※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
株式会社ソフトテックス(証券コード550A)は、名古屋市に本社を置く独立系のシステム開発会社です。2026年3月6日に上場承認を受け、2026年4月9日に東京証券取引所スタンダード市場と名古屋証券取引所メイン市場に上場しました(Ⅰの部では両市場への上場予定と記載)。1984年2月の設立から40年余りを経ての上場であり、ベンチャーキャピタルのファンドが並ぶグロース市場の事例とはかなり違った姿をしています。本記事では、同社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を読み、上場準備会社が実務に生かせる点を整理します。
結論からいえば、ソフトテックスのⅠの部は「長く黒字経営を続けてきた中堅IT企業が、スタンダード市場に上場するために何を整えたか」を学ぶ教材です。具体的には、①請負・準委任・導入サービスの3類型に分けた収益認識と進捗度の見積り、②取締役6名中社外1名・監査役3名全員社外という監査役会設置会社の体制と、内部監査に常勤社外監査役が常に同席する「共同監査」、③第三者割当を行わず、株式分割と単元株制度の採用で上場に備えた資本政策、④従業員持株会が筆頭株主で、流通株式時価総額が形式要件に近接すると自ら開示している点、の4つが読みどころです。
この記事の見出し
ソフトテックスはどのような会社で、どの市場に上場したのか
まず会社と上場の概要を確認します。Ⅰの部の表紙によると、提出日は2026年3月6日、本店は愛知県名古屋市千種区今池五丁目、代表者は代表取締役社長の石黒佳彦氏です。決算期は3月で、2025年3月期が第42期にあたります。子会社や関連会社はなく(関係会社の状況は「該当事項はありません」)、財務諸表は単体のみで作成されています。
従業員数は2026年1月31日現在で330人、平均年齢39.2歳、平均勤続年数12.3年、平均年間給与5,915千円です。サービス別ではソフトウェア開発サービス250人、医療ITサービス62人、全社(共通)18人となっています。平均勤続年数が12年を超えている点は、設立から40年以上たつ会社らしい数字です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式社名 | 株式会社ソフトテックス(SOFTTEX Co., Ltd.) |
| 証券コード | 550A |
| 市場 | 東京証券取引所スタンダード市場・名古屋証券取引所メイン市場 |
| 上場承認日/上場日 | 2026年3月6日/2026年4月9日 |
| 設立 | 1984年2月(株式会社ソフテックインターナショナルとして設立) |
| 本店 | 愛知県名古屋市千種区 |
| 決算期 | 3月(2025年3月期=第42期) |
| 事業 | システム開発関連事業の単一セグメント(ソフトウェア開発サービス、医療ITサービス) |
| 従業員数 | 330人(2026年1月31日現在) |
| 機関設計 | 監査役会設置会社 |
| 会計監査人 | 有限責任監査法人トーマツ |
スタンダード市場は「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えた企業」向けの市場と位置付けられています。グロース市場と違い、コーポレートガバナンス・コードは全原則が適用されます。また上場審査(実質審査)では、「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点」が確認されます。ソフトテックスのように長期にわたり黒字の会社では、とくに「継続性及び収益性」をどう説明するかが中心になります。審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とは、継続性・収益性の考え方はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で解説しています。
自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします
IPO支援:ショートレビュー、資本政策、内部管理体制、Ⅰの部の作成、審査対応まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
IPO支援の内容を見る / 相談内容を送る
何で稼ぐ会社なのか:事業内容と収益モデル
ソフトテックスは単一セグメント(システム開発関連事業)ですが、Ⅰの部では「ソフトウェア開発サービス」と「医療ITサービス」の2つに分けて事業を説明しています。自社のソフトウェア製品を作って売るのではなく、顧客の課題に合わせたシステムの提案・開発・運用・保守を提供する、いわゆる受託型のビジネスです。同社は「特定の資本系列に属さない独立系IT企業」であり、業種・業界を限定しない顧客基盤を強みとして挙げています。
図1 2つのサービスと受注経路の構成(2025年3月期、売上構成比・各サービス売上高に占める割合)(Ⅰの部をもとに筆者作成)
ソフトウェア開発サービスは、システムの提案から保守までを一貫して請け負う「請負開発」と、顧客企業に技術者を派遣したり準委任で技術支援を行ったりする「技術者支援」に分かれます。請負開発の中心はモダナイズソリューションで、メインフレームなどのレガシーシステムを現代的な環境へ移行するサービスです。COBOLやPL/Ⅰなどさまざまな言語に対応していると記載されています。ほかに、国や自治体向けの防災システム(水防・砂防・気象情報など)、物流の倉庫管理システム、スポーツ新聞向けのデータシステム、クラウドソリューションがあります。
医療ITサービスの柱は、日本医師会の「日医標準レセプトソフト(ORCA)」の導入・運用・保守を支援する「ORCARE(オルケア)」です。同社は2002年11月に「日医IT認定サポート事業所」の認定を受けており、Ⅰの部によると認定事業所は2025年3月期末時点で全国に約130社あります。この認定は「重要な契約等」にも記載され、本社の認定期間は2026年4月1日から2028年3月31日まで、東京・北海道は2025年4月1日から2027年3月31日までとされています。
図2 2025年3月期の売上構成比(%)。SIer支援は派遣6.5%+準委任22.6%、直接顧客支援は派遣2.2%+準委任17.0%の合計(Ⅰの部をもとに筆者作成)
