※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
株式会社システムエグゼ(証券コード548A)は、2026年3月3日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年4月6日に東証スタンダード市場へ上場しました。1998年2月に設立された独立系のシステムインテグレーター(SIer)で、不動産・保険・製造・サービス業などの顧客企業に対して、基幹システムの企画・設計・構築から保守・運用までを一貫して提供しています。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年3月3日提出)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、システムエグゼのⅠの部は「黒字経営を続けてきた中堅企業が、上場直前に資本構成と管理体制をどう仕上げたか」を学ぶのに適した事例です。投資育成会社が保有していたA種優先株式を取得条項で普通株式に切り替えて消却し、続けて1株を10株に分割したこと、任意の指名・報酬委員会を上場前に設置したこと、内部統制の強化にコストをかけたことが減益要因として明記されていること、そして受託開発の進捗度による収益認識と係争中の訴訟の開示など、準備中の会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。
この記事の見出し
システムエグゼはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか
まず基本情報です。システムエグゼは1998年2月に、顧客企業のシステム開発を目的として資本金1,000万円で東京都千代田区神田に設立されました。現在の本店は東京都中央区日本橋室町です。決算期は3月で、Ⅰの部の最近事業年度は第28期(2025年3月期)、直近の期間として第29期中間連結会計期間(2025年4月〜9月)と第29期第3四半期連結累計期間(2025年4月〜12月)の数値も掲載されています。代表者は代表取締役 社長執行役員の大場康次氏です。
上場市場は東証スタンダード市場で、上場承認日は2026年3月3日、上場日は2026年4月6日です。Ⅰの部の提出日も2026年3月3日となっています。グループは当社と連結子会社1社(ベトナム・ホーチミン市のSYSTEMEXE VIETNAM COMPANY LIMITED、資本金700,000米ドル、議決権所有割合100%)で構成されています。親会社等はありません。
従業員数は2026年1月31日時点で連結877名、単体689名です。単体の平均年齢は36.6歳、平均勤続年数は7.4年、平均年間給与は5,096,744円と記載されています。2026年3月期第3四半期末時点の連結従業員数は879名(うちエンジニア746名)で、前年同時点より76名増えています。設立から四半世紀以上が経過し、従業員数も800名を超える規模での上場であり、いわゆる赤字の成長企業によるIPOとは性格が異なります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社システムエグゼ(SystemEXE,Inc.) |
| 証券コード | 548A |
| 市場 | 東京証券取引所 スタンダード市場 |
| 上場承認日/上場日 | 2026年3月3日/2026年4月6日 |
| 設立 | 1998年2月(東京都千代田区神田、資本金1,000万円) |
| 本店 | 東京都中央区日本橋室町三丁目4番4号 |
| 代表者 | 代表取締役 社長執行役員 大場 康次 |
| 決算期 | 3月(最近事業年度:第28期 2025年3月期) |
| 事業 | システムインテグレーション事業(単一セグメント) |
| 従業員数(2026/1/31) | 連結877名、単体689名 |
| 連結子会社 | SYSTEMEXE VIETNAM COMPANY LIMITED(100%) |
| 会計監査人 | 太陽有限責任監査法人 |
スタンダード市場は、市場で一定の流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場と位置付けられています。新規上場の審査では、形式要件に加え、実質審査基準として「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」が確認されます。グロース市場で中心になる「事業計画の合理性」や「高い成長可能性」とは視点が異なり、安定した事業基盤と利益を生む力が問われる点が特徴です。審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とはで、継続性と収益性の考え方はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で詳しく解説しています。
自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします
IPO支援:ショートレビュー、資本政策、内部管理体制、Ⅰの部の作成、審査対応まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
IPO支援の内容を見る / 相談内容を送る
何で稼ぐ会社なのか――事業内容と収益モデル
システムエグゼの事業は、システムインテグレーション(SI)事業とその付随業務からなる単一セグメントです。顧客企業の基幹業務システムをはじめとする情報システムの企画・設計・構築・保守・運用までを一気通貫で提供するほか、ワークフローシステム「AppRemo」、特定業務向けの「EXEX(エグゼクス)シリーズ」、テストデータを生成する「テストエース」などの自社製品の販売・導入支援も行っています。
Ⅰの部で特に強調されているのが、エンドユーザーとの直接取引(一次請け)へのこだわりです。直近2期(2024年3月期・2025年3月期)の連結売上高に占める直接取引の比率は、いずれも約9割(情報系グループ会社との取引を含む)と記載されています。多重下請け構造が多いといわれるIT業界で、元請けとして顧客と向き合うことを事業方針として明示している点が、この会社の個性です。
