上場準備を始めた会社から「何から手を付ければよいのか、全体像が見えない」という相談をよく受けます。主幹事証券会社の公開指導が始まれば課題は次々と出てきますが、その前に自社の現在地を自分で測る道具があると、準備の見通しは大きく変わります。
東京証券取引所が公表している「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」には、Ⅴ章として「グロース市場事前チェックリスト」が収録されています。上場準備会社が自社の準備状況を点検するための参考資料で、体制整備の観点から確認しておくべき一般的な事項が並んでいます。
この記事では、この事前チェックリストが何を目的とした資料なのか、どのような柱で構成されているのか、そして実務でどう使えばよいのかを整理します。プライム市場・スタンダード市場を目指す会社が使う際の注意点にも触れます。
この記事の見出し
グロース市場事前チェックリストとは何か
東証のガイドブックに収録された「参考資料」
グロース市場事前チェックリストは、東京証券取引所が発行する「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」のⅤ章に収録されている資料です。冒頭で、グロース市場への上場準備を円滑に進めるための参考資料として作成したものであること、グロース市場の上場会社としての体制整備の観点から、上場申請の準備段階において確認しておくべきと考えられる一般的な事項を掲げたものであることが明記されています。
あわせて、上場申請予定会社の規模や業種・業態が様々であることから、求められる体制整備のあり方も一様ではないこと、したがって実際に上場準備を進めるにあたっては主幹事証券会社や担当監査法人と十分相談してほしいことも書かれています。子会社や関連会社を有している場合には、子会社等を含めた経営管理や連結での情報開示などの体制整備が必要となる点にも注意が促されています。
「提出書類」でも「審査基準そのもの」でもない
ここは誤解が生じやすいところです。事前チェックリストは、上場申請時に東証へ提出する書類ではありません。また、上場審査で東証が適合性を判断する基準そのものでもありません。グロース市場の上場審査基準は、定量的な「形式要件」が有価証券上場規程第217条、定性的な「実質審査基準」が同規程第219条第1項に定められており、審査はこれらの規定に基づいて行われます。
事前チェックリストは、その審査基準を会社側の準備作業に翻訳した、いわば自己点検の道具です。したがって、全項目に「はい」と付けられたからといって上場適格性が保証されるわけではありませんし、逆に一部が「いいえ」でも、合理的な理由を説明できれば直ちに問題になるとは限りません。
事前チェックリストは審査基準を自己点検用に整理した参考資料であり、提出書類ではない。
事前チェックリストの構成と確認項目数
6つの柱で組み立てられている
事前チェックリストは、大きく6つの問いかけで構成されています。いずれも「〜していますか」「〜が図られていますか」という形で、会社に問いかける文体になっています。
- 1 事業計画が、今後の事業展開を踏まえ合理的に作成されていますか
- 2 経営管理組織は有効に機能していますか
- 3 企業内容の適時・適切な開示に向けた準備は進んでいますか
- 4 会社関係者等との取引により、企業経営の健全性が損なわれていませんか
- 5 上場申請に当たり、その他の留意すべき点への対応は図られていますか
- 6 ヒアリングに向けた準備は進んでいますか
このうち1から5までがチェックボックス形式の確認項目で、6は上場申請後に東証が実施するヒアリングで確認される主要事項を列挙したものです。6にはチェック欄がなく、「予めご準備いただくことにより、上場審査をスムーズに進めやすくなります」という位置づけになっています。
項目数は2026年7月21日版を筆者が集計したもの。改訂により増減する可能性がある。
柱ごとに何が問われるか
| 柱 | 主に問われること | 項目数 |
|---|---|---|
| 1 事業計画 | ビジネスモデルの経済的合理性、外部環境や競合を踏まえた計画の策定、リスク要因の説明、計画を遂行する事業基盤(人的・物的・金銭資源)の整備状況 | 4 |
| 2 経営管理組織 | 取締役会、監査役、独立役員、会計参与、内部監査、内部統制・社内規程、業績管理、その他経営管理上の留意点の8分野 | 28 |
