増資はしたいけれども、既存株主の持株比率は動かしたくない。同族会社や、創業メンバーだけで株式を持っている会社では、この形の資金調達が選ばれます。会社法はこれを株主割当てと呼び、募集株式の発行等の一類型として202条に置いています。
全員が持株数に応じて引き受ければ、比率は変わりません。ところが条文は割当てを受ける権利を与えると書いているだけで、引き受けることを強制してはいません。申込みをしない株主が出れば、その分だけ比率は動きます。日程と通知の設計が結果を左右するのはそのためです。
この記事では、非公開会社を前提に、募集事項等の決定から変更の登記までを日程の順に整理します。第三者割当てとどこが違うのかも、条文の単位で並べます。
- 誰が募集事項等を決めるかは、定款の定めと公開会社かどうかで4つに分かれること(202条3項)
- 基準日を定めたら2週間前までに公告が必要で、権利の行使は基準日から3か月以内に限られること(124条2項・3項)
- 申込期日の2週間前までに、株主へ3つの事項を通知しなければならないこと(202条4項)
- 株主が申込期日までに申込みをしないと権利を失い、失権分は同じ増資の中では振り替えられないこと(204条4項)
- 株主割当てには割当先を決める決議がなく、有利発行の説明義務も適用されないこと(202条5項)
- 払込期間を定めた場合は、変更の登記を期間の末日から2週間以内にすれば足りること(915条2項)
この記事の見出し
🧭 株主割当ては、持株数に応じた引受けの権利を与える仕組み
会社法202条1項は、199条1項の募集において、株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができると定めています。この権利を与える場合には、募集事項のほかに、株主に割当てを受ける権利を与える旨と、募集株式の引受けの申込みの期日の2つを定めなければなりません(202条1項1号・2号)。以下ではこの2つを含めて募集事項等と呼びます。
権利の大きさは持株数で決まります。202条2項は、株主はその有する株式の数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を有すると定め、割当てを受ける募集株式の数に1株に満たない端数があるときはこれを切り捨てるとしています。会社自身が保有する自己株式には権利がありません。202条1項1号と2項のかっこ書きで、当該株式会社は除かれているためです。
全員が権利どおりに引き受ければ、持株比率は動きません。ここが第三者割当てとの決定的な違いです。既存株主から追加の出資を受けたいとき、資本金を増やして与信の見え方を整えたいとき、上場準備の前に株主構成を変えずに自己資本を厚くしたいときに使われます。
📋 決定機関は202条3項の4つの区分で決まる
誰が募集事項等を決めるかは、定款の定めと公開会社かどうかで4つに分かれます。
| 区分 | 決定機関 | 条文 |
|---|---|---|
| 取締役会を置かない会社で、取締役の決定で定めることができる旨の定款の定めがある | 取締役の決定 | 202条3項1号 |
| 取締役会の決議で定めることができる旨の定款の定めがある(公開会社を除く) | 取締役会の決議 | 202条3項2号 |
| 公開会社である | 取締役会の決議 | 202条3項3号 |
| 上記のいずれにも当たらない | 株主総会の特別決議 | 202条3項4号、309条2項5号 |
202条5項は、199条2項から4項までと、200条・201条の規定を株主割当てには適用しないと定めています。したがって、株主総会が募集事項の決定を取締役会に委任する制度(200条)も、公開会社について株主総会を取締役会と読み替える特則(201条)も、株主割当てでは登場しません。決定機関は202条3項だけで決まります。
非公開会社が原則どおり株主総会で決める場合、この決議は特別決議です(309条2項5号)。定款で取締役会の決議によることができる旨を定めておけば、以後は取締役会で足ります(202条3項2号)。増資を繰り返す予定があるなら、定款を先に整えておくほうが毎回の日程は短くなります。定款変更そのものも特別決議ですから、直前に思いつくと二度手間になります。
🗓 基準日を定めたら2週間前までに公告する
誰を株主として扱うかを固定するために、基準日を定めるのが実務です。124条1項は、一定の日を定めて、その日に株主名簿に記載され、または記録されている株主を、権利を行使することができる者と定めることができるとしています。
基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、基準日と、基準日株主が行使することができる権利の内容を公告しなければなりません(124条3項)。ただし、定款にその基準日と当該事項について定めがあるときは公告は不要です(124条3項ただし書)。定時株主総会の議決権のように毎年決まった日を使うものは定款に書かれていますが、増資のための基準日を定款に書いている会社はまずないので、通常は公告が必要になります。
