会計方針を変更すること自体は決まったものの、注記に何をどこまで書けばよいかで手が止まる——決算期末が近づくほど、経理責任者の方からよく伺うご相談です。
会計方針の変更の注記は、「会計基準等の改正に伴う変更」と「自発的な変更」で書くべき項目が違います。ここを取り違えると監査法人から差し戻しを受け、決算スケジュールが押しがちです。
本記事では、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「基準」といいます)に沿って、2種類の注記の違いと「正当な理由」の説明の組み立て方を、実務の手順として整理します。
- 会計方針の変更の注記が「2種類」に分かれる理由と、どちらを使うかの判定手順
- 会計基準等の改正に伴う変更で注記する7項目(基準10項)の中身
- 自発的変更で注記する5項目(基準11項)と「正当な理由」の説明の作り方
- 影響額・1株当たり情報をどこまで書くか(自作の数値例と注記文案つき)
- 未適用の会計基準等に関する注記と、注記作成の作業フロー・期限
📄 会計方針の変更の注記は「2種類」に分かれる
会計方針は、正当な理由により変更を行う場合を除き、毎期継続して適用します。正当な理由により変更を行う場合は、①会計基準等の改正に伴う会計方針の変更と、②①以外の正当な理由による会計方針の変更(=自発的変更)のいずれかに分類されます(基準5項)。
①と②は原則として遡及適用が求められる点は同じですが、注記で求められる情報の内容が異なることなどから、基準は分類ごとに取扱いを定めています(基準45項)。注記の条項も、①は基準10項、②は基準11項と分かれます。
まず「会計方針の変更に当たるか」を確認する
条項を選ぶ前に、そもそも会計方針の変更に当たるかを確認します。(1)会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更、(2)会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用、(3)連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項のうち、連結又は持分法の適用の範囲に関する変動——これら3つの事象は会計方針の変更に該当しません(適用指針8項)。
逆に、会計処理の変更に伴って表示方法の変更が行われた場合は、会計方針の変更として取り扱います(適用指針7項)。表示区分だけを動かしたつもりでも、その裏に認識・測定の変更があるなら会計方針の変更です。
図1:会計方針を変更したときに、どの注記を書くかを判定するフロー
🗒️ 会計基準等の改正に伴う変更で注記する7項目
会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合で、当期又は過去の期間に影響があるとき、又は将来の期間に影響を及ぼす可能性があるときは、当期において次の事項を注記します(基準10項)。
| 項番 | 注記する事項(基準10項) |
|---|---|
| (1)(2) | 会計基準等の名称/会計方針の変更の内容 |
| (3) | 経過的な取扱いに従って会計処理を行った場合、その旨及び当該経過的な取扱いの概要 |
| (4) | 経過的な取扱いが将来に影響を及ぼす可能性がある場合には、その旨及び将来への影響(不明又は合理的に見積ることが困難な場合はその旨) |
| (5) | 表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額 |
| (6) | 表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する遡及適用の累積的影響額 |
| (7) | 原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、その理由、会計方針の変更の適用方法及び適用開始時期 |
※(3)から(7)については、(5)ただし書きに該当する場合を除き、連結財務諸表と個別財務諸表の注記が同一であるときは、個別財務諸表においてはその旨の記載をもって代えることができます(基準10項なお書き)。
分量を左右するのは(3)と(4)です。近年の会計基準の多くには経過的な取扱いが設けられており、それに従うと過去の財務諸表を遡及的に修正しないケースがあります。どの経過措置をどう適用し、翌期以降にどう効くのかを、読み手が追える粒度で書く必要があります。
有価証券報告書の財務諸表については、財務諸表等規則第8条の3にも記載事項が定められています。同条第3項には、経過措置に従い遡及適用を行っていないときの注記事項が別に列挙されています。基準と条文の双方を突き合わせ、抜けがないか確認しておくと安全です。
⚖️ 自発的変更で注記する5項目と「正当な理由」
自発的変更の場合は、当期において(1)会計方針の変更の内容、(2)会計方針の変更を行った正当な理由、(3)表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額、(4)最も古い期間の期首の純資産の額に反映された累積的影響額、(5)原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、その理由、適用方法及び適用開始時期——の5つを注記します(基準11項)。
