COELのTOKYO PRO Market上場|公募なしの上場と創業家中心の株主構成【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

株式会社COEL(証券コード522A)は、2026年2月20日に東京証券取引所に上場申請が受け付けられ、3月9日に上場承認を受けて、2026年3月27日にTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。名古屋市西区に本店を置き、勤怠管理・工数管理・経費精算・ワークフローなどの自社クラウドサービス「manage」と、他社のクラウドサービスを組み合わせて提供するクラウドインテグレーションを展開する会社です。担当J-Adviserは、同じ名古屋に本店を置く名南M&A株式会社です。本記事では、上場申請時に公表された「発行者情報」(全75ページ)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、COELの発行者情報は「公募・売出しを行わずにTPMへ上場する場合に、何を準備し、何を開示するのか」を具体的に確認できる事例です。上場に際して特定投資家向けの取得勧誘等を行わず、特例110条3項に基づいて発行者情報に相当する情報を公表したこと、監査法人の監査を受けたのは直前の1期(第31期)のみで、それ以前の2期は監査を受けていないと明記していること、創業者とその資産管理会社で発行済株式の69.9%を所有する株主構成、J-Adviser契約の解除条項の詳しい開示など、TPM上場を検討する会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。

COELはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか

COELは、1995年10月に有限会社アイ・ティー・シーシステムとして名古屋市名東区で設立され、2002年3月に株式会社アイティーシーエス、2004年1月に株式会社ITCS、2024年4月に現在の株式会社COELへと社名を変えてきました。創業者の深見和久氏が設立以来、代表取締役社長を務めています。事業は「クラウドサービス事業」の単一セグメントで、従業員数は115名(2026年1月31日現在)、決算期は9月です。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。

上場の日程は、発行者情報の表紙とJPXの新規上場会社情報で確認できます。上場申請の受付と発行者情報の公表が2026年2月20日、上場承認が3月9日、上場日が3月27日です。表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表する旨が記載されています。つまり、公募による株式の発行も、既存株主による売出しも行わない上場です。

項目 内容
会社名 株式会社COEL(COEL Inc.)、証券コード522A
市場 TOKYO PRO Market(東京証券取引所)
上場日 2026年3月27日
上場承認日 2026年3月9日
上場申請受付日 2026年2月20日(発行者情報の公表日)
担当J-Adviser 名南M&A株式会社(名古屋市中村区)
本店 名古屋市西区牛島町(名古屋ルーセントタワー27階)
設立 1995年10月(有限会社アイ・ティー・シーシステム)
決算期 9月(第31期=2025年9月期)
事業 クラウドサービス事業(単一セグメント):プロダクトサービス、クラウドインテグレーション
従業員数 115名(平均年齢38.20歳、平均勤続年数7.6年、2026年1月31日現在)
第31期の業績 売上高2,395,206千円、営業利益267,993千円、経常利益270,547千円、当期純利益204,755千円
公募・売出し なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない)
会計監査 監査法人東海会計社(第31期の財務諸表を監査)
COELの上場までの日程(2026年)1月15日株式分割の取締役会決議1月23日株式分割の効力・単元株制度2月20日申請受付・発行者情報公表3月9日上場承認3月27日TPM上場申請受付から上場承認まで17日、上場承認から上場日まで18日(いずれも暦日での計算)公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)は行わずに上場

図1 発行者情報(2026年2月20日公表)とJPXの新規上場会社情報の日付をもとに作成

申請受付から上場承認までは17日、上場承認から上場日までは18日でした(いずれも暦日で筆者が計算)。TPMでは、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとされています。ただし、上場申請の前には担当J-Adviserによる上場適格性の調査・確認と、申請の30営業日程度前までの「意向表明」があります。申請から承認までが短いからといって、準備期間が短いわけではない点に注意が必要です。

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

上場準備会社の方がまず知りたいのは、COELがなぜグロース市場やスタンダード市場ではなくTPMを選んだのか、という点でしょう。しかし、発行者情報には「TPMを選んだ理由」や「上場目的」をまとまって説明した箇所はありません。発行者情報の中でTPM上場に触れているのは、次のような記載です。

発行者情報の箇所 記載の内容
対処すべき課題 2026年9月期の経営方針8項目の一つに「TOKYO PRO Market上場と上場後の業務運用」を掲げている
重要な後発事象 2026年1月23日の株式分割(1株→100株)と単元株制度の採用の目的を「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大」と記載
MD&A(運転資本) 上場予定日(2026年3月27日)から12か月間の運転資本は、現状の自己資金で十分であると認識
事業等のリスク 担当J-Adviserとの契約の解除により上場廃止につながる可能性を記載
株式事務の概要 上場に伴い振替株式となること、単元未満株式の買取手数料が上場日から変わること

このように、COELの発行者情報からは、TPM上場を経営方針の一つに位置づけていること、株式分割を流動性の向上と投資家層の拡大のために行ったことは読み取れますが、それ以上の理由は書かれていません。本記事でも、会社の理由を推測することはしません。

そのうえで、一般論としてTPMの特徴を整理しておきます。TPMには、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、東証は「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」と説明しています。上場前の監査期間は「最近1年間」で、一般市場の新規上場で求められる直前2期の監査と比べて短くなっています。また、2026年4月3日には、東証がTPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、一般市場上場前の助走の場として使う企業を重点的に支援する方針を示しています。

なお、東証は2026年4月から、TPMへの新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは規程上の義務ではなく「お願い」として示されているもので、COELの上場申請(2026年2月)はこの要請の開始前です。これからTPM上場を検討する会社は、上場目的を言葉にしておくことが求められる流れにあると考えておくとよいでしょう。上場準備の全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを、COELの記載に沿って確認する

形式基準はないが、J-Adviserが上場適格性を調査する

TPMの上場で最も大きな特徴は、担当J-Adviserの存在です。J-Adviserは、ロンドン証券取引所のAIMのNomad制度を参考にした仕組みで、東証から資格認証を受けた証券会社、コンサルティング会社、M&A仲介会社、印刷会社などが務めています。上場前は上場適格性の調査・確認を行い、上場後は適時開示の助言・指導や上場維持要件への適合状況の調査を担います。

