※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
株式会社ベルテックス(証券コード623A)は、2026年8月14日に上場承認を受け、2026年9月18日に東京証券取引所スタンダード市場に上場しました。首都圏の資産運用型(投資用)マンションの販売と、販売後の賃貸管理・建物管理を手がける不動産会社です。本記事では、同社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、上場準備の実務で参考になるポイントを公認会計士の視点で読み解きます。
結論からいえば、ベルテックスのⅠの部は「創業者が発行済株式のすべてを保有したまま上場申請に至ったケース」として、資本政策・ガバナンス・会計の各論点を確認するのに適した教材です。外部投資家からの第三者割当増資の記載はなく、代わりに2020年から毎年、従業員を広く対象とするストック・オプションを発行しています。ガバナンス面では、監査役3名全員を社外監査役とし、任意の指名報酬委員会を置いています。会計面では、不動産販売の引渡基準、サブリースに伴う空室損失引当金、販売用不動産の評価、財務制限条項付きの借入といった、不動産会社に特有の論点がまとまって開示されています。
この記事の見出し
ベルテックスはどんな会社で、どの市場に上場したのか
ベルテックスは2010年12月、東京都新宿区北新宿で資本金900万円により設立されました。設立時の目的は、資産運用型投資用マンションの販売及び賃貸管理等とされています。本店は東京都新宿区西新宿の住友不動産新宿オークタワーにあり、代表取締役社長は創業者の梶尾祐司氏です。決算期は11月で、Ⅰの部の最近事業年度は第15期(2024年12月1日〜2025年11月30日)、直近の中間会計期間は第16期中間(2025年12月1日〜2026年5月31日)です。
子会社などの関係会社はなく、財務諸表は単体のみです。セグメントは「不動産事業」の単一セグメントで、その中に「不動産コンサルティングサービス」と「不動産管理サービス」の2つのサービスがあります。従業員数は2026年7月31日現在で257名(ほかに臨時従業員19名)、平均年齢35.2歳、平均勤続年数3.0年、平均年間給与7,867千円と記載されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式社名 | 株式会社ベルテックス(証券コード623A) |
| 市場 | 東京証券取引所 スタンダード市場 |
| 上場承認日/上場日 | 2026年8月14日/2026年9月18日 |
| 設立 | 2010年12月(資本金900万円) |
| 本店 | 東京都新宿区西新宿六丁目8番1号 |
| 決算期 | 11月 |
| 事業 | 不動産事業(単一セグメント):不動産コンサルティングサービス、不動産管理サービス |
| 従業員 | 257名(臨時19名)、平均年齢35.2歳(2026年7月31日現在) |
| 売上高(第15期) | 34,941,218千円 |
| 経常利益(第15期) | 1,758,362千円 |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(取締役5名うち社外2名、監査役3名全員社外) |
| 会計監査人 | かがやき監査法人 |
| 株主(Ⅰの部記載時点) | 梶尾祐司氏1名(発行済株式8,100,000株のすべて) |
スタンダード市場は、市場で一定の時価総額・流動性を持ち、上場企業として基本的なガバナンス水準を備えた企業向けの市場と位置づけられています。スタンダード市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則が適用されます(プライム市場向けの原則は除きます)。上場審査の実質審査基準は「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点」の5項目です。各基準の考え方は、IPOの実質審査基準とはやIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で解説しています。
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何で稼いでいるのか:事業内容と収益モデル
ベルテックスの事業は、投資用マンションを仕入れて販売する「不動産コンサルティングサービス」と、販売後の物件の賃貸管理や管理組合からの建物管理を受託する「不動産管理サービス」の2本柱です。主力は不動産コンサルティングサービスで、第15期の売上高34,941,218千円のうち31,186,717千円(89.3%)を占めます。不動産管理サービスは3,754,501千円(10.7%)です。
図1 仕入れた物件を個人投資家・法人顧客に販売し、購入後の賃貸管理を受託する構造(Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成)
販売する物件は、首都圏の自社開発マンション(「VERXEED」「VERXEED STAIR」)と、築5〜20年程度の中古物件です。一部の自社開発では「ゼネコン機能の内製化」を進めており、設計・工事は各社に依頼しつつ、同社が施工管理・設計監理・一部の資材調達を担う形と説明されています。1棟単位の仕入れや自社開発物件の竣工時には、全体の3割程度を上限の目安として不動産業者にも販売する方針です。第15期には、第一リアルター株式会社への売上高が3,887,127千円(売上高の11.1%)で、主要な相手先として開示されています。
営業体制については、ファイナンシャル・プランニング技能士、税理士、建築士などの専門家を擁し、10を超える金融機関と提携していると記載されています。個人投資家への営業を第一の柱、法人顧客への営業を第二の柱としており、2025年11月期の顧客の流入経路は既存顧客への追加販売が最も多く、次いで紹介とされています。また、不動産特定共同事業法に基づく不動産ファンド「VERFUND」(一口10万円、運用期間3〜6か月)を運営しており、同社が出資総額の30%を目途に劣後出資を行います。VERFUNDは顧客獲得の役割も担うと説明されています。
図2 第15期(2025年11月期)は通期、第16期中間は2025年12月〜2026年5月(Ⅰの部「事業の内容」の販売高より)
不動産管理サービスの4つのプラン
