※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
2026年3月25日、BtoBマーケティングのワークフローツール「ferret One」と、フォーム作成・管理ツール「formrun」を提供する株式会社ベーシック(証券コード519A)が東証グロース市場に上場しました。同社は2004年の設立で、創業以来50を超える事業を手がけてきた会社です。2023年12月期・2024年12月期は赤字でしたが、2025年12月期には営業黒字に転じており、A種からD種まで4種類の優先株式を発行してきた資本政策、取締役5名のうち4名が社外取締役という監査等委員会設置会社のガバナンス、3名体制で自己監査を避ける内部監査など、上場準備会社にとって参考になる論点が数多く含まれています。
結論からいえば、ベーシックのⅠの部から学べるのは、①複数回の減資と欠損填補、優先株式の一斉の普通株式化、1対15の株式分割という「上場に向けた資本の整理」の進め方、②業務執行取締役を代表取締役1名に絞り、社外取締役4名と執行役員4名で監督と執行を分けた機関設計、③赤字から黒字への転換局面で、繰延税金資産の回収可能性を「重要な会計上の見積り」として段階的に開示した会計対応、④代表取締役による借入金の債務保証の解消や社外取締役との取引の開示といった関連当事者の整理、の4点です。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の記載をもとに、これらを上場準備の実務の目線で整理します。
この記事の見出し
- ベーシックはどのような会社で、どの市場に上場したのか
- 何で稼いでいるのか──2つのプロダクトとサブスクリプション中心の収益モデル
- 50を超える事業から2つのSaaSへ──沿革と上場までの道のり
- 業績はどう推移したのか──2期の赤字と2025年12月期の黒字転換
- 資本政策と株主構成──4種類の優先株式と3回の減資をどう整理したか
- コーポレート・ガバナンス──業務執行取締役は1名、社外取締役は4名
- 内部監査・内部統制──3名体制で自己監査を避ける仕組み
- 会計・開示の論点──収益認識と繰延税金資産の回収可能性
- 事業等のリスクと、審査で問われやすい点
- ベーシックの事例から上場準備会社が学べること
- この事例を踏まえたチェックリスト
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
ベーシックはどのような会社で、どの市場に上場したのか
まず、会社と上場の概要を確認します。ベーシックは、マーケティング・営業・カスタマーサクセスといった「フロントオフィス」のワークフローを、「見える化」「標準化」「自動化」することを支援する会社です。Ⅰの部では自社を「事業の成長を人の数で解決しない」を掲げるワークフローカンパニーと位置付けており、セグメントは「ワークフロー事業」の単一セグメントです。子会社はなく(関係会社の状況は「該当事項はありません」)、財務諸表は単体のみで作成されています。
設立は2004年3月で、東京都千代田区平河町で創業しました。代表取締役の秋山勝氏は創業者で、設立以来代表取締役を務めています。決算期は12月で、Ⅰの部の「最近事業年度」は第21期(2024年12月期)です。上場が2026年3月なので、2025年12月期が申請直前の事業年度にあたり、Ⅰの部ではこの2025年12月期の財務諸表も「その他」の項目に掲載されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社ベーシック(英訳名 Basic Inc.) |
| 証券コード・市場 | 519A・東証グロース市場 |
| 上場日 | 2026年3月25日 |
| 本店所在地 | 東京都千代田区一番町 |
| 代表者 | 代表取締役 秋山 勝(創業者) |
| 設立 | 2004年3月 |
| 決算期 | 12月(最近事業年度は第21期=2024年12月期) |
| 事業 | ワークフロー事業(単一セグメント)。主力は「ferret One」「formrun」 |
| 従業員数 | 111名(臨時35名・外数、2026年1月31日現在)、平均年齢33.5歳、平均勤続年数4.9年 |
| 機関設計 | 監査等委員会設置会社(2018年3月に移行) |
| 会計監査人 | 監査法人Growth |
| 連結の有無 | 子会社なし(単体のみ) |
従業員の状況には、女性活躍推進法等に基づく指標も記載されています。管理職に占める女性労働者の割合は12.1%、男性労働者の育児休業取得率は100%、男女の賃金の差異は全労働者で66.5%(正規雇用労働者79.2%、非正規雇用労働者87.0%)と開示されています。労働組合はありません。こうした人的資本関連の指標は、上場後の有価証券報告書でも継続して開示することになるため、上場準備の段階から集計方法を固めておくことが大切です。
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何で稼いでいるのか──2つのプロダクトとサブスクリプション中心の収益モデル
ベーシックの事業は、大きく3つの柱で構成されています。1つめは「ferret One」です。Webサイトを起点にしたBtoBマーケティングのワークフローツールで、ノーコードで扱えるCMS(Webサイトの作成・更新)とMA(マーケティングオートメーション)を組み合わせ、外部のSFA/CRMとの連携やAI機能も備えています。Ⅰの部によれば、2025年12月末時点で500社以上が利用しています。
2つめは「formrun」です。フォームを起点にしたワークフローツールで、ノーコードでのフォーム作成、問い合わせ等をカンバン形式で管理する機能、決済や日程調整(bookrun)などのアプリ拡張、2025年6月に提供を開始したAIメールアシスタントなどを備えています。2025年12月末時点で5,000社以上が利用し、無料ユーザーを含めた累計ユーザーは50万を超えたと記載されています。
3つめは、ferret SOLをはじめとするプロフェッショナルサービスです。ツールの導入支援、運用設計、コンサルティングを提供し、プロダクトと組み合わせて顧客の成果につなげる位置付けです。
図1 2つのプロダクトとプロフェッショナルサービスを組み合わせ、サブスクリプション型とソリューション型で収益を得る構造(Ⅰの部の記載をもとに作成)
収益モデルは、①月額課金のサブスクリプション型と、②導入支援・運用コンサルティング等のソリューション型の2つです。Ⅰの部の販売実績では、2024年12月期の売上高1,821,522千円のうち、サブスクリプション型が1,415,067千円(前期比119.89%)、ソリューション型が406,454千円(同107.10%)でした。サブスクリプション型の比率は2023年12月期75.67%、2024年12月期77.68%と記載されており、売上の約8割が継続課金型という構造です。2025年12月期の収益の分解情報でも、サブスクリプション型1,746,746千円、ソリューション型528,890千円となっています。
