「新しいリースの注記は、結局どこまで書けばよいのか」。決算スケジュールを引き始めた経理部門から、最も多く出てくる問いです。会計処理が固まっても、注記は別の準備を必要とします。財務諸表本表に出てこない数値を、ゼロから集めなければならないためです。
この記事は、IPO準備会社・上場会社の経理/管理部門で開示や監査対応を担当されている方に向けて、借手の注記の全体像と集めるべき数値を整理します。
図 借手の注記に必要な情報
この記事の見出し
結論:借手の注記は「3つの情報」で構成する
企業会計基準第34号は、借手の注記として①会計方針に関する情報、②リース特有の取引に関する情報、③当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報の3つを定めています(基準55項(1))。これが注記作成の設計図になります。もっとも、この区分に従って記載する必要はありません(基準56項)。リースに関する注記は独立の注記項目としますが、他の注記事項に既に記載している情報は繰り返す必要がなく、当該他の注記事項を参照できます(基準57項)。
借手の注記は開示目的を頂点とする3つの情報で構成されます
出発点は「開示目的」──列挙項目を埋めれば終わりではない
リースに関する注記の開示目的は、財務諸表本表の情報と併せて、リースが財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することにあります(基準54項)。
見落とされやすいのが、注記する情報は基準55項の注記事項に限定する意図ではなく、それ以外でも開示目的の達成に必要な情報は「リース特有の取引に関する情報」として注記するという定めです(指針94項)。借手の例として、リース活動の性質、リース負債の測定に反映されていない将来キャッシュ・アウトフロー(変動リース料、延長・解約オプション、残価保証、未開始のリース)、リースにより課されている制限又は特約などが示されています(指針95項)。
この例示の扱いが、監査法人との最初の論点になりやすいところです。すべてが必須ではありませんが、重要な事項を書かない判断をするなら、その理由を説明できる状態にしておきたいところです。
表示と注記は連動する──本表で区分表示すれば注記は不要
借手の注記の多くは「本表で区分して表示していない場合に注記する」という構造です。使用権資産は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に表示するであろう科目に含める方法か、原資産の表示区分において使用権資産として区分する方法で表示します(基準49項)。リース負債は、貸借対照表で区分して表示するか含まれる科目及び金額を注記し、1年以内に支払の期限が到来するものは流動負債、1年超は固定負債とします(基準50項)。利息費用も、損益計算書で区分して表示するか含まれる科目及び金額を注記します(基準51項)。
注記の分量は、本表での表示方法をどう選ぶかによって変わります
①会計方針に関する情報──「選んだこと」を書く
次の会計処理を選択した場合に、その旨及びその内容を注記します(指針97項)。第1に、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに合わせて会計処理を行う選択(指針97項(1))。第2に、指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料に関する例外的な取扱いの選択(指針97項(2))。第3に、借地権の設定に係る権利金等に関する会計処理の選択です(指針97項(3))。これらを重要な会計方針として注記している場合は、その注記を参照することができます(指針97項)。
いずれも「選択したときに書く」項目です。選択の有無は原資産のグループや契約ごとに分かれるため、契約の棚卸表に「適用した選択肢」の欄を設けておきたいところです。
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②リース特有の取引に関する情報──区分表示していない項目を拾う
リース特有の取引に関する情報は、リースが財政状態又は経営成績に与える影響を理解できるよう、指針99項から101項の内容を注記します(指針98項)。
貸借対照表に関する項目
貸借対照表において区分して表示していない場合、使用権資産の帳簿価額について、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合の表示科目ごとの金額を注記します(指針99項(1))。リースしている企業と購入している企業との比較に有用と考えられたためです(指針BC142項)。土地及び建物に係るリースが独立したリースではない場合、両者を区分せずに注記することが考えられるとされています(指針BC142項)。
このほか、変動リース料の例外的な取扱いを適用したリースに係るリース負債(指針99項(2))、指針27項ただし書き又は127項を適用する場合の償却していない借地権の設定に係る権利金等(指針99項(3))について、含まれる科目及び金額が対象です。
損益計算書に関する項目
