益は、端末やパッケージソフトの販売による「フロー収益」と、蔵衛門プレミアムのID利用料や通信サービス「ルクレSIM」の通信料による「ストック収益」から構成されます。同社は端末販売や無料アプリを導入の起点として、クラウドのID契約へつなげる事業モデルを全社的に採用していると説明しています。

フロー収益を入口にストック収益へつなげる事業モデル導入の起点蔵衛門Pad(端末)蔵衛門カメラ(無料)クラウドID契約蔵衛門プレミアムID単位の定額顧客内で拡大企業単位の契約利用部門・現場へストック収益ARR 1,067,693千円(2025年9月末)買い切り版ソフト「蔵衛門御用達2021」約11万社の顧客基盤(2026年6月時点)ストック売上比率24.7%(第30期)→ 30.8%(第31期)クラウドへの移行

図2 専用端末や無料アプリを導入の起点とし、クラウドのID契約(ストック収益)へつなげる構造です。買い切り版ソフトの既存顧客にはクラウドへの移行を進めています。Ⅰの部「事業の内容」「経営上重視する指標」をもとに作成

2025年9月期時点では、施工記録領域の売上高はなおフロー収益が過半を占めています。一方で、既存顧客に対して買い切り版ソフトから蔵衛門プレミアムへの切り替え(クラウドへの移行)を進めた結果、全社売上高に占めるストック売上比率は前期の24.7%から30.8%へ6.1ポイント上昇しました。製品・サービス別の売上高は、Ⅰの部の「関連情報」に次のとおり記載されています(各領域の主要製品以外の売上は「その他」に含めています)。

製品・サービス 第30期(2024年9月期) 第31期(2025年9月期)
蔵衛門Pad 839,884千円 813,234千円
蔵衛門プレミアム 444,680千円 764,819千円
蔵衛門御用達 228,312千円 221,542千円
施工記録領域 その他 143,458千円 211,517千円
施工記録領域 合計 1,656,335千円 2,011,113千円
みんなの写真屋さん(プラットフォーム型) 473,477千円 858,700千円
みんなの写真屋さん(ASP型) 64,077千円 33,251千円
成長記録領域 その他 12,805千円 11,808千円
成長記録領域 合計 550,359千円 903,760千円
その他の領域 17,492千円 5,239千円
売上高 合計 2,224,188千円 2,920,113千円

成長記録領域の主力は、写真店や保育園・学校が登録した写真を保護者がオンラインで注文できる「みんなの写真屋さん」です。2025年9月期は、年間利用者数(YAU)が218,481ID、利用者1人当たり年間売上高(ARPU)が4,136円でした。ARPUが前期の2,620円から上昇した理由について、Ⅰの部は、写真販売のオンライン化に加え、写真店を販売主体とする「ASP型」から当社が販売主体となる「プラットフォーム型」へ移行し、売上高として計上する範囲が拡大したことを挙げています。この点は後半の会計の章で改めて取り上げます。

なお、売上高の10%以上を占める販売先はなく、2025年9月末の売掛金の主な相手先は株式会社ROBOT PAYMENT、GMOイプシロン株式会社、ダイワボウ情報システム株式会社などです。特定の顧客に依存していない一方で、事業等のリスクでは施工記録領域が売上高の68.8%を占めることを「特定のサービスへの依存」として挙げています。

設立から上場までどのような道のりをたどったのか?

ルクレの沿革は、事業の入れ替えが多いことが特徴です。設立翌年の1996年に上海で子会社を設立(2001年に売却)、2004年に写真関連のフォトクリエイトの株式を取得(2016年に売却)、2005年に一般消費者向け写真ビジネスのDigiBookを設立(2020年に吸収合併)、2015年にネットワークカメラ管理ソフトの事業を会社分割で株式会社アロバとして独立させ、2019年にセコムからの買収提案を受けて同社株式を売却しています。

その後は工事写真に経営資源を集中し、2021年8月に「蔵衛門クラウド」、2022年4月に有料プランの「蔵衛門プレミアム」を開始しました。2023年1月にISMS認証を取得し、2026年6月には自動車の修理・整備記録AIクラウド「AITURBO」で整備記録領域に参入しています。

沿革:パッケージソフトからクラウド、そして上場へ創業〜パッケージ・端末の時代1995年9月富士通社内ベンチャーで設立1998年7月工事写真ソフト「蔵衛門」発売2009年3月富士通との資本関係を解消2011年10月商号をルクレに変更2014年5月専用端末蔵衛門Pad発売事業の選択と集中〜クラウド転換と上場2019年7月子会社アロバ株式を売却2021年8月蔵衛門クラウド開始2022年4月蔵衛門プレミアム販売開始2026年6月AITURBOで整備記録へ参入2026年10月15日グロース市場上場予定

図3 1995年の設立から2026年10月の上場予定までの主な出来事。Ⅰの部「沿革」をもとに作成

上場準備の観点では、過去の子会社の設立・売却や吸収合併の経緯を、沿革として正確に整理しておくことが求められます。現時点で子会社がなくても、過去の組織再編や株式売却の経緯は審査で質問されることがあります。いつ、なぜ、どの条件で行ったのかを取締役会議事録や契約書と合わせて説明できるように準備しておくと安心です。

業績はどう推移し、なぜ一度赤字になったのか?

Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」には、第27期(2021年9月期)から第31期(2025年9月期)までの5期分が掲載されています。このうち第30期と第31期は太陽有限責任監査法人の監査を受けた財務諸表の数値で、第27期から第29期は会社計算規則に基づく数値であり、同監査法人の監査を受けていない旨が注記されています。

回次(決算期) 売上高 経常損益 当期純損益 純資産 自己資本比率
第27期(2021年9月) 1,840,126 185,352 121,010 769,431 77.26%
第28期(2022年9月) 1,581,146 △239,652 △123,960 584,271 53.91%
第29期(2023年9月) 1,646,081 △126,425 △83,807 439,263 42.84%
第30期(2024年9月) 2,224,188 77,384 49,498 427,562 35.78%
第31期(2025年9月) 2,920,113 341,743 226,082 592,444 36.65%

(単位:千円。第27〜29期は監査対象外の数値です。)

第28期と第29期は経常損失・当期純損失を計上しています。その要因について、Ⅰの部は「蔵衛門のライセンス販売形式を従来の買い切り型から、契約期間にわたって売上高を計上するサブスクリプション型へ移行したことによるもの」と注記しています。買い切り型では販売時に売上が一度に計上されますが、サブスクリプション型では契約期間に按分して計上されるため、移行の初期には当期に計上される売上が小さくなります。第30期には黒字に転じ、第31期は売上高2,920,113千円(前期比31.2%増)、営業利益329,854千円(同322.0%増)となりました。

売上高と経常損益の推移(百万円)売上高(百万円)08001,6002,4003,200第27期第28期第29期第30期第31期1,8401,5811,6462,2242,920経常損益185経常損益△240経常損益△126経常損益77経常損益342第27期=2021年9月期 … 第31期=2025年9月期。第28・29期の損失はサブスクリプション型への移行による

図4 買い切り型からサブスクリプション型への移行期(第28期・第29期)に経常損失を計上し、第30期から黒字化しています。百万円未満は四捨五入。第27〜29期は会社計算規則に基づく数値で監査対象外。Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」をもとに作成

グロース市場の会社では、赤字の期間があること自体が問題になるわけではありません。重要なのは、赤字の理由を事業モデルの変化と結びつけて説明し、その後の回復の道筋を数値で示せるかどうかです。ルクレは、損失の要因を注記で明示したうえで、ストック収益の伸びを示すKPIを開示しています。

ストック収益化の進み具合を示すKPIストック売上比率(%)012.52537.550第30期第31期32期中間32期3Q24.730.836.538.2主要KPI(2024年9月末 → 2025年9月末)ARR:714,114千円 → 1,067,693千円有料利用者数:62,923ID → 95,157ID契約社数:7,574社 → 10,763社解約率:0.12% → 0.16%

図5 ストック売上比率は、施工記録領域のストック売上高が全売上高に占める割合。第32期は中間会計期間・第3四半期累計期間の数値。右側は「蔵衛門プレミアム」の指標(解約率はエンタープライズプランの会社単位・直近12か月平均)。Ⅰの部「経営上重視する指標」「経営成績等の状況の概要」をもとに作成

ARR(年間経常収益)は「当該月におけるストック売上高を12倍して算出した数値」と定義され、2024年9月末の714,114千円から2025年9月末には1,067,693千円に増えています。蔵衛門プレミアムの有料利用者数(ID)は62,923から95,157へ51.2%増、契約社数は7,574社から10,763社へ42.1%増でした。Ⅰの部は、IDの増加率が契約社数の増加率を上回っていることから、既存の導入企業でも利用部門・現場が広がっていると分析しています。

特徴的なのは、指標の定義と母集団まで丁寧に注記している点です。たとえば解約率は「エンタープライズプラン」の会社単位で算定し、工事現場単位で導入する「ライセンスパックプラン」は、工事の完了で利用が終わることが前提のため算定対象から除いていると説明しています。さらに、解約率の分母(エンタープライズプランの契約企業数)と、契約社数(エンタープライズプランとパックプランの合計)とでは母集団が異なることまで明記しています。

2025年9月期の売上高から営業利益まで(百万円)売上高2,920.1売上原価-1,582.6売上総利益1,337.5販管費-1,007.6営業利益329.9

図6 第31期(2025年9月期)の損益計算書を百万円単位(小数第1位)で表示。売上原価の大半は外注費(1,016,242千円)です。Ⅰの部「損益計算書」「製造原価明細書」をもとに作成

第31期の損益構造を見ると、売上原価1,582,623千円のうち、製造原価明細書の経費に含まれる外注費が1,016,242千円を占めています。販売費及び一般管理費は1,007,634千円で、研究開発費122,185千円は全額が一般管理費に計上されています。直近の第32期第3四半期累計期間(2025年10月〜2026年6月、期中レビュー済み)は、売上高2,473,261千円、営業利益495,483千円で、ストック売上比率は38.2%まで高まっています。

キャッシュ・フローでは、第31期の営業活動によるキャッシュ・フローが668,676千円と大きく増えました。税引前当期純利益341,743千円に加え、前受金である契約負債の増加212,386千円が寄与しています。サブスクリプション型の年額契約では代金を先に受け取るため、利益以上に現金が増えることがあります。逆に、事業計画を作るときは損益だけでなく前受金の動きも織り込まないと、資金計画とのずれが生じます。IPO審査の「事業計画の合理性」の観点でも、KPI・損益・資金の三つをつなげて説明できることが大切です。

資本政策と株主構成にはどんな特徴があるのか?