もう一つの特徴は、自社の技術者だけでなく、外部のビジネスパートナー(外注先)、ベトナムの連結子会社、アライアンス先を組み合わせて案件を遂行する体制です。ベトナム子会社とは「Borderless OneTeam Development(BotDev)」と呼ぶ独自の開発手法でオフショア開発を進めており、日本とベトナムの技術者の間にブリッジエンジニアを置いています。アライアンス先としては、資本・業務提携先のウイングアーク1stのほか、日本オラクル、日本マイクロソフト、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの計4社が挙げられ、2025年3月期の顧客獲得数は約30社と記載されています。
図1 外注先・ベトナム子会社・アライアンス先の力を組み合わせ、エンドユーザーに直接サービスを提供する構造(Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成)
顧客の業種は、不動産業、保険業、製造業、サービス業・その他の4区分で管理されています。第28期の販売実績は、不動産3,065,382千円、製造1,910,841千円、保険1,865,658千円、サービス業他4,764,063千円で、合計11,605,945千円です。不動産業の中でも、主要な販売先として三井不動産グループが記載されており、同グループへの売上高は2025年3月期で2,763,594千円、連結売上高の23.8%を占めています。
顧客戦略として、各業界のリーディングカンパニーを中心とした約10の企業グループを「主要顧客」、それに準ずる約20の企業グループを「戦略顧客」に区分し、主要顧客には全社横断で情報を共有して資源を集め、戦略顧客にはアカウント・プランニング・セッション(APS)と呼ぶ定期的な戦略検討を行うと説明しています。顧客を層別して打ち手を変える考え方は、事業計画の説明にもそのまま使える整理です。
図2 Ⅰの部「販売実績」より。かっこ内は前期比。百万円未満四捨五入
契約の形態に着目すると、収益の中身がさらによくわかります。収益認識関係の注記では、売上高を「受託開発」「SES業務」「派遣契約」「ライセンス販売」の4つの契約区分に分解して開示しています。第28期は、受託開発3,414,480千円、SES業務6,646,197千円、派遣契約319,629千円、ライセンス販売1,225,638千円でした。SES業務が売上高の過半を占めており、受託開発とあわせて「技術者の作業を提供して対価を得る」ことが収益の柱になっていることがわかります。
経営上の目標の達成状況を判断するための指標(KPI)としては、売上高、売上高総利益率、売上高営業利益率に加えて、売上高上位30社の売上推移、サービス別の売上推移(保守・運用、保守開発、新規開発)、オフショア活用比率が選ばれています。保守・運用と保守開発を「ストック」、新規開発を「フロー」と分類して、契約継続性の高い収益の積み上がりを評価している点は、受託型のビジネスで安定性を説明するときの参考になります。
図3 収益認識関係注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より。百万円未満四捨五入
図4 Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」より。オフショア活用比率は提出会社の外注費に占めるオフショア外注費の比率
沿革から見る上場までの道のり
沿革を見ると、システムエグゼは大手ITベンダーとのパートナー関係と拠点の拡大を積み重ねて成長してきた会社です。2003年に日本オラクル、ウイングアーク1stとパートナー契約を結び、2006年にプライバシーマーク、2007年にISO/IEC27001(府中オフィス)、2011年にISO9001(千葉オフィス)を取得しています。2010年には経済産業省のシステムインテグレータ登録制度で認定システムインテグレーション企業として登録され、同じ年にベトナムの子会社を設立しました。
海外ではタイ(2014年設立)とミャンマー(2016年設立)にも現地法人を設けましたが、タイ法人は2023年6月、ミャンマー法人は2024年1月に解散しています。Ⅰの部の連結の範囲の注記でも、両社は前連結会計年度に非連結子会社として記載され、第28期に清算を結了したため除外されたと説明されています。上場前に海外拠点を整理し、連結子会社をベトナム1社に絞った形です。
国内では、2007年に設立したソフトウェア販売専門の子会社エグゼソリューションズを2020年3月に吸収合併し、同年12月にはウイングアーク1stと資本・業務提携を結びました。この提携では、ウイングアーク1stが当社の普通株式32,000株(株式分割後320,000株)を取得しています。2022年4月には本社を日本橋室町に移転しました。そして2025年10月から12月にかけて種類株式の整理と株式分割を行い、2026年4月の上場に至っています。
図5 設立から上場までの主な出来事(Ⅰの部「沿革」「株式等の状況」等をもとに作成)
業績の推移――安定した黒字と第28期の減益をどう読むか
業績は、単体の5期分(第24期〜第28期)と連結の2期分(第27期・第28期)、さらに第29期の中間期と第3四半期累計の数値が掲載されています。単体の売上高は第24期(2021年3月期)の8,460,428千円から第28期(2025年3月期)の11,528,676千円まで毎期増加し、経常利益と当期純利益は5期ともプラスです。なお、第24期から第26期の単体の数値は会社計算規則に基づくもので、金融商品取引法第193条の2第1項に準ずる監査を受けていない旨が注記されています。
図6 第24期〜第28期の単体売上高(百万円未満四捨五入)。第24〜26期は金融商品取引法に準ずる監査の対象外の数値です
| 単体(千円) | 第24期 2021/3 | 第25期 2022/3 | 第26期 2023/3 | 第27期 2024/3 | 第28期 2025/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,460,428 | 9,523,098 | 10,090,934 | 11,313,757 | 11,528,676 |
| 経常利益 | 257,722 | 550,664 | 605,628 | 755,320 | 606,715 |
| 当期純利益 | 165,703 | 640,308 | 882,014 | 674,317 | 446,278 |
| 純資産額 | 2,590,204 | 3,202,669 | 4,027,172 | 4,632,379 | 4,992,632 |
| 自己資本比率 | 37.0% | 46.4% | 58.0% | 61.0% | 69.0% |
| 自己資本利益率 | 6.6% | 22.1% | 24.4% | 15.6% | 9.3% |
