田村ビルズグループのTOKYO PRO Market上場|公募なしの上場と監査1年【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

株式会社田村ビルズグループ(証券コード524A)は、山口県山口市に本店を置き、建築・不動産事業と環境リサイクル事業を営む子会社4社を束ねる純粋持株会社です。2026年2月20日に東京証券取引所が上場申請を受け付け、3月9日に上場承認を受けて、2026年3月25日にTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。担当J-Adviserは株式会社船井総合研究所です。本記事では、同社が上場に際して公表した「発行者情報」(2026年2月20日公表)と2回の「訂正発行者情報」(2月27日・3月13日公表)を読み、TPMへの上場を検討している会社や、将来の一般市場への上場を見据える上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、田村ビルズグループの書類は「公募・売出しを行わずにTPMへ上場する会社が、どのような書類を、どのような監査を受けて公表するのか」を具体的に確認できる事例です。同社は上場に際して特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行わないため、特定証券情報ではなく「発行者情報に相当する情報」を公表して上場しています。最近1年間(2025年5月期)の連結財務諸表の監査と中間監査、担当J-Adviserとの契約の解除条項、取締役3名・社外監査役2名というコンパクトな機関設計、そして「特定投資家等向け市場への上場を除く」と定めたストック・オプションの行使条件など、TPMならではの論点が1つの書類にまとまっています。

田村ビルズグループとはどんな会社で、どのようにTPMに上場したのか

田村ビルズグループのルーツは、1879年に山口県長門市で食料品店として創業された田村屋です。1972年に田村建材株式会社を設立して建築資材販売業を営み、1992年の産業廃棄物処理業の許可取得、2007年の宅地建物取引業の許可取得を経て、産業廃棄物処理業と建築・不動産事業へと事業を転換してきました。現在の当社は、2014年1月に純粋持株会社「株式会社たむらホールディングス」として設立され、2022年10月に現在の商号に変更しています。

当社自身はグループ全体の経営マネジメントと経理・総務等のバックオフィス業務を担い、事業は100%子会社4社が営んでいます。建築・不動産事業は株式会社田村ビルズと株式会社ふたば不動産、環境リサイクル事業はタムラエンバイロ株式会社と有限会社キャロットたむらが運営する体制です。4社はいずれも特定子会社とされています。

項目 内容(発行者情報・東証公表情報の記載)
正式社名 株式会社田村ビルズグループ(Tamura Builds Group Co.,Ltd.)
証券コード・市場 524A・東京証券取引所 TOKYO PRO Market
申請受付日/上場承認日/上場日 2026年2月20日/2026年3月9日/2026年3月25日
担当J-Adviser 株式会社船井総合研究所
上場時の勧誘 特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等は実施しない(公募・売出しなし)
本店所在地・代表者 山口県山口市黒川400番地1・代表取締役 田村伊幸
設立・決算期 2014年1月(持株会社として設立)・5月31日
セグメント 建築・不動産事業、環境リサイクル事業
連結売上高・経常利益(2025年5月期) 7,676,225千円・461,103千円
従業員数(2026年1月31日) 連結205名(ほか臨時50名)、当社72名(ほか臨時9名)
発行済株式数・株主数 1,000,000株・3名(2026年1月31日現在)
機関設計 取締役3名(社外取締役なし)、監査役2名(いずれも社外監査役)
監査人 監査法人コスモス(特例第110条第5項に基づく監査)
田村ビルズグループのグループ構成株主(創業家・資産管理会社 等)株式会社田村ビルズグループ(純粋持株会社・TOKYO PRO Market上場)㈱田村ビルズ建築・不動産㈱ふたば不動産建築・不動産タムラエンバイロ㈱環境リサイクル㈲キャロットたむら環境リサイクル当社の役割:グループ全体の経営マネジメントと、経理・総務等のバックオフィス業務

図1 当社(純粋持株会社)と連結子会社4社の関係。いずれも当社の100%子会社。発行者情報「事業の内容」「関係会社の状況」をもとに作成

従業員数は連結で205名(2026年1月31日現在、ほかに臨時雇用者50名)で、セグメント別には建築・不動産事業131名、環境リサイクル事業53名、全社(共通)21名です。当社単体は72名、平均年齢29.1歳、平均勤続年数3.0年、平均年間給与4,751千円と記載されています。売上高の10%を超える販売先はなく、顧客が分散しているのも特徴です。

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事業内容と収益モデル:何で稼いでいるのか

建築・不動産事業:「ALL LIVING」で住まいをワンストップに

建築・不動産事業は「ALL LIVING」を事業コンセプトに掲げ、「住む」という営みに関わるサービスをワンストップで提供する方針です。中古住宅の売買仲介で店舗展開をしながら、店舗に集まる不動産情報に付加価値を付けることで、事業を多角化してきたと説明されています。

具体的には、①中古住宅を買い取ってリフォームし「LFB再生住宅」として再販する中古住宅買取再販(主要事業)、②土地を仕入れて新築住宅を建てる「LFB新築住宅」の新築建売、③土地とアパートをセットで投資家に販売する「LFBアパートメント」、④新築・リフォームの請負工事と仮設足場の架け払い工事、⑤山口県を中心に福岡県・熊本県などに計11拠点を構える不動産売買仲介、⑥「LFB賃貸」の賃貸仲介・賃貸管理、サブスクリプション型の不動産情報MAPシステム「スモーラ」、不動産特定共同事業法に基づく不動産投資型クラウドファンディング、の6つに整理されています。売買仲介の11拠点のうち9店舗は、株式会社And Doホールディングスが運営する「ハウスドゥ」ブランドのフランチャイズに加盟しています。

