テクノクラフトのIPO|種類株式の整理とHESaaSの収益認識【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

株式会社テクノクラフト(証券コード622A)は、2026年8月14日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年9月18日に東証スタンダード市場に上場しました。新潟市西蒲区に本店を置き、GPS(GNSS)技術を基盤にしたゴルフカートナビ「マーシャルナビ」シリーズ、幼稚園・保育園向けの園業務支援クラウド「コミュなび」、建設・運送業などの現場向けウェアラブル「TECHNO BAND」などを展開する会社です。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(全147ページ)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、テクノクラフトのⅠの部は「ファンドが保有していた種類株式を普通株式に戻し、上場前に事業会社・地元企業へ株式を引き継ぐ資本政策」と「ハードウェアとクラウドを組み合わせた事業の収益認識・見積りの開示」を学ぶのに適した事例です。A種種類株式を2回に分けて取得請求権の行使で普通株式に交換し消却したこと、ファンドから11者への株式譲渡の価格と理由、税制適格を意識したストック・オプションの行使条件、管理部の監査を開発部の担当者が行う自己監査の回避策、検収基準・期間按分・リース取引が混在する収益認識、流通株式時価総額が上場維持基準に近いことを自らリスクとして開示している点など、準備中の会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。

この記事の論点を自社と比べられる「テクノクラフトのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

テクノクラフトはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか

まず基本情報です。テクノクラフトは、1995年3月に有限会社テクノ工房(出資金3百万円)として新潟県西蒲原郡巻町(現・新潟市西蒲区)で設立され、1997年3月に株式会社テクノクラフトへ組織変更しました。創業者で現在も代表取締役を務める栂坂昌業氏は、設立前に学校法人の運営や情報処理系の専門学校の副校長兼副理事長を務め、同学院の附属研究所でシステム開発の受託に携わっていたとⅠの部の沿革に記載されています。

決算期は9月で、Ⅰの部の最近事業年度は第32期(2025年9月期)です。直近の期中情報としては、第33期の中間会計期間(2025年10月〜2026年3月)と第3四半期累計期間(2025年10月〜2026年6月)の財務諸表が掲載されています。かつては子会社が2社ありましたが、2021年7月に吸収合併しており、現在は関係会社がないため連結財務諸表は作成していません。

項目 内容
正式社名 株式会社テクノクラフト(Techno Craft Corporation)
証券コード・市場 622A・東京証券取引所スタンダード市場
上場承認日/上場日 2026年8月14日/2026年9月18日
本店所在地 新潟県新潟市西蒲区越前浜
設立 1995年3月(有限会社テクノ工房)、1997年3月に株式会社へ組織変更
決算期 9月(最近事業年度は第32期=2025年9月期)
代表者 代表取締役 栂坂 昌業
従業員数 73名〔臨時6名〕、平均年齢45.1歳、平均勤続年数6.1年(2026年7月31日現在)
セグメント ゴルフ関連事業、コミュなび事業、健康見守り事業
連結 関係会社がないため単体のみ
会計監査人 有限責任監査法人トーマツ

上場市場はスタンダード市場です。スタンダード市場の会社にはコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用され、上場審査(実質審査)では「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点」が確認されます。グロース市場のように「事業計画の合理性」や「高い成長可能性」を中心に説明するのではなく、安定した収益基盤と管理体制をどう示すかが問われる市場だといえます。審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とは、収益性の論点はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で整理しています。

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何で稼ぐ会社なのか:HESaaS型プラットフォームと3つの事業

テクノクラフトは自社の事業を「HESaaS(Hardware Enabled SaaS)型プラットフォーム」と表現しています。ハードウェア(端末)とクラウドサービスを組み合わせて提供し、端末の販売・導入で得るイニシャルフィーと、利用料・保守・修理などで継続的に得るリカーリング・レベニューの2本立てで収益を上げるモデルです。研究開発の項では、ハードウェアを自社で開発することにこだわらず、市場に流通しているデバイスを比較評価・選定して自社クラウドへ統合する開発力を強みとして説明しています。

一方で、ものづくりの部分は外部に依存しています。事業等のリスクには、製品の組立の約9割を本間電機工業株式会社に委託していること、タブレット端末等の仕入のうち華為技術日本株式会社からの仕入比率が第32期に54.7%であることが記載されています。ハードウェアを伴うSaaSでは、ソフトウェア会社であっても調達・製造委託・在庫の管理が事業の中核になることがわかります。

HESaaS型プラットフォームを軸にした事業モデル製品の組立(製造委託)タブレット端末等の仕入HESaaS型プラットフォーム(AWS上のクラウド)ゴルフ関連事業カートナビ・広告・アプリコミュなび事業幼稚園・保育園向けクラウド健康見守り事業TECHNO BAND・バイタルナビイニシャルフィー機器販売・導入・設置リカーリング・レベニュー利用料・保守等 14.1億円2025年9月期のリカーリング比率 59.5%ゴルフ場への販売等

図1 端末の調達・製造委託からクラウド基盤を経て3つの事業へ。収益はイニシャルフィーとリカーリング・レベニューの2本立てです(Ⅰの部「事業の内容」「事業等のリスク」をもとに作成)

ゴルフ関連事業:カートナビ・広告・個人向けアプリ

売上の大半を占めるのがゴルフ関連事業です。ゴルフカートに搭載するナビゲーションシステム「マーシャルナビ」シリーズを中心に、カートナビの画面を使った広告事業(株式会社IRISとの「Golfcart Vision」など)、個人向けのゴルフアプリ(スマートゴルフナビ、Ai CADDYなど)を展開しています。導入実績は国内2,096ゴルフコースのうち1,148コース(18ホール換算で1,353コース、2025年12月末)で、ゴルフカート運行管理システムの導入に占める当社導入実績数から算出した国内シェアを63%と記載しています。

主要な販売先としては、株式会社アコーディア・ゴルフへの販売実績が第32期193,935千円(売上高の8.2%)、第3四半期累計期間187,482千円(同10.3%)と開示されています。

コミュなび事業と健康見守り事業

コミュなび事業は、幼稚園・保育園・こども園向けの園業務支援クラウドです。2004年4月に事業を開始し、2011年2月にクラウド(AWS)へ移行して代理店経由で全国展開しました。2025年9月末の導入は1,052件です。第32期には、写真販売サービス「写真コレなび」について、ビジネススキームの再構築により当社の役割が「本人」と判断されたとして、売上高を純額から総額での計上に変更しています(影響額109,313千円)。このため同事業の売上高は前期比178.7%と大きく伸びています。

健康見守り事業は2024年10月に開始した新しい事業で、建設・運送業などの現場で使うウェアラブル端末「TECHNO BAND」(2026年3月末に延べ導入600台突破)や、医療機関向けの「バイタルナビ」を展開しています。第32期の売上高は30,491千円、営業損失は73,602千円で、まだ投資段階にあることがセグメント情報から読み取れます。

セグメント別の業績(第32期・2025年9月期)セグメント売上高営業損益売上の前期比ゴルフ関連事業2,063,140358,47891.8%コミュなび事業276,89027,007178.7%健康見守り事業30,491△73,602当期に開始調整額(全社費用)―△221,890―合計(財務諸表計上額)2,370,52289,99198.7%

図2 単位:千円。調整額は各セグメントに配分していない全社費用です(Ⅰの部「セグメント情報」「販売実績」より)

