※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
IZUMIグループ株式会社(証券コード551A)は、建築物の省エネルギー計算や環境認証の取得支援、避難安全検証などの防災コンサルティング、BIM(Building Information Modeling)のソフトウエアとコンサルティングを手がける企業グループの持株会社です。2026年3月9日に上場申請が受け付けられ、3月24日に上場承認を受けて、2026年3月31日に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。担当J-Adviserは株式会社日本M&Aセンターです。本記事では、上場申請時に公表された「発行者情報」(2026年3月9日公表、全66ページ)を読み、上場準備を進める会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、IZUMIグループの発行者情報は「公募・売出しを行わずに、グループの資本関係を整理してTPMに上場する」流れを具体的に確認できる事例です。代表取締役とその資産管理会社、その他の関係会社、専務取締役の4名の株主で発行済株式の100%を保有したまま、2024年6月の新設分割と株式交換で持株会社体制をつくり、2025年12月に株式分割と単元株制度の採用を行い、直前1期分(2025年6月期)の監査を受けて上場しています。取締役3名と社外監査役1名という小さな機関設計、内部監査2名の体制、J-Adviser契約の解除条項の開示など、TPMならではの論点も多く含まれています。
この記事の見出し
- IZUMIグループとはどんな会社か|会社と上場の概要
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TOKYO PRO Marketの上場の仕組み|IZUMIグループの記載に即して
- 一般市場(グロース・スタンダード)と何が違うのか
- 事業内容と収益モデル|何で稼いでいるのか
- 沿革と上場までの道のり|50年の事業と、新しい持株会社
- 業績の推移|2期連続の増収、純利益は2倍に
- 資本政策と株主構成|株主4名・新株予約権なしのシンプルな資本構成
- コーポレート・ガバナンス|取締役3名と社外監査役1名の機関設計
- 内部監査・内部統制|内部監査2名と三様監査の連携
- 会計・開示の論点|検収基準の収益認識と自社開発ソフトウエア
- 事業等のリスクとJ-Adviser契約|TPMならではの開示
- 一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
- 上場準備会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
IZUMIグループとはどんな会社か|会社と上場の概要
まず、発行者情報と東京証券取引所の新規上場会社情報から、会社と上場の基本情報を確認します。IZUMIグループは、2016年9月に株式会社セイルズとして設立され、2021年11月にグループ経営管理を目的として現在の商号に変更した会社です。グループの事業の中心は、1973年に創業者の小池進氏が群馬県前橋市で始めた建築設備設計事務所を源流とする連結子会社、株式会社イズミコンサルティング(旧・株式会社イズミシステム設計)です。
当社自体は子会社の経営指導・管理を行う持株会社で、単体の従業員は7名(2026年2月28日現在)、連結では287名(臨時雇用者49名を外数で記載)です。セグメントは「IT技術を駆使した建築環境・防災等コンサルティング事業」の単一セグメントとされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | IZUMIグループ株式会社(IZUMI group Inc.) |
| 証券コード・市場 | 551A・TOKYO PRO Market |
| 上場日 | 2026年3月31日 |
| 上場承認日 | 2026年3月24日 |
| 上場申請受付日 | 2026年3月9日(発行者情報の公表日) |
| 担当J-Adviser | 株式会社日本M&Aセンター |
| 上場時の開示書類 | 発行者情報(特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表) |
| 公募・売出し | 行っていない(特定投資家向け取得勧誘等を実施しない) |
| 本店 | 東京都新宿区 |
| 設立 | 2016年9月(株式会社セイルズとして設立) |
| 決算期 | 6月30日 |
| 代表者 | 代表取締役社長 小池 康仁 |
| 従業員数 | 連結287名〔49名〕、単体7名〔1名〕(2026年2月28日現在) |
| 監査法人 | ふじみ監査法人(2025年6月期の連結財務諸表を監査) |
| 株主数 | 4名(2026年2月28日現在) |
上場までの日程を並べると次のようになります。上場申請の受付日と発行者情報の公表日が同じ2026年3月9日で、上場承認まで暦日で15日、上場承認から上場日まで暦日で7日です。TPMでは、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとされており、一般市場の新規上場とは時間軸の感覚が大きく異なります。もっとも、上場申請の前には担当J-Adviserによる調査と、申請日の30営業日程度前までの「意向表明」があるため、準備期間そのものが短いわけではありません。
図1 発行者情報の表紙・株式の状況及びJPX新規上場会社情報をもとに作成。日数は暦日で計算
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
IZUMIグループの発行者情報には、TPMへの上場目的や、一般市場ではなくTPMを選んだ理由についての記載は見当たりませんでした。そのため、本記事では同社の理由を推測することはせず、TPMという市場の一般的な特徴を整理するにとどめます。なお、東証は2026年4月から、新規上場会社に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請していますが、これは同社の上場日(2026年3月31日)より後に始まった「お願い」であり、規程上の義務ではありません。