建築・不動産事業の「ALL LIVING」モデル売買仲介店舗11拠点(うち9店舗はハウスドゥに加盟)店舗に集まる不動産情報に付加価値を付ける顧客住宅一次取得者・投資家売主・物件オーナー 等中古住宅買取再販LFB再生住宅(主要事業)新築建売LFB新築住宅投資用アパート販売LFBアパートメント建築・足場新築・リフォームの請負賃貸仲介・賃貸管理LFB賃貸スモーラ・不動産CF不動産テック 等

図2 売買仲介店舗に集まる不動産情報に付加価値を付け、「住」に関わる事業を多角化している。発行者情報「沿革」「事業の内容」をもとに作成

環境リサイクル事業:収集運搬から最終処分までの一貫体制

環境リサイクル事業は、建設現場から出る建設系産業廃棄物の処理を主力としています。タムラエンバイロ株式会社が収集運搬と中間処理(選別・破砕・圧縮)を、有限会社キャロットたむらが中間処理と安定型最終処分場の運営を担い、収集運搬から中間処理、リサイクル、最終処分までをグループ内で完結させる体制です。選別過程で出る金属くず・紙くずや、破砕した木質チップは有価物として売却しています。

最終処分場は埋立容量約53万立方メートル(2025年3月末日現在。対処すべき課題では残余容量を約31万立方メートルと記載)で、2025年6月には埋立容量を約99万立方メートルとする産業廃棄物処理施設の変更許可を取得しました。対処すべき課題では、拡張後は残余容量が約77万立方メートルに拡大し、将来にわたる大きな収益源になると考えている旨が記載されています。また、山口市での移動式木屑破砕施設等の新設(投資予定総額327,000千円、2026年12月完了予定)により、長門市への木くずの2次運搬をなくしてコストを下げる計画も示されています。

環境リサイクル事業の一貫処理体制排出事業者建設系の産業廃棄物 等収集運搬タムラエンバイロ㈱中間処理選別・破砕・圧縮最終処分安定型最終処分場㈲キャロットたむら有価物として売却金属くず・紙くず・木質チップ最終処分場:埋立容量 約53万㎥(2025年3月末日現在。残余容量 約31万㎥)2025年6月に埋立容量 約99万㎥とする変更許可を取得(拡張後の残余容量 約77万㎥)

図3 収集運搬から中間処理、最終処分までをグループ内で担う。発行者情報「事業の内容」「対処すべき課題」をもとに作成

このように、田村ビルズグループは性質の異なる2つの事業を持ち、それぞれが宅地建物取引業法、建設業法、廃棄物処理法などの許認可に支えられています。発行者情報の「事業等のリスク」には、許認可の種類・番号・有効期限・取消事由の根拠条文までを一覧にした表が掲載されています。許認可ビジネスの会社が上場準備をする際は、こうした一覧を早めに作り、更新期限の管理と法令違反の未然防止の仕組みを説明できるようにしておくことが重要です。上場審査で許認可がどのように確認されるかは、IPOで許認可はどこまで見られるかでも解説しています。

沿革と上場までの道のり

沿革を見ると、田村ビルズグループは140年を超える歴史の中で、食料品店、建築資材販売、産業廃棄物処理、建築・不動産と、時代に合わせて事業を変えてきたことがわかります。2014年の持株会社設立以降は、2019年12月の山口住宅有限会社、2020年2月の有限会社双葉不動産、2022年12月の株式会社エコハウス、2023年5月の株式会社アービックマネジメントの完全子会社化と、M&Aで不動産事業のエリアと機能を広げてきました。その後、子会社同士の吸収合併で組織を整理し、2025年4月にアービックマネジメントを田村ビルズに吸収合併したことで、現在の5社体制になっています。

1879年の創業からTOKYO PRO Market上場まで1879年田村屋創業(長門市)1972年田村建材㈱設立1992年産廃処分業の許可取得2007年宅建業許可ハウスドゥ出店2014年持株会社を設立2019〜20年山口住宅・双葉不動産を子会社化2022年現商号へ変更エコハウス取得2023年スモーラ開始福岡本社開設2025年子会社の合併処分場拡張許可2026年3月TOKYO PROMarketに上場

図4 食料品店から建築資材販売、産業廃棄物処理、建築・不動産へと事業を転換してきた。発行者情報「沿革」をもとに作成

上場前後の日程も、書類と東京証券取引所の公表情報から確認できます。2025年5月期の連結財務諸表に対する監査報告書の日付は2026年2月18日、上場申請の受付日と発行者情報の公表日はいずれも2026年2月20日です。その後、2月25日付の中間監査報告書を受けて、2月27日に中間連結会計期間(2025年6月1日〜11月30日)の情報を追加する訂正発行者情報が公表されました。3月9日に上場承認を受け、3月13日には新株予約権の目的となる株式の数を訂正する訂正発行者情報が公表され、3月25日に上場しています。

