※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
2026年2月24日、細胞治療製品の研究開発を行うイノバセル株式会社(証券コード504A)が東証グロース市場に上場しました。同社は、オーストリア・インスブルック市で2000年に設立された研究開発企業(現在のInnovacell GmbH)を、2021年に日本で新設した当社が三角合併によって完全子会社化し、日本の親会社として上場した会社です。事業収益はまだ計上されておらず、研究開発投資を外部からの資金調達で支えるという、いわゆる赤字の研究開発型ベンチャーの上場事例でもあります。
結論からいえば、イノバセルのⅠの部から学べるのは、①海外の研究開発会社を日本の親会社の下に置き直すコーポレート・インバージョンという上場までの組み立て方、②J-KISS型新株予約権・種類株式・DES・ラチェット型新株予約権を組み合わせた資本政策と、その発行価格の説明の仕方、③研究開発の実体が海外子会社にある場合のガバナンス・内部監査・子会社管理の整え方、④EIBローンとロイヤリティ契約を一体として扱う会計処理と、継続企業の前提に関する説明の4点です。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の記載をもとに、これらの論点を上場準備の実務の目線で整理します。
この記事の見出し
イノバセルはどのような会社で、どの市場に上場したのか
まず、会社と上場の概要を確認します。イノバセルは、有望な医薬品・医療機器のシーズ(研究開発の種)を世界各国で探索・発掘し、自社のパイプライン(開発品目の一覧)に組み入れて開発し、グローバル市場で商業化することを事業としています。現在はヒトの細胞を用いた細胞治療製品のパイプラインに注力しており、これらの製品は日本では「再生医療等製品」、欧州では「ATMP」、米国では「HCT/P」という規制上の区分に該当すると記載されています。
セグメントは「細胞治療・再生医療研究開発事業」の単一セグメントです。グループは、当社と連結子会社のInnovacell GmbH(オーストリア・インスブルック市、議決権100%)の2社で構成されています。本店は東京都品川区にあり、決算期は12月31日です。
設立は2021年1月5日で、設立時の資本金は2百万円でした。第1期は2021年1月5日から12月31日までの11ヶ月と27日という変則決算です。会社としての歴史は浅い一方で、事業の実体であるInnovacell GmbHは2000年の設立で、20年以上の研究開発の歴史を持っています。この「器としての会社は新しく、中身の事業は古い」という構造が、本件を読み解く出発点になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | イノバセル株式会社(英訳名 Innovacell Inc.) |
| 証券コード・市場 | 504A・東証グロース市場 |
| 上場日 | 2026年2月24日 |
| 本店所在地 | 東京都品川区上大崎 |
| 代表者 | 代表取締役Co-CEO ノビック・コーリン、代表取締役Co-CEO シーガー・ジェイソン(共同代表2名) |
| 設立 | 2021年1月5日(設立時資本金2百万円) |
| 決算期 | 12月31日(最近連結会計年度は第4期=2024年12月期) |
| 事業 | 細胞治療・再生医療研究開発事業(単一セグメント) |
| 連結子会社 | Innovacell GmbH(オーストリア、議決権100%) |
| 従業員数 | 連結48名、提出会社13名(2025年11月30日現在) |
| 監査法人 | 監査法人アヴァンティア |
| 株主名簿管理人 | 三菱UFJ信託銀行株式会社 |
従業員数は、2025年11月30日現在で連結48名、提出会社13名です。連結では前連結会計年度末から11名、提出会社では5名増えており、業容拡大に伴う期中採用によるものと説明されています。提出会社の平均年齢は47.90歳、平均勤続年数は2.29年です。平均勤続年数については、2021年1月の設立以後で算定している旨の注記が付されています。研究開発に従事する人員は、2025年9月30日現在で36名(当社3名、子会社33名)であり、研究開発の担い手の大半がオーストリアの子会社に在籍していることがわかります。
上場準備の観点からは、従業員の大半が海外子会社に所属しているという点が重要です。上場審査では、提出会社単体だけでなく企業グループ全体として内部管理体制が機能しているかが確認されます。人員の所在地と業務の所在地を図や表で整理しておくことは、主幹事証券会社や取引所に事業の全体像を説明する際の基礎資料になります。上場準備の全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)でも整理しています。
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何で稼ぐ会社なのか:事業内容と収益モデル
イノバセルの事業の特徴は、Ⅰの部で「グローバルアグリゲーションモデル」(細胞治療・再生医療グローバルアグリゲーションモデル)と呼ばれている事業の組み立て方です。シーズをグローバルに発掘し、自社パイプラインに組み入れ、開発や製造などの事業インフラをグローバルに調達し、パイプラインごとに最適なビジネスモデルを構築して商業化する、という考え方です。特定の技術やシーズに拘らないことが経営方針として明記されています。
グループ内の役割分担は明確です。当社(日本)は、グループの統括、日本における事業推進(主力品目ICEF15の日本での臨床開発)、資金調達、パイプラインのポートフォリオ構築・管理、ライセンシングや提携などの事業開発を担います。一方、Innovacell GmbHは、3つのパイプラインの研究開発の主導、欧州での臨床開発、自社のGMP製造施設での細胞製品の製造を担っており、治験製品はすべて同社の製造施設で製造されています。
図1 イノバセルのグループ構造と事業の担い手(Ⅰの部「事業の内容」「関係会社の状況」をもとに筆者作成)
パイプラインは3品目で、いずれも患者本人の骨格筋に由来する細胞を用いるもので、失禁の領域を対象とし、単回投与を想定していると記載されています。最も開発が進んでいるのが切迫性便失禁を対象とするICEF15で、2022年5月に第Ⅲ相国際共同治験(Fidelia試験)が始まりました。参加国は欧州11ヶ国と日本で、目標症例数は290例、2025年11月30日現在で194例が組み入れられています。漏出性便失禁を対象とするICEF16は非臨床段階で、2026年に第Ⅰ/Ⅱ相試験を開始する準備を進めているとされています。腹圧性尿失禁を対象とするICES13は、これまでに計4本の臨床試験を行っており、今後ピボタル試験の準備を進めると記載されています。
現時点で事業収益は計上されていません。第1期から第4期まで、さらに直近の中間期・第3四半期累計まで、事業収益はすべて「-」です。販売実績や主要な販売先の記載も、「外部顧客への事業収益が発生していない」ため省略されています。したがって、一般的な事業会社の分析で行う「主要顧客への依存度」という論点は、この会社には当てはまりません。
その代わりにⅠの部では、将来想定している収益の種類が具体的に示されています。製品卸売収入、製品販売収入、契約締結時一時金、開発協力金、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入、製造受託収入の7種類です。地域ごとの想定も書き分けられており、日本では承認取得まで自社で開発し、承認後は製薬企業との共同販売促進や医薬品卸への製品販売を想定しています。欧州ではInnovacell GmbHが商業化サービス提供企業と契約して病院に販売し、商業製造は同社のGMP施設で行う計画です。
| 地域・品目 | 想定する収益の得方(Ⅰの部の記載) |
