※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
株式会社北王GROUP(証券コード555A)は、2026年4月3日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年4月22日にTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。東京都北区王子に本店を置き、首都圏の食品物流に特化して、共同配送(トランスポート)、都心の小型配送拠点(都心デポ)、食品物流センターの運営(ウェアハウス)の3つのサービスを提供するグループの持株会社です。申請受付日は2026年3月19日、担当J-Adviserは名南M&A株式会社です。本記事では、同社が上場申請にあわせて公表した書類(全76ページ)を読み、TPMへの上場を検討している経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできる点を整理します。
結論からいえば、北王GROUPは「歴史のある事業会社グループが、株式移転で持株会社を作ってから約2年半でTPMに上場した事例」です。持株会社の設立は2023年11月で、連結財務諸表は第1期・第2期の2期分しかなく、監査を受けたのは直近の第2期だけです。株主は9名で、創業家の古瀬家4名が92.4%を保有し、上場に際して公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)は行っていません。その一方で、取締役会・監査役・内部監査人・監査法人の体制、主要顧客への依存度、役員による連帯保証、担当J-Adviser契約の解除条項などを具体的に開示しており、TPM上場の準備で何を整え、何を書くことになるのかがよく分かる書類です。
この記事の見出し
- 北王GROUPはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか
- 北王GROUPは何で稼ぐのか:事業内容と収益モデル
- 沿革と上場までの道のり
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを北王GROUPの書類で確かめる
- 一般市場(グロース・スタンダード)とは何が違うのか
- 業績の推移と読み方
- 財務体質:自己資本比率5.5%と借入金・リース・資産除去債務
- 資本政策と株主構成:創業家4名で92.4%、株主9名で上場
- コーポレート・ガバナンス:取締役5名・監査役2名、社外取締役は置かず
- 内部監査・内部統制とリスク管理の体制
- 会計・開示の論点:収益認識から新リース会計基準まで
- 事業等のリスクの読み方
- 上場準備会社が北王GROUPの事例から学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
北王GROUPはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか
北王GROUPの事業の起源は、1980年に東京都北区で冷凍・冷蔵食品の配送サービスを始めた古瀬商店にさかのぼります。1990年10月に北王流通株式会社を設立して運輸事業を引き継ぎ、その後、食品の低温保管・流通加工、人材派遣、都心エリアの配送へと事業を広げてきました。上場した株式会社北王GROUPは、2023年11月1日に北王流通株式会社・北王デリバリー株式会社・株式会社北王フードベースの3社が共同株式移転を行って設立した持株会社で、3社はいずれも議決権100%の連結子会社です。
代表取締役社長は黒田英則氏、代表取締役会長は古瀬一英氏です。決算期は10月で、上場時に公表された書類の最近連結会計年度は第2期(2024年11月〜2025年10月)です。持株会社の設立が2023年11月のため、書類に載っている連結の数値は第1期と第2期の2期分だけです。従業員は2026年2月28日現在、連結で335名(ほかに臨時従業員126名)、持株会社単体で12名(臨時8名、平均年齢52.3歳、平均勤続年数18.9年、平均年間給与5,701千円)と記載されています。単体の平均勤続年数は、グループ会社からの転籍・出向者について転籍前の勤続年数を含めて計算されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社北王GROUP、証券コード555A |
| 市場 | TOKYO PRO Market(東京証券取引所) |
| 申請受付日 | 2026年3月19日(書類の公表日も同日) |
| 上場承認日 | 2026年4月3日 |
| 上場日 | 2026年4月22日 |
| 担当J-Adviser | 名南M&A株式会社 |
| 本店 | 東京都北区王子2丁目30番2号 |
| 設立 | 2023年11月1日(3社の共同株式移転による持株会社) |
| 決算期 | 10月(最近連結会計年度:第2期 2025年10月期) |
| 事業 | 食品ロジスティクス事業(単一セグメント) |
| 従業員 | 連結335名(臨時126名)、2026年2月28日現在 |
| 監査法人 | 監査法人Innovation |
| 上場時の資金調達 | なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない) |
上場までの日程を整理すると次のとおりです。TPMでは、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認し、上場申請の30営業日程度前までに意向表明を行ったうえで上場申請(対外公表)に進みます。東京証券取引所は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとされており、北王GROUPの申請受付日(3月19日)から上場承認日(4月3日)までも、土日と3月20日の祝日を除いて数えると10営業日にあたります。上場承認から上場日までは19日でした。
図1 発行者情報の公表日・監査報告書の日付と、JPXの新規上場会社情報による
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北王GROUPは何で稼ぐのか:事業内容と収益モデル
北王GROUPは、首都圏の食品物流に特化した「食品ロジスティクス事業」の単一セグメントです。サービスは3つに分かれ、トランスポート(共同配送)を北王流通、都心デポ(小型配送ステーション)を北王デリバリー、ウェアハウス(物流センターの運営)を北王フードベースが担っています。