損益計算書において区分して表示していない場合、短期リースに係る費用の発生額と、それが含まれる科目を注記します(指針100項(1))。この費用には、借手のリース期間が1か月以下のリース及び少額リースに係る費用を含めることを要しません(指針100項(1))。リース負債に含めていない借手の変動リース料に係る費用の発生額と、それが含まれる科目も対象です(指針100項(2))。
短期リースと少額リースで扱いが分かれる点は、実務で最も取り違えやすいところです。短期リースはリース期間の判断で対象かどうかが変わり、重要性のあるリース負債がオフバランスとなる可能性があるため開示が求められた一方、少額リースは重要性が乏しいため求められていません(指針BC146項)。要件は新リース会計基準の短期リース・少額リースとは?要件と適用単位を解説で整理しています。
セール・アンド・リースバック取引・サブリース取引
セール・アンド・リースバック取引については、区分して表示していない場合の売却損益が含まれる科目及び金額、指針55項を適用した取引に係る資産がある旨・科目・金額、指針56項を適用した取引の主要な条件を注記します(指針101項(1))。サブリース取引については、使用権資産のサブリースによる収益を区分して表示していない場合の当該収益が含まれる科目及び金額などが対象です(指針101項(2))。
③当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報
ここでは、リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額(少額リースに係るものを除く)、使用権資産の増加額、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に表示するであろう科目ごとの使用権資産に係る減価償却の金額を注記します(指針102項)。キャッシュ・アウトフローの合計額は、リース負債からのものと、リース負債に計上されていないリースに係るものの合計額です(指針BC151項)。
②と違い、この3項目は本表での区分表示によって免除されません。とくにキャッシュ・アウトフローの合計額は、リース負債の返済額だけでは足りず、利息の支払額、短期リースの支払額、リース負債に含めていない変動リース料の支払額まで横断して集計します。支払データ側に少額リースのフラグを持たせておかないと、期末に手作業の仕分けが発生します。
注記事項の一覧と、自作の数値例
| 区分 | 注記事項 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①会計方針 | 合算処理、指数・レートによる変動リース料の例外、借地権の権利金等について、選択した場合にその旨及び内容 | 指針97項 |
| ②リース特有(BS) | 所有と仮定した科目ごとの使用権資産の帳簿価額、変動リース料の例外を適用したリース負債の科目・金額、未償却の借地権の権利金等の科目・金額(区分表示していない場合) | 指針99項 |
| ②リース特有(PL) | 短期リースに係る費用の科目・発生額、リース負債に含めない変動リース料に係る費用の科目・発生額(区分表示していない場合) | 指針100項 |
| ②リース特有(特殊取引) | セール・アンド・リースバック取引の売却損益・対象資産・主要な条件、サブリース取引による収益等 | 指針101項 |
| ③金額の理解 | リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額(少額リース分を除く)、使用権資産の増加額、科目ごとの使用権資産の減価償却の金額 | 指針102項 |
以下は、筆者が設定した数値例です。連結財務諸表を作成するA社(3月決算)が、貸借対照表上「使用権資産」として一括で表示している前提です。
| 所有と仮定した科目 | 使用権資産の帳簿価額 | 使用権資産の減価償却 |
|---|---|---|
| 建物 | 420,000千円 | 94,000千円 |
| 土地 | 88,000千円 | 17,600千円 |
| 車両運搬具 | 36,000千円 | 12,800千円 |
| 工具器具備品 | 24,000千円 | 8,600千円 |
| 合計 | 568,000千円 | 133,000千円 |
上記に加えて記載する数値の例です。
- リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額 152,400千円(少額リースに係るものを除く)
- 使用権資産の増加額 78,500千円
- 短期リースに係る費用 6,300千円(1か月以下のリース及び少額リースに係るものを含めていない)
- リース負債に含めていない変動リース料に係る費用 4,900千円
数値はすべて説明のために設定した仮のものです。
連結と個別で注記の範囲が変わる
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表では、借手の「リース特有の取引に関する情報」及び「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」を注記しないことができます(指針110項)。また、個別財務諸表で「会計方針に関する情報」を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照できます(指針111項)。
