セイワホールディングスのIPO|連続M&Aの資本政策とIFRS任意適用【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年3月27日、株式会社セイワホールディングス(証券コード523A)が東証グロース市場に上場しました。同社は、後継者が不在の中小製造業をM&Aで連続的にグループに迎え入れ、独自の仕組みでバリューアップを行う「製造業特化型の事業承継プラットフォーマー」です。溶接・製缶業を営む有限会社セイワ工業を前身とし、2019年以降にめっき、塗装、特殊電線、成形機、土木など多様な中小企業をグループ化してきました。Ⅰの部の提出時点では、純粋持株会社である当社と連結子会社15社で構成されています。

結論からいえば、セイワホールディングスのⅠの部から学べるのは、①連続M&Aを前提とした会社が、連結ベースの債務超過から第三者割当増資と利益の積み上げで資本を回復させた資本政策、②IFRSを任意適用して上場申請を行い、のれん・負ののれん・顧客関連資産といった企業結合の会計を開示した点、③上場直前期に監査役体制から監査等委員会設置会社へ移行し、専任2名の内部監査室で15社のグループ会社を監査する体制、④公募増資と同時に資本金を7,000万円まで減少させる減資スキームの4点です。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の記載をもとに、これらの論点を上場準備の実務の目線で整理します。

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セイワホールディングスはどのような会社で、どの市場に上場したのか

まず、会社と上場の概要を確認します。セイワホールディングスは、名古屋市中区に本店を置く純粋持株会社です。2021年1月に、株式会社セイワ工業の単独株式移転により持株会社として設立されました。前身のセイワ工業は、1995年12月に愛知県海部郡飛島村で溶接業を営む有限会社として設立された会社です。

事業セグメントは「モノづくり事業」の単一セグメントです。溶接・製缶、めっき、カチオン電着塗装、特殊電線、ゴム成形機、液面計、プラスチックケース、土木工事など、子会社ごとに事業内容は多岐にわたりますが、経済的特徴が概ね類似しているとして一つのセグメントに集約されています。子会社はいずれも当社の100%子会社(間接所有を含む)で、全社が特定子会社に該当し、経営指導や役員の兼任が行われていると記載されています。

項目 内容
会社名 株式会社セイワホールディングス(英訳名 SEIWA HOLDINGS Co., Ltd.)
証券コード・市場 523A・東証グロース市場(2026年8月6日に名証ネクスト市場へ重複上場)
上場日 2026年3月27日
本店所在地 愛知県名古屋市中区
代表者 代表取締役社長 野見山 勇大
設立 2021年1月(株式会社セイワ工業の単独株式移転により設立)。前身は1995年12月設立
決算期 5月31日(最近事業年度は第5期=2025年5月期)
事業 モノづくり事業(単一セグメント)、当社と連結子会社15社
従業員数 連結345名(臨時31名)、提出会社34名(2026年1月31日現在)
連結財務諸表 IFRS(国際会計基準)を任意適用。移行日2023年6月1日
会計監査人 仰星監査法人

決算期は5月31日です。設立当初は12月決算でしたが、2022年5月30日の臨時株主総会で5月決算に変更しており、第2期は2022年1月1日から5月31日までの5か月決算となっています。上場準備の途中で決算期を変更すると、申請期や直前期の数え方、監査を受ける期間の設計に影響しますので、決算期を変える場合は主幹事証券や監査法人とスケジュールをすり合わせておくことが大切です。

従業員数は、2026年1月31日現在で連結345名(臨時31名)、提出会社34名です。提出会社の平均年齢は38.91歳、平均勤続年数は2.58年と記載されています。提出会社の従業員数は第1期の13名から第5期の32名へと増えており、持株会社の管理部門を上場準備にあわせて段階的に整えてきた様子がうかがえます。実際、Ⅰの部では、単体の第2期・第3期の損失の要因として「新規株式公開を見据えた人員の補強やコンサルティング費用」が挙げられています。

なお、同社は取引規制府令49条2項の「特定上場会社等」に該当し、インサイダー取引規制の軽微基準を連結ベースで判断する旨も記載されています。純粋持株会社の場合、重要事実の判断が子会社の情報に左右されることが多いため、上場前から子会社の情報を持株会社へ集約するルートを整えておく必要があります。

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何で稼ぐ会社か:事業内容と収益モデル

セイワホールディングスの事業の特徴は、M&Aによるロールアップと、「セイワプラットフォーム」による既存事業の成長という2つのエンジンを組み合わせている点にあります。Ⅰの部では、ミッションとして「たたむにはもったいない中小企業を受け継ぎ、選ばれ続けるモノづくりグループをつくる」と掲げています。

セイワホールディングスの事業モデル後継者不在の中小製造業当社(純粋持株会社)重視するKPI連結売上収益調整後営業利益・EBITDAセイワプラットフォームバックオフィス集約・戦略支援IT投資・経営管理人材の提供連結子会社15社(モノづくり事業・単一セグメント)溶接・製缶/めっき/カチオン電着塗装/特殊電線/成形機/液面計/プラスチックケース/土木 等主な収益の源泉製品の製造販売引渡・検収時点で収益認識工事請負一定期間(インプット法)持株会社(単体)経営指導料・受取配当金M&A機能を一括提供バリューアップ

図1 セイワホールディングスの事業モデル(Ⅰの部「事業の内容」「経営方針」をもとに筆者作成)

M&Aの対象と基準:ニッチトップになり得る後継者不在の企業

M&Aの対象は、高いシェア、参入障壁、独自の技術・設備・特許、高度な人材など代替が困難な強みを持ち、ニッチトップになり得るにもかかわらず、後継者が不在である中小企業です。M&Aの基準として、原則としてモノづくり関連であること、競合優位性があること、EV/EBITDAのマルチプルが原則5倍以内であること、オーナーと価値観が一致することが挙げられています。

また、製造業に特化したデュー・デリジェンスのチェックリストや、譲受先のオーナー属性・キーマン・後継人材の選定をシステム化した独自の人材最適化システムを持っていることも記載されています。M&Aを成長戦略の柱とする会社では、審査で「M&Aの意思決定プロセスが属人的になっていないか」が確認されやすいため、買収基準とDDの手順を文書化している点は参考になります。

M&Aの対象と基準対象:代替困難な強みを持ち、ニッチトップになり得るのに後継者が不在の中小企業M&Aの基準原則としてモノづくり関連競合優位性があるEV/EBITDAのマルチプル原則5倍以内オーナーと価値観が一致意思決定を支える仕組み製造業に特化したデュー・デリジェンスのチェックリスト独自の人材最適化システム(オーナー属性・キーマン・後継人材)

図2 M&Aの対象・基準と意思決定を支える仕組み(Ⅰの部「事業の内容」をもとに筆者作成)

セイワプラットフォーム:グループ会社単体では持てない機能を一括提供

セイワプラットフォームは、グループ各社が単体では持つことが難しい機能を、持株会社が一括して提供する仕組みです。具体的には、バックオフィスの集約、営業・製造・開発の戦略、IT投資、経営管理人材の提供が挙げられています。経営管理・ガバナンスの基盤として、月次管理、KPI設計、内部統制なども含まれています。

提出会社(単体)の営業収益は全額が関係会社からのもので、グループ子会社とのコンサルティング契約に基づく経営指導料と、受取配当金で構成されています。純粋持株会社の上場では、子会社から受け取る経営指導料の算定根拠(どのような役務の対価なのか、金額の決め方は合理的か)が論点になりやすく、契約書と役務の実態をそろえておくことが重要です。