もう1つ、124条2項の制限も見落とせません。基準日株主が行使することができる権利は、基準日から3か月以内に行使するものに限られます。基準日から払込みまでの日程が3か月を超えないように組んでください。
📨 申込期日の2週間前までに株主へ通知する
202条4項は、募集事項等を定めた場合には、申込期日の2週間前までに、株主に対して次の3つを通知しなければならないと定めています。ここでも当該株式会社は除かれます。
- 募集事項(202条4項1号)
- その株主が割当てを受ける募集株式の数(202条4項2号)
- 申込期日(202条4項3号)
2号に注目してください。会社は、株主ごとに何株の権利があるかを計算して知らせなければなりません。株主名簿が古いままだと、この計算ができません。相続で名義が動いたまま名簿を直していない会社は、増資の話が出た時点で名簿の整理から始めることになります。
この通知は、株主が引き受けるかどうかを判断し、資金を用意するための時間を確保するものです。登記の実務では、株主全員の同意があればこの2週間を短縮することができるとされています。短縮した場合は、後の変更の登記の申請で、株主全員の同意があったことを証する書面を添付することになります(商業登記法46条1項)。株主が数名の会社では、この短縮によって日程を大きく詰められます。
📝 申込みをしないと権利を失う
会社は、申込みをしようとする者に対し、商号、募集事項、金銭の払込みをすべきときは払込みの取扱いの場所などを通知します(203条1項、会社法施行規則41条)。申込みをする者は、氏名または名称および住所と、引き受けようとする募集株式の数を記載した書面を会社に交付します(203条2項)。会社の承諾を得て、書面の交付に代えて電磁的方法により提供することもできます(203条3項)。
ここからが株主割当ての特徴です。204条4項は、202条により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合において、株主が申込期日までに203条2項の申込みをしないときは、その株主は募集株式の割当てを受ける権利を失うと定めています。放っておけば権利は消える、ということです。
株主割当てでは、株主は権利を行使することで当然に引受人になります。そのため、申込者の中から割当てを受ける者とその数を決める手続(204条1項)も、募集株式が譲渡制限株式であるときに株主総会または取締役会の決議を要するという規定(204条2項)も、期日の前日までの割当ての通知(204条3項)も要りません。第三者割当てで必ず必要になる割当決議が、株主割当てには存在しないということです。
失権した株式をほかの人に引き受けてもらいたい場合は、改めて199条1項の募集の手続を踏むことになります。同じ増資の中で他の株主や第三者に振り替えることはできません。予定した金額を確実に集めたいのであれば、決議の前に各株主の意向を確認しておくしかありません。
💰 払込みと、株主になる日
引受人は、払込期日または払込期間内に、会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(208条1項)。この払込みの債務と、会社に対する債権とを相殺することはできません(208条3項)。払込みをしないときは、株主となる権利を失います(208条5項)。204条4項の失権とは別に、払込みの段階でもう1つ失権の場面があるということです。
株主になる日は、期日を定めたか期間を定めたかで変わります。払込期日を定めた場合はその期日、払込期間を定めた場合は出資の履行をした日です(209条1項1号・2号)。株主が複数いる会社で払込期間を定めると、株主になる日が人によって違うことになります。定時株主総会の基準日をまたぐような日程では、この違いが議決権の有無に影響します。
払い込まれた額は資本金になります(445条1項)。ただし、その2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができ(445条2項)、計上しないこととした額は資本準備金として計上しなければなりません(445条3項)。資本金をいくらにするかは、増加する資本金および資本準備金に関する事項として、募集事項の1つで最初に決めておきます(199条1項5号)。資本金の額は登録免許税や外形標準課税の判定にも効いてくるので、税理士と相談して決めてください。
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🏛 変更の登記は2週間以内。払込期間なら末日から
増資の効力が生じると、登記事項である資本金の額(911条3項5号)と、発行済株式の総数並びにその種類および種類ごとの数(911条3項9号)が変わります。会社は、これらに変更が生じたときは2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(915条1項)。