経営指標(KPI)として何を掲げているか

Ⅰの部の「経営方針」では、財務的な観点の指標として売上高と営業利益率を、事業推進・収益性の観点の指標としてリカーリング比率、ARPA、チャーンレートなどを挙げています。2025年9月期の全社のリカーリング・レベニューは14.1億円、リカーリング比率は59.5%で、ゴルフ関連事業は55.1%、コミュなび事業は97.5%です。カートナビ分野のARPAは2022年9月期の846千円から2025年9月期の969千円へ上昇し、年間チャーンレートはカートナビ0.63%、コミュなび3.74%と記載されています。経営戦略では、カートナビ分野のリカーリング比率を将来的に80%まで高める方針を示しています。

上場準備会社にとってのポイントは、KPIの定義と算定根拠を社内で固めておくことです。Ⅰの部に記載したKPIは、上場後も有価証券報告書や決算説明資料で継続的に開示することになります。定義が途中で変わると比較可能性が失われるため、審査の段階で「誰が、どのデータから、どう計算しているか」を説明できる状態にしておく必要があります。

Ⅰの部に記載された主なKPI(2025年9月期など)リカーリング比率(全社)59.5%ゴルフ関連のリカーリング比率55.1%コミュなびのリカーリング比率97.5%カートナビ分野のARPA846千円 → 969千円(2022年9月期→2025年9月期)チャーンレート(年間)カートナビ 0.63%コミュなび 3.74%カートナビ導入数1,353コース国内シェア63%

図3 ARPAは導入施設当たりの年間リカーリング・レベニュー、導入数は2025年12月末の18ホール換算です(Ⅰの部「事業の内容」より)

沿革からわかる上場までの道のり

沿革を見ると、1995年の創業時に「マーシャルナビ」の初号機を栃木県のゴルフ場に納入し、1998年9月にゴルフカートナビの初号機の販売を開始しています。2001年9月の有償株主割当増資で資本金は30百万円となり、その後は増資を行わないまま上場を迎えています。2007年と2009年に設立した子会社2社は、2021年7月に吸収合併しました。上場準備の過程で子会社を整理し、単体での上場とした流れが読み取れます。

上場準備との関係で重要なのは、2020年11月に新生企業投資株式会社(現・SBI新生企業投資株式会社)が運営する新生TC成長支援投資事業有限責任組合が株式の譲受けにより主要株主になったことです。配当政策の項では、外部株主のリソースや知見を活用して上場を目指すことを目的としたと説明しています。その後、2023年12月以降にウェルネット株式会社、株式会社遠藤製作所、株式会社BSNメディアホールディングスとの資本・業務提携が続き、2024年10月に健康見守り事業を開始しました。

沿革の主要イベント1995/3テクノ工房設立マーシャルナビ1997/3株式会社に組織変更2004/4コミュなび事業開始2011/2コミュなびをクラウド移行2020/11新生TC組合が主要株主に2021/7子会社2社を吸収合併2023/12資本・業務提携を開始2024/10健康見守り事業開始2026/71:5の株式分割2026/9/18スタンダード市場に上場

図4 1995年の創業から2026年9月18日のスタンダード市場上場まで(Ⅰの部「沿革」「株式等の状況」等をもとに作成)

上場準備の期間について一般論を補足すると、監査法人による金融商品取引法に準じた監査は、通常、上場申請の直前2期分が対象になります。テクノクラフトでは第31期(2024年9月期)と第32期(2025年9月期)がトーマツの監査を受けており、継続監査期間は2年間と記載されています。準備の全体スケジュールはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)を参考にしてください。

業績はどう推移してきたのか:5期連続の黒字と第32期の読み方

Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」には、第28期(2021年9月期)から第32期(2025年9月期)までの単体の数値が掲載されています。5期とも経常利益・当期純利益は黒字で、売上高は第28期の1,733,522千円から第31期に2,401,530千円まで伸び、第32期は2,370,522千円とほぼ横ばいでした。

表を読むときの注意点が2つあります。1つは、第28期から第30期は会社計算規則に基づく数値で、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準じた監査を受けていないことです(第31期と第32期は有価証券上場規程第204条第6項に基づきトーマツの監査を受けています)。もう1つは、株式分割の影響です。2022年4月に1株を1,000株、2026年7月に1株を5株に分割しているため、1株当たりの数値は期によって大きく異なります。Ⅰの部には第28期の期首に分割が行われたと仮定した遡及修正後の1株当たり指標も参考として記載されています。

単体(千円) 第28期 2021/9 第29期 2022/9 第30期 2023/9 第31期 2024/9 第32期 2025/9
売上高 1,733,522 2,084,719 2,064,892 2,401,530 2,370,522
経常利益 96,008 93,224 148,533 120,372 107,037
当期純利益 136,679 258,720 94,258 94,756 64,193
純資産額 2,269,487 2,528,207 1,516,264 1,611,021 1,675,214
総資産額 3,023,187 3,061,007 1,874,257 2,288,590 2,204,925
自己資本比率 75.1% 82.6% 80.8% 70.3% 75.9%
ROE 6.2% 10.8% 4.7% 6.1% 3.9%
営業CF ― ― ― 370,717 212,796
従業員数〔臨時〕 46〔6〕 54〔15〕 63〔11〕 73〔9〕 74〔8〕
売上高と利益の推移(単体・百万円)売上高06251,2501,8752,500第28期第29期第30期第31期第32期経常利益と当期純利益075150225300第28期第29期第30期第31期第32期経常利益当期純利益

図5 第28期〜第32期(百万円未満四捨五入)。第28〜30期は会社計算規則に基づく数値で、金融商品取引法に準じた監査を受けていません

第30期に純資産が2,528,207千円から1,516,264千円へ、総資産が3,061,007千円から1,874,257千円へ大きく減っているのは、2023年6月に総額1,107,600千円の剰余金の配当を行ったためです(配当性向1,175.1%)。この配当については、資本政策の章で詳しく取り上げます。なお、キャッシュ・フロー計算書は第31期から作成されています。

第32期の利益の内訳:本業は増益、営業外・特別損益と税金で減益

第32期は売上高が前期比98.7%とほぼ横ばいでした。MD&Aによると、写真コレなびの総額計上への変更で売上が増えた一方、ゴルフ関連事業で大手ゴルフカートメーカーからの開発・生産受注案件が取りやめとなり売上が減少しています。営業利益は、タブレット端末をメーカーから直接仕入れるようにしたことや安価なSIMへの切替えにより、58,592千円から89,991千円へ増加しました。

一方、経常利益は107,037千円と前期(120,372千円)を下回っています。前期には協力会社からの一過性の受取補償金43,837千円が営業外収益にあった反動です。さらに特別損失として、個人向けアプリ分野の固定資産の減損損失21,201千円と、営業管理用ソフトウエアの切替えに伴う固定資産除却損2,420千円を計上しました。税金面では、在庫評価基準の見直しに伴い課税所得が減少して当期の税額が減った一方、過去の期にかかる修正納付額として過年度法人税等10,307千円を計上しています。

第32期の営業利益から当期純利益まで(千円)営業利益89,991営業外収益+19,823営業外費用-2,778経常利益107,037特別損益-23,285法人税等-19,559当期純利益64,193

図6 特別損益は特別利益337千円と特別損失23,622千円(減損損失21,201千円、固定資産除却損2,420千円)の純額。法人税等には過年度法人税等10,307千円を含みます