申請受付日の2月20日から上場承認日の3月9日までは、土日祝日を除いて数えると10営業日です。JPXの上場ガイドブックでは、TPMでは原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとされており、その日程どおりに進んだ事例といえます。もっとも、この10営業日の前には、担当J-Adviserによる上場適格性の調査・確認と、上場申請日の30営業日程度前までの意向表明という段階があります。

上場申請から上場日までの開示書類と日程2026/2/18年度の監査報告書(2025年5月期)2026/2/20上場申請受付発行者情報を公表2026/2/25中間監査報告書(2025年11月中間期)2026/2/27訂正発行者情報(中間期の追加)2026/3/9上場承認2026/3/13訂正発行者情報(新株予約権の株式数)2026/3/25TOKYO PRO Marketに上場

図5 発行者情報は上場申請(申請受付日)と同じ日に公表され、その後2回訂正されている。日付は各書類と東京証券取引所の新規上場会社情報による

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

田村ビルズグループの発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的を説明した記載は見当たりません。東京証券取引所は2026年4月から、新規上場会社に対して「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請していますが、同社の上場はそれより前の2026年3月です。そのため本記事では、同社の理由を推測することはせず、TPMという市場の一般的な特徴を整理するにとどめます。

TPMは、2009年に開設されたTOKYO AIMを前身とし、2012年から東京証券取引所が運営している、特定投資家(いわゆるプロ投資家)向けの市場です。一般市場(プライム・スタンダード・グロース)と比べると、株主数や流通株式、利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する仕組みになっています。上場前に必要な監査期間も「最近1年間」とされています。東京証券取引所は2026年4月に、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直しています。

なお、TPM上場が資金調達と結びつくとは限りません。東京証券取引所が公表した上場目的の開示状況(2026年6月15時点)でも、上位は社内体制の強化、営業力の強化、採用力の強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度でした。田村ビルズグループも上場に際して公募・売出しを行っていません。

TOKYO PRO Marketの主な特徴形式基準(数値基準)がない株主数・流通株式・利益の額などの基準なし担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認(5つの適格性要件)上場前の監査期間は「最近1年間」(一般市場の新規上場は直前2期)開示書類は特定証券情報・発行者情報年次・中間とも期末後3か月以内特定投資家向けの市場一般投資家は買付け不可・売却は可四半期開示・内部統制報告書は任意会計基準は日本・米国・IFRS等

図6 JPXの「TOKYO PRO Market概要」「上場基準」等の説明をもとに作成。田村ビルズグループ固有の上場理由を示すものではない

TPMの上場の仕組みを田村ビルズグループの書類で確認する

形式基準はないが、担当J-Adviserが上場適格性を調査する

TPMには形式基準がありませんが、「上場審査がない」わけではありません。JPXの上場基準では、①企業としての相応性(法律・会計・税務の理解、予算統制、上場予定日から12か月間の運転資金の確保など)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること(関連当事者取引の牽制など)、③企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンスと内部管理体制の整備・運用、④適正な企業内容の開示体制(内部者取引の防止を含む)、⑤反社会的勢力との関係がないこと、という5つの上場適格性要件が定められています。これを調査・確認するのが担当J-Adviserで、J-Adviserは「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東京証券取引所に提出します。

田村ビルズグループの書類にも、この要件に対応する記載が見られます。たとえば「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」には、上場予定日(2026年3月25日)から12か月間の運転資本は、現状の自己資金と金融機関からの借入による資金調達が可能であることから十分であると判断している旨が書かれています。関連当事者との取引は「該当事項はありません」とされ、支配株主との取引を行う際の少数株主保護の方針も記載されています。

TOKYO PRO Marketの上場手続の流れJ-Adviser契約の締結担当J-Adviserの調査・確認意向表明(申請日の30営業日程度前まで)東証による面談上場申請(対外公表)上場承認(申請から原則10営業日後)上場日田村ビルズグループ:申請受付 2026年2月20日 → 上場承認 3月9日 → 上場 3月25日担当J-Adviser:株式会社船井総合研究所

図7 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」の手続の流れを要約し、田村ビルズグループの日程を当てはめたもの

公募・売出しをしないため「発行者情報に相当する情報」を公表

TPMで株式を取得してもらうための勧誘は、金融商品取引法上、特定投資家のみを相手方とする「特定投資家向け取得勧誘」や「特定投資家向け売付け勧誘等」(いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)として行われ、その場合は有価証券届出書ではなく「特定証券情報」を勧誘時までに提供・公表することになります(金融商品取引法第27条の31)。一般市場の新規上場で使われる「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に相当する役割の書類です。

一方、田村ビルズグループは表紙で、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例(以下「特例」)第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表すると説明しています。つまり、新たに株式を発行したり既存株主が売り出したりせず、既存の株式をそのまま上場させる形です。書類の名称も「発行者情報」で、上場後に年次・中間で公表する発行者情報と同じ様式で上場時の情報が示されています。

上場時に公表する書類はどう決まるか上場時に特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行うか特定証券情報を提供・公表(金商法27条の31)発行者情報に相当する情報を公表(特例110条3項)田村ビルズグループは公募・売出しを行わず、発行者情報に相当する情報を公表して上場行う行わない