主要顧客とKPI

主要な販売先については、2024年5月期に大洋電機株式会社への販売実績が746百万円(売上収益の10.3%)と記載されています。2025年5月期と第6期中間期は、売上収益の10%以上を占める販売先がないため記載が省略されています。子会社ごとに業種と顧客が異なるため、特定の顧客への依存度は高くない構造といえます。

経営上の目標の達成状況を判断するためのKPIとしては、連結売上収益、調整後連結営業利益、調整後連結EBITDAの3つが掲げられています。調整後連結営業利益は「営業利益+企業結合により発生する無形資産の償却費+取得関連費用」、調整後連結EBITDAは「調整後連結営業利益+減価償却費」と定義されています。M&Aを繰り返す会社では、買収に伴う顧客関連資産の償却費や取得関連費用が営業利益を押し下げるため、こうした調整後の指標で事業そのものの収益力を示すのは一つの考え方です。ただし、調整後の指標を使う場合は、定義を明示し、IFRS上の営業利益との差異を毎期同じ方法で説明できるようにしておく必要があります。

調整後KPIの定義営業利益+企業結合で発生する無形資産の償却費+取得関連費用調整後連結営業利益調整後連結営業利益+減価償却費調整後連結EBITDA2025年5月期(百万円):営業利益700、調整後連結営業利益809、調整後連結EBITDA1,073

図3 調整後連結営業利益と調整後連結EBITDAの定義(Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をもとに筆者作成)

沿革:溶接業の会社が持株会社として上場するまで

同社の沿革は、前身のセイワ工業が2019年以降にM&Aを本格化させた時期と、持株会社を設立してグループを拡大し、上場準備を進めた時期に分けて見ると整理しやすくなります。

設立から上場までの主な沿革連続M&Aと持株会社化1995年12月有限会社セイワ工業設立2019年東栄コーティング等をグループ化2020年光誠産業・三陽電工等を取得2021年1月株式移転で当社を設立2021〜22年三重工業〜日本興業を取得上場準備の本格化2023年7月金谷塗装工業所をグループ化2024年11月冨士鍍金工業所をグループ化2025年1月第三者割当増資650百万円2025年8月監査等委員会設置会社へ移行2026年3月東証グロース市場に上場

図4 前身のセイワ工業から上場までの主な沿革(Ⅰの部「沿革」等をもとに筆者作成)

2019年6月に東栄コーティング(めっき)、同年10月にカスカ(機械加工)、2020年7月に光誠産業(鋼構造物)とブレンズ(ブロー成形機)、同年10月に三陽電工(電線・ケーブル)をグループ化しました。2020年11月に株式会社セイワ工業へ商号を変更し、2021年1月には同社の単独株式移転により当社が設立されています。

持株会社の設立後も、2021年3月に三重工業(真空ゴム成形機)、同年6月に平野製作所(製缶・溶接)、同年9月にタマ化工(カチオン電着塗装)、2022年2月にカケンジェネックス(成形アシスト装置)、同年3月にJOB(土木)、同年4月に日本計器(液面計)、同年6月に開伸(プラスチックケース)と日本興業(土木工事)をグループ化しています。その後も、2023年7月に金谷塗装工業所、2024年11月に冨士鍍金工業所をグループ化し、2025年6月にはタマ化工を買収主体として勝山塗装工業所のカチオン電着塗装事業を譲り受けました。

一方で、2022年1月にカスカをセイワ工業に吸収合併し、2025年9月にはブレンズの全株式を売却しています。買収だけでなく、グループ内の再編やノンコア事業の売却も行っている点は、ロールアップ型の会社が「グループの範囲」をどう管理しているかを示す材料になります。

上場準備の実務の観点から見ると、上場申請の直前期・申請期にM&Aや子会社の売却が重なると、連結範囲の変更、企業結合の会計処理、Ⅰの部の記載の更新など、管理部門の負担が大きくなります。M&Aを続けながら上場を目指す会社では、どの案件をいつ実行するかを上場スケジュールと突き合わせて判断することが欠かせません。上場準備全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理しています。

業績の推移はどう読めばよいか

次に、業績の推移を確認します。同社の連結財務諸表はIFRSで作成されており、Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」には、IFRSによる2024年5月期(第4期)と2025年5月期(第5期)の2期分の連結数値が記載されています。

項目(百万円) 2024年5月期 2025年5月期 2026年5月期中間
売上収益 7,276 7,769 3,874
営業利益 471 700 939
税引前利益 445 563 844
親会社の所有者に帰属する当期(中間)利益 281 327 667
調整後連結営業利益(KPI) 572 809 -
調整後連結EBITDA(KPI) 814 1,073 -
資本合計(親会社所有者帰属持分) △174 842 1,550
資産合計 7,914 11,274 11,538
営業活動によるキャッシュ・フロー 838 1,358 388
連結業績の推移(IFRS)連結売上収益(百万円)02,0004,0006,0008,0002024年5月期2025年5月期7,2767,769利益指標(百万円)03006009001,2002024年5月期2025年5月期8145724711,073809700営業利益調整後営業利益調整後EBITDA

図5 連結売上収益と利益指標の推移(2024年5月期・2025年5月期、百万円)。調整後の指標はⅠの部のKPIの定義による

売上は緩やかな増加、営業利益は大きく伸長

2025年5月期の売上収益は7,769百万円で、前期比6.8%の増加です。営業利益は700百万円(前期比48.5%増)、税引前利益は563百万円(同26.5%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は327百万円(同16.2%増)となっています。

営業利益の伸びが売上の伸びを大きく上回っている理由の一つは、2024年5月期の「その他の費用」377百万円に、減損損失359百万円が含まれていたことです。この減損は主に開伸ののれん328百万円に係るもので、後ほど会計の論点として詳しく見ていきます。KPIである調整後連結営業利益も572百万円から809百万円へ、調整後連結EBITDAも814百万円から1,073百万円へと増加しています。

第6期中間期(2025年6月〜11月)は、売上収益3,874百万円(前年同期比6.6%増)、営業利益939百万円(同123.8%増)でした。中間期の「その他の収益」316百万円には、勝山塗装工業所からの事業譲受に伴う負ののれん発生益168百万円と、ブレンズ株式の売却に伴う子会社株式売却益132百万円が含まれています。M&Aを行う会社では、こうした企業結合や売却に伴う損益が営業利益に含まれることがあるため、利益の増減を説明するときには、経常的な損益とそうでない損益を分けて示せるようにしておくことが大切です。

単体の業績:持株会社の収益と上場準備のコスト

提出会社(単体、日本基準)の売上高(営業収益)は、第1期43百万円、第2期(5か月)66百万円、第3期365百万円、第4期494百万円、第5期817百万円と推移しています。当期純利益は第2期に△209百万円、第3期に△13百万円の損失を計上しましたが、第4期18百万円、第5期221百万円と黒字に転じています。

先ほど触れたとおり、第2期・第3期の損失は上場を見据えた人員補強やコンサルティング費用によるものと記載されています。上場準備では、管理部門の採用、監査報酬、コンサルティング費用、システム投資などのコストが先行して発生します。単体の数字が赤字になる期間があっても、その理由を説明できれば問題になるとは限りませんが、事業計画には上場準備コストと上場後の維持コストを織り込んでおく必要があります。IPOにかかる費用はいくらかもあわせてご覧ください。

