アイグローブのTOKYO PRO Market上場|公募なしの上場設計と1期監査【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月16日時点の公表資料に基づきます。

株式会社アイグローブ(証券コード663A)は、2026年10月16日に東京証券取引所へ上場を申請し(申請受付)、2026年11月11日に TOKYO PRO Market(TPM)への上場を予定しています。担当J-Adviserは Jトラストグローバル証券株式会社です。銀行・証券・保険といった金融業界を中心に、システムインテグレーター(SIer)経由とエンドユーザーからの直接受託の両方で企業向け社内システムを構築している会社で、2025年9月期(第20期)の売上高は5,077百万円、従業員は120名(2026年9月30日現在)です。なお、2026年10月16日時点で上場承認はまだ出ておらず、本記事は上場前の公表資料をもとにしています。

結論からいえば、アイグローブの発行者情報は「公募・売出しを行わず、代表者の資産管理会社が100%を保有したまま、直前1期の監査とJ-Adviserの調査で上場する」というTPMならではの上場設計を、具体的な数字と体制で示している資料です。一般市場(グロース・スタンダード)を目指す会社にとっても、機関設計、内部監査の相互牽制、外注中心の原価構造、J-Adviser契約の解除条項など、上場準備で確認しておくべき論点が詰まっています。

アイグローブとTOKYO PRO Market上場の概要

まず、上場の基本情報を整理します。原文は東証のTPM新規上場会社情報に掲載された書類で、表紙の公表書類名は「発行者情報」、公表日は2026年10月16日です。あわせて東証の「会社概要」、コーポレート・ガバナンス報告書(2026年10月16日)、定款が公表されています。

アイグローブの上場は、株式を新たに発行して投資家から資金を集める上場ではありません。東証の会社概要の「特定投資家向け取得勧誘及び特定投資家向け売付け勧誘の予定」は「なし」で、上場時の発行済株式総数は申請時と同じ520,000株です。資金調達ではなく、既存の株式をそのまま上場させる形をとっています。

項目 内容
会社名 株式会社アイグローブ(iglobe inc.)
証券コード・銘柄略称 663A・P-アイグローブ
市場 TOKYO PRO Market
上場予定日 2026年11月11日
上場申請日(申請受付・公表) 2026年10月16日
上場承認日 未定(申請受付は2026年10月16日。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認)
担当J-Adviser Jトラストグローバル証券株式会社(流動性プロバイダーも同社)
監査人 監査法人アヴァンティア
本店所在地 東京都品川区東五反田二丁目8番8号
設立 2005年10月3日
事業の内容 システム開発事業(単一セグメント)
決算期 9月30日(事業年度は10月1日から9月30日)
従業員数 120名(2026年9月30日現在、平均年齢31.9歳、平均勤続年数5.0年)
発行済株式総数 520,000株(上場時発行済株式総数も520,000株)
資本金 13,000千円
特定投資家向け勧誘の予定 なし(公募・売出しなし)

上場までの手続きを、アイグローブの日付で並べると次のようになります。J-Adviser契約の締結(2023年8月1日)から上場申請(2026年10月16日)まで約3年2か月が経過しています。TPMでは、上場申請の前に担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認し、申請会社は上場申請日の30営業日程度前までに東証へ意向を表明して、担当J-QS(J-Adviser資格者)を交えた東証との面談を経ます。そのうえで上場申請を行い、東証は原則として申請から10営業日後に上場を承認します。

アイグローブの上場までの手続き(発行者情報・会社概要の日付)J-Adviser契約締結2023年8月1日J-Adviserの調査・意向表明東証の面談上場申請・公表2026年10月16日上場承認原則、申請から10営業日後上場予定日2026年11月11日※上場承認は東証の原則的な取扱い(申請から10営業日後)。承認日は東証の公表で確認する

図1 J-Adviser契約の締結日は発行者情報「事業等のリスク」、申請(公表)日と上場予定日は東証の会社概要による。上場承認日は2026年10月16日時点で未定。

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

アイグローブの発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的を説明した独立の記載は見当たりません。「事業等のリスク」でTPMに上場予定であることとJ-Adviser契約の内容が説明され、「対処すべき課題」で事業領域の拡大、優秀な人材の確保・育成、内部管理体制の強化が挙げられていますが、これらを上場の目的として結びつけた記述はありません。したがって本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測せず、TPMという市場の一般的な特徴を整理するにとどめます。

東証は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。2026年6月15時点の集計では、上場目的を開示した会社は107社(約59%)で、目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化でした。「増資」を目的に挙げた会社は11社(10%)にとどまり、TPM上場が必ずしも資金調達を目的としていないことがわかります。

TOKYO PRO Marketの主な特徴形式基準(数値基準)がない株主数・利益額等の基準なしJ-Adviserが調査・確認上場適格性要件(5項目)特定投資家等向けの市場一般投資家は買付け不可開示は特定証券情報・発行者情報(年次・中間)上場前の監査期間は最近1年間四半期開示・内部統制報告書は任意

図2 東証のTPM概要ページ・上場ガイドブック(TPM編)の記載を整理。アイグローブ固有の記載ではない。

TPMの特徴は、上の図のように整理できます。株主数や利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、上場審査の中心を担うのは東証から資格認証を受けた担当J-Adviserです。投資家は特定投資家等に限られ、一般投資家は取引所で株式を買い付けることができません(保有株式の売却は可能です)。開示書類は有価証券届出書・有価証券報告書ではなく、特定証券情報と発行者情報です。上場前の監査期間は「最近1年間」で、四半期開示や内部統制報告書は任意とされています。

TOKYO PRO Marketの上場の仕組みをアイグローブの記載で確かめる

ここからは、TPMの上場の仕組みを、アイグローブの発行者情報の記載に当てはめて確認します。制度の説明は、東証のTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載の範囲にとどめます。

J-Adviserの調査と上場適格性要件

TPMには形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。上場適格性要件は、①企業としての相応性・市場評価を損なわないこと、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していること、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目です。

アイグローブの発行者情報とCG報告書には、それぞれの要件に対応する記載があります。たとえば①について、ガイドブックは上場予定日から12か月間の運転資金の確保を例に挙げていますが、同社は「上場予定日(2026年11月11日)から12ヶ月間の運転資本は、自己資金で十分である」と記載しています。第20期末の貸借対照表に借入金はなく、借入金等明細表も「該当事項はありません」です。