TPMは、法令上「特定取引所金融商品市場」と呼ばれるプロ向けの市場です。前身はTOKYO AIMで、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づき2009年に開設され、2012年7月から東証が運営しています。2026年4月3日には、東証がTPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、一般市場への上場前の「助走の場」として使う企業への支援を強める方針を示しました。
TPMの大きな特徴は、市場で株式を買い付けることができるのが「特定投資家等」に限られる点です。特定投資家とは、適格機関投資家、国、日本銀行、投資者保護基金その他内閣府令で定める法人をいい(金融商品取引法2条31項)、一定の要件を満たす個人も特定投資家に移行できます。一方で、一般投資家は取引所に新たな買い注文を出すことはできませんが、すでに保有している株式を売却することはできます。「一般投資家は一切取引できない」という説明は正確ではありません。
図2 金融商品取引法117条の2及びJPX「特定投資家制度の概要」をもとに作成
また、TPMへの上場は必ずしも資金調達を伴うものではありません。東証が2026年6月15日時点で集計した上場目的の開示状況では、「増資」を目的に挙げた会社は11社(10%)にとどまり、社内体制の強化、営業力の強化、採用力の強化といった目的が上位でした。IZUMIグループも、上場に際して特定投資家向け取得勧誘や特定投資家向け売付け勧誘等(いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)を実施しておらず、上場時の公募による資金調達はありません。発行者情報の「運転資本」の項目では、上場予定日から12か月間の運転資本は、自己資金と金融機関からの借入れによって十分であると判断しているとされています。
TOKYO PRO Marketの上場の仕組み|IZUMIグループの記載に即して
TPMには、一般市場のような株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がありません。そのかわりに、東証から資格認証を受けた担当J-Adviserが、上場適格性要件への適合を調査・確認します。上場適格性要件は、企業としての相応性、事業の公正かつ忠実な遂行、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の整備・機能、企業内容等の開示を適正に行える体制、反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目です。
担当J-Adviserは調査の結果を「上場適格性に係る宣誓書」にまとめて東証に提出し、東証も意向表明の後に面談を行います。「TPMには上場審査がない」という説明を見かけることがありますが、正確ではありません。数値基準がないだけで、上場適格性の調査・確認は行われます。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)もあわせてご覧ください。
図3 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
IZUMIグループの発行者情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TPMの上場会社は特例に従って各上場会社のために行動するJ-Adviserを選任する必要があり、J-Adviserの役割には上場適格性要件に関する助言・指導と上場申請手続のマネジメントが含まれる、と説明されています。また、上場適格性要件の一つである「企業としての相応性」には、上場予定日から12か月間の運転資金を確保していることが含まれており、前述の「運転資本」の記載はこれに対応する開示と読むことができます。
上場時の開示書類は「特定証券情報」か「発行者情報」か
TPMの上場時の開示書類は、上場に際して特定投資家向けの勧誘を行うかどうかで変わります。特定投資家向け取得勧誘や特定投資家向け売付け勧誘等を行う発行者は、金融商品取引法27条の31に基づき「特定証券情報」を提供・公表します。これに対し、IZUMIグループの発行者情報の表紙には、上場に際してこれらの勧誘を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例(以下「特例」)110条3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表すると記載されています。2026年のTPM新規上場では、このように表紙が「発行者情報」となっている会社が少なくありません。
図4 金融商品取引法27条の31と、発行者情報の表紙「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成
上場後の継続開示も一般市場とは異なります。TPM上場会社は、事業年度と中間会計期間それぞれの末日から3か月以内に「発行者情報」を作成・公表します(年2回)。書類の名称は「発行者情報」であり、有価証券報告書や半期報告書ではありません。また、TPM上場会社にも適時開示の義務があり、決算情報や担当J-Adviserの異動なども適時開示の対象です。一方、四半期の決算短信の開示は任意とされています。
監査は「最近1年間」|IZUMIグループは2025年6月期の1期分
TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。IZUMIグループの発行者情報でも、主要な経営指標等の注記に、特例110条5項の規定に基づき第9期(2025年6月期)の連結財務諸表についてふじみ監査法人の監査を受けているが、第7期(2023年6月期)と第8期(2024年6月期)の連結財務諸表は監査を受けていない、と明記されています。一般市場の新規上場では直前2期分の監査が必要とされるのと比べると、監査の準備にかかる期間は短くなります。ただし、監査が不要になるわけではありません。財務書類には監査法人による無限定適正意見等が記載された監査報告書が必要であり、上場後の中間の発行者情報の財務諸表にも、中間監査又は期中レビューの意見・結論が求められます。