図2 サブスクリプション型とソリューション型の売上高(千円)。2025年12月期は収益の分解情報の数値(Ⅰの部をもとに作成)
主要な販売先については、総販売実績の10%以上を占める相手先がないため記載が省略されています。貸借対照表の「主な資産及び負債の内容」を見ても、売掛金の上位5社はいずれも数百万円規模で、その他が大半を占めています。特定顧客への依存がない点は、IPO審査における事業の安定性の観点からはプラスに働く要素です。一方で、事業等のリスクでは「ferret One」「formrun」の2プロダクトに売上が大きく依存していることを「特定サービスへの依存」として掲げており、顧客の分散とプロダクトの集中という2つの側面を分けて説明しています。
経営上の重要な指標(KPI)としては、MRR(月次経常収益)を重視し、有料顧客(ユーザー)数、顧客(ユーザー)単価、解約率をモニタリングしていると記載されています。注記では、formrun・bookrunについて財務会計上は日次で収益を計上しているものの、KPIとしてのMRRは決算調整前の管理会計上の月額利用料を用いていると説明されています。KPIが管理会計ベースか財務会計ベースかを明示しておくことは、開示上の誤解を避けるうえで重要なポイントです。
成長戦略としては、①新規獲得やAI機能強化によるアップセルでMRRを伸ばす「オーガニック成長」、②2026年1月に正式提供を開始したワークフロー構築ツール「workrun」やAIプラットフォーム「AIBOW」、開発中のAIチャットボット「askrun」を既存の顧客基盤と連携させる「コンパウンド戦略」、③従業員100名以上の企業との取引が1,000社規模あることを踏まえた「既存大手顧客の深耕」の3本柱が示されています。差別化要因として、社内アンケートで従業員の100%がAIを活用し、約70%が自ら自動ワークフローを構築していること、2023年12月末から2024年12月末にかけて一人当たり売上高が約20%改善したことも記載されています。一人当たり売上高の定義(直近3カ月平均売上高÷正社員・契約社員の直近3カ月平均人数)が注記で明記されている点は、独自指標を開示する際の参考になります。
図3 MRRを伸ばすための3つの成長戦略と、あわせてモニタリングする指標(Ⅰの部「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をもとに作成)
50を超える事業から2つのSaaSへ──沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、ベーシックは最初からSaaS企業だったわけではありません。2004年5月に引越し一括見積もり比較サイト「引越しネット」をオープンし、2007年7月にキーワード検索エンジン「Ferret」、2008年から2010年にかけて「Ferret PLUS」「Ferret SEO」「Ferret Web」を展開しました。2014年9月にWebマーケティングメディア「ferret」をオープンし、同年10月にβ版をリリースしたMAツール「Homeup!」を2016年7月に「ferret One」へ改称しています。
もう一つの主力であるformrunは、M&Aによって取り込んだ事業です。2017年12月にformrunを運営していたmixtape合同会社を完全子会社化し、2018年6月に同社から事業譲渡を受けました。mixtape合同会社は2018年6月に清算されています。子会社として持ち続けるのではなく、事業を本体に取り込んで子会社を清算したことで、上場時点では単体のみの開示となっています。
2020年12月には比較メディア事業を売却しました。第17期(2020年12月期)の当期純利益864,380千円は、この事業譲渡に伴う特別利益によるものと注記されています。その後、2021年6月にformrun累計ユーザー10万突破、同年9月にferret One累計顧客1,000社突破、2023年7月に日程調整ツール「bookrun」リリース、2025年8月にformrun累計ユーザー50万突破と続き、2026年1月にworkrunとAIBOWをリリースしています。
図4 設立から上場までの主な出来事(Ⅰの部の沿革・資本金等の推移をもとに作成)
上場準備会社の目線で見ると、事業の入れ替えが多い会社ほど、Ⅰの部の沿革と「事業の内容」で「いま何の会社なのか」を一貫して説明することが求められます。ベーシックの場合、売却した比較メディア事業による特別利益で第17期は黒字ですが、その後は売上高が964,697千円(第18期)に下がり、そこから再成長する形になっています。事業売却や事業譲受があった期の前後で数値の連続性が途切れることは珍しくありません。その理由を沿革・業績推移・MD&Aでそろえて説明できるよう準備しておくことが大切です。上場準備全体の流れは、IPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
業績はどう推移したのか──2期の赤字と2025年12月期の黒字転換
次に業績の推移です。Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」と、「その他」に掲載された2025年12月期の財務諸表から、直近5期の主な数値を整理すると次のとおりです。
| 項目(千円) | 2021/12期 | 2022/12期 | 2023/12期 | 2024/12期 | 2025/12期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 964,697 | 1,235,706 | 1,559,851 | 1,821,522 | 2,275,636 |
| 営業損益 | - | - | △435,561 | △184,361 | 270,468 |
| 経常損益 | △637,307 | △823,494 | △440,433 | △196,095 | 264,652 |
| 当期純損益 | △552,179 | △825,656 | △424,387 | △162,536 | 344,961 |
| 純資産 | 1,570,912 | 964,412 | 539,778 | 376,744 | 721,705 |
| 総資産 | 1,849,772 | 1,314,663 | 1,279,120 | 1,038,254 | 1,163,530 |
| 営業CF | - | - | △432,265 | △257,654 | 232,690 |
※2021/12期・2022/12期は会社計算規則に基づく数値で、上場規程に基づく監査を受けていない旨が注記されています(キャッシュ・フロー計算書も作成していないため営業CFは記載なし)。2023/12期・2024/12期は財務諸表等規則に基づき作成され、監査法人Growthの監査を受けています。2025/12期は「その他」に掲載された財務諸表の数値で、2026年2月12日の取締役会で承認されたものです(Ⅰの部提出時点では監査未了)。
図5 売上高と経常損益の推移(2021年12月期〜2025年12月期、百万円、破線は0)。2021・2022年12月期は上場規程に基づく監査を受けていない数値、2025年12月期は「その他」に掲載された財務諸表の数値