2025年3月期の売上構成比を見ると、技術者支援が48.3%と約半分を占め、その多くは準委任契約(SIer支援22.6%、直接顧客支援17.0%)です。請負開発は25.6%で、うちモダナイズソリューションが12.2%、医療ITサービスは26.0%で、うちORCA支援が24.9%です。売上の大半が「人が稼働した時間」や「プロジェクトの進捗」に応じて生まれる構造であることがわかります。同社自身も対処すべき課題として「人月ビジネスからの脱却」と「ストックビジネスの拡大」を挙げています。
受注経路も開示されています。ソフトウェア開発サービスでは、システム・インテグレータ等からの売上高が1,522,318千円(ソフトウェア開発サービス売上高の57.7%)、直接顧客が1,114,015千円(同42.3%)です。医療ITサービスでは、電子カルテメーカーや医療機器メーカー経由が761,517千円(医療ITサービス売上高の82.0%)、医療機関からの直接が167,148千円(同18.0%)です。主要な販売先としては、2025年3月期にJBCC㈱が480,175千円(総販売実績の13.5%)、㈱トヨタシステムズが404,547千円(同11.3%)と記載されています。
上場準備の観点では、こうした「誰を通じて受注しているか」の開示が、事業等のリスク(SIer等の営業活動への依存)と対応していることが大切です。審査では、主要取引先との取引条件、取引の継続性、依存度が下がった場合の影響を説明できるかが確認されます。
| 区分 | 内容 | 2025年3月期の売上構成比 |
|---|---|---|
| 請負開発 | モダナイズ、防災、物流、メディア、クラウド等 | 25.6% |
| 技術者支援 | SIer支援サービス、直接顧客支援サービス(派遣・準委任) | 48.3% |
| 医療ITサービス | ORCA支援(ORCARE)、電子カルテ連携 | 26.0% |
| 合計 | 100.0% |
40年余りの沿革から上場までの道のり
沿革を見ると、同社は1984年2月に「株式会社ソフテックインターナショナル」として名古屋市千種区今池で設立されました。2002年11月に日医IT認定サポート事業所の認定を取得してORCAの導入支援を始め、2007年には子会社だった日本アプリケーション・サービス㈱や、㈱システムプラネット、㈱マクロコスモを吸収合併し、現在の商号に変更しています。2009年3月にプライバシーマーク、2023年10月にISO9001の認証を取得しました。
資本面では、2001年4月にキムラユニティー㈱、2015年3月に㈱ミロク情報サービスと業務・資本提携をしています。両社は現在も上位10名の株主に入っています。2018年3月に㈱インターフェイスの株式の35%を取得し、2020年7月に完全子会社化、同年9月に吸収合併しました。こうした合併の結果、Ⅰの部の時点では子会社がなく、単体の財務諸表だけで上場申請をしています。
図3 設立から上場までの主な出来事(Ⅰの部「沿革」等をもとに筆者作成。上場日は東京証券取引所の公表情報による)
上場に向けた直近の動きとしては、2025年11月17日付の株式分割(1株→100株)と単元株制度の採用があります。会社法上の手続を整理した上で、上場後の売買単位に合わせて株式数を整えるのは、上場準備の終盤によく見られる作業です。準備全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
業績はどう推移しているか:5期連続の黒字と申請期の減益
「主要な経営指標等の推移」には、第38期(2021年3月期)から第42期(2025年3月期)までの5期分が単体で記載されています。売上高は2,899,979千円から3,565,000千円へ増加し、経常利益・当期純利益は5期とも黒字です。純資産は703,649千円から1,220,201千円に、自己資本比率は45.4%から63.1%に上がっています。
ここで注意したいのは、監査を受けている期間です。Ⅰの部の注記によると、第41期と第42期の財務諸表は財務諸表等規則に基づいて作成され、有限責任監査法人トーマツの監査を受けています。一方、第38期から第40期は会社計算規則に基づいて算出した数値で、この監査を受けていません。また第38期から第40期はキャッシュ・フロー計算書を作成していないため、キャッシュ・フローの欄は「-」になっています。長く非上場で経営してきた会社が上場を目指す場合、直前2期分を金融商品取引法に準じた監査に耐える形で作り直すことが、準備の大きな山になります。
| 回次(決算期) | 売上高 | 経常利益 | 当期純利益 | 純資産額 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第38期(2021年3月) | 2,899,979 | 188,127 | 124,338 | 703,649 | 45.4% |
| 第39期(2022年3月) | 3,046,970 | 184,842 | 119,137 | 785,424 | 51.0% |
| 第40期(2023年3月) | 3,087,792 | 143,483 | 97,824 | 869,049 | 56.0% |
| 第41期(2024年3月) | 3,375,501 | 288,449 | 190,721 | 1,050,790 | 58.4% |
| 第42期(2025年3月) | 3,565,000 | 288,894 | 210,985 | 1,220,201 | 63.1% |
(単位:千円。第38〜40期は会社計算規則に基づく数値で、上場規程に基づく監査を受けていません)
図4 売上高(千円)。第38〜40期は会社計算規則に基づく数値で監査を受けていない(Ⅰの部をもとに筆者作成)
売上高は5期で一度も前期を下回っていません。経常利益は第40期に143,483千円まで下がった後、第41期に288,449千円、第42期に288,894千円となっています。第42期の内訳は、ソフトウェア開発サービスの売上高2,636,334千円(前年同期比7.0%増)、医療ITサービス928,666千円(同1.9%増)、合計3,565,000千円(同5.6%増)で、営業利益285,491千円(同0.5%増)、当期純利益210,985千円(同10.6%増)です。MD&Aでは、モダナイゼーションサービスを中心とした大型請負プロジェクトの受注と、医療機関のオンライン資格確認システム導入の需要が業績を支えたと説明しています。
図5 経常利益・当期純利益(千円)。5期とも黒字。第38〜40期は監査を受けていない数値(Ⅰの部をもとに筆者作成)
1株当たりの指標は、2025年11月17日の株式分割(1株→100株)を第38期の期首に行ったと仮定した参考値も記載されています。これによると1株当たり当期純利益は第42期で274.04円、1株当たり配当額は70.00円、配当性向は25.5%です。同社は上場前から毎期配当を行っており、配当性向は第38期の7.3%から第42期の25.5%まで上がっています。
