LASSICのTOKYO PRO Market上場|3回のSOとクロス監査【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

2026年5月27日、鳥取市に本店を置くIT人材サービス会社の株式会社LASSIC(英文社名 LASSIC CO.,LTD.)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。リモートワークに特化したIT人材のマッチングサービス「Remogu(リモグ)」を主力とし、上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報(訂正発行者情報を含む)を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。

結論からいえば、LASSICのケースは「売上高約48億円・従業員179名のIT人材サービス会社が、直前1期の監査と担当J-Adviserの調査を経て、資金調達を伴わずにTPMへ上場した例」です。創業メンバーと代表者で9割近くを保有する株主構成、税制適格型と業績条件付き有償型を組み合わせた3回のストック・オプション(SO)、社外監査役3名の監査役会と2名のクロス監査による内部監査、準委任・人材紹介・請負が混在する収益認識、係争中の訴訟とサイバー攻撃に伴う引当金など、成長途上の会社がTPMを使うときの論点が数多く読み取れます。

LASSICはどんな会社で、いつTPMに上場したのか

LASSICは2006年12月、現取締役の西尾知宏氏らが、ニアショア開発のコンサルティングなどITサービスの提供を目的として鳥取県鳥取市に設立した会社です。2009年に現代表取締役社長の若山幸司氏を招き、2018年からリモートワークエンジニアのためのジョブエージェント「Remogu」を始めました。事業はIT人材ソリューション事業の単一セグメントで、決算期は4月です。上場時点の直前事業年度は第19期(2025年4月期)、直近の中間会計期間は第20期中間(2025年5月1日〜10月31日)です。

上場の手続面では、2025年11月1日に株式会社SBI証券と担当J-Adviser契約を締結し、2026年4月23日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、5月13日に上場承認、5月27日に上場しました。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場を承認」とされている流れどおりの日程です。上場の前日にあたる5月26日には、SOの注記にある第1回新株予約権の付与日を「2022年11月24日」から「2022年12月2日」に改める訂正発行者情報も公表されています。

LASSICの上場までの日程2025年11月1日J-Adviser契約締結2026年2月25日臨時株主総会(単元株採用等)2026年4月23日申請受付・発行者情報公表2026年5月13日上場承認2026年5月27日TPM上場申請受付から上場承認まで10営業日、上場承認から上場日まで14日(暦日、本記事の計算)特定投資家向け取得勧誘等(公募・売出しに当たる勧誘)は行わずに上場

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成

項目 内容
会社名 株式会社LASSIC(LASSIC CO.,LTD.)、証券コード574A
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年5月27日
上場承認日 2026年5月13日
申請受付日 2026年4月23日(発行者情報の公表日)
担当J-Adviser 株式会社SBI証券(J-Adviser契約締結日 2025年11月1日)
上場時の開示書類 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし)
本店 鳥取県鳥取市(ほかに東京本社:東京都港区)
設立 2006年12月
決算期 4月(第19期=2025年4月期)
事業 IT人材ソリューション事業(Remogu、リラシク、ITソリューション)
従業員 179名(臨時98名)、平均年齢34.8歳(2026年3月31日現在)
監査 あかり監査法人(第19期の財務諸表監査、第20期中間の期中レビュー)

従業員179名の内訳は、Remogu事業部63名、IT事業部77名、その他23名、管理部門の全社(共通)16名です。平均勤続年数は4.8年、平均年間給与は4,455千円と記載されています。拠点は鳥取本社(従業員82名)と東京本社(同96名)の2つで、子会社・関連会社はありません(2022年8月に100%子会社のイノセンス株式会社を吸収合併しています)。財務諸表は単体のみです。

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

LASSICの発行者情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を説明する記載はありません。また、将来の一般市場への市場変更や新規上場の予定についての記載もありません。本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測することは控え、TPMという市場の一般的な特徴を確認しておきます。

TPMには、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。LASSICも、上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行っておらず、上場時点の株主は8名(自己株式を含む)という構成のまま上場しています。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。東証が公表した2026年6月15日時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。

発行者情報の「対処すべき課題」には、事業基盤の充実化(Remoguの求人企業数・求人案件数の伸長)、優秀な人材の確保及び採用力の強化、情報管理体制の強化の3つが挙げられています。これからTPMを検討する会社は、こうした自社の課題と上場の目的をどう結びつけるのかを社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしておくことが求められる流れにあります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか

TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。LASSICの発行者情報の表紙裏にも「TOKYO PRO Marketは、特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は、高い投資リスクを含んでいる場合があります」との注意事項が記載されています。

上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「ガバナンス・内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係がないこと等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。LASSICの場合、J-Adviser契約の締結(2025年11月1日)から申請受付(2026年4月23日)まで、約6か月の期間がありました。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請発行者情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