基準10項との最大の違いは(2)です。会計基準等の改正であれば理由は基準側にありますが、自発的変更では、なぜ変えるのかを企業自身が説明しなければなりません。
「正当な理由」は2要件で組み立てる
自発的な会計方針の変更を行うための正当な理由がある場合とは、(1)会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること、(2)会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること——の要件が満たされているときをいいます(適用指針6項)。
この2要件は片方だけでは足りません。「新しい方法のほうが実態に合う」という要件(2)だけを述べた注記は、監査法人から「では、なぜ今期なのか」「事業内容や経営環境にどのような変化があったのか」を必ず問われます。要件(1)の変化を、時期・内容・裏付け資料まで含めて具体的に示せるかが説明の成否を分けると考えられます。
あわせて、変更後の会計処理が類似の会計事象等に対して適用されている会計処理と首尾一貫したものであることにも留意が必要とされています(適用指針17項)。同種の取引で別の方法が残っていないかは事前に棚卸ししておきたいところです。
図2:自発的変更の「正当な理由」を説明資料に落とし込むときの論点ツリー
| 比較の観点 | 会計基準等の改正に伴う変更(基準10項) | 自発的変更(基準11項) |
|---|---|---|
| 注記項目の数 | 7項目 | 5項目 |
| 変更理由の記載 | 会計基準等の名称の記載で足りる | 「正当な理由」の記載が必須((2)) |
| 経過措置の記載 | 従った場合はその旨と概要、将来への影響((3)(4)) | 該当する定めはない |
| 影響額 | 過去の期間の主な表示科目・1株当たり情報((5)) | 同左((3)) |
| 累積的影響額 | 最も古い期間の期首の純資産の額に反映された額((6)) | 同左((4)) |
| 根拠となる規則 | 財務諸表等規則8条の3 | 財務諸表等規則8条の3の2 |
📊 影響額はどこまで書くか──自作の数値例
影響額の注記は、表示期間のうち「過去の期間」について求められます(基準10項(5)、11項(3))。当期における影響額は原則として注記を求めないこととされました。過去の期間について遡及適用を行う以上、新たな会計方針に基づく期間比較可能性は確保されるためです。ただし、比較情報として表示する過去の財務諸表について遡及適用を行っていない場合には、変更前の会計方針によった場合の当期における影響額の注記も求められます(基準50項)。
以下は説明のために設定した数値例で、基準や適用指針の設例とは関係ありません。
前提:3月決算のA社は当期(X5年3月期)より、棚卸資産の評価方法を個別法から先入先出法に変更(受注生産中心から量産品中心へ製品構成が変化)。法定実効税率30%、発行済株式総数5,000千株、2期比較で表示。
算定結果:表示期間より前の期間の累積的影響額は税引前70百万円(繰延税金負債21百万円・利益剰余金49百万円)。前事業年度は売上原価が30百万円減少、税引前当期純利益が同額増加、法人税等調整額が9百万円増加、当期純利益が21百万円増加。前事業年度末は棚卸資産100百万円・繰延税金負債30百万円・利益剰余金70百万円の増加。1株当たり当期純利益は4円20銭、1株当たり純資産額は14円00銭それぞれ増加します。
この数値をもとに注記文案を組み立てると、次のようになります。基準11項の(1)〜(4)が文中のどこに対応するかを意識して読んでみてください。
(会計方針の変更)
当社は、棚卸資産の評価方法について、従来、個別法によっておりましたが、当事業年度より先入先出法に変更しております。これは、○○事業において受注生産品から量産品への移行が進み〔経営環境の変化を具体的に記載〕、払出単価の算定方法を先入先出法とすることで期間損益をより適切に反映できると判断したことによるものです。当該会計方針の変更は遡及適用し、前事業年度については遡及適用後の財務諸表となっております。
この結果、遡及適用を行う前と比べて、前事業年度の貸借対照表は棚卸資産が100百万円、繰延税金負債が30百万円、利益剰余金が70百万円それぞれ増加し、前事業年度の損益計算書は売上原価が30百万円減少し、営業利益、経常利益及び税引前当期純利益がそれぞれ同額増加し、当期純利益が21百万円増加しております。前事業年度の期首の純資産額に反映された累積的影響額は49百万円であります。なお、1株当たり情報に与える影響は当該箇所に記載しております。
監査法人からは、この文案そのものより先に「経営環境の変化」を裏づける資料の提示を求められることが多いと考えられます。稟議書、取締役会資料、製品構成比の推移など、変更を決めた時点で存在していた資料を揃えておくと、期末の質疑がぐらつきません。
🧭 未適用の会計基準等に関する注記も忘れない
既に公表されているものの未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、(1)新しい会計基準等の名称及び概要、(2)適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述、(3)新しい会計基準等の適用による影響に関する記述を注記します。専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等については(3)の注記を要さず、連結財務諸表で注記を行っている場合は個別財務諸表での注記を要しません(基準22-2項)。