上場準備会社にとってのポイントは、「本業の利益」と「一過性の損益」を分けて説明できるようにしておくことです。スタンダード市場の審査では収益基盤の安定性が見られます。受取補償金のような一過性の収益、減損や除却などの特別損失、過年度の税金の修正などは、金額が小さくても主幹事証券や取引所から理由と再発可能性を確認されやすい項目です。

直近の期中業績:中間期・第3四半期

第33期の中間会計期間(2025年10月〜2026年3月)は売上高1,134,575千円、営業利益126,304千円、経常利益144,097千円、中間純利益95,687千円でした。営業外収益には、従業員互助会の解散に伴う資産の移管(受贈益9,108千円)、受取補償金、地元自治体からの開発支援補助金5,000千円が含まれています。第3四半期累計期間(2025年10月〜2026年6月)は売上高1,816,305千円、営業利益234,604千円、経常利益251,883千円、四半期純利益169,847千円で、営業外費用には株式交付費942千円が計上されています。中間財務諸表と第3四半期の財務諸表は、トーマツによる期中レビューを受けています。

セグメント(千円) 第32期 売上高 第32期 営業損益 第33期3Q累計 売上高 第33期3Q累計 営業損益
ゴルフ関連事業 2,063,140 358,478 1,562,830 441,115
コミュなび事業 276,890 27,007 212,424 28,634
健康見守り事業 30,491 △73,602 41,049 △78,948

ゴルフ関連事業で稼いだ利益を、立ち上げ段階の健康見守り事業に投資している構造がセグメント情報から読み取れます。ゴルフ関連事業の受注実績(カートナビのイニシャルフィー)は、第32期の受注高879,139千円、期末の受注残高88,919千円と開示されています。事業等のリスクでは、ゴルフカートの納品が遅れるとカートナビの設置・検収時期が後ろ倒しになり、売上の計上が翌期にずれ込む可能性があることも記載しています。検収基準で売上を計上する会社では、期末をまたぐ案件の管理が予算達成の説明に直結します。

資本政策と株主構成:ファンドの種類株式をどう整理したのか

テクノクラフトの資本政策の特徴は、上場前に増資による資金調達を行っていないことです。資本金は2001年以降30,000千円のままで、資本準備金はなく、Ⅰの部の「第三者割当等の概況」も「該当事項はありません」となっています。株主構成の変化は、既存株式の譲渡と種類株式の転換・交換によって生じています。

「発行済株式総数、資本金等の推移」を見ると、2020年10月に自己株式を消却したうえで甲種種類株式を普通株式に転換し、2020年11月11日の臨時株主総会決議で普通株式435株をA種種類株式に転換しています。新生TC成長支援投資事業有限責任組合が主要株主になったのと同じ2020年11月であり、ファンドが保有する株式をA種種類株式とした形です。その後、2022年4月8日に1株を1,000株に分割しています。

種類株式の整理と株式分割の流れ2020/10甲種種類株式を普通株式に2020/11普通株式の一部をA種に転換2022/41:1,000の株式分割2023/12A種の一部を普通株式と交換2024/5残りのA種を交換し消却2024/5以降全株式が普通株式(852,000株)2026/4単元株制度を採用(1単元100株)2026/71:5の株式分割発行済4,260,000株資本金は一貫して30,000千円。増資(第三者割当)による資金調達は行っていません

図7 A種種類株式は株主の取得請求権の行使により、A種1株につき普通株式1株を交付して取得・消却されました(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」より)

A種種類株式は「取得請求権の行使」で2回に分けて普通株式に

A種種類株式の整理は2段階で行われました。2023年12月1日、A種株主(新生TC組合)の取得請求権の行使により、会社はA種種類株式の一部204,560株を自己株式として取得し、その対価としてA種1株につき普通株式1株を交付しました。取得したA種の自己株式は2023年12月12日に消却しています。次に2024年5月8日、残る230,440株についても取得請求権が行使されて普通株式が交付され、自己株式となったA種は2024年5月に消却されました。これで発行済株式は普通株式852,000株のみとなり、2026年7月1日の1対5の株式分割で4,260,000株になっています。

上場準備会社にとってのポイントは、種類株式を普通株式に戻す方法と時期を早めに決めておくことです。上場時には、議決権や配当で内容の異なる種類株式を残さず、普通株式に一本化しておくのが一般的です。方法としては、株主の取得請求権の行使、会社の取得条項の発動、定款変更による転換などがあり、どれを使うかは定款の定めと株主との合意によります。種類株式の考え方は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで詳しく解説しています。

ファンドから11者への株式譲渡:価格と理由はどう書かれているか

Ⅰの部の第四部「株式公開情報」には、「特別利害関係者等の株式等の移動状況」が掲載されています。記載の対象期間は、基準事業年度の末日から起算して2年前の日(2023年10月1日)から上場日の前日までです。テクノクラフトでは、2023年12月15日と19日に新生TC組合が保有株式の一部を11者に譲渡した記録が並んでいます。株数と単価は2026年7月の株式分割後の換算で、譲渡の合計は1,022,800株、単価はすべて1株1,190円です。

譲渡先と理由は、ヤマモトアセット株式会社(213,000株)、ナミックス株式会社(170,500株)、サトウ食品株式会社・株式会社報恩・株式会社和田商会・個人1名(各42,600株)が「地域経済の発展に貢献するため」、LEONIAN SINGAPORE PTE.LTD.(127,800株)、株式会社遠藤製作所(85,500株)、ウェルネット株式会社・株式会社BSNメディアホールディングス(各85,200株)が「取引・事業提携関係の強化」、地方創生新潟2号投資事業有限責任組合(85,200株)が「投資目的のため」です。価格は、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案し、譲渡人と譲受人が協議のうえ決定したと記載されています。

ファンドから事業会社・地元企業等への株式譲渡(2023年12月)新生TC成長支援投資事業有限責任組合地域経済の発展に貢献するため(6者)ヤマモトアセット 213,000株ナミックス 170,500株サトウ食品・報恩・和田商会・個人1名 各42,600株取引・事業提携関係の強化(4者)LEONIAN SINGAPORE 127,800株遠藤製作所 85,500株/ウェルネット・BSN 各85,200株投資目的のため(1者)地方創生新潟2号投資事業有限責任組合 85,200株譲渡単価:1株1,190円(分割後換算)算定方法:DCF法・純資産方式・類似会社比準方式で算出した価格を総合勘案し、当事者間で協議

図8 株数・単価は2026年7月1日の株式分割(1:5)後の換算値。譲渡の合計は1,022,800株で、同年12月1日にA種から普通株式へ交換された株数と同数です(Ⅰの部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」より)

また、2026年7月31日にはLEONIAN SINGAPORE PTE.LTD.からCRN PTE.LTD.へ127,800株が移動しています。理由は「移動前後所有者の共通親会社の事業再編による」もので、対価1,374,669.20シンガポール・ドル(1株10.76シンガポール・ドル)を1シンガポール・ドル=125.23円で換算し、172,149,823円(1株1,347円)と記載されています。外貨建ての取引でも、円換算の方法まで示しておく必要があることがわかります。