グロース市場で求められる「成長可能性」の説明

グロース市場では、上場時に「高い成長可能性」を有していることが求められ、上場後も「事業計画及び成長可能性に関する事項」を開示することになります。同社のⅠの部では、市場規模について、中小企業庁の「中小企業実態基本調査(令和6年確報)」をもとに、TAMを約132兆円(中小製造業335,819社×1社あたり売上392.5百万円)、SAMを約7.7兆円(19,498社)、SOMを約2.2兆円(5,729社)と試算しています。

市場規模の試算(TAM・SAM・SOM)TAM 約132兆円中小製造業335,819社×1社あたり売上392.5百万円SAM 約7.7兆円19,498社SOM 約2.2兆円5,729社

図6 Ⅰの部に記載された市場規模の試算(中小企業庁「中小企業実態基本調査(令和6年確報)」をもとにした同社の試算)

また、経営環境として、休廃業・解散件数の増加や、休廃業・解散企業数に対するM&A成約件数の割合が1.41%にとどまることを挙げ、事業承継の需要があることを説明しています。成長戦略としては、①共通指標(売上高営業利益率)を軸とした規律ある経営プロセス、②自社のソーシング担当者による優良企業のM&A、③セイワプラットフォームの進化(バックオフィスの標準化、海外展開、専門チームの組成)の3つが示されています。

市場規模の試算に公的統計を使い、計算式まで示している点は、上場準備会社が成長可能性を説明する際の参考になります。市場規模や成長戦略の数字は、審査で根拠を確認されますので、出典と計算過程を記録しておくことをおすすめします。詳しくはグロース市場の「高い成長可能性」とはとIPO審査の「事業計画の合理性」で解説しています。

資本政策と株主構成:債務超過からどう資本を回復させたか

ここからは、資本政策と株主構成を見ていきます。同社の資本政策の特徴は、連結ベースで資本がマイナスの状態から、第三者割当増資と利益の積み上げによって資本を回復させたこと、代表者が引き続き大株主であること、グループ会社の役職員まで広く新株予約権を付与していること、そして上場時の減資スキームにあります。

連結ベースの資本はマイナスからプラスへ

IFRSの連結財政状態計算書を見ると、資本合計は移行日(2023年6月1日)に△490百万円、2024年5月期末に△174百万円とマイナスでした。日本基準の連結純資産も、移行日に△342百万円、2024年5月期末に△58百万円と記載されています。2024年5月期末に親会社所有者帰属持分がマイナスとなった理由として、Ⅰの部では「のれん等の減損を行ったこと」が挙げられています。

2025年5月期には、当期包括利益323百万円に加えて、2025年1月の第三者割当増資650百万円、株式報酬43百万円により、資本合計は842百万円となりました。第6期中間期末には1,550百万円まで増加しています。

連結資本の推移(債務超過からの回復)第4期末資本-174当期包括利益+323第三者割当増資+650株式報酬+43第5期末資本842※減資・欠損填補は資本の内訳間の振替のため、資本合計は変わりません

図7 2024年5月期末から2025年5月期末までの資本合計の増減(IFRS、百万円)。移行日(2023年6月1日)の資本合計は△490百万円

M&Aを借入金で行う会社では、買収時にのれんや無形資産が計上され、借入金が大きくなる一方で、減損が生じると資本が大きく減ることがあります。同社の2025年5月期末の有利子負債は7,884百万円、有利子負債依存度は69.9%、D/Eレシオは9.36倍と記載されており、事業等のリスクや対処すべき課題でも財務体質の改善が挙げられています。資本が薄い状態で上場を目指す場合は、上場前の増資の時期と金額、上場時の公募による資本の増加、借入金の財務制限条項への影響をあわせて検討しておくことが重要です。

第三者割当増資と株式移動の価格

発行済株式総数と資本金の推移を見ると、設立後に3回の有償第三者割当増資が行われています。

時期 内容 1株あたりの価格 割当先・譲受先
2021年12月 第三者割当増資(3,300株) 15,000円(分割前) あいぎん未来創造ファンド4号投資事業有限責任組合
2022年5月 第三者割当増資(11,500株) 26,000円(分割前) 株式会社フューチャーラボ
2025年1月 第三者割当増資(分割後1,605,000株、総額650百万円) 405円(分割後) 石田克史氏、株式会社フューチャーラボ、あいぎんベンチャーファンド2号投資事業有限責任組合
2025年3月 代表者から役職員等への株式移動 405円(分割後) 取締役、監査役、子会社役員、従業員など11名
2025年4月 代表者からファンドへの株式移動(479,500株) 417.15円(分割後) DBC1号投資事業有限責任組合

2025年3月31日には、代表取締役社長から、取締役、監査役(当時)、子会社の役員、従業員に対して、1株405円(分割後換算)で株式が譲渡されています。理由は「役職員のモチベーションアップ・当事者意識向上」と記載されています。2025年4月24日には、代表取締役社長からDBC1号投資事業有限責任組合へ479,500株が1株417.15円で譲渡されており、理由は同組合からの出資の意向を受けたものとされています。これらの株式移動の価格は、DCF法により算出した価格を基礎として当事者間の協議で決定したと記載されています。

上場前の株式移動や第三者割当は、Ⅰの部の「株式公開情報」に、移動の相手、価格、理由がそのまま開示されます。特に、上場申請日の直前事業年度の末日の2年前の日以降に行われた特別利害関係者等の株式移動は記載の対象となり、第三者割当で取得した株式には継続所有の確約が求められます。同社でも、2025年1月の第三者割当で取得した株式について、上場日以後6か月を経過する日(払込から1年を経過していない場合は1年を経過する日)まで所有する旨の確約が記載されています。価格の決め方については未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、株式移動の留意点は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

大株主の構成:代表者が引き続き大株主

Ⅰの部の「株主の状況」によると、筆頭株主は代表取締役社長の野見山勇大氏で、所有株式数は11,445,500株、新株予約権による潜在株式を含む株式総数に対する割合は69.89%です。事業等のリスクでは、同氏が発行済株式の75.87%を所有しており、売出しにより一部を売却する予定であるものの、引き続き大株主となる見込みであると記載されています。

第2位は個人の石田克史氏(8.34%)、第3位は株式会社フューチャーラボ(7.78%)、第4位はDBC1号投資事業有限責任組合(2.93%)です。地域の金融機関系のファンドとして、あいぎん未来創造ファンド4号投資事業有限責任組合(2.02%)、あいぎんベンチャーファンド2号投資事業有限責任組合(0.70%)も株主に名を連ねています。株式会社フューチャーラボは、子会社である開伸の元オーナーであり、当社と包装資材「Vパック」に関する特許・ノウハウの実施許諾契約を締結している相手でもあると記載されています。

大株主の状況(上位8名)野見山 勇大(代表取締役社長)69.89%石田 克史8.34%株式会社フューチャーラボ7.78%DBC1号投資事業有限責任組合2.93%井川 径成(取締役副社長)2.52%あいぎん未来創造ファンド4号2.02%森 祐介0.82%あいぎんベンチャーファンド2号0.70%※代表取締役社長の発行済株式に対する所有割合は75.87%(事業等のリスク)

図8 大株主上位8名の所有割合(Ⅰの部「株主の状況」。新株予約権による潜在株式を含む株式総数に対する割合)

所有者別の状況(2026年1月31日現在)は、その他の法人が4名で14.58%、個人その他が13名で85.42%となっており、金融機関や外国法人等はゼロです。親会社等は存在しません。