| 配当性向 | 21.6% | 9.0% | 7.8% | 12.8% | 15.3% |
読み方のポイントは2つあります。1つ目は、当期純利益が経常利益を上回る期があることです。第25期と第26期は当期純利益が経常利益を上回っており、MD&Aでは第27期まで複数年にわたり投資不動産や投資有価証券の売却があったと説明されています。連結の第27期には、投資有価証券売却益33,130千円と固定資産売却益176,373千円(土地117,451千円、建物58,921千円)の特別利益209,504千円が計上されています。賃貸等不動産の注記によれば、東京都内に保有していた賃貸用オフィスビルを売却したものです。第26期以前の利益水準を読むときは、こうした保有資産の売却の影響を区別して見ることが大切です。
2つ目は、第28期の減益の理由です。第28期の連結売上高は11,605,945千円(前期比102.1%)と増収でしたが、営業利益は645,042千円(同77.4%)、経常利益は646,993千円(同78.5%)に減少しました。Ⅰの部はその理由を「内部統制強化に伴う販管費の増加等」と記載しています。販売費及び一般管理費は2,389,633千円から2,667,248千円へ増え、主な費目では給与手当が958,776千円から1,091,297千円、支払手数料が289,716千円から333,999千円に増加しています。さらに特別利益がなくなったため、親会社株主に帰属する当期純利益は482,671千円(同62.7%)となりました。
図7 第25期・第26期の当期純利益は経常利益を上回っています。第27期まで投資不動産や投資有価証券の売却益が複数年続いていました(Ⅰの部MD&A)
図8 売上高は前期比102.1%の増収、営業利益は同77.4%。百万円未満四捨五入
| 連結(千円) | 第27期 2024/3 | 第28期 2025/3 | 第29期中間 2025/4-9 | 第29期3Q累計 2025/4-12 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 11,369,874 | 11,605,945 | 6,212,524 | 9,331,621 |
| 営業利益 | 832,997 | 645,042 | 405,273 | 591,152 |
| 経常利益 | 823,853 | 646,993 | 410,864 | 591,471 |
| 親会社株主に帰属する当期(中間・四半期)純利益 | 770,368 | 482,671 | 270,759 | 389,985 |
| 純資産額 | 4,884,940 | 5,290,945 | 5,467,615 | 5,591,079 |
| 総資産額 | 7,824,681 | 7,539,901 | 8,216,904 | 8,183,162 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 538,048 | 69,697 | 818,487 | (作成なし) |
上場準備の費用が一時的に利益を押し下げることは珍しくありません。管理部門の増員、監査報酬、内部統制の構築支援、システム投資などは、上場の2〜3期前から本格的に発生します。システムエグゼのように、減益の理由を「内部統制強化」と具体的に書いておけば、投資家にも審査側にも、利益水準の変化が一時的な体制整備のコストによるものか、事業の収益力の低下によるものかを判断する材料になります。自社の事業計画でも、上場準備コストを独立した項目として見積もり、その後の利益水準の回復見込みを説明できるようにしておくとよいでしょう。
直近の第29期は、中間期の売上高6,212,524千円、営業利益405,273千円、第3四半期累計の売上高9,331,621千円、営業利益591,152千円で、MD&Aでは営業利益について「前年に発生していた不採算案件が解消したこと等」によると説明されています。中間連結財務諸表と第3四半期の四半期連結財務諸表は、いずれも太陽有限責任監査法人の期中レビューを受けたものです。第3四半期については四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていません。
キャッシュ・フローにも特徴があります。第28期の営業キャッシュ・フローは69,697千円と、前期の538,048千円から大きく減りました。主な減少要因は仕入債務の減少412,180千円で、財政状態の説明では、買掛金の減少について、前連結会計年度末日が銀行休業日であったため前期末残高に当期首の支払分が含まれていたことによると説明されています。一方、第29期中間期の営業キャッシュ・フローは818,487千円で、大型のライセンス契約での開始時一括請求により前受金が448,584千円増加したことなどが寄与しています。期末日の曜日や大型契約の請求条件でキャッシュ・フローが大きく振れることは、受託型の会社では珍しくありません。説明できるように増減要因を整理しておくことが大切です。
資本政策と株主構成――種類株式の整理と1対10の株式分割
資本政策の面で、システムエグゼの事例は「シンプル」と「整理」の2語に集約できます。Ⅰの部の第四部「株式公開情報」を見ると、第三者割当等の概況は「該当事項はありません」、新株予約権(ストック・オプション)も「該当事項なし」とされ、潜在株式は存在しません。ベンチャーキャピタルからの複数回の資金調達や、役職員への新株予約権の付与を重ねてきたグロース市場の会社とは、資本政策の形がまったく異なります。
一方で、上場の直前期にあたる2025年には、株式に関する手続が集中して行われています。最大のポイントは、東京中小企業投資育成株式会社が保有していたA種優先株式100,000株の整理です。Ⅰの部によれば、会社は定款に定める取得条項に基づき、2025年10月16日付ですべてのA種優先株式を自己株式として取得し、その対価としてA種優先株式1株につき普通株式1株を交付しました。同日の取締役会決議に基づき、取得したA種優先株式は全部消却されています。この取得は会社法第155条第1号に該当する取得と記載されています。
図9 株式数は株式分割前の数(分割後は1株が10株)。取得条項に基づく取得(会社法155条1号)と消却(同178条)の後、臨時株主総会で種類株式の定めを廃止しています
続いて、2025年12月19日付で普通株式1株を10株に分割する株式分割が行われ、発行済株式総数は520,000株から5,200,000株になりました。同日開催の臨時株主総会では、種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止し、発行可能株式総数を10,000,000株とする定款変更を行い、あわせて単元株式数を100株とする単元株制度を導入しています。後発事象の注記では、株式分割の目的を「株式の流動性の向上と投資家層の拡大」と、上場に際しての単元株制度への対応と説明しています。