| 3 開示に向けた準備 | 社内体制、開示書類(Ⅰの部・事業計画及び成長可能性に関する事項)、業績等の開示、会計処理、事業年度の変更、会社情報管理の6分野 | 18 |
| 4 会社関係者等との取引 | 関連当事者等との取引の合理性・取引条件の妥当性・把握と牽制、経営者が関与する取引への組織的な検討体制 | 10 |
| 5 その他の留意点 | 親会社等からの独立性、公序良俗、反社会的勢力、係争・法令違反、譲渡制限の撤廃、振替機関・株式事務代行機関、公告方法、監査法人・主幹事証券の変更理由など | 18 |
| 6 ヒアリング準備 | 事業内容、事業計画、調達資金の使途、将来予測情報、経営管理体制と内部監査、適時開示体制、親会社等との関係、関連当事者取引、係争・法令違反、その他の10テーマ | — |
項目数の偏りを見ると、この資料が何を重く見ているかが読み取れます。全78項目のうち28項目、およそ3分の1が「経営管理組織」に割かれています。次いで「開示に向けた準備」と「その他の留意点」が各18項目です。事業計画そのものは4項目にとどまりますが、これは事業計画の中身がⅡ章「高い成長可能性に係る事項」や実質審査基準の側で厚く扱われているためで、軽視されているわけではありません。
実質審査基準(規程第219条第1項)との対応関係
事前チェックリストの6つの柱は、グロース市場の実質審査基準である有価証券上場規程第219条第1項の5つの適格要件と、おおむね次のように対応しています。自己点検の結果を審査の土俵に翻訳するときの見取り図として使えます。
| 事前チェックリストの柱 | 主に対応する適格要件(有価証券上場規程第219条第1項) |
|---|---|
| 1 事業計画 | 第4号 事業計画の合理性 |
| 2 経営管理組織 | 第3号 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 |
| 3 開示に向けた準備 | 第1号 企業内容、リスク情報等の開示の適切性 |
| 4 会社関係者等との取引 | 第2号 企業経営の健全性 |
| 5 その他の留意点 | 親会社等に関する事項は第2号、公序良俗・反社会的勢力・係争等は第5号(その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項) |
| 6 ヒアリング準備 | 特定の号に対応するものではなく、上記1〜5の内容を口頭で説明できるかを確認する場 |
※ 柱と号の対応は、ガイドブックのⅣ章(上場審査の内容)とⅤ章の記載内容を突き合わせた整理です。1つの柱が複数の号にまたがることもあるため、厳密な一対一対応ではありません。
事前チェックリストの項目を自社だけで判定すると、どうしても「できているつもり」が残ります。会計・内部統制の実務経験を踏まえて、論点の優先順位づけからご相談に応じます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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柱ごとの中身を読み解く
1 事業計画は「作ってあるか」ではなく「説明できるか」
事業計画の項目では、計画が上場申請予定会社の内的・外的環境に対する客観的分析に基づいて作成されていることが求められています。具体的には、自社のビジネスモデルの強み・弱み、業界の現状と展望、競合他社の動き、対象市場の規模や成長度合い、製商品・サービスの需要動向、原材料市場等の動向、主要な取引先の状況、法的規制の状況といった諸要素を踏まえて策定されているかが問われます。
加えて、計画を達成する上でのリスク要因を合理的に説明できるか、計画を遂行するために必要な事業基盤(営業人員や研究・開発人員などの人的資源、事業拠点や設備などの物的資源、投資資金などの金銭資源)が整備されているか、現時点で整備されていない場合は上場後に整備される合理的な見込みがあるかも確認事項です。事業計画は「Ⅰの部」や上場後の「事業計画及び成長可能性に関する事項」の基礎資料になるため、社内向けの数字合わせでは足りません。
2 経営管理組織は8分野に細分されている
28項目が置かれた最大の柱です。8つの分野に分かれており、それぞれ趣旨の説明が付いています。