上場適格性要件とアイグローブの記載の対応上場適格性要件(ガイドブック)アイグローブの記載(発行者情報・CG報告書)①企業としての相応性(運転資金の確保など)上場予定日から12か月間の運転資本は自己資金で十分と記載(借入金なし)②事業の公正・忠実な遂行(関連当事者取引の牽制等)第19期に支配株主の資産管理会社への貸付金を回収、第20期は取引なし③ガバナンス・内部管理体制(規模・成熟度に応じて)監査役会設置会社、社外取締役2名・社外監査役3名、内部監査人2名④企業内容等の開示体制(内部者取引防止を含む)情報取扱責任者は業務ユニット長、報告から開示までのフローを整備⑤反社会的勢力との関係を有しないこと 等反社会的勢力等排除規程、新規取引前と既存取引先の原則年1回のチェック

図3 左は東証の上場ガイドブック(TPM編)の上場適格性要件の要旨。右は発行者情報・CG報告書の記載で、要件の充足を判断したものではない。

右側の記載は、あくまで会社が開示している体制や事実です。それぞれの要件を満たしているかどうかは担当J-Adviserが調査・確認する事項であり、外部の読者が判定するものではありません。ただ、上場準備会社にとっては、5つの要件のそれぞれに「自社はどの資料のどの記載で説明するのか」を対応させておくことが、J-Adviserの調査に備える実務的な方法になります。

表紙が「特定証券情報」ではなく「発行者情報」である理由

TPMの上場時の書類は、一般に「特定証券情報」と呼ばれます。特定投資家向け取得勧誘(いわゆるプロ私募)や特定投資家向け売付け勧誘等(いわゆる特定投資家私売出し)を行う発行者は、勧誘時までに特定証券情報を提供又は公表しなければなりません(金融商品取引法27条の31)。

これに対してアイグローブは、上場に際してこれらの勧誘を実施しないため、「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表すると表紙に記載しています。表紙の書類名が「発行者情報」になっているのはこのためです。内容は、企業情報(経営指標、沿革、事業、リスク、ガバナンス、経理)と株式公開情報で構成され、一般市場の新規上場時の「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に近い項目が並んでいます。

表紙が「発行者情報」になる理由上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行うか特定証券情報を公表(表紙は「特定証券情報」)発行者情報に相当する情報を公表(特例110条3項、表紙は「発行者情報」)アイグローブ:勧誘なし公募・売出しを行わない上場行う行わない

図4 発行者情報の表紙【取引所金融商品市場等に関する事項】と東証の会社概要(特定投資家向け勧誘の予定:なし)による。

上場後は、TPMの上場会社として、事業年度と中間会計期間の末日から3か月以内に発行者情報を作成・公表します(年2回)。書類名は上場後も「発行者情報」であり、有価証券報告書・半期報告書とは呼びません。表紙の注意事項には、発行者情報に重要な虚偽等があった場合に、公表時の役員が金融商品取引法27条の34で準用する22条に基づき損害賠償責任を負う旨が記載されています。開示書類の簡素さとは別に、記載内容に対する役員の責任は明確に定められています。

監査期間は「最近1年間」:第20期のみ監査、中間は期中レビュー

TPMで上場前に求められる監査期間は「最近1年間」です。アイグローブは、第20期(2024年10月1日から2025年9月30日)の財務諸表について監査法人アヴァンティアの監査を受け、無限定適正意見が表明されています。一方、第18期と第19期の財務諸表は監査を受けていないと「主要な経営指標等の推移」の注記に明記され、監査報告書の「その他の事項」にも、2024年9月30日に終了した前事業年度の財務諸表は監査されていない旨が記載されています。

第21期の中間会計期間(2025年10月1日から2026年3月31日)の中間財務諸表は、監査ではなく期中レビューの対象です。期中レビュー報告書では、中間財務諸表が適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなかった、という結論(無限定の結論)が表明されています。期中レビューは質問と分析的手続を中心とした、年度監査に比べて限定された手続です。中間の数値を読むときは、「監査済み」ではなく「期中レビュー済み」の数値であることを区別しておく必要があります。

財務諸表の監査・期中レビューの対象期間第18期2023年9月期監査を受けていない第19期2024年9月期監査を受けていない第20期2025年9月期監査(適正意見)第21期中間2025/10〜2026/3期中レビュー監査法人アヴァンティアが第20期を監査(無限定適正意見)、第21期中間は期中レビュー(無限定の結論)TPMで求められる上場前の監査期間は「最近1年間」(一般市場の新規上場は直前2期)

図5 発行者情報「主要な経営指標等の推移」の注記、監査報告書・期中レビュー報告書(いずれも2026年10月14日付)による。

一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるのに対し、TPMは1期で上場申請ができます。ただし、監査自体が不要になるわけではありません。財務書類には監査法人による無限定適正意見、中間財務諸表には有用な情報を表示している旨の意見若しくは無限定の結論又はこれらに準ずる意見・結論が付された監査報告書等が必要です。また、監査法人との契約時期が遅れれば、その1期の監査も受けられません。監査法人の選定時期については、監査法人はいつまでに決めるかもあわせてご覧ください。

特定投資家向けの市場であること

TPMの上場株式は特定上場有価証券であり、取引所で買い付けられるのは特定投資家等に限られます。特定投資家には適格機関投資家や一定の法人のほか、要件を満たして移行した個人も含まれ、非居住者も買付けが可能です。一般投資家は買付けができませんが、保有している株式を売却することはできます。

アイグローブの発行者情報の冒頭にも「TOKYO PRO Marketは、特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は、高い投資リスクを含んでいる場合があります」という注意事項が置かれています。また東証の会社概要には、初値決定日までの売買で成行の売呼値・買呼値を禁止する旨の注記があります。株式の流通がどの程度生じるかは、上場時点の株主構成によって大きく変わります。この点は後の「資本政策と株主構成」で確認します。

投資家の区分 TPMでの買付け TPMでの売却
特定投資家(適格機関投資家、一定の法人、要件を満たして移行した個人など) 可能 可能
非居住者 可能 可能
一般投資家 不可 保有株式の売却は可能

一般市場(グロース・スタンダード)との違い

TPMは、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の、金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」です。グロース市場の一種でも新興市場の一区分でもありません。上場準備の負担を比較するときは、次の違いを押さえておくと整理しやすくなります。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード等)
投資家 特定投資家等。一般投資家は買付け不可(売却は可能) 制限なし
形式基準(数値基準) なし 株主数・流通株式等の基準あり
上場審査の担い手 担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認(東証も面談) 東証の上場審査(公募・売出しを伴う場合は主幹事証券の引受審査も)
申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認 東証の審査期間を要する
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時の開示書類 特定証券情報(勧誘しない場合は発行者情報に相当する情報) 有価証券届出書・新規上場申請のための有価証券報告書
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期開示 任意 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意 金融商品取引法の内部統制報告制度の対象
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 J-Adviser制度はない