代表者が過半数の株式を保有したまま上場する場合、審査では、少数株主の利益が損なわれない運営になっているか、代表者と会社の取引が適切に管理されているかが確認されます。また、事業等のリスクでは、同社の代表取締役社長への依存について、M&Aは経営企画本部を中心とする組織的な体制で行い、投資委員会や取締役会の合議制によって依存を低減していると説明しています。創業者・代表者の持株比率と経営の属人性の考え方は、創業者の持株比率はどこまで下げてよいかも参考にしてください。

ストックオプションはグループ会社の役職員まで広く付与

同社は、2021年から2025年までに第1回から第7回までの新株予約権を発行しています。種類株式は発行しておらず、普通株式のみです。各回の概要は次のとおりです(株式数と行使価額は2026年1月8日の株式分割後の数値)。

回 決議日 当初の付与対象 目的株式数 行使価額 主な特徴
第1回 2021年3月 当社取締役3名 152,500株 5円 税制適格
第2回 2021年3月 社外協力者1名 30,500株 16円 有償発行
第3回 2022年12月 当社取締役3名・従業員12名 317,000株 18円 税制適格、上場後5年で段階行使
第4回 2022年12月 社外協力者2名 150,000株 121円 有償発行
第5回 2024年1月 取締役・監査役・従業員、子会社の取締役・従業員 444,700株 18円 税制適格、上場後3年で段階行使
第6回 2024年9月 取締役・監査役・従業員、子会社の取締役・従業員 142,000株 18円 段階行使
第7回 2025年11月 監査等委員である取締役・従業員、子会社の取締役・従業員 56,800株 37円 段階行使
資本政策の主な動き第三者割当増資・株式移動(1株あたりの価格)2021年12月第三者割当分割前15,000円2022年5月第三者割当分割前26,000円2025年1月第三者割当分割後405円2025年3〜4月代表者からの株式移動405円・417.15円新株予約権の発行と株式分割2021年3月第1回・第2回新株予約権2022年12月第3回・第4回新株予約権2024年第5回・第6回新株予約権2025年11月第7回新株予約権2026年1月1:100の株式分割

図9 第三者割当・株式移動・新株予約権・株式分割の時系列(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「株式公開情報」をもとに筆者作成)

特徴の一つは、当社の役職員だけでなく、子会社の取締役・従業員にも広く新株予約権を付与していることです。第5回では、当初の付与対象として子会社取締役13名と子会社従業員19名が含まれています。M&Aでグループに加わった会社の役職員にも上場のメリットを共有することで、グループとしての一体感を高めようとする設計と読むことができます。

もう一つの特徴は、上場後の段階的な行使です。第3回は上場後1年で40%、2年で55%、3年で70%、4年で85%、5年で100%、第5回から第7回は1年で40%、2年で60%、3年で100%まで行使できる設計になっています。行使の条件として、全回共通で上場日以降に限り行使できることが定められています。

新株予約権の段階的な行使可能割合第3回第5回〜第7回(%)0255075100上場後1年2年3年4年5年40%55%70%85%60%100%全回共通で上場日以降に限り行使可能

図10 上場後の経過年数に応じて行使できる割合(Ⅰの部「新株予約権等の状況」をもとに筆者作成)

税制適格ストックオプションについては、租税特別措置法29条の2の要件(年間の権利行使価額の上限や、証券会社等への保管委託など)を満たす必要があります。同社でも、第1回・第5回では年間の行使価額の上限が1,200万円とされています。また、第2回・第4回は社外協力者に対する有償の新株予約権で、行使の条件は上場のみとなっています。税制適格ストックオプションの要件は税制適格ストックオプションで詳しく解説しています。

新株予約権の行使価額は配当還元方式を勘案して決定

Ⅰの部の「第三者割当等の概況」には、第5回・第6回・第7回の新株予約権の発行価格(行使価額)について、配当還元方式により算出した価格を総合的に勘案して決定した旨が記載されています。同じ時期の第三者割当増資や株式移動の価格(405円・417.15円)とは異なる方法で算定されており、IFRSの注記では、第5回・第6回の付与日の株価を120.27円としてブラック・ショールズ・モデルで公正価値を測定しています。

税制適格ストックオプションでは、行使価額が付与時の株式の時価以上である必要があり、その時価の算定方法には税務上の考え方が関係します。2023年5月に国税庁がストックオプションに関するQ&Aを公表し、同年7月には措置法通達の改正とQ&Aの改訂により、税制適格ストックオプションにおける非上場株式の時価の算定方法についての考え方が示されています。新株予約権の発行時期と行使価額の算定方法は、上場審査でも説明を求められますので、算定の根拠資料を残しておくことが大切です。

潜在株式比率・自己株式・流通株式

事業等のリスクでは、新株予約権による潜在株式が1,292,000株で、発行済株式総数15,085,000株の8.56%にあたると記載されています。自己株式は保有しておらず、上場時の流通株式比率は39.16%となる見込みと記載されています。

グロース市場の上場審査基準では、流通株式比率25%以上などの要件があります。代表者や役員、ファンド等の保有株式の扱いによって流通株式の数は変わりますので、資本政策の段階で上場時の流通株式比率を試算しておく必要があります。詳しくは流通株式比率の計算式と調べ方をご覧ください。

株式分割と単元株制度の採用

同社は2026年1月8日付で普通株式1株を100株に分割し、同日に1単元を100株とする単元株制度を採用しました。あわせて発行可能株式総数を240,000株から60,340,000株に増やす定款変更を行っています。株式分割の目的について、年度の後発事象の注記では、株式の流動性の向上と投資家層の拡大と記載されています。上場前の株式分割は、上場後の投資単位を適切な水準にするために一般的に行われるもので、新株予約権の目的株式数や行使価額の調整もあわせて必要になります。

上場時に資本金を7,000万円まで減らす減資スキーム

同社の資本政策で特徴的なのが、上場時の減資です。2026年2月20日の取締役会で公募増資等を決議し、同日の臨時株主総会で、資本金25億3,000万円・資本準備金25億円を上限として(公募増資の額に応じて調整)減少させ、最終的に資本金を7,000万円、資本準備金を0円とする特別決議を行っています。減少額はその他資本剰余金に振り替えられ、上場後、2026年4月3日までに債権者保護手続を経て効力が発生する予定と記載されています。

上場時の減資スキーム上場時公募増資資本金・準備金が増加2026年2月20日臨時株主総会で減資を特別決議上場後債権者保護手続2026年4月3日まで効力発生予定資本金7,000万円減資の目的(Ⅰの部の記載)中小法人向け税制の安定的な適用「みなし大法人」の回避補助金・税制の活用資本政策の柔軟性の確保事業等のリスクでの言及否定的な報道によるレピュテーション、債権者の異議による効力発生の遅延の可能性

図11 公募増資と同時に決議された資本金・資本準備金の減少の流れと目的(Ⅰの部の記載をもとに筆者作成)

減資の目的として、Ⅰの部では、中小法人向けの税制を安定的に適用すること、「みなし大法人」に該当することを避けて補助金や税制を活用できる可能性を確保すること、資本政策の柔軟性を確保することの3点が挙げられています。事業等のリスクでは、資本金1億円以下の中小法人等として繰越欠損金の全額控除等の適用を受けていることに触れたうえで、否定的な報道によるレピュテーションへの影響や、債権者の異議による効力発生の遅延の可能性も記載されています。

同社は上場前にも、2023年5月と2025年2月に欠損填補のための減資を行っています。2025年1月の第三者割当増資で資本金が4億2,500万円となった後、翌月に減資して1億円に戻している経緯も、「発行済株式総数、資本金等の推移」から読み取れます。