|---|---|
| 日本(ICEF15) | 承認取得まで自社開発。製薬企業との共同販売促進契約による一時金・マイルストーン、医薬品卸への製品卸売収入 |
| 欧州(ICEF15) | Innovacell GmbHが商業化サービス提供企業と契約し病院に販売(製品販売収入)。商業製造は自社GMP施設 |
| 米国(ICEF15) | 欧州と同じ商業化サービス提供企業への委託を想定。商業製造も外部委託 |
| ICEF15以外 | ライセンスアウトの場合は一時金・開発協力金・マイルストーン・ロイヤリティ。欧州では子会社の製造受託収入 |
収益がまだない会社がグロース市場に上場する場合、経営者が何をKPIとしているかが大きな意味を持ちます。イノバセルは、財務指標ではなく研究開発パイプラインの進捗状況、特にICEF15の第Ⅲ相試験の進捗で経営目標の達成状況を把握するとしており、臨床試験における患者組入数などを用いると記載しています。ICEF15のグローバルでの患者組入実績(筋組織採取=無作為化/移植完了)は、2024年12月末に108例/80例、2025年6月末に152例/121例、2025年9月末に175例/143例と開示されています。また、2024年度には欧州での患者集積スピードを上げるためにCRO(開発業務受託機関)を変更したことも記載されています。
図2 ICEF15第Ⅲ相国際共同治験の患者組入実績(筋組織採取=無作為化/移植完了、単位:例)。Ⅰの部の記載をもとに筆者作成
上場準備会社にとっての実務上のポイントは、KPIを「測れる・説明できる・継続して開示できる」ものにすることです。研究開発型の会社では、売上や利益の代わりに臨床試験の進捗や組入数がKPIになりますが、その数値の定義(何をもって1例とするか)と集計の仕組みを、上場前から社内で固めておく必要があります。上場後は決算説明資料や適時開示で継続的に示すことになるため、集計担当者や確認手続を決めておくことが大切です。グロース市場で求められる成長可能性の説明についてはグロース市場の「高い成長可能性」とはで詳しく解説しています。
なぜ日本の会社として上場したのか:沿革とコーポレート・インバージョン
イノバセルの沿革は、前身企業(現在のInnovacell GmbH)の歴史と、当社の歴史の2本立てでⅠの部に記載されています。前身企業は、2000年11月にインスブルック医科大学からのスピンアウトとしてInnovacell Biotechnologie GmbHの名称で設立されました。2005年5月には自社製造施設のGMP認証を取得し、2008年8月に株式会社(AG)へ法人格を変更しています。2011年6月にICES13の後期第Ⅱ相試験を、2016年10月にICEF15の後期第Ⅱ相試験を完了しました。2019年10月には、主要株主が欧州の機関投資家等を中心とする構成から、当社の取締役等を中心とする構成へ交替しています。
そして2021年1月に当社が東京で設立され、翌2月、三角合併を通じて前身企業の完全親会社となりました。Ⅰの部では、この一連の取引を「コーポレート・インバージョン」として説明しています。
図3 前身企業(現Innovacell GmbH)と当社の主な沿革(Ⅰの部「沿革」をもとに筆者作成。上場日は東証公表による)
三角合併の仕組みはどうなっていたか
Ⅰの部の記載によると、2021年2月、当時の親会社であるInnovacell Biotechnologie AG(消滅会社)と、当社の子会社であったInsanna AG(存続会社)が吸収合併を行い、その対価として当社の普通株式がInnovacell Biotechnologie AGの株主に割り当てられました。存続会社はInnovacell AGへ社名を変更し、2023年7月には法人格を変更して現在のInnovacell GmbHとなっています。この結果、旧来のオーストリア企業の株主は日本の当社の株主となり、オーストリアの事業会社は当社の100%子会社になりました。
図4 2021年2月の三角合併の前後のグループ構造(Ⅰの部「沿革」の注記をもとに筆者作成)
狙いについても明確に記載されています。欧州での資金調達環境が厳しく、ICEF15の第Ⅲ相試験等に必要な資金を日本で調達するため、日本に完全親会社を設立して東京証券取引所に上場し資金調達することが最善と結論づけた、という説明です。また、本書提出日現在、インスブルック医科大学の教授等は事業運営に関与しておらず、株式保有その他の権利関係もない旨が記載されています。大学発の技術を起点とする会社にとって、大学や研究者との関係を整理しておくことは独立性の観点から重要であり、その結論をⅠの部に明記している点は参考になります。
Ⅰの部には、合併前の存続会社であるInnovacell Biotechnologie AGの2020年12月期(第17期)の参考指標も掲載されています。1ユーロ126.95円で換算した金額で、日本の金融商品取引法に基づく監査は受けていない旨の注記付きです。事業収益70,900千円、営業損失458,654千円、当期純損失542,214千円、純資産はマイナス1,174,356千円、従業員22名という数値が示されています。上場申請会社の設立が新しい場合でも、事業の実体が前身企業にあるときは、前身企業の業績を参考情報として示すことで、読者が事業の継続性を理解しやすくなります。
上場までの主なマイルストーン
当社設立後の主な出来事は、2022年5月のICEF15第Ⅲ相国際共同治験の欧州での患者組入開始、2022年6月の欧州投資銀行(EIB)からの1,500万ユーロのベンチャーデット調達、2022年7月の累計27億円でのシリーズC資金調達のクローズ、2022年9月の厚生労働省からの特定細胞加工物製造認定の取得、2023年8月の現在の経営体制への移行完了、2023年9月の日本での患者組入開始、2024年11月のアルフレッサ株式会社からの出資受入れと業務提携基本契約の締結、2025年8月の累計73億円でのシリーズD資金調達のクローズと続きます。
特定細胞加工物製造認定は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づくもので、Innovacell GmbHのGMP施設が取得しています。事業に不可欠な許認可を海外子会社が保有している場合、その維持・更新の管理体制は上場審査でも確認されやすい事項です。許認可の管理についてはIPOで許認可はどこまで見られるかもあわせてご覧ください。
コーポレート・インバージョン型の上場を検討する会社にとっての実務上のポイントは3つあります。第一に、合併や株式交換の手続が海外の会社法・税法に依拠するため、現地の専門家との協働が不可欠であることです。イノバセルも事業等のリスクの「国際税務」の項目で、コーポレート・インバージョン後の日本とオーストリアの税務について専門家に確認済みである旨を記載しています。第二に、旧来の株主が日本の会社の株主になるため、株主名簿の整備や海外株主との連絡体制が必要になることです。第三に、上場申請会社は日本の会社でも、財務諸表の作成や内部統制の評価対象の中心が海外子会社になることです。これらは上場準備のスケジュールに直接影響するため、早い段階で論点を洗い出すことが重要です。スケジュールの遅れやすいポイントは上場スケジュールはどこで遅れるかで解説しています。
業績はどう推移しているか:赤字の研究開発型企業の読み方
次に業績を確認します。Ⅰの部の連結財務諸表は、第3期(2023年12月期)と第4期(2024年12月期)の2期分です。いずれも監査法人アヴァンティアの監査を受けています。提出会社単体の主要な経営指標は第1期から第4期まで掲載されていますが、第1期・第2期は東京証券取引所の規程に基づく監査を受けていない数値である旨が注記されています。
| 項目(連結・千円) | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年1-9月(累計) |