LASSICの発行者情報には、上場適格性要件の「企業としての相応性」に対応する記載として、「上場予定日(2026年5月27日)から12ヶ月間の当社の運転資本は、自己資金及び金融機関からの借入による資金調達が可能であることから十分であると判断しております」という一文があります。同社は2025年10月末で現金及び預金1,148,152千円を持ち、取引銀行4行との当座貸越・貸出コミットメント(極度額280,000千円)も開示しています。上場時に資金調達をしない会社でも、上場後1年間の資金繰りに問題がないことを説明できるようにしておく必要があります。

開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を公表しますが、LASSICは勧誘を行わないため、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています。表紙の書類名が「発行者情報」になっているのはこのためです。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します(一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類です)。

上場時の開示書類はどう決まるか(LASSICのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)LASSIC:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は年次・中間の発行者情報を、各期末後3か月以内に公表(年2回)財務諸表には監査証明、中間は中間監査又は期中レビューの意見・結論が必要行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

監査についても一般市場と違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。LASSICは第19期(2025年4月期)の財務諸表についてあかり監査法人の監査を受け、主要な経営指標の注記で「第17期及び第18期の財務諸表については当該監査を受けておりません」と明記しています。監査報告書にも「その他の事項」として、前事業年度の財務諸表は監査されていない旨が記載されています。第20期の中間財務諸表は期中レビューを受けています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人との契約時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。

一般市場(グロース・スタンダード)との比較

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買付けができる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準 なし(数値基準がない) 株主数・流通株式等の形式基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 東証の上場審査
申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認 一般市場の審査日程による
新規上場時の監査期間 最近1年間 直前2期
開示書類 特定証券情報・発行者情報 有価証券届出書・有価証券報告書等
四半期開示 任意 四半期決算短信(取引所規則)
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS等 日本基準・米国基準・IFRS等
開示言語 日本語又は英語 日本語
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 J-Adviser制度なし

表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。一般市場の会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードや実質審査基準を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。

事業内容と収益モデル:リモートワーク特化のマッチング

LASSICは、「リモート社会をリードし、ボーダレスワークの実現によって社会に貢献する。」をビジョンに掲げ、「採用」「DX」分野でIT人材ソリューション事業を営んでいます。事業基盤は、リモートワークに特化した人材サービスのプラットフォームである「マッチングプラットフォーム(リモートワーク×IT領域)」で、その上に3つのサービスを提供しています。

1つ目のRemoguは、登録したIT・DX人材にリモートワークを前提とした業務委託案件を提案するサービスです。2つ目のリラシクは、正社員として働くことを希望するIT・DX人材にリモートワークを前提とした求人を紹介する転職エージェントです。3つ目のITソリューションは、法人顧客の要望に応じて社内外からIT人材を集め、自社のプロジェクトマネージャーを中心に、リモートワークを活用した地方分散型の開発体制・管理体制を構築するサービスです。

LASSICの事業モデル(IT人材ソリューション事業)マッチングプラットフォーム(リモートワーク×IT領域)リモートワークに特化した人材サービスの事業基盤Remogu業務委託案件の提案準委任契約・稼働時間に応じた報酬リラシク正社員求人の紹介成果報酬の人材紹介手数料ITソリューション開発・管理体制の構築請負・準委任・派遣3,448,794千円(72.0%)243,937千円(5.1%)1,096,150千円(22.9%)単一セグメント。売上高の10%以上を占める販売先はない

図4 発行者情報「事業の内容」「収益認識関係」より。構成比は2025年4月期の売上高4,788,882千円に対する割合(本記事の計算)

2025年4月期の売上高4,788,882千円のうち、Remoguが3,448,794千円(72.0%)、ITソリューションが1,096,150千円(22.9%)、リラシクが243,937千円(5.1%)です(構成比は本記事の計算)。第20期中間ではRemoguの比率が74.7%に上がっており、Remoguが会社の中心であることが分かります。売上高の10%以上を占める販売先はなく、売掛金の上位5社の合計も約95百万円(2025年4月末の売掛金493,930千円の2割弱)と、顧客は分散しています。

Remoguはどのような契約で稼いでいるのか

Remoguのマッチングが成立すると、LASSICはIT・DX人材と求人企業の双方と準委任契約を締結し、求人企業に対して技術支援等の役務を提供します。売上は、企業から受け取るIT人材の稼働時間に応じた報酬です。一方、人材への支払は売上原価の外注費となり、2025年4月期の外注費は2,793,022千円と売上原価3,387,022千円の大半を占めています。

Remoguの契約関係とお金の流れIT・DX人材(フリーランスエンジニア等)LASSIC求人企業(法人顧客)準委任契約役務の提供準委任契約報酬売上:企業から、IT人材の稼働時間に応じた報酬を受領(契約期間にわたり毎月認識)原価:人材への支払は外注費2025年4月期 外注費2,793,022千円(売上原価3,387,022千円)