ルクレの株主構成で目を引くのは、ベンチャーキャピタルや事業会社が株主に入っていないことです。2026年7月31日現在の株主数は18名で、所有者別状況は「その他の法人」1名(40.00%)、「個人その他」17名(60.00%、自己株式を含む)となっています。

Ⅰの部の「事業等のリスク」によれば、創業者の池田武史氏(二親等内の親族及び資産管理会社であるTAK株式会社を含む)が所有する株式は6,790,000株で、自己株式を除く発行済株式総数7,650,000株の88.8%を保有する支配株主です。池田氏は元代表取締役で、現在の代表取締役は2019年9月に就任した有馬弘進氏です。創業者が経営の第一線から退き、現経営陣が事業を率いる形で上場を迎えることになります。

上場申請時点の主な株主(上位6名)TAK株式会社(資産管理会社)3,800,000株(44.94%)池田武史氏(元代表取締役)2,840,000株(33.58%)有馬弘進氏(代表取締役)1,000,000株(11.82%)渋谷充宏氏(取締役)200,000株(2.36%)池田恭子氏(元取締役)150,000株(1.77%)野村絵里奈氏(執行役員)114,000株(1.34%)池田氏グループ(TAK株式会社・池田武史氏・池田恭子氏)計6,790,000株=自己株式を除く発行済株式総数7,650,000株の88.8%(支配株主)

図7 Ⅰの部「株主の状況」に基づく上場申請時点の状況。割合は新株予約権による潜在株式を含む株式(自己株式を除く)総数8,455,000株に対する比率で、株数には潜在株式を含みます(有馬氏500,000株、渋谷氏100,000株、野村氏24,000株)。上場時の売出し後の比率ではありません

この比率は上場申請時点のものです。Ⅰの部は「本上場に伴う池田氏保有株式の売出しにより、上場後における池田氏の持分比率は低下し、当社の支配株主に該当しなくなる予定」と記載しています。上場時点の具体的な持株比率は、Ⅰの部ではなく、上場時の有価証券届出書や目論見書で確認する必要があります。

上場準備会社にとっては、創業者や大株主の持株をどのタイミングでどれだけ売り出すかが、流通株式の確保と支配株主の扱いの両面に関わります。流通株式からは、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが除かれます。資産管理会社を通じた保有も含めて、流通株式数の数え方を早めに試算しておくことが大切です。

株式分割と自己株式:上場に向けた株式の整備

ルクレは2026年6月12日の取締役会決議により、2026年7月1日付で普通株式1株を1,000株に分割しました。発行済株式総数は9,500株から9,500,000株になり、同時に2026年6月29日の臨時株主総会で、単元株式数を100株とする単元株制度の採用と、発行可能株式総数を20,000,000株とする定款変更を決議しています。資本金は30,000千円のまま変わっていません。

もう一つの特徴は、自己株式1,850,000株(発行済株式総数の19.47%)を保有していることです。最近事業年度と最近期間に自己株式の取得・処分はありません。「設備の新設、除却等の計画」には、本社の増床に伴う建物附属設備60,000千円(2026年10月着手、2027年4月完了予定)の資金調達方法として「自己株式の処分資金」と記載されています。上場時の公募は、新株の発行だけでなく自己株式の処分によって行うこともできます。どちらを選ぶかで、資本金・資本準備金の増加や、その他資本剰余金の計上などの会計処理が変わるため、主幹事証券や監査法人と早めにすり合わせておく論点です。

資本政策の主な出来事2021年2月第1回SO行使価額89円2022年11月第2回・第3回SO(その後失効)2023年12月第4回SO従業員39名等2026年7月株式分割1:1,000単元株100株2026年10月グロース市場上場予定自己株式 1,850,000株発行済株式の19.47%潜在株式 805,000株発行済株式の8.5%設備資金 60,000千円調達方法:自己株式の処分資金創業者(池田氏)の売出しにより、上場後は支配株主に該当しなくなる予定

図8 新株予約権の行使価額は2026年7月1日の株式分割(1株→1,000株)後の金額。上場時の公募・売出しの具体的な株数はⅠの部には記載されていません。Ⅰの部「株式等の状況」「設備の新設、除却等の計画」「事業等のリスク」をもとに作成

ストック・オプションは4回発行し、2回分が失効

新株予約権(ストック・オプション)は、Ⅰの部の注記を見ると第1回から第4回まで発行されています。このうち2022年11月に付与された第2回(行使価額144円、取締役1名・従業員38名)と第3回(同144円、監査役1名)は、第30期末までに全て失効しました。提出日現在で残っているのは第1回と第4回で、潜在株式数は805,000株、発行済株式総数に対する割合は8.5%です。

ストック・オプション(新株予約権)の各回回付与日行使価額付与株数付与対象者(付与時)第31期末の状況第1回2021年2月23日89円550,000株代表取締役1名取締役1名未確定残400,000株第2回2022年11月2日144円362,000株取締役1名従業員38名第30期末までに全て失効第3回2022年11月2日144円10,000株監査役1名第30期末までに全て失効第4回2023年12月27日89円473,000株代表取締役1・取締役1監査役1・従業員39未確定残433,000株提出日現在の潜在株式:第1回400,000株+第4回405,000株=805,000株(発行済株式総数の8.5%)

図9 株数・行使価額は株式分割後に換算。第4回の行使条件には「当社株式の上場」が含まれ、買収時の行使条項もあります。第1回の行使条件に上場は含まれていません。Ⅰの部「新株予約権等の状況」「ストック・オプション等関係」注記をもとに作成