売上高は2021年12月期の964,697千円から、2025年12月期には2,275,636千円まで伸びています。2024年12月期の増収率は16.8%、2025年12月期は前期の1,821,522千円から約24.9%の増収です。一方で利益面は、2022年12月期の経常損失823,494千円をボトムに、2023年12月期△440,433千円、2024年12月期△196,095千円と赤字幅を縮小し、2025年12月期に経常利益264,652千円の黒字に転じています。
MD&Aでは、2024年12月期の損失について、先行投資としての人件費・広告宣伝費等の回収に至っていないことが要因と説明されています。同期の販管費は1,595,659千円で前期比2.7%減となっており、人件費は増えたものの外注費を中心に削減したと記載されています。2025年12月期は販管費が1,554,057千円とさらに減少し、売上総利益1,824,526千円がこれを上回ったことで営業利益270,468千円を計上しました。売上原価明細書では、労務費の構成比が36.3%から23.6%に下がり、外注費が144,325千円から231,709千円へ増えたことも読み取れます。
当期純利益は2025年12月期に344,961千円と、経常利益264,652千円を上回っています。これは法人税等調整額△82,599千円により法人税等合計が△80,309千円(マイナス)となったためで、繰延税金資産の計上が利益を押し上げています。この点は後ほど「会計・開示の論点」で詳しく取り上げます。
グロース市場では「赤字でも上場できる」が、説明が要る
グロース市場には利益の額に関する形式基準がなく、直前期が赤字でも上場申請は可能です。その代わりに、事業計画とその根拠、成長可能性に関する事項を開示し、上場後も継続的に説明していくことが求められます。ベーシックのケースでは、2023年12月期・2024年12月期の2期が赤字で、2025年12月期に黒字化しています。「対処すべき課題」の⑤財務上の課題として、2025年12月期は営業利益・経常利益ともに黒字であり、現時点で重要な課題はないとしたうえで、内部留保による財務基盤の強化を掲げています。
赤字から黒字への転換局面で上場する会社では、審査上、黒字化の要因が一時的なものか持続的なものか、事業計画の前提(顧客数、単価、解約率、採用計画、広告宣伝費)が合理的か、といった点が確認されます。ベーシックがKPIとしてMRRや有料顧客数、顧客単価、解約率を掲げているのは、サブスクリプション型の収益の積み上がりで黒字化を説明する構造になっているためと読めます。成長可能性の説明の考え方は、グロース市場の「高い成長可能性」とはやIPO審査の「事業計画の合理性」で詳しく解説しています。
財政状態の面では、借入金の圧縮が目立ちます。長期借入金(1年内返済予定分を含む)は2023年12月期末の506,129千円から、2024年12月期末433,352千円、2025年12月期末177,600千円に減少しました。MD&Aでは2025年の第3四半期に、資金余力を踏まえて通常の返済に加えて繰上返済を実施したと記載されています。借入金はいずれも変動金利で、2024年12月期の平均利率は1年内返済予定分3.5%、長期分3.7%と開示されています。2025年12月期の営業キャッシュ・フローは232,690千円のプラスで、財務キャッシュ・フロー△255,752千円(長期借入金の返済)をおおむね賄っています。
資本政策と株主構成──4種類の優先株式と3回の減資をどう整理したか
ベーシックの資本政策は、上場準備会社にとって学びの多い事例です。Ⅰの部の「発行済株式総数、資本金等の推移」と「株式公開情報」から、主な動きを時系列で整理します。
図6 減資、優先株式の発行・整理、株式分割、ストック・オプションの動き(株数は分割前、行使価額等は分割後。Ⅰの部をもとに作成)
3回の減資と欠損填補で資本の部を整えた
ベーシックは2020年6月、2021年12月、2022年10月の3回にわたり減資を行っています。2020年6月1日の減資(2020年3月30日の定時株主総会決議)で資本金を435,595千円減らして100,000千円とし、2021年12月31日の減資(2021年11月29日の臨時株主総会決議)で資本金691,555千円・資本準備金1,027,150千円を減らして資本金10,000千円・資本準備金100,000千円に、2022年10月10日の減資(2022年8月24日の臨時株主総会決議)では資本金・資本準備金をそれぞれ123,462千円減らし、再び資本金10,000千円・資本準備金100,000千円としています。いずれも目的は「今後の資本政策の柔軟性及び機動性を確保すること」と記載されています(資本金の減少は会社法447条1項、資本準備金の減少は同448条1項の手続によります)。
さらに2025年12月期の株主資本等変動計算書では、その他資本剰余金1,145,286千円を取り崩して繰越利益剰余金のマイナスを填補しています。この結果、2025年12月期末の繰越利益剰余金は当期純利益と同額の344,961千円となり、その他資本剰余金は266,744千円となりました。欠損填補によって利益剰余金のマイナスを解消しておくことは、貸借対照表の見え方(繰越利益剰余金のマイナス表示の解消)や、上場後の配当方針を説明しやすくする観点から検討されることの多い手続です。なお、その他資本剰余金からの振替であるため、分配可能額そのものは変わりません。なお、ベーシックは配当政策について、当面は内部留保の充実を図り、配当の実施の可能性や時期は未定としています。
図7 減資の目的はいずれも「今後の資本政策の柔軟性及び機動性を確保すること」(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「株主資本等変動計算書」をもとに作成)
A種〜D種の優先株式はどう整理されたか
ベーシックはA種からD種までの優先株式を発行してきました。A種優先株式40,000株は、A種優先株主による株式買取請求権の行使を受けて2021年4月14日付で自己株式として取得し、同日の取締役会決議で消却しています。その後、2021年5月13日にC種優先株式14,450株(発行価格13,840円、割当先 i-nest1号投資事業有限責任組合)、2021年12月6日にD種優先株式48,790株(発行価格20,560円、割当先 One Capital1号・One Capital DX1号・HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUNDの各投資事業有限責任組合、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社、i-nest1号投資事業有限責任組合)、2022年2月28日にD種優先株式12,010株(発行価格20,560円、割当先 みずほ成長支援第4号投資事業有限責任組合、SMBCベンチャーキャピタル6号投資事業有限責任組合、株式会社R Squared、りそなキャピタル6号投資事業組合、i-nest1号投資事業有限責任組合)を発行しています。