四半期の偏りと申請期の減益をどう開示しているか
受託開発の会社では、大型案件の検収時期や賞与の計上時期によって四半期ごとの利益がぶれます。ソフトテックスは事業等のリスクの「各四半期の業績の変動について」で、2024年3月期と2025年3月期の四半期ごとの売上高と営業利益を表で示しています。2025年3月期の第4四半期は、営業損失21,933千円でした。その理由として、グローバルヘルプデスク(ヘルプデスクサービス)の終了に伴う受注減、防災案件の受注減、賞与引当金繰入額の積み増しと決算賞与の支給が挙げられています。
図6 第41期(2024年3月期)と第42期(2025年3月期)の四半期業績(千円)。事業等のリスク「各四半期の業績の変動について」に記載(Ⅰの部をもとに筆者作成)
さらに、申請期にあたる第43期の中間会計期間(2025年4月〜9月)は、売上高1,738,748千円(前年同期比0.8%増)に対し、営業利益94,600千円(同40.3%減)、中間純利益63,188千円(同40.8%減)でした。理由は、採用戦略を中途採用中心から新卒・第2新卒重視へ切り替えたことによる労務費の増加、社内ITシステム移行のための支払手数料の増加、自社開発の原価管理システムの本稼働による減価償却費の増加と説明されています。第43期第3四半期累計(2025年4月〜12月)は、売上高2,655,411千円、営業利益173,254千円、四半期純利益117,194千円です。この第3四半期の数値は、Ⅰの部「その他(最近の経営成績及び財政状態の概況)」に掲載された四半期財務諸表によるもので、監査法人の期中レビューを受けたものです(年度の監査とは異なります)。
上場準備会社にとってのポイントは、申請期に利益が前年より下がること自体が問題なのではなく、その理由が事業計画と整合しているかどうかです。新卒採用の強化や基幹システムへの投資は、あらかじめ計画に織り込まれていれば合理的に説明できます。逆に、計画になかった減益が申請直前に起きると、予算統制や業績予想の精度が問われます。予算と実績の差異をどう分析し、どの会議体で報告しているかを、審査前に整理しておくことが大切です。上場スケジュールはどこで遅れるかでも、申請期の業績変動が日程に与える影響を取り上げています。
図7 2025年3月期の損益の段階(千円)。法人税等には法人税等調整額△23,980千円を含む(Ⅰの部をもとに筆者作成)
第42期の損益の段階を見ると、売上総利益969,507千円から販売費及び一般管理費684,016千円を引いた営業利益が285,491千円、営業外収益5,523千円(助成金収入3,979千円など)と営業外費用2,119千円を加減した経常利益が288,894千円です。特別損益はなく、法人税等77,909千円を差し引いた当期純利益が210,985千円となっています。売上原価明細書では、当期総製造費用2,593,980千円のうち労務費が1,810,769千円(69.8%)、経費のうち外注費が373,851千円です。原価計算は「実際原価による個別原価計算」と記載されており、人件費とプロジェクト別の原価管理が損益を左右する構造です。
キャッシュ・フローでは、第42期の営業活動によるキャッシュ・フローが220,221千円、投資活動が△48,273千円、財務活動が△83,224千円(長期借入金の返済41,650千円、配当金の支払41,574千円など)です。期末の現金及び現金同等物は963,394千円でした。金融商品の注記では、手許流動性を売上高の2か月分相当に維持する方針が示されています。
中期経営計画のKPI
経営上の目標の達成状況を判断するための指標として、2028年3月期(第45期)の目標と2025年3月期の実績が対比されています。売上高42億円(実績35億円)、従業員数390名(同311名)、売上高経常利益率9%(同8.1%)、総資本経常利益率15%(同14.9%)、売上高販管費比率15%(同19.2%)、自己資本比率50%(同63.1%)、外部負債依存率10%(同0.2%)です。自己資本比率と外部負債依存率はすでに目標を達成していますが、同社は投資の内容によっては借入を活用する可能性があるため、この水準を経営目標として設定していると説明しています。スタンダード市場の審査では、こうした中期計画の前提(採用計画や単価)と足元の実績が整合しているかがよく確認されます。
資本政策と株主構成:第三者割当なし、持株会が筆頭株主
ソフトテックスの資本政策は、近年のIPO事例の中ではかなりシンプルです。Ⅰの部の第四部「第三者割当等の概況」は「該当事項はありません」となっており、上場前の一定期間に第三者割当による新株発行は行われていません。種類株式も発行しておらず、発行済株式は普通株式876,000株のみです。資本金は160,000千円、資本準備金は3,150千円で、Ⅰの部に記載された「発行済株式総数、資本金等の推移」は2025年11月17日の株式分割の1行だけです。
図8 第四部「株主の状況」の記載順(潜在株式を含む所有株式数順)の上位10名。Ⅰの部で特別利害関係者等(大株主上位10名)とされているのは、10番目の髙野実氏ではなく小島浩幸氏(取締役、26,200株、3.25%)です。割合は自己株式を除く株式総数806,900株(新株予約権による潜在株式37,000株を含む)に対する比率で、上場時(公募・売出し後)の比率ではない(Ⅰの部をもとに筆者作成)
第四部「株主の状況」に記載された上位の株主は、ソフトテックス従業員持株会(74,400株、9.22%)、代表取締役社長の石黒佳彦氏(72,500株、8.99%)、代表取締役副社長の太田晃二氏(71,000株、8.80%)、個人株主の近藤久美子氏と名古屋中小企業投資育成㈱(各60,000株、7.44%)、㈱ミロク情報サービス(53,100株、6.58%)、キムラユニティー㈱(50,000株、6.20%)と続きます。割合は自己株式を除く株式総数806,900株(新株予約権による潜在株式37,000株を含む)に対するもので、Ⅰの部記載時点の数字です。上場時の公募・売出し後の比率ではない点に注意してください。
所有者別状況(2026年1月31日現在)では、株主数は38名(その他の法人5名、個人その他33名)です。10%以上を持つ株主はおらず、親会社や支配株主もいません。ベンチャーキャピタルのファンドは記載されておらず、外部の投資者としては中小企業の自己資本の充実を目的とする名古屋中小企業投資育成㈱と、業務・資本提携先の事業会社が並んでいます。創業期から長く経営してきた会社が、社員・役員・取引先の持株で資本を構成してきたことが読み取れます。持株会の設置時期や運営の考え方は従業員持株会はいつ作るかで解説しています。