図5 発行者情報「事業の内容」「売上原価明細書」より。外注費は2025年4月期の金額

人材サービスである以上、許認可の管理も欠かせません。事業等のリスクには、有料職業紹介事業の許可(2009年1月1日許可、有効期限2026年12月31日)と労働者派遣事業の許可(2017年8月1日許可、有効期限2030年7月31日)が表で示され、職業安定法・労働者派遣法に加え、取適法(中小受託取引適正化法)やフリーランス保護法の規制を受けることが記載されています。フリーランス人材を多く扱うビジネスでは、こうした法令改正への対応状況を説明できることが重要です(IPOで許認可はどこまで見られるか)。

沿革と上場までの道のり

沿革を見ると、2006年の設立後、2008年に東京営業所の開設とプライバシーマークの取得、2009年に若山氏の社長就任と続き、2017年には旧鳥取高等農業学校のリノベーションと新社屋の建設を終えて本社を移転しています。2018年11月のRemogu開始が現在の主力事業の起点で、2021年にはテレワーク・リモートワーク総合研究所(テレリモ総研)のWebメディア、2022年9月にはリラシク(旧サービス名称:Remoguキャリア)を始めました。2023年2月からは鳥取県南部町とITエンジニアを対象とする関係人口創出プロジェクトにも取り組んでいます。

資本政策と体制面では、2022年11月に第1回SOの決議と社外取締役の就任、同年12月に1株を1,000株とする株式分割、2024年1月に弁護士の社外監査役の就任、2024年3月に第2回・第3回SOの決議、2026年2月の臨時株主総会で単元株制度(1単元100株)の採用と監査役の報酬限度額の決議を行っています。上場の数年前から段階的に準備を進めてきたことがうかがえます。

LASSICの沿革(主な出来事)2006年12月鳥取市で設立2008年8月プライバシーマーク取得2009年7月若山幸司氏が社長に就任2017年2月旧鳥取高等農業学校を改修し本社移転2018年11月Remogu開始2021年1月テレリモ総研開始2022年8月子会社イノセンスを吸収合併2022年9月リラシク開始2022年12月株式分割1:1,0002024年3月第2回・第3回SO決議2022年11月に第1回SO決議、同月に社外取締役が就任(役員の状況より)

図6 発行者情報「沿革」「役員の状況」「株式等の状況」から主な項目を抜粋

業績はどう推移しているか

項目(千円) 第17期 2023年4月期 第18期 2024年4月期 第19期 2025年4月期 第20期中間 2025年10月
売上高 3,493,681 4,432,661 4,788,882 2,537,737
経常利益 239,299 239,646 207,701 158,046
当期(中間)純利益 178,840 173,384 146,924 96,310
純資産額 623,026 799,391 946,526 1,042,855
総資産額 1,506,496 1,650,893 1,767,030 1,868,742
自己資本比率 41.4% 48.4% 53.6% 55.8%
営業活動によるCF 149,963 146,887 146,352 114,311
従業員数(臨時) 154(65) 187(102) 183(107) 178(101)

売上高は3期で3,493,681千円から4,788,882千円へ増加し、第19期は前期比8.0%の増収でした。一方、営業利益は230,212千円から202,798千円(11.9%減)、経常利益は13.3%減、当期純利益は15.3%減と、第19期は増収減益です。損益計算書を見ると、売上総利益は122,345千円増えたものの、販売費及び一般管理費が149,758千円増えており、給料手当(439,284千円→540,375千円)やシステム利用料(91,887千円→121,457千円)の増加が目立ちます(増減額は本記事の計算)。

第17期・第18期の数値は監査を受けていない点にも留意が必要です。TPMでは直前1期の監査で上場できますが、過去の数値の位置づけを開示上明確にしておくことは、一般市場と同様に大切です。

売上高の推移(百万円、単体)01,5003,0004,5006,0002023年4月期2024年4月期2025年4月期2025年10月中間3,4944,4334,7892,538

図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より。百万円未満四捨五入。第17期・第18期は監査を受けていない数値、第20期中間は期中レビュー済みの6か月分

第20期中間(6か月)は、売上高2,537,737千円、営業利益157,444千円、経常利益158,046千円、中間純利益96,310千円でした。同社は当中間会計期間から中間財務諸表を作成したため前年同期との比較はしていませんが、営業利益率は6.2%と、第19期通期の4.2%を上回っています(本記事の計算)。会社は、フリーランス人材を活かした営業活動に加え、社内体制の見直しやシステム強化に努めたと説明しています。

経常利益・当期純利益の推移(百万円、単体)0751502253002023年4月期2024年4月期2025年4月期2025年10月中間経常利益当期(中間)純利益

図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より。百万円未満四捨五入。第20期は中間(6か月)の数値

第19期の損益の流れを見ると、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益は1,401,860千円(売上総利益率29.3%)、販管費を差し引いた営業利益は202,798千円です。営業外では補助金収入2,177千円や有価証券利息1,150千円などがあり、経常利益は207,701千円となりました。法人税等の負担率は29.1%で、法人税額の特別控除(△5.2%)が法定実効税率34.3%との差の主な要因です。

2025年4月期の損益の流れ(百万円)売上高4,789売上原価-3,387売上総利益1,402販管費-1,199営業利益203売上総利益率29.3%、営業利益率4.2%(本記事の計算)。経常利益は207,701千円