第1回と第4回は行使条件が異なります。第4回は「当社普通株式がいずれかの金融商品取引所に上場すること」が行使の条件とされ、さらに会社が買収される場合(議決権の過半数の取得、合併・株式交換・株式移転・株式交付で既存株主の議決権が50%未満になる場合、事業の全部の譲渡など)には、買収決議等の日から効力発生日の5日前までに限り行使できる条項が付いています。一方、第1回の行使条件には上場は含まれておらず、権利行使時に取締役・監査役・使用人の地位にあることなどが定められています。上場前に発行するストック・オプションでは、上場しなかった場合やM&Aで売却される場合の扱いを行使条件でどう定めるかが、設計上の重要なポイントになります。

ストック・オプションの公正な評価単価は、未公開株式であることから単位当たりの本源的価値(株式の評価額から行使価格を控除する方法)で見積もられ、株式の評価額はディスカウント・キャッシュ・フロー法を総合的に勘案して決定したとされています。費用計上額は第30期・第31期とも「該当事項はありません」です。ストック・オプション等に関する会計基準では、未公開企業は公正な評価単価に代えて本源的価値によることができるとされています。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例もあわせて参考にしてください。

第4回の発行価格(行使価額)89円は、「第三者割当等の概況」で、DCF法及び類似会社比準方式によって算出した結果を参考に決定したと記載されています。割当日は2023年12月27日で、基準事業年度の末日(2025年9月30日)の1年前より前のため、「保有期間等に関する確約」の欄は「-」となっています。有価証券上場規程施行規則第272条では、基準事業年度の末日の1年前より後に役員・従業員等へ報酬として新株予約権を割り当てた場合に、継続所有等の確約が求められます。どの割当が確約の対象になるかは、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で整理しています。

上場前2年間の株式移動はすべて1株40円

「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2023年10月1日以降の株式移動が記載されています。当時の取締役・監査役から現役員や従業員への譲渡、創業者の池田氏から従業員9名への譲渡(計110,000株)、元従業員・従業員から池田氏への譲渡などで、価格はいずれも1株40円(分割後換算)、移動理由はすべて「所有者間の事情による」とされています。

上場前2年間の特別利害関係者等の株式移動役員(当時)から高野久氏・金丸敦氏役員・従業員へ有馬氏100,000株・渋谷氏50,000株従業員3名へ各10,000株創業者・元代表取締役池田武史氏従業員9名へ(計110,000株)野村氏・嶌﨑氏へ各20,000株ほか7名へ各10,000株元従業員・従業員から金子博幸氏・東哲氏価格はすべて1株40円(分割後換算)、移動理由は「所有者間の事情による」2023年11月〜2024年5月2025年4月24日計60,000株(2024年12月・2025年4月)

図10 2023年10月1日以降の主な株式移動を整理したもの(株数は分割後換算)。このほか2025年12月・2026年6月に従業員間の移動があります。Ⅰの部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成

移動価格については「当社の財政状態、経営成績及び過去の取引実例等を総合的に勘案し、当事者間での協議の上、決定」と注記されています。上場前の株式移動では、同じ時期の株価の整合性や、税務上の時価との関係が問われます。また、施行規則第267条により、上場日から5年間、移動状況の記録を保存することが求められ、記載が正確でなかった場合には取引所が公表できるとされています。株主名簿の管理と譲渡承認の手続き(取締役会の承認など)を確実に記録しておくことが、上場準備の基本になります。株価の決め方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかも参照してください。

コーポレート・ガバナンスはどのように設計されているか?

ルクレは監査役会設置会社で、株主総会、取締役会、監査役会、会計監査人を置き、代表取締役が任命する内部監査人が内部監査を実施しています。取締役会は取締役4名(うち社外取締役2名)で構成され、代表取締役が議長を務め、定時取締役会を毎月1回開催しています。最近事業年度の開催回数は15回で、記載された取締役3名はいずれも全回出席しています(社外取締役の影山輝彰氏は2026年1月就任のため記載なし)。

このほか、経営会議(代表取締役が議長、常勤取締役と執行役員2名で構成、原則月1回以上)、リスクコンプライアンス委員会(原則四半期に1回、社外取締役と監査役も出席)、人事評価委員会(年2回)、懲罰委員会(最近事業年度の開催実績なし)といった会議体が置かれています。任意の指名委員会・報酬委員会についての記載はありません。

ルクレの機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会(4名・うち社外2名)議長:代表取締役/毎月1回監査役会(3名・全員社外)常勤1名・非常勤2名/毎月1回代表取締役 有馬弘進会計監査人 太陽有限責任監査法人経営会議毎月1回以上リスクコンプライアンス委員会(四半期)内部監査人(1名)+外部委託先1社選任選任選定・監督監査連携任命三様監査の連携

図11 株主総会・取締役会・監査役会・会計監査人に加え、代表取締役が任命する内部監査人が内部監査を行う体制です。会議体の開催頻度は原則。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成

役員は男性5名・女性2名の計7名で、執行役員制度を導入し、事業本部長と管理部長の2名が執行役員です。役員構成は次のとおりです。

役職 氏名 主な経歴・属性(Ⅰの部の記載から)
代表取締役 有馬 弘進 2002年に当社入社、DigiBook代表取締役を経て2019年9月就任。所有株式500,000株
取締役 渋谷 充宏 2006年に当社入社、2023年12月より取締役サービス開発部部長。所有株式100,000株
社外取締役 波田野 馨子 弁護士。複数の上場会社等で社外役員を務める。2022年12月就任
社外取締役 影山 輝彰 建設会社での実務経験と建設情報分野の研究経験。2026年1月就任
常勤監査役(社外) 横田 弘通 上場会社での内部監査及び監査役の経験。2022年9月就任
監査役(社外) 岸本 侑子 弁護士。2022年12月就任
監査役(社外) 本木 一偉 公認会計士・税理士。2024年6月就任