上場準備会社にとってのポイントは、増資と減資を組み合わせる場合、会社法上の手続(株主総会の特別決議、債権者保護手続としての公告・催告)に一定の期間がかかることと、その内容と目的をⅠの部や目論見書で説明する必要があることです。税務上のメリットだけでなく、外部からどう見えるかも含めて検討し、主幹事証券や監査法人、税理士と早めに相談しておくことをおすすめします。資本政策全体の考え方は上場準備の資本政策で整理しています。

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コーポレート・ガバナンス:上場直前期に監査等委員会設置会社へ

続いて、コーポレート・ガバナンスの体制を見ていきます。同社は、株主総会、取締役会、監査等委員会、会計監査人を置く監査等委員会設置会社です。

セイワホールディングスの機関設計株主総会取締役会(6名)うち社外2名・議長は社長監査等委員会(3名)常勤1名・社外2名会計監査人仰星監査法人代表取締役社長リスク・コンプライアンス委員会委員長:社長内部監査室(専任2名)社長直轄連結子会社15社関係会社管理規程選任選任選任監査選定・監督任命監査報告

図12 監査等委員会設置会社としての機関設計と内部監査・子会社管理の関係(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに筆者作成)

監査役体制から監査等委員会設置会社への移行

同社は、2025年8月28日の定時株主総会で監査役設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。移行前の2024年8月には、監査役による「監査役協議会」を設置しており、最近事業年度の監査役協議会は10回開催され、常勤監査役・監査役ともに10回すべてに出席しています。

移行にあたっては、監査役であった三宅悠介氏と林友梨氏が監査等委員である取締役に就任しており、監査の担い手が引き継がれています。監査役から監査等委員へ同じ人材が移ることで、それまでの監査の知見や経緯を新しい体制に持ち込めるという利点があります。

監査役体制から監査等委員会設置会社へ2022年8月三宅氏が監査役に就任2024年8月監査役協議会を設置最近事業年度監査役協議会を10回開催2025年8月28日監査等委員会設置会社へ監査役であった三宅悠介氏・林友梨氏が監査等委員である取締役に就任監査の担い手を新しい体制へ引き継ぎ

図13 監査体制の移行の経緯(Ⅰの部「役員の状況」「監査の状況」をもとに筆者作成)

上場直前期に機関設計を変更すること自体は珍しくありませんが、審査では移行後の取締役会・監査等委員会の運用実績が確認されることがあります。移行の時期は、申請スケジュールから逆算して決め、定款変更、役員報酬の枠の再設定、監査等委員会規程などの社内規程の整備を同時に進める必要があります。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。

取締役会の構成と開催状況

取締役会は6名で構成され、うち2名が社外取締役です。議長は代表取締役社長で、原則として月1回の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開催しています。役員は男性5名・女性1名です。

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の記載から)
代表取締役社長 野見山 勇大 2015年セイワ工業入社、2019年同社代表取締役。グループ各社の代表取締役・取締役を兼任
取締役副社長 井川 径成 岡谷鋼機、デロイトトーマツコンサルティングを経て2020年セイワ工業入社。2021年当社取締役最高財務責任者
取締役 児玉 栄司 三菱樹脂等を経て2024年当社取締役。平野製作所・開伸の代表取締役
取締役(常勤監査等委員) 三宅 悠介 公認会計士。有限責任あずさ監査法人を経て2022年当社監査役、2025年監査等委員
社外取締役(監査等委員) 木村 哲也 トヨタ自動車、旭鉄工を経て同社代表取締役社長
社外取締役(監査等委員) 林 友梨 弁護士。2023年当社取締役、2024年監査役、2025年監査等委員

最近事業年度の取締役会への出席状況は、代表取締役社長、取締役副社長、各取締役、社外取締役の木村氏がいずれも20回中20回、林氏が在任期間中の4回中4回と記載されています。主な検討事項としては、決算・財務、年度予算とその進捗、投資判断を含む経営戦略、組織・人事を含むガバナンス強化、コンプライアンス・リスク管理を含む内部統制の運用が挙げられています。M&Aを成長戦略とする会社にとって、投資判断が取締役会の主要な議題として記録されていることは、意思決定の合議性を示すうえで重要です。

取締役の任期は1年、監査等委員である取締役の任期は2年です。取締役の定数は、監査等委員でない取締役5名以内、監査等委員である取締役5名以内と定められています。また、剰余金の配当等を取締役会決議で行える旨の定款規定(会社法459条1項)や、中間配当(同法454条5項)、自己株式の取得(同法165条2項)に関する定款規定も記載されています。

社外取締役の独立性と常勤監査等委員

社外取締役の2名は、製造業の経営者と弁護士です。いずれも当社株式の保有以外に人的関係、資本的関係、取引関係はないと記載されています。社外役員の独立性に関する独自の基準は定めておらず、東京証券取引所の独立役員の基準を勘案して選任しているとされています。

常勤監査等委員の三宅氏は公認会計士で、2022年7月に当社の経理本部専任部長に就任し、翌月に監査役となっています。監査等委員会の委員長も務めています。監査等委員には会計の専門知識が必須とまではされていませんが、常勤者に会計の専門家がいることは、会計監査人との連携や財務報告に係る内部統制の監視を進めやすくする要素です。なお、2025年3月の株式移動では、社外取締役・監査役(当時)を含む役職員が代表者から株式を譲り受けています。社外役員が株式を保有する場合は、保有の経緯と独立性への影響を説明できるようにしておくことが大切です。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで解説しています。

役員報酬の決め方

役員報酬は「役員報酬規程」に基づいて決定されます。監査等委員でない取締役の報酬は株主総会で決議された総額の範囲内で取締役会が決定し、監査等委員である取締役の報酬は監査等委員の協議により決定します。2025年8月28日の株主総会で、監査等委員でない取締役の報酬額を年額300百万円以内、監査等委員である取締役の報酬額を年額30百万円以内とする決議が行われています。業績連動報酬は導入されていません。

任意の指名委員会・報酬委員会の設置についての記載はありません。上場準備会社では、報酬の決定方針を取締役会で決議し、その内容を開示することが求められます(会社法361条7項は、監査等委員会設置会社などに報酬の決定方針の決定を義務付けています)。方針、決定のプロセス、決定機関を規程に落とし込み、議事録で確認できるようにしておきましょう。

関連当事者取引:代表者による債務保証

関連当事者との取引として、代表取締役社長が当社及び子会社の借入金に対して債務保証を行っており、被保証債務の残高は2025年5月期末で1,461百万円です。また、代表取締役社長の父親も子会社の借入金に対して債務保証を行っており、2025年5月期末の残高は12百万円です。いずれも保証料の支払はないと記載されています。

経営者による金融機関借入への個人保証は、中小企業では一般的にみられる取引ですが、上場審査では関連当事者取引として、取引の必要性と条件の妥当性、今後の方針が確認されます。M&Aで買収した会社にもともと付いていた保証や、買収資金の借入に付けた保証が残っている場合は、金融機関と協議して解除の時期と方法を整理しておく必要があります。詳しくはIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)と社長個人と会社の取引はどう解消するかをご覧ください。

代表者等による債務保証代表取締役社長代表取締役社長の父親当社及び子会社の借入金残高1,461百万円(2025年5月期末)子会社の借入金残高12百万円(2025年5月期末)いずれも保証料の支払はなし債務保証債務保証

図14 関連当事者との取引として開示された債務保証(Ⅰの部「関連当事者情報」をもとに筆者作成)