| 注記の区分 | 連結財務諸表 | 個別財務諸表(連結を作成している場合) |
|---|---|---|
| ①会計方針に関する情報 | 注記する | 注記する(連結の記載を参照可・指針111項) |
| ②リース特有の取引に関する情報 | 注記する | 注記しないことができる(指針110項) |
| ③当期及び翌期以降の金額の情報 | 注記する | 注記しないことができる(指針110項) |
ただし、個別で数値を集めなくてよいわけではありません。連結の注記数値は各社の個別数値の積み上げだからです。子会社数が多いグループでは、連結パッケージに注記用の集計シートを追加する必要があります。
自社対応が重くなりやすいポイント
- 使用権資産を「所有と仮定した科目」に紐付ける属性を、リース管理台帳に持たせているか
- リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額を、支払データから横断的に集計できるか
- 少額リースに該当する支払を、集計対象から除外できる状態になっているか
- 短期リースの費用について、1か月以下のリース及び少額リースの扱いを決めているか
- 会計方針の3つの選択について、どれを適用したかを一覧で説明できるか
- 未開始のリース、残価保証、リース負債に反映していない変動リース料を把握しているか
- 使用権資産の増加額を、新規リースと再測定に分けて把握できるか
- 連結子会社から注記用データを収集する様式と締切を定めているか
監査では、注記数値と本表・キャッシュ・フロー計算書との整合が問われます。キャッシュ・アウトフローの合計額は他の開示数値と機械的に一致しないため、集計の定義と根拠資料を残しておくと説明がスムーズです。IPO準備会社では、ショートレビューの段階で注記用データの不足を指摘されることがあります。
使用権資産の科目別内訳、キャッシュ・アウトフローの集計定義、連結パッケージの様式づくりまで、注記の作成には会計処理とは別の準備が必要です。導入対応でお困りの場合は、お問い合わせからご相談ください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
よくある質問
短期リースに係る費用の発生額は注記の対象ですが、リース期間が1か月以下のリース及び少額リースに係る費用を含めることは要しません(指針100項(1))。少額リースの費用そのものの開示は求められていません(指針BC146項)。
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表では「リース特有の取引に関する情報」及び「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」を注記しないことができます(指針110項)。
開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項は、記載しないことができます(基準55項)。もっとも、その判断の根拠は説明を求められる可能性があるため、経緯を残しておくことが望ましいと考えられます。
まとめ
借手の注記は3つの情報で構成されます(基準55項(1))。②は本表で区分表示していれば注記が不要になりますが、③は表示方法にかかわらず注記が必要です(指針102項)。列挙項目を埋めれば足りるのではなく、開示目的の達成に必要な情報は追加して注記することが求められます(指針94項)。
本会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用できます(基準58項)。注記に必要なデータは会計処理の副産物として自動的に出てくるものではなく、台帳と支払データの設計を早めに固めることが決算期の負担を左右します。
次回は「【開示注記②】貸手の注記と適用初年度の注記」を取り上げます。連載全体の構成は新リース会計基準 完全ガイド|全30回で学ぶ実務対応の全体像、前回の内容は新リース会計基準の連結消去はどうする?親子間リースの注意点からご覧いただけます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の判断は契約内容や事実関係により結論が異なります。最終的な会計処理及び開示の判断にあたっては、監査人その他の専門家にご相談ください。
参考
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」49項、50項、51項、54項、55項、56項、57項、58項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」27項、55項、56項、94項、95項、97項、98項、99項、100項、101項、102項、110項、111項、127項、BC142項、BC146項、BC151項
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