監査法人をいつ決めるかは、上場スケジュールを左右する重要な論点です。一般市場を目指す場合の考え方は監査法人はいつまでに決めるかで解説していますが、TPMでも「監査対象期の期首までに監査契約を結び、期首残高を含めて監査を受けられる状態にしておく」ことが基本になります。
一般市場(グロース・スタンダード)と何が違うのか
TPMはグロース市場の一種でも、いわゆる新興市場でもなく、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場です。上場準備の進め方を考えるうえで押さえておきたい違いを、東証の公表資料をもとに表に整理しました。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 市場の位置づけ | 特定投資家等を対象とするプロ向け市場(特定取引所金融商品市場) | 一般投資家も売買できる市場 |
| 株式を買い付けられる者 | 特定投資家等(一般投資家は保有株の売却のみ可能) | 制限なし |
| 形式基準(数値基準) | なし(柔軟なガバナンス設計による上場も可能) | 株主数・流通株式などの形式要件あり |
| 上場適格性の確認 | 担当J-Adviserが調査・確認(東証も面談) | 東証の上場審査 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 上場申請から承認まで | 原則10営業日(申請前に意向表明・J-Adviser調査) | 東証の上場審査を経て承認 |
| 上場時の開示書類 | 特定証券情報(勧誘しない場合は発行者情報に相当する情報) | 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)等 |
| 継続開示 | 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期の開示 | 任意 | 取引所規則上の四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 金融商品取引法に基づき提出 |
| CGコード(JPXの説明) | 適用対象としての記載なし | スタンダードは全原則、グロースは基本原則 |
| J-Adviser | 契約の維持が上場維持の前提 | 制度なし |
この表で特に誤解が多いのは、監査と内部統制です。TPMでは監査期間が最近1年間に短縮されているだけで、監査そのものは必要です。また、内部統制報告書や四半期の開示は「任意」であって「禁止」ではありません。一般市場への移行を視野に入れる会社であれば、TPM上場の段階から一般市場で求められる水準を意識して体制を整えておくと、後の負担を減らせます。内部統制の基本的な整備の進め方はJ-SOXの進め方で解説しています。
事業内容と収益モデル|何で稼いでいるのか
IZUMIグループは「建築の環境・防災・BIMの分野において高い技術力と提案力を持ち、融合した独創性で顧客と共に歩み続ける」ことをブランド・コンセプトに掲げ、ITサポート・コンサルティングチームが独自に開発したソフトウエアを使って、顧客である設計者を支援しています。主なサービスは、建築環境・建築防災・BIMソリューションの3本の柱に、子会社の鰐設計が手がける設備設計を加えた4分野です。
建築環境コンサルティングでは、建築物省エネ法の基準に沿った省エネルギー計算や設備導入のコンサルティング、審査機関との協議のほか、ZEB・ZEH-Mや低炭素認定、設計住宅性能評価、CASBEE認証・LEED認証といった環境認証の取得支援、外皮計画や空調機の仕様を検討する環境解析コンサルティングを行っています。建築防災コンサルティングでは、自社開発ソフトによる避難安全検証、防災計画評定における防災計画コンサルティング、防災計画書の作成と行政・評定機関との協議を支援しています。
BIMソリューションコンサルティングでは、自社開発のパッケージソフトの販売、Autodesk社のRevitとの連携ソフトの提供、自社開発のBIMクラウドサービス「B-LOOP」の提供、空調設備分野のソフトウエアの受託開発、BIMの導入トレーニングや運用コンサルティングを行っています。設備設計業務は、仙台市に本社を置く連結子会社の鰐設計が、建築設備の設計・監理や3D-CADによるBIM設計を担当しています。
図5 発行者情報「事業の内容」「事業の系統図」をもとに作成。単一セグメント(建築環境・防災等コンサルティング事業)
顧客はゼネコンや設計事務所等で、販売実績の総額に対して10%以上を占める相手先はないとされています。海外の外部顧客への売上もありません。中国とベトナムの子会社は、グループ業務のオフショアリング先として位置づけられた非連結子会社です。
事業環境については、2025年4月の改正建築基準法の施行により、すべての新築建物について省エネ基準への適合が義務化されるなど、カーボンニュートラルに向けた取り組みが加速していることが挙げられています。同社は中期経営計画「ISPvisionNext50」(2023年7月から2026年6月)で、「IZUMIブランドで顧客のBIM導入・活用をリードし、カーボンニュートラルの実現に向けて貢献する建築環境・防災等のコンサルティング企業となる」ことをテーマに掲げています。対処すべき課題としては、人材の確保、収益基盤の確保(「環境×防災」「BIM×防災」のクロスセルや、エンボディードカーボンへの対応)、グループ経営管理体制の強化、コンプライアンス体制の強化の4つが挙げられています。
沿革と上場までの道のり|50年の事業と、新しい持株会社
IZUMIグループの沿革は、事業会社であるイズミコンサルティングの歴史と、持株会社である当社の歴史の2本立てで記載されています。事業会社側は、1973年の建築設備設計事務所としての創業から始まり、1982年の株式会社化とシステム事業部の創設、1986年のPAL/CEC計算(省エネ計算)ソフトの発売、1989年の省エネ措置届出の支援業務の開始と、省エネ計算の分野から事業を広げてきました。2007年にCASBEE認証コンサルティング、2011年に防災コンサルティング、2014年にLEED認証コンサルティングを開始し、2018年にはZEBプランナーに登録しています。
2011年4月に現代表取締役社長の小池康仁氏が代表取締役に就任し、2020年には仙台・名古屋・福岡に営業所を開設しました。2024年にはベトナムに子会社を設立し、中国の会社を子会社化しています。現在は東京、高崎、大阪ほか国内7拠点、海外2拠点で事業を展開しています。