| 順位 | 株主 | 所有株式数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 1 | ソフトテックス従業員持株会 | 74,400株 | 9.22% |
| 2 | 石黒 佳彦(代表取締役社長) | 72,500株 | 8.99% |
| 3 | 太田 晃二(代表取締役副社長) | 71,000株 | 8.80% |
| 4 | 近藤 久美子 | 60,000株 | 7.44% |
| 4 | 名古屋中小企業投資育成㈱ | 60,000株 | 7.44% |
| 6 | ㈱ミロク情報サービス | 53,100株 | 6.58% |
| 7 | キムラユニティー㈱ | 50,000株 | 6.20% |
| 8 | 山本 哲士 | 40,000株 | 4.96% |
| 9 | 中島 拓穂(常務取締役) | 39,500株(うち潜在12,500株) | 4.90% |
| 10 | 髙野 実(取締役) | 30,500株(うち潜在10,000株) | 3.78% |
株式分割・単元株制度・発行可能株式総数の変更
2025年11月12日の取締役会決議により、2025年11月17日付で普通株式1株を100株に分割しました。これにより発行済株式総数は8,760株から876,000株になっています。同日の臨時株主総会では定款を変更し、単元株式数を100株とする単元株制度を採用するとともに、発行可能株式総数を30,000株から3,504,000株に増やしました。重要な後発事象の注記では、目的を「当社株式の流動性を高め、投資家層の拡大を図ること」と「株主総会事務の合理化」と説明しています。
非上場会社では1株あたりの金額が大きく、株式数が少ないまま長年経営していることがよくあります。上場時には売買単位が100株に統一されているため、上場前に株式分割と単元株制度の導入をセットで行うのが一般的です。分割比率は、想定する公開価格や流動性、既存株主の持株数に端数が出ないかを見て決めます。あわせて発行可能株式総数を変更しておかないと、公募増資や新株予約権の行使に対応できません。会社法上、公開会社では発行可能株式総数は発行済株式総数の4倍を超えられないという制限(いわゆる4倍ルール)がある点にも注意が必要です。
図9 新株予約権の発行から上場までの株式関連の主な出来事。第三者割当等は該当なし(Ⅰの部をもとに筆者作成)
自己株式106,100株をどう読むか
ソフトテックスはⅠの部の時点で自己株式106,100株を保有しており、発行済株式総数876,000株の12.1%にあたります。最近事業年度と最近期間に株主総会決議や取締役会決議による取得はなく、以前から保有していたものです。2023年12月1日には、取締役と従業員のストック・オプションの権利行使に対して、新株を発行する代わりにこの自己株式135株(分割前の株数)を交付しています。株主資本等変動計算書では、このときの自己株式処分差損1,522千円によりその他資本剰余金が負の残高となったため、同額を繰越利益剰余金から減額して振り替えています(自己株式等会計基準12項)。
自己株式の保有は、流通株式の計算にも関わります。上場審査上の流通株式からは、自己株式のほか、上場株式数の10%以上を所有する者(主要株主)、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社などが所有する株式が除かれます。自己株式の比率が高い会社では、上場時の公募で新株を発行するか、自己株式を処分するかによって、流通株式比率や1株当たり利益の見え方が変わります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方と流通株式数の数え方で詳しく説明しています。
ストック・オプションは2018年発行の1回だけ
新株予約権(ストック・オプション)は、2018年6月22日決議の第1回新株予約権のみです。付与対象者は取締役4名と従業員5名で、行使期間は2020年6月23日から2028年6月21日までです。行使価額は当初51,140円で、株式分割に伴い512円に調整されています。Ⅰの部の時点の未行使残は370個(目的となる株式37,000株)で、発行済株式総数876,000株の4.2%に相当すると事業等のリスクに記載されています。株主の状況を見ると、取締役の中島拓穂氏が12,500株分、髙野実氏が10,000株分を保有し、残りは従業員4名が保有しています。
図10 第1回新株予約権(ストック・オプション)の行使条件を判断の流れとして整理(Ⅰの部をもとに筆者作成)
会計処理の注記では、付与時点で未上場だったため、公正な評価単価を「単位当たりの本源的価値」で見積もり、その基礎となる株式の評価は時価純資産法によったと記載されています。ストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項はありません」です。本源的価値の合計額は、2024年3月期末で31,555千円、2025年3月期末で39,696千円と開示されています。
未上場会社がストック・オプションを付与するときは、行使価額を付与時の株式価値以上に設定しておくと、本源的価値がゼロとなり費用が発生しません(未公開企業の本源的価値による簡便的な取扱い)。ただし、上場後に税制適格要件を満たすかどうか、行使条件や行使期間が上場スケジュールと合っているかは別途確認が必要です。税制適格ストックオプションとストック・オプションの注記の記載例もあわせてご覧ください。
特別利害関係者等の株式等の移動
第四部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2つの種類の移動が記載されています。1つ目は2023年12月1日のストック・オプション行使による自己株式の処分で、会社から太田晃二氏へ50株(2,557,000円、単価51,140円)、中島拓穂氏へ15株(767,100円)、髙野実氏へ55株(2,812,700円)が移動しています(いずれも分割前の株数・単価)。2つ目は2025年11月18日のソフトテックス従業員持株会から当社従業員への「持分の引出」で、14件(7,000株から1,000株まで)が記載されています。移動価格の算定方式は「純資産方式により算出した価格を総合的に勘案して、譲渡人と譲受人が協議の上、決定」とされています。