そして2025年11月25日の臨時株主総会及び各種類株主総会で、B種・C種・D種優先株式に関する定款の定めを廃止し、同日付で全ての優先株式(B種27,343株、C種14,450株、D種60,800株)を普通株式に変更しました。変更は1対1で行われ、発行済株式は普通株式333,593株となっています。続いて2025年12月11日に普通株式1株を15株とする株式分割を行い、発行済株式総数は5,003,895株となりました。あわせて単元株制度(100株)を採用し、発行可能株式総数を20,010,000株としています。
図8 B種・C種・D種優先株式の普通株式への変更と株式分割による株式数の変化(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに作成)
優先株式を上場前に普通株式へ戻す方法には、取得条項に基づいて会社が取得し対価として普通株式を交付する方法と、定款変更により種類株式の定めを廃止して普通株式に変更する方法などがあります。ベーシックは後者の方式をとっています。いずれの方式でも、各種類株主総会の決議や投資契約上の同意など、手続の段取りを主幹事証券・弁護士と早めに詰めておくことが重要です。考え方は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかやみなし清算条項も参考になります。
優先株式が残っている間の1株当たり情報の扱いも特徴的です。1株当たり純資産額は、優先株主に対する残余財産の分配額を控除して算定しているため、2023年12月期△363.85円、2024年12月期△410.76円とマイナスで表示されています。一方、1株当たり当期純損益の算定では、B・C・D種優先株式は剰余金の配当請求権について普通株式と同等の権利を有しているため、普通株式と同等の株式として扱っていると注記されています。種類株式を発行している会社では、1株当たり情報の注記の作り方を監査法人と事前にすり合わせておく必要があります。
株主構成──創業者が約4割、VC等が約2割
Ⅰの部の「株主の状況」(新株予約権による潜在株式を含めた合計5,418,495株ベース)によると、上位株主は次のとおりです。
| 順位 | 株主 | 所有株式数(株) | 割合 |
|---|---|---|---|
| 1 | 秋山 勝(代表取締役) | 1,882,185 | 34.74% |
| 2 | One Capital1号投資事業有限責任組合 | 423,720 | 7.82% |
| 3 | 瀧日 伴則 | 375,000 | 6.92% |
| 3 | 塚田 耕司 | 375,000 | 6.92% |
| 3 | 株式会社SMK(代表取締役の資産管理会社) | 375,000 | 6.92% |
| 6 | トランス・コスモス株式会社 | 351,555 | 6.49% |
| 7 | i-nest1号投資事業有限責任組合 | 265,050 | 4.89% |
| 8 | 株式会社セプテーニ | 229,695 | 4.24% |
| 9 | One Capital DX1号投資事業有限責任組合 | 182,325 | 3.36% |
| 10 | HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND投資事業有限責任組合 | 72,960 | 1.35% |
図9 株式総数+潜在株式(合計5,418,495株)に対する割合。橙=代表取締役と資産管理会社、青=投資事業有限責任組合等、緑=事業会社、灰=個人(Ⅰの部「株主の状況」をもとに作成)
代表取締役の秋山氏は、個人と資産管理会社の株式会社SMKをあわせて2,257,185株を保有しており、役員の状況に記載された所有株式数と一致します。2024年12月期の関連当事者注記では、議決権の被所有割合は直接37.6%・間接7.5%と記載されています。親会社等はなく、事業等のリスクでは「特定人物への依存」として、創業者である秋山氏への依存を発生可能性「中」・影響度「大」と自己評価しています。
VC等については、事業等のリスクに、発行済株式総数5,003,895株のうち投資事業有限責任組合等が保有する株式が1,155,810株、公募前の発行済株式総数の23.1%であることが記載され、発生可能性は「高」とされています。VCは上場後に保有株式を売却することが一般的であるため、その旨を投資家に向けて開示しているものです。事業会社の株主としては、B種優先株式に由来するトランス・コスモス株式会社のほか、株式会社セプテーニ、株式会社ベクトル、株式会社Hakuhodo DY ONEなどが名を連ねています。
退職者の株式は「取得価額」で移動
「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2023年2月28日に当社元役員の林宏昌氏からOne Capital1号投資事業有限責任組合へ15,975株(13,845,000円)、One Capital DX1号投資事業有限責任組合へ6,405株(5,551,000円)が、いずれも1株866円(分割後換算)で譲渡されたことが記載されています。理由は「所有者の当社退職による譲渡」で、注記では2022年2月14日の譲渡時の株式譲渡契約に則り、取得価額で譲渡したと説明されています。2024年4月30日には、当社元従業員から代表取締役の秋山氏へ1,440株(1,248,000円、1株866円)が、同じく退職による譲渡として、2023年7月1日の譲渡時の株式譲渡契約に則り取得価額で移動しています。
図10 特別利害関係者等の株式等の移動状況のうち退職に伴う譲渡(Ⅰの部「株式公開情報」をもとに作成)
役職員に株式を持たせる場合、退職時の買取条項(誰が、いくらで買い取るか)をあらかじめ契約で定めておくことで、株主の分散や価格をめぐるトラブルを防ぐことができます。上場前の一定期間の株式移動はⅠの部で開示され、価格の妥当性が審査でも確認されるため、「契約に基づく取得価額での譲渡」という根拠を示せるようにしておくことが大切です。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。
ストック・オプションは5回分が残存、信託型は消滅
2026年1月31日時点で残っている新株予約権(ストック・オプション)は、第1回・第4回・第5回・第8回・第10回の5回分です。株式数・行使価額は株式分割後の数値です。
| 回 | 決議日 | 当初の付与対象 | 目的株式数(2026/1/31) | 行使価額 | 2026/1/31の対象者 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1回 | 2017/6/26 | 役員3名・従業員110名 | 4,650株 | 657円 | 元従業員2名 |
| 第4回 | 2018/1/29 | 取引先アドバイザー(個人)2名 | 14,400株 | 724円 | 元取引先アドバイザー1名 |
| 第5回 | 2020/3/30 | 役員1名・従業員82名 | 915株 | 740円 | 元従業員5名 |