上場準備会社にとってのポイントは3つあります。第1に、上場前の株式移動は価格と理由がそのまま開示されるため、譲渡のたびに「なぜこの相手に、なぜこの価格で」を説明できる記録を残すことです。第2に、価格の算定方法(DCF法などの評価手法)を明確にしておくことです。同じ時期に異なる価格で取引があると、審査で合理性を確認されます。第3に、株式の譲渡(移動)と第三者割当による新株発行は別の手続であり、継続所有の確約などのルールの適用関係も異なることです。上場前の株式移動のルールは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)、株価算定の手法は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。

大株主の構成:筆頭株主は代表取締役の資産管理会社

Ⅰの部の「株主の状況」では、潜在株式(新株予約権)417,800株を含む総数4,677,800株に対する比率で株主が記載されています。筆頭株主は、代表取締役及びその親族が議決権の過半数を保有するP&C株式会社で2,040,000株(43.52%)、2位が新生TC成長支援投資事業有限責任組合で1,152,200株(24.58%)、3位がヤマモトアセット株式会社で213,000株(4.54%)です。ヤマモトアセット株式会社は、社外取締役の山本善政氏及びその親族が議決権の過半数を保有する会社と記載されています。なお、これらの比率はⅠの部記載時点のもので、上場時の公募・売出し後の比率ではありません。

所有者別の状況(2026年7月31日現在)を見ると、株主数は14名で、所有株式数の94.94%を「その他の法人」が占めています。役員の所有株式も、代表取締役の分はP&C株式会社、社外取締役の分はヤマモトアセット株式会社を通じた保有として記載されています。

上位10名の株主(Ⅰの部記載時点)P&C株式会社43.52%新生TC成長支援投資事業有限責任組合24.58%ヤマモトアセット株式会社4.54%ナミックス株式会社3.64%CRN PTE.LTD.2.73%栂坂 昌業(新株予約権)2.49%株式会社遠藤製作所1.82%ウェルネット株式会社1.82%地方創生新潟2号投資事業有限責任組合1.82%株式会社BSNメディアホールディングス1.82%

図9 割合は新株予約権による潜在株式を含む総数4,677,800株に対する比率です(Ⅰの部「株主の状況」より)。上場時の公募・売出し後の比率ではありません

流通株式時価総額を自らリスクとして開示

この株主構成は、流通株式の論点に直結します。東証の上場基準でいう流通株式からは、主要株主(上場株式数の10%以上を所有する者)、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが所有する株式が除かれます。Ⅰの部記載時点の構成を前提にすると、P&C株式会社やヤマモトアセット株式会社が保有する株式は役員等が議決権の過半数を所有する会社の保有分にあたり、流通株式には含まれません。

テクノクラフトは事業等のリスクの最後に「当社株式の流動性について」を掲げ、上場時の流通株式時価総額がスタンダード市場の上場維持基準に近接していることを明記しています。そのうえで、大株主への一部売出しの要請などにより流動性の向上を図る方針を示し、発生可能性を「中」、影響度を「極めて重大(大)」と評価しています。スタンダード市場の上場維持基準には流通株式時価総額(10億円以上)などの項目があり、上場後に基準を満たさない状態が続くと上場廃止につながる可能性があります。オーナー一族の資産管理会社や事業会社が多くの株式を持つ会社は、上場時の公募・売出しの規模だけでなく、上場後に流通株式をどう増やすかまで資本政策に織り込んでおく必要があります。数え方の詳細は流通株式数の数え方と流通株式比率の計算式と調べ方をご覧ください。

ファンド参加後の大型配当(2023年6月)

2023年5月9日の株主総会の決議を経て、2023年6月30日に総額1,107,600千円(普通株式及びA種種類株式1株につき1,300円)の剰余金の配当が行われました。第30期の当期純利益は94,258千円で、配当性向は1,175.1%です。Ⅰの部の配当政策の項では、2020年11月に新生TC組合が大株主となって以降、組織改革、販売体制の再構築、新規成長分野への投資などを進めて収益力の強化と財務基盤の確立を図ってきたこと、多額の配当はその成果を踏まえた株主への利益還元と資本効率の向上の観点から行ったことが説明されています。

今後の配当方針については、当面は内部留保の充実を図り、医療向けプログラムの薬事認定対応やAIシステムプラットフォームの構築などの成長投資に資金を集中するとしており、配当の実施の可能性や時期は未定と記載されています。定款では、会社法第459条第1項に基づき剰余金の配当等を取締役会の決議で定めることができる旨を定めています。上場準備会社では、過去に行った大きな配当や資本取引の理由を、配当政策と矛盾しない形で説明できるかが確認されます。

ストック・オプション4回の設計

新株予約権(ストック・オプション)は4回発行されています。いずれも上場を行使の条件としており、Ⅰの部記載時点の潜在株式数は合計417,800株、発行済株式総数4,260,000株の9.8%です。事業等のリスクでも新株予約権の行使による希薄化を取り上げ、発生可能性を「高」、影響度を「中(約9.8%)」としています。

回次 決議日 対象者(付与時) 目的となる株式数(2026/7/31) 行使価額(分割後) 主な行使条件
第1回 2022年3月17日 従業員58名 187,900株 660円 上場後1年40%・2年80%・以降全部、年間行使価額は1,200万円(又は行使時の租税特別措置法上の上限額)以内
第2回 2022年3月17日 取締役1名 116,500株 660円 上場が条件、全部を行使可
第3回 2022年9月28日 従業員10名 16,100株 660円 第1回と同様
第4回 2023年4月19日 取締役1名・従業員20名 97,300株 940円 第1回と同様

第1回・第3回・第4回は、行使期間開始日(上場日又は行使期間の始期のいずれか遅い日)から1年間は割当数の40%まで、2年間は80%まで、それ以降は全部を行使できるという段階的な行使条件を設けています。また、権利行使時に当社の取締役・監査役・使用人の地位にあることや、年間の行使価額の合計が1,200万円(又は行使時において租税特別措置法の適用を受けることができる年間の上限額)を超えないことを条件としており、租税特別措置法第29条の2(いわゆる税制適格ストック・オプション)の適用を想定した設計です。一方、代表取締役に付与された第2回は、段階的な行使の条件がなく、上場後は割当分の全部を行使できる内容です。株主の状況には、代表取締役が116,500株(すべて潜在株式)を保有していると記載されています。

ストック・オプションの行使条件(第1回・第3回・第4回)行使期間開始日(上場日等)開始日から1年付与株式数の40%まで1年〜2年付与株式数の80%まで2年経過後全部を行使可能権利行使時に取締役・監査役・使用人の地位にあること年間の行使価額合計1,200万円以内(租税特別措置法29条の2に関連)潜在株式数 417,800株=発行済株式総数4,260,000株の9.8%

図10 行使期間開始日は「上場日」と「行使期間の始期」のいずれか遅い日。第2回(代表取締役向け)は上場後に全部を行使できる条件です(Ⅰの部「新株予約権等の状況」より)

会計面では、ストック・オプションの注記で、未公開企業であるため公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値(DCF法により算出した価格を総合的に勘案)により算定していること、前期・当期ともに費用計上額がないことが記載されています。貸借対照表の新株予約権1,398千円は、すべて第2回のストック・オプションとしての新株予約権です。

上場準備会社にとってのポイントは、ストック・オプションの「行使条件」と「会計処理」を分けて設計・検討することです。段階的な行使条件は、上場直後の大量売却を抑えて従業員の定着を促す効果があります。税制適格の要件は付与時点の法令によって異なるため、付与の都度、最新の要件を確認する必要があります。また、払込みを伴う有償ストック・オプション(権利確定条件付き有償新株予約権)は、実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じた会計処理が求められ、「有償だから費用計上は不要」とはなりません。税制適格の考え方は税制適格ストックオプション、注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例で解説しています。