COELの発行者情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TPMの取引所規則の枠組みは日本の一般的な取引所金融商品市場とは基本的な部分で異なり、J-Adviserが重要な役割を担うこと、J-Adviserの役割には上場適格性要件に関する助言・指導と上場申請手続のマネジメントが含まれることが説明されています。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

上場適格性要件は、①企業としての相応性、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していること、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目です。①には、上場予定日から12か月間の運転資金の確保が含まれます。COELがMD&Aの末尾で「上場予定日(2026年3月27日)から12ヶ月間の運転資本は、現状の自己資金で十分」と書いているのは、この点に対応する記載と読めます。

形式基準がないことは「審査がない」ことを意味しません。担当J-Adviserが上場適格性を調査し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。東証も意向表明の後に面談を行います。

表紙が「発行者情報」になっている理由

TPMで上場時に公表される書類は、一般に「特定証券情報」と呼ばれます。特定投資家向け取得勧誘等(いわゆるプロ私募)や特定投資家向け売付け勧誘等を行う発行者は、金融商品取引法27条の31により、有価証券届出書ではなく特定証券情報を提供・公表します。一方、COELのように上場に際してこれらの勧誘を行わない会社は、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表します。そのため、COELの書類の表紙は「【公表書類】発行者情報」となっています。

上場時の開示書類はどう決まるか(COELのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)COEL:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は年次・中間の発行者情報を、各期末後3か月以内に公表(年2回)財務諸表には監査証明、中間は中間監査の意見又はレビューの結論等が必要行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報の表紙「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

上場後は、年次と中間の年2回、それぞれ期末後3か月以内に発行者情報を作成・公表します。TPMでは年次の書類を「有価証券報告書」、中間の書類を「半期報告書」とは呼びません。また、発行者情報の冒頭には、公表時の役員が、重要な事項の虚偽記載や記載漏れについて損害賠償責任を負う旨が記載されています(金融商品取引法27条の34において準用する22条)。COELの発行者情報にも同じ注意事項があります。「プロ向けの簡素な開示」であっても、記載内容に対する役員の責任は軽くないことを、上場準備の段階から役員全員で共有しておくことが大切です。

監査は直前1期、会計基準は日本基準

COELの「主要な経営指標等の推移」には第29期から第31期までの3期分が載っており、注記で「第31期の財務諸表については、特例110条5項の規定に基づき、監査法人東海会計社の監査を受けておりますが、第29期及び第30期の財務諸表については当該監査を受けておりません」と明記されています。TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」であり、COELはこの範囲で監査を受けて上場したことになります。

経理の状況では、財務諸表等規則に基づいて作成し、特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠していることが記載されています。TPMでは日本基準・米国基準・IFRSと、これらと同等と認められた基準を採用できますが、国内の中堅企業であるCOELは日本基準を選んでいます。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかでも解説しています。

一般市場(グロース・スタンダード)との違い

TPMは、プライム・スタンダード・グロースの「一般市場」とは別の市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」と位置づけられています。グロース市場の一種でも、いわゆる新興市場の一区分でもありません。主な違いを、JPXの公表資料に基づいて整理すると次のとおりです。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
主な投資家 特定投資家等(一般投資家は買付けはできないが、保有株式の売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準(数値基準) なし 株主数・流通株式などの形式要件がある(市場ごとに異なる)
上場適格性の確認 担当J-Adviserが調査・確認(東証も面談) 東証の上場審査
上場申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認(申請前にJ-Adviserの調査と意向表明) 審査を経て承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時・上場後の開示書類 特定証券情報(又は発行者情報に相当する情報)、発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) 有価証券届出書、有価証券報告書、半期報告書など
四半期開示 任意 取引所規則に基づく四半期決算短信
内部統制報告書 任意 金融商品取引法に基づき提出
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS+同等と認められた基準 —
J-Adviser契約 上場の前提として契約の維持が必要 制度なし
コーポレートガバナンス・コード JPXのコードのページでは、適用対象としてTPMは示されていない スタンダード:全原則/グロース:基本原則

表のとおり、TPMは開示や監査の負担が一般市場より軽い一方で、買付けができるのは特定投資家等に限られます。COELの「投資者に対する注意事項」も、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合があると記載しています。上場によって何を得たいのか(知名度、採用、取引先からの信用、将来の一般市場上場の準備など)によって、どちらの市場が合うかは変わります。グロース市場の考え方はグロース市場の「高い成長可能性」とはで詳しく解説しています。

事業内容と収益モデル:自社クラウドと他社クラウドの組み合わせ

COELは、パーパスとして「業務の無駄をなくすデジタルソリューションで、『社員のモチベーション』と『マネジメントの効率』を高め、一人あたり、一社あたりの生産性を高める」ことなどを掲げています。単一セグメントですが、事業は次の2つのサービスに分けて管理・開示されています。

1つ目はプロダクトサービス(PS)です。自社製品「manage」のアプリケーション開発・導入・サポートを行います。manageは2002年11月に初期版をリリースした、顧客の全従業員が利用する業務フロントシステムで、勤怠管理、工数管理、経費精算、ワークフローが主力アプリケーションです。Microsoft Azure上のSaaSとして提供され、顧客は高額な初期費用をかけずに毎月の利用料で使えます。毎年3回の定期バージョンアップで機能向上や法令改定への対応を行い、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の「勘定奉行」などの基幹システムとも連携しています。

2つ目はクラウドインテグレーション(CI)です。他社の優れたクラウドサービスを全体最適の視点で組み合わせ、設計・構築から運用・保守までワンストップで提供します。2022年8月にリリースした「mixsol」は、顧客管理や契約管理などの業務テーマごとに、クラウドサービスを組み合わせたテンプレートとして提供するサービスです。例えば、manageとサイボウズの「kintone」を組み合わせて、予算編成から稟議申請、予実管理までを効率化する事例が紹介されています。