監査役3名は全員が社外監査役で、常勤監査役も社外監査役です。会社法上、監査役会設置会社では監査役を3名以上とし、その半数以上を社外監査役とする必要があり、常勤監査役の選定も求められます。ルクレは法令の要件を上回る形で社外監査役を揃えたうえで、弁護士と公認会計士を非常勤監査役に配置し、法務と会計の専門性を確保しています。機関設計の選び方については監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で詳しく解説しています。

社外取締役の選任理由も具体的です。波田野氏は法律専門家としての知見と上場会社での役員経験、影山氏は建設現場の実務経験と建設DXに関する専門的な知見が理由とされ、事業等のリスクでは「先端技術の知見を持つ社外取締役1名を増員する」ことを、代表取締役への依存を和らげる取り組みの一つとして挙げています。独立性については、独自の基準は定めていないものの、東京証券取引所の独立性基準を参考に選任していると記載されています。

グロース市場の上場会社に適用されるのはコーポレートガバナンス・コードの基本原則のみで、独立社外取締役の人数に関する原則(原則4-10。2026年7月改訂前は原則4-8)などは適用対象ではありません。ルクレはそのうえで、取締役4名中2名を社外取締役とし、社外取締役が執行役員からの業務執行状況の報告を踏まえて業務執行の妥当性やリスク管理の状況を確認する体制としています。社外役員の人数の考え方は社外取締役は何人必要かも参考にしてください。

役員報酬は限度額の範囲内で取締役会が決定

役員報酬について、Ⅰの部は「役員の報酬等の額の決定に関する方針を定めておりません」と記載したうえで、決定の方法を説明しています。取締役の報酬限度額は2021年12月28日の定時株主総会で年額65,000千円以内、監査役は2020年7月7日の臨時株主総会で年額9,600千円以内と決議されています。各取締役の報酬額は、担当部門の業績等を踏まえて配分計算をし、取締役会の審議を経て取締役会決議で決定しています。

役員報酬の決め方取締役監査役株主総会決議(2021年12月28日)年額65,000千円以内各取締役の報酬額を配分計算担当部門の業績等を踏まえ総合的に判断取締役会で審議・決議2025年12月26日・全会一致臨時株主総会決議(2020年7月7日)年額9,600千円以内監査役会の協議で決定2025年12月26日開催の監査役会第31期実績:取締役(社外除く)2名 39,600千円/社外役員5名 12,750千円(いずれも固定報酬)

図12 報酬等の額の決定に関する方針は定めておらず、株主総会で決議した限度額の範囲内で、取締役は取締役会、監査役は監査役会の協議により決定しています。Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成

最近事業年度の報酬は、社外取締役を除く取締役2名が39,600千円、社外役員5名が12,750千円で、いずれも固定報酬のみです。業績連動報酬や退職慰労金はありません。役員報酬の決定方針の内容や決定方法は、有価証券報告書の記載事項(企業内容等の開示に関する内閣府令)として開示が求められる項目です。上場準備会社では、報酬の決め方を誰がどの会議体で決めたかを議事録で追えるようにしておくことが、上場後の開示の土台になります。

支配株主との取引はなく、関連当事者取引も「該当なし」

支配株主がいる会社では、支配株主との取引が少数株主の利益を損なわないかが審査で確認されます。ルクレは、支配株主、その二親等内の親族及び資産管理会社との間で取引を行っておらず、今後も行う予定はないと記載し、取引を検討する場合には取引理由や必要性、取引条件と決定方法の妥当性などを取締役会で十分に審議したうえで意思決定するとしています。財務諸表の関連当事者情報も、第30期・第31期とも「該当事項はありません」です。

創業者が大株主として残り、経営は別の代表取締役が担う会社では、創業者個人や資産管理会社との取引(不動産の賃貸借、借入・保証、経費の立替えなど)が残っていないかを早めに棚卸しすることが重要です。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。

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内部監査と内部統制はどのような体制か?

内部監査は、代表取締役の直下に置かれた内部監査人1名が担当しています。Ⅰの部によれば、内部監査人は内部監査計画に基づいて法令等遵守の状況などを監査し、結果を代表取締役と取締役会に報告します。被監査部署に対しては、代表取締役の指示を受けて助言・勧告を行い、改善状況のフォローアップまで行う仕組みです。

特徴的なのは、「上場企業及び上場準備企業において豊富な内部監査経験を有する業務委託先1社を置いて」いる点です。従業員47名規模の会社では、内部監査の専任者を複数置くことは難しいのが実情です。社内の担当者1名に外部の専門家を組み合わせる形は、限られた人員で監査の質を確保する方法の一つです。

内部監査の体制と三様監査の連携代表取締役外部業務委託先1社内部監査人(1名)代表取締役が任命被監査部門監査役会常勤社外監査役が中心会計監査人太陽有限責任監査法人任命・改善指示結果報告監査・助言・勧告情報交換情報交換監査報告会・意見交換

図13 内部監査人は代表取締役直下に置かれ、監査結果を代表取締役と取締役会に報告します。監査役・会計監査人とも情報交換を行い、会計監査人の監査報告会には監査役と内部監査人が出席します。Ⅰの部「監査の状況」「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成