トランスポートでは、大手外食チェーンや大手食品商社(食品卸)などを顧客とし、関東圏の7つの食品物流センター・食品倉庫を起点とする共同配送網で、1日あたり約3,000店舗に食材を届けていると記載されています。常温・冷蔵・冷凍の3温度帯に対応した車両を保有し、駅ビルや百貨店、高層ビルの地下駐車場など搬入条件が厳しい施設への配送、深夜・早朝の配送、鍵を預かって店内まで納品する「無人店舗搬入」にも対応しています。対象地域は関東全域に山梨県・静岡県・長野県を加えた1都9県です。
図2 発行者情報「事業の内容」をもとに作成
同社が「最大の強み」と説明しているのが、郊外の大規模センターと都心デポの組み合わせです。東京湾沿岸、厚木、埼玉南部に合計10,000坪を超える食品物流センターを置いて保管機能を持たせ、新宿・渋谷・上野などの都心部には小型の配送拠点「都心デポ」を設けています。郊外のセンターから都心デポへ食材をまとめて横持ち輸送し、そこから各店舗へ小口配送することで、郊外から店舗へ直接配送する場合に比べて1配送あたりの往復走行距離が短くなり、ドライバーの負担軽減や車両の回転率向上、燃料費・高速代の節約につながるとしています。
ウェアハウスでは、常温・冷蔵・冷凍・超低温の4温度帯に対応した物流センターで、WMS(倉庫物流管理システム)による日付単位の在庫管理を行い、受発注管理、入庫検品、ピッキング、仕分け・値札貼りなどの流通加工から店舗配送までを一括で受託する3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業者として事業を行っています。
図3 発行者情報「沿革」「関係会社の状況」をもとに作成。子会社の売上高は連結会社相互間の内部売上高を含む各社の数値
主要な販売先も確認しておきます。第2期の連結売上高6,559,405千円のうち、三井物産流通グループ株式会社向けが2,312,349千円(35.3%)、株式会社久世向けが794,304千円(12.1%)でした。第1期は三井物産流通グループ向けが2,226,660千円(40.5%)、久世向けが517,466千円(9.4%)で、最大顧客の比率は下がっています。金融商品関係の注記では、連結決算日現在の営業債権のうち25.0%が特定の大口顧客に対するものと記載されています。なお、三井物産流通グループは同社の株式2,000株(1.0%)を保有する株主でもあります。
第2期のサービス別の販売実績は、トランスポート3,163,790千円(前期比5.70%増)、都心デポ764,827千円(同96.63%増)、ウェアハウス2,630,786千円(同24.00%増)で、都心デポの伸びが目立ちます。受注実績は第2期から集計しており、受注高はトランスポート3,071,750千円、都心デポ807,597千円、ウェアハウス2,611,000千円の合計6,490,347千円です。
沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、北王GROUPは配送から始まり、保管・流通加工、3PL、都心デポへと機能を積み上げてきたことが分かります。1992年7月に一般貨物自動車運送事業の許可を取得し、1994年12月に埼玉県川口市に冷凍冷蔵倉庫を建設して低温保管・流通加工を開始、2000年2月には大宮営業所の開設で関東全域の3温度帯共同配送を可能にしました。2017年以降は厚木・戸田・岩槻に共配物流センターを開設し、2020年6月の新宿デポを皮切りに上野・秋葉原にデポを開き、2024年5月に10拠点体制を確立しています。
上場準備の観点で重要なのは、2023年11月の持株会社化です。同社は、経営指導を目的として株式移転により持株会社の北王GROUPを設立し、業務の効率化を目的として3社を完全子会社化したと記載しています。2025年1月には黒田英則氏が持株会社の代表取締役社長に、古瀬一英氏が代表取締役会長に就任し、北王流通の社長に古瀬健二氏、北王フードベースの社長に小島仁氏が就任しました。持株会社の設立から上場まで約2年半という短い期間であったことは、後述する「連結2期・監査1期」という書類の姿にそのまま表れています。
図4 発行者情報「沿革」から主な項目を抜粋
許認可については、「事業等のリスク」で、貨物自動車運送事業法や倉庫業法などの法的規制を受け、事業の開始にあたって国土交通大臣の許可を得る又は登録を行う必要があると説明されています。物流業のように許認可が事業の前提になる業種では、許認可の維持状況と法令違反の防止体制が上場準備で必ず確認されます。考え方はIPOで許認可はどこまで見られるかも参考にしてください。
なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
北王GROUPの書類には、上場の目的やTPMを選んだ理由を独立した項目として説明した記載はありません。「対処すべき課題」では、2024年問題への対応、DXの推進、共同配送と都心デポを活用した配送体制の構築、M&Aによる拠点拡大、外国籍人材を含む人材の確保・育成が挙げられていますが、TPM上場との関係には触れていません。本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測することはしません。
そのうえで、TPMという市場の特徴を一般論として整理しておきます。TPMは、2008年の改正金融商品取引法で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場であり、株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がありません。東京証券取引所は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、一般市場上場前の助走の場として活用する企業を重点的に支援する方針を示しています。
また東証は、2026年4月以降に新規上場する会社に対し、なぜTPMに上場するのか、上場をどう活用するのかという「上場目的」を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。2026年6月15日時点の集計では、上場目的として多かったのは社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は11社(約10%)にとどまりました。TPMへの上場が必ずしも資金調達を目的としないことは、北王GROUPのように公募・売出しを伴わない上場が多いこととも整合します。
図5 金融商品取引法27条の31と、発行者情報の表紙「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成