図9 損益計算書より。百万円未満四捨五入。売上原価の大半は外注費(2,793百万円)

サービス別に見ると、Remoguは3,072,904千円から3,448,794千円へ12.2%増え、リラシクも101,011千円から243,937千円へ2倍以上に伸びました。一方、ITソリューションは1,258,746千円から1,096,150千円へ12.9%減少しています(増減率は本記事の計算)。収益の柱が、自社で開発体制を組むITソリューションから、プラットフォーム型のRemoguへ一段と移っていることが読み取れます。

サービス別売上高の変化(百万円)Remogu3,073(2024年4月期)3,449(2025年4月期、+12.2%)リラシク101(2024年4月期)244(2025年4月期、+141.5%)ITソリューション1,259(2024年4月期)1,096(2025年4月期、-12.9%)Remoguが増収をけん引し、ITソリューションは減少

図10 財務諸表注記「収益認識関係」「関連情報」より。百万円未満四捨五入、増減率は千円単位の数値から本記事で計算

資本政策と株主構成:創業メンバー中心のままSOで従業員に広げる

発行済株式総数は3,240,000株で、資本金は99,680千円です。2022年12月1日に1株を1,000株とする株式分割を行っており(3,240株→3,240,000株)、それ以降、発行済株式総数と資本金に変動はありません。自己株式を60,000株(発行済株式総数の1.9%)保有していますが、取得の経緯は記載されていません。種類株式の発行はなく、ベンチャーキャピタルや親会社もありません。

第四部「株式公開情報」の株主の状況によれば、代表取締役社長の若山幸司氏が2,070,000株(資産管理会社である株式会社レジョイスの1,000,000株を含む)、創業者の取締役西尾知宏氏が790,000株、鎌田和彦氏が270,000株を保有しています。自己株式を除く発行済株式3,180,000株に対する比率は、若山氏65.09%、西尾氏24.84%で、両氏で約9割になります(本記事の計算)。事業等のリスクでも「大株主について」として、若山氏の所有株式数が発行済株式総数の63.9%であり、上場後も大株主となる予定であることが記載されています。

株主構成(自己株式を除く発行済株式3,180,000株)若山 幸司(資産管理会社を含む)65.09%西尾 知宏(取締役)24.84%鎌田 和彦8.49%その他3名(法人1・執行役員2)1.57%このほか自己株式60,000株(1.9%)と、新株予約権の潜在株式132,700株(従業員等)株主数は8名(所有者別状況、自己株式を含む)。VC・親会社はない

図11 発行者情報 第四部「株主の状況」より本記事で計算。上場申請時点の数値。若山氏は資産管理会社株式会社レジョイスの1,000,000株を含む

所有者別状況の株主数は8名(自己株式を含む)です。TPMには株主数や流通株式比率の形式基準がないため、このような少人数の株主構成のままでも上場できます。ただし、将来一般市場を目指す場合には、株主数・流通株式などの形式基準を満たす資本政策が別途必要になります(創業者の持株比率はどこまで下げてよいか)。

3回のSOはどう設計されているか

LASSICは、会社法に基づく新株予約権によるSOを3回発行しています。第1回(2022年11月24日臨時株主総会決議)は当初、執行役員(委任契約型)と従業員の6名に106,000株分を付与しましたが、うち1名に割り当てた20,000個を2024年3月14日の取締役会で無償取得して消却し、現在は従業員5名・86,000株です。第2回(2024年3月14日決議)は従業員40名に30,700株分を付与し、退職による失効を経て2026年3月末で34名・26,700株となっています。

第1回と第2回の行使条件には、年間の権利行使価額の合計が1,200万円を超えないこと、租税特別措置法29条の2の規定に従って取得株式を証券会社等に保管委託することなど、いわゆる税制適格SOの要件に対応する条件が定められています(税制適格ストックオプション)。いずれも、日本国内の金融商品取引所への上場が行使の条件です。

項目 第1回 第2回 第3回
決議日 2022年11月24日 2024年3月14日 2024年3月14日
付与対象者(2026年3月末) 従業員5名 従業員34名 従業員1名(執行役員)
目的となる株式数 86,000株 26,700株 20,000株
行使価額 840円 850円 850円
行使期間 2024年11月25日〜2032年11月24日 2026年3月15日〜2034年3月14日 2027年8月1日〜2030年7月31日
発行の形態 無償 無償 有償(1個13.24円)
主な行使条件 上場、在籍、税制適格の要件 上場、在籍、税制適格の要件 上場、在籍、2027年4月期のRemogu事業粗利額1,700百万円
3回のストック・オプション(新株予約権)第1回第2回第3回決議日2022年11月24日2024年3月14日2024年3月14日対象者従業員5名従業員34名従業員1名(執行役員)株数86,000株26,700株20,000株行使価額840円850円850円(有償13.24円/個)行使期間2024/11/25〜2032/11/242026/3/15〜2034/3/142027/8/1〜2030/7/31特徴税制適格の要件を規定税制適格の要件を規定業績条件付き有償SO潜在株式の合計132,700株は自己株式を除く発行済株式の約4.2%(本記事の計算)

