本社ビルや工場を売却して資金化し、そのまま賃借して使い続ける──セール・アンド・リースバック取引は、資金調達手段として実務でよく使われます。ところが新リース会計基準のもとでは、「売却益を全額計上できる場合」と「そもそも売却として扱えず借入と同じ処理になる場合」に分かれ、結論が正反対になります。
この記事は、IPO準備会社・上場企業の経理や管理部門で、不動産や設備のリースバックを検討している方、過去の取引の引継ぎ処理に悩んでいる方に向けて、判定の順序と会計処理を整理したものです。
図 セール・アンド・リースバックの判定
この記事の見出し
結論:3つの分岐で処理が決まる
売手である借手(資産を売ってそのまま借りる側)の処理は、2段階で決まります。第一に、そもそもセール・アンド・リースバック取引に該当するかどうか。第二に、該当する場合に金融取引として扱うか、売却損益を認識するか。
2つの問いで3つの結論に分かれます。Q2で「はい」となると売却益は計上できません。
なお、この取引の定めは会計基準本体ではなく、企業会計基準適用指針第33号に置かれています。条文を探すときは適用指針を見てください。
そもそも「該当しない」ケースがある
セール・アンド・リースバック取引とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリースする取引をいいます(指針4項(11))。譲渡された資産とリースされた資産が同一であることが重要な要素とされています(指針BC85項)。
建設請負+一括借上げのケース
リースバックが行われる場合であっても、資産の譲渡が、収益認識会計基準に従い一定の期間にわたり充足される履行義務の充足によって行われるときは、この取引に該当しません(指針53項(1))。収益認識適用指針第95項を適用し、工事契約における収益を完全に履行義務を充足した時点で認識することを選択するときも同様です(指針53項(2))。
これらの取引では譲渡により支配が移転されるのは仕掛中の資産であるのに対し、リースバックにより支配を獲得する使用権資産は完成した資産に関するものであるため、両者は同一ではないと考えられる、と説明されています(指針BC87項)。建設工事請負契約と一括借上契約が同時に締結される取引などを念頭に置いた明確化です(指針BC84項)。
譲渡前に支配を獲得していないケース
売手である借手が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合、当該資産の移転と関連するリースバックについては、セール・アンド・リースバック取引に該当せず、リースとして会計処理を行います(指針54項)。取引の都合上、借手が貸手を通さずに資産を第三者から購入して当該資産を貸手に譲渡し当該貸手からリースするような場合が例示されています(指針BC89項)。設備をメーカーから直接購入し、いったん自社名義にしてからリース会社に転売する組み方は実務でよく見られるため、契約の組成段階で確認しておきたい論点です。
該当する場合──金融取引か、譲渡損益の認識か
該当する場合に、次の(1)または(2)のいずれかを満たすときは、売手である借手は、資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行います(指針55項)。(1)は、他の会計基準等に従うと資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない場合です(指針55項(1))。(2)は、譲渡が売却に該当するものの、リースバックにより、売手である借手が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合です(指針55項(2))。これらを満たさないときは、譲渡について他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについて会計基準および適用指針に従い借手の会計処理を行います(指針56項)。
| 項目 | 指針55項に該当する場合 | 指針56項に該当する場合 |
|---|---|---|
| 要件 | 売却に該当しない、またはフルペイアウトのリース(指針55項(1)(2)) | 売却に該当し、かつ55項(1)(2)を満たさない(指針56項) |
| 譲渡損益 | 認識しない(指針55項) | 他の会計基準等に従い認識する(指針56項) |
| 譲渡した資産 | 一体の取引とみて金融取引として処理(指針55項) | 使用権資産・リース負債を計上(指針56項) |
| 注記 | 当該処理を行った資産がある旨、科目、金額(指針101項(1)②) | 当該取引の主要な条件(指針101項(1)③) |