この比較から、アイグローブのように「公募・売出しをしない」「監査は1期」という組み立てが、TPMでは制度上可能であることがわかります。一方で、適時開示義務は一般市場と同様にあり、TDnetで決算情報や決定事実・発生事実を開示します。担当J-Adviserの異動も適時開示事項です。

なお、コーポレートガバナンス・コードについて、JPXはプライム市場・スタンダード市場(全原則)、グロース市場(基本原則)への適用を示しており、TPMへの適用は本記事では断定しません。グロース市場の実質審査基準(「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」など)もTPMの上場適格性要件とは別のものです。一般市場の審査基準についてはIPOの実質審査基準とはで解説しています。

事業内容と収益モデル:金融系の受託開発と外注の活用

アイグローブは「システム開発事業」の単一セグメントです。顧客であるSIerを経由して受託した企業向け社内システムの構築と、エンドユーザーから直接受託したシステムの構築の両方を行っています。システム設計・開発から導入後の運用管理・メンテナンスまで、上流工程から下流工程まで一貫した開発体制をとっていると記載されています。

強みとして挙げられているのは、銀行・証券・保険の金融業界を中心とした導入実績と、与信業務にみられるような数理統計分析を用いたデータ分析やモデル構築を含むシステム開発です。サービスは①オンプレミスシステム開発、②クラウドシステム開発(AWS・Azure環境、ノンコード開発)、③システム連携サービス(株式会社Box Japan、Pendo.io Japan株式会社と提携し、クラウドサービスと自社アプリケーションをつなぐサービス)、④その他(プロダクト体験管理プラットフォーム「Pendo」の販売、自社開発のBox連携型アプリケーション「QUBOX」の提供)の4つに整理されています。

事業系統図(発行者情報の図を再構成)ビジネスパートナー(協力会社等)当社(アイグローブ)システムインテグレーター顧客役務の提供業務委託役務の提供(直接取引)役務の提供業務委託役務の提供

図6 発行者情報「事業の内容」の事業系統図をもとに作図。当社はビジネスパートナー(協力会社等)に業務を委託し、SIer経由とエンドユーザーとの直接取引の両方で役務を提供する。

事業系統図からは、当社がビジネスパートナー(協力会社等)に業務を委託し、その役務提供を受けながら、SIer経由と直接取引の両ルートで顧客に役務を提供している構造が読み取れます。収益認識の注記では、顧客との準委任契約や派遣契約に基づきサービスを提供していると記載されています。事業の一部でITエンジニアの人材派遣を行っており、労働者派遣事業の許可(許可番号 派13-313711、許可年月日2019年6月1日、有効期限2027年5月31日)を取得しています。

販売先の集中度も確認しておきます。主な相手先別の販売実績では、株式会社DTSへの販売高が第19期2,047,191千円(47.6%)、第20期2,353,831千円(46.4%)、第21期中間1,170,284千円(42.2%)です。SCSK株式会社は第19期479,798千円(11.2%)、第20期341,481千円(6.7%)と記載されています。

主な相手先別の販売実績の割合015304560第19期(2024年9月期)第20期(2025年9月期)第21期中間株式会社DTSSCSK株式会社(%)47.6%46.4%42.2%11.2%6.7%

図7 発行者情報「生産、受注及び販売の状況」による。第21期中間はDTSのみ記載(SCSKは記載なし)。第20期のDTSへの販売高は2,353,831千円。

「事業等のリスク」でも、主要顧客への依存として、2025年9月期の売上高のうちDTSに対する売上高が46.4%を占めること、その他の顧客との取引拡大により依存度の低減に努めることが記載されています。上場準備では、特定の取引先への依存度が高い場合に、その取引の継続性や取引条件の合理性をどう説明するかが論点になります。リスクとして開示するだけでなく、取引の経緯、契約形態、他の顧客との取引拡大の状況を資料で示せるようにしておくことが実務上のポイントです。

沿革と上場までの道のり

沿革によると、1999年2月に受託開発事業を目的として埼玉県朝霞市に有限会社キューブ、2001年3月にSES(システムエンジニアリングサービス)事業を目的として東京都千代田区に株式会社アクアキューブが設立され、2005年10月に両社が合併して株式会社アイグローブが設立されました。その後、プライバシーマーク(2010年11月)、ISO/IEC27001(2015年1月)、ISO/IEC9001(2016年1月)を取得し、2015年1月に品川区へ本社を移転しています。

アイグローブの沿革と上場までの主な出来事1999年2月有限会社キューブを設立(埼玉県朝霞市、受託開発)2001年3月株式会社アクアキューブを設立(東京都千代田区、SES)2005年10月両社が合併し株式会社アイグローブを設立2010年11月プライバシーマークを取得2015年1月品川区へ本社移転、ISO/IEC27001を取得2016年1月ISO/IEC9001を取得2022年9月・11月Pendo、Boxのライセンス販売とシステム開発を開始2023年6月ServiceNowのシステム開発を開始2023年8月Jトラストグローバル証券とJ-Adviser契約を締結2026年2月Box連携アプリ「QUBOX」の販売を開始2026年10月上場申請(申請受付・公表 10月16日)2026年11月TOKYO PRO Market上場予定(11月11日)

図8 発行者情報「沿革」に、J-Adviser契約(「事業等のリスク」)と上場申請・上場予定日(東証の会社概要)を加えて作成。

2022年以降はクラウドサービスとの連携に軸足を広げ、2022年9月にPendo、同年11月にBoxのライセンス販売とシステム開発、2023年6月にServiceNowのシステム開発を開始し、2026年2月には自社開発のQUBOXの販売を開始しています。「対処すべき課題」では、これらのサービスをストックビジネスと位置づけ、強化に取り組むとしています。

上場準備の観点では、2023年8月1日のJ-Adviser契約の締結以後に、監査役の報酬枠の決議(2023年12月29日)、取締役の報酬枠の決議(2024年1月31日)、社外取締役の就任(2024年1月)、株式分割と新株予約権の発行(2024年9月)、単元株制度の導入(2025年3月)、社外監査役の追加就任(2026年6月・9月)と、ガバナンスと株式の手続きが段階的に進められていることが、発行者情報の各所から読み取れます。上場準備全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)でも整理しています。