COELの事業モデル(2つのサービス)COEL(単一セグメント:クラウドサービス事業)顧客中堅優良企業(情報通信業・製造業・建設業など)プロダクトサービス自社クラウド「manage」開発・導入・サポートクラウドインテグレーション他社クラウドの組合せ「mixsol」・構築・保守開発委託先仕入先(ソフトウエア・機器)販売パートナー(代理店)販売・提供販売・提供開発仕入「manage」はMicrosoft Azure上のSaaSとして、定額のサブスクリプションで提供

図4 発行者情報「事業の内容」の事業系統図をもとに作成。単一セグメント(クラウドサービス事業)をサービス別に区分している

第31期(2025年9月期)のサービス別売上高は、PSが1,217,441千円(売上構成比50.8%、前期比110.0%)、CIが1,177,765千円(同49.2%、105.3%)で、ほぼ半々の構成です。対象顧客は中堅優良企業で、特に情報通信業、製造業、建設業で利用されていると記載されています。主要な販売先として中部テレコミュニケーション株式会社が開示されており、売上高に占める割合は第30期16.0%(357,112千円)、第31期14.3%(343,681千円)で、いずれもCIに関連する売上です。

COELは業績を「ストック売上」と「フロー売上」に分けて管理しています。ストック売上は、サービスを継続利用することで発生する利用料や保守サービスなどで、サブスクリプションによるリカーリングレベニューモデルとして、会社が注力しているビジネスモデルと記載されています。フロー売上は、設計・開発、環境設定、指導教育など導入期に発生する売上です。CIの収益機会は6つ挙げられており、そのうち「他社のクラウドサービスの販売」と「システム導入後の保守料」がストック売上とされています。

COELが管理する「ストック売上」と「フロー売上」ストック売上(継続収益)フロー売上(導入期に発生)manageの利用料(サブスクリプション)保守サービスなどCI:他社クラウドサービスの販売CI:システム導入後の保守料設計・開発、環境設定、指導教育CI:カスタマイズ・追加開発CI:システム構築CI:導入前の支援・定着化の支援

図5 発行者情報「事業の内容」の記載をもとに整理。CIの収益機会のうち、他社クラウドサービスの販売と導入後の保守料はストック売上とされている

受注の状況をみると、第31期の受注高はPSが808,293千円(前年同期比105.1%)、CIが997,501千円(同130.6%)、合計1,805,794千円(同117.8%)、期末の受注残高は合計152,503千円(同118.5%)でした。事業の基盤については、クラウドサービスをMicrosoft Azure上で提供しており、TD SYNNEX株式会社(旧シネックスジャパン)とのクラウドサービスリセーラー契約を通じてAzureを利用していることが「経営上の重要な契約等」に記載されています。

上場準備の観点では、単一セグメントであっても、事業の実態に合わせてサービス別の売上高、受注実績、収益認識の時期を開示していることが参考になります。セグメントを分けない会社でも、審査や開示の場面では「何で稼いでいるのか」を数字で説明できる管理区分を持っておくことが重要です。

沿革と上場までの道のり

COELの沿革は、名古屋の創業ベンチャーが製品を育て、拠点と体制を整えてきた歩みとして読むことができます。1997年には名古屋市のベンチャー企業支援施設「名古屋ビジネスインキュベータ」に本社を移し、同年に株式会社へ組織変更しました。2002年11月にワークフロー製品「Manage」の販売を始め、2006年4月にOBCと業務提携、2007年8月にはベトナムのホーチミン市に開発委託先として合弁子会社ISV VIETNAMを設立しています(2017年7月に出資比率を7.4%に変更)。

2015年8月に株式会社テクノシステムを子会社化し、2019年12月に全株式を譲渡しました。その結果、現在は子会社を持たない単体の会社です。製品面では、2016年7月に「ManageOZO3」、2020年7月に会計業務のデジタル化を進める「ManageAC」、2022年8月に「mixsol」をリリースし、2024年6月にブランド名を「manage」に統一しました。2021年10月には、ManageOZO3とManageACが電子帳簿保存法の要件を満たすソフトウェアとしてJIIMA認証を取得しています。

COELの沿革(主な出来事)会社の節目1995年10月有限会社として名古屋で設立2006年4月OBCと業務提携2021年12月監査役会設置会社へ移行2024年4月COELに社名変更2026年3月27日TPM上場製品・サービスの節目2002年11月ワークフロー「Manage」2016年7月「ManageOZO3」2020年7月「ManageAC」2022年8月「mixsol」2024年6月ブランドを「manage」に統一

図6 発行者情報「沿革」「コーポレート・ガバナンスの状況」から主な項目を抜粋

ガバナンス面では、2021年12月に監査役会設置会社へ移行しています。上場の約4年前から監査役会を置き、社外監査役を含む監査体制で運用してきたことになります。上場直前期には、2026年1月15日の取締役会で株式分割を決議し、1月23日に株式分割の効力発生、単元株制度(100株)の導入、臨時株主総会の開催(取締役・監査役の任期はこの総会の終結時から起算)を経て、2月20日の上場申請に臨んでいます。上場準備のスケジュールのどこに何を置くかは、上場スケジュールはどこで遅れるかもあわせて確認してください。

業績の推移:増収が続き、無借金で自己資本比率は49.5%

発行者情報の「主要な経営指標等の推移」には、第29期から第31期までの3期分が単体で記載されています。一般市場のⅠの部では5期分の推移が載ることが多いのに対し、COELの発行者情報は3期分です。また、前述のとおり監査を受けているのは第31期のみです。

単体(千円) 第29期 2023年9月期 第30期 2024年9月期 第31期 2025年9月期
売上高 2,071,509 2,225,126 2,395,206
経常利益 135,776 228,429 270,547
当期純利益 102,613 209,045 204,755
純資産額 412,336 610,749 791,391
総資産額 1,303,874 1,481,969 1,597,418
自己資本比率 31.6% 41.2% 49.5%
自己資本利益率 25.9% 40.9% 29.2%
1株当たり当期純利益 172.34円 351.10円 343.90円
1株当たり配当額(分割前) 2,000円 5,000円 5,000円
配当性向 11.6% 14.2% 14.5%
営業活動によるキャッシュ・フロー 176,504 247,888 77,841
現金及び現金同等物の期末残高 665,041 887,749 282,084
従業員数 111名 112名 115名
監査法人の監査 受けていない 受けていない 監査法人東海会計社