販売後の物件については、オーナーから賃貸管理を受託します。Ⅰの部では、オーナーが選べる管理プランが次のように説明されています。賃貸管理戸数は2026年6月末で5,259戸、入居率は99.8%と記載されています。
| プラン | 仕組み(Ⅰの部の説明) |
|---|---|
| 集金代行プラン | 家賃の集金代行。管理手数料は月777円 |
| 楽々プラン | パススルー型の特定賃貸借(サブリース)。販売とセットで提案する場合は、入居者の賃料から3,300円を控除した額が借上賃料。空室リスクは所有者が負担 |
| 安心プラン | 家賃保証型。査定賃料の90〜95%を保証 |
| V95プレミアム | 定期借家型。10年間の賃料固定 |
このうち家賃保証型や賃料固定型のプランでは、空室が生じても同社がオーナーに賃料を支払うため、会計上は将来の空室や転貸差損に備える引当金(空室損失引当金、転貸損失引当金)が計上されています。会計の論点は後半で詳しく取り上げます。
経営上の目標とKPIは何か
同社は、金融コストを加味した「経常利益」を経営上の目標の達成状況を判断する指標としています。あわせて、不動産コンサルティングサービスでは取引件数と仕入戸数、不動産管理サービスでは管理戸数と管理棟数を重要な経営管理指標としています。さらに、販売戸数/人月、仕入戸数/人月、機能ごとの人員数、販売単価、粗利率をモニタリングしているほか、MD&Aではファンドの投資家数も注力すべき指標として挙げられています。
図3 Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」より。仕入戸数は開発物件は竣工日、仕入物件は仕入契約日が基準
上場準備では、Ⅰの部の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載するKPIが、社内の月次管理や取締役会資料で実際に使われている指標と一致しているかが確認されます。KPIの定義(たとえば仕入戸数を、開発物件は竣工日、仕入物件は仕入契約日で数えるといった基準日)を明文化しておくことは、審査対応だけでなく、上場後の決算説明でも数値の一貫性を保つために重要です。
沿革から見る上場までの道のり
沿革を見ると、同社は設立直後の2011年4月に宅地建物取引業免許(東京都知事)を取得し、2013年4月に自社ブランドマンション「VERXEED」の販売を開始しています。2017年10月に本社を現在地に移転し、2020年には一般建設業許可と小規模不動産特定共同事業の登録を経て、2020年10月にVERFUND1号の運営を開始しました。
図4 設立から上場までの主な出来事(Ⅰの部「沿革」をもとに作成)
2021年には、マンション管理業の登録(4月)、宅地建物取引業の大臣免許への切替え(5月)、名古屋支店(現中部支店)の開設(6月)、賃貸住宅管理業者の登録(7月)と、事業拡大に伴う許認可の整備が続きます。2022年9月にはISMS認証を取得し、2023年2月には特定建設業許可を取得して自社建設マンションのプロジェクトを開始しました。2025年5月に九州支店・北海道支店、2026年7月に中四国支店(岡山)を開設し、2026年3月には不動産特定共同事業の1・2・3号の許可(金融庁長官・国土交通大臣)を取得しています。
このように、同社の沿革は「事業の拡大に合わせて許認可を一つずつ取得してきた歴史」として読むことができます。許認可を前提とする事業では、上場審査で許認可の有効期限、更新手続、取消事由に該当する事実の有無が確認されます。Ⅰの部の事業等のリスクでは、宅建業、賃貸住宅管理業、マンション管理業、不動産特定共同事業、特定建設業の5つの許認可について、番号、有効期間、取消事由の根拠条文が一覧で開示されており、このうち賃貸住宅管理業の登録(有効期間2026年7月30日まで)は2026年5月12日に更新申請が受理され手続中と記載されています。許認可の確認の考え方はIPOで許認可はどこまで見られるかも参照してください。
業績はどう推移しているか:5期分の数値と読み方
Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」には、第11期(2021年11月期)から第15期(2025年11月期)までの5期分の数値が掲載されています。このうち第14期・第15期の財務諸表は、かがやき監査法人による金融商品取引法第193条の2第1項に準じた監査を受けています。一方、第11期から第13期の数値は会社計算規則に基づいて作成されたもので、この監査を受けていないと注記されています。Ⅰの部の5期分の数値を読むときは、どの期が監査済みかを必ず確認しましょう。
| 項目(千円) | 第11期 2021/11 | 第12期 2022/11 | 第13期 2023/11 | 第14期 2024/11 | 第15期 2025/11 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 17,059,099 | 20,792,689 | 21,377,468 | 28,304,678 | 34,941,218 |
| 経常利益 | 164,761 | 404,967 | 424,700 | 1,118,823 | 1,758,362 |
| 当期純利益 | 119,575 | 279,949 | 286,650 | 781,919 | 1,280,798 |
| 純資産額 | 2,226,855 | 2,506,979 | 2,793,892 | 3,575,472 | 4,856,374 |
| 総資産額 | 7,351,083 | 7,262,791 | 8,479,340 | 9,544,452 | 14,084,974 |
| 自己資本比率(%) | 30.3 | 34.5 | 32.9 | 37.5 | 34.5 |
| 自己資本利益率(%) | 5.5 | 11.8 | 10.8 | 24.6 | 30.4 |
| 営業CF | - | - | △674,514 | 759,903 | △1,711,596 |
| 従業員数(臨時) | 115(7) | 141(4) | 148(9) | 191(17) | 231(18) |
売上高は5期にわたって増加し、第15期は34,941,218千円(前期比23.4%増)となりました。経常利益は第11期の164,761千円から第15期の1,758,362千円へと拡大し、第15期は前期比57.2%増です。第15期の増益について、Ⅰの部は自社ブランドマンション14棟336戸の供給等を理由に挙げています。第15期の販売の内訳は、自社ブランドマンション14棟336戸、その他新築88戸、中古602戸です。