業績の推移:3期分の数値と監査済みの第20期

発行者情報の「主要な経営指標等の推移」には、第18期(2023年9月期)から第20期(2025年9月期)までの3期と、第21期中間(2026年3月期)の数値が掲載されています。連結財務諸表は作成しておらず(子会社なし)、すべて単体の数値です。

項目(千円) 第18期 2023年9月 第19期 2024年9月 第20期 2025年9月 第21期中間 2026年3月
売上高 3,958,560 4,303,071 5,077,894 2,774,522
経常利益 188,691 178,250 207,069 139,881
当期(中間)純利益 132,828 98,015 147,632 90,489
純資産額 712,412 774,288 885,520 939,609
総資産額 1,471,703 1,486,137 1,805,362 1,854,652
自己資本比率(%) 48.4 52.1 49.0 50.7
自己資本利益率(%) 20.10 12.66 16.67 9.63
営業活動によるCF - 78,141 214,514 150,135
従業員数(人) 83 99 113 109
監査・レビュー 監査を受けていない 監査を受けていない 監査(無限定適正) 期中レビュー

売上高は第18期3,958百万円、第19期4,303百万円、第20期5,077百万円と増加し、第20期は前期比18.0%増でした。経常利益は188百万円、178百万円、207百万円、当期純利益は132百万円、98百万円、147百万円です。第21期中間は売上高2,774百万円、経常利益139百万円、中間純利益90百万円で、中間財務諸表の作成初年度のため前年同期との比較は行われていません。

業績の推移(第18期〜第21期中間)01,5003,0004,5006,000第18期第19期第20期21期中間3,9584,3035,0772,774売上高(百万円)060120180240第18期第19期第20期21期中間1881782071391329814790経常利益・当期(中間)純利益(百万円)経常利益当期(中間)純利益

図9 発行者情報「主要な経営指標等の推移」の数値を百万円未満切捨てで表示。第18期・第19期は監査を受けていない。第21期中間は6か月の数値で期中レビュー済み(色を薄くした棒)。

第20期の損益計算書(監査済み)を段階別に見ると、売上総利益539,370千円から販売費及び一般管理費350,987千円を差し引いた営業利益が188,382千円、助成金収入7,099千円や保険解約返戻金7,218千円などの営業外収益18,686千円を加えた経常利益が207,069千円、法人税等合計59,437千円を差し引いた当期純利益が147,632千円です。前期比では営業利益が10.6%増、経常利益が16.2%増、当期純利益が50.6%増と記載されています。

第20期(2025年9月期)の利益の内訳(千円)売上総利益539,370販管費-350,987営業利益188,382営業外収益+18,686経常利益207,069法人税等-59,437当期純利益147,632

図10 発行者情報の損益計算書(監査済み)による。営業外収益は助成金収入・保険解約返戻金等。端数の関係で各段階の差額と表示額は一致しない場合がある。

原価構造にも特徴があります。売上原価明細書によると、第20期の売上原価4,538,523千円のうち外注費が3,980,191千円(87.7%)、労務費が558,332千円(12.3%)でした。第19期も外注費88.0%、第21期中間も87.6%と、売上原価のおよそ9割を外注費が占めています。原価計算は個別原価計算による実際原価計算です。

売上原価の構成比(外注費と労務費)第19期外注費 88.0%12.0%第20期外注費 87.7%12.3%第21期中間外注費 87.6%12.4%外注費労務費第20期:外注費3,980,191千円/労務費558,332千円(売上原価4,538,523千円)

図11 発行者情報の売上原価明細書による。第19期は監査を受けていない期、第21期中間は期中レビュー済みの期。原価計算は個別原価計算による実際原価計算。

外注比率が高い受託開発の会社では、外注先の確保と管理が事業継続の前提になります。アイグローブも「事業等のリスク」で外注先の確保(協力会社との関係が維持できない場合や外注コストが高騰した場合の影響)と、委託先に業務の一部を外注する場合の「中小受託取引適正化法」の適用を挙げています。上場準備では、外注先の選定・契約・検収・支払の手続きと、法令に沿った発注書面や支払期日の管理を、内部統制として運用記録とともに説明できるようにしておくことが重要です。

キャッシュ・フローは、第20期の営業活動によるキャッシュ・フローが214,514千円の収入(税引前当期純利益207,069千円、仕入債務の増加127,679千円、売上債権の増加124,739千円など)、投資活動が14,764千円の支出(保険積立金の積立など)、財務活動が36,400千円の支出(配当金の支払)でした。第20期末の現金及び現金同等物は875,473千円、第21期中間末は984,868千円です。第19期には貸付金の回収による収入28,000千円と長期借入金の返済8,326千円があり、第20期末時点で借入金はありません。

なお、表の第18期・第19期の数値は監査を受けていない財務諸表に基づくものです。TPMでは1期の監査で上場申請ができますが、記事や社内資料で複数期の推移を示すときは、監査済みの期とそうでない期を区別して扱うことが大切です。

資本政策と株主構成:資産管理会社が100%を保有したまま上場

株主構成はシンプルです。発行者情報の「株主の状況」によると、株式会社IGホールディングスが520,000株を保有しており、これは発行済株式総数の全部です。CG報告書は、同社を支配株主として記載し、代表取締役社長である宮城勤氏の資産管理会社であると説明しています(親会社は「なし」)。役員の状況の注記でも、宮城氏の所有株式数には同氏が100%出資する資産管理会社が保有する520,000株を含めた実質的所有株数を記載したとしています。

株主構成と新株予約権(2026年9月30日現在)宮城 勤(代表取締役社長)株式会社IGホールディングス(資産管理会社)株式会社アイグローブ発行済株式 520,000株第1回新株予約権 17,170株取締役1名・従業員10名行使価額 1株につき1,218円潜在株式を含む537,170株に対し、IGホールディングス96.80%、新株予約権3.20%100%出資520,000株(発行済の100%)行使されれば株式を交付

図12 発行者情報「株主の状況」「役員の状況」とCG報告書による。上場時に公募・売出しを行わないため、上場時発行済株式総数も520,000株(東証の会社概要)。

このほか、第1回新株予約権(ストック・オプション)17,170個(目的となる株式17,170株)があり、新株予約権による潜在株式を含めた537,170株に対して、IGホールディングスの割合は96.80%、潜在株式は3.20%です。特別利害関係者等の株式等の移動状況は「該当事項はありません」、自己株式もありません。