図6 発行者情報「沿革」をもとに主要な出来事を抜粋して作成
一方、上場会社となった持株会社は、2016年9月設立の株式会社セイルズが前身です。2021年11月に商号を「IZUMIグループ株式会社」に変更し、2021年12月に工事管理ソフトの開発販売を行う株式会社CONITの株式を譲り受け、2022年1月に鰐設計の全株式を取得しました。そして2024年6月3日に投資運用事業を新設分割で切り出し、翌6月4日に株式交換でイズミコンサルティングを完全子会社化しています。その後、2025年2月にCONITを事業譲渡のうえ清算し、2025年3月に資本準備金をその他資本剰余金に振り替え、2025年12月に株式分割と単元株制度の採用を行って、2026年3月の上場に至っています。
図7 発行者情報「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」「企業結合等関係」「重要な後発事象」をもとに作成
上場準備の観点から見ると、「創業から長い歴史を持つ事業会社」と「比較的新しい持株会社」の組み合わせで上場していることがポイントです。上場するのは持株会社なので、発行者情報の主要な経営指標等も持株会社の連結数値として記載され、持株会社の回次(第7期〜第9期)で表示されています。グループ再編を伴う上場では、どの会社を上場会社にするのか、再編の前後で財務数値をどう見せるのかを、早い段階で監査法人やJ-Adviserと相談しておく必要があります。
業績の推移|2期連続の増収、純利益は2倍に
発行者情報には、第7期(2023年6月期)から第9期(2025年6月期)までの3期分の連結経営指標が記載されています。前述のとおり、監査を受けているのは第9期のみです。
| 項目(千円) | 2023年6月期 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,091,698 | 3,530,518 | 3,946,048 |
| 営業利益 | 記載なし | 709,628 | 795,449 |
| 経常利益 | 775,782 | 720,167 | 803,831 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 147,499 | 234,193 | 484,413 |
| 純資産額 | 1,560,762 | 1,763,973 | 2,248,392 |
| 総資産額 | 2,629,000 | 3,050,722 | 3,670,509 |
| 自己資本比率(%) | 59.4 | 57.8 | 61.3 |
| 自己資本利益率(%) | 9.9 | 14.1 | 24.1 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | - | 537,324 | 771,218 |
| 従業員数〔臨時〕(名) | 232〔39〕 | 271〔44〕 | 287〔51〕 |
図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成(百万円未満四捨五入)。監査対象は2025年6月期のみで、2023年6月期・2024年6月期は監査を受けていない
2025年6月期の売上高は3,946,048千円(前期比11.8%増)でした。発行者情報では、ZEBやZEHを要求する建物の増加や環境認証の取得の促進を背景に、建築環境・建築防災の事業で都市部の大型開発案件をはじめ受注が好調に推移し、BIMソリューション事業の受託開発はやや鈍化したものの、全体として増収になったと説明されています。費用面では、人員増に伴う人件費や外注費・IT関連費が増えたものの、増収効果が上回り、営業利益は795,449千円(同12.1%増)、経常利益は803,831千円(同11.6%増)となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は484,413千円で、前期比106.8%増と約2倍になっています。2024年6月期は当期純利益505,039千円のうち270,845千円が非支配株主に帰属していましたが、2024年6月の株式交換でイズミコンサルティングが完全子会社になったため、2025年6月期は非支配株主に帰属する当期純利益がなくなりました。純利益の増加は、本業の増益に加え、このような資本関係の整理の影響も受けています。
図9 発行者情報「連結損益計算書」をもとに作成。特別損失はソフトウエア等の固定資産除却損98,201千円と減損損失30,257千円
2025年6月期には特別損失が128,459千円計上されています。内訳は、ソフトウエア66,811千円とソフトウエア仮勘定31,389千円からなる固定資産除却損98,201千円と、イズミコンサルティングのソフトウエアに係る減損損失30,257千円です。一方で、同期には「B-LOOP」等の社内利用ソフトウエアの開発に324,174千円を投資しており、自社開発ソフトウエアへの投資と、その資産性の見直しが同時に進んでいることがわかります。キャッシュ・フローでは、営業活動で771,218千円を得て、投資活動で330,907千円、財務活動で36,945千円を使い、現金及び現金同等物の期末残高は1,347,917千円となっています。
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資本政策と株主構成|株主4名・新株予約権なしのシンプルな資本構成
IZUMIグループの資本構成は非常にシンプルです。2026年2月28日現在の株主は4名で、発行済株式総数は5,053,800株、種類株式・新株予約権(ストックオプション)・自己株式はいずれもありません。従業員株式所有制度(従業員持株会等)も「該当事項はありません」とされています。上場前の第三者割当等の概況も「該当事項はありません」です。
図10 発行者情報「関係会社の状況」「株主の状況」をもとに作成。持株比率は発行者情報記載時点(公募・売出しは行っていない)
| 株主 | 所有株式数(株) | 割合 | 発行者情報上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 株式会社SPRING | 1,786,380 | 35.35% | 代表取締役が議決権の100%を保有する資産管理会社 |