内部監査人を1名とする場合、上場審査で必ず確認されるのが「自己監査の回避」です。内部監査人が所属する部門や自ら担当する業務を監査すると、独立性が保てません。一般的には、内部監査人の所属部門については別の者(他部門の担当者や外部委託先)が監査する体制を規程で定めておきます。ルクレのⅠの部には自己監査の回避方法についての具体的な記載はありませんが、上場準備会社としては、規程と監査計画で手当てしておくべき論点です。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)をご覧ください。

三様監査の連携については、常勤監査役を中心に会計監査人・内部監査人と適宜協議し、監査計画・監査結果・内部統制上の課題を共有していると記載されています。会計監査人の監査報告会には監査役と内部監査人が出席して直接報告を受けるとされており、三者の接点が具体的に示されています。連携の実務は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で整理しています。

内部統制システムについては「内部統制システム基本方針書」を定め、リスクコンプライアンス規程、内部通報制度(通報者の不利益扱いの禁止)、文書管理規程、取締役会規程・業務分掌規程・職務権限規程、反社会的勢力対応規程などを整備していると記載されています。リスク管理は、四半期に1回のリスクコンプライアンス委員会で報告を行い、重大なリスクにつながると判断された場合には取締役会に報告する体制で、その適切性・有効性を内部監査人が検証しています。財務報告の信頼性を確保する体制として、代表取締役を筆頭に全社的な統制と業務プロセスの統制を整備する方針も示されています。

会計・開示ではどこがポイントになるか?

収益認識:4つの区分とタイミングの違い

ルクレの重要な会計方針には、収益の計上基準が製品・サービスごとに4区分で記載されています。蔵衛門Padと蔵衛門御用達は引渡時点で収益を認識しますが、「収益認識に関する会計基準の適用指針」第98項の代替的な取扱いを適用し、出荷から支配移転までが通常の期間である場合は出荷時に認識しています。蔵衛門プレミアムは、クラウドのアクセス権を契約期間にわたり提供する義務として、時の経過に応じて収益を認識します。

製品・サービスごとの収益認識のタイミング製品・サービス収益を認識するタイミング蔵衛門Pad・蔵衛門御用達一時点:引渡時(出荷基準の代替的取扱い)蔵衛門プレミアム一定期間:契約期間にわたり時の経過に応じてみんなの写真屋さん(PF型)一時点:保護者への販売時点(当社が販売主体)みんなの写真屋さん(ASP型)一定期間:写真店にシステムを利用させる期間橙=一時点で履行義務を充足、青=一定の期間にわたり充足

図14 重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」に記載された4区分。PF型はプラットフォーム型(当社が販売主体)、ASP型は写真店が販売主体となる形態です。Ⅰの部「重要な会計方針」をもとに作成

成長記録領域の「みんなの写真屋さん」は、提供形態によって会計処理が分かれています。当社が販売主体となるプラットフォーム型は、保護者への販売時点で写真等の提供の履行義務が充足されるとして販売時点で収益を認識します。一方、写真店を販売主体とするASP型は、写真店にシステムを利用させる役務の提供として、期間にわたり収益を認識します。

この違いは売上の金額にも表れています。プラットフォーム型の売上高は第30期の473,477千円から第31期の858,700千円に増え、ASP型は64,077千円から33,251千円に減りました。前述のとおり、Ⅰの部はARPU上昇の理由として、プラットフォーム型への移行により「当社が売上高として計上する範囲が拡大したこと」を挙げています。取引の形態を変えると、同じ写真販売でも売上の計上範囲や計上時点が変わります。こうした変更を行う際は、契約書上の販売主体や価格決定権、在庫・回収リスクの所在を整理し、本人・代理人の判定根拠を文書化しておくことが審査対応の基本です。収益認識全般は上場審査で問われる収益認識で解説しています。

収益の分解:一時点と一定期間06001,2001,8002,400第30期(2024年9月期)第31期(2025年9月期)1,610.11,984.8614.1935.3百万円一時点で移転一定の期間にわたり移転うち施工記録のストック売上550.0 → 902.0

図15 「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」の金額を百万円単位(小数第1位)で表示。一定期間にわたり移転する収益の大部分は施工記録領域のストック売上(蔵衛門プレミアム等)です。Ⅰの部「収益認識関係」注記をもとに作成

収益の分解情報を見ると、「一定の期間にわたり移転される財又はサービス」は第30期614,111千円、第31期935,287千円で、その大部分を施工記録領域のストック売上(第31期902,036千円)が占めています。契約負債は前受金に関するもので、第31期末には658,164千円(前期末445,777千円)に増えました。第31期末の契約負債の主な相手先としては、ダイワボウ情報システム株式会社、SBC&S株式会社、株式会社関電工、大成建設株式会社、前田建設工業株式会社などが記載されています。

重要な会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性

第30期(2024年9月期)の財務諸表では、重要な会計上の見積りとして「繰延税金資産の回収可能性」が記載されていました。第30期末の繰延税金資産117,428千円のうち、101,846千円が税務上の繰越欠損金に係るもので、将来の課税所得の見込みにより回収可能と判断し、評価性引当額を認識していません。第31期末には繰越欠損金に係る繰延税金資産の計上がなくなり、繰延税金資産は15,599千円に減少し、重要な会計上の見積りは「該当事項はありません」となっています。

繰延税金資産の推移と回収可能性の判断第30期末(2024年9月)繰延税金資産 117,428千円うち繰越欠損金 101,846千円評価性引当額なし第31期末(2025年9月)繰延税金資産 15,599千円繰越欠損金の計上なし重要な見積りは「該当なし」回収可能性の判断(第30期の重要な会計上の見積り):いずれかを満たすか収益力に基づく課税所得の十分性タックス・プランニングに基づく課税所得の十分性将来加算一時差異の十分性第31期の法人税等調整額は101,829千円(税引前当期純利益341,743千円、法人税等合計115,660千円)解消