北王GROUPの書類の表紙には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特例第110条第3項の規定により「発行者情報に相当する情報」を公表すると明記されています。書類名も「発行者情報」です。特定投資家向けの取得勧誘(いわゆるプロ私募)や売付け勧誘等を行う場合は、金融商品取引法第27条の31に基づき特定証券情報を勧誘時までに提供・公表する必要がありますが、同社は上場時にこれらを行っていません。本記事で紹介する数値や記載は、すべてこの「発行者情報」によるものです。
上場時に株式を発行しないため、上場に伴う資金調達はありません。同社は「運転資本」の項目で、上場予定日(2026年4月22日)から12か月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分であると認識していると記載しています。上場適格性要件の一つである「企業としての相応性」には、上場予定日から12か月間の運転資金の確保が含まれているため、資金調達をしない上場であっても、この説明は欠かせません。
TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを北王GROUPの書類で確かめる
ここからは、TPMの上場制度のポイントを、北王GROUPの書類の記載に照らして確認します。制度の説明は、東京証券取引所の「上場ガイドブック(TPM編)」やTPMの案内ページで確認できる範囲にとどめます。上場準備の全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
審査の担い手は担当J-Adviser:形式基準のかわりに上場適格性要件
TPMには形式基準がない一方で、「上場審査がない」わけではありません。東証が資格を認定したJ-Adviserが、上場適格性要件への適合を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。上場適格性要件は、①企業としての相応性、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していること、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目です。
北王GROUPの書類には、これらの要件に直接対応させた記載はありませんが、関連する事実はいくつも読み取れます。12か月間の運転資本の説明、取締役会・監査役・内部監査人・監査法人の体制、管理部を主管部署とするリスク管理体制、社内通報制度・社内相談窓口の設置、関連当事者との取引の注記などです。上場準備会社にとって大切なのは、「規模や成熟度等に応じて」という表現の意味です。TPMでは機関設計などの形式要件が一律に定められているわけではなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。ただし、何をどこまで整えれば足りるかは担当J-Adviserが会社の実態に照らして判断するため、契約前に取締役会の運営、社内規程、内部監査、関連当事者取引の状況を棚卸ししておくと調査を進めやすくなります。
図6 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
J-Adviser契約は上場維持の前提:解除・解約の条項まで開示されている
J-Adviserの役割は上場前の調査だけではありません。上場後も、適時開示についての助言・指導や上場維持要件への適合状況の調査を担います。上場会社は担当J-Adviserとの契約を維持する必要があり、J-Adviserから契約解除の通知を受け、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなかった場合は上場廃止となります。
北王GROUPは「事業等のリスク」の最後に「担当J-Adviserとの契約の解除についてのリスク」を置き、名南M&Aとの契約内容を詳しく記載しています。同社の義務として、特例に定める上場会社の義務の履行とJ-Adviserへの協力、取締役会・株主総会関係資料や経営管理に関する資料の遅滞ない提出、J-Adviserの指導・助言に従って行動することが挙げられています。義務の不履行や契約違反があった場合は、相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めた書面催告を経て契約を解除できるとされ、これとは別に、両当事者の書面による合意又は1か月前以上の書面通知により、いつでも解約できる旨の定めもあります。
さらに、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与などに該当した場合は、催告なしで契約を解除できると定められています。同社は、本書の公表日時点で契約の解約につながる事象は発生していないとしています。これらの条項は、上場後の会社にとって「何をすれば上場を維持できなくなるか」を一覧できる資料でもあります。
図7 発行者情報「事業等のリスク(16)担当J-Adviserとの契約の解除についてのリスク」をもとに作成
上場時は特定証券情報、上場後は発行者情報
TPMの法定開示は、有価証券届出書や有価証券報告書ではなく、金融商品取引法第27条の31以下の特定証券情報・発行者情報です。上場時に特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は特定証券情報を公表し、上場後は事業年度と中間会計期間ごとに、それぞれ期末から3か月以内に発行者情報を作成・公表します。四半期の決算短信は任意、内部統制報告書も任意とされています。北王GROUPのように上場時から「発行者情報」の名称で書類を公表するケースもあるため、TPM上場会社の書類を読むときは、表紙の公表書類名と根拠条項を確認するとよいでしょう。
書類の冒頭には、発行者情報の公表時の役員が、重要な事項についての虚偽や欠落について、金融商品取引法第27条の34において準用する第22条に基づき損害賠償責任を負う旨の注意事項が置かれています。プロ向けの簡素な開示であっても、記載内容に対する役員の責任は軽くありません。また、TPM上場会社にも適時開示の義務があり、決算情報や担当J-Adviserの異動などが対象になります。北王GROUPは10月決算のため、年次の発行者情報は1月末まで、中間(4月末)の発行者情報は7月末までが公表期限の目安になります。上場後の開示体制はIPOの適時開示体制で解説している考え方が参考になります。
監査は「最近1年間」:第1期は監査対象外
TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。北王GROUPの「主要な経営指標等の推移」には第1期と第2期の数値が並んでいますが、注記で、特例第110条第5項に基づき第2期の連結財務諸表について監査法人Innovationの監査を受けた一方、第1期の連結財務諸表は当該監査を受けていないと明記しています。2026年3月13日付の監査報告書は無限定適正意見で、「その他の事項」として前連結会計年度の連結財務諸表は監査されていない旨が記載されています。