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コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と任意の報酬委員会

テクノクラフトの機関設計は、取締役会、監査役会、会計監査人を置く監査役会設置会社です。取締役は4名(うち社外取締役2名)、監査役は3名で全員が社外監査役です(常勤1名・非常勤2名)。業務執行の面では、常勤取締役と執行役員で構成する経営会議(毎月1回以上)、代表取締役を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会(原則四半期に1回)を設けています。さらに、過半数を社外取締役とする任意の報酬委員会を取締役会の諮問機関として置いています。執行役員は取締役兼務者を除いて3名です。

取締役会は原則月1回開催され、第32期は19回開催、各取締役の出席状況はいずれも19回中19回でした。検討内容としては、代表取締役及び役付取締役の選定、取締役報酬額の決定、経営計画の策定、計算書類の承認、株主総会の招集、関連当事者取引の承認、業務執行状況の報告などが挙げられています。監査役会は第32期に14回開催され、3名とも全回出席しています。

機関設計とガバナンス体制株主総会報酬委員会(任意・過半数が社外取締役)取締役会4名(うち社外2名)監査役会3名(全員社外・常勤1名)代表取締役経営会議リスク・コンプライアンス委員会内部監査(管理部5名)会計監査人(トーマツ)選任選任選定・監督指示・報告連携

図11 取締役会・監査役会・会計監査人を置く監査役会設置会社。任意の報酬委員会、経営会議、リスク・コンプライアンス委員会を設けています(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」より)

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の記載から抜粋)
代表取締役 栂坂 昌業 1995年テクノ工房設立、1997年4月から代表取締役。学校法人の理事長を兼務
取締役 谷田 洋平 株式会社ネットジャパンの取締役管理部長等を経て2021年4月に当社執行役員管理部長、2022年12月取締役
社外取締役 山本 善政 株式会社ハードオフコーポレーション代表取締役会長。2022年12月就任
社外取締役 山井 佳子 上場会社で執行役員内部監査室長等。2023年8月就任
常勤監査役(社外) 今川 愼一 通信・金融系企業での経験、上場会社の取締役(監査等委員)等。2022年12月就任
監査役(社外) 丸山 央 弁護士。2023年4月就任
監査役(社外) 松浦 康次 弁理士。2023年4月就任

社外役員の独立性に関する記載にも特徴があります。監査役の丸山央氏はかつて当社の顧問弁護士でしたが、現在は顧問契約を終了していること、松浦康次氏は過去に当社と知的財産権関連の取引がありましたが終了していることが記載されています。社外取締役の山本善政氏については、本人と二親等内の血族で議決権の過半数を所有するヤマモトアセット株式会社が当社株式を保有している旨が注記されています。

上場準備会社にとってのポイントは、社外役員の候補者と会社との過去・現在の関係を洗い出し、取引の有無・終了時期・金額を説明できるようにしておくことです。東証の独立性基準に抵触しなければ、過去に取引があった人や株主と関係がある人でも独立役員になり得る場合がありますが、開示が求められる事項があります。なお、東証は2026年7月の上場規則改正(7月10日施行)で独立性基準を広げ、上場会社の主要株主(議決権10%以上)やその業務執行者(最近において該当していた者を含む)等は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会から独立役員の要件を満たさないこととなりました。スタンダード市場の会社にはコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用されるため、原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8。独立社外取締役を少なくとも2名以上選任)への対応も確認が必要です。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要か、機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。

役員報酬はどのように決められているか

役員報酬の方針は「役員規程」に定められ、株主総会で決議された限度額(取締役と監査役を合わせて年間100,000千円)の範囲内で決定されます。各取締役の報酬は、取締役会の決議により代表取締役に一任されています。委任の内容は、報酬限度額内における各取締役の基本報酬及び賞与額の具体案の策定で、理由は代表取締役が業績や担当部門の職務執行状況を最も熟知しているためと説明されています。権限が適切に行使されるための措置として、報酬委員会の助言・提言を十分に尊重することとしています。報酬委員会は第32期に7回開催され、出席率は100%でした。

第32期の報酬等の総額は、取締役(社外取締役を除く)2名で29,600千円、社外役員5名で15,600千円で、いずれも固定報酬のみです。監査役の報酬は監査役の協議で決めています。役員報酬の決定方針や代表取締役への委任の内容は、開示府令に基づく有価証券報告書の記載事項であり、Ⅰの部でも同じ水準の記載が求められます。代表取締役に個人別の報酬の決定を委任する場合は、委任の内容・理由・権限が適切に行使されるための措置をセットで定め、議事録に残しておくことが実務上のポイントです。

取締役の個人別報酬が決まるまで株主総会報酬限度額(年1億円)報酬委員会体系・算定根拠を審議し助言取締役会代表取締役への一任を決議代表取締役個人別の基本報酬・賞与を決定第32期の取締役(社外除く)29,600千円・2名(固定報酬のみ)第32期の社外役員15,600千円・5名(固定報酬のみ)報酬委員会は第32期に7回開催、出席率100%

図12 報酬限度額は取締役と監査役を合わせて年間100,000千円。監査役の報酬は監査役の協議で決定します(Ⅰの部「役員の報酬等」より)

関連当事者との取引:役員の近親者の会社への作業委託

関連当事者情報には、株式会社GROWTH(新潟市西蒲区、資本金1,000千円)との取引が記載されています。同社は「役員の近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社」で、テクノクラフトはカートナビの移設・修理作業を委託しています。取引金額は第31期22,426千円、第32期27,340千円(第32期末の買掛金8,845千円)で、取引条件は市場の実勢価格等を参考に、その都度交渉のうえ決定していると記載されています。取締役会の検討内容にも「関連当事者取引の承認」が含まれています。

上場審査では、関連当事者との取引について、取引の必要性(事業上の合理性)と条件の妥当性(第三者との取引と比べて不利でないか)が確認されます。解消できる取引は上場前に解消し、継続する取引は取締役会の承認手続と条件の検証方法を明確にしておくのが基本です。考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)と関連当事者との取引の注記の記載例で整理しています。

関連当事者との取引の関係当社の役員役員の近親者株式会社GROWTH(新潟市西蒲区)テクノクラフト取引金額:第31期 22,426千円/第32期 27,340千円(第32期末 買掛金8,845千円)単価は市場の実勢価格等を参考に、その都度交渉のうえで決定近親者過半数所有カートナビの移設・修理作業作業代金

図13 株式会社GROWTHは「役員の近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社」として開示されています(Ⅰの部「関連当事者情報」より)

内部監査・内部統制:管理部の監査は誰がするのか

テクノクラフトでは、独立した内部監査室を置かず、管理部(5名)が内部監査を担当しています。そのうえで、管理部自身の業務については、開発部に所属する1名が監査を行うことで、独立性と客観性を確保していると記載されています。内部監査担当は内部監査計画を作成して代表取締役の承認を受け、全部門を網羅的に監査し、結果を代表取締役に報告します。代表取締役は被監査部門に改善を指示し、その結果の報告を受けます。取締役会と監査役会にも適宜報告されます。

