新リース会計基準の経過措置とは?移行日の実務と進め方を解説

「新リース会計基準の内容は一通り理解した。では、実際にいつ、どこから手を付ければよいのか」——IPO準備会社や上場会社の経理・管理部門、監査対応のご担当者から、いま最も多く寄せられるのがこの問いです。連載の最終回となる本記事では、適用初年度に何をどう処理するのか(経過措置)と、移行日までに社内でどう進めるのか(移行プロジェクト)を条文に沿って整理します。

結論を先にお伝えすると、負担を大きく左右するのは「原則どおり遡及適用するか、期首の利益剰余金に累積的影響額を加減する方法を選ぶか」という最初の一手です。後者を選んだ場合にのみ使える簡便な取扱いが数多くあるため、この選択が移行作業の総量をほぼ決めてしまいます。

移行の方法をどう選ぶか適用初年度の処理の方法を決める比較年度を作り直すことができるか遡及して適用するはいいいえ作り直さずに移行したいか累積的な影響額を移行日に計上はいいいえ実務上の便法を使うか使う便法を決めて一覧にするはいいいえ選んだ方法と便法を注記で説明する

図 経過措置の選び方

適用時期──いつから、いつを基準日にするのか

会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用し、ただし2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができます(基準58項)。適用指針の適用時期は、会計基準と同様とされています(指針112項)。

3月決算会社であれば、強制適用は2028年3月期、移行日(適用初年度の期首)は2027年4月1日で、早期適用なら2026年3月期以降が対象です。会計基準の適用により、企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号に従って会計処理されている取引については、これらの適用を終了します(基準59項)。

適用時期と移行日(3月決算会社の例) 2027年3月期 比較情報となる年度 企業会計基準第13号を適用 2027年4月1日 移行日=初年度の期首 期首残高を算定する日 2028年3月期 適用初年度 強制適用(基準58項) 2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用(基準58項) 2025年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用が可能(基準58項) 準備の山場は移行日より前。契約の棚卸しと割引率の整備に時間がかかります

3月決算会社を例にした、強制適用・早期適用・移行日の関係

最初の分岐──原則の遡及適用か、期首利益剰余金への加減か

会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します(指針118項)。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができます(指針118項)。

ここが移行作業の分水嶺です。後述する経過措置の多くは、指針118項ただし書きの方法を選択することを前提に置かれた定めであり(指針120項、指針123項、指針131項)、原則どおり全期間に遡及適用する道を選ぶと、これらの簡便な取扱いは基本的に使えません。

適用初年度の会計処理:原則とただし書き(指針118項) 会計方針の変更として取り扱う 原則 過去の期間のすべてに遡及適用 ただし書き 累積的影響額を期首利益剰余金に加減 経過措置を適用できる(指針119項〜135項) 識別・借手・貸手・SLB・借地権 ほか 経過措置の多くは、ただし書きを 選択した場合の定めです

最初の選択が、その後に使える簡便な取扱いの範囲を決めます

借手が使える主な経過措置

リースの識別

ただし書きの方法を選択する場合、前期末に企業会計基準第13号を適用しているリース取引について識別の判断を行わずに会計基準を適用する方法と、期首時点で存在する企業会計基準第13号を適用していない契約について当該時点の事実及び状況に基づいて判断する方法の、いずれか又は両方を適用することができます(指針119項(1)(2))。

実務では後者が作業量の大半を占めます。これまで企業会計基準第13号により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられるとされており(指針BC165項)、賃貸借に限らず業務委託や保管の契約に埋もれたリースを洗い出す必要があるためです。

従来ファイナンス・リースとしていたリース

企業会計基準第13号においてファイナンス・リース取引に分類していたリースについては、前期末におけるリース資産及びリース債務の帳簿価額のそれぞれを、期首における使用権資産及びリース負債の帳簿価額とすることができ、この方法はリース1件ごとに適用できます(指針120項)。残価保証額が含まれる場合、当該金額は期首時点における残価保証に係る借手による支払見込額に修正します(指針120項)。

あわせて、この定めを適用する借手は、期首以後に使用権資産総額の重要性の判断基準である10パーセント(指針41項)を超える場合でも、指針40項の方法のうち企業会計基準適用指針第16号で選択していた方法を継続適用できます(指針121項)。また、同適用指針で個々のリース資産に重要性が乏しいとして通常の賃貸借取引に係る方法に準じた処理を行っていたリースは、指針20項又は指針22項にかかわらず当該会計処理を継続できます(指針122項)。

従来オペレーティング・リースとしていたリース等

区分 経過措置の内容
リース負債 期首時点における残りの借手のリース料を、期首時点の借手の追加借入利子率を用いて割り引いた現在価値により計上する(指針123項(1))
使用権資産 リース1件ごとに、①会計基準がリース開始日から適用されていたかのような帳簿価額(ただし期首時点の追加借入利子率で割引)、②リース負債と同額(前期末に計上された前払又は未払リース料の分だけ修正)のいずれかを選択(指針123項(2))
減損 期首時点の使用権資産に「固定資産の減損に係る会計基準」を適用する(指針123項(3))
少額リース 指針22項を適用して使用権資産及びリース負債を計上しないリースについては修正しない(指針123項(4))
実務上の便法 ①特性が合理的に類似した複数のリースへの単一割引率、②期首から12か月以内にリース期間が終了するリースへの指針20項の方法、③付随費用の除外、④リース開始日より後に入手した情報の使用(指針124項(1)〜(4))。リース1件ごとに適用可(指針124項)