実務上の分かれ目は、ほぼ指針55項(2)のフルペイアウト判定に集約されます。この点、指針55項(2)におけるフルペイアウトの判定の要件は具体的に定められていないものの、仮に指針62項の判定基準を用いて判断する場合には、借手のリース期間および借手のリース料をもとに判定を行うことが考えられる、との説明が置かれています(指針BC94項)。指針62項の判定基準とは、貸手のリース料の現在価値が原資産の現金購入価額の概ね90パーセント以上であること(現在価値基準)、または貸手のリース期間が原資産の経済的耐用年数の概ね75パーセント以上であること(経済的耐用年数基準)です(指針62項(1)(2))。
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数値例:同じ倉庫でも、リース期間で結論が逆になる
本記事のために設計した仮設例です。金額は千円単位、リース料は各期末払、割引率は年3.0%。
自社倉庫(帳簿価額240,000、譲渡対価=時価300,000、リースバック時点の残存経済的耐用年数25年)を売却し、そのまま賃借します。譲渡自体は売却に該当するものとします。
| 比較項目 | ケースA(リース期間8年) | ケースB(リース期間20年) |
|---|---|---|
| 年間リース料 | 24,000 | 20,000 |
| リース料の現在価値 | 168,473(年金現価係数7.0197) | 297,549(年金現価係数14.8775) |
| 時価300,000に対する割合 | 56.2%(90%を大きく下回る) | 99.2%(90%以上) |
| 経済的耐用年数25年に対する割合 | 32.0% | 80.0% |
| フルペイアウトの判定 | 該当しない | 該当する |
| 適用される定め | 指針56項 | 指針55項(2) |
| 譲渡益60,000の扱い | 全額を損益に計上 | 計上しない |
| 貸借対照表 | 使用権資産168,473/リース負債168,473 | 倉庫240,000を引き続き計上/受領額300,000を金融負債 |
点線は時価300,000の目盛りです。同じ資産・同じ売却額でも、リース期間の長さが結論を分けます。
ケースAでは譲渡益60,000が一括で利益に乗り、その後の8年間は使用権資産の減価償却(定額なら年21,059)と利息費用(初年度は168,473×3.0%=5,054)が発生します。ケースBでは利益は一切出ず、倉庫は貸借対照表に残ったまま負債だけが300,000増えます。監査対応では、このフルペイアウト判定の根拠が問われます。リース期間の見積り、割引率の決定、時価の把握と、第3部・第4部で扱った論点がそのまま効いてきます。
譲渡対価が時価でない場合の調整
指針56項において資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合、または借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではない場合には、次の調整を行います(指針57項)。
| 状況 | 譲渡損益 | 差額の扱い |
|---|---|---|
| 譲渡対価が明らかに時価を下回る(指針57項(1)) | 時価を用いて認識 | 使用権資産の取得価額に含める |
| リース料が明らかに市場のレートを下回る(指針57項(2)) | 差額分だけ譲渡対価を増額して認識 | 使用権資産の取得価額に含める |
| 譲渡対価が明らかに時価を上回る(指針57項(3)) | 時価を用いて認識 | 金融取引として会計処理 |
| リース料が明らかに市場のレートを上回る(指針57項(4)) | 差額分だけ譲渡対価を減額して認識 | 金融取引として会計処理 |
明らかに時価ではないかどうかは、資産の時価と市場のレートでのリース料のいずれか容易に算定できる方を基礎として判定します(指針57項)。この取扱いは、セール・アンド・リースバック取引に該当しない指針53項(1)(2)の取引にも適用されます(指針58項)。もっとも、譲渡対価が時価で借手のリース料が市場のレートである場合が多いと考えられるため、指針57項の適用が求められる場合は限定的であると考えられる、と説明されています(指針BC96項)。
自社だけで対応するとつまずきやすい点
貸手(買手)側の判定は借手と前提が違う
リースバックがファイナンス・リースに該当するかどうかの貸手による判定は、指針59項から第69項に示したところによります(指針87項)。ただし、この判定において経済的耐用年数はリースバック時における原資産の性能、規格、陳腐化の状況等を考慮して見積った経済的使用可能予測期間を用い、当該原資産の借手の現金購入価額については借手の実際売却価額を用います(指針87項)。中古資産のリースバックで、新品前提の耐用年数をそのまま持ち込めない点に注意が要ります。
既存取引の引継ぎ(経過措置)
適用初年度の期首より前に締結されたセール・アンド・リースバック取引については、譲渡が売却に該当するかどうかの判断を見直すことは行いません(指針126項(1))。指針57項の取扱いも適用しません(指針126項(2))。リースバックは、適用初年度の期首時点に存在する他のリースと同様に会計処理を行います(指針126項(3))。そして、企業会計基準第13号における定めにより売却損益を繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上する取扱いを適用している場合は、会計基準の適用後も当該取扱いを継続し、使用権資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上します(指針126項(4))。