上場準備の実務では、種類株式を上場前に普通株式へそろえることが一般的です。上場する株式は普通株式であり、優先配当や取得条項が付いた株式を残したままでは株主間の権利関係が複雑になるためです。システムエグゼのように、取得条項を使って会社が種類株式を取得し、その対価として普通株式を交付する方法は、株主の個別の請求を待たずに会社の側で転換を完了できる点が実務上の利点です。取得した種類株式を自己株式として持ち続けると種類株式の定めを残すことになるので、消却と定款変更までをセットで計画しておく必要があります。考え方の詳細は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかでも解説しています。
このA種優先株式の普通株式化は、第四部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」に1件だけ記載されています。移動年月日は2025年10月16日、移動後所有者は東京中小企業投資育成株式会社(特別利害関係者等(大株主上位10名))で、A種優先株式100,000株の減少と普通株式1,000,000株(株式分割後の数で記載)、価格は「-」、移動理由は「A種優先株式の普通株式への転換(取得条項の行使)」とされています。株式の移動状況の記載対象は、基準事業年度の末日の2年前の日から上場日の前日までの間の移動であり、種類株式の転換のような株式の種類の変更も記載の対象になることがわかります。上場前の株式移動全般の留意点は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。
図10 Ⅰの部「重要な契約等」「発行済株式総数、資本金等の推移」「第三者割当等の概況」などをもとに作成
次に株主構成です。第四部「株主の状況」は、自己株式を除く株式総数4,832,900株に対する所有割合で、上位株主を次のように記載しています。
| 順位・株主 | 所有株式数 | 割合 |
|---|---|---|
| 1 アセット310合同会社 | 1,013,000株 | 20.96% |
| 2 東京中小企業投資育成株式会社 | 1,000,000株 | 20.69% |
| 3 大場 康次(代表取締役 社長執行役員) | 323,000株 | 6.68% |
| 4 ウイングアーク1st株式会社 | 320,000株 | 6.62% |
| 5 後藤 清孝(取締役 専務執行役員) | 300,000株 | 6.21% |
| 6 高橋 光司 | 295,000株 | 6.10% |
| 7 白銀 亨 | 220,000株 | 4.55% |
| 8 荻野 弘昭(取締役 副社長執行役員) | 107,000株 | 2.21% |
| 8 新船 幸広(取締役 上席執行役員) | 107,000株 | 2.21% |
| 10 藤林 隆司(取締役 専務執行役員) | 105,000株 | 2.17% |
| (参考)システムエグゼ社員持株会 | 64,940株 | 1.34% |
図11 「株主の状況」より。自己株式を除く総数4,832,900株に対する割合で、上場時(公募・売出し後)の割合ではありません
この比率はⅠの部の記載時点のもので、上場時に公募・売出しが行われればその後の比率は変わります。記事で「上場時の持株比率」として扱わないよう注意が必要です。所有者別状況(2025年12月31日現在)では、株主数は合計118人(その他の法人3人、個人その他115人。自己株式を保有する当社を含むとみられます)で、名簿を見ると社員持株会のほか、従業員・元従業員の株主が多数並んでいます。社内取締役5名の持株は合計942,000株です。
もう一つ見逃せないのが自己株式です。会社は普通株式367,100株(株式分割後)の自己株式を保有しており、発行済株式総数5,200,000株の約7.0%にあたります。1株当たり情報の算定にあたっての期中平均株式数は4,832,900株で、発行済株式総数から自己株式を除いた数と一致します。
スタンダード市場の形式要件には、株主数(上場時見込み400人以上)、流通株式数(2,000単位以上)、流通株式時価総額(10億円以上)、流通株式比率(25%以上)といった流動性の基準があります。流通株式の算定では、上場株式数の10%以上を所有する株主(主要株主)や役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含みます)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、そして自己株式などが流通株式から除かれます。自己株式や大株主・役員の持株が厚い会社は、公募・売出しの規模を含めて流通株式の確保を早めに試算しておく必要があります。数え方は流通株式比率の計算式と調べ方と流通株式数の数え方で詳しく扱っています。
配当政策にも触れておきます。システムエグゼは安定的・継続的な配当を基本とし、現在の1株当たり配当金を維持しつつ、連結配当性向40%以上と連結DOE(純資産配当率)3.5%以上の早期実現を目標に掲げています。第27期は1株当たり178円(A種優先株式も同額)、第28期は141円(同)の配当を行っており、定款では会社法第459条第1項に基づき取締役会決議で剰余金の配当等を決定できる旨を定めています。取締役会で配当を決められるようにするには、会計監査人設置会社であることや取締役の任期を1年とすることなどの要件がある点も、定款設計の際に押さえておきたいところです。
なお、A種優先株式は普通株式の配当額が優先配当額を超える場合に普通株式と同額の配当を受ける参加条項があり、近年の配当も同額だったため、1株当たり当期純利益の算定ではA種優先株式も普通株式と同等の株式として期中平均株式数に含めた、と注記されています。種類株式が残っている期間の1株当たり情報をどう計算するかは、Ⅰの部の作成時に監査法人と早めに協議しておきたい論点です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
コーポレート・ガバナンス――監査役会設置会社と任意の指名・報酬委員会
機関設計は監査役会設置会社です。取締役会は7名(常勤取締役5名と社外取締役2名)、監査役会は3名(常勤監査役1名と社外監査役2名)で構成され、会計監査人として太陽有限責任監査法人を選任しています。Ⅰの部は、この体制を採用した理由を「事業内容及び会社規模に鑑み」取締役会・監査役会・会計監査人を設置したと説明しています。役員は男性10名、女性0名です。