持株会社の設立から約2年半で上場できた背景には、この監査期間の短さがあります。一方で、監査初年度となる第2期は、期首残高(第1期末の残高)の確認、子会社3社の会計方針の統一、連結手続の整備を短期間で行う必要があります。持株会社化と上場準備を同時に進める場合は、株式移転の時期と監査契約の時期をあわせて計画しておくことが大切です。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかも参考にしてください。
図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」の注記と監査報告書をもとに作成
特定投資家向けの市場であること
TPMは特定投資家等を対象とした市場です。一般投資家はTPM上場株式を取引所で新たに買い付けることはできませんが、保有している株式を売却することは可能です。特定投資家には適格機関投資家や国などのほか、一定の要件を満たして特定投資家へ移行した個人も含まれます。北王GROUPの書類冒頭の「投資者に対する注意事項」でも、TPMが特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合があること、J-Adviserが重要な役割を担うことが説明されています。
一般市場(グロース・スタンダード)とは何が違うのか
制度の違いを一覧で比べる
TPMとグロース・スタンダードなどの一般市場の違いを、東京証券取引所の案内で確認できる範囲で整理すると次のとおりです。TPMは一般市場の「入口」や「一種」ではなく、投資者・上場基準・開示制度の組み立てが異なる別の市場だという点が出発点になります。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 主な投資者 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、保有株の売却は可) | 一般投資家を含む |
| 上場基準 | 形式基準(数値基準)なし。上場適格性要件5項目 | 株主数・流通株式などの形式基準と実質審査基準 |
| 審査の担い手 | 担当J-Adviserが調査・確認し、東証が面談 | 東京証券取引所の上場審査 |
| 申請から承認まで | 原則として上場申請から10営業日後に承認 | 東証の審査を経て承認 |
| 上場時の開示書類 | 特定証券情報(勧誘を行わない場合は北王GROUPのように発行者情報に相当する情報) | 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)、有価証券届出書など |
| 上場後の法定開示 | 発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 四半期決算短信(取引所規則) |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期(一般市場の新規上場で求められるとされる期間) |
| 会計基準・開示言語 | 日本基準・米国基準・IFRS等/日本語又は英語 | ― |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約の維持 | J-Adviser制度はない |
| コーポレートガバナンス・コード | JPXの案内で適用対象として示されているのはプライム・スタンダード・グロース(TPMの扱いは本記事では断定しない) | スタンダード:全原則、グロース:基本原則 |
北王GROUPの書類も、この違いを反映しています。財務諸表の監査は第2期のみで、内部統制報告書や四半期情報に関する記載はなく、コーポレートガバナンス・コードへの言及もありません。会計基準は、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠したと記載されています。
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
北王GROUPの書類には、将来の一般市場への上場や市場変更についての記載はありません。そのため、同社の今後の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す会社が一般論として知っておきたい事実を整理します。
まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではありません。TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する形で行われます。実例として、AlbaLink(5537)は2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場しました。東証の2025年11月13日の資料では、TPMから一般市場へ上場した企業は15社とされる一方、その審査は非上場企業と同様に一から確認が行われており相応の負担がある、との現状認識が示されています。
東証は2026年4月3日の資料で、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と、開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定していると公表しました。ただし、本記事の作成時点(2026年10月7日)で、これらが規程改正として実施済みかどうかは確認できていません。TPMを一般市場への助走として使う場合は、TPMの上場適格性要件を満たすことと、一般市場の形式基準・実質審査基準を満たすことは別の作業だと考え、監査期間や機関設計、株主構成を一般市場の基準で別途点検しておく必要があります。北王GROUPのケースでいえば、監査を受けた期間が1期であること、株主が9名であること、社外取締役を置いていないことは、一般市場の基準で見ると別途の検討が必要になる項目です。
| 確認できている事実 | 内容 |
|---|---|
| 移行の形式 | TPMの申請による上場廃止+一般市場への新規上場(市場区分の変更ではない) |
| 実例 | AlbaLink:2025年12月14日TPM上場廃止、12月15日グロース市場に新規上場 |
| 移行実績 | TPMから一般市場へ上場した企業は15社(2025年11月時点) |
| 審査の現状 | 非上場企業の審査と同様に一から確認(2025年11月13日の東証資料) |