なお、指針123項(2)①による場合、指針123項(3)(4)及び指針124項の取扱いを除き、リース開始日の計上額に係る定めや、リース開始日後の償却・条件変更に係る定めを適用して算定することになると考えられる、と説明されています(指針BC167項)。①はリース開始日まで遡った計算が必要になる点が見落とされがちです。

数値例──使用権資産の2つの算定方法で何が変わるか

3月決算のD社(2028年3月期から適用、移行日2027年4月1日)が指針118項ただし書きの方法を選択した場合を考えます。本社オフィスの賃貸借は企業会計基準第13号ではオペレーティング・リース取引として処理しており、リース開始日2024年4月1日、借手のリース期間6年(72か月)、月額リース料5,000千円(毎月末払い)です。移行日時点の経過・残存期間はいずれも36か月、期首の追加借入利子率は年1.5%(月0.125%)、前期末に未払リース料2,500千円が計上されています。付随費用・リース・インセンティブはないものとします。

項目 ②リース負債と同額とする方法 ①開始日から適用されていたかのような帳簿価額
期首リース負債 175,903千円(5,000千円×36か月を月0.125%で割引) 同左 175,903千円
期首使用権資産 173,403千円(175,903千円−未払リース料2,500千円) 172,035千円(当初計上額344,070千円×経過36か月/72か月)
期首利益剰余金への影響 0千円 △1,368千円
必要な情報 残存リース料と期首の割引率 リース開始日・当初リース料総額・償却計算の履歴

②を選んだ場合の移行日の仕訳(千円)

(借)使用権資産 173,403、(借)未払リース料 2,500/(貸)リース負債 175,903

①を選んだ場合の移行日の仕訳(千円)

(借)使用権資産 172,035、(借)未払リース料 2,500、(借)利益剰余金 1,368/(貸)リース負債 175,903

②は累積的影響額が生じにくく必要な情報も少ないため、移行コストを抑えられます。一方の①は期首の使用権資産が小さくなる分だけ適用初年度以降の減価償却費が抑えられ、損益への影響が異なります。リース1件ごとに選択できるため(指針123項(2))、重要な物件だけ①、その他は②という設計も可能です。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら

移行時に必要な注記

指針118項ただし書きの方法を選択する借手は、企業会計基準第24号第10項(5)の注記に代えて、(1)期首の貸借対照表に計上されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均、(2)前期末に企業会計基準第13号を適用して開示したオペレーティング・リースの未経過リース料((1)の追加借入利子率で割引後)と、期首の貸借対照表に計上したリース負債との差額の説明、を注記します(指針125項)。

また、ただし書きの方法を選択する借手は、適用初年度の比較情報について新たな表示方法に従い組替えを行いません(指針136項)。ただし書きの方法を選択する借手及び貸手は、会計基準55項に記載した内容を適用初年度の比較情報に記載せず、企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号に定める事項を注記します(指針137項)。

この「差額の説明」は、実務で最も手が止まりやすい注記です。差額は、新たに識別されたリース、リース期間の見直し、12か月以内に終了するリースの除外など複数の要因が重なって生じます。要因ごとに金額を積み上げられる集計様式を移行作業の最初から用意しておくと安全です。監査対応では、この内訳がリース台帳から再現できるかを必ず確認されます。

貸手・その他の論点の経過措置

論点 経過措置の要点
セール・アンド・リースバック 期首より前に締結された取引について、売却該当性の判断を見直さない、譲渡価額が明らかに時価でない場合等の取扱い(指針57項)を適用しない、リースバックは期首時点の他のリースと同様に処理する、企業会計基準第13号の売却損益の繰延処理を行っている場合は継続する(指針126項(1)〜(4))
借地権の権利金等 原則的な取扱いを適用する借手が期首に計上されている旧借地権・普通借地権の設定に係る権利金等を償却していなかった場合、使用権資産の取得価額に含めた上で当該権利金等のみ償却しないことができる(指針127項)。適用前に償却していた場合は前期末帳簿価額を期首の使用権資産とし、残りのリース期間で償却できる(指針128項)
建設協力金等 将来返還される建設協力金等の差入預託保証金(敷金を除く)及び差入預託保証金のうち将来返還されない額について、適用前に採用していた会計処理を継続できる(指針130項)
貸手(FL) 前期末のリース債権及びリース投資資産の帳簿価額をそれぞれ期首の帳簿価額とできる。販売益を割賦基準で処理している場合、前期末の繰延販売利益の帳簿価額は期首の利益剰余金に加算する(指針131項)
貸手(OL等) 企業会計基準第13号でオペレーティング・リース取引に分類していたリース及び新たに識別されたリースについて、期首に締結された新たなリースとして会計基準を適用できる(指針132項)
サブリース 期首時点のヘッドリース及びサブリースの残りの契約条件に基づいて分類を決定し、ファイナンス・リースに分類されたサブリースは期首に締結された新たなファイナンス・リースとして処理する(指針133項)
IFRS適用企業 IFRSを連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が個別財務諸表に会計基準を適用する場合、IFRS第16号の経過措置又はIFRS第1号の免除規定を適用できる。この場合でも指針126項のセール・アンド・リースバックの取扱いは適用する(指針134項)