図8 金融商品取引法第27条の31と、発行者情報の表紙の記載(特例第110条第3項)をもとに作成

監査期間は「最近1年間」。それ以前の期は監査を受けていない

TPMでは上場前の監査期間が「最近1年間」とされ、一般市場の新規上場で求められる直前2期の監査よりも短くなっています。ただし、監査自体が不要になるわけではありません。特定証券情報や発行者情報に載せる財務書類には、監査法人による無限定適正意見の監査報告書等が必要で、中間の財務諸表には中間監査意見又はレビューの結論が必要です。

田村ビルズグループの発行者情報には、第10期(2023年5月期)から第12期(2025年5月期)までの3期分と、第13期中間期の主要な経営指標等が載っています。注記には、特例第110条第5項に基づいて第12期の連結財務諸表について監査法人コスモスの監査を受けているが、第10期と第11期の連結財務諸表は監査を受けていない旨、第13期中間期は中間監査を受けている旨が明記されています。2025年5月期の監査報告書(2026年2月18日付)も「その他の事項」として、前連結会計年度の連結財務諸表は監査されていないことを記載しています。

監査期間が短いことは準備期間の短縮につながる一方で、比較情報として載る前期の数値は監査を受けていないことになります。読み手に誤解を与えないよう、どの期が監査済みかを明示する開示の工夫は、TPM上場を目指す会社にとって参考になります。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかもあわせてご覧ください。

発行者情報に載っている各期と監査の有無第10期2023年5月期第11期2024年5月期第12期2025年5月期第13期中間2025年11月中間期監査を受けていない監査を受けていない監査(適正意見)2026/2/18付中間監査2026/2/25付監査人:監査法人コスモス(特例第110条第5項に基づく監査証明)年度の監査報告書には「前連結会計年度の連結財務諸表は監査されていない」旨の記載がある

図9 発行者情報「主要な経営指標等の推移」の注記と監査報告書をもとに作成。第10期・第11期の数値は監査を受けていない

J-Adviser契約は上場維持の前提になる

TPMの上場会社は、上場後も担当J-Adviserとの契約を維持する必要があります。JPXの上場ガイドブックでは、J-Adviserから契約解除の通知を受けた上場会社が、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約を締結できなかった場合には上場廃止となるとされています。J-Adviserは上場前の適格性の調査だけでなく、上場後の適時開示の助言・指導や、上場維持要件への適合状況の調査も担います。

田村ビルズグループは「事業等のリスク」の中に、担当J-Adviserである船井総合研究所との契約の解除条項を詳しく載せています。債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など①から⑱までの事由に該当した場合には即日無催告で解除できること、契約違反があれば相当の期間(特段の事情のない限り1カ月)を定めて催告したうえで解除できること、合意によりいつでも、又は1カ月前の書面通知により解除できること、解除する場合はJ-Adviserがあらかじめ東京証券取引所に通知することが定められています。

担当J-Adviserとの契約と解除の仕組み田村ビルズグループ(上場会社)船井総合研究所(担当J-Adviser)東京証券取引所即日無催告解除債務超過、銀行取引停止、虚偽記載など①〜⑱催告による解除義務違反を相当期間(原則1カ月)で是正せず合意解除・通知解除合意でいつでも、又は1カ月前の書面通知契約解除後、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなければ上場廃止となるJ-Adviser契約解除時は事前に通知

図10 発行者情報「事業等のリスク(18)担当J-Adviserとの契約」の記載を要約。上場廃止との関係はJPX「上場ガイドブック」による

一般市場(グロース・スタンダード)との違い

ここまでの内容を、一般市場の新規上場と比べて整理すると次のとおりです。TPMは一般市場の一種ではなく、法令上は「特定取引所金融商品市場」という別の市場です。一般投資家は取引所で買い付けることができませんが、保有している株式を売却することはできます。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
主な投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可) 制限なし
形式基準 なし(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準なし) あり(株主数・流通株式など)
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認(東証は面談等) 東証の上場審査(主幹事証券の引受審査も)
申請から承認まで 原則10営業日(申請前に意向表明・J-Adviserの調査) 東証の上場審査を経て承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時の開示書類 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)・有価証券届出書
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書・四半期決算短信
四半期開示・内部統制報告書 いずれも任意 四半期決算短信・内部統制報告書が必要
コーポレートガバナンス・コード JPXがコードの適用対象として示しているのはプライム・スタンダード・グロース グロースは基本原則、スタンダードは全原則

このほかTPMでは、会計基準として日本基準・米国基準・IFRSと、これらと同等と認められる基準を使うことができ、開示は日本語又は英語で行えます。東京証券取引所は2026年秋をめどに、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化や、開示様式の共通化・簡素化を進める予定と公表していますが、本記事の執筆時点(2026年10月7日)で規程改正として実施済みかどうかは確認できていません。最新の取扱いは必ず東京証券取引所の公表資料で確認してください。

業績の推移:増収と営業利益の伸び、在庫と借入の増加

項目(連結・千円) 2023年5月期 2024年5月期 2025年5月期 2025年11月中間期
売上高 5,858,642 6,782,641 7,676,225 3,864,425
経常利益 179,888 192,404 461,103 19,016
親会社株主に帰属する当期(中間)純利益 61,707 291,401 224,570 12,079
純資産額 1,356,282 1,667,869 1,894,028 1,902,836
総資産額 7,323,262 7,695,091 7,829,948 10,732,712
自己資本比率 18.5% 21.7% 24.2% 17.7%
営業活動によるキャッシュ・フロー 77,462 △281,483 191,337 △2,073,892
監査 未監査 未監査 監査(適正) 中間監査