この定めは2020年3月31日の改正前は基準12項に置かれていました。独立した項目に移動したのは、この注記が未適用の新しい会計基準等全般に適用されることを明確化する意図によるものです(基準28-3項)。社内マニュアルの参照先が「12項」のままなら差し替えておきましょう。
つまずきやすいのは(2)と(3)です。財務諸表の作成の時点で適用時期について企業がまだ経営上の判断を行っていない場合には、適用予定日に関する記述においてその旨を注記します。また、適用の影響につき定量的に把握していない場合には定性的な情報を注記し、まだ評価中であるときはその事実を記述することで足りるとされています(適用指針12-2項)。
📅 注記作成の作業フローと監査法人対応
注記は期末になってから書き始めると間に合いません。影響額の算定に過年度データの再集計が必要になるうえ、正当な理由について監査法人と認識を合わせる時間も要るためです。実務上は次のような順序で進めることが多いと考えられます。
図3:会計方針の変更の注記を期末に間に合わせるための作業フロー(一般的な進め方の例)
- その変更は会計方針の変更か。適用指針8項の3事象に当たっていないか
- 基準10項と11項のどちらの注記かを、基準5項の分類に照らして判定したか
- 自発的変更の場合、適用指針6項の2要件それぞれについて記載があるか
- 影響額は「過去の期間」について、主な表示科目と1株当たり情報の両方を書いたか
- 最も古い期間の期首の純資産に反映された累積的影響額を記載したか
- 同一期間に複数の変更を行った場合、変更の内容ごとに記載したか(適用指針10項)
- 未適用の会計基準等に関する注記を当期分として更新したか
なお、注記すべき事項に重要性が乏しい場合には注記を省略することができるとされています(財務諸表等規則8条の3第4項、8条の3の2第3項)。ただし「重要性が乏しい」と判断した根拠は、社内で文書として残しておくことをおすすめします。
正当な理由の整理から累積的影響額の算定、注記文案の作成、監査法人への説明資料づくりまで、公認会計士が伴走支援します。
🗂️ よくある質問
実務上可能な範囲において、変更の内容ごとにそれぞれ基準10項又は11項で定める事項を注記します。変更の内容ごとに影響額を区分することが困難な場合には、その旨を注記します(適用指針10項)。まとめて1本にせず、原則は変更ごとに分けて書く、と覚えておくとよいでしょう。
注記が求められるのは、当期又は過去の期間に影響があるとき、又は将来の期間に影響を及ぼす可能性があるときです(基準10項、11項)。損益や純資産に影響がなくても、影響を受ける主な表示科目に動きがあれば影響額の記載が必要になると考えられます。もっとも、注記すべき事項に重要性が乏しい場合の省略規定もあります(財務諸表等規則8条の3第4項、8条の3の2第3項)。
有形固定資産等の減価償却方法及び無形固定資産の償却方法は会計方針に該当しますが、その変更は会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合として取り扱われ、遡及適用は行いません(基準19項、20項)。ただし注記については、基準11項(1)、(2)及び18項(2)に関する記載を行うこととされています(基準19項ただし書き)。
📌 まとめ
まず基準5項の分類で「会計基準等の改正に伴う変更」か「自発的変更」かを見極め、前者なら基準10項の7項目、後者なら基準11項の5項目を書く——これが出発点です。自発的変更では、適用指針6項の2要件を両方とも満たしていることを企業側の言葉で説明する必要があります。
影響額は「過去の期間」について主な表示科目と1株当たり情報を、累積的影響額は最も古い期間の期首の純資産について記載します。未適用の会計基準等に関する注記(基準22-2項)の更新も忘れずに行いたいところです。連載の全体像は過年度修正 完全ガイドからご覧いただけます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也/鈴木佑也公認会計士税理士事務所(東京都台東区)。上場企業の会計監査とIPO準備企業の支援に従事し、過年度の会計処理の見直しや監査法人対応を数多く手がけています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
📚 参考
- 企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」5項、10項、11項、18項、19項、20項、22-2項、28-3項、45項、50項(企業会計基準委員会 公表資料(2020年3月31日改正))
- 企業会計基準適用指針第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」6項、7項、8項、10項、12-2項、17項(企業会計基準委員会 公表資料(2024年7月1日修正反映))
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第8条の3、第8条の3の2(e-Gov法令検索)