|---|---|---|---|
| 事業収益 | - | - | - |
| 研究開発費 | 1,350,437 | 1,385,478 | 1,175,425 |
| その他の販売費及び一般管理費 | 511,464 | 487,129 | 405,263 |
| 営業損失 | △1,861,902 | △1,872,608 | △1,580,688 |
| 助成金収入 | 223,929 | 216,609 | 189,907 |
| 支払利息 | 341,814 | 614,465 | 664,052 |
| 経常損失 | △2,000,857 | △2,391,551 | △2,093,627 |
| 親会社株主に帰属する当期(四半期)純損失 | △2,002,340 | △2,392,439 | △2,094,596 |
| 純資産 | △1,737,916 | △1,956,100 | 316,149 |
| 現金及び預金 | 1,096,958 | 1,961,311 | 4,505,421 |
図5 左:研究開発費と営業損失、右:現金及び預金と純資産(いずれも連結、百万円。2025年は中間期・第3四半期累計/各時点)
費用の中心は研究開発費で、2024年12月期は1,385,478千円でした。研究開発費の主な内訳は、業務委託費617,741千円、人件費354,811千円などで、治験の推進をCROなどの外部委託先に依頼していることが費用構造にも表れています。営業外では、助成金収入が毎期200百万円程度計上される一方、支払利息が2023年12月期の341,814千円から2024年12月期には614,465千円へ大きく増えています。この支払利息の多くは、後述するEIBローンの会計処理によるもので、実際に毎期現金で支払う利息だけでなく、将来のロイヤリティ支払見込額を含めた実効金利で計上されている点に特徴があります。
純資産は2023年12月期末、2024年12月期末ともにマイナス、つまり連結では債務超過の状態でした。2025年9月末には316,149千円とプラスに転じていますが、Ⅰの部によれば、これは純資産の部に計上されたラチェット型新株予約権(2,000,000千円)によるもので、第3四半期末の株主資本合計はマイナス1,140,865千円です。このように、純資産の内訳まで読むと、資本の状態がより正確に理解できます。
赤字・債務超過の会社はどう説明しているか
グロース市場には、利益の額に関する形式要件はありません。そのかわり、事業計画とその進捗、成長可能性に関する事項を投資者に分かりやすく説明することが求められます。イノバセルは、事業収益がない状態で上場していますが、Ⅰの部では、パイプラインの進捗、商業化体制の構築状況、資金調達の実績と今後の計画を具体的に説明しています。
たとえば「優先的に対処すべき課題」では、日本におけるICEF15の薬事承認取得及び商業化体制の構築、欧州における同様の取組み、米国での第Ⅲ相国際共同治験の開始、ICEF16・ICES13の臨床開発の推進、パイプラインの拡充、資金調達及び自己資本の充実、組織体制の強化と人材の獲得の7項目が挙げられています。日本ではアルフレッサ株式会社と業務提携基本契約を締結し、ICEF15の国内独占的卸売販売権等を付与したこと、欧州では商業化サービス提供企業とタームシートを締結し本契約を交渉中であること、米国では2025年7月からFDAとのミーティングを開始していることなど、進捗の段階が具体的に書かれています。
上場準備会社にとっての実務上のポイントは、「赤字であること」そのものよりも、「赤字の理由と、いつ・何によって状況が変わるのか」を一貫したストーリーで説明できるかどうかです。研究開発型の会社であれば、研究開発費の水準、資金の残高と使い道、マイルストーンの時期を、事業計画・Ⅰの部・成長可能性に関する説明資料の間で整合させる必要があります。事業計画の合理性についてはIPO審査の「事業計画の合理性」、企業の継続性についてはIPO審査の「企業の継続性及び収益性」もご参照ください。
資本政策はどう組まれたか:多様な資金調達手段と株主構成
イノバセルの資本政策は、収益のない研究開発型企業が上場までの資金をどうつないだかを示す好例です。Ⅰの部の「発行済株式総数、資本金等の推移」と「第三者割当等の概況」を読むと、普通株式の第三者割当増資に加え、DES(デット・エクイティ・スワップ)、J-KISS型新株予約権、A種種類株式、ラチェット型新株予約権、ストック・オプションと、多様な手段が組み合わされていることがわかります。
図6 イノバセルの主な資金調達・資本政策の時系列(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「第三者割当等の概況」をもとに筆者作成)
普通株式の第三者割当増資とDES
2022年には、1株720円で複数回の第三者割当増資が行われています。割当先には、投資会社、事業会社、個人が含まれます。同年11月と12月には、株式会社アイロムグループ、Peppermint Grove Limited等を割当先とするDESが行われ、貸付債権が株式に振り替えられました。2024年10月以降は1株850円での増資が続き、2024年12月3日にはアルフレッサ株式会社に1,176,471株(1,000,000千円)が割り当てられています。2025年には、ひふみスタートアップ投資事業有限責任組合、SBI4&5投資事業有限責任組合、あすかイノベーション投資事業有限責任組合、Happact I-41 Limitedなどへの割当が行われました。
DESは2024年と2025年にも行われています。2025年8月には、既存株主の当社に対する長期借入金をFiducia GrowthTech投資事業有限責任組合(84,661千円)と個人1名(196,457千円)についてDESで株式に振り替えています。Ⅰの部の「株式の総数等」では、発行済株式33,335,702株のうち1,280,549株が現物出資(貸付債権等、974,879千円)によるものである旨が記載されています。DESは、借入金を減らして自己資本を厚くする効果がある一方、現物出資となるため、債権の実在性や評価額の妥当性の確認が必要になります。
第三者割当の発行価格の算定方法について、Ⅰの部は「払込時点までの累計研究開発投資額及び研究開発進捗状況を参考にして、払込株主との協議によって算定」と記載しています。売上や利益がない会社では、DCF法や類似会社比較法をそのまま当てはめることが難しいため、研究開発への投資の累計額や進捗を参照して価格を決めた、という説明です。上場審査では、上場前の一定期間の株式の発行や移動の価格の妥当性が確認されます。どのような考え方で価格を決めたかを、取締役会議事録や算定資料として残しておくことが大切です。株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。
J-KISS型新株予約権はどう使われ、どう転換されたか
2023年10月から2024年9月にかけて、J-KISS型新株予約権が5回に分けて発行されています(第1回の1〜第1回の5)。金額は375,000千円、300,000千円、160,000千円、90,000千円、30,000千円です。J-KISS型新株予約権は、将来の株式による資金調達の際に、その時の株価を基準として(一般にディスカウントを適用して)株式に転換される仕組みの新株予約権で、発行時点で株価を決めなくてよい点が特徴です。
Ⅰの部によれば、2024年10月30日の新株式発行をもって転換価額が782円に確定し、2024年12月9日までにすべて普通株式に転換されています。前期発行分も含め当期末までに全て転換された旨が経営成績等の分析にも記載されており、上場前に潜在株式を整理した形です。J-KISSの仕組みはJ-KISSとは何かで詳しく解説しています。