| ひと・コミュニケーションズ株式会社 | 1,634,532 | 32.34% | その他の関係会社(代表取締役又は二親等内の親族が議決権の過半数を所有) |
| 小池 康仁 | 1,518,888 | 30.05% | 代表取締役社長 |
| 坂上 亨 | 114,000 | 2.26% | 専務取締役 |
| 計 | 5,053,800 | 100.00% |
事業等のリスクの「特定人物への依存について」では、代表取締役社長の小池康仁氏が、資産管理会社の所有分を含めて発行済株式総数の65.4%を所有していると記載されています(SPRINGの1,786,380株と本人の1,518,888株の合計3,305,268株)。また、ホテルや飲食店を経営するひと・コミュニケーションズ株式会社(群馬県前橋市)は議決権の32.34%を保有する「その他の関係会社」とされています。上場申請時点の持株比率がそのまま上場時の比率になっているのは、上場に際して公募・売出しを行っていないためです。
図11 発行者情報「所有者別状況」「株主の状況」「事業等のリスク」「関係会社の状況」をもとに作成
TPMには流通株式比率などの形式基準がないため、このように創業家側で100%を保有したままでも上場することができます。一方で、一般市場では流通株式に関する基準があるため、将来一般市場を目指す場合には、株式をどのように分散させるかという資本政策の検討が別途必要になります。この論点は流通株式比率の計算式と調べ方や上場準備の資本政策で詳しく解説しています。
株式交換による完全子会社化と新設分割
資本政策の中心となったのが、2024年6月の2つの組織再編です。まず2024年6月3日に、当社を新設分割会社、株式会社SPRINGを新設分割設立会社とする新設分割を行い、投資運用事業(有価証券の取得・保有・運用及び投資)を切り出しました。これは分割の効力発生日に新設会社の株式の全てを当社に割り当て、その後に当社の株主へ現物配当する分割型の新設分割で、共通支配下の取引として処理されています。連結株主資本等変動計算書には「会社分割による減少」として利益剰余金△494,524千円が計上されています。
翌6月4日には、当社を株式交換完全親会社、イズミコンサルティングを株式交換完全子会社とする株式交換を行いました。交換比率はイズミコンサルティング株式1株に対して当社普通株式57株で、交付株式数は1,245,450株です。交換比率は独立した第三者算定機関に算定を依頼し、提出された報告書に基づいて当事者間で協議のうえ決定したとされています。目的は「柔軟かつ迅速な意思決定体制を構築し、中長期的な観点でグループ全体の企業価値向上に資すること」です。
図12 発行者情報「企業結合等関係」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成
会計処理は、共通支配下の取引等のうち「非支配株主との取引」として処理され、取得原価は当社普通株式の時価2,155,961千円、非支配株主との取引によって資本剰余金が1,811,545千円増加しました。発行済株式総数・資本金等の推移でも、2024年6月4日に1,245,450株が増加し、資本準備金が2,155,961千円増加しています。さらに、2025年3月1日には会社法448条1項に基づいて資本準備金2,000,000千円を減少させ、その他資本剰余金に振り替えています。
特別利害関係者等の株式等の移動状況には、この株式交換によるSPRING、ひと・コミュニケーションズ、小池康仁氏、坂上亨氏への株式の交付が記載されており、価格欄は株式交換のため「金額は生じておりません」とされています。また、特例115条及び同施行規則106条により、上場日から5年間、2023年7月1日から上場日の前日までの特別利害関係者等による株式等の譲受け・譲渡の状況の記録を保存するとされています。上場前の株式の移動が記録・開示の対象になる点は一般市場と同じ発想で、詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。
上場直前の株式分割と単元株制度の採用
2025年11月14日の取締役会決議により、2025年12月16日付で普通株式1株を4株に分割し、発行済株式総数は1,263,450株から5,053,800株になりました。あわせて、2025年12月15日の臨時株主総会で定款を変更し、2025年12月16日付で単元株式数を100株とする単元株制度を採用しています。株式分割の目的は「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大」とされています。株主名簿管理人はSMBC信託銀行で、上場に伴い振替株式となります。上場前には、こうした株式事務の整備も忘れずに進める必要があります。
コーポレート・ガバナンス|取締役3名と社外監査役1名の機関設計
IZUMIグループの機関設計は、取締役会と監査役を置く形です。取締役会は社内取締役3名(代表取締役社長、専務取締役、常務取締役)で構成され、社外取締役はいません。監査役は1名で、司法書士・行政書士事務所の代表を務める社外監査役です。監査役会は置かれていません。取締役会は原則として毎月1回の定期開催に加えて必要に応じて臨時に開催し、監査役が出席して必要に応じて意見を述べる体制です。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報より) |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 小池 康仁 | 久米設計を経てイズミシステム設計取締役、2011年同社代表取締役(現任)、2021年11月当社代表取締役(現任) |
| 専務取締役 | 坂上 亨 | 久米設計を経てイズミシステム設計専務取締役(現任)、2021年11月当社専務取締役(現任) |
| 常務取締役 | 小林 修一 | 西松建設、日本ERIを経て2020年イズミシステム設計入社、2021年11月当社常務取締役(現任) |
| 監査役(社外) | 大塚 正 | 司法書士・行政書士事務所代表(現任)、2024年6月当社監査役(現任) |
図13 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の模式図・本文をもとに作成