内部監査・内部統制:専任2名で15社のグループをどう監査するか

ロールアップ型の会社では、子会社の数が増えるほど、内部監査と内部統制の負荷が大きくなります。同社の体制を見ていきましょう。

内部監査室は社長直轄の専任2名

同社では、代表取締役社長が直轄する内部監査室を設置しており、各部門から独立した組織と位置付けられています。内部監査の担当者は2名(責任者1名、担当者1名)で、専任者であると記載されています。年間の監査計画に基づき、全部門・全グループ会社を対象に内部監査を実施し、結果を代表取締役社長、取締役会、監査等委員会に報告しています。被監査部門からは改善状況の報告を受ける仕組みです。

内部監査の担当者が他の業務と兼務する場合、自らが担当する業務を自分で監査する「自己監査」を避ける工夫が必要になりますが、同社の内部監査室は専任者で構成されているため、この点は体制上整理しやすい形になっています。また、報告先が社長だけでなく、取締役会と監査等委員会にも及んでいる点は、いわゆるデュアルレポーティングの考え方に沿ったもので、内部監査の独立性を補強する仕組みといえます。

一方で、2名で持株会社と15社の子会社を監査するには、リスクに応じて監査の重点を決め、子会社ごとの監査の頻度や範囲にメリハリをつける必要があります。上場準備会社が内部監査の体制を作る際には、内部監査の人数と体制や内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)も参考にしてください。

三様監査は四半期に1回の定期会合

監査等委員会、会計監査人、内部監査担当者の3者は、四半期に1回の定期会合を開いて連携していると記載されています。監査等委員会は常勤1名と非常勤2名(いずれも社外)で構成され、原則として月1回開催されます。監査役協議会の時代の検討内容としては、監査計画・方針、監査結果、内部統制システムの評価、監査報告書、会計監査人の相当性の評価などが挙げられています。

三様監査の連携監査等委員会常勤は公認会計士内部監査室専任2名・社長直轄会計監査人仰星監査法人四半期に1回の定期会合内部監査年間計画に基づき全部門・全グループ会社監査等委員会監査取締役の職務執行内部統制システムの評価会計監査連結(IFRS)・単体の財務諸表の監査連携連携情報共有

図15 監査等委員会・内部監査室・会計監査人の連携(Ⅰの部「監査の状況」をもとに筆者作成)

三様監査の連携は、会合を開くことそのものよりも、それぞれの監査結果をどう共有し、指摘事項のフォローアップにどう活かしているかが重要です。例えば、会計監査人が子会社の決算で検出した論点を内部監査の重点項目に反映させる、内部監査の指摘を監査等委員会が取締役会でフォローする、といった流れを議事録で確認できるようにしておくと、審査でも説明しやすくなります。詳しくは監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。

リスク管理・コンプライアンス体制

リスク管理とコンプライアンスについては、代表取締役社長を委員長とする「リスク・コンプライアンス委員会」が設置されています。委員は、業務執行取締役、常勤監査等委員、経理本部長、人事総務本部長、内部監査室長で構成され、定期的に開催されています。「リスク・コンプライアンス規程」に基づき、内部通報制度の運用や、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士といった外部の専門家の活用も記載されています。

内部統制システムの基本方針としては、公益通報に関する規程、文書管理、リスク管理規程、月1回の定時取締役会、職務権限・業務分掌規程、月次の予算管理、関係会社管理規程による子会社からの報告、監査等委員会の職務を補助する使用人の独立性、報告者の不利益取扱いの禁止、監査費用の処理、財務報告の適正性の確保、反社会的勢力の排除など、12項目が定められています。

子会社管理:関係会社管理規程とセイワプラットフォーム

子会社の管理は「関係会社管理規程」に基づいて行われ、子会社は重要な事項について関係書類を当社の担当部門に提出することとされています。また、監査等委員と内部監査室が子会社の業務監査を行っています。代表取締役社長や取締役がグループ各社の代表取締役・取締役を兼任していることも、子会社管理の一つの手段といえます。

事業等のリスクでは、M&Aに関するリスクとして、連結子会社の増加に伴い連結決算体制の整備が追いつかない場合に決算が遅延する可能性や、買収先での不適切な取引・法令違反・不祥事によって評判が損なわれる可能性に言及しています。また、対処すべき課題として、グループ管理体制の確立(方針説明会、中期経営計画に基づく予算管理)と内部管理体制の強化が挙げられています。

M&Aで子会社が増える会社では、買収後の統合(PMI)の段階で、会計方針の統一、月次決算の締め日と報告様式の統一、職務権限規程の適用、内部監査の対象への組み込みを、あらかじめ決めた手順で行うことが重要です。買収のたびに管理の仕組みをゼロから作るのではなく、「グループに加わったら何をいつまでに整えるか」を標準化しておくと、上場後の内部統制報告制度(J-SOX)の評価範囲の検討も進めやすくなります。J-SOXの進め方もあわせてご覧ください。

許認可の管理

事業等のリスクには、重要な許認可として、セイワ工業・光誠産業・JOB・日本興業の建設業許可、JOBの宅地建物取引業免許、JOB・日本興業の産業廃棄物収集運搬業の許可、開伸の医薬品・医薬部外品・化粧品製造業の許可が、有効期限とともに記載されています。子会社が多い会社では、各社の許認可の有効期限や更新手続を一覧で管理し、更新漏れが起きない仕組みを作っておくことが大切です。IPOで許認可はどこまで見られるかでも解説しています。

会計・開示の論点:IFRSでの上場とM&Aの会計

同社の会計・開示面での最大の特徴は、連結財務諸表にIFRSを任意適用していることです。ここでは、IFRSの初度適用、企業結合とのれん、収益認識、重要な会計上の見積り、監査法人と監査報酬の順に見ていきます。

IFRSの任意適用と初度適用

同社は、連結財務諸表規則312条の規定によりIFRSで連結財務諸表を作成しています。IFRSへの移行日は2023年6月1日で、2025年5月期から初めてIFRSを適用しています。直近の日本基準による連結財務諸表は2024年5月期のものです。IFRSに基づく連結財務諸表を適正に作成するための体制として、監査法人が主催するセミナーへの参加、IASBの公表物の入手、IFRSに準拠したグループ会計方針・会計指針の作成が挙げられています。

初度適用にあたっては、IFRS第1号の免除規定のうち、企業結合(移行日前の企業結合にIFRS第3号を遡及適用しない)、株式報酬(移行日前に権利が確定したものにIFRS第2号を適用しない)、リース、廃棄負債、資本性金融資産のFVOCI指定などを適用しています。

日本基準からIFRSへの主な調整項目としては、次のようなものが記載されています。

・のれんの非償却(日本基準ののれん333百万円がIFRSでは396百万円に)
・すべてのリースのオンバランス(移行日に使用権資産が726百万円増加)
・未消化の有給休暇の負債計上
・金融負債の発行コストを当初測定額から控除(償却原価法)
・未公開時に発行したストック・オプションを、日本基準の本源的価値ではなく公正価値で測定
・政府補助金を受入時の一括収益ではなく繰延収益として処理
・一部の子会社の企業結合で、みなし取得日を実際の支配獲得日に調整

その結果、2024年5月期の連結損益は、日本基準の売上高6,918百万円がIFRSの売上収益7,276百万円に、当期純利益191百万円が281百万円になっています。IFRSを任意適用して上場を目指す場合、移行日の開始財政状態計算書の作成、日本基準との差異調整、注記の作成に相当の工数がかかります。会計方針の選択や免除規定の適用は監査法人と早めに協議し、グループ会社の会計処理をIFRSの方針に合わせる仕組みも整えておく必要があります。