Ⅰの部の注記にあるとおり、この記載は有価証券上場規程施行規則に基づくもので、基準事業年度の末日から2年前の日(同社の場合は2023年4月1日)から上場日の前日までに特別利害関係者等が行った株式等の移動が対象です。持株会からの持分の引出も、持株会が大株主上位10名に入っていれば記載対象になります。上場直前の株式の移動は、価格の妥当性や移動の理由を審査で確認されるため、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)も参考に、計画的に進めることが大切です。
コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と社外役員4名
ソフトテックスは監査役会設置会社を選択しています。理由は「監査役会が取締役会を監査・監督する機能を果たすことで、経営の透明性が確保される」ためと説明されています。取締役会は取締役6名(うち社外取締役1名)と監査役3名で構成され、監査役3名は全員が社外監査役です。常勤監査役の木村裕史氏も社外監査役であり、事業会社で常務取締役や常勤監査役を務めた経歴を持っています。非常勤の社外監査役は、税理士の鈴木秋和氏と弁護士の平野由梨氏です。社外取締役の押谷幸廣氏は、日本アイ・ビー・エム㈱の理事や㈱中電シーティーアイの取締役を務めた人物です。
図11 取締役会・監査役会・内部監査室・会計監査人の関係(Ⅰの部をもとに筆者作成)
社外取締役1名と社外監査役3名の計4名は、いずれも独立役員として届け出る予定と記載されています。独立性に関する会社独自の基準は定めていないものの、選任にあたっては東京証券取引所の独立役員の独立性に関する判断基準を参考にしているとのことです。なお、社外役員4名はいずれも当社株式を保有しており(押谷氏5,300株、木村氏5,000株、鈴木氏10,000株、平野氏500株)、Ⅰの部では「それ以外の人的関係、資本的関係又は重要な取引関係その他の利害関係はありません」と説明しています。
スタンダード市場の会社にはコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用されます。原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)では独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされ、原則を実施しない場合はその理由をコーポレート・ガバナンス報告書で説明すること(コンプライ・オア・エクスプレイン)が求められます。社外取締役の人数をどう考えるかは社外取締役は何人必要か、機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。
会議体の設計と出席状況
取締役会は毎月1回の定時取締役会と必要に応じた臨時取締役会で運営され、最近事業年度は17回開催、取締役・監査役の全員が17回すべてに出席しています。監査役会は常勤社外監査役が議長を務め、13回開催で全員が全回出席です。業務執行側には、取締役と常勤監査役で構成する「経営会議」(毎月1回)と、社外取締役を除く取締役・常勤監査役・執行役員・部門長などで構成する「部門長会議」(毎月1回)があります。執行役員は7名です。
図12 各会議体の議長・構成員・開催頻度。括弧内は最近事業年度(2025年3月期)の開催回数。取締役会・監査役会・委員会は全員が全回出席(Ⅰの部をもとに筆者作成)
リスク・コンプライアンス委員会は代表取締役社長を委員長とし、年2回開催されています。役割は、リスクの識別・分析評価と予防・対応策の検討、コンプライアンスに係る重要事項の調査・企画・教育、行動規範違反の疑いがある者の事実究明や懲罰委員会での審議要否の決定などです。リスク管理の主管部署は管理部とされています。
会議体を設計するときに大切なのは、規程で定めた付議基準どおりに各会議が開かれ、議事録が残っていることです。審査では、取締役会規程や職務権限規程と実際の議事録を突き合わせ、重要な事項が適切な機関で決議されているかを確認します。IPO審査の「経営管理組織」とはも参考にしてください。
役員報酬の決め方
役員報酬は、2024年6月26日の定時株主総会で、取締役は年額250,000千円以内(うち社外取締役分は年額25,000千円以内)、監査役は年額50,000千円以内と定められています。取締役の報酬は取締役会で決定し、常勤取締役は基本報酬、業績連動報酬等、退職慰労金で構成されます。基本報酬は取締役報酬内規に基づき、常勤取締役一律の基礎額に役位と就任後の実績の評価に応じた額を加えます。業績連動報酬等は直前事業年度の経常利益に応じた額、退職慰労金は報酬月額に役位別の一定割合を掛けて算出します。2025年3月期の取締役の報酬は、2025年6月25日の取締役会で決定したと記載されています。監査役の報酬は、監査役全員の協議により監査役会で決めています。
図13 報酬限度額、決定機関、取締役報酬の3つの構成要素と2025年3月期の内訳。退職慰労金は当期に計上した役員退職慰労引当金繰入額(Ⅰの部をもとに筆者作成)
2025年3月期の実績は、取締役(社外取締役を除く)5名で総額111,779千円(固定報酬88,800千円、業績連動報酬8,880千円、退職慰労金14,099千円)、社外役員4名で9,301千円(固定報酬7,860千円、業績連動報酬786千円、退職慰労金655千円)です。退職慰労金は当期に計上した役員退職慰労引当金の繰入額で、2025年3月期末の役員退職慰労引当金は119,622千円です。
役員報酬の決定方針や、代表取締役などへの決定の委任の有無は、有価証券報告書の記載事項として開示府令で求められています。上場準備では、報酬内規を整え、株主総会の限度額・取締役会決議・個人別の配分のつながりを書面で説明できるようにしておく必要があります。退職慰労金制度を残すか廃止するかも、上場前に検討されることが多い論点です。
関連当事者との取引
関連当事者情報の注記は、2024年3月期・2025年3月期とも「該当事項はありません」です。親会社等もありません。オーナー経営の会社では、社長個人との賃貸借や債務保証が上場準備の過程で解消されることがよくありますが、同社のⅠの部にはそうした取引の記載はありません。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
内部監査・内部統制:1名の内部監査室と常勤社外監査役の共同監査
内部監査は、代表取締役社長直属の内部監査室に所属する内部監査担当者1名が行っています。担当者は期初に作成した年間内部監査計画に基づき、各部門の内部統制システムの整備、コンプライアンス、リスク管理体制の遵守・運用状況を監査します。結果は業務監査調書として代表取締役社長に提出され、被監査部署(担当役員を含む)に写しが送られ、改善が必要な事項は改善の実施状況と結果まで確認する流れです。