| 予定されている見直し | TPM実績を勘案した審査の効率化、開示様式の共通化・簡素化(26年秋めど。実施状況は未確認) |
業績の推移と読み方
北王GROUPの連結業績は、第1期(2024年10月期)が売上高5,503,750千円、経常損失167,501千円、親会社株主に帰属する当期純損失124,951千円、第2期(2025年10月期)が売上高6,559,405千円(前期比19.2%増)、経常利益26,645千円、親会社株主に帰属する当期純利益12,216千円です。第1期の赤字から第2期に黒字へ転換しています。ただし、第1期の数値は監査を受けていない点に注意が必要です。
| 項目(連結、千円) | 第1期 2024年10月期 | 第2期 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,503,750 | 6,559,405 |
| 売上総利益 | 422,507 | 667,522 |
| 営業利益 | △154,699 | 51,817 |
| 経常利益 | △167,501 | 26,645 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | △124,951 | 12,216 |
| 純資産 | 162,598 | 178,475 |
| 総資産 | 3,299,924 | 3,260,545 |
| 自己資本比率 | 4.9% | 5.5% |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 140,596 | 476,565 |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | △215,980 | △70,738 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | 121,648 | △309,146 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 368,114 | 464,793 |
| 監査 | 受けていない | 監査法人Innovation(無限定適正意見) |
図9 発行者情報「販売実績」「収益認識関係」の注記をもとに作成。単位は百万円(百万円未満切り捨て)
第2期の損益を分解すると、売上原価は5,891,883千円(前期比16.0%増)と売上高の伸び(19.2%)を下回り、売上総利益は667,522千円(同58.0%増)に拡大しました。販売費及び一般管理費は615,704千円(同6.7%増)で、主な費目は役員報酬161,439千円、給与手当97,083千円、減価償却費83,255千円です。営業外では支払利息22,154千円やリース解約損7,184千円を計上し、経常利益は26,645千円となりました。
税金等調整前当期純利益31,707千円に対して法人税等は19,491千円で、税効果会計適用後の負担率は61.47%と法定実効税率(30.62%)を大きく上回っています。税効果会計の注記では、差異の主な要因として評価性引当額の増減(17.16%)、連結修正による影響(8.42%)、住民税均等割等(8.28%)が挙げられています。利益の水準が小さい会社では、均等割や評価性引当額の影響で税負担率が大きく振れやすく、業績予想や利益計画を作るときに見落としやすい論点です。
図10 発行者情報「連結損益計算書」をもとに作成。単位は千円。特別損益は固定資産売却益6,835千円と固定資産除却損1,773千円の純額
キャッシュ・フローでは、第2期の営業活動によるキャッシュ・フローが476,565千円と、当期純利益を大きく上回っています。減価償却費265,151千円が大きいことに加え、その他の流動負債の増加113,691千円も寄与しています。物流センターや車両、冷凍冷蔵設備などの設備を多く持つ事業では、利益よりも減価償却前の営業キャッシュ・フローと借入金の返済予定を合わせて見ることが大切です。第2期は、営業キャッシュ・フローで長期借入金の返済185,726千円とリース債務の返済134,420千円をまかない、短期借入金も純額で150,000千円減らしています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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財務体質:自己資本比率5.5%と借入金・リース・資産除去債務
第2期末の連結総資産は3,260,545千円で、純資産は178,475千円、自己資本比率は5.5%です。負債の内訳を見ると、長期借入金936,212千円(1年内返済予定分201,696千円は別)、リース債務441,607千円(流動103,450千円と固定338,157千円の合計)、社債53,500千円、資産除去債務411,186千円が大きな項目です。借入金等明細表によると、借入金とリース債務の合計は1,629,515千円で、平均利率は短期借入金2.0%、長期借入金1.3%などとなっています。連結子会社の北王流通は取引銀行3行と当座借越契約(限度額300,000千円、実行残高50,000千円)を結んでいます。
図11 発行者情報「連結貸借対照表」をもとに作成。単位は千円。箱の高さは金額に比例
同社は「事業等のリスク」で、物流センターの冷凍冷蔵設備等に係る資金を金融機関からの借入金でまかなっているため総資産に占める借入金の比率が高く、設備投資の回収に長期を要することから金利の上昇が業績に影響を与える可能性がある、と自ら説明しています。対応として、複数の金融機関から分散して借り入れるよう努めているとしています。
TPMには純資産や利益の額の形式基準はありませんが、上場適格性要件の「企業としての相応性」では上場予定日から12か月間の運転資金の確保が求められ、J-Adviser契約では債務超過が催告なしの解除事由に含まれています。自己資本が厚くない会社がTPM上場を目指す場合は、資金繰り計画と借入金の返済予定、金利上昇時の影響を説明できるようにしておくことが、上場準備の重要な作業になります。
資本政策と株主構成:創業家4名で92.4%、株主9名で上場
発行済株式総数は195,244株(発行可能株式総数780,976株)で、2023年11月1日の株式移転による設立以降、株式数・資本金(30,000千円)に変動はありません。単元株式数は100株です。新株予約権、ストック・オプション、自己株式、従業員株式所有制度はいずれも「該当事項なし」で、株式公開情報の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」と「第三者割当等の概況」も「該当事項なし」とされています。上場前に株式の移動や第三者割当を行わず、そのままの株主構成で上場したことになります。