上場時に公募・売出しを行わないため、上場時点でも株主は実質的にIGホールディングス1社のままとなります。TPMには株主数や流通株式に関する形式基準がないため、こうした構成でも上場申請が可能です。一方で、一般市場の上場基準では株主数や流通株式比率が問われ、主要株主(上場株式数の10%以上を所有する者)や役員等が所有する株式は流通株式から除かれます。将来一般市場への上場を検討する会社であれば、株主構成の設計を別途考える必要があります。流通株式の考え方は流通株式比率の計算式と調べ方をご覧ください。

株式分割・新株予約権・単元株:上場に向けた株式の手続き

上場に向けた株式関連の手続きは、時系列で次のように整理できます。2024年9月19日付で普通株式1株を2,000株に分割し、発行済株式総数は260株から520,000株になりました。同月17日の臨時株主総会で第1回新株予約権の発行を決議し、9月27日に付与しています。2025年3月14日の臨時株主総会では定款を変更し、単元株式数を100株とする単元株制度を導入しました。資本金は13,000千円のまま変わっていません。

資本政策の時系列(上場前の主な株式関連の手続き)2024年9月19日株式分割1株→2,000株2024年9月27日新株予約権付与17,170株2025年3月14日単元株制度導入1単元100株2026年10月16日上場申請公募・売出しなし2026年11月11日上場予定520,000株発行済株式数:260株 →(分割)→ 520,000株。上場時発行済株式総数も520,000株

図13 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「新株予約権等の状況」「株式の総数等」、東証の会社概要による。資本金は13,000千円のまま。

項目 第1回新株予約権の内容
決議・付与 2024年9月17日臨時株主総会決議、2024年9月27日付与
付与対象者 当社取締役1名、当社従業員10名
新株予約権の数・目的株式数 17,170個・普通株式17,170株(1個につき1株)
行使時の払込金額 1株につき1,218円(資本組入額609円)
発行価額の総額 20,913,060円
行使期間 2027年9月20日から2034年9月19日まで
主な行使条件 国内の証券取引所に上場し、上場日後1か月を経過していること/行使時に当社等の役員・従業員等の地位にあること(取締役会が正当な理由を認めた場合を除く)
割当の内訳 取締役 泉聡一郎氏 2,070株、従業員10名 15,100株
払込金額の決定 純資産により算出した価格を勘案して決定

行使条件は「日本国内の証券取引所に上場」と定めており、TPMへの上場もこれに含まれる書き方です。ストック・オプションの会計処理については、付与時点で株式を上場していないため、公正な評価単価を単位当たりの本源的価値の見積りによっていると注記されています。ストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項はありません」です。未公開企業が本源的価値により評価する方法は、ストック・オプション等に関する会計基準で認められている方法です。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例で解説しています。

また、TPMの特例でも、基準事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までの期間に第三者割当等を行った場合、割当てを受けた者に、担当J-Adviserに対して一定期間の継続所有等を確約させることが求められています。アイグローブの基準事業年度の末日は2025年9月30日と記載され、第三者割当等の概況の表では、2024年9月27日発行の新株予約権の「保有期間等に関する確約」欄は「-」となっています。なお、同表の注記には、割当て又は交付を受けた者との間で、上場日以後6か月を経過する日(割当て等から1年を経過していない場合は1年を経過する日)まで所有する等の確約を行っている旨も記載されています。一般市場の継続所有の確約については上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で整理しています。

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コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と社外役員5名

アイグローブは監査役会設置会社です。定款で取締役会・監査役・監査役会を置くと定め、取締役会は取締役4名(うち社外取締役2名)、監査役会は社外監査役3名で構成されています。取締役会は原則として月1回の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開催します。このほか、業務執行取締役・スキルリード・ユニット長・常勤監査役・内部監査人で構成する管理者会議(毎月1回以上)と、代表取締役社長を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会(原則として四半期に一度)が置かれています。

アイグローブの機関設計と業務執行の体制株主総会監査法人アヴァンティア取締役会 4名(うち社外取締役2名)監査役会 3名(全員が社外監査役)代表取締役社長管理者会議(月1回以上)リスク・コンプライアンス委員会(四半期に1回)内部監査人 2名(専任部署なし)選任選任監査選定・監督任命

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況等」、CG報告書による。CG報告書は「会計監査人を設置しておりません」としつつ、監査法人と監査契約を締結し特例110条5項に基づく監査を受けていると記載。

この機関設計を採用する理由について、発行者情報は、事業内容や内部情報に精通した社内取締役と専門領域の知識・経験を持つ社外取締役で構成される取締役会、社外監査役を含む監査役会による経営監視体制が適切と判断したためと説明しています。TPMでは一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされていますが、適格性要件として、ガバナンスと内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していることが求められます。機関設計の選び方はIPO審査の「機関設計」とはで解説しています。

もう一つ注目したいのは、CG報告書の「監査役、会計監査人、内部監査部門の連携状況」欄に「当社は会計監査人を設置しておりませんが」と書かれている点です。会社法上の会計監査人は置いていない一方で、監査法人アヴァンティアと監査契約を締結し、特例第110条第5項の規定に基づく監査を受けています。上場のための財務書類の監査(監査証明)と、会社法上の機関としての会計監査人の設置は別の論点であることが、この記載からわかります。TPMで会計監査人の設置が必要かどうかについては、本記事では断定しません。

役職 氏名 主な経歴(発行者情報の記載の要旨) 就任
代表取締役社長 宮城 勤 1999年にキューブ、2001年にアクアキューブを設立、2005年10月から当社代表取締役社長、IGホールディングス代表取締役 2005年10月(社長)
取締役 業務ユニット長 泉 聡一郎 2011年10月当社入社、2022年1月業務ユニット長 2024年1月
社外取締役 松井 慶 東京国税局、税理士事務所開業(税理士)。2020年11月から2024年1月まで当社の顧問税理士 2024年1月
社外取締役 水関 寿量 法律事務所勤務(弁護士) 2025年10月
常勤社外監査役 安達 亮二 複数企業で取締役CFO・管理本部長等を歴任 2023年12月
社外監査役(非常勤) 湯山 正洋 公認会計士。監査法人、証券会社の引受審査、上場支援コンサルティング 2026年6月
社外監査役(非常勤) 加悦 正史 公認会計士・税理士。監査法人統括代表社員、他社の社外監査役 2026年9月