| 第8回 | 2021/7/2 | 取締役5名・従業員61名 | 95,790株 | 219円 | 取締役4名・従業員35名・元従業員1名 |
| 第10回 | 2024/12/13 | 従業員92名 | 298,845株 | 219円 | 従業員84名・元従業員1名 |
このほか、コタエル信託株式会社を受託者とする信託に割り当てた第7回新株予約権(有償新株予約権)と、2023年3月31日に従業員15名に付与した第9回新株予約権は、2024年12月期末時点で全部消滅しています。第10回は2024年12月31日に従業員92名へ付与され、行使期間は2026年12月31日からです。第三者割当等の概況によれば、行使価額はDCF法及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案して決定され、取得者との間で上場前の継続保有に関する確約(有価証券上場規程施行規則に基づくもの)が結ばれています。
行使条件として、株式の上場までは原則として行使できないこと、権利者が生存していること(相続不可)などが定められています。会計処理では、未公開企業として単位当たりの本源的価値で公正な評価単価を見積もっており、本源的価値がゼロであったため費用計上は行われていません。2023年12月期・2024年12月期末の本源的価値の合計額は「-円」でしたが、2025年12月期末には7,734千円と記載されています。潜在株式(新株予約権414,600株)は、株式総数+潜在株式の7.65%にあたります。
上場準備会社にとっては、SOの行使価額を決める際の株価算定方法(DCF法、類似会社比準方式など)と、直近の第三者割当の価格との関係を説明できるようにしておくことが重要です。また、信託型SOについては課税関係の取扱いが整理された経緯もあり、制度選択の段階から税務の専門家と検討しておく必要があります。税制適格ストックオプション、未上場株式の株価算定はどの方法を使うかもあわせてご覧ください。
コーポレート・ガバナンス──業務執行取締役は1名、社外取締役は4名
ベーシックは2018年3月に監査等委員会設置会社へ移行しています。取締役は5名で、監査等委員でない取締役が代表取締役の秋山勝氏と社外取締役の早見泰弘氏の2名、監査等委員である取締役が畠山清治氏(常勤)、大西秀亜氏、菅沼匠氏の3名です。監査等委員3名はいずれも社外取締役で、取締役5名のうち4名が社外取締役という構成です。Ⅰの部では、社外取締役4名全員を独立役員として届け出る予定と記載されています。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部の記載から抜粋) |
|---|---|---|
| 代表取締役 | 秋山 勝 | トランス・コスモス等を経て2004年に当社を設立し代表取締役(現任) |
| 取締役(社外) | 早見 泰弘 | トランス・コスモス常務執行役員等を経て、2014年ワイズ設立・代表取締役(現任)。2018年3月当社社外取締役 |
| 取締役(常勤監査等委員・社外) | 畠山 清治 | ネットワークサービスアンドテクノロジーズ取締役・監査役、スタートトゥデイ(現ZOZO)監査役等を経て、2020年7月当社社外取締役(監査等委員) |
| 取締役(監査等委員・社外) | 大西 秀亜 | 富士銀行、ファーストリテイリング執行役員CFO等を経て、アバージェンス代表取締役(現任)。2018年4月当社社外取締役(監査等委員) |
| 取締役(監査等委員・社外) | 菅沼 匠 | 監査法人トーマツ、公認会計士・弁護士登録を経て、リンクパートナーズ法律事務所代表パートナー(現任)。2018年4月当社社外取締役(監査等委員) |
図11 取締役5名のうち4名が社外取締役。業務執行は代表取締役と執行役員・執行会が担う(Ⅰの部のコーポレート・ガバナンスの記載をもとに作成)
業務執行は、取締役ではない執行役員4名(コーポレート部門長、ferret事業部長、run事業部長ほか)が担います。代表取締役の諮問機関として「執行会」が週1回程度開かれ、執行役員等で構成し、常勤監査等委員も参加しています。取締役会は原則月1回開催され、最近事業年度は13回開催、出席状況は全員13回中13回と記載されています。監査等委員会も毎月開催で、2024年12月期は13回開催・3名とも全回出席です。
社外取締役の構成にも特徴があります。常勤監査等委員の畠山氏は上場会社での取締役・監査役の経験があり、大西氏は事業会社のCFO経験者、菅沼氏は公認会計士と弁護士の資格を持ち、証券取引所への出向経験もあります。監査等委員会の議長は畠山氏で、法務・財務・会計に相当程度の知見を有する委員を選任していると記載されています。監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役は3名以上で、その過半数を社外取締役とする必要があります(会社法331条6項)。ベーシックは3名全員を社外としています。
また、ベンチャーキャピタルであるOne Capitalの統括組合員である浅田慎二氏が社外取締役を務めていましたが、2025年11月22日付で退任したことが記載されています(最近事業年度の取締役会出席は13回中13回)。VCから派遣された取締役が上場前後のどの時点で退任するかは、投資契約や独立役員の確保とあわせて検討される論点です。
役員報酬の決め方──代表取締役一任と社外取締役への説明
取締役(監査等委員を除く)の報酬限度額は、2018年3月30日の株主総会で年額300,000千円以内(使用人分給与を含まない)、監査等委員である取締役は年額100,000千円以内と決議されています。個人別の報酬額は取締役会決議により代表取締役に一任されていますが、一任する場合は、代表取締役が決めた報酬案を監査等委員会が指名する社外取締役に説明し、意見を求めることを社内規程で定めていると記載されています。最近事業年度の報酬総額は、取締役(監査等委員及び社外取締役を除く)1名で21,513千円、社外役員5名で15,240千円で、いずれも固定報酬のみです。
個人別の報酬額の決定を代表取締役に一任する場合、その手続の客観性をどう担保するかが問われます。任意の指名・報酬委員会を設置する会社もありますが、ベーシックのように「社外取締役への説明と意見聴取」を社内規程に定める方法も一つのやり方です。いずれにしても、決定方針と手続を文書化し、実際にそのとおり運用した記録を残しておくことが重要です。
図12 取締役の報酬限度額と、個人別の報酬額を代表取締役に一任する場合の手続(Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成)
関連当事者取引──代表者保証の解消と社外取締役との取引
関連当事者との取引の注記では、2023年12月期・2024年12月期に、代表取締役の秋山氏による当社の銀行借入に対する債務保証が記載されています。取引金額(借入金残高)は2023年12月期末53,360千円、2024年12月期末26,720千円で、保証料の支払いはありません。2025年12月期の関連当事者情報は「該当事項はありません」と記載されています。
