取締役が1人、監査役もいない。定款には取締役会という言葉が出てこない。中小企業ではごく普通の姿です。会社法はこれを取締役会非設置会社として正面から認めています。
ところが、会社法の解説は取締役会がある会社を前提に書かれていることが多く、自社にどこまで当てはまるのかが分かりにくくなります。この記事では、取締役会を置かない会社では何がどう変わるのかを、条文の対比で整理します。
- 取締役会を置かなければならない会社(会社法327条1項)
- 株主総会が一切の事項を決議できること(295条1項)
- 業務の決定と代表がどう決まるか(348条・349条)
- 株主総会の手続がどこまで軽くなるか
この記事の見出し
置かなくてよい会社と、置かなければならない会社
会社法326条1項は、株式会社には1人または2人以上の取締役を置かなければならないと定めています。必ず必要なのは取締役だけです。同条2項により、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等は、定款の定めによって置くことができます。置くかどうかは選択だということです。
ただし例外があります。会社法327条1項は、公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は取締役会を置かなければならないとしています。株式に譲渡制限が付いていない会社は、それだけで取締役会が必要になります。
連鎖もあります。同条2項により、取締役会設置会社は監査役を置かなければなりません。ただし書で、公開会社でない会計参与設置会社は除かれます。つまり、取締役会を置くと監査役も要るのが原則で、逆に取締役会を置かなければ監査役も不要ということです。同条3項により、会計監査人設置会社は監査役を置かなければなりません。
非公開会社で会計監査人も置かないのであれば、取締役1人だけという最小の機関設計が可能になります。
株主総会は一切の事項を決議できる
いちばん大きな違いがここです。会社法295条1項は、株主総会は、この法律に規定する事項および株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができると定めています。
同条2項は、取締役会設置会社においては、株主総会はこの法律に規定する事項および定款で定めた事項に限り決議をすることができるとしています。取締役会があると株主総会の権限が絞られるという構造です。
あわせて会社法309条5項が、取締役会設置会社においては、株主総会は298条1項2号に掲げる事項、すなわち総会の目的である事項以外については決議をすることができないとしています。招集通知に書いていない議案を当日決議できない、という制限です。
取締役会を置かない会社には、この2つの制限がありません。株主総会は会社に関することなら何でも決議でき、招集通知に書いていない事項でも決議できます。株主が数名で全員が出席する会社であれば、実務上とても動きやすい形です。
なお会社法295条3項は、この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役や取締役会その他の機関が決定できる旨の定款の定めは効力を有しないとしています。法律が株主総会の決議を求めている事項を、定款で下ろすことはできません。
業務の決定は取締役の過半数
会社法348条1項は、取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社の業務を執行すると定めています。かっこ書きで取締役会設置会社が除かれていますので、この条文は取締役会を置かない会社の規定です。
同条2項は、取締役が2人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定するとしています。取締役会という会議体を開く必要はありません。取締役どうしで決めれば足ります。招集通知も定足数も、条文上の要求はありません。
ただし同条3項が、各取締役に委任できない事項を5つ挙げています。支配人の選任および解任、支店の設置と移転と廃止、298条1項各号に掲げる事項、内部統制システムの整備、426条1項の定款の定めに基づく責任の免除です。
3号が実務で効きます。298条1項各号は株主総会の招集にあたって定める事項ですので、株主総会の日時と場所、目的である事項などは、取締役が2人以上いれば過半数で決めなければならず、社長ひとりに任せることができないということです。取締役会設置会社では298条4項により取締役会の決議事項ですが、非設置会社でも決め方は残っています。
同条4項により、大会社では取締役が内部統制システムの整備について決定しなければなりません。取締役会がなくても、大会社であればこの決定は必要です。
代表は各自代表が原則
会社法349条1項は、取締役は株式会社を代表すると定めています。ただし書で、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合はこの限りでないとしています。
同条2項により、その取締役が2人以上ある場合には、取締役は各自、株式会社を代表します。いわゆる各自代表です。取締役全員が単独で会社を代表できるということです。
代表取締役を定めることもできます。同条3項は、取締役会設置会社を除き、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができるとしています。取締役会がないので、選定の方法が3通り用意されています。どれを使うかは定款の書き方次第です。
同条4項により、代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します。同条5項により、この権限に加えた制限は善意の第三者に対抗できません。社内で決めた権限の制限は、外部には通じないということです。
株主総会の手続はどこまで軽くなるか
取締役会を置かないことで、株主総会の手続もいくつか軽くなります。
招集通知。会社法299条1項は原則2週間前ですが、書面投票や電磁的方法による議決権行使を定めておらず、かつ公開会社でない株式会社は1週間前までです。さらにかっこ書きで、取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にはその期間、とされています。定款に定めを置けば1週間より短くできるのは、取締役会を置かない会社だけです。
計算書類の備置き。会社法442条1項1号は、定時株主総会の日の1週間、取締役会設置会社にあっては2週間前の日から5年間としています。取締役会がなければ1週間前からです。