図14 年間内部監査計画から改善確認までの流れと監査役への報告経路(Ⅰの部をもとに筆者作成)
特徴的なのは、「内部監査の実施につきましては、常に常勤社外監査役が同席しております」という記載です。Ⅰの部では、常勤社外監査役が同席する共同監査を実施し、内部監査の結果は常勤社外監査役が作成する監査調書を通じて社外監査役に報告されると説明しています。内部監査で重大な不正等が見つかった場合は、監査役または監査役会の判断で取締役会に報告する仕組みです。
内部監査が1名体制の会社は少なくありません。その場合に審査で確認されやすいのは、①1名で全部門を計画どおり回せるか、②担当者が不在のときや担当者自身の所属部署を誰が監査するか(自己監査の回避)、③結果が社長だけでなく監査役にも届くか、の3点です。同社では③について、常勤社外監査役の同席と、常勤社外監査役が作成する監査調書による報告という形をとっています。一般論としては、内部監査担当者が他部署を兼務する場合、その部署の監査は別の者が行う体制を規程で定めておくことが求められます。詳しくは内部監査の人数と体制と内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)をご覧ください。
図15 監査役・内部監査担当者・会計監査人による三様監査を定期的に開催(Ⅰの部をもとに筆者作成)
三様監査については、監査役、内部監査担当者、会計監査人による三様監査を定期的に開催し、情報を共有していると記載されています。社外取締役も、常勤監査役と内部監査室から内部監査・監査役監査・会計監査の状況について定期的に情報共有を受けています。内部統制システムの基本方針では、監査役または監査役会が内部監査部門の人員に監査業務の補助を命じることができ、その補助を行った者の人事異動・人事評価・懲戒処分には監査役会の承認が必要とされています。監査役会に専従スタッフは置いていませんが、必要に応じて管理部がサポートする体制です。三様監査の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。
内部通報については、管理部を事務局とする通報窓口に加え、社外通報窓口として専任の弁護士を置いています。通報窓口の担当者と弁護士は監査役と情報を共有し、通報を理由とした不利益な取扱いは行わないとしています。インサイダー取引の防止については「内部情報管理及び内部者取引規制に関する規程」を定め、社員が自社株式を売買する際は事前に情報管理者へ届け出ることとしています。
労働者派遣と偽装請負への対応
技術者支援で派遣契約と準委任契約を扱う同社では、労働者派遣法への対応も内部管理の重要なテーマです。事業等のリスク「法的規制について」では、偽装請負や多重派遣などの法令違反がないかを確認するため、定期的に従業員アンケートを実施し、その内容に応じて該当者にヒアリングを行っていると記載されています。また労務管理では、1分単位の労働時間の把握と社内外を問わない統一の勤怠管理システムの使用により、正確な就労時間を把握しているとしています。客先常駐が多いSI企業では、契約形態と実際の指揮命令関係が一致しているかを審査で問われやすいため、こうした仕組みを記録とともに示せるようにしておくことが重要です。
会計・開示の論点:3類型の収益認識と進捗度の見積り
受託開発の会社にとって、収益認識は審査で最も時間をかけて確認される論点の1つです。ソフトテックスは重要な会計方針で、顧客との契約を3つに分けて収益の計上時点を定めています。
図16 重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」と収益認識関係注記(収益の分解情報)をもとに整理(Ⅰの部をもとに筆者作成)
1つ目のソフトウェア開発の請負契約は、開発の進捗により一定期間にわたり充足される履行義務として、履行義務の進捗度に応じて収益を認識します。進捗度は、原価総額の見積額に対する累積実際発生原価の割合(インプット法)で測ります。ただし、取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い契約は、代替的な取扱いを適用し、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識します。2つ目の準委任契約・派遣契約によるソフトウェア開発の支援は、契約期間にわたりおおむね一定の役務を提供するため、時間の経過に応じて契約金額を按分して収益を認識します。3つ目の他社が提供するソフトウェアの導入サービスは、顧客が検収した時点で収益を認識します。
収益認識関係の注記では、2025年3月期の売上高3,565,000千円のうち、一時点で認識したものが639,920千円(ソフトウェア開発サービス128,665千円、医療ITサービス511,255千円)、一定期間にわたり認識したものが2,925,079千円(同2,507,668千円、417,410千円)と分解されています。契約資産は「主としてソフトウェア開発の請負契約において、進捗度の測定に基づいて認識した収益に係る未請求売掛金」で、2025年3月期末に103,282千円、契約負債は「主として保守サービスに係る顧客から受け取った前受金」で22,913千円です。
| 区分 | ソフトウェア開発サービス | 医療ITサービス | 合計 |
|---|---|---|---|
| 一時点で収益を認識するもの | 128,665 | 511,255 | 639,920 |
| 一定期間で収益を認識するもの | 2,507,668 | 417,410 | 2,925,079 |
| 顧客との契約から生じる収益 | 2,636,334 | 928,666 | 3,565,000 |
(2025年3月期、単位:千円。収益認識関係注記より)
重要な会計上の見積り:進捗度と受注損失引当金
重要な会計上の見積りとしては、「進捗度の見積りに応じて収益認識した売上高」と「受注損失引当金」の2つが挙げられています。2025年3月期末時点で一定の期間にわたり収益認識を行う売上高は802,533千円(2024年3月期末は708,826千円)です。同社はプロジェクトごとに作成する工数計画に基づく原価予算で原価総額を見積もり、各期末にプロジェクトの現況を踏まえて見直しています。主要な仮定は「ソフトウェア開発作業に伴い発生が見込まれる工数の積算」で、顧客の要求仕様や納期の変更などにより翌期の売上高に影響が出る可能性があると記載されています。
図17 請負契約の収益認識(重要な会計上の見積り)と受注損失引当金の計上判断の流れ(Ⅰの部をもとに筆者作成)