(1)取締役会 定期的な開催と機動的な開催、議案について十分な議論・検討がなされているか、そのための経営管理資料が用意され議事録が適法に整備されているか、業務執行役員に対する監督が有効に機能しているか、特定の者の利益を優先する決議が行われていないか、取締役の他社兼任が意思決定を阻害していないか、決議方法がガバナンスの観点から適当かが問われます。取締役会が形骸化していると、特定の者により実質的に意思決定がなされ、株主の利益が侵害される危険が生じるという問題意識が明示されています。
(2)監査役 取締役・会計参与の業務執行に対する牽制が有効に機能しているか、担当監査法人や内部監査と連携して監査を実施しているか、取締役会に出席しているかの3項目です。
(3)独立役員 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役を1名以上確保することは、企業行動規範の「遵守すべき事項」として規定されています。上場申請を行う会社も、上場日までに独立役員を確保し、確保状況を記載した「独立役員届出書」を東証に提出する必要があります。届出予定者が上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2に掲げる事由等に該当していないかもあわせて確認します。
(4)会計参与 会計参与設置会社である場合に、法定開示・適時開示に係る社内体制が会計参与に過度に依存した体制になっていないかを問う1項目です。
(5)内部監査 会社の規模・業種・業態・成長ステージ等に応じて有効な内部監査(計画・実行・報告)を行っているか、被監査部門が指摘事項に適切に対応しているか、内部監査部門を設けていない場合に代替的な手段をとっているかの3項目です。独立した部門による実施が望ましいとしつつ、規模等によっては必ずしも効率的でない場合があることにも言及されています。
(6)内部統制・社内規程 規模・業種・業態に応じた社内規程の整備、部門間・部門内の相互牽制機能、変化に応じた適宜の改訂、規程に沿った実務の実施、事業計画を策定するための体制の整備と運用、法令等を踏まえた内部統制システムの整備準備の6項目です。想定される規程として、組織運営関係規程(取締役会規程、監査役会規程、業務分掌規程、職務権限規程など)、人事労務関係規程(就業規則、給与規程、退職金規程など)、業務管理関係規程(予算管理規程、株式取扱規程、関係会社管理規程、販売管理規程、購買管理規程、資産管理規程、会社情報管理規程など)、経理関係規程(経理規程、原価計算規程など)が例示されています。
(7)業績管理 経営者が会社の状況を計数的に正確に把握しているか、月次の業績及び事業の状況の把握を早期に行うことができるか、予算と実績及びその比較分析その他の経営情報を通じて適時・適切な経営判断を行うことができるかの3項目です。上場後の業績見通しの公表と修正のためにも必要になる、という説明が付されています。
(8)その他経営管理上の留意点 法定書類や各種契約書などの重要書類の整備・保管、経営上重要な技術に関する特許取得等の対応、経営管理機能(総務部門・経理部門など)の一部を外部委託している場合の自社責任での管理・情報分析・説明の3項目です。
3 開示の準備は「Ⅰの部」だけの話ではない
開示の柱では、法定開示・適時開示・IR活動を適時・適切かつ継続的に行える社内体制になっているか、情報開示面の対応が特定の者に依存していないかが最初に問われます。東証が規程第401条で、投資者への適時・適切な会社情報の開示が健全な金融商品市場の根幹をなすものであることを十分に認識すべきと定めていることが根拠として示されています。
開示書類については、審査対象が「Ⅰの部」と「事業計画及び成長可能性に関する事項」であることが明記され、事業内容、財政状態・経営成績・資金収支の状況に係る分析及び説明、関係会社の状況、研究開発活動の状況、大株主の状況、役員・従業員の状況、配当政策などを一般投資者にも分かりやすく記載する準備が求められます。リスク情報についても、事業年数の短さ、累積欠損又は事業損失の発生の状況、特定の役員への経営の依存、他社との事業の競合状況、市場や技術の不確実性、特定の者からの事業運営上の支援の状況、主要な事業の前提に関する事項などを網羅することが挙げられています。
業績等の開示では、決算短信を年度末から遅くとも45日以内に開示できるよう準備を進めているか、適切な業績見通しの公表と適時・適切な修正を行えるよう準備を進めているかが問われます。会計処理については、採用する会計処理及びその運用が会計基準・会計慣行・業種業態などの観点から適切か、会計証憑類やデータファイルが適切に整理・保管されているかが確認されます。