業務執行面では執行役員制度を採用し、社長執行役員を議長として全執行役員が出席する経営会議を原則毎週1回開催しています。取締役のうち社内の5名は、社長執行役員、副社長執行役員、専務執行役員(2名)、上席執行役員を兼ね、さらに4名の執行役員がアプリ受託・データ・インフラ・経営管理の各統括本部長を務める体制です。
図12 Ⅰの部「企業統治の体制の概要」をもとに簡略化して作成。指名・報酬委員会は2025年3月17日設置の任意の諮問機関
| 役職 | 氏名 | 主な経歴・役割(Ⅰの部より) |
|---|---|---|
| 代表取締役 社長執行役員 | 大場 康次 | 1998年入社、2019年代表取締役社長。取締役会・経営会議の議長 |
| 取締役 副社長執行役員 | 荻野 弘昭 | プロダクト事業・海外事業・営業担当。ベトナム子会社Chairman |
| 取締役 専務執行役員 | 後藤 清孝 | SI事業担当、医療ソリューション本部長 |
| 取締役 専務執行役員 | 藤林 隆司 | 経営基盤担当 |
| 取締役 上席執行役員 | 新船 幸広 | SI事業・R&D・クラウド担当 |
| 社外取締役 | 佐藤 健 | NTTグループで法務・コンプライアンス業務に従事 |
| 社外取締役 | 中山 裕之 | 金融機関のCIO・取締役、日本年金機構理事CIOなどを歴任 |
| 常勤監査役 | 中西 渉 | 2019年入社、2020年監査役(社外監査役ではない) |
| 社外監査役 | 高石 英明 | 総合商社、ITサービス企業の副社長、事業会社の取締役(監査等委員)などを歴任 |
| 社外監査役 | 西尾 江平 | 弁護士 |
社外役員は社外取締役2名・社外監査役2名の計4名で、Ⅰの部ではいずれも当社との間に人的関係又は取引関係その他の利害関係はないと記載されています。社外役員の独立性に関する基準は明確に定めていないものの、東京証券取引所の独立役員に関する基準等を参考にしているとの説明です。スタンダード市場の会社にはコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用され、原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)では独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かを参照してください。
取締役会は原則毎月1回開催され、最近事業年度は18回(書面決議1回を含む)開催されました。社内取締役5名と社外取締役の佐藤氏は18回すべてに出席し、2024年6月27日に選任された中山氏も就任後の14回すべてに出席しています。検討内容としては、事業計画、決算短信、剰余金の処分、組織・人員体制、役員人事・報酬、内部統制、コーポレート・ガバナンスなどが挙げられています。監査役会は月1回開催され、常勤の中西氏は13回すべて、高石氏は13回中12回、2024年6月就任の西尾氏は10回すべてに出席しています。
注目したいのは、2025年3月17日に設置された任意の指名・報酬委員会です。取締役会の諮問機関として、取締役・執行役員の選解任の方針と手続、代表取締役の選定・解職、社長・CEO等の後継者計画、個人別の報酬の方針や内容などを審議し、取締役会に答申します。委員は5名で、委員長は代表取締役 社長執行役員、ほかに社内取締役1名と独立社外役員3名(社外取締役2名と社外監査役1名)で構成され、独立社外役員が過半数を占めます。最近事業年度は3回開催され、全員が出席しています。
コーポレートガバナンス・コードの原則4-7(2026年7月改訂前は補充原則4-10①)は、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない会社に対し、指名や報酬などの特に重要な事項について、独立社外取締役の適切な関与・助言を得るため、独立した指名委員会・報酬委員会を設置することを求めています。システムエグゼは取締役7名のうち社外取締役2名という構成のため、上場前に任意の委員会を設けて独立社外役員の関与を確保した形です。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?もあわせてご覧ください。
役員報酬は、指名・報酬委員会の審議・答申を踏まえ、株主総会で定めた報酬総額の範囲内で取締役会が決定します。報酬は固定の基本報酬と業績連動報酬で構成され、基本報酬は情報通信事業者の動向を参考に役職に応じて定め、業績連動報酬は取締役報酬規程で定める計算式により算出すると記載されています。最近事業年度の報酬総額は、社外取締役を除く取締役5名が134百万円(基本報酬110百万円、業績連動報酬24百万円)、社外取締役2名が12百万円、監査役3名が22百万円でした。報酬の決定方針や決定方法の開示は有価証券報告書の記載事項であり、上場後も毎年開示が続きます。規程に計算式を置き、委員会の答申を経て取締役会で決めるという流れを上場前に作っておくことが、説明責任の基礎になります。
図13 Ⅰの部「役員の報酬等」より。業績連動報酬は取締役報酬規程で定める計算式により算出
関連当事者との取引については、連結財務諸表の注記で第27期・第28期とも「該当事項はありません」とされています。オーナー経営の期間が長い会社ほど、代表者個人や親族、その関係会社との取引が残りがちですが、上場審査では「企業経営の健全性」の観点から取引の必要性と条件の妥当性が確認されます。上場準備の早い段階で取引を洗い出し、必要のないものは解消しておくことが大切です。詳しくはIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。
このほか、非業務執行取締役及び監査役との責任限定契約(会社法第427条第1項)、取締役・監査役・執行役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険(D&O保険、会社法第430条の3第1項、保険料は全額会社負担)、取締役会決議による責任免除(同法第426条第1項)、株主総会の特別決議の定足数を議決権の3分の1以上とする定款の定め、取締役の定数(10名以内)と選任決議の要件、累積投票によらない旨なども記載されています。いずれも上場会社の定款・契約としては一般的な内容で、上場準備の段階で一通り整えておくべき項目のリストとして使えます。
内部監査・内部統制――2名体制の内部監査室と三様監査の仕組み