これは、いわゆる「自己監査の回避」の典型的な方法です。小規模な会社では内部監査の専任者を置くことが難しく、管理部門の担当者が兼務することがよくあります。その場合、管理部門が自部門の業務を監査すると独立性が保てないため、他部門の担当者が管理部門を監査する「クロス監査」の形をとります。ただし、他部門の担当者が監査を行うには、内部監査の手法や規程についての教育が必要です。兼務の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、人数と体制は内部監査の人数と体制で解説しています。

内部監査の体制と自己監査の回避代表取締役管理部(内部監査担当 5名)開発部所属の1名(管理部の監査を担当)管理部以外の各部門管理部監査結果は代表取締役に報告し、取締役会・監査役会にも必要に応じて報告監査役・会計監査人とは三者間の定期会合で情報を共有計画承認・改善指示監査監査

図14 管理部(5名)が各部門を監査し、管理部自身の監査は開発部所属の1名が担当します(Ⅰの部「監査の状況」「内部統制システムの整備の状況」より)

三様監査の連携

監査の状況の項には、内部監査担当、監査役、会計監査人が三者間で定期的に会合を開き、情報共有と意見交換を行っていると記載されています。常勤監査役は、重要な会議への出席、重要書類の閲覧、代表取締役との定期的な会合、取締役との面談などを通じて監査を行い、管理部門については担当取締役へのヒアリングを実施しています。社外取締役は、取締役会で内部監査・監査役監査・会計監査・内部統制の報告を受けています。

上場準備では、三様監査の連携を「会合を開いた」という事実だけでなく、議事録や情報共有の記録で示せるようにしておくことが大切です。監査役は内部監査の結果を、内部監査担当は監査役が把握した課題を、それぞれ監査計画に反映させることで、限られた人数でも監査の重複や漏れを減らすことができます。詳しくは監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。

三様監査の連携監査役(会)常勤1名・非常勤2名内部監査担当(管理部)会計監査人(トーマツ)取締役会では社外取締役が内部監査・監査役監査・会計監査の報告を受ける情報交換監査方針の打合せ定期会合(三者間)

図15 内部監査担当・監査役・会計監査人が三者間で定期的に会合を開き、課題や改善事項を共有しています(Ⅰの部「監査の状況」より)

リスク・コンプライアンス委員会と在庫・購買管理の見直し

リスク管理の面では、代表取締役を委員長とし、常勤取締役、常勤監査役、執行役員、部長で構成するリスク・コンプライアンス委員会が原則四半期に1回開催され、「リスク管理規程」に基づいてリスクの識別・評価・管理を行っています。重大なリスクは取締役会に報告されます。サステナビリティの項では、直近の委員会で「在庫管理及び購買管理に関する内部統制上の課題解消」を最優先課題として議論し、在庫棚卸ルールの厳格化や自社保管スペースの確保による資産管理体制の刷新を決定したことが記載されています。あわせて、外注委託・資材調達の意思決定プロセスの可視化、価格妥当性の検証の義務化、品質マネジメントシステムの構築などにも取り組むとしています。

対処すべき課題の項でも、社外取締役の受け入れ、監査役会の設立、会計監査人の選任、内部監査(業務監査・J-SOX監査)の運用、リスク・コンプライアンス委員会の運営、稟議制度の拡充などに努めてきたことに触れ、今後も規程整備や三様監査体制の構築、内部統制を推進する人材の育成を進めるとしています。情報管理体制については、外部専門機関によるITセキュリティ調査を実施し、アクションプランを策定してすべての対応を完了したと記載しています。コンプライアンスの面では、社外を含めた複数の内部通報窓口を設けています。

ハードウェアを扱う会社にとって、在庫と購買は不正や誤りが起きやすい領域です。実地棚卸の手続、外部倉庫の在庫の確認方法、仕入先の選定と価格の検証、発注と検収の職務分掌などは、上場後の内部統制報告制度(J-SOX)でも評価対象になります。課題を自ら識別して対応を決めたことをⅠの部で説明している点は、準備中の会社にとって参考になります。進め方はJ-SOXの進め方を参考にしてください。

会議体・機能 構成 開催頻度・主な役割
取締役会 取締役4名(うち社外2名) 原則月1回。第32期は19回開催、全員全回出席
監査役会 監査役3名(全員社外、常勤1名) 原則月1回。第32期は14回開催、全員全回出席
経営会議 常勤取締役・執行役員(必要に応じ常勤監査役) 毎月1回以上
リスク・コンプライアンス委員会 代表取締役(委員長)・常勤取締役・常勤監査役・執行役員・部長 原則四半期に1回。重大なリスクは取締役会へ報告
報酬委員会(任意) 過半数が社外取締役 第32期は7回開催。報酬体系や個別報酬の算定根拠を審議
内部監査 管理部5名(管理部は開発部の1名が監査) 計画を代表取締役が承認、結果を代表取締役に報告

会計・開示の論点:検収基準・期間按分・リースが混在する収益認識

HESaaS型のビジネスでは、1つの顧客との間で端末の販売、設置、クラウドの利用、保守、レンタルなど性質の異なる取引が組み合わさります。テクノクラフトの重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)を見ると、取引ごとに収益を認識する単位と時点が整理されています。

ゴルフ関連事業では、カートナビシステムは顧客への納品及び検収が完了した時点で収益を認識し、保守サービス等は契約期間に応じて取引価格を按分して収益を認識しています。タブレット端末等のレンタル取引は「リース取引」として収益認識会計基準の適用範囲から除き、レンタル期間の経過に応じて収益を認識しています。また、カートナビの割賦販売(概ね60ヵ月の割賦払い)については、金利相当額のうち重要なものを償却原価法(利息法)により配分しています。ファイナンス・リース取引については、リース料を受け取る時に売上高と売上原価を計上する方法をとっています。

コミュなび事業では、アプリは契約期間に応じて按分し、ICタグ等の機材販売は納品時に収益を認識しています。写真コレなびは、前期は当社の役割を「代理人」として純額で計上していましたが、ビジネススキームの再構築により当社の役割が「本人」と判断されたため、当期より総額で売上を計上しています。健康見守り事業では、端末(スマートウォッチ)は納品及び検収の完了時点、クラウド管理サービスは契約期間に応じて按分しています。

収益認識の単位と時点取引収益の認識時点カートナビシステムの販売納品し検収が完了した時点一時点保守サービス等契約期間に応じて取引価格を按分一定の期間タブレット等のレンタルリース取引としてレンタル期間で認識期間の経過コミュなびのアプリ契約期間に応じて取引価格を按分一定の期間写真コレなび代理人(純額)→本人(総額)第32期から総額スマートウォッチ端末納品し検収が完了した時点一時点クラウド管理サービス契約期間に応じて取引価格を按分一定の期間

図16 タブレット端末等のレンタルはリース取引として収益認識基準の適用範囲外。割賦販売(概ね60ヵ月)は重要な金利相当額を利息法で配分します(Ⅰの部「重要な会計方針」より)

第32期(千円) ゴルフ関連 コミュなび 健康見守り 合計
一時点で移転される財 953,642 131,216 19,919 1,104,779
一定の期間にわたり移転されるサービス 915,185 145,673 10,571 1,071,430
顧客との契約から生じる収益 1,868,827 276,890 30,491 2,176,209
その他の収益(リース) 194,312 ― ― 194,312
外部顧客への売上高 2,063,140 276,890 30,491 2,370,522