見落とされやすいのが事業年度(決算期)の変更です。開示書類では基本的に直前2期間の財務諸表等の掲載が求められるため、最近2年間に決算期を変更していると期間比較が困難になり、投資情報としての価値を損ねるとされています。変更している場合は、その理由を合理的に説明できるか、期間比較可能性を担保する補足的情報を開示する準備を進めているかが問われます。
4 取引は「合理性」と「取引条件の妥当性」の2軸
会社関係者等との取引の柱では、会社が行う取引には取引を行うこと自体の合理性(事業上の必要性)と取引条件の妥当性が求められ、このいずれかを欠く取引は特定の者への利益供与という疑義が生じる、という考え方が示されています。関連当事者等との取引が存在する場合には、合理性、取引条件の妥当性、定期的な検討・見直し、監査(監査役監査・内部監査)における確認項目化、開示書類での適切な開示の5項目が並びます。
取引の有無にかかわらず問われるのが、関連当事者等との取引の存在を適切に把握できるか、適切に牽制する仕組みがあるかの2項目です。さらに、経営者が関与する取引(経営者自らが営業して獲得した案件・企画した案件、例外的に経営者が決裁を行っている案件等)は社内からの牽制が効きにくく不正につながる懸念があるとして、組織的な検討と牽制機能が発揮される体制の整備が別立てで確認されます。
5 その他の留意点は「上場日までに間に合うか」の確認が多い
親会社等を有している場合の項目(8項目)と、それ以外の項目(10項目)に分かれます。後者には、事業内容が公序良俗に反しないか、申請予定会社や関連当事者その他特定の者が反社会的勢力と関係がないか、重要な訴訟・係争・紛争・法令違反がないか、といった実質的な確認に加えて、上場申請日までに定款変更して譲渡制限を撤廃しているか(又は上場の時までに撤廃する見込みがあるか)、指定振替機関である保振の取扱い対象か、株式事務代行機関から受託の内諾を得ているか、定款上の公告方法が全国版日刊紙又は電子公告となっているか、といった手続面の確認が含まれます。
これらは形式要件とも重なる領域で、当事務所のブログでもIPOの形式要件として3市場の基準を比較しています。定款変更や株式事務代行機関の内諾は株主総会や外部機関のスケジュールに左右されるため、直前になって慌てないよう早めに逆算しておきたい項目です。
また、最近において担当監査法人や主幹事証券会社の変更がある場合にその理由を合理的に説明できるか、担当監査法人や主幹事証券会社からの指導に対し適切な対応を行っているかも項目に入っています。変更自体に制限はないものの、上場準備に入った後の変更は経緯と理由を確認される、とガイドブック本文にも注記されています。
6 ヒアリングは「書いてあること」を口で説明できるかの確認
柱6は、上場申請後に東証が実施するヒアリングで確認する主要な事項を10テーマ29問にまとめたものです。事業内容の詳細、中長期の事業計画(経営方針、将来の事業展開、具体的な予算数値及び策定根拠)、上場時の調達資金の使途と投資回収計画、申請期の業績見通しなどの将来予測情報、経営管理体制の整備・運用状況と内部監査体制、適時開示体制等の整備状況、親会社等との関係、関連当事者等との取引等、係争・紛争事件や法令違反、その他という構成です。
ここで確認されるのは、Ⅰの部や各種説明資料に書いた内容を、担当役員や実務責任者が自分の言葉で説明できるかどうかです。係争・法令違反については最近3年間及び申請期を対象に、事件発生の経緯と内容、特許・実用新案関係などビジネスモデルに影響を与える係争については弁護士や弁理士の見解を踏まえた説明が求められます。申告法人税に対する重加算、独占禁止法違反その他法令違反、関係官庁による行政指導・処分とその後の再発防止に向けた体制の整備・運用状況も質問対象です。申請会社の規模や業種・業態によって、追加で確認される事項や割愛される事項があることも明記されています。
実務での使い方
いつから使い始めるか
事前チェックリストの多くの項目は、書類を1枚作れば「はい」になるものではありません。取締役会の議事録が適法に整備されているか、規程に沿った実務が行われているか、内部監査の指摘に被監査部門が適切に対応しているか。いずれも、一定期間その体制を回した実績があって初めて説明できる内容です。運用実績は後から作れないため、直前期(N-1期)に入る前の段階で一度通して読み、遅れている領域を洗い出しておくのが実務上の目安になります。