1株当たりの数値は、2026年1月23日の株式分割(1株→100株)が第29期の期首に行われたと仮定して算定されています。一方、1株当たり配当額は分割前の金額です。

売上高の推移(単体・百万円)07501,5002,2503,000第29期(2023/9)第30期(2024/9)第31期(2025/9)2,0722,2252,395前期比:第30期 +7.4%、第31期 +7.6%

図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より(百万円未満四捨五入)。監査法人の監査を受けているのは第31期のみで、第29期・第30期は監査を受けていない

売上高は第30期に前期比7.4%増、第31期に7.6%増と、緩やかな増収が続いています。第31期は営業利益が267,993千円(前期比20.9%増)、経常利益が270,547千円(同18.4%増)と伸びた一方、当期純利益は204,755千円(同2.1%減)でした。第30期には事業再構築補助金46,966千円を特別利益に計上しており、その反動が当期純利益の比較に表れています。

経常利益と当期純利益の推移(単体・百万円)075150225300第29期(2023/9)第30期(2024/9)第31期(2025/9)136103228209271205経常利益当期純利益

図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より(百万円未満四捨五入)。第30期の当期純利益には事業再構築補助金(特別利益46,966千円)が含まれる

第31期の損益を段階別にみると、売上原価が1,676,337千円、販売費及び一般管理費が450,875千円です。売上原価明細書では、仕入高529,836千円(構成比31.5%)、労務費467,910千円(27.8%)、経費683,743千円(40.7%)で、経費の主な内訳は外注費531,392千円です。研究開発費は74,195千円(前期24,579千円)で、次世代のmanageの設計・開発に取り組んでいると記載されています。原価計算は実際原価による個別原価計算です。

第31期(2025年9月期)の損益の段階(百万円)売上高2,395売上原価-1,676売上総利益719販管費-451営業利益268営業外損益+3経常利益271

図9 発行者情報の損益計算書より(百万円未満四捨五入のため合計が一致しない場合がある)。営業外損益は営業外収益7,021千円と営業外費用4,467千円の差額

2026年9月期については、売上高2,536,456千円、営業利益136,674千円を目標とする経営方針が示されています。発行者情報は目標の数値を示しているのみで、内訳の説明はありません。上場準備会社にとっては、上場時に公表する計画値と、その前提を社内でどこまで説明できる状態にしておくかが、上場後の開示の信頼性につながる点を押さえておきたいところです。

キャッシュ・フローと「現金及び現金同等物」の読み方

第31期の現金及び現金同等物は282,084千円で、前期末の887,749千円から605,665千円減少しました。ただし、これは資金が流出したからではありません。投資活動によるキャッシュ・フロー△659,816千円の主な内容は、640,000千円の定期預金への預入です。貸借対照表の現金及び預金は922,084千円で前期末より増えており、そのうち預入期間が3か月を超える定期預金640,000千円が、キャッシュ・フロー計算書上の「資金」から除かれています。

第31期のキャッシュ・フローと現金及び現金同等物(百万円)期首残高888営業CF+78投資CF-660財務CF-24期末残高282貸借対照表の現金及び預金922百万円=現金及び現金同等物282百万円+預入期間が3か月を超える定期預金640百万円(借入金なしの無借金経営)

図10 発行者情報のキャッシュ・フロー計算書と注記より(百万円未満四捨五入)。投資CFの主な内容は定期預金への預入640,000千円

営業活動によるキャッシュ・フローは77,841千円(前年同期比68.6%減)で、売上債権の増加52,545千円と法人税等の支払額118,323千円が主な減少要因とされています。COELは金融商品の注記で「経営方針として無借金経営を掲げ」と記載しており、借入金・社債はありません。上場準備では、定期預金の預入のように「現金同等物」の範囲が変わる取引をした期は、キャッシュ・フロー計算書の数字だけを見ると誤解されやすいため、説明の準備をしておくとよいでしょう。

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資本政策と株主構成:公募なし、創業家中心の40名

創業者と資産管理会社で69.9%

COELの株主数は40名(2026年1月31日現在)です。筆頭株主は代表取締役社長の資産管理会社である株式会社オフィス深見(315,200株、52.94%)で、深見和久氏本人(101,500株、17.05%)とあわせて69.9%を所有しています。社長の配偶者である深見弘美氏(46,000株、7.73%)を加えると、深見家3者の所有株式は462,700株、77.71%になります(筆者計算)。株式会社オフィス深見は支配株主に該当すると記載されています。

株主構成(発行者情報公表日時点の所有株式数の割合)株式会社オフィス深見52.94%深見 和久(社長)17.05%社員持株会8.75%深見 弘美(社長の配偶者)7.73%伊藤 徹二(従業員)3.02%取締役3名(社内)5.76%その他(32名)4.75%深見家3者(オフィス深見・深見和久・深見弘美)の合計は462,700株(77.71%、筆者計算)

図11 発行者情報「株主の状況」より(株式総数595,400株、株主数40名)。公募・売出しを行わない上場のため、上場時も発行済株式総数は変わらない

COEL社員持株会は52,100株(8.75%)を所有する第3位の株主で、社内取締役3名(横山正樹氏、中川和光氏、近藤敏春氏)もそれぞれ1.73〜2.22%を所有しています。ベンチャーキャピタルや事業会社の大口株主はおらず、株式会社システム総合研究所が4,000株(0.67%)を所有している程度です。新株予約権(ストック・オプション)、種類株式、自己株式はいずれもありません。