内部監査は、社長執行役員直轄の内部監査室が内部監査規程に則って実施しています。内部監査室は室長と室長補佐の計2名で構成され、被監査部門から不当な制約を受けないよう、被監査部門から独立した組織とされています。監査業務の統括責任者は内部監査室長で、監査ごとに室員の中から監査従事者を選任し、必要なときは室外の者を当該部門の長の承認を得て監査担当者に加えることができるとしています。子会社も内部監査の対象です。
報告経路も具体的です。内部監査室は期初にリスク要因や各部門の管理状況を考慮して年度計画を立案し、代表取締役の決裁を受けたうえで取締役会に報告します。期中に計画の重大な変更が必要になった場合も、代表取締役の決裁を経て取締役会に報告します。監査終了後は監査報告書を作成し、代表取締役ならびに取締役会に提出します。社長だけでなく取締役会にも直接報告が届く「デュアルレポーティング」の形をとっている点は、内部監査の独立性を説明するうえで参考になります。報告先の考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのかで詳しく解説しています。
図14 内部監査室は年度計画を代表取締役の決裁後に取締役会へ報告し、監査報告書を代表取締役と取締役会に提出します(Ⅰの部「監査の状況」)
三様監査の連携については、四半期に1度の「三様監査会議」で内部監査室・監査役会・会計監査人が情報交換や助言を行い、さらに毎月1度、監査役3名と内部監査室長・室長補佐の計5名が出席する「監査情報連携会議」を開催しています。常勤監査役は取締役会・経営会議・リスク・コンプライアンス委員会などの重要会議に出席し、内部監査室・財務経理部・会計監査人・社外取締役と定期的に協議して、その結果を監査役会で非常勤監査役に共有しています。会議体の名称・頻度・出席者まで具体的に書かれているので、自社の連携の仕組みを設計するときのひな形として使えます。三様監査の基本は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。
内部監査室が2名体制の場合、室員自身が所属していた部門や、内部監査室の業務そのものを誰が監査するかという「自己監査の回避」が論点になります。システムエグゼのⅠの部には、室外の者を部門長の承認を得て監査担当者に加えることができる仕組みが記載されています。少人数の内部監査部門では、こうした応援監査や相互監査のルールを規程に明記しておくことが実務上のポイントです。人数や兼務の考え方は内部監査の人数と体制と内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)も参考になります。
内部統制システムの基本方針では、執行役員制度の採用、経営基盤管掌役員をコンプライアンス担当役員とすること、J-SOXプロジェクトを設置して財務報告に係る内部統制の整備・運用状況を定期的に評価すること、文書管理規程、適時開示の所管部署、与信限度額の設定、職務分掌規程・職務権限規程などが挙げられています。反社会的勢力の排除については「反社会的勢力等排除規程」「反社会的勢力等の調査実施マニュアル」「反社会的勢力等対応マニュアル」を整備しています。
リスク管理とコンプライアンスは、リスク・コンプライアンス委員会が中心です。委員長は社長で、経営基盤管掌役員、経営管理本部長、法務・コンプライアンス室長が委員を務め、常勤監査役がオブザーバーとして出席します。四半期に1回以上(必要に応じて臨時)開催し、研修の実施や内部通報及びリスク事項の定期報告などを扱います。リスクは定期的に把握・評価して毎年度の事業計画に反映し、所管組織が管理したうえで委員会が進捗を監視する仕組みです。なお、サステナビリティに特化した委員会は設けず、この委員会で扱っていると記載されています。
子会社管理では、子会社主管部署が「海外子会社管理規程」に従って管理し、子会社には原則として取締役を派遣し、子会社ごとに事前承認事項と報告事項を取り決めています。ベトナム子会社は決算日が12月31日で、連結にあたっては同日現在の財務諸表を使用し、連結決算日との間に生じた重要な取引について必要な調整を行っています。海外子会社を持つ会社は、決算日の違い、現地の会計処理、管理規程の運用状況について、審査で説明を求められることが多い点を意識しておきましょう。
第28期の減益理由として「内部統制強化に伴う販管費の増加等」が挙げられていることはすでに触れました。J-SOXプロジェクトの設置や内部監査室の体制整備、リスク・コンプライアンス委員会の運営、指名・報酬委員会の設置など、上場前の1〜2年で管理体制を一気に整えた様子がⅠの部全体から読み取れます。上場後は内部統制報告制度の対象となり、新規上場後3年間は監査人による内部統制監査の免除を選択できる場合がありますが(資本金100億円以上または負債総額1,000億円以上の会社を除く)、経営者による評価は免除されません。進め方はJ-SOXの進め方にまとめています。
会計・開示の論点――進捗度による収益認識と係争中の訴訟
会計面で中心になる論点は、収益認識です。システムエグゼは契約を「受託開発」「SES業務」「派遣契約」「ライセンス販売」の4区分に分けて、それぞれ履行義務と収益認識の時点を整理しています。受託開発は、別の用途に転用できない資産が生じ、履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有するため、一定期間にわたり収益を認識し、進捗度は見積総原価に対する発生原価の割合(インプット法)で測定します。SES業務は、原則として顧客と相互確認した作業時間に基づいて収益を認識しますが、長期契約等で作業時間の相互確認が取れないものは見積総原価に対する発生原価の割合で測定します。派遣契約は相互確認した作業時間に基づき一定期間にわたり認識します。
ライセンス販売は、ライセンスの性質によって扱いが分かれます。使用権に該当するものは、納品後に正常に稼働することを確認した時点で一時点の収益を認識し、アクセス権に該当するものは契約期間にわたって収益を認識します。第29期中間期には大型のライセンス契約の開始時一括請求により前受金と前払費用が大きく増加しており、ライセンスの性質の判定が財務諸表に与える影響の大きさがうかがえます。
図15 Ⅰの部「重要な収益及び費用の計上基準」をもとに作成
重要な会計上の見積りとしては、進捗率の見積りを伴う一定期間にわたり充足される履行義務の収益認識が挙げられています。対象となる売上高は第27期5,359,186千円、第28期5,512,232千円、契約資産は第27期末1,131,904千円、第28期末966,127千円です。見積総原価は案件ごとの実行予算に基づいて算出し、主要な仮定は工数や外注費等です。品質が確保できない場合や期間内に完了しない場合には、追加対応の費用が想定を上回る可能性があると説明されています。