図5 第11期〜第15期の売上高(百万円未満四捨五入)。第11〜13期は会社計算規則に基づく数値で、金融商品取引法に準ずる監査の対象外です
図6 第15期は経常利益1,758百万円、当期純利益1,281百万円(百万円未満四捨五入)。第11〜13期は監査の対象外の数値です
第16期中間(2025年12月〜2026年5月)は、売上高16,699,760千円、営業利益973,189千円、経常利益910,224千円、中間純利益599,676千円です。中間期の販売は自社ブランドマンション7棟120戸、その他新築18戸、中古347戸と記載されています。なお、同社は配当を実施していませんが、2026年11月期については1株当たり25円00銭〜32円00銭の配当を想定していると開示しています。
損益のどこで利益が生まれているか
第15期の損益を段階別に見ると、売上原価28,758,281千円を差し引いた売上総利益は6,182,936千円、販売費及び一般管理費4,290,477千円を差し引いた営業利益は1,892,459千円です。営業外費用144,418千円の主な内容は融資手数料と支払利息で、不動産の仕入れを借入で賄うビジネスであることが損益にも表れています。特別利益の47,500千円は和解金収入で、2024年12月に成立した保証債務履行請求訴訟の和解によるものです(第14期の財務諸表の後発事象として記載)。
図7 売上高は前期比23.4%増、経常利益は57.2%増。百万円未満四捨五入(特別利益のみ千円表示)
売上原価の明細を見ると、不動産コンサルティングの原価25,780,865千円は土地12,039,385千円、建物13,186,488千円などで構成され、不動産管理の原価2,975,373千円の大半は支払家賃2,572,623千円です。売上高に対する売上総利益の割合(筆者計算)は第14期・第15期とも17.7%、第16期中間は18.9%です。不動産販売は一件当たりの金額が大きく、どの期に引渡しが集中するかで四半期ごとの業績が振れます。同社も事業等のリスクで「引渡し時期による業績変動」を挙げ、引渡しにより売上を計上するため四半期ごとに業績が変動する可能性を開示しています。
キャッシュ・フローはなぜマイナスとプラスを行き来するのか
第15期の営業活動によるキャッシュ・フローは△1,711,596千円でした。税引前当期純利益1,805,862千円を計上した一方、棚卸資産(販売用不動産・仕掛販売用不動産)が4,156,095千円増加したためです。Ⅰの部は、マイナスの理由を開発用地の取得と説明しています。不足資金は借入で賄われ、財務活動によるキャッシュ・フローは+2,574,526千円でした。これに対して第16期中間は、棚卸資産が2,772,230千円減少したことで営業CFが+2,745,265千円となり、財務CFは借入の返済により△1,997,389千円となっています。
図8 不動産の仕入が先行すると営業CFがマイナスになり借入で賄い、販売が進むと営業CFがプラスに転じて借入を返済する(百万円未満四捨五入)
不動産開発・販売の会社では、「仕入れが先行する期は営業CFがマイナス、販売が進む期はプラス」という動きは事業の性質から生じるもので、営業CFのマイナスそれ自体が問題というわけではありません。ただし上場審査では、仕入れの意思決定(どの物件をいくらで仕入れるか)が社内規程に沿って行われているか、資金繰りの見通しと借入の返済計画が事業計画と整合しているかが確認されます。同社は仕入管理規程を定め、年次予算で3か年の仕入・人材投資等のキャッシュ・フロー計画を作成し、月次で資金繰りを確認していると記載しています。事業計画の作り方はIPO審査の「事業計画の合理性」も参考になります。
資本政策と株主構成:創業者100%からの上場
ベルテックスの資本政策で最も特徴的なのは、Ⅰの部の記載時点で株主が梶尾祐司氏1名だけだという点です。所有者別状況(2026年7月31日現在)では、株主数1名、81,000単元(発行済株式8,100,000株)の100%を個人が所有しています。ベンチャーキャピタルや事業会社の株主はおらず、Ⅰの部の「第三者割当等の概況」に記載されているのもストック・オプション(新株予約権)だけです。
図9 Ⅰの部「株主の状況」をもとに区分ごとに集計(区分ごとの割合は筆者計算)。( )内は新株予約権による潜在株式。株式分割後の株数
Ⅰの部の「株主の状況」は、新株予約権による潜在株式を含めて記載されます。潜在株式を含めると、総数8,889,000株のうち梶尾氏が8,130,000株(うち潜在株式30,000株)で91.46%、残りは社内取締役、社外取締役、監査役、従業員が保有する新株予約権です。注意したいのは、これらの比率は「上場申請時点(Ⅰの部記載時点)」のもので、上場時(売出し後)の比率ではないことです。事業等のリスクでは、梶尾氏が売出しで所有株式の一部を売却する予定であるものの、引き続き大株主となる見込みと記載されています。
流通株式比率については、新規上場時において31.7%となる見込みと開示されています。スタンダード市場の上場審査基準では流通株式比率25%以上が求められます。流通株式からは、上場株式数の10%以上を所有する株主(主要株主)や役員等の所有株式、自己株式などが除かれるため、創業者が全株式を持つ会社では、上場時の売出しや公募によって流通株式をどれだけ確保するかが資本政策の中心的な論点になります。同社は今後、公募増資やストック・オプションの行使による流通株式数の増加、IR活動を通じて流動性の向上を図る方針と記載しています。流通株式の数え方は流通株式比率の計算式と調べ方で詳しく解説しています。
株式分割と単元株制度:上場に向けた株式数の整備
同社は上場までに2回の株式分割を行っています。1回目は2020年11月26日の1株を3,000株とする分割で、発行済株式は900株から2,700,000株になりました。第1回ストック・オプションの付与(2020年11月27日)の前日です。2回目は2026年6月1日の1株を3株とする分割で、発行済株式は8,100,000株になりました。Ⅰの部は、この分割の目的を投資単位の引下げによる流動性の向上と投資家層の拡大と説明しています。分割にあわせて、発行可能株式総数は会社法184条2項に基づき10,000,000株から30,000,000株に変更されました。このほか、2025年6月18日の臨時株主総会で1単元を100株とする単元株制度を採用しています。