貸手のオペレーティング・リースの経過措置により、フリーレント期間が終了している不動産契約は修正が求められないこととなる、と説明されています(指針BC171項)。逆にいえば、移行日時点でフリーレント期間が残っている契約は影響を受けます。テナントを抱える企業では、契約一覧から無償賃貸期間の残存有無を抽出しておくと判断が早く進みます。

移行プロジェクトの進め方と、自社だけでは負担が大きい部分

ここからは基準の定めではなく、実務・監査対応の観点からの整理です。移行作業は「契約を集める」「情報を数値化する」「システムに載せる」「注記を作る」の4層に分けると、担当部署の割り当てがしやすくなります。

  • 契約の棚卸し:賃貸借だけでなく業務委託・保管・車両管理の契約も対象に含め、網羅性を確保する
  • リース/非リースの区分:金額の内訳がない契約の独立価格の見積り方針を先に決める
  • リース期間:延長・解約オプションの判断根拠を拠点単位で文書化する
  • 割引率:追加借入利子率の算定方法を規程化し、単一割引率の適用範囲(指針124項(1))を決める
  • 使用権資産の算定方法:①②のどちらをどの範囲に適用するかを方針化する(指針123項(2))
  • 台帳・システム:条件変更や再評価の履歴が追える形式にする
  • 注記データ:指針125項の差額の説明に必要な要因別の内訳を集計できる様式にする
  • 監査対応:会計方針の選択理由と母集団の網羅性を示す資料をセットで準備する

このうち最も時間を要するのが「契約の棚卸し」と「割引率の算定」です。前者は法務・総務・各拠点に散在する契約書を集める段階で止まりがちで、後者は自社の信用力に見合う利率をどう組み立てるかという論点を伴います。監査対応では、個々の計算結果よりも「どういう方針で、どの範囲に、なぜその方法を適用したのか」を説明できるかが問われます。方針書を先に作り、それに沿って処理する順序が結果的に近道になります。

新リース会計基準の導入対応をご検討中の方へ

契約の棚卸しから割引率の算定方針、移行時の注記データの整備まで、公認会計士・税理士が実務と監査対応の両面から支援します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

導入支援サービスを見る
お問い合わせ 料金の目安を見る

公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

よくある質問

Q. 原則どおり遡及適用する会社はあるのでしょうか。

制度上は原則的な取扱いです(指針118項)。ただし経過措置の多くがただし書きの方法を選択する借手・貸手を対象とした定めであるため、リース件数が多い会社ほど、ただし書きを選ぶ合理性が高まると考えられます。

Q. 早期適用は誰でも選べますか。

2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができます(基準58項)。前倒しする場合も経過措置の内容は同じです。

Q. 従来のファイナンス・リースは移行時に計算し直しますか。

ただし書きの方法を選択する場合、前期末のリース資産及びリース債務の帳簿価額をそれぞれ期首の使用権資産及びリース負債とすることができます(指針120項)。残価保証額が含まれるときは期首時点の支払見込額に修正します(指針120項)。

Q. 比較情報は作り直すのでしょうか。

ただし書きの方法を選択する借手は、比較情報について新たな表示方法に従った組替えを行いません(指針136項)。比較情報には会計基準55項の内容を記載せず、企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号に定める事項を注記します(指針137項)。

まとめ──連載を振り返って

本連載では、全体像に始まり、リースの識別、リース期間、借手・貸手の会計処理、減損、税務、連結、開示注記、そして経過措置まで主要論点を取り上げてきました。通してご覧いただくと分かるとおり、この基準は「計算が難しい」というより「判断と情報収集が多い」基準です。だからこそ、移行日から逆算した段取りが結果を左右します。

最終回のポイントは3つです。適用時期は2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から、早期適用は2025年4月1日以後開始する事業年度の期首から可能です(基準58項)。指針118項ただし書きの方法を選ぶかどうかが、使える経過措置の範囲を決めます。使用権資産の算定方法はリース1件ごとに選択できます(指針123項(2))。

各回の内容は新リース会計基準の連載目次からご覧いただけます。会計方針の変更に関する注記の書き方は会計方針の変更の注記の書き方、前回は貸手の注記と適用初年度の注記で扱っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理や税務判断を保証するものではありません。最終的な会計処理・投資判断にあたっては、個別の契約内容および事実関係を踏まえ、専門家にご相談ください。

参考

企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第55項、第58項、第59項
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第20項、第22項、第40項、第41項、第57項、第112項、第118項〜第128項、第130項〜第134項、第136項、第137項、結論の背景BC165項、BC167項、BC171項
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項(5)

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ

書くより話すほうが早いときは、お電話でも承ります TEL 03-6820-0406