公募・売出しを行わない上場のため、上場時の発行済株式総数は上場申請時と同じ595,400株です。一般市場のIPOでは「上場申請時の比率」と「公募・売出し後の比率」を分けて見る必要がありますが、COELの場合は上場時点でも同じ構成になります。創業者の持株比率の考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで解説しています。

株式分割と単元株制度の導入

COELは、2026年1月15日の取締役会決議に基づき、2026年1月23日付で普通株式1株を100株に分割しました。同日の臨時株主総会で、単元株式数を100株とする定款変更も行っています。重要な後発事象の注記では、目的を「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大」としています。

項目 株式分割前(2025年9月30日) 株式分割後(2026年1月23日以降)
発行済株式総数 5,954株 595,400株
発行可能株式総数 10,000株 2,270,000株
単元株式数 — 100株(議決権5,954個)
資本金・資本準備金 100,000千円・10,000千円 変動なし
1株当たり純資産額(第31期末) — 1,329.18円(分割を遡って反映)

上場前の株式数が数千株という会社は珍しくありません。上場後の売買単位や1株当たりの価格水準を考えて、上場申請の前に株式分割と単元株制度の導入を済ませておくのは、一般市場でもTPMでも共通する実務です。

上場前の株式の移動と価格の決め方

発行者情報の第四部「株式公開情報」には、特別利害関係者等の株式等の移動状況が記載されています。2025年には、従業員2名から社員持株会へ計7株(4月1日に4株、5月1日に3株)、9月25日に深見和久氏から社員持株会へ100株、取締役・監査役4名へ計18株(梅田弘之氏・藤本明徳氏・花田英司氏に各5株、佐藤洋二氏に3株)、従業員1名へ3株が移動しています(いずれも株式分割前の株数)。移動理由はいずれも「所有者の意向による」です。

上場前の特別利害関係者等の株式の移動(2025年)従業員2名(4月1日・5月1日)深見 和久代表取締役社長(9月25日)COEL社員持株会取締役・監査役 4名梅田・藤本・花田・佐藤従業員1名計7株(4株・3株)100株5株×3名、3株×1名3株移動単価はいずれも111,648円(株式分割前)。移動理由はいずれも「所有者の意向による」純資産方式と類似会社比準方式で算出した価格を総合的に勘案し、当事者間で協議して決定

図12 発行者情報「特別利害関係者等の株式等の移動状況」より。株数・単価は2026年1月23日の株式分割(1:100)前の数値

移動価格はいずれも1株111,648円(分割前)で、「純資産方式及び類似会社比準方式による算出した価格を総合的に勘案して、当事者間での協議の上決定」したと記載されています。上場前の株式移動では、同じ時期の取引で価格がばらつくと、価格の妥当性や贈与・寄附の疑いについて説明を求められることがあります。COELのように算定方法を明示し、同一価格で移動している点は参考になります。未上場株式の株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。

また、注記では、特例115条及び同施行規則106条により、上場日から5年間、直前事業年度の末日(2025年9月30日)の2年前の日(2023年10月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動の状況について、記録を保存するものとされている旨が記載されています。特別利害関係者等の範囲は、役員とその配偶者・二親等内の血族、役員等が議決権の過半数を所有する会社、関係会社とその役員、大株主上位10名、人的関係会社・資本的関係会社とその役員、金融商品取引業者等とその役員などです。上場前2年程度の株式の動きは、TPMでも開示と記録保存の対象になることを前提に、資本政策を組み立てる必要があります。なお、第三者割当等による株式の発行は「該当事項はありません」と記載されています。

コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社、取締役5名のうち社外1名

COELは「コーポレート・ガバナンス強化のため2021年12月に監査役会設置会社に移行」したと記載しています。取締役会に業務執行の権限と責任を集中させ、取締役会から独立した監査役・監査役会に監査機能を担わせることで、高い牽制機能を持つ体制を確立するために、この機関設計を選んだと説明しています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、柔軟な設計が可能とされていますが、COELは一般市場の上場会社と同様の監査役会設置会社の形をとっています。機関設計の比較は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?も参考になります。

役職 氏名 主な経歴・役割 所有株式数
代表取締役社長 深見 和久 1995年に当社を設立、創業以来の最高経営責任者 101,500株
取締役 プロダクトサービス本部長 横山 正樹 1999年入社、2019年8月取締役 13,200株
取締役 クラウドインテグレーション本部長 中川 和光 2000年入社、2019年8月取締役 10,800株
取締役 経営管理部長 近藤 敏春 2003年入社、2021年12月監査役、2023年12月取締役経営管理部長 10,300株
社外取締役 梅田 弘之 株式会社システムインテグレータ設立・代表取締役会長、株式会社BizSaaS代表取締役社長 1,000株
常勤監査役 佐藤 洋二 IT企業の経営経験、2024年12月就任 300株
社外監査役 藤本 明徳 KDDIで内部統制部長などを歴任、2020年12月就任 1,300株
社外監査役 林 高史 公認会計士、林公認会計士事務所所長、2025年12月就任 800株

取締役会は取締役5名(うち社外取締役1名)で構成され、原則として毎月1回の定時取締役会と、必要に応じた臨時取締役会を開催するとされています。監査役会は常勤監査役1名と社外監査役2名の3名で、毎月1回の定時監査役会を開催しています。最近事業年度の監査役会への出席状況は、藤本明徳氏と花田英司氏が14回中14回、2024年12月就任の佐藤洋二氏が10回中10回、同月退任の田畠英幸氏が4回中4回と記載されています。花田英司氏は2025年12月の定時株主総会で退任し、公認会計士の林高史氏が新たに選任されました。

COELの機関設計とガバナンス体制株主総会取締役会(原則毎月)取締役5名(うち社外1名)監査役会(原則毎月)監査役3名(常勤1・社外2)監査代表取締役社長経営会議(月1回)常勤役員・全部長リスク・コンプライアンス委員会(3か月に1回)内部監査室(1名)会計監査人東海会計社連携担当J-Adviser(名南M&A):上場適格性の調査、上場後の適時開示等の助言・指導選任選任

図13 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成。2021年12月に監査役会設置会社へ移行している