図10 Ⅰの部「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」「新株予約権等の状況」をもとに作成。外部の投資家への第三者割当増資の記載はありません
資本金は、2013年12月に50,000千円、2024年11月に100,000千円となっています。2024年11月の増加は利益剰余金からの振替によるもので、外部からの払込みではありません。上場準備会社では、株式分割や単元株制度の導入、定款の整備を上場申請のスケジュールから逆算して進める必要があります。とくに株式分割はストック・オプションの行使価額や付与株数の調整を伴うため、新株予約権の発行要項に調整条項が適切に置かれているかを事前に確認しておきましょう。資本政策全体の考え方は上場準備の資本政策も参照してください。
毎年発行してきたストック・オプションをどう読むか
同社は、2020年11月の第1回から2025年11月の第7回まで、ほぼ毎年ストック・オプション(新株予約権)を発行しています。付与対象は役員に限らず従業員に広く及んでおり、当初の付与対象者は第1回が取締役5名・監査役1名・従業員112名、第4回が監査役3名・従業員101名、第7回が従業員108名です。2026年7月31日現在の目的となる株式の数(分割後)は合計789,000株で、発行済株式8,100,000株の10.0%に当たります。
図11 株数は2026年7月31日現在で、2026年6月1日の1:3の株式分割後の数。行使価額は分割に伴う調整後の金額。行使は上場後で、行使時に役職員等の地位にあることが条件
行使条件は各回共通で、権利行使時に同社または関係会社の取締役、監査役または従業員の地位にあること(任期満了や定年などの場合を除く)、相続人による行使は認めないこと、株式が上場するまでは行使できないこと、などが定められています。譲渡には取締役会の承認が必要です。その結果、退職などにより権利を喪失した人数も開示されており、第1回では従業員74名、第4回では34名が権利を喪失しています。従業員向けストック・オプションを毎年発行する設計は、新たに入社した従業員にも付与の機会を設けられる一方で、回ごとに株価算定と行使価額が変わるため、管理の手間が増える点に注意が必要です。
行使価額は回を追うごとに上がっており、2026年6月の株式分割に伴う調整後で、第1回1円、第2回136円、第3回203円、第4回・第5回455円、第6回900円、第7回1,050円です。ストック・オプション等関係の注記によれば、同社は未公開企業であるため、ストック・オプションの公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積っています。本源的価値の算定の基礎となる株式価値の評価方法は、第1回が配当還元方式、第2回が類似業種比準方式、第3回が類似業種比準方式と純資産価格方式の平均値、第4回から第7回がDCF法と、回によって異なります。第14期・第15期のストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項なし」とされています。
未上場会社では、付与時の株価が行使価額以下であれば本源的価値はゼロとなり、費用は計上されません。そのため、行使価額の根拠となる株価算定の方法と、その方法を選んだ理由を説明できるようにしておくことが重要です。評価方法を途中で変える場合は、会社の成長段階や利益水準の変化など、変更の理由を記録に残しておくと、上場審査や監査法人とのやり取りがスムーズです。算定方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで、注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例で解説しています。
上場前の割当てと継続所有の確約
Ⅰの部の「第三者割当等の概況」には、第5回から第7回の新株予約権が記載されています。発行価格(行使時の払込金額)はいずれも、DCF方式により算出した評価額に基づき決定したと注記されています。
| 項目 | 第5回 | 第6回 | 第7回 |
|---|---|---|---|
| 発行年月日 | 2024年2月29日 | 2024年11月30日 | 2025年11月30日 |
| 目的となる株式の数 | 48,000株 | 66,600株 | 68,100株 |
| 発行価格(資本組入額) | 455円(228円) | 900円(450円) | 1,050円(525円) |
| 発行価額の総額 | 21,840,000円 | 59,940,000円 | 71,505,000円 |
| 取得者 | 取締役2名 | 従業員 | 従業員 |
| 保有期間等に関する確約 | ― | ― | あり(施行規則272条1項1号) |
このうち第7回については、有価証券上場規程施行規則272条1項1号に基づき、割当日から上場日の前日または権利行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を取得していると記載されています。基準事業年度の末日は2025年11月30日です。継続所有の確約は、上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日以後に行われた第三者割当等が対象で、それより前の割当てまで一律に求められるものではありません。また、主幹事証券会社との間で結ぶロックアップの合意とは別の制度です。対象期間の考え方は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で整理しています。
図12 Ⅰの部「第三者割当等の概況」の記載による。基準事業年度の末日は2025年11月30日。発行価格はDCF方式による評価額に基づく
第5回の取得者は、取締役の馬場裕史氏(30,000株)と社外取締役の鈴木康弘氏(18,000株)で、いずれも特別利害関係者等として記載されています。株主の状況でも、社外取締役2名と監査役3名がそれぞれ新株予約権による潜在株式を保有していることがわかります。社外役員へのストック・オプション付与は禁止されているわけではありませんが、独立性や監督機能への影響について、取締役会や指名報酬委員会でどのような議論をしたかを説明できるようにしておくことが望まれます。なお、特別利害関係者等の株式等の移動状況は「該当事項なし」とされています。創業者1名が全株式を持つ構成のため、上場前の株式の譲渡もなかったことになります。
コーポレート・ガバナンス:監査役全員社外と任意の指名報酬委員会