| 株主(2026年2月28日現在) | 所有株式数 | 割合 |
|---|---|---|
| 古瀬 一英(代表取締役会長) | 83,170株 | 42.6% |
| 古瀬 伸子(役員の二親等内の血族) | 48,962株 | 25.1% |
| 古瀬 健二(役員の二親等内の血族) | 24,206株 | 12.4% |
| 古瀬 伸幸(常務取締役) | 24,000株 | 12.3% |
| 黒田 英則(代表取締役社長) | 9,980株 | 5.1% |
| 三井物産流通グループ㈱ | 2,000株 | 1.0% |
| 小島 仁(取締役) | 1,330株 | 0.7% |
| 及川 幸雄(監査役) | 798株 | 0.4% |
| 鈴木 正巳 | 798株 | 0.4% |
| 計(9名) | 195,244株 | 100.0% |
図12 発行者情報「株主の状況」「所有者別状況」をもとに作成。比率は自己株式を除く発行済株式総数195,244株に対する割合
所有者別状況では、株主はその他の法人1名と個人8名の計9名です。古瀬家の4名で180,338株(92.4%)を保有し、残りを社長・役員などが保有しています。主要な販売先である三井物産流通グループが1.0%を保有している点も特徴です。配当政策は、成長戦略に必要な運転資金と設備投資資金を確保するため、当面は配当を実施しない方針とされています。
TPMには流通株式比率や株主数の基準がないため、このような株主構成のままでも上場できます。一方で、一般市場への上場を将来の選択肢として考える会社にとっては、株主数・流通株式の基準を満たすための株式の分散や、公募・売出しの設計が別途必要になります。資本政策は後からやり直しが難しいため、TPM上場の段階から中長期の株主構成を考えておくことが大切です。考え方は上場準備の資本政策や資本政策はなぜやり直せないかで解説しています。
コーポレート・ガバナンス:取締役5名・監査役2名、社外取締役は置かず
北王GROUPは監査役制度を採用し、取締役会(取締役5名)と監査役2名(常勤1名・非常勤1名、うち社外監査役1名)を置いています。書類には監査役会の記載はありません。取締役会は原則として毎月1回の定時取締役会に加え必要に応じて臨時取締役会を開催し、法令・定款・取締役会規程等に定められた事項の審議・決定、重要な業務執行の決定、取締役の業務執行の監督を行っていると記載されています。定款では取締役を9名以内、監査役を3名以内と定めています。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(書類の記載から) | 所有株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 黒田 英則 | 銀行勤務を経て2002年北王流通入社、2018年同社代表取締役、2025年1月から当社代表取締役社長 | 9,980株 |
| 代表取締役会長 | 古瀬 一英 | 1990年10月北王㈱設立・取締役、1991年5月同社代表取締役、2023年11月当社代表取締役、2025年1月から代表取締役会長 | 83,170株 |
| 取締役 | 小島 仁 | 1995年北王流通入社、2009年同社取締役、北王フードベース代表取締役社長 | 1,330株 |
| 常務取締役 | 古瀬 伸幸 | 証券会社等を経て2012年北王流通入社、北王デリバリー代表取締役、2026年1月から当社常務取締役(会長の子) | 24,000株 |
| 取締役(管理部部長) | 佐藤 俊平 | 日本ユニシス・富士通を経て2019年北王流通入社、2026年1月から当社取締役 | ― |
| 監査役 | 及川 幸雄 | 1994年北王流通入社、同社取締役を経て2025年1月から当社監査役 | 798株 |
| 監査役(社外) | 大秦 進 | 健康食品等の実店舗・通信販売会社の経営者、2026年1月から当社監査役 | ― |
取締役5名に社外取締役は含まれていません。常務取締役の古瀬伸幸氏は代表取締役会長の古瀬一英氏の子であると注記されています。社外監査役の大秦進氏については、長年にわたる健康食品等の実店舗及び通信販売の業務経験から得た豊富な知識を有していること、当社との間に人的関係・資本的関係・取引関係その他の利害関係がないことが記載され、監査役規程で社外監査役の独立性・中立性に関する基準を定めているとしています。
社外取締役は置いていません。同社は、社外取締役の重要性は認識しているものの、経営規模・体制を総合的に勘案するとガバナンスは適正に構築・運用されているとして設置しておらず、今後、十分な議論と検証を重ね、必要と判断した場合には具体的な検討を行うと説明しています。TPMでは機関設計の形式要件が一律に定められておらず、このように「置いていない理由」と「今後の方針」を示す書き方は、TPM上場を目指す会社の参考になります。なお、一般市場では社外取締役や独立役員について別の考え方が求められるため、将来の一般市場上場を視野に入れる場合は社外取締役は何人必要かや監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?もあわせて確認してください。
図13 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成
役員報酬は、2025年10月期の総額が161,439千円と記載されています。報酬の決定方針や個別の内訳についての記載はありません。定款では、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上とし累積投票によらないこと、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和すること、取締役会決議による中間配当(4月30日基準)、会社法第426条第1項による取締役・監査役の責任免除を定めています。また、取締役・監査役との間で会社法第427条第1項に基づく責任限定契約を締結し、限度額を法令が定める最低限度額としています。
内部監査・内部統制とリスク管理の体制
内部監査は、代表取締役社長が指名した内部監査人(担当者3名)が担っています。内部監査人は「内部監査規程」に基づき、当社グループ会社の全部門を対象に、業務運営と財産管理の実態を調査し、法令・定款・社内規程への準拠性を確認しています。監査結果は代表取締役社長と監査役に報告され、業務の改善に向けた勧告・助言を行い、必要に応じて監査法人とも連携するとされています。書類には、内部監査人の所属部署や兼務の状況についての記載はありません。