執行側の会議体としては、常勤役員と全部長で構成する経営会議(原則毎月1回)と、代表取締役社長を委員長とし常勤役員と全部長で構成するリスク・コンプライアンス委員会(3か月に1回、事務局は経営管理部)があります。社外役員については、独立性に関する基準や方針として明確に定めたものはないものの、経歴や当社との関係を踏まえて十分な独立性が確保できることを前提に判断していると記載されています。

会社は、コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方の中で「『コーポレートガバナンス・コード』の基本原則を踏まえた体制の強化、運用の徹底に努めます」と記載しています。TPMの上場会社に対するコードの適用関係については、JPXのコードのページではプライム・スタンダード・グロースについての記載のみで、TPMへの言及はありません。上場準備会社は、市場ごとの適用関係を確認したうえで、自社としてどの水準の体制を目指すかを決めることになります。

支配株主との取引と関連当事者取引

支配株主である株式会社オフィス深見との取引について、COELは「原則として支配株主との取引を行わない方針」とし、例外的に取引を行う場合は一般取引先と同様の適切な条件で行い、取引内容と条件の妥当性を取締役会で慎重に審議して決定するとしています。関連当事者との取引は、前事業年度・当事業年度とも「該当事項はありません」です。TPMの上場適格性要件にも「事業を公正かつ忠実に遂行していること」(関連当事者取引の牽制を含む)があり、オーナー企業ほど、上場準備の早い段階で取引の解消と方針の明文化を進めておく必要があります。考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)でも解説しています。

役員報酬、責任限定契約、D&O保険

第31期の役員報酬は、取締役(社外取締役を除く)4名に61,935千円(基本報酬49,548千円、賞与12,387千円)、常勤監査役2名に4,160千円、社外取締役1名に1,440千円、社外監査役2名に2,880千円で、使用人兼務取締役の使用人分給与は含まれていません。報酬の決定方針についての記載はありません。

責任限定契約は会社法427条1項に基づいて締結しており、限度額は法令が定める最低限度額です。一方、役員等との補償契約と会社役員賠償責任保険(D&O保険)は、いずれも締結していないと記載されています。定款では、取締役の員数を10名以内、監査役を4名以内とし、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上、特別決議の定足数も3分の1以上(議決権の3分の2以上で決議)としています。

内部監査・内部統制:内部監査室1名と三様監査

内部監査は、代表取締役社長直轄の独立組織である内部監査室(1名)が、内部監査計画に基づいて実施しています。監査役会・会計監査人と連携しながら各部署の業務監査を計画的に行い、結果を代表取締役社長に報告するとともに、被監査部門に具体的な助言・勧告を行って改善状況を確認するとされています。内部監査室・監査役・会計監査人は、年間予定や業績報告など必要に応じて随時情報交換を行い、相互の連携を高めていると記載されています。

三様監査と内部監査の流れ監査役会常勤1名・社外2名内部監査室(1名)代表取締役社長直轄会計監査人監査法人東海会計社代表取締役社長連携連携情報交換年間予定・業績報告などを随時共有監査結果を報告被監査部門へ具体的な助言・勧告を行い、改善状況を確認

図14 発行者情報「内部監査及び監査役監査の状況」「会社の機関の内容」をもとに作成

内部監査担当者が1名の場合、その担当者が所属していた部署や内部監査室自体をだれが監査するか(自己監査の回避)が論点になりますが、COELの発行者情報には、この点についての記載はありません。上場準備会社が少人数で内部監査を始める場合は、他部署の担当者による相互監査や外部への委託など、自社の方法を決めて説明できるようにしておくことが大切です。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

内部統制システム構築の基本方針は取締役会で改定決議されており、10項目からなります。内部通報窓口の設置、文書管理規程・決裁権限規程・業務分掌規程に基づく職務執行、監査役を補助する使用人の独立性、監査役への報告体制、反社会的勢力排除の基本方針などに加え、「財務報告の信頼性を確保するための体制」として、財務報告に係る内部統制の有効性を評価・報告する体制を整備するとしています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、将来の一般市場への上場を考える会社にとっては、この段階から財務報告に係る内部統制を整えておくことに意味があります。情報セキュリティについては、国際規格ISO27001の認証を全社で取得していると記載されています。

会計・開示の論点:ストックとフローで異なる収益認識

収益認識の時点

COELの収益は、PSとCIの売上区分から生じます。重要な会計方針では、PSのうちサービス導入までの初期費用等は稼働を確認した時点で、ライセンス販売による利用料は顧客との契約期間に従い一定の期間にわたって収益を認識するとしています。CIの受託開発(受注制作のソフトウェア開発)は、一定の期間にわたり充足される履行義務として、見積総原価に対する発生原価の割合(インプット法)で進捗度を見積もって収益を認識し、期間がごく短い契約は完全に履行義務を充足した時点で認識する代替的な取扱いを適用しています。ソフトウェア販売は、財又はサービスに対する支配が顧客に移転した時に収益を認識します。

COELの収益認識の時点PS:サービス導入までの初期費用等PS:ライセンス販売による利用料CI:受託開発(受注制作ソフトウェア)CI:ソフトウェア販売稼働を確認した時点で認識(一時点)契約期間に従い一定の期間にわたり認識インプット法(発生原価÷見積総原価)で一定期間期間がごく短い契約は完全に履行した時点支配が顧客に移転した時に認識(一時点)契約負債(主に前受金)448,023千円、うち1年以内に収益認識の見込み433,742千円当期の収益のうち期首の契約負債残高に含まれていた額は419,310千円

図15 財務諸表注記「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」「収益認識関係」より

収益の分解情報をみると、第31期はPSの1,217,441千円のうち1,078,247千円が一定の期間にわたり移転されるもの、139,193千円が一時点で移転されるものです。CIの1,177,765千円は、一時点が623,177千円、一定期間が554,587千円です。全体では一定期間が1,632,834千円(68.2%)、一時点が762,371千円(31.8%)でした。