TPMは「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされ、一般市場のような機関設計の形式要件は示されていません。ただし、上場適格性要件の一つとして、企業の規模や成熟度等に応じてコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が整備・機能していることが求められ、J-Adviserが取締役の員数や役割、取締役会・株主総会の開催と議事録の状況などを調査します。小さな機関設計であっても、取締役会を定期的に開催し、監査役が実質的に監督する運用ができているかが問われると考えるべきでしょう。なお、TPMの上場会社に監査役会や独立社外取締役の設置が義務付けられるかどうかについて、本記事では断定しません。機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とはで整理しています。
社外監査役の大塚正氏については、当社との間に人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はないとされています。社外役員の独立性に関する基準や方針は定めていないものの、選任にあたっては東証の独立役員の独立性に関する判断基準を参考にしていると記載されています。リスク管理体制としては、弁護士や司法書士、社会保険労務士等の複数の専門家から助言を受ける体制をとっているとされています。
役員報酬と支配株主との取引
2025年6月期の役員報酬の総額は116,980千円で、取締役(社外取締役を除く)3名に114,580千円、社外役員1名に2,400千円が支給され、いずれも固定報酬です。取締役の報酬限度額は2025年12月15日の臨時株主総会で年額200,000千円以内、監査役の報酬限度額は2025年9月29日の定時株主総会で年額10,000千円以内と決議されています。役員の報酬等の決定方針は特に定めていないものの、役位、在勤年数、業績評価、会社の業績等を総合的に勘案し、株主総会で決議された報酬限度額の範囲内で決定するとされています。
支配株主との取引については、一般の取引条件と同等の条件に照らして決定し、少数株主の利益を害さないように対応する方針が示されています。また、関連当事者取引については、経営の健全性を損なっていないか、取引の合理性、取引条件の適正性に留意し、取引の際に取締役会の決議を必要とする方針です。株主が役員とその関係会社の4名に限られる会社でも、上場後は特定投資家が株主になり得るため、こうした少数株主保護の方針を明文化しておくことが重要です。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。
関連当事者情報を見ると、2024年6月期には、代表取締役社長からの子会社株式の取得(292,017千円、第三者機関により算定された評価額を基礎として両者合意のうえ決定)や、株式交換に関する取引(小池康仁氏602,990千円、坂上亨氏47,509千円、ひと・コミュニケーションズ681,191千円、SPRING744,473千円)、非連結子会社CONITへの貸付金の回収などが記載されています。2025年6月期は「該当事項はありません」とされており、再編に伴う関連当事者との取引が上場の前々期までに整理されていることがわかります。
内部監査・内部統制|内部監査2名と三様監査の連携
IZUMIグループの内部監査は、内部監査責任者1名と内部監査担当者1名の2名が、内部監査規程と内部監査計画書等に基づいて各部門の業務を監査する体制です。監査結果は代表取締役と被監査部門に報告され、必要に応じて被監査部門に改善を指示し、改善状況を継続的に確認するとされています。また、内部監査責任者は監査役及び監査法人と定期的に面談を行い、監査に必要な情報を共有しています。
図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」「監査報酬の内容等」をもとに作成。内部監査の所属部署・兼務の有無・自己監査の回避策は記載がない
発行者情報には、内部監査担当者の所属部署や他業務との兼務の有無、自分の所属部署を監査しない(自己監査を回避する)ための工夫については記載がありません。少人数の会社では内部監査担当者が管理部門と兼務になることが多く、その場合には自分の所属部署を別の担当者が監査する「クロス監査」などの手当てが必要になります。この点は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)やIPO審査の「内部監査」とはで解説しています。
内部統制システムについては、職務権限規程を遵守して業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中しないようにすることで、内部牽制機能が働くよう努めているとされています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、上場適格性要件として内部管理体制の整備・機能が求められることに変わりはありません。持株会社の単体従業員が7名という体制で、グループ全体の内部管理をどう回していくかは、対処すべき課題に挙げられている「グループ経営管理体制の強化」にもつながる論点です。三様監査の連携の考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。
会計監査人と監査報酬
会計監査は、ふじみ監査法人が特例110条5項の規定に基づいて行っています。2025年6月期の監査を執行した公認会計士は井上敦氏と淡路洋平氏の2名で、いずれも継続監査年数は7年以内、監査業務の補助者は公認会計士5名です。監査証明業務に基づく報酬は20,700千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、グループの事業規模等を考慮して決定しているとされています。
会計・開示の論点|検収基準の収益認識と自社開発ソフトウエア
連結財務諸表は、連結財務諸表規則に基づき、特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。TPMでは、日本基準のほか米国基準やIFRS、これらと同等と認められる基準も採用できますが、同社は日本基準を採用しています。