図12 発行者情報「新株予約権等の状況」「ストックオプション制度の内容」より。株数・対象者は2026年3月31日現在。第1回の付与日は訂正発行者情報で2022年12月2日に訂正

第3回は、Remogu事業担当の執行役員である関根隆行氏1名に20,000個を割り当てた有償のSOです。新株予約権1個につき13.24円を払い込み、2027年4月期の損益計算書におけるRemogu事業粗利額が1,700百万円に達しなかったときは行使できない、という業績条件が付いています。貸借対照表の純資産に計上されている新株予約権264千円は、この払込金額(20,000個×13.24円)に対応します。

SOの注記では、費用計上額は「該当事項はありません」とされ、公正な評価単価は、未公開株式であることから単位当たりの本源的価値(株式の評価額から行使価格を控除する方法)で見積り、株式の評価は類似会社比較法とDCF法の折衷法によると記載されています。なお、有償SOであっても、権利確定条件付き有償新株予約権は実務対応報告第36号によりSOに準じて会計処理するのが原則です。上場準備では、「有償だから費用が出ない」のではなく、評価方法と算定結果に基づいて会計処理を説明できるようにしておく必要があります。

第3回新株予約権(有償SO)の業績条件2024年3月14日有償発行(1個13.24円)2027年4月期決算の確定Remogu事業粗利額が1,700百万円以上か行使可能2027年8月1日〜2030年7月31日行使できない達した未達発行価格863.24円=行使価額850円+新株予約権の払込金額13.24円IFRS適用等で指標の概念が変わった場合は、取締役会で参照指標を決定

図13 発行者情報「新株予約権等の状況」(注)4より。このほか上場、在籍等の共通の行使条件がある

潜在株式は、第1回86,000株・第2回26,700株・第3回20,000株の合計132,700株で、株主の状況では潜在株式を含む総数に対して4.01%と示されています。役員・従業員へのインセンティブとして、上場前にSOを幅広く配っておく資本政策は、TPMでも一般市場でも共通の論点です。

第三者割当等の概況には、第2回・第3回のSOについて、発行価格・行使価額を類似会社比較法とDCF法の折衷法で決定したことが記載されています。また、特例115条・同施行規則107条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までに第三者割当で新株予約権を割り当てた場合は、割当先に担当J-Adviserへの継続所有等の確約をさせる仕組みが説明されています。LASSICの直前事業年度の末日は2025年4月30日で、SOの割当日(2024年3月14日)はこの期間より前にあたり、「保有期間等に関する確約」の欄は「―」となっています。特別利害関係者等の株式等の移動状況は「該当事項はありません」です(上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約))。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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コーポレート・ガバナンス:社外監査役3名の監査役会

LASSICは監査役会設置会社です。取締役会は、議長の代表取締役社長若山幸司氏、取締役西尾知宏氏、社外取締役武林聡氏の3名で構成され、毎月1回の定時取締役会に加え必要に応じて臨時取締役会を開いています。第19期の取締役会は13回で、取締役3名・監査役3名の全員が13回すべてに出席しました。監査役会は、常勤の浦川絵里子氏が議長を務め、非常勤の池原浩一氏、加藤淳也氏の3名全員が社外監査役です。

社外役員の顔ぶれを見ると、武林氏は人材・IT企業の取締役を幅広く歴任した経営者、浦川氏と池原氏は公認会計士、加藤氏は弁護士です。常勤監査役を公認会計士の社外監査役が務め、取締役会その他の重要な会議への出席、稟議書の閲覧、各部門への往査・ヒアリングを行うと記載されています(常勤監査役は必要か)。

役職 氏名 主な経歴・属性 所有株式数
代表取締役社長 若山 幸司 人材サービス会社の執行役員を経て2009年7月就任 2,070,000株(資産管理会社分を含む)
取締役 西尾 知宏 創業者。2007年5月代表取締役社長、2022年6月取締役 790,000株
取締役(社外) 武林 聡 人材・IT企業の取締役等を歴任。2022年11月就任 30,000株(資産管理会社分を含む)
常勤監査役(社外) 浦川 絵里子 公認会計士。2023年7月就任 ―
監査役(社外) 池原 浩一 公認会計士。2022年11月就任 ―
監査役(社外) 加藤 淳也 弁護士。2024年1月就任 ―

このほか、業務執行の迅速化のために執行役員制度を導入しており、事業推進担当の牛尾昭昌氏、Remogu事業担当の関根隆行氏、コーポレート担当の白石孝太郎氏の3名が執行役員です。役員6名のうち女性は1名(16.7%)と記載されています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく「柔軟なガバナンス設計」が可能とされていますが、LASSICは取締役会と社外監査役のみで構成する監査役会を置く、一般市場の上場会社でよく見られる形を採っています。