2025年5月期の売上高は7,676,225千円(前期比13.2%増)、営業利益は506,644千円(同145.5%増)、経常利益は461,103千円(同139.7%増)でした。親会社株主に帰属する当期純利益は224,570千円で前期比22.9%減ですが、前期(2024年5月期)には保険解約返戻金175,968千円を特別利益に計上しており、その反動が含まれています。2025年5月期の特別損失には、退職一時金制度等から確定拠出年金制度への移行に伴う退職給付制度改定損18,402千円、営業店舗の減損損失7,537千円、固定資産除却損21,510千円が計上されています。

配当は行っておらず、配当政策では事業が成長過程にあると認識していることから当事業年度は配当を実施していないとしたうえで、配当を行う場合は年1回の期末配当を考えていること、中間配当を取締役会決議で行える旨を定款に定めていることが記載されています。

売上高と利益の推移(連結)売上高02,0004,0006,0008,0002023/5期2024/5期2025/5期経常利益・当期純利益01252503755002023/5期2024/5期2025/5期経常利益親会社株主に帰属する当期純利益

図11 単位:百万円(千円未満を四捨五入)。発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成。2023年5月期・2024年5月期は監査を受けていない数値

セグメント別に見ると、2025年5月期の建築・不動産事業は、住宅価格の高止まりで中古住宅への需要が増えたことから売上高が6,748,547千円(前期比17.9%増)となり、継続的な原価管理で利益率が向上してセグメント利益は511,723千円(同248.4%増)でした。一方、環境リサイクル事業は、住宅着工数の減少などで廃棄物の受入量が減り、売上高927,678千円(同12.4%減)、燃料・資材価格の高騰もあってセグメント利益は116,825千円(同45.7%減)となっています。2つの事業の利益の動きが逆方向だった点は、複数事業を持つ会社の業績説明の参考になります。

セグメント利益の変化(2024年5月期→2025年5月期)01503004506002024/5期2025/5期建築・不動産環境リサイクル建築・不動産売上 6,749百万円(17.9%増)環境リサイクル売上 928百万円(12.4%減)営業利益 507百万円(前期 206百万円)

図12 単位:百万円(千円未満を四捨五入)。発行者情報「セグメント情報」をもとに作成。セグメント利益の合計から全社費用を差し引いたものが営業利益

財政状態では、販売用不動産の比重の大きさが目立ちます。「事業等のリスク」では、2025年5月期末の販売用不動産は総資産の約51%、有利子負債残高は4,776,273千円で総資産に占める比率は61.0%と記載されています。2025年11月の中間期末には、販売用不動産が5,491,282千円、仕掛販売用不動産が1,281,773千円に増え、総資産は10,732,712千円になりました。中間期の営業キャッシュ・フローは、棚卸資産の増加2,101,242千円により2,073,892千円のマイナスとなり、短期借入金の純増1,597,400千円、長期借入れ1,220,000千円、社債の発行342,475千円などで資金を手当てしています。中間期末の自己資本比率は17.7%です。

販売用不動産・借入金等・純資産の推移02,0004,0006,0008,0002024年5月末2025年5月末2025年11月末販売用不動産借入金等純資産

図13 単位:百万円。販売用不動産は「販売用不動産」と「仕掛販売用不動産」の合計、借入金等は短期借入金・長期借入金・社債(1年内を含む)の合計で、いずれも連結貸借対照表から集計

資本政策と株主構成:創業家が保有し、潜在株式は7.32%

田村ビルズグループの発行済株式数は1,000,000株(普通株式のみ、単元株式数100株)で、2023年4月19日に1株を1,000株とする株式分割を行っています。資本金は1,000千円で、資本準備金はありません。2026年1月31日現在の株主数は3名で、所有者別には「その他の法人」1名が35.0%、「個人その他」2名が65.0%です。

第四部「株主の状況」によると、株主は代表取締役の田村伊幸氏(350,000株)、資産管理会社の株式会社TMR(350,000株)、田村英子氏(300,000株)の3名で、新株予約権の潜在株式79,000株を含めた株式総数1,079,000株に対する比率はそれぞれ32.44%、32.44%、27.80%です。役員の状況では、田村伊幸氏の所有株式数を、資産管理会社の保有分を含めて700,000株と記載しています。種類株式、自己株式、従業員持株会はなく、ベンチャーキャピタルなどの外部株主もいません。

株主構成と潜在株式(2026年1月31日現在)田村 伊幸350,000株(32.44%)株式会社TMR350,000株(32.44%)田村 英子300,000株(27.80%)新株予約権の潜在株式 79,000株(7.32%)発行済株式数 1,000,000株・株主数3名(その他の法人1名、個人2名)潜在株式は取締役・子会社役員・従業員に付与したストック・オプション(2回)役員の状況では、代表取締役の所有株式数を資産管理会社の保有分を含め700,000株と記載

図14 発行者情報「株主の状況」をもとに作成。比率は新株予約権の潜在株式を含む株式総数1,079,000株に対する割合

第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」は「該当事項はありません」とされ、「第三者割当等の概況」に載っているのは2回のストック・オプション(新株予約権)の発行だけです。書類には、特例第115条と同施行規則第107条に基づき、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までの期間に第三者割当等を行った場合、割当てを受けた者に担当J-Adviserに対して継続所有等を確約させる仕組みも説明されています。同社の新株予約権の「保有期間等に関する確約」欄は「—」です。上場前の株式異動と継続所有の確約の考え方は、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