2024年5月期の日本基準とIFRSの比較日本基準IFRS02,0004,0006,0008,000売上高/売上収益6,9187,276075150225300当期純利益191281

図16 2024年5月期の連結損益の日本基準とIFRSの比較(百万円)。Ⅰの部の「日本基準からIFRSへの調整」をもとに筆者作成

のれん・負ののれん・顧客関連資産:企業結合の会計

M&Aを繰り返す同社では、企業結合の会計処理が財務諸表の重要な論点です。2025年5月期末ののれんは1,464百万円で、総資産の13.0%を占めています。IFRSではのれんは償却されず、毎期および減損の兆候があるときに減損テストを行います。

企業結合 取得日 取得の対価 会計処理の結果
金谷塗装工業所(株式取得) 2023年7月 現金200百万円 識別可能純資産231百万円、負ののれん発生益31百万円
冨士鍍金工業所(株式取得) 2024年11月 現金1,900百万円 識別可能純資産831百万円(うち顧客関連資産378百万円)、のれん1,068百万円
勝山塗装工業所の工業塗装事業(事業譲受) 2025年6月 現金263百万円 純資産432百万円、負ののれん発生益168百万円

冨士鍍金工業所の買収では、識別可能な無形資産として顧客関連資産378百万円が計上されています。2025年5月期末の顧客関連資産の帳簿価額は1,178百万円で、開伸574百万円(残存償却期間7.3年)、冨士鍍金工業所368百万円(同18.5年)と記載されています。M&Aの取得原価を識別可能な資産・負債に配分する手続(PPA)では、顧客関連資産や技術などの無形資産をどう識別し、耐用年数を何年とするかが重要な判断になります。

一方、取得の対価が識別可能純資産を下回る場合は、負ののれん発生益として純損益に計上されます。IFRS第3号では、負ののれんを認識する前に、識別した資産・負債と取得の対価の測定が適切かどうかを見直すことが求められています。

開伸ののれんの減損と、減損テストの開示

2024年5月期には減損損失359百万円(機械8百万円、のれん328百万円、顧客関連資産22百万円)を計上しています。主な内容は開伸ののれんで、買収時の計画の進捗を勘案して事業計画を見直した結果、回収可能価額(使用価値、税引前割引率10.1%)が帳簿価額を下回ったと記載されています。

のれんの資金生成単位ごとの帳簿価額は、2025年5月期末で、JOB179百万円、日本興業153百万円、冨士鍍金工業所1,068百万円、その他63百万円です。注記では、回収可能価額が帳簿価額と等しくなる将来キャッシュ・フローの減少率(JOB64.8%、日本興業56.9%、冨士鍍金工業所34.8%)や、税引前割引率、成長率も開示されています。

のれんの資金生成単位別の帳簿価額03006009001,200JOB日本興業冨士鍍金工業所その他1791531,06863回収可能価額と帳簿価額が等しくなる将来CFの減少率資金生成単位減少率JOB64.8%日本興業56.9%冨士鍍金工業所34.8%

図17 のれんの資金生成単位ごとの帳簿価額(2025年5月期末、百万円)と、回収可能価額が帳簿価額と等しくなる将来キャッシュ・フローの減少率(Ⅰの部の注記をもとに筆者作成)

M&Aを成長戦略とする会社にとって、買収後の業績が計画どおりに進まない場合の減損は避けて通れない論点です。上場審査でも、のれんの金額が大きい会社では、買収時の事業計画と実績の比較、減損テストの前提の合理性が確認されます。IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかもあわせてご覧ください。

収益認識:一時点と一定期間の両方がある

同社の主な収益は、溶接・製缶加工、めっき加工、鋼構造物その他各種機械の製造販売と工事請負です。製品の販売は、主に引渡しまたは検収の時点で収益を認識しています。一方、工事請負契約など一定の期間にわたり支配が移転する取引は、見積総原価に対する発生原価の割合(インプット法)で進捗度を測定し、進捗度を合理的に測定できない場合は原価回収基準で収益を認識しています。代理人として行う取引は純額で表示しています。

収益の分解(百万円) 2024年5月期 2025年5月期
一時点で移転される財 6,057 6,358
一定の期間にわたり移転される財 1,219 1,411
合計 7,276 7,769

一定期間にわたり認識する収益では、見積総原価の精度が売上と利益を左右します。工事損失引当金も、見積総費用が請負受注金額を超える可能性が高い工事について計上されています。上場準備会社では、工事ごとの原価の集計、見積総原価の見直しの頻度と承認の手続、検収書の入手と保管など、収益認識を支える内部統制を整えておくことが欠かせません。持株会社単体では、経営指導料を一定期間にわたり、受取配当金を効力発生時点で認識しています。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で解説しています。

重要な会計上の見積りと特徴的な注記

連結財務諸表の重要な会計上の見積り及び判断としては、非金融資産の減損(耐用年数、将来キャッシュ・フロー、割引率、長期成長率)、引当金(資産除去債務、工事損失引当金等)、法人所得税(繰延税金資産の回収可能性)、金融商品の公正価値が挙げられています。単体では、関係会社株式の評価(4,521百万円)が重要な会計上の見積りとされています。純粋持株会社では、子会社株式が総資産の大部分を占めることが多く、子会社の業績が悪化した場合の評価の考え方を整理しておく必要があります。

特徴的な注記としては、財務制限条項付きの借入金があります。買収目的会社である冨士商事が2024年11月に締結したシンジケートローン(期末残高1,800百万円)には、2期連続で経常損失とならないこと、純資産を一定水準に維持することなどの財務上の特約が付されていましたが、2025年8月29日に全額を繰上弁済し、特約は解消したと記載されています。2025年5月期末時点では、ほかにも財務制限条項が付された借入金が2,375百万円あり、抵触はないとされています。また、事業譲受や子会社株式の売却、株式分割など、決算日後の重要な事象も後発事象として開示されています。

監査法人と監査報酬

会計監査人は仰星監査法人で、継続監査期間は2024年5月期以降です。業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士13名とその他6名と記載されています。監査法人の選定理由としては、品質管理体制、独立性、専門性、不正リスクへの対応、職務の遂行状況、監査報酬などを総合的に勘案したとされています。

提出会社の監査報酬は、前事業年度が監査証明業務に基づく報酬15百万円、最近事業年度が20百万円で、非監査業務に基づく報酬はありません。上場申請には直前2期の監査が必要ですので、監査法人との契約は余裕をもって進めることが大切です。IFRSを任意適用する場合は、IFRSの監査経験がある監査法人を選ぶことも検討事項になります。監査法人はいつまでに決めるかもご覧ください。

事業等のリスクと、審査で問われやすい点

Ⅰの部の「事業等のリスク」では、各リスクについて発生可能性、発生時期、影響度を示したうえで、対応策を記載しています。グループ全体に関するリスクとして23項目、モノづくり事業に関するリスクとして7項目が挙げられています。