計算書類の提供。会社法437条は取締役会設置会社について、招集通知に際して計算書類と事業報告を提供しなければならないとしています。取締役会を置かない会社にはこの義務がありません。
| 項目 | 取締役会を置かない会社 | 取締役会設置会社 |
|---|---|---|
| 招集通知 | 1週間前。定款でさらに短縮できる | 2週間前(非公開会社は1週間前) |
| 計算書類の備置き | 総会の1週間前の日から | 総会の2週間前の日から |
| 計算書類の提供 | 義務なし | 招集通知に際して提供(437条) |
| 目的以外の事項 | 決議できる | 決議できない(309条5項) |
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逆に、株主総会でしか決められないこと
手続が軽くなる一方で、取締役会があれば取締役会で決められた事項が、株主総会に上がってきます。書籍も、取締役会を置かない会社では株主総会の必要的決議事項の範囲が広くなる例として、譲渡制限株式の譲渡等の承認(139条1項)、自己株式の取得価格等の決定(157条1項)、競業取引と利益相反取引の承認(356条1項)を挙げています。
会社法139条1項は、譲渡等の承認をするか否かの決定は株主総会、取締役会設置会社にあっては取締役会の決議によらなければならないとしたうえで、ただし書で定款に別段の定めがある場合を除いています。定款で代表取締役の決定によると定めておけば、株主総会を開かずに済みます。実務ではこの定めを置く会社が多くあります。
会社法356条1項の競業取引と利益相反取引の承認も、取締役会設置会社では365条1項により取締役会に読み替えられますが、置かない会社では株主総会です。社長個人と会社の取引がある会社では、そのたびに株主総会が必要になります。
ここが取締役会を置くかどうかの分かれ目です。株主が数名で総会を開くのが容易なら、株主総会に上げるほうがむしろ簡単です。株主が増えてきたら、取締役会を置いて決定を機関に移すほうが動きやすくなります。
監督は誰がするか
取締役会も監査役も置かない会社では、取締役を監督するのは株主です。会社法はそのための規定をいくつか置いています。
会社法357条1項は、取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちにその事実を株主に報告しなければならないと定めています。かっこ書きにより、監査役設置会社では監査役に報告します。監査役がいなければ株主に直接、ということです。
会社法360条1項は、6か月前から引き続き株式を有する株主は、取締役が目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはそのおそれがある場合において、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、その行為をやめることを請求できるとしています。同条2項により、公開会社でない株式会社では6か月という保有期間の要件がありません。
同条3項に重要な違いがあります。監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社では、著しい損害とあるのは回復することができない損害と読み替えられます。監査役がいる会社では差止めのハードルが上がるということです。裏返せば、監査役を置かない会社では株主が差し止めやすい設計になっています。
上場を考えるなら
上場すれば公開会社になりますので、会社法327条1項1号により取締役会が必要になります。同条2項により監査役も必要です。取締役会を置かない運営は、上場準備のどこかで終わります。
切り替えのときに困るのは手続そのものより、意思決定の記録です。取締役の過半数で決めていた事項には議事録の作成義務がありません。取締役会を置くと、施行規則101条の記載事項をそろえた議事録が毎回必要になります。
上場を視野に入れているのであれば、取締役会を置く前から、決めたことを日付と参加者と決定内容の分かる形で残す習慣をつけておいてください。切り替えの前後で記録の質が変わらないことが、審査での説明を楽にします。
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❓ よくある質問
A. 成立します。会社法326条1項が求めているのは1人以上の取締役だけです。ただし327条1項により、公開会社などは取締役会を置かなければならず、取締役会を置けば同条2項により監査役も原則として必要になります。
A. 会社法348条2項により、取締役が2人以上なら取締役の過半数で決定します。会議体を開く必要はありません。ただし同条3項の5つの事項は各取締役に委任できません。
A. 会社法299条1項のかっこ書きにより、取締役会設置会社以外の株式会社であれば、定款で1週間を下回る期間を定めることができます。取締役会を置く会社にはこの余地がありません。
📄 まとめ
取締役会を置かない会社では、株主総会が会社に関する一切の事項を決議でき、招集通知に書いていない事項も決議できます。業務は取締役の過半数で決め、代表は各自代表が原則です。招集通知や備置きの期間も短くなります。
一方で、譲渡承認や利益相反取引の承認など、取締役会があれば取締役会で決められた事項が株主総会に上がります。株主が少ないうちは軽く、増えると重くなる仕組みです。上場を視野に入れるなら、取締役会を置く前から決定の記録を残す習慣をつけてください。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法326条1項・2項(取締役は1人以上)
- 会社法327条1項から3項(取締役会を置かなければならない会社と、監査役の設置義務の連鎖)
- 会社法295条1項・2項・3項(株主総会の権限の違い)、309条5項(目的以外の事項を決議できないこと)
- 会社法348条1項から4項(業務の執行と決定、各取締役に委任できない5つの事項)
- 会社法349条1項から5項(各自代表と、代表取締役を定める3つの方法)
- 会社法299条1項かっこ書き、437条、442条1項1号(招集通知と計算書類の扱い)
- 会社法139条1項、157条1項・2項、356条1項(株主総会に上がる事項)
- 会社法357条1項(株主への報告義務)、360条1項から3項(株主による差止請求)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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