受注損失引当金は、期末時点で将来の損失が見込まれ、かつ金額を合理的に見積もれる契約について計上します。2025年3月期末の残高は173千円です。損失が見込まれる契約に係る仕掛品と受注損失引当金は相殺せずに両建てで表示しており、受注損失引当金に対応する仕掛品は162千円です。このほか、請負契約の無償保証期間内に発生するアフターコストに備える製品保証引当金(2025年3月期末6,986千円)も計上しています。
進捗度に基づく収益認識を採用する会社では、①工数見積りの根拠となる見積書・WBS、②実績工数の集計(原価管理システム)、③期末の見直しの承認記録、④赤字見込み案件の早期把握、の4つがそろっているかが監査と審査の両方で確認されます。同社は第43期に自社開発の原価管理システムを本稼働させたと記載しており、原価集計の仕組みに投資していることがわかります。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。
監査法人と監査報酬、その他の注記
会計監査は有限責任監査法人トーマツが担当し、継続監査期間は2年間、業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士5名とその他10名です。選定理由として、株式公開の実績、経験豊富な公認会計士を多数有し万全の体制を備えていること、事業内容に対する理解が挙げられています。監査報酬は前事業年度18,000千円、最近事業年度19,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。なお、最近事業年度の末日時点では会社法上の会計監査人設置会社ではなかったため、監査役会が会計監査人の報酬等に同意した理由は「該当事項はありません」となっています。監査法人選びの時期は監査法人はいつまでに決めるかを参考にしてください。
そのほかの注記では、退職給付制度として確定拠出型の特定退職金共済制度と確定拠出制度を採用していること、税効果会計で役員退職慰労引当金などに評価性引当額46,198千円を計上していること、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)を2028年3月期の期首から適用予定で影響額は評価中であることなどが記載されています。のれんや減損損失、継続企業の前提に関する注記はありません。また、財務諸表等の適正性を確保するための特段の取組みとして、研修・セミナーへの参加や会計専門書の購読による会計基準等の把握が挙げられています。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
事業等のリスクは「事業環境及び事業構造」「組織体制」「その他」の3区分で17項目が記載され、それぞれに発生可能性・発生時期・影響度が付されています。発生可能性「大」は四半期業績の変動の1項目だけで、影響度は「小」とされています。影響度「大」は、景気変動、ソフトウェア開発(見積りと実績の工数差異)、法的規制、情報セキュリティ、人材の5項目です。
図18 事業等のリスクに付された「発生可能性」「影響度」で各項目を配置。知的財産は「低」と記載(Ⅰの部をもとに筆者作成)
上場審査の観点から注目したいのは、次の3つです。第1に、「当社株式の流通株式時価総額について」です。同社は、想定する流通株式時価総額が両取引所の形式要件を満たしているものの、東京証券取引所スタンダード市場では「形式要件の基準に近接する」と自ら記載し、業績の伸長、配当の充実、IRの充実、必要に応じた役員保有株式の売出しや増資の検討といった対応策を示しています。スタンダード市場の上場維持基準にも流通株式時価総額の基準があるため、上場後も継続的に意識しなければならない論点です。第2に、「認定サポート事業所の認定について」です。医療ITサービスの基盤となる日医IT認定サポート事業所の認定は期間を定めて更新されるもので、要件違反による取消しのリスクと、遵守状況の定期確認などの対応策が記載されています。許認可・認定の扱いはIPOで許認可はどこまで見られるかで解説しています。第3に、「大手顧客であるシステム・インテグレータ等の営業活動の影響について」です。ソフトウェア開発サービスの57.7%がSIer等経由であり、受注がSIerの営業活動に依存する構造と、直接顧客の獲得による比率低下という方針がセットで開示されています。
リスク情報は、審査で「経営者がそのリスクをどう認識し、どう管理しているか」を説明する材料になります。発生可能性・影響度の評価は、リスク・コンプライアンス委員会など社内の会議体で議論された結果と一致している必要があります。Ⅰの部の記載と社内資料の内容が食い違わないよう、記載の根拠資料を残しておきましょう。
上場準備会社がソフトテックスのⅠの部から学べること
ここまで見てきた内容を、上場準備会社の実務に置き換えて整理します。ソフトテックスは、ベンチャーキャピタルから資金を集めて急成長を目指すタイプの会社ではなく、長く黒字経営を続けてきた中堅企業です。こうした会社が上場を目指すとき、どこに準備の手間がかかるのかを読み取ることができます。
| 論点 | ソフトテックスのⅠの部の記載 | 上場準備会社への示唆 |
|---|---|---|
| 財務諸表の整備 | 第41期・第42期は財務諸表等規則で作成し監査済み。第38〜40期は会社計算規則に基づく未監査の数値で、キャッシュ・フロー計算書なし | 直前2期を金融商品取引法に準じた監査に耐える形で作る。キャッシュ・フロー計算書や注記の作成体制を早めに整える |
| 収益認識 | 請負(インプット法)、準委任・派遣(期間按分)、他社ソフト導入(検収時点)の3類型 | 契約形態ごとに計上時点を決め、契約書・工数・検収の証憑と結び付ける |
| 内部監査 | 内部監査担当者1名。常勤社外監査役が常に同席する共同監査 | 少人数でも、計画・報告ルート・自己監査の回避を規程と記録で示す |
| 機関設計 | 監査役会設置会社。取締役6名中社外1名、監査役3名全員社外 | スタンダード市場ではCGコード全原則が適用される。原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)などを実施しない場合は理由を説明する |
| 資本政策 | 第三者割当なし、種類株式なし。1株→100株の分割と単元株制度の採用 | 上場直前の株式数・単元・発行可能株式総数を、公募・売出しの設計と合わせて整える |
| 流通株式 | 流通株式時価総額がスタンダード市場の形式要件に近接と開示 | 上場時だけでなく上場維持基準も見据え、流通株式の確保策を事前に検討する |
| 申請期の業績 | 中間期の営業利益が前年同期比40.3%減。採用方針の転換やシステム投資を理由として説明 | 減益の理由が事業計画と整合していることを、予算と実績の差異分析で示す |