役員は男性7名・女性0名です。社外監査役のうち2名は2026年6月と9月に就任しており、上場申請(2026年10月16日)の直前に監査役会の陣容が整えられています。社外取締役の松井慶氏は、2020年11月から2024年1月まで同社の顧問税理士でしたが、その後は取引関係がなく、顧問税理士報酬の支払は多額の金銭その他の財産に該当しないと説明されています。

CG報告書では、社外取締役・社外監査役のいずれについても独立役員の指定欄は「-」で、独立役員の人数も「-」となっています。また、社外役員を選任するための独立性に関する基準又は方針は定めておらず、経歴等を踏まえて個別に判断していると記載されています。TPMで独立役員の確保が求められるかどうかは本記事では断定しませんが、一般市場を視野に入れる会社であれば、社外役員の独立性をどの基準で説明するかを早めに検討しておくとよいでしょう。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。

役員報酬の決め方と関連当事者取引

取締役の報酬は、株主総会で決定された報酬総額の範囲内で、各取締役の役位、職責、在任年数、従業員とのバランス、同業他社の動向や過去の支給実績、業績等を総合的に踏まえて取締役会で議論の上決定しています。報酬枠は、2024年1月31日の臨時株主総会で取締役年額100百万円以内(使用人兼務取締役の使用人分給与を含まない)、2023年12月29日の臨時株主総会で監査役年額20百万円以内と決議されています。個人別の報酬は金銭による固定の基本報酬のみで、業績連動報酬等は採用していません。任意の指名委員会・報酬委員会に相当する委員会は「なし」です。

役員報酬の決め方(取締役)株主総会(2024年1月31日)取締役の報酬総額の枠年額100百万円以内取締役会役位・職責・在任年数・業績等を踏まえ議論・決定個人別の報酬金銭による固定の基本報酬業績連動報酬等はなし第20期の支給額:取締役(社外取締役を除く)2名 35,446千円/社外役員2名 9,780千円/合計45,226千円任意の指名委員会・報酬委員会に相当する委員会はなし(CG報告書)

図15 発行者情報「役員報酬の内容」による。監査役の報酬枠は2023年12月29日の臨時株主総会で年額20百万円以内と決議。

関連当事者との取引は、第19期(2024年9月期)に、役員及びその近親者が議決権の過半数を所有している会社であるIGホールディングスからの貸付金の回収(10,000千円と18,000千円)があり、期末残高はありません。第20期は「該当事項はありません」です。キャッシュ・フロー計算書の第19期にも貸付金の回収による収入28,000千円が計上されています。

CG報告書には、支配株主との取引を行う際は、取引理由と必要性、取引条件の妥当性等を取締役会で予め十分に審議して意思決定し、少数株主の利益を損なわないよう対応するという方針が記載されています。支配株主やその資産管理会社との資金のやり取りは、上場準備の早い段階で解消し、その後の取引ルールを決めておくことが一般的な対応です。具体的な考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。

内部監査・内部統制:専任部署なしでの相互牽制

アイグローブは、独立した組織としての内部監査部署を設置していません。代表取締役社長の命を受けた内部監査人2名が、年間内部監査計画に基づき全ユニットを網羅するように内部監査を実施しています。内部監査責任者は自己の属するユニットを除く全ユニットを監査し、内部監査人が所属するユニットについては、代表取締役社長が別のユニットから担当者を任命して相互に牽制する体制です。

監査結果は代表取締役社長、取締役会及び監査役に報告され、改善が必要な場合は被監査ユニットに改善指示を行い、その対応結果を確認します。内部監査人、監査役及び監査法人は、定期的な合同会合や個別の会合で監査計画や監査結果について意見交換を行い、三様監査の相互連携を図っていると記載されています。

内部監査の相互牽制と三様監査の連携代表取締役社長内部監査責任者自ユニット以外の全ユニットを監査別ユニットから任命した担当者内部監査人の所属ユニットを監査相互牽制三様監査:定期的な合同会合・個別開催で監査計画や監査結果を意見交換監査役会(社外監査役3名)内部監査人(2名)監査法人アヴァンティア監査結果は社長・取締役会・監査役に報告し、改善が必要なユニットに改善指示任命任命連携連携

図16 発行者情報「内部監査及び監査役監査の状況」とCG報告書による。独立した内部監査部署は置かず、代表取締役社長の命を受けた内部監査人2名が実施。

小規模な会社では、内部監査を専任部署で行うことが難しく、他部署との兼務で担当者を置くことが少なくありません。その場合に問題になるのが「自己監査」、つまり自分が所属する部署の業務を自分で監査してしまうことです。アイグローブの体制は、所属ユニットの監査を別ユニットの担当者に任せることで、この問題を手当てしています。兼務と自己監査の回避の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

内部統制システムの基本方針としては、取締役会規程に基づく取締役会の運営、リスク・コンプライアンス規程に基づく委員会の開催、社内及び社外の第三者機関を窓口とした内部通報体制、文書管理規程に基づく記録の保存、監査役の職務を補助する使用人の独立性などが定められています。反社会的勢力の排除については、反社会的勢力等排除規程に基づき、業務ユニット長を責任者として、新規の取引先は取引開始前に、既存の継続取引先は原則として年1回チェックを行い、契約書に反社会的勢力排除条項を盛り込むとしています。

適時開示の体制

TPMの上場会社も、決算情報、決定事実、発生事実などの適時開示義務を負います。アイグローブのCG報告書には適時開示体制の模式図が掲載され、各ユニットの所管ユニット長から情報取扱責任者(業務ユニット長)へ報告し、代表取締役社長への報告、取締役会での決定・承認を経て、開示の指示により情報開示を行う流れが示されています。IR担当部署は業務ユニットです。

適時開示の社内フロー(CG報告書の模式図を要約)決算情報・決定事実・発生事実各ユニット(所管ユニット長)情報取扱責任者(業務ユニット長)代表取締役社長報告・付議取締役会決定・承認情報開示(開示の指示を受けて実行)

図17 CG報告書「適時開示体制の概要(模式図)」を要約。決算情報・決定事実・発生事実の別に報告経路が示されている。情報取扱責任者は業務ユニット長、IR担当部署は業務ユニット。

なお、TPMでは四半期開示(決算短信)は任意とされ、内部統制報告書の提出も任意です。発行者情報は年次と中間の年2回、期末後3か月以内に公表する必要があります。上場後に誰がどの情報をいつまでに集め、誰が承認して開示するのかを、上場前に規程とフローで決めておくことが、開示の遅延を防ぐ前提になります。適時開示体制の整備についてはIPOの適時開示体制も参考になります。