収益の内訳と収益認識の時点
収益認識関係の注記では、顧客との契約から生じる収益がサービス別に分解されています。2025年6月期は、建築環境・建築防災が3,391,308千円と売上高の大半を占め、設備設計250,590千円、システム利用収入156,926千円、受託開発146,983千円と続きます。前期と比べると、建築環境・建築防災と設備設計、システム利用収入が増え、受託開発は減少しています。
図15 発行者情報「収益認識関係」の「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」をもとに作成。このほか非連結子会社からの経営指導料(2024年6月期960千円、2025年6月期240千円)がある
収益を認識する時点は、サービスの性質によって3つに分かれています。コンサルティング業務と設備設計業務は、成果物の提供を履行義務として識別し、成果物の納品後に検収された時点で一時点の収益を認識します。受託開発は、期間のごく短い契約を除き、見積総工数に対する発生工数に基づくインプット法で進捗度を測定し、一定の期間にわたって収益を認識します。BIMクラウドサービス「B-LOOP」等のシステム利用収入は、契約期間の経過に応じて収益を認識します。
図16 発行者情報「重要な収益及び費用の計上基準」「事業等のリスク」をもとに作成
売上の大半が検収時点で計上される事業では、期末をまたぐ案件の検収日の確認が監査上も審査上も重要になります。事業等のリスクでも「大半の売上が顧客への納品・検収時に計上されますが、顧客都合による遅延…により、納品遅延等の不測の事態が発生した場合」に業績に影響を及ぼす可能性があると記載されています。貸借対照表には仕掛品395,974千円(前期322,704千円)が計上されており、仕掛品は個別法による原価法で評価されています。検収前の案件に集計された原価をどう管理し、不採算案件をどう把握するかも、上場準備で整えておきたいポイントです。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で解説しています。
重要な会計上の見積りと特徴的な注記
重要な会計上の見積りとしては、繰延税金資産の回収可能性と固定資産の減損の2つが挙げられています。繰延税金資産は将来の業績見通しに基づいて課税所得を見積り、回収可能性を判断しており、2025年6月期末の繰延税金資産(純額)は108,342千円(前期24,196千円)です。固定資産の減損は、事業単位ごとに資産をグルーピングし、将来の利益計画に基づく将来キャッシュ・フローで判定しており、2025年6月期はイズミコンサルティングのソフトウエアについて30,257千円の減損損失を計上しています。自社利用のソフトウエアは、社内における利用可能期間(3〜5年)に基づく定額法で償却されています。
このほか、退職給付の注記では、当社及び一部の連結子会社が当連結会計年度に退職一時金制度(非積立型)を終了し、給付額の一部を中小企業退職金共済制度からの給付額で充当していることが記載されています。未適用の会計基準等としては、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号等)を2028年6月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中とされています。上場準備の過程では、こうした制度変更や新基準の影響も、監査法人と早めに協議しておく必要があります。
事業等のリスクとJ-Adviser契約|TPMならではの開示
事業等のリスクには、業界動向の変動、急激な技術革新、自然災害等の事業環境に関するリスク、納品・検収時期による業績への影響、システム受託開発の不採算化、特定の外注先への依存、取引先の信用リスク、システム障害、コンサルティング業務の品質(省エネ基準の適合性判定の誤り等)、固定資産の減損といった事業内容に関するリスク、法的規制や個人情報漏洩、訴訟などの法令等に関するリスク、人材の確保、M&Aによる事業拡大、特定人物への依存が挙げられています。
TPMならではの項目が「担当J-Adviserとの契約の解除に関するリスク」です。J-Adviser契約はTPMにおける新規上場と上場維持の前提となる契約であり、契約が解除され、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止となります。IZUMIグループの発行者情報では、日本M&Aセンターとの契約で定められた即日無催告解除の事由(債務超過、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など18項目)と、契約違反の場合の1か月の書面催告、合意解除や1か月前の書面通知による解除の定め、解除時には特段の事情のない限りJ-Adviserが東証に事前に通知することが開示されています。
図17 発行者情報「事業等のリスク(担当J-Adviserとの契約の解除に関するリスクについて)」をもとに作成
公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。上場準備会社にとっては、J-Adviser契約の解除事由を「上場後に守るべきルールの一覧」として読み込み、発行者情報の提出期限の管理や、虚偽記載を防ぐための開示体制を上場前から整えておくことが大切です。なお、契約解除後に別のJ-Adviserと契約するまでの「必要な期間」の具体的な長さは、本記事では扱いません。
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
IZUMIグループの発行者情報には、将来の一般市場への市場変更や新規上場についての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す会社一般にとっての示唆を整理します。まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場という形で行われます。例えばAlbaLinkは、2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場しています。