LASSICの機関設計株主総会取締役会(3名)うち社外取締役1名毎月1回・当期13回監査役会(3名)全員が社外監査役(常勤1名)毎月1回代表取締役社長執行役員3名会計監査あかり監査法人内部監査担当者2名代表取締役が指名経営会議(週2回)リスクマネジメント・コンプライアンス委員会選任選任選定・監督監査連携指名・報告

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成

会議体としては、取締役会のほかに、社長が議長を務め、取締役西尾氏、常勤監査役浦川氏、執行責任者4名の計7名で構成する経営会議を毎週2回開き、職務権限上の決裁や業績報告を行っています。リスクマネジメント・コンプライアンス委員会は社長が委員長を務め、四半期に1回以上開催してリスク管理体制の維持とコンプライアンス活動の一元管理を担います。訴訟に発展する可能性があるトラブル・クレームは、この委員会に上申したうえで顧問弁護士等と協議すると記載されています。

役員報酬はどう決めているか

取締役の報酬限度額は年額100,000千円以内(2023年7月27日の定時株主総会)、監査役の報酬限度額は年額30,000千円以内(2026年2月25日の臨時株主総会)です。取締役の報酬は、取締役会から委任を受けた代表取締役が、担当職務の貢献度と業績を総合的に勘案した報酬案を取締役会へ上程し、合議のうえで決定するとされています。報酬は固定基本報酬と業績連動報酬で構成され、業務執行取締役の業績連動報酬は取締役報酬制度に定めた報酬マトリクスに従って算出し、いずれも年額の12分の1を毎月支給します。

2025年4月期の実績は、取締役(社外取締役を除く)2名に38,620千円、社外役員4名に16,400千円で、いずれも固定報酬のみ、総額55,020千円でした。報酬の決定プロセスを、誰が案を作り、どの機関が決めるのかまで書いておくことは、TPMでも上場会社としての説明責任の基本になります。

取締役報酬の決め方株主総会報酬限度額を決議取締役 年1億円以内代表取締役取締役会の委任を受けて報酬案を作成取締役会上程された案を合議のうえ決定毎月支給固定基本報酬+業績連動年額の12分の1ずつ取締役(社外を除く)2名 38,620千円社外役員4名 16,400千円いずれも固定報酬のみ、非金銭報酬なし監査役:年額30,000千円以内(2026年2月25日臨時株主総会)監査役会での協議に基づき決定業績連動報酬は業務執行取締役が対象。取締役報酬制度の報酬マトリクスで算出

図15 発行者情報「役員の報酬等」より。金額は2025年4月期

関連当事者との取引は、2024年4月期は「重要性のある関連当事者情報はありません」、2025年4月期は「該当事項はありません」とされています。代表者や大株主との取引を上場前に整理しておくことは、上場適格性要件の「事業を公正かつ忠実に遂行していること」とも関係する論点です(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。

内部監査・内部統制:2名のクロス監査

LASSICは独立した内部監査室を設けておらず、代表取締役社長が任命した内部監査担当者2名が内部監査を行っています。担当者は、全社の予算・実績の管理を行うコーポレート本部から1名、IT事業部から1名で、「自己監査を避けるためクロス監査」を行うと明記されています。監査結果は代表取締役と取締役会に報告され、業務の改善を促す仕組みです。

専任の内部監査部門を置かない会社で問題になりやすいのが、担当者が自分の所属部門を監査してしまう自己監査です。2名を別々の部門から選び、互いの部門を担当し合うクロス監査は、少人数でも独立性を確保するための一般的な方法です(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。

内部監査のクロス監査と三様監査内部監査担当者コーポレート本部から1名内部監査担当者IT事業部から1名協働して内部監査自己監査を避けるクロス監査代表取締役・取締役会(監査結果の報告先)監査役会社外監査役3名あかり監査法人業務執行社員2名・補助者7名三様監査連絡会を実施し、内部監査担当者・監査役・監査法人が適宜情報交換報告情報・意見交換

図16 発行者情報「内部監査の状況」「監査役監査の状況」をもとに作成。クロス監査は自己監査を避ける一般的な方法を図示したもの

三様監査については、内部監査担当者が監査役会・監査法人と情報・意見交換を行い、三様監査連絡会を実施していると記載されています。監査役と監査法人は定期的に会合を持ち、会計監査と業務監査の結果を共有しています(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

内部統制システム構築の基本方針では、7つのリスクカテゴリー、全部署へのコンプライアンスオフィサーの配置、内部通報制度、反社会的勢力への対応部署(コーポレート本部)などを定めています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、財務報告の信頼性を確保するための体制を基本方針に含めている点は、将来の選択肢を考えるうえでも意味があります(内部統制の3点セット)。

会計・開示の論点

収益認識の会計方針は、契約形態ごとに整理されています。売上の大半を占める準委任契約・派遣契約は、システムエンジニア等の専門要員が役務を提供するもので、労働時間の経過につれて履行義務が充足されることから、契約に定められた金額を毎月収益として認識します。人材紹介は、候補者の入社を成立させる成果報酬型のサービスであるため、転職希望者が顧客企業に入社した時点で収益を認識し、早期退職等で返金義務があるものは、過去の返金実績から返金額を見積って返金負債(2025年4月末2,383千円)として売上高から控除しています。