主なリスク 発生可能性/影響度 Ⅰの部の記載の要点
M&A等に関するリスク 低/大 事業計画の未達によるのれんの減損、偶発債務、統合に伴う資産整理、調達資金による希薄化・金利負担、連結決算体制
M&A市場環境・レピュテーション 低/大 ロールアップ企業における買収先の不適切取引・不祥事による評判の毀損
減損 低/中 のれん1,464百万円(総資産の13.0%)、IFRSのため償却なし
有利子負債への依存 中/小 有利子負債7,884百万円、有利子負債依存度69.9%
特定人物への依存 低/中 代表取締役社長への依存。組織的なM&A体制と合議制で低減
新株予約権による希薄化 高/小 潜在株式1,292,000株(発行済株式の8.56%)
株式の流動性 中/中 上場時の流通株式比率は39.16%の見込み
株式発行及び資本金・資本準備金の減少 低/大 否定的な報道によるレピュテーション、債権者の異議による効力の遅延

このケースから、ロールアップ型の会社の上場審査で問われやすい点として、次の3つを挙げることができます。

1つ目は、M&Aの意思決定と買収後の管理の仕組みです。買収基準、DDの手順、投資委員会・取締役会での審議、買収後の統合の手順が、特定の人物の判断に依存せずに運用されているかが確認されます。同社が、M&Aは経営企画本部を中心とする組織的な体制で行い、投資委員会・取締役会の合議制で判断すると記載しているのは、この点への説明です。

2つ目は、のれんと借入金の水準です。買収を借入金で行うと、のれんと有利子負債が同時に大きくなります。業績が計画を下回った場合の減損や、財務制限条項への抵触の可能性について、事業計画との整合性を説明できる必要があります。IPO審査の「企業の継続性及び収益性」もあわせてご確認ください。

3つ目は、グループ全体の内部管理体制です。子会社が増えるたびに、会計処理、月次決算、規程、内部監査の対象を広げていく必要があります。審査では、直近で買収した子会社がどこまで当社の管理体制に組み込まれているかが確認されやすいため、統合の進捗を一覧で示せるようにしておくとよいでしょう。IPO審査の「経営管理組織」とはも参考になります。

上場準備会社がセイワホールディングスのケースから学べること

ここまでの内容を踏まえ、上場準備会社にとっての実務上の示唆を7つに整理します。

  1. M&Aの基準とプロセスを文書化し、合議で判断する。買収基準(マルチプルの上限など)、DDのチェックリスト、投資委員会・取締役会の審議を整えることで、代表者への依存を説明しやすくなります。
  2. 買収後の統合手順を標準化する。会計方針、月次決算、規程、内部監査の対象への組み込みを「グループに加わったら何をいつまでに」の形で決めておくと、子会社が増えても管理体制が崩れにくくなります。
  3. 資本が薄い場合は、増資・利益・減損の見通しを一体で管理する。連結ベースで資本がマイナスの時期がある会社は、上場前の増資の時期と金額、のれんの減損リスク、財務制限条項への影響をあわせて検討します。
  4. IFRSを選ぶなら、移行日と体制を早めに決める。移行日の開始財政状態計算書、日本基準との差異調整、グループ会計方針の整備には時間がかかります。監査法人と早い段階で方針を固めましょう。
  5. 株式の価格は、取引ごとに算定方法と根拠を残す。第三者割当、株式移動、ストックオプションの行使価額は、それぞれⅠの部に開示されます。どの方法で、どの時点の情報に基づき算定したのかを記録しておきます。
  6. 機関設計の移行は、監査の担い手の継続性とセットで考える。監査役から監査等委員へ同じ人材が移ることで、監査の知見を引き継げます。移行の時期は申請スケジュールから逆算します。
  7. 減資などの資本の手続は、目的と外部からの見え方を説明できるようにする。税制や補助金上のメリットだけでなく、手続の期間やレピュテーションへの影響も含めて、事前に関係者と整理しておきます。

チェックリスト:自社に当てはめて確認したい6項目

  • M&Aの買収基準、DDの手順、投資判断の決裁プロセスを文書化し、取締役会の議事録で確認できるか
  • 買収した子会社を管理体制に組み込む手順(会計方針・月次決算・規程・内部監査)を標準化しているか
  • のれんの資金生成単位ごとに、買収時の事業計画と実績を比較し、減損テストの前提を説明できるか
  • 第三者割当・株式移動・ストックオプションについて、価格の算定方法と目的を説明できる資料があるか
  • 代表者による債務保証などの関連当事者取引を一覧にし、解消の方針と時期を整理しているか
  • 内部監査の計画が、子会社の数とリスクに応じた範囲と頻度になっており、結果を取締役会・監査等委員会に報告しているか

よくある質問

Q1. 連結ベースで債務超過の時期があっても上場できますか。

セイワホールディングスでは、IFRSの連結資本が移行日と2024年5月期末にマイナスでしたが、2025年5月期の第三者割当増資と利益の計上により842百万円に回復し、上場に至っています。グロース市場の形式基準には純資産の額の要件はありませんが、審査では継続性や財務の安定性が確認されますので、資本回復の道筋と借入金の返済計画を事業計画で説明できるようにしておくことが重要です。

Q2. M&Aを続けながら上場準備を進めることはできますか。

可能です。同社も申請期の前後に企業の取得、事業の譲受、子会社の売却を行っています。ただし、買収のたびに連結範囲、企業結合の会計処理、内部統制の対象が変わり、Ⅰの部の記載も更新が必要になります。案件の実行時期を上場スケジュールと突き合わせ、主幹事証券・監査法人と事前に協議しておくことをおすすめします。

Q3. 子会社の役職員にもストックオプションを付与できますか。

付与できます。同社でも、子会社の取締役・従業員に新株予約権を付与しています。税制適格ストックオプションの付与対象には、発行会社の取締役・従業員だけでなく、一定の子会社の取締役・従業員も含まれます。付与の範囲と数量は、潜在株式比率や上場後の希薄化への影響を確認したうえで決めましょう。

Q4. 上場時に減資を行う会社はなぜあるのですか。

同社のⅠの部では、中小法人向けの税制の安定的な適用、「みなし大法人」の回避による補助金・税制の活用可能性の確保、資本政策の柔軟性の確保が目的として挙げられています。減資には株主総会の特別決議と債権者保護手続が必要で、外部からの見え方も含めて説明が求められますので、上場の手続と並行して計画的に進める必要があります。

最初の一歩は、M&Aと子会社管理の仕組みを棚卸しすることから

セイワホールディングスのようにM&Aで成長する会社や、複数の子会社を持つ会社では、まず、これまでの買収案件の意思決定の記録、のれんと借入金の状況、子会社ごとの管理体制の整備状況を一覧にして棚卸しすることから始めるのがおすすめです。どこに説明の弱い部分があるかを早めに把握できれば、資本政策、機関設計、内部監査の計画を無理のないスケジュールで整えられます。現状の課題を洗い出す方法としては、ショートレビューの活用も有効です。

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セイワホールディングスの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

株式会社セイワホールディングスは、後継者不在の中小製造業をM&Aでグループに迎え入れ、セイワプラットフォームでバリューアップを行う事業承継プラットフォーマーとして、2026年3月に東証グロース市場に上場しました。Ⅰの部からは、連結ベースの債務超過から第三者割当増資と利益の積み上げで資本を回復させた資本政策、IFRSの任意適用と企業結合の会計、上場直前期の監査等委員会設置会社への移行、専任2名の内部監査室によるグループ監査、上場時の減資スキームなど、上場準備の実務に直結する具体例を読み取ることができます。

特に、M&Aを成長の柱とする会社にとっては、買収基準と意思決定のプロセス、買収後の統合の手順、のれんと借入金の管理を、上場審査で説明できる形に整えておくことの重要性がよくわかるケースです。自社の状況に置き換えて、早い段階から論点を整理しておきましょう。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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