同社は監査役会設置会社で、会計監査人を設置しています。機関設計の理由として、取締役会による監督機能の確保、独立した監視体制、監査役会による継続的な監視と助言を挙げています。取締役は5名(うち社外取締役2名)、監査役は3名(常勤1名、非常勤2名)で、監査役3名は全員が社外監査役です。社外取締役2名と社外監査役3名の計5名は、いずれも独立役員として届け出る予定と記載されています。
図13 取締役会5名(うち社外2名)、監査役会3名(全員社外)。社外役員5名はいずれも独立役員として届出予定
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部の記載から) |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 梶尾 祐司 | 2008年に不動産会社を設立し代表取締役、2010年12月に当社を設立 |
| 取締役 経営管理本部長 | 馬場 裕史 | 銀行勤務を経て2019年8月に入社、2022年2月取締役 |
| 取締役 不動産事業本部長 | 澤田 統吉 | 不動産会社の執行役員・取締役を経て2018年10月入社、2020年2月取締役 |
| 社外取締役 | 佐々木 義孝 | 上場会社の取締役CFOなどを歴任、2021年5月就任 |
| 社外取締役 | 鈴木 康弘 | 大手小売グループの取締役執行役員CIOなどを歴任、2023年8月就任 |
| 常勤社外監査役 | 加藤 賢二 | 上場会社で内部監査室長・内部統制統括を歴任、2022年2月就任 |
| 社外監査役 | 鈴木 信裕 | 公認会計士、2018年12月就任 |
| 社外監査役 | 青木 丈介 | 弁護士、2022年6月就任 |
取締役会は原則毎月1回開催され、第15期は定時12回・臨時5回の計17回で、取締役5名全員が17回すべてに出席しています。監査役会は第15期に13回開催され、監査役3名全員が全回に出席しています。取締役会の主な検討事項として、中期経営計画(第16期〜第18期)の策定と進捗、各部署の戦略とリスク、関連当事者取引などが挙げられています。取締役会の審議事項には、自社開発用地の仕入れ、拠点の開設、重要な資金調達、新株予約権の発行などが含まれており、不動産会社として金額の大きい仕入れを取締役会で決議する体制であることがわかります。
執行面では、執行役員制度を採用し(執行役員2名)、常勤取締役や各事業責任者で構成する経営委員会を原則毎月1回以上開催しています。定款では、取締役の員数を7名以内、監査役の員数を5名以内とし、非業務執行取締役・監査役との責任限定契約(会社法427条1項)を締結済みであることも記載されています。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で比較しています。
任意の指名報酬委員会はどのように機能しているか
同社は2023年9月1日に、取締役会の諮問機関として任意の指名報酬委員会を設置しました。委員は、委員長の社外取締役 佐々木義孝氏、代表取締役社長 梶尾祐司氏、社外取締役 鈴木康弘氏、社外監査役 加藤賢二氏の4名で、4名中3名が社外役員です。委員長は社外取締役または社外監査役から選定するとされています。開催実績として2025年2月12日、2025年5月12日、2025年11月11日、2026年1月15日の開催日が示され、当事業年度は3回開催、全委員が全回に出席したと記載されています。
図14 指名報酬委員会は社外取締役2名・社外監査役1名・代表取締役社長の4名で構成し、委員長は社外取締役(Ⅰの部「指名報酬委員会の活動状況」より)
取締役候補者の選定は、代表取締役が候補者を指名し、委員会で審議して取締役会に推薦し、取締役会の承認(執行役員は選任)を経て株主総会で選任する流れです。個人別の報酬は、代表取締役が原案を委員会に提案し、委員会が報酬総額の限度内で審議して取締役会に答申し、取締役会が答申を基に承認します。創業者が全株式を持つ会社では、株主総会による牽制が実質的に働きにくいため、社外役員が過半数を占める委員会を通じて指名・報酬の決定過程に客観性を持たせることには大きな意味があります。
役員報酬:固定報酬のみの設計
取締役の報酬限度額は年額250百万円(2019年2月28日定時株主総会決議、使用人分給与を除く)、監査役の報酬限度額は年額30百万円(2025年2月27日定時株主総会決議)です。報酬の方針は役員規程で定められ、取締役については管掌部門の予算達成状況や法令遵守状況などを指名報酬委員会で協議して取締役会に上申し、合理的であれば取締役会が決定します。報酬は原則として定期同額の固定報酬のみで、業績連動報酬はありません。第15期の報酬総額は、社外取締役を除く取締役3名で74,549千円、社外取締役2名で14,400千円、社外監査役3名で14,700千円で、いずれも全額が固定報酬です。
役員報酬の決定方針や決定の手続(委任の有無を含む)は、上場後の有価証券報告書でも開示府令に基づく記載事項となります。上場準備の段階から、規程、委員会の議事録、取締役会の決議が一貫した流れになっているかを確認しておきましょう。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで解説しています。
関連当事者取引:代表者による債務保証
関連当事者との取引としては、代表取締役社長 梶尾祐司氏による同社の銀行借入に対する債務保証が開示されています。被保証の金額は第14期が341,086千円、第15期が190,278千円で、保証料の支払いは行っていないと記載されています。
| 項目 | 第14期(2024年11月期) | 第15期(2025年11月期) |
|---|---|---|
| 相手 | 代表取締役社長 梶尾祐司(議決権の被所有割合 直接100.0%) | 同左 |
| 取引の内容 | 当社の銀行借入に対する債務被保証 | 同左 |
| 取引金額 | 341,086千円 | 190,278千円 |
| 保証料 | 支払いなし | 支払いなし |
代表者による債務保証は、オーナー企業の借入でよく見られる取引です。上場審査では、関連当事者取引について取引の必要性と条件の妥当性が確認され、代表者保証については解消に向けた金融機関との交渉状況が論点になることが一般的です。会社としては、関連当事者取引の把握・承認の手続を規程で定め、取締役会で取引の継続・解消の方針を議論しておくことが重要です。同社の取締役会の主な検討事項にも、関連当事者取引が挙げられています。考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)と社長個人と会社の取引はどう解消するかを参照してください。