もう一つ、社外取締役の菅沼氏が議決権の過半数を有する法律事務所が「ferret One」を契約・使用しているという取引が、役員の状況の社外役員の説明の中で開示されています。定価での利用であり利益相反は生じない旨が説明されたうえで、菅沼氏を独立役員として届け出る予定とされています。また、社外取締役の独立性に関する基準は特に定めておらず、会社法や東京証券取引所の独立性に関する判断基準等を参考にしていると記載されています。
代表者による借入金の債務保証は、IPO審査で「企業経営の健全性」の観点から解消を求められることが多い典型的な論点です。金融機関との交渉には時間がかかることもあるため、早い段階で解消の方針を立てておくことが大切です。また、社外取締役の関係先との取引は、金額が小さくても独立性の判断との関係で説明が求められます。取引条件が一般の取引先と同じであることを示せるよう、取引の承認手続と条件の根拠を記録しておきましょう。IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)、社長個人と会社の取引はどう解消するかも参考にしてください。
その他のガバナンスの仕組み
このほか、社外取締役との間で会社法427条1項に基づく責任限定契約(限度額は法令が定める最低責任限度額)を締結していること、全取締役・執行役員・重要な使用人を被保険者とする役員等賠償責任保険(D&O保険、保険料は全額会社負担)を締結していることが記載されています。また、取締役会決議で取締役の責任免除(会社法426条1項)、中間配当(同454条5項)、自己株式の取得(同165条2項)を行えるよう定款で定めています。反社会的勢力の排除については、反社会的勢力対策規程を定め、取引先・株主・役員・従業員の属性確認を行い、契約書に暴力団排除条項を設けていると記載されています。
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内部監査・内部統制──3名体制で自己監査を避ける仕組み
内部監査については、代表取締役直轄の責任者1名を含む内部監査担当者3名で実施していると記載されています。自己監査を回避するため、担当者は自身の所属部門以外を監査する体制です。内部監査規程と年度の監査計画に基づいて監査を行い、結果を代表取締役に報告し、各部門に改善点を指摘しています。内部統制システムの基本方針では、業務分掌規程に基づき経営管理部が内部監査部門として内部監査を担うことも記載されています。
図13 内部監査は自己監査を避ける相互監査方式。監査等委員会・会計監査人と相互に連携する(Ⅰの部の監査の状況をもとに作成)
従業員100名規模の会社で専任の内部監査部門を置くのは負担が大きく、ベーシックのように複数の担当者で「自部門以外を監査する」相互監査の形をとる会社は少なくありません。この場合に重要なのは、①誰がどの部門を監査するかを監査計画で明確にし、自己監査にならないことを示すこと、②内部監査責任者が代表取締役に直接報告できるレポーティングラインを確保すること、③指摘事項の改善状況をフォローアップし、その記録を残すこと、の3点です。担当者の選び方や兼務の考え方は、内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)や内部監査の人数と体制で詳しく解説しています。
三様監査の連携
監査等委員会と内部監査部門は月次で情報交換を行い、会計監査人を含めて相互に連携していると記載されています。常勤監査等委員は取締役会・執行会等の重要な会議に出席し、主要な事業部門の業務監査を行い、その内容を非常勤の監査等委員と共有しています。監査等委員会と代表取締役との定期的な会議も設けられています。また、監査等委員会の職務を補助する使用人は必要に応じて配置し、その人選は監査等委員会で協議し、異動・懲戒・解雇は監査等委員会の評価に基づき常勤監査等委員が行うと定めています。補助使用人の独立性を確保するための規定です。
監査等委員会設置会社では、監査等委員会が内部監査部門を活用して組織的に監査を行うことが想定されています。内部監査の結果を代表取締役だけでなく監査等委員会にも共有する仕組みを整えておくと、審査でも説明しやすくなります。監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)もあわせてご覧ください。
リスク管理とコンプライアンス
リスク管理とコンプライアンスについては、代表取締役を委員長とする「コンプライアンス・リスク管理委員会」が置かれています。委員は常勤監査等委員、執行役員4名などで構成され、原則毎月開催し、重要な議題は取締役会に報告されます。リスク情報は各部門の責任者から執行会に上げられ、コーポレート部門の管掌役員が取締役会へ報告する流れです。不測の事態が生じた場合は、代表取締役を本部長とする対策本部を設置します。弁護士・税理士・弁理士から必要に応じて助言を受ける体制も記載されています。
図14 コンプライアンス・リスク管理委員会と執行会を通じた報告の流れ(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成)
内部通報については、内部通報規程を定めて内部通報制度を設けていること、監査等委員会へ報告した者が不利益な取扱いを受けないことを定めていることが記載されています。財務報告の信頼性については、経理規程や「財務報告に係る内部統制の整備に関する基本方針」を定め、職務分離と日常的なモニタリングを行う体制です。情報セキュリティでは、プライバシーマークとISMS(ISO27001)の認証を取得し、定期的に脆弱性診断を行っていると記載されています。
上場後は、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(J-SOX)への対応が必要になります。新規上場企業は、一定の要件を満たす場合を除き、上場後3年間は内部統制報告書に対する監査人の監査を免除できますが、内部統制報告書そのものの提出は必要です。上場準備の段階から、全社的な内部統制と業務プロセスの文書化を計画的に進めておきましょう。
会計・開示の論点──収益認識と繰延税金資産の回収可能性
収益認識:サブスクリプションは期間按分、ソリューションは提供時点
ベーシックは収益認識会計基準(企業会計基準第29号)を第19期(2022年12月期)の期首から適用しています。重要な会計方針では、収益を2つの類型に分けて説明しています。①サブスクリプション型は、主に「ferret One」「formrun」等のソフトウェアをクラウドで一定期間継続して提供するもので、サービス利用契約に基づきプロダクト・サービスを提供することで履行義務が充足されるため、契約に定められたサービス提供期間にわたり、定額料金及び従量課金に基づいて収益を認識します。②ソリューション型は、主に「ferret One」の初期導入に係る収益、一時的なスポットサービス、ウェブマーケティングサービスで、サービスを提供した時点で収益を認識します。