ただし例外があります。915条2項は、199条1項4号の期間、つまり払込期間を定めた場合における株式の発行による変更の登記は、当該期間の末日現在により、当該末日から2週間以内にすれば足りるとしています。期間中に払込みが入るたびに登記をする必要はない、という趣旨です。株主が多い会社で払込期間を定めるときは、この規定を前提に登記の日程を組みます。
なお、新株を発行せずに自己株式を処分する形の募集では、資本金の額も発行済株式の総数も変わりません。この場合は変更の登記そのものが不要です。
📆 日程の組み方(非公開会社の例)
非公開会社が株主総会で募集事項等を決め、基準日を定め、払込期日を1日に定めた場合の並びは次のようになります。日数は法定の期間から逆算した目安です。
| 手続 | 置くべき期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 募集事項等の決定と基準日の決定(株主総会の特別決議) | 起算点 | 202条3項4号、309条2項5号、124条1項 |
| 基準日の公告 | 基準日の2週間前まで | 124条3項 |
| 基準日 | 公告から2週間後 | 124条3項 |
| 株主への通知(募集事項、割当てを受ける数、申込期日) | 申込期日の2週間前まで | 202条4項 |
| 申込みをしようとする者への通知 | 申込みの前 | 203条1項 |
| 申込期日(申込み) | 株主への通知から2週間後 | 202条1項2号、203条2項 |
| 払込期日(出資の履行、株主となる) | 申込期日の後 | 199条1項4号、208条1項、209条1項1号 |
| 変更の登記 | 効力発生から2週間以内 | 911条3項5号・9号、915条1項 |
基準日の公告と株主への通知でそれぞれ2週間を置くので、決議から払込みまでは1か月半ほど見ておくと安全です。株主全員の同意があれば202条4項の2週間は短縮できますし、株主名簿の異動がない会社では基準日を定めないという選択もあります。株主が少ない会社ほど短くできる余地があります。
⚖ 第三者割当てとの違いを条文の単位で並べる
| 項目 | 株主割当て | 第三者割当て(非公開会社) |
|---|---|---|
| 権利を与える相手 | すべての株主に持株数に応じて(202条2項) | 会社が選んだ引受人 |
| 決定機関 | 株主総会の特別決議。定款で取締役会または取締役に委ねられる(202条3項) | 株主総会の特別決議(199条2項、309条2項5号) |
| 総会から取締役会への委任 | できない(202条5項により200条は適用されない) | できる(200条1項) |
| 割当先を決める決議 | 不要(204条1項から3項は働かない) | 必要(204条1項・2項) |
| 有利発行の説明義務 | 適用されない(202条5項) | 適用される(199条3項) |
| 株主への事前の通知 | 申込期日の2週間前まで(202条4項) | 規定なし |
| 持株比率 | 全員が引き受ければ動かない | 必ず希薄化する |
第三者割当てでは、株主総会の特別決議という一点で既存株主を守っています。株主割当てでは、全員に同じ条件の権利が与えられること自体が保護になっているので、有利発行の規制も割当決議も必要ありません。そのかわり、期日までに申込みをしなければ権利を失うという厳しい仕組みが置かれています。守り方の設計がまるごと違うということです。
🔎 実務で気をつけること
全員が引き受けるとは限らない
株主割当ては権利を与えるだけで、引受けを強制するものではありません。予定した金額が集まらないことがありますし、引き受けない株主が出ればその分だけ比率は動きます。決議の前に、株主それぞれに引き受ける意思と資力があるかを確かめておくのが実務です。相続で株主が増えている会社では、連絡先の把握から始まります。
端数は切り捨てられる
202条2項ただし書により、割当てを受ける募集株式の数に1株に満たない端数があるときは切り捨てます。1株あたりの払込金額を高くして発行株式数を少なくすると、切捨てによる比率のずれが大きくなります。株式数と払込金額の組み合わせを決めるときは、各株主の割当数を実際に計算してから最終決定してください。
有利発行の規制は働かないが、結果は見ておく
202条5項により199条3項が適用されないため、払込金額が低くても、取締役が株主総会でその金額で募集をすることを必要とする理由を説明しなければならないという規制は働きません。全株主に持株数に応じて同じ条件で権利が与えられる以上、既存株主が不利益を受ける関係にないからです。もっとも、引き受けない株主が出れば結果として比率は動きます。低い払込金額での株主割当てが、実質的に一部の株主へ利益を移す結果にならないかは、別に検討しておく必要があります。