サービス別・収益認識の時期別の売上高(第31期・百万円)プロダクトサービス一定期間 1,078139計1,217クラウドインテグレーション一定期間 555一時点 623計1,178青:一定の期間にわたり移転される財及びサービス 橙:一時点で移転される財及びサービス全体では一定期間 1,633(68.2%)、一時点 762(31.8%)

図16 財務諸表注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より(百万円未満四捨五入)

契約負債(主に顧客からの前受金)は第31期末で448,023千円あり、総資産1,597,418千円の約28%を占めます。当期に認識した収益のうち期首の契約負債残高に含まれていた額は419,310千円、残存履行義務に配分した取引価格は1年以内433,742千円、1年超2年以内13,581千円、2年超700千円と開示されています。契約資産は、請負契約について履行義務の充足に応じて認識する未請求の対価で、第31期末は36,241千円です。

サブスクリプションと受託開発を併せ持つ会社では、①初期費用を一時点で認識するか期間で認識するか、②受託開発の進捗度をどう見積もるか(見積総原価の管理)、③前受金と契約負債の管理、が審査や監査で問われやすい論点です。COELは受注損失引当金の計上基準も定めており、第31期の期首残高58千円は当期に全額取り崩されています。収益認識の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。

重要な会計上の見積りと特徴的な注記

重要な会計上の見積りとして開示されているのは、繰延税金資産の回収可能性(第31期末41,264千円)です。将来の課税所得の見積りは、翌期以降の予算と中期経営計画を基礎としていると記載されています。

ほかに特徴的な注記として、資産除去債務があります。本社と東京オフィスの原状回復義務について、新たな業者見積りの入手に伴って原状回復費用と使用見込期間の見積りを変更し、増加額14,758千円を加算し、履行による減少額1,368千円を差し引いた結果、期末残高は28,188千円になりました(使用見込期間は取得から10年、割引率1.413%)。また、退職給付制度は中小企業退職金共済(中退共)を前期で終了し、SBI確定拠出年金制度に切り替えています(第31期の掛金20,205千円)。税効果会計の注記では、法定実効税率34.43%に対して税効果会計適用後の負担率が23.60%で、税額控除(△8.43%)や修正申告による影響額(△5.85%)が差異の項目として示されています。未適用の会計基準として、新リース会計基準(企業会計基準第34号)を2028年9月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中とされています。

監査法人と監査報酬

会計監査人は監査法人東海会計社で、第31期の監査証明業務に基づく報酬は11,500千円、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、監査法人からの見積り提案をもとに監査計画・監査日数・監査従事者の構成等を勘案して検討し、監査役会の同意を得て決定しています。監査役会は会社法399条に基づき、日本監査役協会の「会計監査人との連携に関する実務指針」を踏まえて妥当性を検討したと記載されています。

事業等のリスクと、J-Adviser契約の解除条項

事業等のリスクには10項目が挙げられています。①市場環境の変化(技術革新による陳腐化、顧客のIT投資マインドの減退)、②人材の採用・育成、③競合、④システム障害及び製品の不具合、⑤特定の製品への依存(Microsoft Azure)、⑥情報セキュリティ、⑦知的財産権、⑧特定の人物への依存(代表取締役社長への依存度は高いと認識)、⑨大株主(深見和久氏とオフィス深見で69.9%)、⑩担当J-Adviserとの契約の解除に関する事項です。各項目に発生可能性や影響度の記載はありません。

TPMの会社ならではの項目が⑩です。発行者情報では、特例102条により、TPM上場会社は担当J-Adviserと上場適格性の審査や上場後の指導・助言・審査等の業務を委託する契約を締結する義務があること、名南M&Aとの契約で会社に求められる義務(特例上の義務の履行と必要な協力、取締役会資料・株主総会資料・経営管理資料などの遅滞なき提出、指導・助言に従った行動)が具体的に記載されています。

担当J-Adviser契約と上場廃止のつながりCOEL名南M&A(担当J-Adviser)資料の遅滞なき提出・必要な協力指導・助言・審査等(特例102条)催告による解除(是正期間:原則1か月)無催告解除の事由(債務超過・虚偽記載等)合意解約・1か月前以上の書面通知代わりの担当J-Adviserを確保できないTPM上場廃止につながる可能性このほか株主総会の特別決議を経た「上場廃止申請書」の提出でも上場廃止となる

図17 発行者情報「事業等のリスク(10)担当J-Adviserとの契約の解除に関する事項について」をもとに作成

契約の解除については、義務の不履行や契約違反があった場合に、相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、期間内に是正されなければ解除できること、双方の書面による合意又は1か月前以上の書面通知でいつでも解約できることが定められています。さらに、債務超過、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など、催告なしで解除できる事由が列挙されています。そして、催告期間中に是正できない場合や、代わりの担当J-Adviserを確保できない場合は、TPM上場廃止につながる可能性があると記載されています。公表日時点で、解約につながる事象は発生していないとされています。

一般市場の上場会社には、上場後も特定の外部機関との契約が上場維持の前提になるという仕組みはありません。TPMを目指す会社は、J-Adviserを「上場まで支援してくれる外部専門家」としてだけでなく、上場後も継続的に資料を提出し、指導を受ける相手として選ぶ必要があります。COELは本店と同じ名古屋に拠点を置くJ-Adviserと契約しており、日常的なやり取りのしやすさも選定の観点になり得ます(COEL自身は選定理由を記載していません)。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

COELの発行者情報には、将来グロース市場やスタンダード市場へ移ることについての記載はありません。したがって、ここではCOELの方針ではなく、TPMを経て一般市場を目指す会社に一般的に当てはまる点を整理します。

項目 JPXの公表資料で確認できること
移行の手続 市場区分の変更ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われる(例:AlbaLinkは2025年12月14日にTPM上場廃止、12月15日にグロース市場に新規上場)
一般市場の審査 2025年11月時点の東証資料では、TPMからの上場の審査も非上場企業と同様に一から確認が行われ、相応の負担があると現状認識が示されている
今後の予定 2026年4月3日の東証資料で、TPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定と公表(2026年10月7日時点の実施状況は本記事では確認できていない)
実績 TPMから一般市場へ上場した企業は15社(2025年11月時点の東証資料)