収益認識関係の注記では、契約負債は主に役務提供前に受け取った前受金であり、2023年12月期末43,259千円、2024年12月期末61,965千円、2025年12月期末80,122千円と増加しています。期首の契約負債は、いずれの期も全額がその期中に収益として認識されています。残存履行義務については、当初に予定される契約期間が1年以内であるため、実務上の便法を適用して記載を省略しています。また2025年12月期の注記では、一部のソリューション型サービスにおいて進捗度の測定に基づいて認識した収益に係る未請求の権利として、契約資産713千円が記載されています。
図15 契約負債の期末残高(千円)。Ⅰの部の収益認識関係の注記をもとに作成
SaaS企業の収益認識では、①初期導入費用を独立した履行義務とみるか、サブスクリプションと一体の履行義務とみて期間按分するか、②従量課金部分をいつ認識するか、③年間契約の前受金を契約負債として適切に管理できているか、が典型的な論点になります。いずれも契約書の条項と実際のサービス提供の実態から判断するもので、会計方針の注記と販売管理システムの設定が整合していることが求められます。上場審査で問われる収益認識も参考にしてください。
重要な会計上の見積り:繰延税金資産を段階的に計上
ベーシックが「重要な会計上の見積り」として記載しているのは、繰延税金資産の回収可能性です。2023年12月期は「該当事項なし」で、税務上の繰越欠損金等に対して全額の評価性引当額を計上していました。2024年12月期には繰延税金資産(純額)34,895千円を計上し、2025年6月末の中間期に99,366千円、9月末の第3四半期に122,779千円、2025年12月期末に117,494千円となっています。
見積りの方法としては、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に基づき、税務上の繰越欠損金と将来減算一時差異のうち、将来の税負担を軽減する効果が認められる範囲で計上しているとされます。将来の課税所得は事業計画に基づいて見積もり、その主要な仮定は将来の売上高の成長率です。2025年12月期末の税務上の繰越欠損金(法定実効税率を乗じた額)は543,981千円で、そのうち評価性引当額436,125千円を控除した107,856千円が回収可能と判断されています。同期の税率差異の注記では、法定実効税率34.59%に対し、評価性引当額の増減による影響が△65.80%となり、税効果会計適用後の法人税等の負担率は△30.35%と記載されています。
図16 繰延税金資産(純額)の計上額の推移(千円)。2023年12月期末は計上なし。重要な仮定は将来の売上高の成長率(Ⅰの部の財務諸表・注記をもとに作成)
赤字から黒字に転じる局面では、繰延税金資産をいつ、どれだけ計上するかが利益に大きく影響します。ベーシックの場合も、2025年12月期の当期純利益344,961千円には法人税等調整額△82,599千円の影響が含まれています。回収可能性の判断は、企業の分類(過去の課税所得の発生状況などによる区分)と、事業計画の合理性に左右されます。審査では、繰延税金資産の計上の根拠となった事業計画が、上場申請時の事業計画と整合しているかが確認されるため、経理部門と経営企画部門で前提をそろえておくことが欠かせません。事業等のリスクでも「税務上の繰越欠損金」が挙げられており、繰越欠損金が解消された後は通常の税率で課税されることが説明されています。
その他の特徴的な開示
2025年12月期の財務諸表では、無形固定資産が前期末の1,551千円から35,294千円(うちソフトウエア18,974千円、ソフトウエア仮勘定16,320千円)に増え、投資キャッシュ・フローに無形固定資産の取得による支出△36,974千円が計上されています。重要な会計方針の自社利用ソフトウェアの償却方法は、社内における利用可能期間(3年〜5年)に基づく定額法と記載されています。自社開発ソフトウェアの資産計上を始める場合は、研究開発費との区分、資産計上の開始・終了時点、工数集計の仕組みを事前に決めておく必要があります。
未適用の会計基準等としては、2024年12月期の財務諸表で、新リース会計基準(企業会計基準第34号等)を2028年12月期の期首から適用予定で、影響額は評価中と記載されています。本社オフィスは賃借で、資産除去債務として原状回復義務(使用見込期間18年、割引率1.89%)を計上しています。
監査法人と監査報酬
会計監査人は監査法人Growthで、継続監査期間は2年間です。2018年12月期から2022年12月期までは有限責任監査法人トーマツが会社法監査を行っており、業務執行社員の瀧野恭司氏はトーマツ在籍時から関与し、通算の継続監査期間は7年と記載されています。業務執行社員は瀧野恭司氏・青木信賢氏の2名、監査業務の補助者は公認会計士4名、その他3名の計7名です。監査法人の選定理由としては、独立性、品質管理体制、監査計画の妥当性、実施状況、結果の相当性、報酬の妥当性を総合的に勘案したと記載されています。
| 区分 | 前事業年度(2023/12期) | 最近事業年度(2024/12期) |
|---|---|---|
| 監査証明業務に基づく報酬 | 15,000千円 | 16,000千円 |
| 非監査業務に基づく報酬 | - | - |
| 監査法人の補助者 | - | 公認会計士4名、その他3名 |
監査報酬は、事業規模・事業計画・人員・監査日数等を勘案し、監査法人と協議のうえ監査等委員会の同意を得て取締役会で決定するとしています。上場申請には直前2期分の財務諸表について監査証明が必要なため、監査法人との契約はN-2期の期首までに締結しておくのが一般的です。監査法人の選び方とスケジュールについては、監査法人はいつまでに決めるかをご覧ください。
事業等のリスクと、審査で問われやすい点
ベーシックは事業等のリスクとして17項目を挙げ、それぞれについて発生可能性と影響度を「高・中・低」「大・中・低」で示しています(発生時期は合理的に予見することが困難として記載していません)。主な項目は次のとおりです。
| リスク項目 | 発生可能性 | 影響度 | 記載の要点 |
|---|---|---|---|
| 技術革新 | 中 | 大 | AIの進化への対応の遅れ、生成AIの法的整理や出力の正確性。AI利用ガイドラインの整備、顧問弁護士との連携 |
| システム障害 | 中 | 大 | 自然災害・不正アクセス・電力停止等によるサービス停止 |
| 特定サービスへの依存 | 中 | 大 | 売上の多くがferret One・formrunの2プロダクトに依存 |
| 新規プロダクトの開発・市場展開 | 中 | 中 | workrun・AIBOW(2026年1月リリース)、askrun(開発中)の採算性等 |
| 特定人物への依存 | 中 | 大 | 創業者・代表取締役 秋山勝氏への依存 |
| 税務上の繰越欠損金 | 中 | 中 | 繰越欠損金の解消後は通常の税率で課税 |
| VC等の株式保有割合 | 高 | 中 | VC等の保有1,155,810株(公募前発行済株式総数の23.1%) |
| 情報セキュリティ・個人情報漏洩 | 低 | 大 | プライバシーマーク・ISMS取得、定期的な脆弱性診断 |