図7 J-KISS型新株予約権の発行額(千円)と普通株式への転換(Ⅰの部「第三者割当等の概況」等をもとに筆者作成)
A種種類株式の発行と普通株式への転換
2024年12月27日には、A種種類株式1,249,793株が1株850円で第三者割当により発行されました。発行総額は1,062,324千円で、割当先は株式会社エイトオプティク他法人4社と個人78名の計83名です。経営成績等の分析では、この種類株式を「J-SHIPS型種類株式」と呼んでいます。
その後、2025年11月13日の取締役会決議により、2025年12月1日付で取得条項に基づきA種種類株式の全部を取得し、1株につき普通株式1株を交付しました。取得したA種種類株式は同日に消却され、2025年12月18日の臨時株主総会でA種種類株式の発行に関する定款の定めも廃止されています。上場する株式は普通株式であるため、種類株式は上場前に普通株式へ転換し、定款上の規定も整理するのが一般的です。この一連の手続(取得条項の発動、普通株式の交付、自己株式の消却、定款変更)がⅠの部で順を追って確認できる点は、実務の参考になります。種類株式の整理については種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで解説しています。
図8 A種種類株式の発行・取得・消却・定款変更の流れ(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」等をもとに筆者作成)
ラチェット型新株予約権とは何か
2025年8月には、The Prudential Assurance Company Limitedを割当先として、ラチェット型新株予約権1個(発行価額2,000,000千円、行使時の払込金額1円)が発行されています。2025年7月4日の臨時株主総会で承認され、8月7日の取締役会で割当が決議されました。
Ⅰの部によれば、転換価額は場面ごとに定められています。2025年9月1日以降に総調達額500,000千円以上の適格資金調達が行われた場合はその払込金額に0.9を乗じた額、IPOの場合は公募・売出価格に0.9を乗じた額(いずれも上限850円)、本償還日(割当日の24か月後)や支配権移転取引等の場合は850円です。また、IPOの完了を条件として当社が新株予約権を取得し普通株式を交付する取得条項が付されています。株主の状況では、同社が保有する潜在株式数は2,352,942株(6.16%)と記載され、この数は新規公開価格の決定によって確定すると注記されています。
図9 ラチェット型新株予約権の主な条件(Ⅰの部「第三者割当等の概況」等をもとに筆者作成)
このような条件の新株予約権は、上場時の株式数を変動させる要因になります。上場準備会社がこの種の資金調達を行う場合は、上場時の発行済株式数や流通株式数の見込み、希薄化の程度を、条件ごとに試算して主幹事証券会社と共有しておくことが欠かせません。事業等のリスクでも「株式価値の希薄化」の項目で、ストック・オプションに加えてラチェット型新株予約権を発行していることが記載されています。
欠損填補のための減資を2回実施
イノバセルは、上場前に2回、資本金や資本準備金を減少させて欠損填補を行っています。1回目は2024年8月6日効力発生で、資本金を372,249千円、資本準備金を1,662,962千円減少させました。2回目は2025年12月26日効力発生で、資本準備金を772,899千円減少させています。研究開発で損失が累積すると、繰越利益剰余金のマイナスが大きくなります。減資による欠損填補は、純資産の総額は変えずに内訳を整理する手続です。上場前に実施する場合は、債権者保護手続などの期間を見込んでスケジュールを組む必要があります。
ストック・オプションは4回、設計の異なるものを発行
役職員向けのストック・オプションは、第1回から第4回まで発行されています。第1回・第2回・第3回は2022年12月に、第4回は2025年8月に割り当てられました。
特徴的なのは第3回と第4回です。第3回は有償で発行されたストック・オプションで、1個あたり9.9円を払い込んで取得するものです。行使の条件として、ICEF15の薬事承認の取得が定められています。公正な評価単価はモンテカルロ・シミュレーションにより算定され、株価変動性は類似上場企業の平均(61.65%)、予想残存期間は10年とされています。第4回は、割当日に20%、2027年1月1日に40%、2028年1月1日に60%、2029年1月1日に80%、2030年1月1日に100%と、段階的に権利が確定する設計(ベスティング)になっています。
| 回 | 付与日 | 対象者 | 株数 | 行使価格 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1回 | 2022年12月23日 | 当社取締役5名・従業員6名 | 1,121,200株(2024年末) | 720円 | 上場が行使条件。行使時も地位保有 |
| 第2回 | 2022年12月23日 | 当社監査役1名・子会社従業員28名 | 983,200株(2024年末) | 720円 | 第1回と同様の条件 |
| 第3回(有償) | 2022年12月23日 | 当社取締役3名・監査役2名・従業員1名 | 168,300株 | 720円 | 1個9.9円で有償発行。ICEF15の薬事承認取得が行使条件 |
| 第4回 | 2025年8月15日・31日 | 当社従業員6名・子会社従業員8名 | 597,800株 | 850円 | 割当日20%から2030年1月に100%まで段階的に権利確定 |
研究開発型の会社では、成果が出るまでに長い年月がかかるため、人材の定着とインセンティブの設計が経営上の重要課題になります。イノバセルでは、海外子会社の従業員にもストック・オプションを付与しており、研究開発の担い手が子会社に多いという事業構造に合わせた設計になっています。上場準備会社がストック・オプションを設計する際には、税制適格要件を満たすかどうか、海外居住者に付与する場合の現地の税務・法務、潜在株式比率の上限などをあわせて検討する必要があります。税制適格ストック・オプションの要件は税制適格ストックオプションで解説しています。
また、イノバセルでは監査役にもストック・オプションが付与されています(第2回の監査役1名、第3回の監査役2名)。監査役へのストック・オプションの付与は法令上禁止されているものではありませんが、監査役の独立性の観点から慎重な考え方もあるため、付与する場合は付与の目的や条件について社内で整理し、説明できるようにしておくことが望ましいでしょう。
特別利害関係者等の株式の移動はどう開示されたか
Ⅰの部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2023年1月1日以降の大株主等の間の株式の移動が記載されています。この会社の特徴は、海外の株主が多く、移動の理由にも特有の事情があることです。
たとえば2024年12月には、AMID S.r.l.、Ekkehart Steinhuber、Marksteiner Rainer(当社取締役)、Glymur Biotech Ventures LPからPeppermint Grove Limitedへの株式譲渡、さらにPeppermint Grove LimitedからThomas Marsonerへの譲渡が、1株0.04746ユーロで行われています。Ⅰの部の注記では、これらは2019年の主要株主交替にあたり、交替直前の株主5名の間で締結された株式売買オプション契約に基づく移動であり、条件はその契約で定められていたもので、2024年の移動時に協議・合意されたものではないと説明されています。
また2025年11月30日には、Ekkehart Steinhuberが自ら設立したリヒテンシュタインの財団法人Insanna Stiftungに全保有株式3,607,988株を寄付し、Insanna Stiftungが主要株主になったことが記載されています。