会計・開示の論点:準委任・派遣の収益認識と1期監査

財務諸表は財務諸表等規則に基づき、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち、日本の一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。中間財務諸表は第一種中間財務諸表です。TPMでは日本基準のほか米国基準・IFRS等も採用できますが、同社は日本基準を採用しています。

収益認識の会計方針は簡潔です。顧客との準委任契約や派遣契約に基づきサービスを提供しており、契約における義務を履行するにつれて顧客が便益を享受すると判断して、一定の期間にわたり、各月において充足した履行義務に対応する収益を認識しています。収益の分解情報では、第20期の売上高5,077,894千円の全額が「一定の期間にわたり移転される財又はサービス」です。第21期中間は、一時点で移転される財又はサービスが2,260千円、一定の期間にわたり移転される財又はサービスが2,772,262千円と区分されています。残存履行義務については、当初に予想される契約期間が1年を超える重要な契約がないとして、実務上の便法により記載を省略しています。

準委任契約や派遣契約では、月次の作業実績とその記録が収益計上の根拠になります。請負契約が混在する場合は履行義務の識別や進捗度の見積りが論点になるため、契約形態ごとに収益認識の方法を説明できるようにしておくことが大切です。詳しくは上場審査で問われる収益認識をご覧ください。

論点 アイグローブの記載
会計基準 日本基準(特例110条6項で認められた基準のうち日本の基準)
収益認識 準委任契約・派遣契約に基づき、一定の期間にわたり各月の充足分を収益認識
重要な会計上の見積り 該当事項はありません
会計方針の変更・追加情報・後発事象 いずれも該当事項はありません
未適用の会計基準 新リース会計基準等(2028年9月期の期首から適用予定、影響額は評価中)
資産除去債務 本社等の原状回復義務。使用見込期間5年、割引率0.072%、第20期末7,489千円
監査報酬(最近事業年度) 監査証明業務13,750千円、非監査業務なし
会計監査の体制 業務執行社員2名、補助者は公認会計士2名・その他4名、継続監査年数は7年以内

重要な会計上の見積りは「該当事項はありません」とされています。一般に、のれんや多額の固定資産、棚卸資産を持たない会社では、減損や評価損に関する見積りが論点になりにくい傾向があります。未適用の会計基準として、2024年9月公表の「リースに関する会計基準」等を2028年9月期の期首から適用予定と記載し、影響額は評価中としています。なお、本社事務所は賃借で、年間の賃借料は21,240千円と記載されています。新リース会計基準への対応は、上場後の開示にも関わるため、上場準備と並行して影響額の試算を進めておくと安心です。

監査の面では、監査報告書と期中レビュー報告書の日付がいずれも2026年10月14日で、上場申請日の2日前です。第20期の監査報告書と第21期中間の期中レビュー報告書が同じ日付で出されています。初度監査では、期首残高の検討も含めて監査に時間を要することが多いため、監査法人との契約時期とスケジュールを早めに固めることが大切です。

J-Adviser契約と上場維持:解除事由は17項目

TPMで特徴的なのが、担当J-Adviserとの契約が上場と上場維持の前提になる点です。アイグローブは「事業等のリスク」の15番目の項目として、2023年8月1日にJトラストグローバル証券株式会社と担当J-Adviser契約を締結したこと、この契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合、株式はTPMから上場廃止となることを記載し、契約解除に関する条項をそのまま開示しています。本書公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。

J-Adviser契約の即日無催告解除の事由(17項目)と例外財務・存続(4項目)(1)債務超過 (2)銀行取引停止(3)破産・再生・更生 (5)事業活動停止組織再編・支配関係(4項目)(6)不適当な合併等 (7)支配株主取引(13)完全子会社化 (16)全部取得開示・監査(2項目)(8)発行者情報等の提出遅延(9)虚偽記載・不適正意見等法令・株式の取扱い(5項目)(10)法令・上場契約違反 (11)株式事務(12)譲渡制限 (14)振替 (15)権利制限反社・その他(2項目)(17)反社会的勢力の関与(18)その他(公益・投資者保護)(4)は解除事由ではなく例外(3)に該当しても再建計画を開示すれば原則として解除しない契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合、TPMから上場廃止(発行者情報の記載)

図18 発行者情報「事業等のリスク(15)J-Adviserとの契約について」の条項を分類。号の見出しは要約。(4)は解除事由ではなく、(3)に該当した場合の例外を定める号。

即日無催告解除の条項には(1)から(18)までの号が並んでいますが、(4)は「前号((3)破産手続、再生手続又は更生手続)に該当することとなった場合においても、再建計画の開示を行った場合には、原則として本契約の解除は行わない」という例外を定めた号で、解除事由そのものではありません。したがって、解除事由は(4)を除く17項目です。内容は、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、法令違反及び上場契約違反等、株式事務代行機関への委託、株式の譲渡制限、完全子会社化、指定振替機関における取扱い、株主の権利の不当な制限、全部取得、反社会的勢力の関与、その他(公益又は投資者保護のため乙若しくは東証が上場廃止を適当と認めた場合)です。

事業等のリスクと上場準備で確認されやすい点

「事業等のリスク」には15項目が挙げられています。経済環境、競合、技術革新、主要顧客への依存、法的規制、外注先の確保、情報管理体制、知的財産権、小規模組織であること、特定人物への依存、人材の確保・育成、自然災害等、新規事業、訴訟の可能性、J-Adviserとの契約です。このうち、上場準備の観点から特に整理しておきたいものを、同社の記載に即して確認します。

リスク項目 発行者情報の記載の要点 上場準備で用意しておきたい説明
主要顧客への依存 2025年9月期の売上高のうちDTS向けが46.4% 取引の経緯・契約形態・継続性、他の顧客との取引拡大の状況
法的規制 中小受託取引適正化法の適用、労働者派遣事業の許可(有効期限2027年5月31日) 発注・支払の手続き、許可の更新管理と法令遵守の体制
外注先の確保 協力会社等に外注。関係維持や外注コスト高騰が影響 外注先の選定基準・契約・検収・単価管理
情報管理体制 ISMS・プライバシーマークの取得、外注先とも機密保持契約 情報漏えい防止策と外注先管理の運用記録
特定人物への依存 代表取締役社長 宮城勤氏が重要な役割 権限委譲、管理者会議・委員会による組織的運営
小規模組織 現在の人員構成で最適と考える体制を構築 事業拡大に合わせた管理部門の増員計画