エントリーは申請2週間前まで、事前確認は申請1週間以上前。標準審査期間は2か月とされている。
「はい/いいえ」ではなく3段階で仕分ける
チェックボックスをそのまま使うと、判断に迷った項目まで「はい」に寄ってしまいがちです。実務では、1項目ごとに3つの問いを立てて、○△×の3段階で仕分けることをおすすめしています。あわせて根拠となる資料名(規程名、議事録の回次、報告書のファイル名など)を1列足しておくと、後の資料準備がそのまま進みます。
△と×には、担当部署・着手予定月・完了目標月を必ず添えて課題管理表に落とす。
点検結果を課題管理表につなぐ
点検して終わりでは意味がありません。△と×の項目には、担当部署、着手予定月、完了目標月、必要な決議(取締役会・株主総会)の有無を書き添えて、上場準備の課題管理表に転記します。特に、取締役会決議や定款変更を伴う項目、外部機関(株式事務代行機関、証券保管振替機構)の手続を伴う項目は、社内の努力だけでは短縮できないため、逆算してスケジュールに置くことが欠かせません。
また、点検結果は主幹事証券会社や監査法人との打ち合わせの叩き台としても機能します。会社側が「ここが弱い」と自認している論点を先に開示したほうが、公開指導の時間を有効に使えます。上場準備全体のスケジュール感についてはIPO準備の全体像と上場までのスケジュールもあわせてご覧ください。
プライム・スタンダードを目指す会社が使うときの注意
ここまで見てきた事前チェックリストは、新規上場ガイドブックのうちグロース市場編にのみ収録されています。プライム市場編・スタンダード市場編には、同名の章はありません。両市場編では、Ⅲ章(上場審査の内容)と、それに続くⅣ章「上場審査に関するQ&A」が同じ役割を担っています。
実質審査基準の号立ても、市場ごとに異なります。グロース市場は第1号に開示、第4号に事業計画の合理性が置かれるのに対し、プライム市場・スタンダード市場は第1号が企業の継続性及び収益性で、事業計画の合理性という号はありません。市場区分の考え方の違いがそのまま基準の並びに表れています。
| 号 | プライム市場(第213条第1項) | スタンダード市場(第207条第1項) | グロース市場(第219条第1項) |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 企業の継続性及び収益性 | 企業の継続性及び収益性 | 企業内容、リスク情報等の開示の適切性 |
| 第2号 | 企業経営の健全性 | 企業経営の健全性 | 企業経営の健全性 |
| 第3号 | 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 |
| 第4号 | 企業内容等の開示の適正性 | 企業内容等の開示の適正性 | 事業計画の合理性 |
| 第5号 | その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 | その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 | その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
もっとも、事前チェックリストの柱2(経営管理組織)や柱3(開示に向けた準備)、柱4(会社関係者等との取引)で問われている内容自体は、市場を問わず上場会社に共通して求められる体制です。プライム市場・スタンダード市場を目指す会社が、体制整備の抜け漏れを洗い出す目的でこのリストを読むこと自体は有益です。ただし、そのまま自社の適合性判断に使うのではなく、自社が申請する市場のガイドブックのⅢ章・Ⅳ章に立ち返って読み替える必要があります。市場ごとの位置づけの違いは市場区分とは?東証プライム・スタンダード・グロースの違いで整理しています。
使うときに陥りがちな3つの誤解
誤解1 全項目に「はい」を付けることがゴールだと考える
チェックリストは、あくまで一般的な事項を掲げた参考資料です。規模や業種・業態によって求められる体制のあり方は一様ではないと本文にも明記されています。自社に当てはまらない項目を無理に埋めるより、「なぜ当社ではこの形をとっているのか」を説明できる状態にするほうが実質的です。
誤解2 「いいえ」の項目があると上場できないと考える