見積りに関連して、受注制作のソフトウエアの将来の損失に備える受注損失引当金(第28期末15,897千円)と、契約不適合責任等に備えて過去の実績を基礎に計上する製品保証引当金(第28期末 流動10,933千円、固定32,612千円)も計上されています。受託開発を行う会社では、実行予算の策定・見直しのルール、原価の集計(システムエグゼはプロジェクト別の個別原価計算)、不採算案件の早期把握が、収益認識と引当金の両面で審査の確認対象になります。上場審査で問われる収益認識もあわせてご覧ください。
図16 Ⅰの部「重要な会計上の見積り」「重要な引当金の計上基準」をもとに作成。金額は百万円未満四捨五入
| 契約区分(千円) | 第27期 2024/3 | 第28期 2025/3 | 第29期中間 | 第29期3Q累計 |
|---|---|---|---|---|
| 受託開発 | 3,424,960 | 3,414,480 | 1,623,829 | 2,385,935 |
| SES業務 | 6,443,535 | 6,646,197 | 3,648,721 | 5,443,448 |
| 派遣契約 | 375,141 | 319,629 | 145,869 | 219,464 |
| ライセンス販売 | 1,126,236 | 1,225,638 | 794,104 | 1,282,771 |
| 合計 | 11,369,874 | 11,605,945 | 6,212,524 | 9,331,621 |
開示面で特徴的なのは、係争中の訴訟です。会社は2023年11月、取引先に対して未受領の請負代金94,126千円の支払を求める訴訟を提起しました。これに対して取引先は2024年11月に反訴を提起し、契約解除に基づく既払い報酬金150,715千円の原状回復と損害賠償112,438千円、合計263,153千円の支払を求めています。会社は、システムは本稼働に至っており業務は完成していると主張しています。この件は「事業等のリスク」(発生可能性「中」、影響度「小」)、連結財務諸表の追加情報、偶発債務の注記の3か所で開示され、貸借対照表には長期未収入金94,126千円が計上されています。訴訟の結果を現時点で予測することは困難とされています。
係争案件がある場合、上場審査では事実関係、会計処理(債権の評価や引当の要否)、開示の網羅性が一体で確認されます。リスク情報、注記、貸借対照表の科目がそれぞれ整合するように開示箇所を整理しておくことが大切です。
図17 Ⅰの部「事業等のリスク」「追加情報」「偶発債務」の記載をもとに作成
そのほかの会計・開示の論点も確認しておきます。会計監査人は太陽有限責任監査法人で、継続監査期間は2年間、業務執行社員は2名、補助者は公認会計士3名・その他10名です。選定理由として、一定の規模と世界的なネットワーク、品質の高い監査体制、監査日数・監査費用の合理性、過去の実績が挙げられています。監査報酬は次のとおりです。
| 区分(百万円) | 監査証明業務 | 非監査業務 |
|---|---|---|
| 最近連結会計年度の前連結会計年度(提出会社) | 16 | 3(上場準備に係る監査契約締結のための予備調査業務) |
| 最近連結会計年度(提出会社) | 22 | - |
| 同一ネットワーク(太陽グラントソントン・アドバイザーズ)前年度 | - | 1(上場準備に関する助言・指導業務) |
監査契約の前に予備調査(いわゆるショートレビュー)を受け、その報酬が非監査業務として開示されている点は、上場準備の流れがそのまま表れている部分です。予備調査の位置付けはショートレビューとはで、監査法人の選び方とタイミングは監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
このほか、第27期まで連結の対象外とされていたタイ・ミャンマーの非連結子会社の清算、資産除去債務の見積りの変更(一部賃借オフィスの最終退去年限の決定による使用見込期間の変更、営業利益等への影響503千円の減少)、未適用の会計基準としてリース会計基準(企業会計基準第34号等)を2028年3月期の期首から適用予定で影響額は評価中であること、研究開発活動(社内の横断的な研究活動「EXE-Innovation」)は業務の一環として行うため研究開発費を区分して計上していないこと、などが記載されています。財務報告の適正性確保の取組みとしては、公益財団法人財務会計基準機構への加入が挙げられています。
資金面では、2025年10月に取引銀行4行とコミットメントライン契約(総額15億円、無担保)を結んでいます。単体の純資産を一定水準以上に維持することや、単体の経常損益を2期連続で損失としないことを内容とする財務制限条項が付されており、「重要な契約等」に記載されています。上場準備会社が借入契約を結ぶときは、財務制限条項の内容を開示する前提で条件を確認しておくとよいでしょう。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
「事業等のリスク」では13項目が挙げられ、各項目に発生可能性・影響度・発生時期が付されています。発生時期はいずれも「特定時期なし」です。影響度「大」とされたのは、特定仕入先への依存、システム・サービスの不具合、優秀な技術者の確保、法的規制等、セキュリティ管理、人権、事業環境の変化の7項目です。
このうち実務上の関心が高いのは、特定顧客への依存(発生可能性・影響度とも「中」)です。三井不動産グループ向けの売上高は、2025年3月期で2,763,594千円、連結売上高の23.8%を占めています。特定の顧客グループへの依存度が高い場合、審査では取引の継続性、取引条件の妥当性、依存度を下げる方針などを説明できるようにしておく必要があります。システムエグゼは顧客を主要顧客と戦略顧客に層別し、売上高上位30社の売上推移をKPIとして管理しています。
ビジネスパートナーの確保(発生可能性・影響度とも「中」)も重要です。売上原価に占める外注費の割合は約6割強とされ、単体の売上原価明細では第28期の外注費が5,442,464千円(64.8%)でした。外注依存度が高いビジネスでは、偽装請負の防止、労働者派遣法や中小受託取引適正化法などの法令遵守、外注先の品質管理が論点になります。会社は事業等のリスクの中で、内部監査室が子会社を含めて法令遵守状況を監査していると記載しています。