収益認識関係の注記を見ると、第32期の売上高2,370,522千円のうち、一時点で認識した収益が1,104,779千円、一定の期間にわたり認識した収益が1,071,430千円、リース取引によるその他の収益が194,312千円です。契約負債(契約期間分の料金を一括で受領する前受収益)は期首192,613千円から期末183,455千円となり、残存履行義務183,455千円の充足時期は1年以内117,424千円、1年超2年以内41,709千円、2年超3年以内19,586千円、3年超4年以内4,735千円と開示されています。主な資産・負債の内訳によれば、契約負債の相手先で最も大きいのは広告事業のパートナーである株式会社IRIS(94,484千円)です。

上場準備会社にとってのポイントは3つあります。第1に、端末とサービスをセットで販売する場合は、履行義務の識別(別々の約束として扱うか)と取引価格の配分を契約単位で確認することです。第2に、レンタルや割賦販売のようにリース会計や金融要素が関係する取引は、収益認識基準だけでなくリース会計基準などの適用関係を整理することです。なお、テクノクラフトは未適用の会計基準として新リース会計基準(企業会計基準第34号)を挙げ、2028年9月期の期首から適用予定で影響を評価中としています。第3に、本人・代理人の判断は売上高の金額を大きく変えるため、判断を変える場合はビジネススキームの変化を根拠として説明できるようにすることです。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で解説しています。

重要な会計上の見積り:棚卸資産の評価と固定資産の減損

重要な会計上の見積りとして、繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価、固定資産の減損が挙げられています。棚卸資産については、期末の在庫数が将来の予測払出数量を超過する場合、その超過部分を過剰在庫として帳簿価額を1円まで切り下げる方法をとっています。第32期の棚卸資産は、商品及び製品95,895千円、仕掛品12,035千円、原材料及び貯蔵品332,192千円で、売上原価に含まれる棚卸資産評価損は戻入との純額で41,268千円の益となっています。税効果会計の注記では、棚卸資産評価損に係る繰延税金資産が前期14,507千円から611千円に減少しています。

固定資産の減損については、一部の事業が安定的な収益に至らず、継続的に営業損失や営業キャッシュ・フローのマイナスが生じていることから減損の検討を行い、個人向けアプリ分野で収益性の改善が見込めないとして減損損失21,201千円(ソフトウエア19,546千円など、ゴルフ関連事業セグメント)を計上しました。回収可能価額は使用価値で測定し、使用価値がマイナスのためゼロとしています。資産のグルーピングは取締役会の意思決定の基準となる管理会計上の事業区分により、割引前将来キャッシュ・フローは中期経営計画(5ヶ年計画)をもとに見積もっています。減損の兆候があっても割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回り減損を計上しなかった資産グループがあることも記載し、将来減損が生じる可能性に触れています。

重要な会計上の見積り:減損と棚卸資産評価の流れ固定資産の減損グルーピング管理会計上の事業区分減損の兆候継続的な営業損失営業CFマイナス認識の判定割引前将来CF(5ヶ年計画)測定回収可能価額(使用価値)第32期の結果個人向けアプリ21,201千円棚卸資産の評価期末在庫数を把握将来の予測払出数量と比較超過部分を過剰在庫と判定簿価1円まで切り下げ

図17 上段は固定資産の減損、下段は棚卸資産の評価(過剰在庫の簿価切下げ)の流れ(Ⅰの部「重要な会計上の見積り」「減損損失」注記をもとに作成)

繰延税金資産は第32期末64,723千円で、収益力とタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性で回収可能性を判断しています。注記では、税務上の収益認識の差額(49,969千円)や税務上の原価認識の差額(繰延税金負債33,162千円)が計上されており、会計と税務で収益・原価の認識時点が異なる項目があることがわかります。

上場準備会社にとってのポイントは、見積りの「方法」を文書化し、毎期同じ方法で適用することです。過剰在庫の判定に使う予測払出数量や、減損判定に使う事業計画は、監査法人が根拠資料を確認する対象になります。新規事業や立ち上げ段階の事業を持つ会社では、どの単位で資産をグルーピングするか、事業計画の達成可能性をどう説明するかを早い段階で整理しておく必要があります。

監査法人と監査報酬

会計監査人は有限責任監査法人トーマツで、継続監査期間は2年間、業務執行社員は2名、補助者は公認会計士6名、会計士試験合格者等1名、その他5名です。選定の方針として、一定の規模、審査体制、監査計画・費用の合理性、実績などを考慮したと記載されています。監査証明業務に基づく報酬は前事業年度28,850千円、最近事業年度30,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬の決定方針は定めていませんが、規模・特性・監査日数等を勘案し、監査役会の同意を得て決定しています。

監査報告書(2026年8月5日付)では、第31期・第32期の財務諸表について無限定適正意見が表明され、中間財務諸表と第3四半期の財務諸表については期中レビューの結論が記載されています。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかをご覧ください。

項目 前事業年度(第31期) 最近事業年度(第32期)
監査証明業務に基づく報酬 28,850千円 30,000千円
非監査業務に基づく報酬 ― ―
監査意見 無限定適正 無限定適正

事業等のリスクと審査で問われやすい点

テクノクラフトの「事業等のリスク」は25項目で構成され、項目ごとに発生可能性と影響度の認識が記載されています。当社事業及び業界固有の重要なリスクとして、ゴルフ人口の変化、製造委託先の製品欠陥、製造物責任、原材料の調達と価格変動、在庫管理、特定取引先への依存、ゴルフカートの供給状況、新製品開発の競争、知的財産権、システム障害(AWS)、コミュなび事業の市場環境と公的補助金、健康見守り事業の法規制などが挙げられています。その他の重要なリスクとして、自然災害、法的規制・許認可、特定の経営者への依存、新株予約権の行使による希薄化、個人情報、人材の確保、資金使途、当社株式の流動性などが続きます。

事業等のリスク:発生可能性と影響度の整理影響度\可能性低低~中・中高大製造委託・製造物責任特定取引先・システム障害許認可・経営者依存個人情報原材料の調達(低~中)自然災害流通株式時価総額(上場維持基準)―中~大知的財産権健康見守りの法規制訴訟新製品開発の競争激化ゴルフ人口の減少(可能性 低~中)―中(小~中を含む)在庫管理(小~中)感染症(小~中)配当政策価格変動・カート供給補助金動向・人材確保ニーズの変化(低~中)新株予約権の行使による希薄化(約9.8%)

図18 Ⅰの部「事業等のリスク」に記載された発生可能性・影響度の認識を、筆者が3×3の枠に整理したものです(括弧内は記載どおりの幅のある評価)

審査の観点から特に注目したいのは次の4点です。1つ目は特定取引先への依存です。製品の組立の約9割を本間電機工業株式会社に委託し、巻オフィスの土地・建物の一部を同社に賃貸(同社から外注協力会社のホンマ・コーポレーション株式会社に転貸)していることが設備の状況に記載されています。製造委託先の管理規定を定め、選定時に監査を行う体制も説明されています。重要な取引先との取引条件や関係は、取引の継続性と条件の妥当性の両面から確認されます。

2つ目は原材料の調達で、主力製品について概ね1年程度の在庫又は発注残を確保しており、リスクが発現してから事業に影響が出るまでに約1年の猶予があると説明しています。3つ目は健康見守り事業の位置づけで、医薬品医療機器等法上の医療機器や医療行為に該当しないサービスとして展開していること、将来はSaMD(プログラム医療機器)の開発・承認申請を予定していることが記載されています。許認可としては、電気通信事業の届出、管理医療機器販売業・貸与業の届出があります。許認可の確認範囲はIPOで許認可はどこまで見られるかで解説しています。