図16 第30期は税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を評価性引当額なしで計上し、その回収可能性を重要な会計上の見積りとして開示していました。第31期は繰越欠損金がなくなり、重要な会計上の見積りは「該当事項はありません」とされています。Ⅰの部「税効果会計関係」「重要な会計上の見積り」をもとに作成

赤字期の後に黒字化した会社では、繰越欠損金に係る繰延税金資産をどこまで計上できるかが監査上の大きな論点になります。回収可能性の判断は事業計画の合理性と直結するため、計画の前提と実績の差異を説明できるようにしておく必要があります。なお、第31期の法人税等調整額101,829千円は、この繰延税金資産の取崩しを反映したものです。

そのほか特徴的な注記として、資産除去債務は、本社オフィスの原状回復義務について、負債を計上する代わりに敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積もり、当期の負担に属する金額を費用計上する方法を採用しています。賃借オフィスで事業を行う会社では一般的に使われている方法です。また、未適用の会計基準として、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)と後発事象に関する会計基準(企業会計基準第41号)を挙げ、いずれも2027年10月1日以降開始する事業年度の期首から適用予定としています。

監査法人と監査報酬

会計監査人は太陽有限責任監査法人で、継続監査期間は2年間、業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士1名・その他27名です。監査報酬は次のとおりで、非監査業務の報酬はありません。

区分 最近事業年度の前事業年度 最近事業年度
監査証明業務に基づく報酬 15百万円 16百万円
非監査業務に基づく報酬 ― ―
同一ネットワークへの報酬 該当なし 該当なし

監査報酬は、監査計画の内容や監査日数を勘案し、代表取締役が監査役会の同意を得て決定しています。Ⅰの部の財務諸表は、第30期・第31期が監査、第32期の中間会計期間と第3四半期が期中レビューの対象で、監査報告書・期中レビュー報告書はいずれも2026年9月2日付です。監査法人の選定時期は監査法人はいつまでに決めるかも参考にしてください。

事業等のリスクと、審査で問われやすい点は何か?

ルクレの「事業等のリスク」には、各リスクについて発生可能性・発生可能性のある時期・影響度が記載されています。発生可能性が「中」とされたのは、技術革新への対応、システムトラブル、情報セキュリティ及び個人情報等の漏えいの3項目です。影響度が「大」とされたのは、景気動向及び業界動向の変動と、特定のサービスへの依存(施工記録領域が売上高の68.8%)の2項目です。

事業等のリスクの発生可能性と影響度 影響度:小影響度:中影響度:大発生可能性中発生可能性低―技術革新システムトラブル情報セキュリティ・個人情報の漏えい―大株主(創業者)競合/自然災害・感染症クラウド移行/仕入先依存機能開発/人材確保特定人物/内部管理体制法的規制/研究開発投資想定以上の解約/訴訟知的財産権/希薄化/配当景気動向・業界動向特定サービスへの依存(施工記録68.8%)

図17 Ⅰの部「事業等のリスク」に記載された各リスクの「発生可能性」と「影響度」を配置したもの。発生可能性のある時期はいずれも「特定時期なし」とされています

上場準備会社の目線で注目したいのは、次のようなリスクです。

第一に「特定の人物への依存」です。代表取締役の有馬氏が経営方針や事業戦略の中枢を担っていることをリスクとして挙げ、対応策として、取締役4名(うち社外取締役2名)と執行役員2名の配置、執行役員制度による権限委譲、先端技術の知見を持つ社外取締役の増員を示しています。経営者への依存は多くの上場準備会社に共通する論点で、審査では「その人がいなくなっても組織として回るか」が問われます。

第二に「内部管理体制」です。事業の拡大に内部管理体制の構築が追いつかない場合のリスクを挙げ、管理部門の人材採用と育成、内部監査機能の強化で対応するとしています。少人数の管理部門で上場準備を進める会社にとって、身近なリスクといえます。

第三に「大株主について」です。創業者グループの保有比率(88.8%)と、上場時の売出しで支配株主に該当しなくなる予定であることを説明したうえで、議決権行使の動向や将来の売却が株主総会の決議や株価形成に影響する可能性に触れています。

グロース市場の実質審査基準は、「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」の5つです。ルクレのケースでは、サブスクリプション型への移行に伴う業績の変化をどう説明するか(開示の適切性・事業計画の合理性)、支配株主との関係(企業経営の健全性)、少人数での内部監査体制(内部管理体制の有効性)が、それぞれの基準に対応する論点になります。審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とはで確認できます。

ルクレのケースから上場準備会社が学べることは?