図18 Ⅰの部「事業等のリスク」で各項目に付された発生可能性・影響度を整理(発生時期はいずれも「特定時期なし」)
システムの不具合(発生可能性「中」、影響度「大」)に対しては、独自の開発標準体系「ExecTORA(エグゼクトラ)」に基づく品質保証体系、プロジェクトガイドライン、局面レビュー、相互チェック、品質指標の検証を行い、プロジェクト品質向上委員会を設けて品質を管理していると説明されています。第29期の中間期と第3四半期累計には特別損失としてシステム障害対応費用(第3四半期累計29,987千円)が計上されており、受託開発の品質管理は損益にも直結する論点です。
スタンダード市場の実質審査では、「企業の継続性及び収益性」の観点から、こうした事業上のリスクを踏まえても安定的に利益を計上できるかが確認されます。リスクの記載は、発生可能性と影響度を付したうえで、会社の対応策まで書くことが一般的になっています。自社のリスク項目を洗い出すときは、事業計画の前提と結び付けて整理するとよいでしょう。
システムエグゼの事例から上場準備会社が学べること
ここまでの内容を、上場準備会社の実務に引き直して整理します。
- 種類株式は取得条項で一括して普通株式化し、消却と定款変更までをセットで計画する。システムエグゼは取得・交付・消却を同日に行い、臨時株主総会で種類株式の定めを廃止しました。
- 株式分割と単元株制度の導入は上場申請前に済ませる。1対10の分割と単元株100株の導入、発行可能株式総数の変更を同じ臨時株主総会で決議しています。
- 独立社外役員が過半数の任意委員会を上場前に設置する。取締役会の過半数が社外取締役でない会社は、指名・報酬の決定プロセスに独立社外役員を関与させる仕組みが必要です。
- 内部監査の報告先に取締役会を入れ、三様監査を会議体として運営する。年度計画と監査報告書を取締役会に届け、月次と四半期の会議で監査役・会計監査人と連携しています。
- 上場準備コストによる減益は、理由を具体的に説明する。「内部統制強化に伴う販管費の増加」と明記することで、利益水準の変化を読み手が判断できます。
- 受託開発の収益認識は、実行予算と原価集計の仕組みとセットで整える。進捗度の見積りは重要な会計上の見積りとして開示され、受注損失引当金とも連動します。
- 係争案件はリスク情報・注記・貸借対照表で一貫して開示する。事実関係、会計処理、開示箇所を一つの表で管理しておくと、審査対応がスムーズです。
- 特定顧客依存や外注依存は、KPIと管理方針で説明する。上位30社売上やオフショア活用比率のように、依存度の管理状況を数値で示せるようにしておきます。
- 種類株式がある場合、取得条項の有無・転換比率・消却と定款変更の時期を資本政策表に落とし込んでいるか
- 株式分割・単元株制度・発行可能株式総数の変更を、上場スケジュールのどの株主総会で決議するか決めているか
- 社外取締役が過半数に満たない場合、独立社外役員が過半数の指名・報酬委員会を設置しているか
- 内部監査の年度計画と監査報告書が、代表取締役だけでなく取締役会にも届く仕組みになっているか
- 受託開発案件の実行予算・見積総原価の見直しルールと、受注損失引当金の判定手続を文書化しているか
- 係争案件・特定顧客依存・外注依存について、事業等のリスク・注記・KPIで一貫した説明ができるか
よくある質問
上場する株式は普通株式であり、優先配当などの権利が付いた種類株式を残したまま上場するケースは一般的ではありません。システムエグゼは定款の取得条項に基づいてA種優先株式を取得し、1株につき普通株式1株を交付したうえで消却し、臨時株主総会で種類株式の定めを廃止しました。転換の方法や時期は、主幹事証券や監査法人と早めに協議して資本政策に組み込んでおくことをおすすめします。
人数そのものよりも、独立性が確保され、計画どおりに監査が実施され、結果が経営者と取締役会に報告されているかが重視されます。システムエグゼの内部監査室は室長と室長補佐の2名体制で、必要に応じて室外の者を監査担当者に加える仕組みを設けています。自己監査を避けるルールを規程に明記しておくことが大切です。
上場準備に伴う管理部門の増員や監査報酬、内部統制の整備費用で一時的に利益が減ることは珍しくありません。重要なのは、減益の理由を具体的に説明でき、その後の利益計画に合理的な根拠があることです。システムエグゼはⅠの部で減益の理由を「内部統制強化に伴う販管費の増加等」と記載しています。
訴訟があることだけで上場できないわけではありません。訴訟の内容と見通し、会計処理、開示が適切かどうかが確認されます。システムエグゼは係争中の訴訟について、事業等のリスク、追加情報、偶発債務の注記で開示しています。
最初の一歩は、自社の株式と管理体制の「整理リスト」を作ることから
システムエグゼの事例が示すように、黒字で事業基盤が安定している会社でも、上場前には種類株式の整理、株式分割、任意委員会の設置、内部監査と三様監査の運営、収益認識の見積りの整備など、やるべきことが数多くあります。まずは、自社の株式(種類株式、自己株式、株主構成)と管理体制(機関設計、内部監査、規程、会計方針)の現状を一覧にし、上場申請までに「何を、いつまでに、どの会議体で決めるか」を整理するところから始めてみてください。全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考になります。
無料ダウンロード
システムエグゼのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
システムエグゼの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
株式会社システムエグゼは、1998年設立の独立系SIerとして黒字経営を続け、2026年4月6日に東証スタンダード市場に上場しました。Ⅰの部からは、投資育成会社が保有していたA種優先株式を取得条項で普通株式化して消却し、1対10の株式分割と単元株制度の導入を経て上場に臨んだ資本政策の流れ、任意の指名・報酬委員会の設置や2名体制の内部監査室と三様監査の会議体の運営といったガバナンス・内部管理の整備、そして進捗度による収益認識、受注損失引当金、係争中の訴訟の開示といった会計・開示の論点を具体的に読み取ることができます。
特に、内部統制の強化に伴うコストを減益の理由として明記している点は、上場準備に投資する会社にとって参考になる開示です。上場準備会社の方は、本記事のチェックリストを使って、自社の株式と管理体制の整理状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
あわせて読みたい