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内部監査と内部統制はどう組み立てられているか
内部監査は、代表取締役社長直属の内部監査室が担当しています。人員は室長1名と内部監査人1名の計2名です。内部監査規程に基づいて年度の監査計画を立案し、監査結果は内部監査報告書として代表取締役社長に提出するとともに、取締役会と監査役会にも報告します。室長は、発見した問題点について取締役や部門責任者と協議すると記載されています。
図15 内部監査報告書は代表取締役社長へ提出し、取締役会と監査役会にも報告(Ⅰの部「内部監査の状況」より)
内部監査の結果を社長だけでなく取締役会・監査役会にも報告する「デュアルレポーティング」の形をとっている点は、上場準備会社の参考になります。社長直属の内部監査室は機動的に動ける一方で、社長が関与する領域に対して監査の独立性をどう確保するかが論点になるため、取締役会・監査役会への報告経路を規程に明記しておくことが有効です。なお、内部監査室員の他部署との兼務や、内部監査室自体の監査(自己監査の回避)についての記載は、Ⅰの部の該当箇所では確認できませんでした。一般論として、内部監査担当者が他部署を兼務する場合は、自部署を監査しない仕組み(他部署の担当者による相互監査など)を設けることが求められます。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で解説しています。
三様監査については、内部監査室、監査役、会計監査人が適宜「三様監査連絡会」を開いて情報を共有し、個別にも情報交換を行っていると記載されています。常勤監査役の活動として、重要会議への出席、重要書類の閲覧、代表取締役社長との面談、内部監査室からの結果報告の受領などが挙げられています。また、社外取締役は監査役会に適宜参加しているとされています。三様監査の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)も参照してください。
監査役会の構成:内部監査・会計・法務の専門性
監査役3名の構成は、内部監査の経験者、公認会計士、弁護士という組み合わせです。常勤監査役の加藤賢二氏は、プライム市場の上場会社で内部監査や内部統制を担当した経験を持つと記載されています。非常勤の鈴木信裕氏は公認会計士、青木丈介氏は弁護士です。監査役監査は、コンプライアンスとリスク管理を重点項目としています。上場準備会社が監査役を選ぶときは、会計・法務・業務監査のどの視点を誰が担うかを意識して構成を決めると、監査役会としての監査の質を説明しやすくなります。
| 監査役 | 区分 | 専門性(Ⅰの部の記載) | 監査役会出席 |
|---|---|---|---|
| 加藤 賢二 | 常勤・社外 | プライム上場会社での内部監査・内部統制の経験 | 13回/13回 |
| 鈴木 信裕 | 非常勤・社外 | 公認会計士 | 13回/13回 |
| 青木 丈介 | 非常勤・社外 | 弁護士 | 13回/13回 |
リスク管理とコンプライアンスの仕組み
リスク管理は、代表取締役社長を委員長とするリスク管理・コンプライアンス委員会が中心です。委員は業務執行取締役、常勤監査役、各部の責任者で、原則として毎月1回以上開催し、結果を取締役会に報告します。法務コンプライアンス統括室長が総括責任者に任命されています。金利動向などの経済情勢もこの委員会で毎月モニタリングし、市況が悪化した場合は新規仕入れの抑制や在庫の圧縮を行う方針です。
図16 Ⅰの部「事業等のリスク」「内部統制システムの整備状況」「対処すべき課題」の記載をもとに作成
コンプライアンスの施策として、全役職員と取引企業等を対象とする内部通報窓口(社内外に設置、匿名可。窓口は常勤監査役、内部監査担当、弁護士、社会保険労務士)、四半期ごとの全役職員向け研修、社内報での宅地建物取引業法等の禁止事項の周知が挙げられています。特徴的なのは、営業部門に重要事項説明の研修とテストを行い、一定の基準を下回る者には重要事項説明を行わせないとしている点です。さらに、資産運用型マンションの販売では、契約前に品質管理本部が内容を確認する体制がとられています。投資用不動産の販売では、顧客への説明の適正性が事業の継続に直結するため、営業プロセスの中に統制を組み込んでいる例として参考になります。内部通報の考え方は内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかで解説しています。
会計・開示の論点:不動産会社ならではの論点がまとまっている
ここからは、Ⅰの部の「経理の状況」に記載された会計方針と注記を見ていきます。同社の財務諸表は財務諸表等規則に基づいて作成され、前事業年度(第14期)と当事業年度(第15期)の財務諸表はかがやき監査法人の監査を、第16期中間の中間財務諸表は期中レビューを受けています。財務諸表等の適正性を確保するための取組として、財務会計基準機構への加入、監査法人との協議、会計専門家からの情報共有、専門誌の購読が挙げられています。
収益認識:引渡基準と一定期間、そしてリース会計の範囲
収益認識の方法は、サービスごとに次のとおり記載されています。不動産コンサルティングサービスでは、売買契約に基づき物件を引き渡した時点で顧客に支配が移転すると判断し、一時点で収益を認識します。不動産管理サービスのうち、管理組合等との契約に基づく共用部分の受託業務(会計、清掃、法定点検等)は、一定の期間にわたり収益を認識します。不動産の賃貸収入(サブリースを含む)は、リース会計基準(企業会計基準第13号)を適用しており、収益認識会計基準の範囲外です。
図17 Ⅰの部「重要な会計方針」「収益認識関係」より。金額は第15期(2025年11月期)
特徴的なのが、一部の顧客との契約で、販売した投資用マンションについて本来顧客が負担すべき原状回復費用を同社が負担するサービスです。同社が負担する見込額は、販売時に収益として認識せず契約負債に計上し、保証期間に応じて一定の期間にわたり収益を認識しています。負担見込額は工事費用の実績等に基づき算出しています。物件の販売と保証サービスを一つの契約で提供する場合に、別個の履行義務として識別し、取引価格の一部を繰り延べる処理の例として参考になります。