監査役は、取締役会への出席、代表取締役社長との意見交換、稟議など重要な書類の閲覧、子会社を含む事業所への往査を行い、常勤監査役は継続的に関係部署へのヒアリングを行っています。監査役・内部監査人・監査法人が意見交換や監査結果の聴取を行う、いわゆる三様監査の連携も記載されています。会計監査は監査法人Innovationが担当し、業務執行社員は橋本剛氏・森川真氏の2名(いずれも継続監査年数7年以内)、補助者は公認会計士7名・その他3名です。
図14 発行者情報「内部監査及び監査役監査」をもとに作成
内部監査の担当者を社長が指名し、報告先を社長と監査役の両方にする形は、規模の小さい会社でもとりやすい体制です。一方で、少人数の内部監査では、担当者が自分の所属部署を監査する「自己監査」をどう避けるかが論点になります。同社の書類には兼務の状況が書かれていないため、ここでは一般論として、担当者を複数置いて相互に監査する方法などがあることを紹介するにとどめます。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)や監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。
リスク管理は、管理部が主管部署として情報を一元化し、必要に応じて弁護士等の専門家から助言を受ける体制です。「事業等のリスク」では、情報システム管理規程、リスク管理規程、個人情報保護規程、販売管理規程などの規程名が挙げられ、社内通報制度・社内相談窓口の設置、内部監査部門によるリスクアプローチの監査、拠点別の「安全マネジメント計画」、全役員と全運輸管理職による「追走指導」、毎月の「安全ディレクター会議」も記載されています。M&Aについては、社内規程に基づき投資委員会で出資額等を討議したうえで取締役会で決定するとしています。
関連当事者との取引:役員による子会社の賃貸借契約の連帯保証
関連当事者情報では、連結財務諸表提出会社(北王GROUP)と関連当事者との取引は第1期・第2期とも「該当事項なし」です。一方、連結子会社と関連当事者との取引として、子会社の建物賃貸借契約について、代表取締役社長の黒田英則氏と常務取締役の古瀬伸幸氏から連帯保証を受けていることが記載されています。債務保証の期末残高は、第2期末で黒田英則氏176,638千円、古瀬伸幸氏19,673千円(第1期末はそれぞれ234,850千円、12,239千円)で、保証料の支払は行っていません。書類には、この保証の解消予定についての記載はありません。
図15 発行者情報「関連当事者情報」をもとに作成。金額は債務保証の期末残高(第2期)
役員による会社債務の個人保証は、中小企業の借入や賃貸借では珍しくありません。上場準備では、こうした取引を関連当事者取引として網羅的に把握し、注記で開示するとともに、取引の合理性や今後の整理方針を説明できるようにしておくことが求められます。上場適格性要件の「事業を公正かつ忠実に遂行していること」には関連当事者取引の牽制が含まれます。整理の考え方は社長個人と会社の取引はどう解消するかや関連当事者との取引はどこまで開示するかを参考にしてください。
会計・開示の論点:収益認識から新リース会計基準まで
収益認識:配送は完了時点、保管は期間、入出荷は出庫時点
収益認識の方法は、サービスごとに整理されています。トランスポートと都心デポは「荷主から依頼された食品を荷主の指定する場所に配送する義務」を負い、顧客の指定する場所に配送が完了した時点で収益を認識します。ウェアハウスは2つに分かれ、食品を保管管理するサービスは契約期間を履行義務の充足期間として一定期間にわたり収益を認識し、入荷・ピッキング・発送のサービスは物流センター・倉庫から発送又は出庫した時点で収益を認識します。第2期の収益の分解情報では、一時点で移転される財又はサービスが5,577,657千円、一定期間にわたり移転される財又はサービスが981,748千円(ウェアハウスの保管管理分)でした。
図16 発行者情報「重要な収益及び費用の計上基準」「収益認識関係」の注記をもとに作成
物流業は、配送・保管・荷役など性質の異なるサービスを1つの契約で受託することが多く、履行義務の識別と充足時点の判断が収益認識の中心になります。月末をまたぐ配送や保管期間の按分の扱いは、監査初年度に確認されやすい論点です。上場審査で問われる収益認識もあわせて参考にしてください。
重要な会計上の見積り・税効果・資産除去債務
重要な会計上の見積りとして、固定資産の減損と繰延税金資産の回収可能性の2つが挙げられています。減損については、各拠点の固定資産をキャッシュ・フローを生み出す最小単位でグルーピングし、期末日ごとに減損の兆候を判定する方法が説明されており、第2期末の有形固定資産は1,763,311千円、無形固定資産は108,902千円で、減損損失は計上していません。将来キャッシュ・フローは次年度以降の事業計画を基礎としているため、事業計画の作り方が会計上の見積りに直結します。
税効果会計では、繰延税金資産の小計216,690千円に対して評価性引当額が129,606千円あり、その額は資産除去債務に係る繰延税金資産と同額です。資産除去債務は、物流センターなどの建物の不動産賃貸借契約に伴う原状回復義務で、使用見込期間を取得から5年から15年と見積もり、第2期末残高は411,186千円です。純資産178,475千円と比べても大きな金額で、賃借物件で設備を構える業種ならではの論点といえます。このほか、退職給付債務の計算に用いる割引率を、期末時点の再検討により1.3%から1.9%に変更したことも注記されています。
新リース会計基準の適用予定と監査報酬
未適用の会計基準として、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等を2028年10月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中と記載されています。同社は冷凍冷蔵設備や配送車両をファイナンス・リースで調達しており、物流センターや都心デポの賃借も多いことから、新基準で借手のリースを原則として資産・負債に計上するようになったときの影響の把握は、今後の重要な作業になると考えられます。
監査報酬は、提出会社の監査証明業務に基づく報酬が13,000千円で、非監査業務に基づく報酬はなく、連結子会社の監査報酬もありません。監査報酬は、グループの事業規模や業務の特性に基づく監査日数を勘案して決定するとしています。
事業等のリスクの読み方
「事業等のリスク」には16項目が挙げられています。コンプライアンス、情報システム管理、法的規制・環境規制、規制緩和による競合先の多様化、重大な事故、重大な災害、感染症、原油価格の高騰、設備投資、資金調達、M&A、大口取引先の変動、業績の季節変動、人材の確保・育成、経営陣の確保・育成、担当J-Adviserとの契約の解除です。各項目に発生可能性や影響度の記載はなく、リスクの内容と対応策が併記されています。