過去に繰り延べた売却損益の残高は消えず、使用権資産に紐づけて引き継ぐことになります。旧基準下の長期前受収益等の内訳と対応する資産・契約の対応関係を復元できるかが、移行作業の実務的なハードルです。
注記の準備
売却損益を損益計算書において区分して表示していない場合には、当該売却損益が含まれる科目および金額を注記します(指針101項(1)①)。指針55項を適用した取引については当該会計処理を行った資産がある旨並びに当該資産の科目および金額を(指針101項(1)②)、指針56項を適用した取引については当該取引の主要な条件を注記します(指針101項(1)③)。「主要な条件」を書けるだけの契約情報が経理側に揃っているか、事前の確認が要ります。
- 過去5〜10年の資産売却のうち、売却先から同一資産を賃借しているものを洗い出したか
- 建設請負と一括借上げがセットになった契約はないか(指針53項(1)の該当可能性)
- 第三者から購入して即転売しリースを受けた設備はないか(指針54項の該当可能性)
- 各取引の譲渡対価、譲渡時の時価、帳簿価額を資料で裏付けられるか
- 借手のリース期間・割引率・現在価値の算定根拠を文書化したか
- リースバック時点の残存経済的耐用年数を見積もったか
- 市場のレートでのリース料と乖離がないかを確認したか(指針57項)
- 旧基準で繰り延べた売却損益の残高と対応資産を特定できるか(指針126項(4))
- 注記に必要な「主要な条件」を契約書から抽出できる状態か(指針101項(1)③)
負担が重いのは、判定そのものよりも前段の棚卸しです。売却は経営企画が主導し、リース契約は総務が保管している、というように情報が分散していることが多く、経理だけでは全体像が見えません。件数は多くなくても1件あたりの金額が大きいため、誤ったときの影響は大きくなります。
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よくある質問
新たに行う取引では、指針56項に該当する場合は他の会計基準等に従い損益を認識し(指針56項)、指針55項に該当する場合は金融取引として処理します(指針55項)。繰延処理は行いません。ただし適用初年度の期首より前に締結され、旧基準で繰延処理を適用している取引は、その取扱いを継続します(指針126項(4))。
指針55項(2)は判定の要件を具体的に定めていません。仮に指針62項の判定基準を用いて判断する場合には、借手のリース期間および借手のリース料をもとに判定を行うことが考えられる、との説明が置かれています(指針BC94項)。判定方法を会計方針として整理し、根拠を残しておくことが実務上は重要になります。
貸手側の分類は指針59項から第69項により判定します(指針87項)。土地については、指針70項の(1)または(2)のいずれかに該当する場合を除き、オペレーティング・リースに該当するものと推定するとされています(指針68項)。借手側の判定でも、土地は経済的耐用年数の考え方が使いにくく、慎重な検討が必要と考えられます。
IFRS第16号と同様の会計処理を代替的な取扱いとしては定めないこととされています(指針BC95項)。連結でIFRS、個別で日本基準という場合、差異が生じる可能性があります。
まとめ
セール・アンド・リースバック取引は、「該当するか」「金融取引か」の2つの問いで処理が決まります。とくにリースバックがフルペイアウトのリースに当たると売却益は一切計上できず、実質的に資産を担保にした借入と同じ姿になります(指針55項(2))。スキームを設計する段階で会計上の結論を織り込んでおくことが欠かせません。
本連載の全体像は新リース会計基準 完全ガイド|全30回で学ぶ実務対応の全体像にまとめています。前回は新リース会計基準の貸手の会計処理は?分類と売上高の計上を解説で、リースバックの分類判定に使う貸手側の枠組みを扱いました。次回は「サブリース(中間的な貸手)」を取り上げます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の取引に対する会計上の助言ではありません。最終的な会計処理の判断にあたっては、監査人や専門家にご相談ください。
参考
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第4項(11)、第53項、第54項、第55項、第56項、第57項、第58項、第62項、第68項、第70項、第87項、第101項、第126項、BC84項、BC85項、BC87項、BC89項、BC94項、BC95項、BC96項
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