4つ目は特定の経営者への依存です。代表取締役の栂坂昌業氏は1946年生まれで、創業以来経営を担っています。Ⅰの部では、具体的な後継候補者の選定時期やサクセッションプランの開示は行っておらず、集団指導体制の強化や執行役員制度による権限委譲などを優先していると説明しています。経営者への依存度が高い会社では、取締役会や経営会議での意思決定の仕組み、権限委譲の状況を具体的に説明できることが重要です。

上場準備会社がテクノクラフトの事例から学べること

ここまでの内容を踏まえ、上場準備会社が実務に取り入れられるポイントを整理します。

論点 テクノクラフトの事例 上場準備会社の実務上のポイント
種類株式の整理 A種種類株式を取得請求権の行使で2回に分けて普通株式に交換し、自己株式を消却 普通株式への一本化の方法・時期を定款と株主との合意から逆算して決める
上場前の株式移動 ファンドから11者に1株1,190円で譲渡。価格はDCF法等を総合勘案 譲渡ごとに相手・理由・価格の根拠を記録し、説明できるようにする
流通株式 上場維持基準に近接することを事業等のリスクに明記 資産管理会社・事業会社の保有分を除いた流通株式を上場後まで見通す
ストック・オプション 段階行使(40%・80%・100%)と年間行使価額の上限 行使条件と税制・会計処理を分けて設計する
内部監査 管理部が監査し、管理部は開発部の1名が監査 兼務の場合はクロス監査で自己監査を回避し、担当者を教育する
内部統制の課題 在庫・購買管理を最優先課題として棚卸ルール等を刷新 課題を自ら識別し、対応策と進捗を会議体の記録で示す
収益認識 検収基準・期間按分・リース・割賦・本人代理人が混在 取引ごとに認識の単位と時点を一覧化し、基準の適用範囲を整理する
会計上の見積り 過剰在庫を簿価1円まで切下げ、事業区分ごとに減損判定 見積りの方法を文書化し、根拠となる計画・データを保存する

1つ目は、ファンドが入っている会社の資本政策です。ファンドの持分を種類株式で受け入れた場合、上場前に普通株式に戻す手続と、ファンドの出口(上場時の売出しや上場前の譲渡)をあわせて設計する必要があります。テクノクラフトでは、種類株式の交換と同じ時期に事業会社や地元企業への譲渡を行い、その理由を「取引・事業提携関係の強化」「地域経済の発展に貢献するため」などと明記しています。

2つ目は、流通株式の見通しです。オーナー一族の資産管理会社や事業会社が株式の大半を持つ会社では、上場時に流通株式の基準を満たしても、上場後の維持基準が課題になることがあります。テクノクラフトのように、そのリスクと対応方針をあらかじめ開示しておくことは、投資家への説明として参考になります。

3つ目は、小規模な管理部門での内部監査の工夫です。専任者を置けなくても、他部門の担当者による監査で自己監査を回避し、三様監査の会合で情報を共有することで、審査で求められる水準の体制を整えることができます。

4つ目は、ハードウェアを伴うビジネスの会計です。在庫の評価、ソフトウエアの資産計上と減損、検収基準による売上計上のタイミング、レンタルや割賦の会計処理など、SaaS企業とは異なる論点が多くあります。会計方針を取引ごとに整理し、監査法人と早めに合意しておくことが、上場準備のスケジュールを守ることにつながります。

  • 種類株式を普通株式に一本化する方法(取得請求権・取得条項・転換)と時期を決めているか
  • 上場前の株式移動について、相手先・理由・価格の算定根拠を記録しているか
  • 資産管理会社や事業会社の保有分を除いた流通株式数・流通株式時価総額を試算しているか
  • ストック・オプションの行使条件、税制適格要件、会計処理を付与の都度確認しているか
  • 内部監査を兼務で行う場合、管理部門の監査を別部門の担当者が行う体制になっているか
  • 取引ごとに収益認識の単位・時点と、リース・割賦などの適用基準を一覧化しているか

よくある質問

Q1. ファンドから事業会社への株式譲渡は、上場審査でどのように確認されますか?

Ⅰの部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」に、移動の日付、当事者、株数、価格、理由が記載されます。テクノクラフトでは、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式で算出した価格を総合的に勘案し、当事者が協議して1株1,190円(分割後換算)と決めたことが記載されています。価格の根拠資料と、譲渡の目的を説明できるようにしておくことが重要です。

Q2. 内部監査の専任者がいなくても上場できますか?

専任者がいなくても、内部監査の担当者を定め、自己監査を回避する仕組みを整えれば体制として説明することは可能です。テクノクラフトでは管理部5名が内部監査を担当し、管理部自身の監査は開発部の1名が行っています。監査計画、報告、改善指示の記録を残し、運用の実績を示すことが求められます。

Q3. ハードウェアとクラウドをセットで販売する場合、収益はいつ計上しますか?

契約の内容によって異なります。テクノクラフトでは、カートナビシステムは納品・検収完了時点、保守サービスやクラウドは契約期間に応じた按分、タブレット等のレンタルはリース取引としてレンタル期間の経過に応じて収益を認識しています。履行義務を識別し、それぞれの性質に合った認識方法を選ぶことが必要です。

Q4. 上場時に流通株式の基準を満たせば、上場後は気にしなくてよいですか?

いいえ。上場後も上場維持基準を満たし続ける必要があります。テクノクラフトは、流通株式時価総額がスタンダード市場の上場維持基準に近接していることを事業等のリスクに記載し、大株主への一部売出しの要請などで流動性の向上を図るとしています。上場後の株主構成の変化まで見通した資本政策が重要です。

最初の一歩は、自社の株主名簿と取引の一覧を作ることから

テクノクラフトのⅠの部が示すように、上場準備で問われる論点の多くは「株式」と「取引」の記録に行き着きます。まずは現在の株主名簿と過去の株式移動の履歴、種類株式の内容を一覧にし、あわせて主要な取引ごとの収益認識の方法と、関連当事者との取引の有無を洗い出してみてください。全体の進め方はIPO準備 完全ガイド、資本政策の考え方は上場準備の資本政策も参考になります。

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テクノクラフトの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

株式会社テクノクラフトは、GPS技術を基盤にしたゴルフカートナビを中心に、園業務支援クラウドやウェアラブル端末による健康見守りへと事業を広げ、2026年9月18日に東証スタンダード市場に上場しました。Ⅰの部からは、ファンドが保有していたA種種類株式を取得請求権の行使で2回に分けて普通株式に交換・消却し、同時期に事業会社や地元企業へ株式を引き継いだ資本政策、税制適格を意識した段階行使型のストック・オプション、管理部の監査を開発部の担当者が行う内部監査の工夫、そして検収基準・期間按分・リース取引が混在する収益認識や棚卸資産・減損の見積りといった会計の論点を具体的に読み取ることができます。

特に、流通株式時価総額が上場維持基準に近いことや、在庫・購買管理の内部統制上の課題を自ら開示し、対応方針を示している点は、上場準備会社にとって参考になる開示です。本記事のチェックリストを使って、自社の株式と管理体制の整理状況を確認してみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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