一般市場への上場では、監査期間が直前2期になり、四半期決算短信や内部統制報告書の提出も求められます。TPMの上場会社が将来の一般市場上場を考えるなら、上場前の1期だけでなく継続して監査を受けた実績を積むこと、発行者情報と適時開示の運用を通じて開示体制を鍛えること、財務報告に係る内部統制を評価できる状態にしておくことが、準備を前倒しする手段になります。COELが内部統制システムの基本方針に財務報告の信頼性確保の体制を盛り込んでいることは、その点で参考になる記載です。資本政策の観点では、一般市場の流通株式の考え方も確認しておくとよいでしょう(流通株式比率の計算式と調べ方)。

上場準備会社が学べること

COELの事例から学べること公募なしでも上場発行者情報で上場監査は直前1期未監査期は明記地元のJ-Adviserと契約条項の開示創業家中心の株主と支配株主の方針上場前の株式移動と価格の決め方ストックとフローで異なる収益認識

図18 本記事で取り上げた論点のまとめ

1.公募・売出しなしでも上場できる。COELは特定投資家向け取得勧誘等を行わず、特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。資金調達を目的としない上場では、上場で何を得たいのかを社内で明確にしておくことがいっそう大切です。

2.監査は直前1期、未監査の期は明記する。TPMの監査期間は最近1年間です。COELは監査を受けていない期を注記で明示しています。監査法人の選定と監査対象期の決定は、上場スケジュールを逆算して早めに行う必要があります。

3.J-Adviserとの契約は上場後も続く。契約上の義務、催告解除・無催告解除の事由、代わりのJ-Adviserを確保できない場合の上場廃止の可能性まで、COELは詳しく開示しています。契約書の条項を上場前に理解しておくことが前提です。

4.支配株主がいる場合は取引の方針を明文化する。創業家で約78%を所有するCOELは、支配株主との取引を原則として行わない方針を示し、関連当事者取引もありません。

5.上場前の株式移動は価格の根拠を残す。純資産方式と類似会社比準方式を勘案した同一価格での移動と、特例に基づく記録の保存は、TPMでも求められる実務です。

6.収益認識は売上の性質ごとに整理する。サブスクリプション、初期費用、受託開発、ソフトウェア販売で認識時点が異なり、契約負債の管理も重要になります。

7.少人数の内部監査は運用方法を説明できるようにする。内部監査室1名の体制では、三様監査の連携と自己監査の回避策を具体的に決めておくことが求められます。

  • 上場の目的(なぜTPMか、上場をどう活用するか)を社内で言葉にしている
  • 公募・売出しの有無と、それに応じた開示書類(特定証券情報/発行者情報)を確認している
  • 上場前の監査対象期と監査法人の選定時期を、上場スケジュールから逆算して決めている
  • J-Adviser契約の義務と解除条項を理解し、上場後の資料提出の体制を整えている
  • 支配株主・関連当事者との取引の方針を定め、取締役会で審議する仕組みがある
  • 上場前2年程度の株式移動について、価格の根拠と記録を保存している

よくある質問

Q1. TPMに上場すれば、だれでも株式を買えるようになりますか?

いいえ。TPMは特定投資家等を対象とした市場で、一般投資家は買付けができません。ただし、一般投資家が保有している株式を売却することは可能です。COELの発行者情報の「投資者に対する注意事項」にも、TPMが特定投資家等を対象とした市場であることが記載されています。

Q2. TPMには上場審査がないのですか?

形式基準(数値基準)がないだけで、審査がないわけではありません。担当J-Adviserが上場適格性要件(5項目)を調査・確認して宣誓書を作成し、東証も意向表明の後に面談を行います。上場申請から承認までは原則10営業日ですが、その前にJ-Adviserの調査と意向表明があります。

Q3. TPMの上場前に監査はいらないのですか?

監査は必要です。TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」で、COELも直前事業年度(第31期)の財務諸表について監査法人の監査を受けています。上場後も、年次と中間の発行者情報の財務諸表に監査意見又はレビューの結論等が必要です。

Q4. TPMからグロース市場へは市場変更で移れますか?

JPXの公表事例では、TPMから一般市場への移行は市場区分の変更ではなく、TPMの上場廃止と一般市場への新規上場として扱われています。COELの発行者情報には、一般市場への移行についての記載はありません。

最初の一歩は、「なぜ上場するのか」と「どの市場か」を1枚に書くことから

COELの事例が示すように、TPMへの上場は、公募・売出しを伴わない形でも実現できます。その分、上場によって何を得たいのかが外からは見えにくくなります。まずは、上場の目的、想定する市場(TPMか一般市場か、TPMを経て一般市場を目指すのか)、そのために必要な監査期間と体制を1枚に書き出し、監査法人とJ-Adviser(又は主幹事証券)にいつ相談するかを決めることから始めてみてください。準備の全体像はIPO準備 完全ガイド、ガバナンス整備の進め方は上場準備のガバナンスも参考になります。

まとめ

株式会社COELは、自社クラウドサービス「manage」と、他社クラウドを組み合わせるクラウドインテグレーションを両輪とする名古屋の会社で、2026年3月27日に担当J-Adviser名南M&Aのもと、TOKYO PRO Marketに上場しました。上場に際して公募・売出しは行わず、特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表しています。発行者情報からは、直前1期の監査と未監査期の明記、創業家中心の株主構成と支配株主との取引の方針、上場前の株式移動の価格の決め方、J-Adviser契約の解除条項の開示を読み取ることができます。

会計面では、サブスクリプションの利用料を期間で、初期費用を稼働確認時に、受託開発をインプット法で認識する収益認識と、448百万円の契約負債が主な論点です。TPMへの上場を検討している会社の方は、本記事のチェックリストを使って、上場目的、監査期間、J-Adviser契約、資本政策の準備状況を確認してみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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