| 収益の区分(第15期、千円) | 一時点 | 一定期間 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 不動産コンサルティングサービス | 31,186,717 | - | 31,186,717 |
| 不動産管理サービス | 253,481 | 235,379 | 488,861 |
| 顧客との契約から生じる収益 | - | - | 31,675,578 |
| その他の収益(リース会計基準による賃貸料収入等) | - | - | 3,265,640 |
| 売上高 | - | - | 34,941,218 |
契約負債は第15期末で324,834千円で、内訳は賃貸及び建物管理の前受収益211,956千円、不動産販売の前受金58,460千円、原状回復工事代保証サービス54,417千円です。原状回復工事代保証サービスの残存履行義務は、1年以内6,149千円、1年超2年以内6,637千円、2年超3年以内6,617千円、3年超35,013千円と開示されています。上場審査で収益認識が問われるポイントは上場審査で問われる収益認識でまとめています。
重要な会計上の見積り:販売用不動産の評価
重要な会計上の見積りとして開示されているのは「棚卸資産の評価」の1項目です。販売用不動産・仕掛販売用不動産は個別法による原価法(収益性の低下による簿価切下げの方法)で評価しており、正味売却価額は物件ごとの販売見込額から販売経費等の見込額を差し引いて算定します。主要な仮定である販売見込額は、金融機関から入手した対象物件の融資可能額を参考にするか、不動産データの提携企業から入手した周辺の販売価格に基づく土地単価に実際の面積を乗じて算定するとされています。
図18 重要な会計上の見積り「棚卸資産の評価」より。第15期末は販売用不動産7,645,458千円、仕掛販売用不動産2,672,395千円
第15期末の販売用不動産は7,645,458千円、仕掛販売用不動産は2,672,395千円で、総資産14,084,974千円の約7割を占めます(筆者計算)。棚卸資産の評価損は第14期14,096千円、第15期2,042千円です。金額は小さくても、総資産に占める割合が大きい資産の評価は、監査上も審査上も重要な論点です。販売見込額の根拠資料(融資可能額の資料や周辺相場のデータ)を物件ごとに保存し、評価の手順を規程化しておくことが望まれます。
サブリースに伴う引当金:空室損失引当金と転貸損失引当金
家賃保証型などの管理プランに関連して、同社は2種類の引当金を計上しています。空室損失引当金は、空室保証による将来の費用の発生に備えるもので、期末における将来の保証見込額を計上します。第15期末の残高は179,966千円(前期末101,840千円)です。転貸損失引当金は、サブリース契約による将来の転貸差損の見積額で、第15期末の残高は流動789千円、固定6,148千円です。繰延税金資産の内訳にも、空室損失引当金62,250千円が含まれています。
借入と財務制限条項
同社の事業は仕入資金を金融機関からの借入で賄う構造で、事業等のリスクでは第15期末の有利子負債依存度を45.9%と開示しています。第15期末の借入金は、短期借入金2,033,440千円、1年内返済予定の長期借入金1,440,872千円、長期借入金2,884,660千円で、販売用不動産・仕掛販売用不動産などの計6,419,256千円が担保に供されています。一部の借入には財務制限条項が付されており、Ⅰの部では5つの借入について条項の内容が開示されています。
| 借入 | 主な財務制限条項(Ⅰの部の記載の要約) |
|---|---|
| (1) 長期 480,000千円 | 経常損失を2期連続で計上しない/純資産を基準額の75%以上に維持/預金残高を一定額以上に維持 |
| (2) 短期 154,300千円 | 純資産の80%維持/3か月・6か月累計と年度の営業損益をゼロ以上 |
| (3) 短期 280,800千円 | 純資産を2022年11月期末の75%以上に維持/2四半期累計の営業損失禁止/在庫回転期間12か月以内 |
| (4) 短期118,500千円+長期70,300千円 | 営業損失を2回連続で計上しない/純資産を直近の75%以下にしない |
| (5) 短期 181,000千円 | 営業損失を計上しない/純資産の75%維持 |
財務制限条項は、抵触すると期限の利益を喪失するおそれがあるため、上場準備では条項の一覧化と、月次・四半期での抵触判定の仕組みづくりが欠かせません。同社は事業等のリスクで、財務制限条項に対して相当のバッファーがあると説明しています。
会計監査人と監査報酬
会計監査人はかがやき監査法人で、継続監査期間は2024年11月期以降の2年間です。業務執行社員は2名、監査業務の補助者は公認会計士4名、公認会計士試験合格者1名、その他1名です。監査報酬は前事業年度・最近事業年度とも監査証明業務に基づく報酬21,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査法人の選定方針として、日本監査役協会の実務指針を参考にしているとされています。上場申請の直前2期は監査を受ける必要があるため、監査法人の選定は早めに着手することが重要です。詳しくは監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
事業等のリスクと、審査で問われやすい点
同社の「事業等のリスク」は24項目で構成され、すべての項目に「顕在化可能性」「影響度」「発生時期」を付けて記載しています。リスク管理・コンプライアンス委員会でのモニタリングなど、各リスクへの対応策も併記されています。主な項目を整理すると次のとおりです。
| リスク項目 | 顕在化可能性/影響度 | Ⅰの部の記載の要点 |
|---|---|---|
| 経済情勢・金利 | 中/中 | 委員会で金利動向等を毎月モニタリング。市況悪化時は新規仕入れを抑制し在庫を圧縮 |
| 法的規制 | 低/大 | 宅建業法、賃貸住宅管理業法、不特法など。5つの許認可の有効期間と取消事由を一覧で開示 |
| 特定人物への依存 | 低/中 | 代表取締役社長 梶尾祐司氏への依存 |
| 有利子負債への依存 | 低/中 | 第15期末の有利子負債依存度45.9% |
| 財務制限条項 | 低/中 | 一部の借入に付与。相当のバッファーがあると説明 |
| ストック・オプションによる希薄化 | 高/小 | 潜在株式789,000株(発行済株式の10.0%) |
| 大株主 | 中/中 | 梶尾祐司氏が発行済株式のすべてを所有。売出し後も大株主の見込み |