請負契約は、作業の進捗に応じて一定の期間にわたり収益を認識し、進捗度は見積原価総額に対する実際発生原価の割合(インプット法)で測定します。期間がごく短く金額的重要性が乏しい契約は、代替的な取扱いにより完了時に認識しています。2025年4月期の収益の分解情報では、準委任契約及び派遣契約が4,437,997千円、人材紹介が243,937千円、請負契約が一定の期間にわたるもの84,326千円・一時点のもの22,621千円です(上場審査で問われる収益認識)。

契約形態ごとの収益認識の時点準委任契約・派遣契約人材紹介請負契約一定の期間にわたり労働時間の経過につれ充足契約金額を毎月認識一時点(入社時点)早期退職等の返金見込額は返金負債として売上から控除一定の期間(進捗度)見積原価総額に対する実際発生原価(インプット法)4,437,997243,937(返金負債2,383)84,326+一時点22,621ごく短期の請負は代替的な取扱いにより完全に履行義務を充足した時点で認識契約資産7,162千円・契約負債658千円(2025年4月末)

図17 財務諸表注記「重要な会計方針」「収益認識関係」より。金額は2025年4月期(千円)

重要な会計上の見積りとしては、繰延税金資産の回収可能性(2025年4月末38,997千円)が挙げられています。そのほか、国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳(2025年4月末の合計246,473千円)などが注記されています。新リース会計基準は2028年4月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。

監査は、あかり監査法人の業務執行社員2名(継続監査年数7年以内)と補助者(公認会計士6名、その他1名)が担当し、第19期の監査証明業務に基づく報酬は11,050千円(非監査業務なし)です。監査報酬は監査役会の同意を得て決定しています。

係争中の訴訟とサイバー攻撃はどう開示されているか

LASSICは2025年7月2日、東京地方裁判所で損害賠償請求訴訟を提起されました。原告から受託した業務に関して、同社の委託先による原告の情報の取扱いで生じた問題(2024年4月発生)に起因するもので、原告は債務不履行責任と使用者責任を理由に、対応人件費相当額や逸失利益等として106,952千円及び遅延損害金を請求しています。同社は原告の請求は根拠のないものと考えて適切に対応しているとしたうえで、影響額を合理的に見積ることができないため引当金は計上せず、第19期の財務諸表では重要な後発事象及び偶発債務として、中間財務諸表では偶発債務として注記しています。

また、2025年10月には同社へのサイバー攻撃によるシステム障害が発生し、外部専門家への調査費用の見積額11,200千円をシステム障害対応費用引当金として計上し、中間損益計算書の特別損失に計上しています。訴訟・システム障害のように結果がまだ確定していない事象は、引当金を計上するのか、注記で開示するのかを、見積りの可否に応じて判断し、その根拠を監査法人と共有しておくことが大切です。

事業等のリスクとJ-Adviser契約

事業等のリスクは、事業内容に関するリスク5項目、事業体制に関するリスク6項目、その他6項目の計17項目に整理され、それぞれに発生可能性・発生可能性のある時期・影響度が付されています。影響度「大」で発生可能性「中」とされたのは、競合他社の動向、法的規制、事業環境の変化(リモートワーク需要の縮小)、エンジニアの確保及び特定の集客方法(SNS広告)への依存、人材の確保と育成の5項目です。新株予約権の行使による希薄化は、発生可能性「高」・時期「短期」・影響度「小」とされています。

事業等のリスクの位置づけ(会社の評価)影響度:小影響度:中影響度:大発生可能性高新株予約権の行使による希薄化発生可能性中品質訴訟等競合他社の動向法的規制事業環境の変化エンジニア確保・集客人材の確保と育成発生可能性低配当政策大株主機密情報の管理コンプライアンスシステム障害自然災害・事故風評や評判個人情報の保護J-Adviser契約の解除

図18 発行者情報「事業等のリスク」に記載された発生可能性・影響度を本記事で配置。発生可能性のある時期は希薄化のみ「短期」、他は「特定時期なし」

TPM特有の項目が「J-Adviserとの契約の解除に関するリスク」です。J-Adviser契約は新規上場と上場維持の前提であり、契約が解除され、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止になります。LASSICの発行者情報には、SBI証券が即日無催告で契約を解除できる事由として、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与など19項目が列挙されています(このほか、破産手続等に該当しても再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨の定めもあります)。公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないと記載されています。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

LASSICの発行者情報には、一般市場への市場変更や新規上場の予定についての記載はありません。そのため、ここでは同社の将来について推測せず、TPMから一般市場を目指す場合の一般的な留意点を整理します。

まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する手続として扱われています(AlbaLinkの事例)。東証は、TPMの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を「2026年秋めど」に予定していると公表していますが、本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません。現状では、一般市場の新規上場に必要な直前2期の監査、内部統制報告書(J-SOX)への対応、株主数・流通株式などの形式基準を、別途満たす準備が必要になります(J-SOXの進め方)。TPM上場中に年次・中間の発行者情報と適時開示を継続することは、開示体制の運用実績を積むという点で、どちらの道を選ぶ場合にも土台になります。

上場準備会社がLASSICの事例から学べること

1. 公募なしでも上場の時期を決められる。LASSICは特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報の公表で上場しました。資金調達ではなく、体制づくりや信用力を目的とした上場の設計が可能です。

2. 監査は直前1期、未監査期は明記。第19期のみ監査を受け、第17期・第18期が未監査であることを経営指標の注記と監査報告書の両方で示しています。中間財務諸表は期中レビューです。

3. SOは目的に応じて型を分ける。従業員向けの税制適格型(第1回・第2回)と、事業責任者向けの業績条件付き有償型(第3回)を使い分け、評価方法も開示しています。

4. 少人数でも監査の独立性を確保する。内部監査室を置かず2名のクロス監査とし、公認会計士・弁護士の社外監査役3名による監査役会と三様監査連絡会で補っています。

5. 契約形態ごとに収益認識を書き分ける。準委任・派遣、人材紹介(返金負債)、請負(インプット法)と、事業説明と会計方針がそろっています。

6. 未確定の事象は見積りの可否で開示を判断する。訴訟は合理的に見積れないため注記、サイバー攻撃の調査費用は見積額を引当金計上と、扱いを分けています。

7. J-Adviser契約の解除事由を把握しておく。上場維持の前提となる契約の解除事由19項目を、事業等のリスクで具体的に開示しています。

上場準備のチェックリスト

  • TPMに上場する目的(採用、信用力、ガバナンス、資金調達など)を社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしたか
  • 担当J-Adviserの調査(上場適格性の5要件)に向けて、上場後12か月の運転資本の見通しを説明できるか
  • 監査を受ける期(最近1年間)と、未監査の期の数値の扱いを監査法人と確認したか
  • SOの型(税制適格・有償・業績条件)と評価方法、会計処理の根拠を整理したか
  • 内部監査の担当者の兼務と自己監査の回避策(クロス監査等)を決めたか
  • 係争中の訴訟やシステム障害など未確定の事象について、引当金か注記かの判断根拠を整理したか

よくある質問

Q1. TPMでは公募をしないで上場できるのですか?

できます。LASSICは上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行わず、特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。この場合、表紙の書類名は「特定証券情報」ではなく「発行者情報」になります。

Q2. TPMの上場に必要な監査は何期分ですか?

新規上場時に求められる監査期間は最近1年間です。LASSICは第19期(2025年4月期)のみあかり監査法人の監査を受け、第17期・第18期は監査を受けていないことを明記しています。第20期の中間財務諸表は期中レビューを受けています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められます。

Q3. 内部監査室がなくても上場できますか?

LASSICは独立した内部監査室を設けず、代表取締役が指名した別部門の担当者2名がクロス監査を行う体制で上場しています。TPMの上場適格性要件は、企業の規模や成熟度等に応じたガバナンス・内部管理体制の整備・運用を求めるもので、体制の形よりも、独立性と実効性をどう確保しているかを説明できることが大切です。

Q4. 担当J-Adviserとの契約が解除されるとどうなりますか?

J-Adviser契約は上場維持の前提です。契約が解除され、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止になります。LASSICの発行者情報には、債務超過や発行者情報等の提出遅延など、即日無催告で解除できる事由が19項目列挙されています。

最初の一歩は「上場目的」と「直前1期」の逆算から

TPMを検討する会社が最初に取り組みたいのは、上場目的を言語化したうえで、監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの調査期間から上場時期を逆算することです。LASSICの場合、監査対象の第19期(2025年4月期)の後に第20期中間の期中レビューを受け、J-Adviser契約から約6か月で申請に至っています。SOの設計や社外役員の招へいは上場の数年前から進めておく必要があるため、自社の現状を把握するには、まずショートレビューで課題を洗い出すのが近道です。

まとめ

LASSICは、鳥取市と東京の2本社体制で、リモートワークに特化したIT人材のマッチングサービスRemoguを中心に事業を展開する会社で、2026年5月27日にTOKYO PRO Marketへ上場しました。特定投資家向け取得勧誘等を行わず、直前1期の監査を受けた発行者情報で上場しており、申請受付から上場承認までは10営業日でした。担当J-AdviserはSBI証券です。

発行者情報からは、売上高約48億円・増収減益の業績、創業メンバーと代表者で約9割を保有する株主構成、税制適格型と業績条件付き有償型を組み合わせた3回のSO、社外監査役3名の監査役会と2名のクロス監査、契約形態ごとの収益認識、係争中の訴訟とサイバー攻撃の開示など、上場準備で整えるべき論点を具体的に読み取ることができます。TPMを検討する会社にとっては、形式基準がないからこそ「何を、どの水準で説明できるか」を自社で整えておくことが大切だといえます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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