東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場にあたっての審査は非上場企業と同様に一から確認が行われており、相応の負担があるとの認識を示しています。そのうえで2026年4月には、「26年秋めど」にTPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表しましたが、本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません。一般市場を目指す場合には、TPMで省略・任意とされている事項(直前2期の監査、内部統制報告制度への対応、四半期の開示、流通株式の確保など)を、別途準備する必要があると考えておくのが安全です。
上場準備会社が学べること
IZUMIグループの事例から、上場準備会社が学べるポイントを6つにまとめます。
1つ目は、上場は必ずしも資金調達を伴わないということです。同社は特定投資家向けの勧誘を行わず、発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。上場で何を得たいのかを整理し、それに合った市場と上場の方法を選ぶことが出発点になります。
2つ目は、TPMの監査期間は最近1年間であることです。同社は2025年6月期の1期分の監査で上場しています。監査が不要になるわけではないため、監査法人との契約時期から逆算したスケジュールが必要です。
3つ目は、上場前に資本関係を整理しておくことです。同社は新設分割で投資運用事業を切り出し、株式交換で事業会社を完全子会社化して、上場の前々期までに持株会社体制を整えています。交換比率を第三者算定機関の算定に基づいて決定している点も、少数株主や将来の投資者への説明の観点から参考になります。
4つ目は、会社の規模に応じた機関設計でも上場できる一方、その運用が問われるということです。取締役3名と社外監査役1名の体制でも、取締役会の定期開催、監査役の出席と意見陳述、関連当事者取引の取締役会決議といった運用の実態が重要です。
5つ目は、株式事務の整備です。株式分割、単元株制度の採用、株主名簿管理人の選定、振替株式への移行は、上場日から逆算して計画的に進める必要があります。
6つ目は、J-Adviser契約が上場維持の前提であることです。契約の解除事由を理解し、上場後の開示や法令遵守の体制を整えておくことが、TPMで上場を続けるための条件になります。
図18 本記事の解説をもとに作成
- 上場で何を実現したいのか(資金調達、信用力、採用、一般市場への助走など)を整理し、TPMか一般市場かを比較検討したか
- 監査対象期の期首までに監査法人と契約し、最近1年間の監査を受けられるスケジュールになっているか
- 持株会社化や子会社の完全子会社化など、資本関係の整理を上場申請の前に終えられる計画になっているか
- 取締役会の定期開催・議事録、監査役の監査、関連当事者取引の承認手続を運用できているか
- 内部監査の担当者・計画・報告ルートを決め、自己監査を回避する手当てをしているか
- J-Adviser契約の解除事由を確認し、発行者情報の提出期限や適時開示を管理する体制を整えているか
よくある質問
形式基準(数値基準)がないだけで、担当J-Adviserが上場適格性要件(5項目)への適合を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を東証に提出します。東証も意向表明の後に面談を行います。「審査がない」という理解は正確ではありません。
していません。発行者情報の表紙には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表すると記載されています。
TPMの新規上場で求められる監査期間は最近1年間です。IZUMIグループも2025年6月期の連結財務諸表のみ監査を受けています。ただし監査そのものは必要で、上場後も年次・中間の発行者情報の財務諸表に監査意見等が必要です。
一般投資家は取引所に新たな買い注文を出すことはできませんが、すでに保有している株式を売却することはできます。市場で株式を買い付けられるのは特定投資家等です。
最初の一歩は「上場で何を得たいか」を言葉にすること
TPMにするか一般市場にするかで、必要な監査期間、開示書類、機関設計、資本政策は大きく変わります。最初の一歩として、上場で実現したいことと、現在の管理体制・資本構成とのギャップを洗い出してみてください。現状の課題を短期間で把握する方法としては、ショートレビューの活用も有効です。
まとめ
IZUMIグループは、建築環境・防災・BIMのコンサルティングを手がけるグループの持株会社で、2026年3月9日の上場申請受付、3月24日の上場承認を経て、2026年3月31日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserは日本M&Aセンターで、上場に際して公募・売出しは行わず、発行者情報に相当する情報を公表しています。
発行者情報からは、新設分割と株式交換による持株会社体制の構築、上場直前の株式分割と単元株制度の採用、1期分の監査による上場、取締役3名と社外監査役1名の機関設計、内部監査2名と三様監査の連携、検収基準を中心とする収益認識、J-Adviser契約の解除条項の開示といった論点を具体的に読み取ることができます。TPMへの上場を検討する会社は、本記事のチェックリストを使って準備状況を確認してみてください。
市場選択の検討、ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示書類の作成まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「IZUMIグループ 発行者情報」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 新規上場会社情報」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Marketの概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ「AlbaLinkのグロース市場への新規上場」関連公表(2025年11月11日)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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