| 引渡し時期による業績変動 | 中/小 | 引渡しにより売上を計上するため四半期ごとに変動 |
| 劣後出資による損失 | 中/中 | VERFUNDで約30%を劣後出資 |
| 流通株式比率 | 低/中 | 新規上場時の流通株式比率は31.7%の見込み |
このほか、災害・感染症、競合、人材、訴訟(同社が提起した訴訟2件が係属中)、情報漏洩、システム、販売用不動産の評価損、資産運用型マンションの販売、契約不適合責任、開発、賃貸管理の空室、VERFUNDの成立下限額、配当政策、SNSでの風評が挙げられています。
このケースから、上場審査で問われやすいと考えられる点を一般論として整理すると、次のようになります。第一に、創業者が全株式を持つ会社のガバナンスです。株主による牽制が働きにくいため、社外役員の構成、指名報酬委員会、関連当事者取引の承認手続が実効的に機能しているかが確認されます。第二に、投資用不動産の販売の適正性です。顧客への説明や勧誘の方法、重要事項説明の体制、苦情の管理が問われます。第三に、仕入れと資金繰りです。仕入れの意思決定の手続、借入と担保・財務制限条項の管理、事業計画との整合性が論点になります。第四に、許認可の維持管理です。更新期限の管理と取消事由の未然防止の仕組みが確認されます。主幹事証券の審査の観点は主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかも参考にしてください。
このケースから上場準備会社が学べること
最後に、ベルテックスのⅠの部から、上場準備会社が実務に生かせるポイントを7つにまとめます。
- 創業者100%保有でも上場は可能だが、流通株式の確保が資本政策の中心になる。売出しや公募でどれだけ流通株式を確保するかを、市場の基準(スタンダード市場は25%以上)から逆算して設計します。
- 従業員向けストック・オプションを毎年発行するなら、株価算定の方法と理由を記録する。評価方法が回ごとに変わる場合は、変更の理由を説明できるようにしておきます。
- 上場前1年以内の割当ては、継続所有の確約の対象になる。割当日と基準事業年度の末日の関係を、割当ての前に確認します。
- オーナー企業ほど、任意の指名報酬委員会が効く。社外役員が過半数を占める委員会で、指名・報酬の決定過程に客観性を持たせます。
- 監査役会は専門性の組み合わせで構成する。内部監査の経験者、公認会計士、弁護士の組み合わせは、業務・会計・法務の各視点をカバーします。
- 営業プロセスに統制を組み込む。重要事項説明のテストに合格しない者には説明させない、契約前に品質管理部門が確認する、といった仕組みは不動産販売以外にも応用できます。
- 総資産に占める割合の大きい資産の評価と、借入の契約条件を一覧で管理する。販売用不動産の評価根拠と財務制限条項の判定を、月次決算の手続に組み込みます。
上場準備のチェックリスト
- 上場時の流通株式比率を、売出し・公募の規模から試算しているか
- ストック・オプションの各回について、株価算定の方法・理由・行使価額の根拠を記録しているか
- 上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日以後の割当てについて、継続所有の確約を取得する手順があるか
- 指名・報酬の決定過程に社外役員が関与し、議事録で確認できるか
- 代表者による債務保証など関連当事者取引の一覧と、継続・解消の方針を取締役会で議論しているか
- 許認可の有効期限、財務制限条項の判定、重要な資産の評価を、定期的に確認する仕組みがあるか
よくある質問
ベルテックスはⅠの部の記載時点で株主が梶尾祐司氏1名でしたが、上場承認を受けて上場しています。ただし、上場時には市場ごとの流通株式数・流通株式比率などの基準を満たす必要があり、売出しや公募によって株主を確保することになります。株主の構成以上に、ガバナンスの実効性が問われる点に留意が必要です。
未公開企業は、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値で見積ることが認められています。付与時の株価が行使価額以下なら本源的価値はゼロとなり、結果として費用が計上されないことがあります。ベルテックスでも第14期・第15期の費用計上額は「該当事項なし」とされています。ただし、株価算定の妥当性は監査や審査で確認されます。
一般論として、代表者保証は関連当事者取引として開示の対象となり、上場審査ではその必要性や解消に向けた方針が確認されます。金融機関との交渉には時間がかかるため、早めに方針を決めて取締役会で議論しておくことが望まれます。
会社法上、監査役会設置会社では監査役の半数以上が社外監査役である必要があります。全員を社外とすることは求められていませんが、ベルテックスのように全員を社外とし、専門性の異なる人材で構成する例もあります。
最初の一歩は、自社の株主構成と流通株式の試算から
オーナーが株式の大半を持つ会社が上場を目指す場合、最初に取り組みたいのは、上場時の株主構成と流通株式比率の試算です。売出し・公募の規模、ストック・オプションの潜在株式、役員の持株を一覧にし、市場の基準を満たせるかを確認したうえで、ガバナンス体制や関連当事者取引の整理を並行して進めましょう。全体の進め方はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で解説しています。
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まとめ
株式会社ベルテックスは、創業者が全株式を保有する状態から、2026年9月18日に東証スタンダード市場に上場しました。Ⅰの部からは、従業員を広く対象とするストック・オプションの継続的な発行、全員社外の監査役会と任意の指名報酬委員会によるガバナンス、社長直属の内部監査室によるデュアルレポーティング、そして引渡基準の収益認識、サブリースの引当金、販売用不動産の評価、財務制限条項といった不動産会社に特有の会計論点を読み取ることができます。
上場準備会社にとっては、オーナー企業における客観性の確保と、事業の特性に応じた統制・会計の整備をどう進めるかを考えるうえで参考になるケースです。自社の状況に置き換えて、チェックリストの項目から確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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