図17 発行者情報「事業等のリスク」の見出しを4つに分類したもの(分類は筆者による)
物流業らしい項目として、原油価格の上昇分を運送料金に100%転嫁することが困難であること、12月が年間で一番の繁忙期で2月は取扱物量が少なくなる傾向があること、運行管理や輸送での法令違反が行政処分や刑事処分につながり得ることが挙げられています。また、3PLを主たる事業としているため特定の取引先への依存度が高くなる傾向があることも、同社自身がリスクとして記載しています。上場準備では、自社の事業特性に即したリスクを具体的に書き、対応策とセットで説明できるかが問われます。
上場準備会社が北王GROUPの事例から学べること
北王GROUPの書類から、TPM上場を検討する会社が実務の参考にできる点を整理します。
- 公募・売出しを伴わない上場でも、12か月の運転資本の説明は必要。特例110条3項による「発行者情報に相当する情報」の公表で上場できる一方、資金繰りの根拠は示す必要があります。
- 持株会社化と上場準備は同時に計画する。株式移転から約2年半で上場した同社は、連結2期・監査1期の書類で上場しています。株式移転の時期、連結の範囲、監査契約の時期をそろえて考えることが大切です。
- 株主構成はTPMと一般市場で求められる水準が違う。株主9名・創業家92.4%のままTPMに上場できても、一般市場を目指す場合は別途の資本政策が必要です。
- 主要顧客への依存は、比率と関係をそのまま開示する。最大顧客35.3%、その顧客が株主でもあることを開示し、リスクとして説明しています。
- 自己資本が薄い会社は、借入・リース・資産除去債務を一体で管理する。自己資本比率5.5%の同社は、借入金の返済予定や金利リスクを自ら説明しています。
- 役員の連帯保証は関連当事者取引として把握・開示する。保証料なしの連帯保証も注記の対象です。
- 社外取締役を置かない場合は、理由と今後の方針を書く。機関設計の自由度が高いTPMでも、説明は求められます。
- J-Adviser契約の条項を上場後の行動指針として使う。解除事由の一覧は、上場維持のために避けるべき事態の一覧でもあります。
図18 本記事のまとめ
- 上場の目的と、TPMを選ぶ理由を言葉にしているか
- 上場予定日から12か月間の運転資金を説明できる資金繰り計画があるか
- 持株会社化や組織再編の時期と、最近1年間の監査の時期を合わせて計画しているか
- 主要顧客への依存度と、その顧客との資本関係を把握しているか
- 役員による保証など関連当事者との取引を網羅的に洗い出しているか
- 担当J-Adviser候補との契約条項(義務・解除事由)を事前に確認しているか
よくある質問
していません。同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項に基づき「発行者情報に相当する情報」を公表して上場しました。上場予定日から12か月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能なため十分と説明しています。
TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」で、北王GROUPは第2期(2025年10月期)の連結財務諸表について監査を受け、第1期は監査を受けていない旨を明記して上場しています。ただし、上場適格性は担当J-Adviserが会社の実態に照らして調査・確認するため、期間だけで上場の可否が決まるわけではありません。
TPMでは機関設計の形式要件が一律に定められておらず、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。北王GROUPは社外取締役を置いていませんが、社外監査役1名を選任し、社外取締役を置かない理由と今後の方針を記載しています。どこまでの体制が必要かは、担当J-Adviserが規模や成熟度等に応じて判断します。
TPMから一般市場への移行は市場区分の変更ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場という形になります。一般市場の形式基準・実質審査基準を満たす必要があり、北王GROUPの書類には一般市場への上場に関する記載はありません。
最初の一歩は「持株会社化・監査・J-Adviser」の時期を1枚の工程表に並べること
北王GROUPの事例が示すように、TPM上場の準備では、組織再編、監査を受ける事業年度、J-Adviserの調査、意向表明、上場申請の順番が書類の姿を決めます。まずは、自社の決算期を起点に、組織再編の予定日、監査契約の開始、J-Adviser契約、申請予定日を1枚の工程表に並べてみてください。そのうえで、12か月の資金繰り、株主構成、関連当事者取引の3点を洗い出すと、J-Adviserとの最初の打合せで確認すべき事項がはっきりします。
まとめ
北王GROUPは、1980年創業の食品物流グループが2023年11月に株式移転で持株会社を設立し、2026年4月22日にTOKYO PRO Marketへ上場した事例です。上場に際して公募・売出しは行わず、特例第110条第3項に基づく発行者情報で上場しました。連結財務諸表は2期分で監査を受けたのは第2期のみ、株主は9名で創業家4名が92.4%を保有し、取締役5名・監査役2名(うち社外監査役1名)の体制で、社外取締役は置いていません。
一方で、主要顧客への依存度、自己資本比率5.5%の財務体質、役員による連帯保証、担当J-Adviser契約の解除条項などを具体的に開示しており、TPM上場で何を説明することになるのかがよく分かります。TPMは形式基準がない分、担当J-Adviserが「規模や成熟度等に応じて」上場適格性を判断する市場です。自社の実態をどこまで整え、どう説明するかを早めに整理しておくことが、TPM上場準備の第一歩になります。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「北王GROUP 発行者情報」
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Marketの概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ 2025年11月11日公表資料(AlbaLink のTOKYO PRO Market上場廃止とグロース市場への新規上場)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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