上場準備会社にとっての実務上のポイントは、上場前の株式移動について、価格と理由を後から説明できるように記録を残すことです。特に、過去の契約に基づく移動や、無償の移動(寄付など)は、通常の売買とは価格の決まり方が異なるため、その経緯を注記で説明できるだけの資料が必要になります。上場前の株式移動のルールについては上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。
継続所有の確約
第三者割当で株式等を取得した者は、上場規程の施行規則に基づき、一定期間の継続所有を確約しています。株式については割当日から上場日以後6か月を経過する日まで(払込から1年未満の場合は1年を経過する日まで)が原則です。Ⅰの部では、ひふみスタートアップ投資事業有限責任組合が、上場日以後に出資元であるファンドへの株式移動を予定しており、これが施行規則上の「社会通念上やむを得ないと認められる場合」に該当するとして記載されています。ファンドの構造上、上場後に株式を移す予定がある場合は、Ⅰの部で事前に説明しておく必要があることがわかります。
株主構成:親会社なし、上位株主が分散
株主の状況(潜在株式を含む総数38,179,204株)を見ると、筆頭株主はPeppermint Grove LimitedとInsanna Stiftungでそれぞれ9.45%です。これに、シーズ・インベストメント有限責任事業組合(6.45%)、共同代表のノビック・コーリン氏とシーガー・ジェイソン氏(各6.36%)、The Prudential Assurance Company Limited(6.16%、全て潜在株式)、取締役CSOのマークシュタイナー・ライナー氏(6.08%)が続きます。潜在株式は合計4,843,502株で、総数に対する割合は12.69%です。親会社等はありません。
図10 株主の状況(上位10名、潜在株式を含む総数38,179,204株に対する割合)。Ⅰの部「第四部 株式公開情報 第3 株主の状況」をもとに筆者作成
所有者別の状況(2026年1月19日現在)を見ると、株主数は181名で、その他の法人が28.6%、外国法人等(個人以外)が28.8%、外国法人等(個人)が13.9%、個人その他が28.7%を占めています。外国法人等(個人以外・個人)の比率は合計で4割を超えています。
図11 所有者別状況(2026年1月19日現在、株主数181名)。Ⅰの部「所有者別状況」をもとに筆者作成
経営陣(共同代表2名と取締役CSO)の持株比率は、それぞれ6%台です。創業者の持株比率が上場時点でそれほど高くないことは、多数回の外部調達を経た研究開発型企業では珍しくありません。上場後の安定株主の考え方や経営の安定性について、どのように説明するかは上場準備の重要な検討事項です。創業者の持株比率については創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで詳しく解説しています。
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コーポレート・ガバナンスはどう整えられたか
イノバセルの機関設計は監査役会設置会社です。Ⅰの部では、監査役会設置会社を採用しつつ、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社の優れた点を取り入れて取締役会の監督機能の強化を進めると記載されています。
図12 イノバセルの機関設計と内部監査・会計監査の関係(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」「監査の状況」をもとに筆者作成)
取締役会と監査役会の構成
取締役は5名で、代表取締役Co-CEOが2名(ノビック・コーリン氏、シーガー・ジェイソン氏)、取締役CSO(マークシュタイナー・ライナー氏)、取締役CFO(細野恭史氏)、社外取締役1名(松澤新氏)という構成です。取締役会の議長はノビック・コーリン氏が務めています。取締役会は原則月1回の定時取締役会に加えて必要に応じて臨時に開催され、最近事業年度の出席状況は社内取締役4名がいずれも19回中19回です。主な検討内容は、パイプラインの構築・拡充・管理、事業パートナリング、ICEF15第Ⅲ相試験の進捗とされています。社外取締役の松澤新氏は医師で、2025年10月に就任しているため、最近事業年度の出席状況には記載がありません。
監査役は3名で、全員が社外監査役です。常勤監査役の高木茂氏は財務・会計・税務の実務経験を持ち、上住敬一氏は公認会計士・税理士、廣瀬真利子氏は弁護士です。監査役会は原則月1回開催され、最近事業年度は各監査役とも12回中12回出席しています。役員は男性6名・女性2名で、女性比率は25.0%です。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴・専門性 |
|---|---|---|
| 代表取締役Co-CEO(議長) | ノビック・コーリン | コンサルティング会社・証券会社を経て再生医療関連会社の経営に従事 |
| 代表取締役Co-CEO | シーガー・ジェイソン | コンサルティング会社・証券会社を経て当社設立時から代表取締役 |
| 取締役CSO | マークシュタイナー・ライナー | 2002年に前身企業へ入社、2005年から同社取締役 |
| 取締役CFO | 細野 恭史 | 銀行・コンサルティング会社を経て複数の会社でCFO等を歴任 |
| 社外取締役 | 松澤 新 | 医師。医療関連会社の代表取締役等 |
| 常勤監査役(社外) | 高木 茂 | 事業会社の財務・会計部門、取締役等を歴任 |
| 監査役(社外) | 上住 敬一 | 公認会計士・税理士 |
| 監査役(社外) | 廣瀬 真利子 | 弁護士 |
共同代表(Co-CEO)の体制は、上場会社では多くはありません。Ⅰの部では、事業等のリスクの「小規模組織及び少数の事業推進者への依存」の項目で、Co-CEO2名への依存がリスクとして記載されています。また、Co-CEO2名には約10年にわたる細胞治療・再生医療の薬事コンサルタントとしての経験があることも記載されています。共同代表制を採る場合、代表者間の権限分担や意思決定のルールを社内規程で明確にしておくことが、上場審査での説明の前提になります。
社外取締役は1名で、就任は2025年10月です。東証の上場規程では、上場会社は独立役員を1名以上確保することが求められ、コーポレートガバナンス・コードの原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)は、プライム市場以外の上場会社に独立社外取締役を少なくとも2名以上選任することを求めていますが、グロース市場の会社には基本原則のみが適用されるため、同原則は直接の適用対象ではありません。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要か、機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。
情報共有の会議体と子会社のガバナンス
Ⅰの部では、取締役会・監査役会以外の会議体についても記載があります。常勤取締役と常勤監査役によるECM(Executive Committee Meeting)が定期的に開催されているほか、財務・管理部が事務局となって、日本在住の取締役・監査役(社外を除く)と社員による「Operations Review」が定期的に開催されています。法令遵守・リスク管理に関する会議も不定期に開かれています。内部統制システムの基本方針では、業務執行取締役による週次の討議も定められています。