項目 第1回新株予約権 第2回新株予約権
決議・付与日 2023年4月26日臨時株主総会・2023年5月26日 2024年5月21日臨時株主総会・2024年5月30日
付与対象者 当社取締役2名、子会社取締役4名、従業員15名 当社取締役2名、子会社取締役4名、従業員24名
目的となる株式の数(訂正後) 34,000株(付与時36,000株、退職者2名の失効) 45,000株(付与時46,000株、退職者1名の失効)
行使価額 855円 1,025円
行使期間 2025年5月27日〜2033年4月26日 2026年5月31日〜2034年5月21日
価額算定の基礎とした株式評価 類似業種比準価額と純資産価額 DCF法と類似業種比準法を総合勘案
主な行使条件 金融商品取引所への上場(特定投資家等向け市場を除く)後、段階的に行使可 同左

ストック・オプションの会計処理では、未公開企業として公正な評価単価に代えて本源的価値を用いており、「ストック・オプションに係る費用計上額」は該当事項なしとされています。なお、3月13日公表の訂正発行者情報は、2月27日公表の訂正発行者情報に記載された新株予約権の目的となる株式の数を訂正するもの(第1回36,000株→34,000株、第2回46,000株→45,000株)で、訂正理由は「記載事項の一部に誤り」とされています。上場申請後も、失効の反映漏れのような細かな数値の整合性が問われることを示す例といえます。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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コーポレート・ガバナンス:取締役3名・社外監査役2名のコンパクトな体制

機関設計は、取締役会と監査役を置く形です。取締役は代表取締役の田村伊幸氏、取締役専務執行役員の河村英治氏、取締役執行役員の與國忍氏の3名で、いずれも社内の取締役です。監査役は弁護士の島田直行氏と公認会計士の吉谷一成氏の2名で、いずれも会社法上の社外監査役です。書類には「当社は現時点において、社外取締役を選任する予定はありません」と明記されています。社外監査役の独立性に関する基準又は方針は特段定めていないものの、人的関係・資本関係・取引関係その他の利害関係はないと記載されています。

取締役会は取締役3名と監査役2名で構成すると説明され、毎月1回の定時取締役会のほか必要に応じて臨時取締役会を開き、経営方針、経営計画、内部監査方針、リスク管理方針を決定しています。このほか、監査役間の情報共有の場である監査役協議会(原則半期に1回)、子会社の重要な決裁事項を事前に審議する経営審議会、四半期に1回開くリスク管理委員会、原則四半期に1回開くコンプライアンス委員会が設けられています。経営審議会とリスク管理委員会には子会社の代表取締役も参加し、子会社のリスク管理責任者は各子会社の代表取締役が担う体制です。

田村ビルズグループの機関設計と会議体株主総会取締役会(毎月1回)取締役3名・社外取締役なし監査役2名(いずれも社外)監査役協議会:半期1回代表取締役監査法人コスモス経営審議会重要な決裁事項を審議リスク管理委員会四半期に1回コンプライアンス委員会原則四半期に1回子会社4社:各社の代表取締役が経営審議会・リスク管理委員会に参加監査

図15 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成。会議体の参加者・開催頻度は記載のとおり

TPMは「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされ、一般市場のような機関設計の形式要件は示されていません。一方で、上場適格性要件では「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・運用されていることが求められ、J-Adviserが取締役の員数や役割、取締役会・監査役会等の開催・議事録の状況などを調査します。田村ビルズグループの体制は、取締役会を小さく保ちつつ、子会社を巻き込む会議体と社外の専門家である監査役でけん制を効かせる設計と読めます。機関設計の選び方はIPO審査の「機関設計」とはもご参照ください。

役員報酬は、2025年5月期の取締役3名が50,730千円、監査役2名が3,600千円で、いずれも固定報酬のみです。関連当事者取引は「該当事項はありません」とされ、関連当事者取引を行う際には取締役会決議を必要とする方針が示されています。

内部監査・内部統制:管理部の監査は総務部が担当

内部監査は管理部を主管部署とし、取締役会の承認を受けた内部監査規程とその実施要領に基づいて、当社と子会社を会社単位で監査しています。注目したいのは、管理部自身の監査は「相互監査として総務部が実施」すると定めている点です。内部監査の担当部署が自部署を監査すると自己監査になってしまうため、別の部署が監査する仕組みを用意しています。専任の内部監査室を置くのが難しい規模の会社でよく使われる方法で、内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で解説している考え方と同じです。

内部監査担当者は監査役・監査法人と定期的に面談して情報を共有し、監査役は内部監査担当者から随時報告を受けるとともに、代表取締役や監査法人と定期的に意見交換を行うとされています。いわゆる三様監査の連携です(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。ただし、内部監査の担当人数や年間の実施状況は書類に記載されていません。

内部監査の相互監査と三様監査の連携管理部(内部監査の主管部署)当社及び子会社(会社単位で監査)総務部三様監査の連携内部監査担当者監査役監査法人内部監査管理部を相互監査随時報告意見交換定期的に面談・情報共有