| 法令遵守 | 偽装請負・多重派遣の確認のため従業員アンケートとヒアリングを実施 | 業種固有の法令リスクに対し、点検の仕組みと記録を用意する |
1.「長く黒字」でも財務諸表の作り直しは必要
ソフトテックスの主要な経営指標等の推移では、直前2期だけが財務諸表等規則に基づく監査済みの数値で、それより前の3期は会社計算規則に基づく数値として記載されています。会社法の計算書類を毎年作っていても、金融商品取引法の様式に沿った財務諸表、キャッシュ・フロー計算書、収益認識や税効果の注記を一から整える必要があります。黒字企業ほど「決算はできている」と考えがちですが、上場準備では開示の形式と、それを支える根拠資料の整備に相当の時間がかかります。ショートレビューとはの段階で、こうした差を洗い出しておくのが効率的です。
2.収益認識は「契約形態の棚卸し」から始める
同社は、請負、準委任・派遣、他社ソフトウェアの導入という3つの契約形態ごとに収益の計上方法を定め、収益の分解情報でも一時点と一定期間に分けて開示しています。受託開発やSES(技術者支援)を手がける会社では、まず自社の契約を形態ごとに棚卸しし、それぞれについて履行義務の識別、計上時点、証憑(契約書、作業報告書、検収書)を整理することが出発点になります。進捗度で収益を認識する場合は、原価総額の見積りとその見直しの記録が監査の重要な対象です。
3.少人数の内部監査は「連携の仕組み」で補う
内部監査担当者が1名という体制は、上場準備会社では珍しくありません。同社は常勤社外監査役の同席と、監査役への報告ルートを明確にしています。少人数で内部監査を行う会社は、年間計画で全部門を一巡できるか、担当者自身の所属部署を誰が監査するか、結果が経営者と監査役の双方に届くかを、規程と運用記録で説明できるようにしておきましょう。内部監査の始め方も参考にしてください。
4.資本政策はシンプルでも「上場後」を見据える
第三者割当も種類株式もない同社の資本政策は、ベンチャー企業に比べると論点が少なく見えます。それでも、株式分割と単元株制度の採用、発行可能株式総数の変更、自己株式の扱い、ストック・オプションの残高、従業員持株会からの持分の引出といった作業が上場前に集中しています。さらに同社は、流通株式時価総額が形式要件に近接すると自ら開示し、上場後の施策も示しています。上場はゴールではなく、上場維持基準を満たし続けることも含めて資本政策を設計する必要があります。上場準備の資本政策もあわせてご覧ください。
上場準備のチェックリスト
ソフトテックスの事例をふまえ、上場準備会社が確認しておきたい項目を6つにまとめます。
- 直前2期の財務諸表を財務諸表等規則に沿って作成し、キャッシュ・フロー計算書と注記の作成手順を決めている
- 契約形態(請負・準委任・派遣・導入サービスなど)ごとに収益の計上時点と根拠資料を定めている
- 進捗度の見積りに使う原価総額の見積りと、その期末見直しの承認記録を残している
- 内部監査の年間計画、報告ルート(社長・監査役)、自己監査の回避方法を規程で定めている
- 株式分割、単元株制度、発行可能株式総数の変更を、公募・売出しの設計と合わせて検討している
- 流通株式比率・流通株式時価総額を、上場時と上場後の両方の時点で試算している
よくある質問
スタンダード市場の実質審査では「企業の継続性及び収益性」が基準の1つになっており、事業計画が合理的に作られ、安定的な収益基盤があるかが確認されます。過去の黒字実績だけでなく、申請期の業績見通しや中期計画との整合性、主要取引先への依存度なども説明が求められます。また、コーポレートガバナンス・コードは全原則が適用されるため、実施しない原則がある場合はその理由の説明も必要です。
ソフトテックスのように、第四部の「第三者割当等の概況」は「該当事項はありません」と記載されます。ただし「特別利害関係者等の株式等の移動状況」は別の記載事項であり、ストック・オプションの行使や持株会からの持分の引出なども対象期間内であれば記載されます。
人数そのものに一律の基準があるわけではありません。会社の規模や拠点数に照らして、年間計画どおりに監査が実施できているか、担当者が所属する部署の監査を別の者が行う体制になっているか、監査結果と改善状況が経営者や監査役に報告されているかが確認されます。ソフトテックスは1名体制で、常勤社外監査役が常に同席する共同監査を行っていると記載しています。
Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」には5期分の数値が記載されますが、監査証明が求められるのは直前2期の財務諸表です。ソフトテックスでも、第38期から第40期は会社計算規則に基づく数値で監査を受けていない旨が注記されています。
最初の一歩は、自社の「契約」と「数字の根拠」を棚卸しすること
ソフトテックスのⅠの部を読むと、上場準備の多くの作業が、契約形態ごとの収益認識、工数と原価の集計、会議体の議事録、内部監査の記録といった「根拠の整備」に集約されることがわかります。まずは主要な契約を形態ごとに分類し、売上の計上時点と証憑、原価の集計方法を一覧にしてみてください。そのうえで、直前2期の財務諸表を金融商品取引法の様式で作れるか、ガバナンスと内部監査の体制を規程と記録で示せるかを確認すると、準備の優先順位が見えてきます。
無料ダウンロード
ソフトテックスのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
ソフトテックスの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
株式会社ソフトテックスは、1984年設立の独立系システム開発会社で、2026年4月9日に東京証券取引所スタンダード市場に上場しました。Ⅰの部からは、①直前2期を財務諸表等規則に基づいて作成し監査を受けた財務諸表、②請負・準委任・導入サービスの3類型による収益認識と進捗度の見積り、③監査役会設置会社で社外役員4名、内部監査に常勤社外監査役が同席する共同監査、④第三者割当を行わず株式分割と単元株制度の採用で整えた資本政策、⑤流通株式時価総額や認定サポート事業所の認定などのリスクを自ら開示する姿勢、を読み取ることができます。
長く黒字経営を続けてきた会社が上場を目指す場合でも、開示の形式、会計方針の根拠、ガバナンスの記録、資本政策の手当てといった準備は欠かせません。自社の状況に照らして、どこから手を付けるべきかを早めに見極めることが、スケジュールどおりの上場への近道です。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
あわせて読みたい