一般市場へのステップアップを考える会社への示唆

アイグローブの発行者情報には、将来の一般市場への市場変更や上場についての記載はありません。そのため、同社の方針については触れず、TPMから一般市場を目指す会社一般にとっての示唆を整理します。

まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではありません。実例(AlbaLink)では、TPMを申請により上場廃止し、翌日に一般市場(グロース市場)へ新規上場する形がとられ、新規上場時に公募・売出しも行われました。東証は2025年11月時点で、TPMから一般市場へ上場した企業を15社としています。また、TPMから一般市場への上場の審査について、東証は非上場企業の審査と同様に一から確認が行われ相応の負担があるとの現状認識を示し、2026年4月の資料で「26年秋めど」にTPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を予定すると公表しています。2026年10月16日時点でこれらが規程改正として実施済みかどうかは、本記事では確認できていません。

アイグローブのケースに即していえば、一般市場を目指す会社にとっての差分は、①直前2期の監査、②株主数・流通株式の基準を満たす株主構成、③公募・売出しを伴う場合の主幹事証券の引受審査、④四半期決算短信や内部統制報告書などの開示・内部統制の制度対応です。TPMで整えたガバナンス・内部監査・適時開示の体制は土台になりますが、これらの差分は別途計画する必要があります。一般市場の準備の全体像はIPO準備 完全ガイドで解説しています。

項目 アイグローブのTPM上場時(発行者情報の記載) 一般市場で一般に求められること
監査 第20期の1期のみ監査(第18・19期は監査なし) 直前2期の監査
株主構成 IGホールディングスが発行済株式の100%を保有 株主数・流通株式の基準を満たす構成
公募・売出し なし 新規上場時に公募・売出しを行うのが通常(引受審査を伴う)
四半期開示 任意(TPM) 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意(TPM) 金融商品取引法の内部統制報告制度の対象

上場準備会社が学べること

アイグローブの発行者情報から、上場準備会社が実務に生かせるポイントを7つにまとめます。

  1. 上場の目的と資金調達の有無を最初に決める。同社は特定投資家向け勧誘を行わず、表紙は「発行者情報」となりました。資金調達をするかどうかで、書類・手続き・株主構成の設計が変わります。
  2. 監査法人の契約時期が上場時期を決める。TPMでも直前1期の監査は必要です。同社は第20期の監査と第21期中間の期中レビューを受けて申請しています。
  3. 中間の数値は「期中レビュー済み」と区別する。監査済みの年度数値と、期中レビューの対象である中間数値、監査を受けていない過年度の数値を分けて扱います。
  4. 適格性要件ごとに説明資料を対応させる。運転資本12か月分の記載、関連当事者取引の解消、反社チェックの運用など、要件と記載を1対1で結びつけておきます。
  5. 小規模でも内部監査の自己監査は避けられる。専任部署がなくても、所属ユニットの監査を別ユニットの担当者に任せる方法で相互牽制ができます。
  6. 支配株主との資金取引は早めに解消する。同社は第19期に資産管理会社への貸付金を回収し、第20期の関連当事者取引はありません。
  7. J-Adviser契約の解除条項を経営課題として理解する。開示の遅延、虚偽記載、反社の関与なども解除事由です。上場後の開示体制が上場維持に直結します。
  • 上場の目的(資金調達の有無、TPMか一般市場か)を経営として決め、説明できる
  • 監査法人と契約し、申請に必要な期(TPMは最近1年間)の監査日程を固めている
  • 上場適格性要件の5項目ごとに、自社の規程・体制・記録を対応させている
  • 内部監査の担当者が自部署を監査しない体制(相互牽制)をつくっている
  • 支配株主・役員との資金取引や取引条件を整理し、取締役会で審議するルールがある
  • 発行者情報(年2回)と適時開示の作成・承認フローと担当者を決めている

よくある質問

Q1. アイグローブは上場によって資金調達をするのですか?

東証の会社概要では、特定投資家向け取得勧誘及び特定投資家向け売付け勧誘の予定は「なし」で、上場時発行済株式総数も申請時と同じ520,000株です。上場時に公募・売出しによる資金調達は行わない形です。

Q2. なぜ書類名が「特定証券情報」ではなく「発行者情報」なのですか?

上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表すると表紙に記載されています。

Q3. 監査は何期分受けていますか?

第20期(2025年9月期)の財務諸表について監査法人アヴァンティアの監査を受けています。第18期・第19期は監査を受けておらず、第21期中間は期中レビューの対象です。TPMで求められる上場前の監査期間は「最近1年間」です。

Q4. 上場承認はもう出ていますか?

2026年10月16日時点では上場承認日は未定です。同日に上場申請(申請受付)が行われ、上場予定日は2026年11月11日です。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとしています。

最初の一歩は、上場の目的と監査の開始時期を決めること

TPMでも一般市場でも、上場準備の最初の判断は「何のために上場するのか」と「どの期から監査を受けるのか」です。アイグローブの例が示すように、TPMでは公募・売出しを行わず直前1期の監査で上場申請することもできますが、その1期の監査を受けるためには監査法人との契約と、監査に耐える決算・内部管理の体制が先に必要です。まずはショートレビューなどで現状の課題を洗い出し、上場の目的に合わせた市場とスケジュールを選ぶことをおすすめします。ショートレビューについてはショートレビューとはで解説しています。

まとめ

株式会社アイグローブは、2026年10月16日に上場を申請し、2026年11月11日にTOKYO PRO Marketへの上場を予定しています。担当J-AdviserはJトラストグローバル証券株式会社で、上場承認日は2026年10月16日時点で未定です。公募・売出しを行わないため、表紙は「発行者情報」となり、代表者の資産管理会社が発行済株式の100%を保有したまま上場する形です。

発行者情報からは、直前1期(第20期)の監査と中間の期中レビュー、監査役会設置会社と社外役員5名の体制、内部監査人2名による相互牽制、準委任・派遣契約の期間按分による収益認識、外注費が売上原価の約9割を占める原価構造、17項目の解除事由を持つJ-Adviser契約など、上場準備の具体像を読み取ることができます。TPMを検討する会社にとっても、将来一般市場を目指す会社にとっても、自社の準備状況と照らし合わせる材料になる事例です。

※本記事は、東京証券取引所 TOKYO PRO Market の新規上場会社情報として公表された「発行者情報」等の公開情報に基づき、上場準備の実務解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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