子会社との関係では、当社取締役4名がInnovacell GmbHの取締役を兼任しています。関係会社管理規程に基づき、グループの年度予算や中長期計画、月次業績を取締役会に報告する体制がとられています。Ⅰの部には、Innovacell GmbHの第三者割当増資の引受(2024年8月30日払込、29,680千円)について、2024年9月19日開催の取締役会において遡及承認決議を行った旨も記載されています。このように、手続の経緯もⅠの部で開示されます。一般論として、子会社への出資のような重要な事項は、決裁権限規程に沿って事前に承認を得る運用が基本です。上場準備の期間中は規程が実際に運用されているかが確認されるため、海外子会社の案件も含めて承認手続の流れを確認しておくことが大切です。
役員報酬と関連当事者との取引
役員報酬について、個別の報酬額は外部の専門企業によるベンチマーキング及びアドバイスを参照して算定し、株主総会で定めた範囲内で取締役会の承認を得て決定するとされています。報酬限度額は2025年3月27日の株主総会で、取締役は年額500百万円以内、監査役は年額50百万円以内に改定されています。最近事業年度の支給総額は、取締役(社外取締役を除く)4名に116,555千円、社外役員3名に16,800千円で、いずれも固定報酬のみです。会社法第361条第7項に基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定方針は「定め、取締役会にて決議する予定」、2026年3月開催予定の定時株主総会で株式報酬の導入を決議する予定と記載されています。
関連当事者との取引としては、主要株主(個人)であったEkkehart Steinhuber氏と、当社取締役のMarksteiner Rainer氏からの資金の借入が開示されています。2024年12月期末の残高は、それぞれ長期借入金120,368千円、71,414千円です。取引条件は市場価格又は一般的な取引条件を参考に決定したと記載されています。上場審査では、役員や主要株主との取引について、取引の必要性と条件の妥当性が確認されます。継続する取引であれば、その合理性を取締役会で確認し、記録を残しておくことが重要です。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。
内部監査・内部統制はどう整えられたか
内部監査は、内部監査責任者1名が担っています。内部監査規程に基本的な事項が定められ、リスクベースで監査計画を立て、必要に応じて経営陣が重視する項目もテーマに加えるとされています。監査の対象は子会社を含むすべての部門です。監査の結果は「指摘事項」と「推奨事項」に区分され、改善策の立案から是正、有効性の確認までが内部監査のプロセスに組み込まれています。監査員の継続的な研修についても記載があります。
兼務と自己監査の回避
内部監査責任者は、品質マネジメント及び規程管理の業務を兼務しています。そして、兼務している業務の内部監査は、独立性・客観性を確保するため、他部署に所属する監査員が実施すると記載されています。少人数の会社では、内部監査の専任者を置くことが難しく、他の業務との兼務になることが少なくありません。その場合に問題となるのが「自己監査」、つまり自分が担当している業務を自分で監査してしまうことです。イノバセルの記載は、兼務を前提としつつ、兼務業務については別の者が監査するという、自己監査を避ける典型的な方法を示しています。兼務の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で詳しく解説しています。
図13 内部監査責任者の兼務業務を他部署の監査員が監査する仕組み(Ⅰの部「監査の状況」をもとに筆者作成)
内部監査の報告ライン
Ⅰの部では、内部監査の監査計画や結果を取締役会及び監査役会へ直接報告する仕組みはなく、代表取締役へ直接報告し意見交換を行っていると記載されています。内部監査の報告ラインについては、2026年7月改訂前のコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-13③で、内部監査部門が取締役会や監査役会に直接報告を行う仕組みの構築が求められていました(改訂後は原則4-14の解釈指針)。もっとも、コードのこの部分はグロース市場の会社には適用されない(基本原則のみ適用)ため、Ⅰの部の記載はその現状を開示したものと読めます。上場準備会社は、自社の市場区分に応じて、どこまでの体制を整えるかを検討し、その内容を正確に開示することが求められます。報告先の考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのかで解説しています。
三様監査の連携
監査役会、会計監査人、内部監査責任者の三者は、情報交換・意見交換を行い、監査計画を共有していると記載されています。常勤監査役は重要な会議に出席し、経営幹部への聴取を行うとともに、内部監査責任者・会計監査人との三者協議に参加しています。さらに、内部統制を担当する財務・管理部とも必要に応じて打合せが行われています。
図14 監査役会・内部監査責任者・会計監査人の連携(Ⅰの部「監査の状況」をもとに筆者作成)
研究開発の実体が海外子会社にある会社では、三様監査の連携は特に重要です。子会社の監査は、内部監査では往査やリモートでの確認、会計監査では子会社の監査人(Ⅰの部によれば当社監査人と同一ネットワークに属さない組織)との連携、監査役監査では子会社取締役を兼務する当社取締役からの聴取など、それぞれの手段で行われます。三者がそれぞれ何を見ているかを共有することで、重複を避けつつ監査の空白をなくすことができます。三様監査の基本は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。
リスク管理・コンプライアンス・子会社管理
内部統制システムの基本方針では、誠実、ポジティブ、シンプル、柔軟さと規律、多様性という5つの価値観が掲げられ、コンプライアンス規程、内部監査規程、文書管理規程、リスク管理規程、関係会社管理規程などが整備されています。リスク管理については、「リスクの分類」「リスクマトリックス」「リスク回避」などを全役職員で複数回協議・確認し、リスク・マネジメントと災害時等の危機管理の両マニュアルを作成したと記載されています。法的な判断は社内の法務担当者が検討し、顧問弁護士等の助言を受ける体制です。
子会社管理では、コンプライアンス主管部署が子会社のコンプライアンス状況を監視し、内部監査主管部署が子会社を定期的に監査します。内部通報については、監査役への報告と、通報者への不利益な取扱いの禁止が基本方針に定められています。海外子会社がある場合、現地の言語・法令・商慣習を踏まえて規程を運用できるかが課題になります。英語版の規程の整備や、現地責任者からの定期報告の様式化などは、多くの会社で有効な対応です。
事業等のリスクの記載方法にも特徴があります。イノバセルは24項目のリスクのそれぞれについて、「発生可能性」「顕在化の時期」「想定される影響度」を記載しています。たとえば「新製品開発の不確実性」は発生可能性が中、時期は随時、影響度は中~大とされ、「資金繰り」は発生可能性が小、影響度が大とされています。リスクごとに評価の目線をそろえて記載しておくと、社内のリスク管理と開示の内容を一致させやすくなります。
会計・開示の論点は何か
収益認識:事業収益がない段階での開示
イノバセルは事業収益が発生していないため、連結・単体とも収益認識関係の注記は記載が省略されています。もっとも、将来の収益として想定されている契約一時金、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入は、収益認識の論点が多い取引です。一般論として、ライセンス契約の一時金はライセンスの性質(アクセス権か使用権か)によって一時点で認識するか一定期間にわたり認識するかが変わり、マイルストーン収入は変動対価として、ロイヤリティは売上高ベースのロイヤリティの例外規定に沿って検討することになります。収益が発生する前から、主要な契約の条件と会計処理の考え方を監査法人と協議しておくことが、上場後の開示の安定につながります。収益認識の基本は収益認識基準 完全ガイドで解説しています。