図16 発行者情報「会社の機関の内容」h(内部監査及び監査役の状況)をもとに作成

内部統制システムについては、「TAMURAフィロソフィ」(人として正しいことを行う)を基本ポリシーとし、代表取締役を委員長とするリスク管理委員会とコンプライアンス委員会の設置、当社内の内部通報窓口、反社会的勢力の排除、稟議規程・文書管理規程・インサイダー取引防止に関する規程などの社内規程、業務分掌規程と職務権限規程による権限の分散が挙げられています。財務報告の信頼性確保のための内部統制システムと、その運用の有効性を評価する体制は「整備を推進してまいります」とされています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、一般市場への上場を見据える場合はこの部分の整備が課題になります。

会計・開示の論点:収益認識、のれん、税効果

収益認識では、自社不動産の売買は物件の引渡時点、不動産売買仲介は仲介した物件の引渡時点で収益を計上しています。賃貸仲介は賃貸借契約の締結時点、賃貸管理はサービスを提供する期間にわたり進捗度に応じて認識し、居住用住戸の賃貸収入はリース会計基準に従い契約期間にわたって計上しています。建築工事のうち、取引開始日から履行義務を完全に充足するまでの期間がごく短い契約は、代替的な取扱いを適用して完全に充足した時点で認識しています。環境リサイクル事業では、収集運搬は運搬完了時点、廃棄物処理は搬入後直ちに分別・処分されることから処理施設に搬入した時点で収益を計上しています。業種ごとに収益認識の時点を説明できるようにしておくことは、上場審査で問われる収益認識でも取り上げた重要な論点です。

収益を認識する時点(主な取引ごと)自社不動産の売買物件の引渡時点(一時点)不動産売買仲介仲介した物件の引渡時点(一時点)賃貸仲介賃貸借契約の締結時点(一時点)賃貸管理サービス提供期間にわたり進捗度に応じて不動産賃貸(居住用住戸)リース会計基準に従い賃貸借契約期間にわたり建築(期間がごく短い契約)代替的な取扱いにより履行義務を完全に充足した時点収集運搬運搬が完了した時点廃棄物処理(中間・最終)廃棄物を処理施設に搬入した時点

図17 発行者情報「重要な収益及び費用の計上基準」をもとに作成

重要な会計上の見積りとしては、のれんの減損(2025年5月期末92,040千円)と繰延税金資産の回収可能性(同138,145千円)の2つが挙げられています。のれんは子会社株式の取得時に見込んだ超過収益力で、5年間の定額法で償却し、対象会社ごとに資産をグルーピングしたうえで、取締役会が承認した予算と取得時の利益予測に基づく計画値(主に売上高と営業利益)を仮定として減損を判定しています。税効果会計の注記では、税務上の繰越欠損金116,933千円(法定実効税率を乗じた額)に全額の評価性引当額を計上しており、2025年5月期の税効果会計適用後の法人税等の負担率は45.8%でした。

このほか、2024年10月の確定拠出年金制度への移行、営業店舗2か所の減損、2028年5月期の期首から適用予定の新リース会計基準(企業会計基準第34号、影響額は評価中)が注記されています。会計監査は監査法人コスモスが担当し、業務執行社員2名(継続監査年数は7年以内)と補助者の公認会計士5名で監査を行い、最近連結会計年度の監査証明業務に基づく報酬は18,200千円(非監査業務なし)です。

事業等のリスクと、上場準備で説明が求められやすい点

「事業等のリスク」には18項目が挙げられています。上場準備の観点から、会社が記載している対応策とあわせて主なものを整理します。

リスク項目 発行者情報の記載の要点 会社が記載している対応
販売用不動産の評価 販売用不動産は総資産の約51%。時価が簿価を下回れば評価損 仕入前の需要予測・近隣相場調査、価格変動の定期把握、在庫回転率の向上
有利子負債への依存度 有利子負債4,776,273千円、総資産比61.0%(2025年5月末) 金融機関との良好な関係の継続、機動的な借入
法的規制(許認可) 宅建業免許・建設業許可・廃棄物処理法の許可等が事業の前提 許認可の一覧管理(取消事由の発生はないと記載)
最終処分場・地域住民 汚染物質の浸出や住民との関係悪化で操業に重大な影響 受入廃棄物の確認・水質検査等、自治会行事等での対話
フランチャイズ契約 ハウスドゥのFC契約の解除やブランドイメージの低下 良好な関係を維持し契約を継続する方針
特定人物への依存 代表取締役 田村伊幸氏が経営方針・戦略の決定で重要な役割 会議体による意思決定の徹底、担当役員・部長への権限移譲
担当J-Adviserとの契約 解除事由に該当すると契約解除の可能性 解除条項の全文を開示

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

田村ビルズグループの発行者情報には、一般市場への市場変更や上場の計画についての記載はありません。そのため同社の今後については何も推測しません。ただし、ストック・オプションの行使条件として、当社普通株式が金融商品取引所に上場された場合(ただし、特定投資家等向け市場への上場を除く)にのみ行使できること、上場日から1年までは25%、2年までは50%、3年までは75%、それ以降は100%と段階的に行使できることが定められている、という事実は記載されています。

ストック・オプションの行使条件当社株式が金融商品取引所に上場したか(特定投資家等向け市場への上場を除く)行使できない上場日から段階的に行使できる上場日〜1年25%1年超〜2年50%2年超〜3年75%3年超〜期限100%在籍要件:行使時に当社・子会社の取締役・監査役・従業員であること(任期満了・定年等は例外)いいえはい