逆も同じです。現時点で整備されていなくても、上場後に整備される合理的な見込みがあるという書き方をしている項目もあります(事業基盤の整備など)。重要なのは、現状を正確に把握し、いつまでにどう埋めるかを説明できることです。
誤解3 管理部門だけで完結させようとする
柱1の事業計画は経営企画や事業部門、柱4の取引は営業や購買、柱5の許認可や係争は法務が主管になります。管理部門が一人で埋めようとすると、実態と乖離した点検結果になりがちです。柱ごとに回答責任者を割り当て、根拠資料まで含めて回答してもらう運用にしたほうが精度が上がります。
まとめ
- グロース市場事前チェックリストは、新規上場ガイドブック(グロース市場編)Ⅴ章に収録された自己点検用の参考資料で、提出書類でも審査基準そのものでもない
- 6つの柱で構成され、1〜5がチェック形式の確認項目(2026年7月21日版で計78項目)、6はヒアリングで確認される10テーマ29問
- 28項目が置かれた「経営管理組織」が最大の柱で、取締役会・監査役・独立役員・会計参与・内部監査・内部統制と社内規程・業績管理・その他の8分野に分かれる
- 各柱は有価証券上場規程第219条第1項の適格要件におおむね対応しており、自己点検の結果を審査の土俵に翻訳する見取り図になる
- 「文書があるか」「運用実績があるか」「第三者に説明できるか」の3つの問いで○△×に仕分け、△と×は担当・期限とともに課題管理表へ落とす
- プライム市場編・スタンダード市場編に同名の章はなく、実質審査基準の号立ても異なるため、他市場を目指す場合は自社の市場のガイドブックに読み替える
よくある質問
いいえ。ガイドブックに「上場準備を円滑に進めていただくための参考資料」と明記されており、上場申請時の提出書類には含まれていません。社内での自己点検と、主幹事証券会社・監査法人との論点整理に使うものです。
多くの項目が体制の運用実績を前提としており、実績は後から作れません。直前期(N-1期)に入る前に一度通して読み、遅れている領域を洗い出しておくのが実務上の目安です。柱5に含まれる定款変更や外部機関の手続は、株主総会や相手方のスケジュールに左右される点にも注意が必要です。
体制整備の抜け漏れを洗い出す目的であれば有益です。ただし、この章はグロース市場編にのみ収録されており、実質審査基準の号立ても市場ごとに異なります。自社が申請する市場のガイドブックの「上場審査の内容」と「上場審査に関するQ&A」に読み替えて確認してください。
ガイドブックは、独立した部門による実施が望ましいとしつつ、会社の規模や業種・業態、成長ステージ等によっては独立部門が必ずしも効率的でない場合もあるとしています。その場合は内部監査機能をどう構築するかを実態に合わせて検討し、代替的な手段をとっているかが確認項目になっています。置けないこと自体より、代替手段と、その選択の理由を説明できるかが問われます。
ガイドブックは随時改訂されており、東証のウェブサイトに新旧対照表が掲載されています。本記事の項目数は2026年7月21日版に基づく集計です。実務で使う際は、必ず最新版のPDFを東証のサイトから入手してください。
自己点検で「△」「×」が並んだ項目を、どの順番で、いつまでに埋めるか。会計・内部統制の実務を踏まえた整理をお手伝いします。まずはご相談内容をお聞かせください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
【参考】日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」/同 全文PDF(2026年7月21日版)/同 プライム市場編/同 スタンダード市場編/日本取引所グループ「独立役員の確保」/同「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」(2025年4月改訂版)
※ 本記事は2026年9月3日時点で公表されている東京証券取引所の資料に基づいて作成しています。項目数はガイドブック(グロース市場編)2026年7月21日版を筆者が集計したものです。ガイドブックや有価証券上場規程は改訂されることがあり、また個別の事案における取扱いは会社の規模・業種・業態によって異なります。実際の上場準備にあたっては、必ず最新版の資料をご確認のうえ、主幹事証券会社および担当監査法人にご相談ください。
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