重要な会計上の見積り:EIBローンとロイヤリティ契約
本件で最も特徴的な会計論点は、在外連結子会社のEIBローンに関する会計処理です。Innovacell GmbHは2021年12月に欧州投資銀行(EIB)と借入契約を締結し、2022年6月に15,000千ユーロを借り入れました。金利は固定金利1%(毎期支払)とPIK金利4%(元本に組み入れ、満期まで繰延べ)で、借入期間は5年、満期一括返済です。あわせてロイヤリティ契約が締結されており、パイプライン(ICEF15、ICEF16、ICES13)の上市・売上計上日から12年間、総額37,500千ユーロを上限として、売上高に契約料率を乗じたロイヤリティを支払うこととされています。
Ⅰの部によれば、両契約は実質的に一体の取引として、ロイヤリティを借入の利息の一部として会計処理しています。子会社はIFRS第9号に基づき金融負債を償却原価で測定しており、期待キャッシュ・フローにロイヤリティの支払見込額を加えて償却原価を算定しています。上市の可能性や時期は、複数のシナリオとその確率による期待値法で見積もられ、実効金利は16.25%です。
図15 在外連結子会社のEIBローンに関する会計処理の流れ(Ⅰの部「重要な会計上の見積り」をもとに筆者作成)
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 長期借入金(EIBローン) | 2,709,622千円 | 3,353,059千円 |
| 支払利息(EIBローン) | 240,726千円 | 531,829千円 |
| 成功確率10%ポイント低下時の影響 | △130,834千円 | △164,655千円 |
| 成功確率10%ポイント上昇時の影響 | +145,094千円 | +181,123千円 |
| 見積りの変更による長期借入金への影響 | 153百万円減少 | 58百万円増加 |
主要な仮定は開発ステージごとの成功確率で、過去の臨床試験データの統計値に基づくとされています。感応度も開示されており、2024年12月期では成功確率が10%ポイント低下した場合は164,655千円の減少、上昇した場合は181,123千円の増加と記載されています。ロイヤリティ支払見込額の見直し(パイプラインの開発状況の進展や商業スキームの見直し)による会計上の見積りの変更も毎期開示されており、2023年12月期は長期借入金が153百万円減少、2024年12月期は58百万円増加、2025年第3四半期は197百万円増加しています。また、時価の注記では、EIBローンはロイヤリティ見込額が重要なインプットであるためレベル3に区分されています。
上場準備会社にとっての実務上のポイントは、複雑な金融負債を抱えている場合、会計処理の方針を早期に固め、見積りのプロセスを内部統制として整備することです。成功確率のような仮定は、誰がどの資料に基づいて設定し、誰が承認するのかを決めておく必要があります。見積りの変更が毎期生じる場合は、その原因(開発の進捗、商業スキームの変更など)を説明できる資料を残しておくことが、監査対応と開示の両面で欠かせません。
単体の関係会社株式の評価
提出会社単体では、関係会社株式(Innovacell GmbH株式)が2024年12月期末で2,486,005千円計上されており、重要な会計上の見積りとして開示されています。Ⅰの部によれば、取得原価には超過収益力等が含まれており、実質価額の著しい低下はないと判断して評価損は計上していません。子会社はIFRSベースの純資産が債務超過(3,107,229千円)である旨も「関係会社の状況」に記載されています。純資産ベースでは債務超過でも、超過収益力等を反映した実質価額で判断するという考え方であり、事業計画の合理性が評価の前提になります。持株会社型の上場準備会社では、この論点が上場準備の早い段階から問題になりやすいため、評価の方針と根拠資料を整えておくことが重要です。
その他の特徴的な注記と監査法人
その他にも、在外子会社がIFRS第16号を適用し、すべてのリースについて使用権資産とリース債務を認識していること、繰越欠損金に係る繰延税金資産の全額に評価性引当額を計上していること、当社が関係会社の金融機関からの借入債務に対して保証を行っていること(2024年12月期末で2,675,662千円)などが記載されています。新リース会計基準(企業会計基準第34号等)については、2028年12月期の期首から適用し、影響は評価中とされています。
監査法人は監査法人アヴァンティアで、継続監査期間は4年間です。監査証明業務に基づく報酬は、前連結会計年度27,720千円、最近連結会計年度27,240千円で、非監査業務の報酬はありません。連結子会社は、当社の監査人と同一のネットワークに属さない組織に監査報酬を支払っており、その額は前年度16,614千円、最近年度17,926千円です。海外子会社の監査人が親会社の監査人と別のネットワークに属する場合、グループ監査としての連携体制(指示書、報告の様式、スケジュール)を早めに固めることが大切です。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
事業等のリスクと、審査で問われやすい点は何か
イノバセルの事業等のリスクは24項目にわたります。研究開発型企業に共通する「新製品開発の不確実性」「資金繰り」「収益が大きく変動する傾向」に加え、海外に事業の実体があることに由来する「世界的な事業展開」「為替変動」「国際税務」、資本政策に由来する「株式価値の希薄化」、そして「継続企業の前提に関する重要事象等」が記載されています。
| リスク項目 | 発生可能性 | 影響度 | Ⅰの部の主な記載 |
|---|---|---|---|
| 新製品開発の不確実性 | 中 | 中~大 | 開発の延長・中止、承認取得の不確実性。3品目は原料細胞・培養工程・作用機序に共通性 |
| 資金繰り | 小 | 大 | 営業キャッシュ・フローのマイナスが継続。2025年9月末の現金及び預金4,505,421千円 |
| 知的財産権及び職務発明 | 小 | 小 | 特許は子会社が保有し、当社と子会社間の知財ライセンス契約は未締結。適切な時期に締結予定 |
| 小規模組織・少数の事業推進者への依存 | 小 | 中 | Co-CEO2名への依存 |
| 為替変動 | 中 | 小~中 | 子会社の取引はユーロ建て |
| 国際税務 | 小 | 小~中 | コーポレート・インバージョン後の日墺の税務。専門家に確認済み |
| 株式価値の希薄化 | 中 | 小~中 | ストック・オプションに加えラチェット型新株予約権を発行 |
| 継続企業の前提に関する重要事象等 | 小 | 大 | 資金確保により重要な不確実性は認められないと判断 |
継続企業の前提に関する重要事象等の書き方
「継続企業の前提に関する重要事象等」の項目では、外部からの資金調達に依存しているため、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していると「外形的に判断される」と記載されています。そのうえで、対応策として資本の増強、支出のコントロール、ICEF15第Ⅲ相試験の推進が挙げられ、2024年12月期に株式及び新株予約権の発行で2,215,825千円、2025年は第3四半期末までに4,280,328千円を調達したこと、2025年9月30日の現金及び預金4,505,421千円で当面(1年超)の必要資金は確保していると判断していることが記載されています。その結果、重要な不確実性は認められないとして、財務諸表への継続企業の前提に関する注記は記載していません。