差止請求の規定は株主割当てにも及ぶ
210条は、199条1項の募集に係る株式の発行または自己株式の処分が法令もしくは定款に違反する場合、または著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対してこれをやめることを請求することができると定めています。株主割当ても199条1項の募集ですから、この規定の対象です。通知や公告を飛ばして進めれば、法令に違反する発行として差止めの対象になり得ます。
税務は別の枠組みで考える
会社法の手続が整っていることと、税務上の取扱いに問題がないこととは別の話です。持株数に応じない引受けが生じた場合や、払込金額が株式の価値と大きく離れている場合には、税務上の論点が生じることがあります。会社法の日程を固める前に、税理士に確認しておくことをおすすめします。
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❓ よくある質問
A. 202条5項により199条3項が適用されないため、払込金額が特に有利であることを理由とする取締役の説明義務は働きません。すべての株主に持株数に応じて同じ条件で権利が与えられるからです。ただし決定機関そのものは202条3項の区分で決まり、非公開会社で定款に定めがなければ株主総会の特別決議になります(309条2項5号)。
A. 204条4項により、申込期日までに申込みをしなかった株主は割当てを受ける権利を失います。失権した分をほかの人に引き受けてもらうには、改めて199条1項の募集の手続を行うことになります。同じ増資の中で他の株主や第三者に振り替えることはできません。
A. 登記の実務では、株主全員の同意があれば短縮することができるとされています。短縮した場合は、変更の登記の申請の際に、株主全員の同意があったことを証する書面を添付することになります(商業登記法46条1項)。株主が少ない会社では日程を詰める有効な手段です。
A. 124条1項は基準日を定めることができると書いており、義務ではありません。株主が少なく名簿の異動もない会社では、定めずに進めることもあります。ただし定めた場合は2週間前までの公告が必要になり(124条3項)、権利の行使は基準日から3か月以内に限られます(124条2項)。
A. ありません。202条1項1号と2項は、いずれもかっこ書きで当該株式会社を除いています。自己株式には議決権も剰余金の配当を受ける権利もないのと同じ考え方です。割当数を計算するときは、発行済株式の総数から自己株式の数を除いて計算してください。
📄 まとめ
株主割当ては、持株数に応じて引受けの権利を与えることで、比率を動かさずに資本を増やす方法です。決定機関は202条3項の4つの区分で決まり、非公開会社で定款に定めがなければ株主総会の特別決議になります。200条の委任も201条の特則も、202条5項によって適用されません。
日程を縛るのは2つの2週間です。基準日を定めたときの2週間前までの公告(124条3項)と、申込期日の2週間前までの株主への通知(202条4項)。この通知には、その株主が割当てを受ける募集株式の数まで書く必要があるので、株主名簿が整っていることが前提になります。
申込期日までに申込みをしなければ権利は失われ(204条4項)、払込みをしなければ株主となる権利も失われます(208条5項)。失権分を同じ増資の中で振り替えることはできませんから、決議の前に各株主の意向を確かめておくことが、この手続で一番効きます。
払込みが済んだら、資本金の額と発行済株式の総数の変更登記を2週間以内に行います(915条1項)。払込期間を定めた場合は、期間の末日から2週間以内で足ります(915条2項)。手続の順番そのものは第三者割当てと似ていますが、割当決議がないこと、有利発行の規制が働かないこと、そのかわり失権の仕組みが置かれていることが違いです。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法202条1項から5項(株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合)
- 会社法199条1項・2項・3項、200条1項、203条1項から3項、204条1項から4項、208条1項・3項・5項、209条1項、210条
- 会社法124条1項から3項(基準日)、309条2項5号(特別決議)
- 会社法445条1項から3項(資本金の額および準備金の額)、911条3項5号・9号、915条1項・2項
- 商業登記法46条1項(添付書面の通則)、会社法施行規則41条
- 実務書「会社法実務スケジュール」(商事法務)の募集株式の発行等の手続(株主割当ての場合)の記述と照合
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。