このケースで審査上問われやすいと考えられる一般的な論点を整理すると、①黒字化の持続性と事業計画の合理性(MRR・解約率・採用計画と販管費の関係)、②繰延税金資産の計上根拠と事業計画の整合性、③創業者への依存と後継・権限委譲の体制、④AI関連の新規プロダクトに伴う法的リスクと情報管理体制、⑤関連当事者取引の解消と社外取締役の独立性の説明、⑥VCの売却を想定した株式の需給の説明、などが挙げられます。いずれもⅠの部に記載がある論点であり、審査では記載の裏付けとなる資料の提出と口頭での説明が求められます。審査の全体像はIPOの実質審査基準とはや主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかで解説しています。
ベーシックの事例から上場準備会社が学べること
図17 本記事で取り上げた上場準備の実務上のポイント
1. 資本の部の整理は「数年がかり」で進める。ベーシックは3回の減資と欠損填補、優先株式の普通株式化、株式分割を、2020年から2025年にかけて段階的に行っています。減資には株主総会決議と債権者保護手続が、欠損填補には株主総会決議が必要になるため、上場直前に一度にまとめるのではなく、資本政策の全体像のなかで時期を計画しておくことが大切です。資本政策はなぜやり直せないかも参考になります。
2. 種類株式の出口を投資契約の段階から設計しておく。A種優先株式は株式買取請求権の行使で取得・消却され、B〜D種は定款変更で一斉に普通株式に変更されました。種類株主総会の決議や投資家の同意が必要になるため、出資を受ける段階で上場時の転換方法を想定しておくと、上場直前の手続がスムーズです。
3. 業務執行取締役を絞るなら、執行の仕組みを見える化する。業務執行取締役が代表取締役1名という体制では、執行役員制度、執行会、職務権限規程などで「誰が何を決めるか」を明確にすることが、監督と執行の分離を説明するうえでの前提になります。
4. 社外取締役の多様な専門性を組み合わせる。上場会社での監査役経験者、事業会社CFO経験者、公認会計士・弁護士という組み合わせは、監査等委員会の実効性を説明しやすい構成です。社外取締役の確保には時間がかかるため、N-2期ごろから候補者探しを始めるのが現実的です。社外取締役は何人必要かもご覧ください。
5. 少人数の内部監査は「相互監査」と記録で補う。専任者を置けない段階でも、担当者が自部門以外を監査する体制と、代表取締役への直接報告、改善状況のフォローアップの記録で、内部監査の独立性と実効性を示すことができます。
6. 代表者の債務保証は早めに解消する。金融機関との交渉には時間がかかります。ベーシックでも2024年12月期まで代表者の保証が残っていましたが、2025年12月期の関連当事者注記では「該当事項はありません」となっています。
7. 黒字転換期は繰延税金資産の判断に備える。赤字から黒字への転換局面では、繰延税金資産の計上が利益を大きく動かします。事業計画の精度を高め、会計上の見積りと審査上の事業計画を一致させておくことが重要です。
8. 退職者の株式の扱いは契約で決めておく。役職員が株式を持つ場合、退職時に誰がいくらで買い取るかを契約で定めておけば、株式移動の価格の妥当性を説明しやすくなります。
この事例を踏まえたチェックリスト
- 種類株式を発行している場合、上場前に普通株式へ戻す方法(取得条項か定款変更か)と、必要な株主総会・種類株主総会の決議を整理しているか
- 減資・欠損填補・株式分割・単元株制度の導入など、上場前に必要な資本の手続を時期とともに計画しているか
- 業務執行取締役と執行役員の役割分担、会議体(取締役会・執行会等)の権限が規程で明確になっているか
- 内部監査が自己監査にならない担当割りになっており、代表取締役と監査等委員会(監査役会)の双方に報告されているか
- 代表者による債務保証や役員関係先との取引など、関連当事者取引の解消・条件の妥当性の説明ができるか
- 繰延税金資産の回収可能性の判断に使う事業計画と、上場申請用の事業計画の前提が一致しているか
よくある質問
上場する株式は普通株式であり、優先株式が残ったままでは株主の権利関係が複雑になるため、上場前に普通株式へ変更(転換)するのが一般的です。ベーシックでは、2025年11月25日の臨時株主総会及び各種類株主総会で種類株式の定款の定めを廃止し、全ての優先株式を1対1で普通株式に変更しています。方法や時期は、投資契約の内容や主幹事証券の意見を踏まえて決めます。
取締役会の構成について一律の人数の決まりがあるわけではなく、監督と執行の体制が実効的に機能しているかが確認されます。ベーシックでは執行役員4名と週1回程度の執行会で業務執行を担う体制が記載されています。ただし、特定の人物への依存が高まる点は事業等のリスクでも開示されており、権限委譲や後継者育成の考え方を説明できるようにしておくことが大切です。
兼務であっても、自分の所属部門を自分で監査しない(自己監査を避ける)担当割りにすることで、独立性を確保する方法が一般的に用いられています。ベーシックも、担当者が自身の所属部門以外を監査する体制と記載しています。監査計画、監査調書、改善状況の記録を整えることが前提になります。
繰延税金資産は、将来の課税所得で回収できると見込まれる範囲で計上します。過去に赤字が続いている場合は回収可能性が慎重に判断され、全額に評価性引当額を計上することもあります。ベーシックでは、2023年12月期は計上がなく、2024年12月期から事業計画に基づいて一部を計上し、黒字化に伴って計上額を増やしています。
最初の一歩は、自社の「資本の部」と「関係者との取引」の棚卸しから
ベーシックの事例が示すように、上場前の資本の整理や関連当事者取引の解消は、短期間では終わりません。まずは、発行している株式の種類と各投資契約の条項、資本金・剰余金の状況、役員や株主との取引(債務保証、賃貸借、業務委託など)を一覧にしてみてください。そのうえで、上場までに何をいつまでに整理するかを、監査法人・主幹事証券・弁護士と共有することが、準備を遅らせないための最初の一歩になります。スケジュールの考え方は上場スケジュールはどこで遅れるかも参考にしてください。
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まとめ
株式会社ベーシックは、2004年の設立以来50を超える事業を展開し、比較メディア事業の売却やformrunの取得を経て、ferret OneとformrunというSaaSを中心とする会社として2026年3月25日に東証グロース市場へ上場しました。Ⅰの部からは、3回の減資と欠損填補、A〜D種優先株式の整理と株式分割という資本政策、業務執行取締役1名・社外取締役4名の監査等委員会設置会社、3名体制の相互監査による内部監査、黒字転換期の繰延税金資産の段階的な計上、代表者保証の解消といった、上場準備の具体的な姿を読み取ることができます。
上場準備会社にとって大切なのは、こうした整理を「上場直前に一気に行う」のではなく、資本政策・ガバナンス・会計の各論点を数年単位の計画に落とし込み、根拠を記録しながら進めることです。自社の状況と照らし合わせながら、本記事を準備の点検に役立てていただければ幸いです。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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