ルクレのⅠの部から学べる主なポイント① 収益モデルの転換買い切り→サブスクで一時的に赤字化② KPIの開示定義・算定方法・母集団まで明示③ 支配株主創業者グループ88.8%売出しで解消予定④ 自己株式1,850,000株を保有処分資金を設備投資へ⑤ 監査体制監査役3名全員が社外内部監査は外部委託も活用⑥ 収益認識ASP型→PF型で売上計上範囲が拡大

図18 本文「上場準備会社が学べること」の要点をまとめたもの。Ⅰの部の記載をもとに作成

① 収益モデルを変えるなら、赤字の理由を数値で説明できるようにする。買い切り型からサブスクリプション型への移行は、短期的に売上と利益を押し下げます。ルクレは損失の要因を経営指標の注記で明示し、ストック売上比率やARRで移行の進み具合を示しています。移行期をはさむ会社は、事業計画とKPIで回復の道筋を説明できるよう準備しておきましょう。

② KPIは定義・算定方法・母集団まで書く。解約率の算定対象からライセンスパックプランを除く理由や、分母の母集団の違いまで明記している点は、KPI開示の良い参考例です。社内の管理指標を開示用に整える際は、定義を固定し、過去にさかのぼって同じ方法で算定できるようにしておくことが大切です。

③ 支配株主がいる場合は、上場時の株主構成まで逆算する。創業者グループ88.8%という構成から、上場時の売出しで支配株主に該当しなくなる予定としています。流通株式の確保と支配株主の扱いは資本政策の根幹です。誰がいつどれだけ売り出すかを、上場準備の資本政策として早めに設計しましょう。

④ 自己株式の扱いを早めに決める。発行済株式の約2割にあたる自己株式を保有し、その処分資金を設備投資に充てる計画が示されています。自己株式を残したまま上場するか、上場時に処分するかで、資金調達の額や会計処理が変わります。

⑤ 少人数でも監査体制を厚くする工夫をする。監査役3名を全員社外とし、弁護士と公認会計士を配置する一方、内部監査は社内1名に外部委託先を組み合わせています。人数が限られる場合は、外部の専門家の活用と自己監査の回避策をセットで考えることがポイントです。

⑥ 取引形態の変更は収益認識の変更でもある。ASP型からプラットフォーム型への移行で、売上として計上する範囲が拡大しました。ビジネスモデルを見直すときは、営業部門だけで決めず、経理部門と監査法人を早い段階で巻き込みましょう。

⑦ ストック・オプションは失効や行使条件まで管理する。第2回・第3回は失効し、第1回と第4回で行使条件が異なります。発行の都度、条件・付与対象者・失効状況を台帳で管理し、注記や潜在株式数の開示と一致させる必要があります。

ルクレのⅠの部を読んだら確認したいチェックリスト

  • 収益モデルを変更した期の業績の変化を、注記や事業計画で説明できるか
  • KPIの定義・算定方法・対象範囲を文書化し、毎期同じ方法で算定しているか
  • 創業者・資産管理会社・親族の保有株式を合算し、支配株主と流通株式への影響を試算しているか
  • 自己株式を上場時にどう扱うか(保有継続・処分)を主幹事証券・監査法人と協議しているか
  • 内部監査人が1名の場合の自己監査の回避策を規程で定めているか
  • 販売主体や取引形態の変更について、本人・代理人の判定根拠を記録しているか

よくある質問

Q1. ルクレは上場前に赤字の期がありますが、グロース市場に上場できるのですか?

グロース市場の形式要件には利益の額の基準はなく、赤字の期があること自体で上場できなくなるわけではありません。ルクレの場合、第28期・第29期の損失は買い切り型からサブスクリプション型への移行によるものと注記され、第30期以降は黒字です。審査では、業績の変化の理由と今後の事業計画の合理性が確認されます。

Q2. 創業者が88.8%を持っていても上場できるのですか?

支配株主がいる会社でも上場は可能ですが、少数株主の利益を損なわない体制や、流通株式の基準を満たすことが求められます。ルクレは、上場時の売出しにより池田氏が支配株主に該当しなくなる予定であることと、支配株主等との取引を行っていないことを記載しています。

Q3. ストック・オプションの費用がゼロなのはなぜですか?

ルクレは、未公開株式であることから公正な評価単価を本源的価値(株式の評価額から行使価格を控除する方法)で見積もっており、費用計上額は「該当事項はありません」とされています。未公開企業は、ストック・オプション等に関する会計基準により本源的価値で見積もることが認められています。なお、権利確定条件付きの有償新株予約権は、実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じて会計処理するため、発行形態に応じた確認が必要です。

Q4. 内部監査人が1名でも上場審査は通りますか?

人数そのものよりも、独立した立場で全社を監査できる体制になっているかが重要です。ルクレは代表取締役直下の内部監査人1名に、内部監査経験を有する外部の業務委託先を組み合わせています。1名体制の場合は、内部監査人の所属部門を誰が監査するかを定めておく必要があります。

最初の一歩は、自社の「収益モデル」と「株主構成」を1枚にまとめることから

ルクレのⅠの部から分かるように、上場準備の論点は、収益の上げ方と株主構成から多くが派生します。まずは自社の製品・サービスごとに収益の計上時点と金額、管理しているKPIを一覧にし、あわせて創業者・役員・従業員・自己株式を含む株主構成を1枚の表にまとめてみてください。それだけで、会計・開示、資本政策、ガバナンスのどこに課題があるかが見えてきます。全体像を確認したい方はIPO準備 完全ガイドもご覧ください。

まとめ

株式会社ルクレは、2026年9月8日に上場承認を受け、2026年10月15日に東証グロース市場へ上場する予定です。Ⅰの部からは、買い切り型からサブスクリプション型への移行に伴う一時的な赤字と黒字化、ARR・ストック売上比率・解約率などのKPIの丁寧な開示、創業者グループ88.8%の支配株主構成と上場時の売出しによる解消予定、発行済株式の19.47%にあたる自己株式、全員社外の監査役会と外部委託を組み合わせた内部監査、取引形態に応じた4区分の収益認識といった論点を読み取ることができます。

どれも、上場準備会社が自社に置き換えて検討できるテーマです。自社の状況と照らし合わせながら、準備の優先順位を考える材料にしていただければ幸いです。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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