このように、「重要事象等」が存在することと、財務諸表に「継続企業の前提に関する注記」を付すことは別の判断です。重要事象等がある場合でも、対応策を講じた結果、重要な不確実性が認められなければ注記は不要となり、事業等のリスクで重要事象等と対応策を説明することになります。研究開発型の上場準備会社は、資金の手当ての見通しを数字で説明できるよう、資金計画を月次で管理しておくことが重要です。
図16 継続企業の前提に関する重要事象等の記載と注記の要否の判断の流れ(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに筆者作成)
審査で問われやすいと考えられる点
Ⅰの部の記載を踏まえると、このような事業・組織構造を持つ会社の上場準備で一般に確認されやすい論点として、次のようなものが挙げられます。第一に、海外子会社を含めたグループの管理体制です。研究開発・製造・治験の実体が海外にある場合、予算管理、決裁、内部監査、内部通報が子会社まで届いているかが確認されます。第二に、知的財産の帰属です。特許は子会社が保有しており、当社と子会社間の知財ライセンス契約は事業化までの適切なタイミングで締結予定と記載されています。グループ内での権利関係の整理の方針を説明できることが重要です。第三に、資金計画と事業計画の整合性です。研究開発の進捗と資金の残高、資金調達の予定が一貫しているかが問われます。第四に、上場前の株式の発行・移動の価格の説明です。多様な手段で何度も資金調達を行った会社では、それぞれの価格の決め方を一貫して説明できるようにしておく必要があります。上場審査の全体像はIPOの実質審査基準とは、主幹事証券の審査については主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかで解説しています。
イノバセルのケースから上場準備会社が学べること
図17 本記事で取り上げた上場準備の実務上のポイント(筆者作成)
1. 上場の器と事業の実体が異なる場合は、その構造を図と文章で説明する。コーポレート・インバージョンのように、上場する会社と事業の実体の所在地が異なる場合、その経緯と狙い、各社の役割分担を明確に示すことが、審査と投資者の理解の前提になります。イノバセルは、合併の仕組み、狙い、大学との関係の整理、前身企業の参考指標までⅠの部に記載しています。
2. 資金調達手段は多様でも、上場時の株式数への影響を一覧で管理する。J-KISS型新株予約権、種類株式、DES、ラチェット型新株予約権、ストック・オプションは、それぞれ上場時の株式数に異なる形で影響します。発行の都度、転換条件と潜在株式数を一覧表で更新しておくことが重要です。
3. 発行価格の算定根拠を記録に残す。収益がない段階では、累計研究開発投資額や研究開発の進捗を参考にして価格を決めることもあります。考え方を議事録や算定資料に残しておけば、後から一貫した説明ができます。
4. 社外役員の確保は計画的に進める。イノバセルは監査役3名全員が社外で、公認会計士・税理士や弁護士など専門性のある人材をそろえています。社外取締役は上場前年の2025年10月に就任しており、社外役員の候補者探しには時間がかかることを前提にスケジュールを組むことが大切です。
5. 少人数の内部監査では、兼務と自己監査の回避をセットで設計する。内部監査責任者1名・兼務という体制でも、兼務業務を他部署の監査員が監査する仕組みを設けることで、独立性と客観性を確保できます。
6. 海外子会社の管理は、規程・会議体・監査の三つで固める。関係会社管理規程による報告、取締役の兼任や定期会議による情報共有、子会社を含めた内部監査という組合せは、海外子会社を持つ会社の基本形です。
7. 複雑な会計処理は、仮定と感応度まで説明できるようにする。EIBローンのように将来の売上に連動する支払いを含む金融負債は、見積りの仮定と感応度の開示が求められます。見積りのプロセス自体を内部統制として整備しておくことが重要です。
8. 赤字の会社は、資金の手当ての見通しを数字で示す。継続企業の前提に関する重要事象等を記載する場合でも、調達の実績と手元資金、必要資金の見通しを具体的に示すことで、重要な不確実性がないことを説明できます。
- 上場する会社と事業の実体の関係(グループ構造・役割分担)を図で説明できるか
- 新株予約権・種類株式・DESを含め、上場時の株式数と潜在株式比率を試算しているか
- 第三者割当や株式移動の価格の算定根拠を議事録・資料として残しているか
- 社外取締役・社外監査役の候補者を、上場スケジュールから逆算して確保しているか
- 内部監査の兼務業務について、他の者が監査する仕組みを設けているか
- 海外子会社を含めて、決裁・報告・内部監査の手続が実際に運用されているか
よくある質問
グロース市場には利益の額や売上高に関する形式要件はありません。ただし、事業計画とその進捗、成長可能性に関する事項を分かりやすく説明することが求められます。イノバセルのように、KPIとしてパイプラインの進捗や臨床試験の患者組入数を用い、資金計画とあわせて説明することが重要です。
海外の会社を、別の国に設立した会社の子会社にする形で、グループの親会社の所在地を移す組織再編のことです。イノバセルでは、日本に新設した当社が、三角合併によってオーストリアの会社の完全親会社となりました。Ⅰの部では、日本での資金調達を目的としたと説明されています。
J-KISS型新株予約権は、その後の株式による資金調達の際に転換価額が決まり、株式に転換される仕組みです。イノバセルでは、2024年10月30日の新株式発行で転換価額782円が確定し、2024年12月9日までにすべて普通株式に転換されました。
人数だけで判断されるものではなく、監査計画、監査の実施、報告、改善の確認までの一連のプロセスが機能しているかが重要です。兼務がある場合は、兼務業務を他の者が監査するなど、自己監査を避ける仕組みが必要です。人数と体制については内部監査の人数と体制で解説しています。
最初の一歩は「グループの構造と資金の流れ」を一枚にまとめること
海外子会社を持つ会社や、多様な手段で資金調達を重ねてきた会社が上場準備を始める際は、まず、グループ各社の役割、人員、許認可、知的財産の帰属、資金の流れ(増資・借入・グループ内の出資や貸付)を一枚の図にまとめることから始めるのがおすすめです。この図があれば、主幹事証券会社や監査法人との最初の打合せで論点を共有しやすくなり、資本政策や内部統制の整備の優先順位も決めやすくなります。
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イノバセルのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
イノバセルの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
イノバセルは、オーストリアで20年以上の研究開発の歴史を持つ会社を、日本に新設した当社が三角合併で子会社化し、東証グロース市場に上場した事例です。事業収益がない中で、J-KISS型新株予約権、種類株式、DES、ラチェット型新株予約権などを組み合わせて研究開発資金をつなぎ、上場前には種類株式の普通株式への転換や欠損填補の減資も行っています。ガバナンス面では、監査役全員を社外とし、内部監査責任者1名の兼務体制でも自己監査を避ける仕組みを設けています。会計面では、EIBローンとロイヤリティ契約を一体として扱う会計処理について、仮定と感応度まで開示しています。
上場の器と事業の実体の関係、資本政策の設計と記録、海外子会社を含めた管理体制、複雑な会計処理の説明という4つの観点は、海外展開する会社や研究開発型の会社に限らず、多くの上場準備会社にとって参考になるはずです。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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