図18 第1回・第2回新株予約権の「新株予約権の行使の条件」をもとに作成(両回とも同じ条件)

一般論として、TPMから一般市場に移る場合は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場するという扱いになります。2025年12月にTPMからグロース市場に移ったAlbaLinkの事例でも、TPMの上場廃止日の翌日にグロース市場に新規上場しています。東京証券取引所の2025年11月の資料では、TPMから一般市場へ上場した企業は15社とされ、審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ相応の負担がある、との現状認識が示されていました。

一般市場を目指す会社は、直前2期の監査、Ⅰの部の作成、一般市場の基準に沿った機関設計や内部統制の整備などを、TPM上場後の早い段階から計画しておく必要があります。TPMで発行者情報を年2回作成し、中間監査を受け、適時開示を行う経験は、こうした準備の土台になります。

田村ビルズグループの事例から上場準備会社が学べること

  1. 公募・売出しなしでも上場できる。TPMでは、勧誘を行わない場合に発行者情報に相当する情報を公表して上場する道がある。上場の目的と資金調達を切り分けて考える。
  2. 監査は「最近1年間」でも、前期の数値の扱いを明示する。未監査の期がどれかを注記で明らかにする開示は参考になる。
  3. 申請から承認までの10営業日は短い。その前のJ-Adviserの調査と意向表明までに、書類と体制を仕上げておく必要がある。
  4. J-Adviser契約は上場維持の前提。解除事由と解除手続を把握し、契約関係を維持できる体制を作る。
  5. 小さな取締役会でも、会議体と社外監査役でけん制を効かせる。子会社を巻き込む経営審議会やリスク管理委員会は持株会社の管理の参考になる。
  6. 内部監査の自己監査を避ける。管理部の監査を総務部が担う相互監査は、少人数の会社でも実行しやすい。
  7. 在庫と借入の動きを説明できるようにする。不動産販売の会社は、棚卸資産の積み上がりと資金調達の関係が読み手の関心事になる。
  8. 上場承認後の訂正にも備える。新株予約権の失効の反映など、細かな数値の整合性を申請前に点検する。

TPM上場の準備状況チェックリスト

  • 上場の目的(体制強化・採用・信用力・将来の一般市場上場など)と、資金調達の要否を整理しているか
  • 担当J-Adviserの候補と、契約の解除事由・解除手続を確認しているか
  • 最近1年間の監査と、中間監査又はレビューを受けられる監査人を確保しているか
  • 上場予定日から12か月間の運転資金の見通しを説明できるか
  • 会社の規模に応じた機関設計と、内部監査の自己監査を避ける仕組みがあるか
  • 発行者情報(年次・中間)を期末後3か月以内に作成・公表できる体制があるか

よくある質問

Q1. TPMに上場すると必ず資金調達ができるのですか。

いいえ。田村ビルズグループのように、上場に際して特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行わず、公募・売出しなしで上場する会社もあります。東京証券取引所が公表した上場目的の開示状況(2026年6月15時点)でも、「増資」を挙げた会社は1割程度でした。

Q2. TPMでは監査を受けなくてもよいのですか。

いいえ。上場前の監査期間が「最近1年間」と短いだけで、監査は必要です。田村ビルズグループも2025年5月期の連結財務諸表の監査と、2025年11月中間期の中間監査を監査法人コスモスから受けています。上場後の発行者情報にも監査報告書等が必要です。

Q3. 特定証券情報と発行者情報は何が違うのですか。

特定証券情報は、特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行う際に提供・公表する書類です。発行者情報は上場後に年次・中間で公表する書類ですが、田村ビルズグループは勧誘を行わないため、特例第110条第3項により上場時にも発行者情報に相当する情報を公表しています。

Q4. TPMからグロース市場へは市場変更で移れますか。

市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する扱いです。一般市場の基準での審査が必要になります。東京証券取引所はTPM実績を勘案した審査の効率化を2026年秋めどに予定と公表していますが、実施状況は最新の公表資料で確認してください。

最初の一歩は「上場の目的」と「J-Adviser」の整理から

TPM上場を検討するなら、まず「なぜ上場するのか」と「資金調達をするのか」を整理し、そのうえで担当J-Adviserの候補と、最近1年間の監査を担える監査人を探すことから始めましょう。形式基準がないぶん、自社の規模や成熟度に応じた体制をどう説明するかが問われます。田村ビルズグループの書類は、その説明の具体例として役立ちます。

まとめ

株式会社田村ビルズグループは、建築・不動産事業と環境リサイクル事業を営む子会社4社を束ねる山口県の純粋持株会社で、2026年3月9日に上場承認を受け、3月25日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserは船井総合研究所です。上場に際して公募・売出しは行わず、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表しています。

書類からは、最近1年間の監査と中間監査、J-Adviser契約の解除条項、取締役3名・社外監査役2名と子会社を巻き込む会議体による管理、総務部による管理部の相互監査、不動産在庫と借入の動き、そして特定投資家等向け市場への上場を除くと定めたストック・オプションの行使条件など、TPM上場の実務を具体的に読み取ることができます。TPM上場や将来の一般市場への上場を検討する会社は、本記事のチェックリストで準備状況を確認してみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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