※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
NOSE SHOP株式会社(証券コード527A)は、2026年3月17日に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。世界中のニッチフレグランス(個性的な少量生産の香水)を集めたセレクトショップ「NOSE SHOP」を中核に、オリジナルブランド「KO-GU」、ブランド単独店、香りをテーマにしたバー「はな」、EC、卸売を展開する会社です。上場申請(申請受付日)は2026年2月24日、上場承認日は2026年3月10日、担当J-Adviserは株式会社日本M&Aセンターです。本記事では、上場に際して東証のウェブサイトに掲載された書類をもとに、上場準備の実務ポイントを公認会計士の視点で読み解きます。
結論からいえば、NOSE SHOPの事例は「株主2名・公募も売出しもない、最もシンプルな形のTPM上場」を学ぶのに適した教材です。上場に際して特定投資家向けの勧誘を行わないため、書類は「発行者情報に相当する情報」として公表され、資本政策は1株を10,000株にする株式分割と単元株制度の導入だけで整えられています。監査を受けたのは直前1期(第14期)のみで、取締役3名と社外監査役1名という小さな機関設計、各部の部長による相互監査という内部監査の工夫など、一般市場の上場準備とは違う「身の丈に合った」準備の姿が見えてきます。
この記事の見出し
- NOSE SHOPはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか
- 何で稼ぐ会社なのか――事業内容と収益モデル
- 沿革と上場までの道のり――設立から約15年でのTPM上場
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを、NOSE SHOPの書類で確認する
- 業績の推移――増収が続き、第14期は営業利益が倍増
- 資本政策と株主構成――株主2名、公募も売出しもない上場
- コーポレート・ガバナンス――取締役3名と社外監査役1名の小さな機関設計
- 内部監査・内部統制――専任部署を置かない「相互監査」
- 会計・開示の論点――収益認識、棚卸資産、店舗の減損、リース
- 事業等のリスクと、J-Adviser契約の解除条項
- 一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
- 上場準備会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
NOSE SHOPはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか
まず基本情報です。NOSE SHOPは2011年7月に、オーガニックコスメの輸入販売を目的として東京都渋谷区で「株式会社BIOTOPE」として設立されました。2017年8月にニッチフレグランス専門店「NOSE SHOP」の1号店を出店し、2021年12月に現在の商号へ変更しています。本店は東京都渋谷区恵比寿の恵比寿ガーデンプレイスにあり、代表取締役社長は中森友喜氏です。
決算期は6月で、書類に掲載されている最近事業年度は第14期(2024年7月1日〜2025年6月30日)です。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。事業は「海外ブランド香水の輸入販売を主力としたフレグランス等のコスメ販売事業」の単一セグメントとされています。従業員数は2025年12月31日現在で77名(ほかに臨時雇用者が年間平均63名)、平均年齢は29.6歳、平均勤続年数は2.6年と、若い組織です。
上場の日程は、JPXの新規上場会社情報によれば、申請受付日が2026年2月24日、上場承認日が2026年3月10日、上場日が2026年3月17日です。書類の公表日も2026年2月24日となっており、TPMでは上場申請の段階で書類が公表されることがわかります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | NOSE SHOP株式会社(NOSE SHOP Inc.) |
| 証券コード | 527A |
| 市場 | 東京証券取引所 TOKYO PRO Market |
| 申請受付日/上場承認日/上場日 | 2026年2月24日/2026年3月10日/2026年3月17日 |
| 担当J-Adviser | 株式会社日本M&Aセンター |
| 設立 | 2011年7月(株式会社BIOTOPEとして設立、2021年12月に商号変更) |
| 本店 | 東京都渋谷区恵比寿4-20-4 恵比寿ガーデンプレイスグラススクエアB1F |
| 代表者 | 代表取締役社長 中森 友喜 |
| 決算期 | 6月(最近事業年度:第14期 2025年6月期) |
| 事業 | フレグランス等のコスメ販売事業(単一セグメント) |
| 従業員数(2025/12/31) | 77名(臨時雇用者 年間平均63名) |
| 監査法人 | 監査法人東海会計社 |
| 上場時の公募・売出し | なし(特定投資家向けの勧誘を実施しない) |
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何で稼ぐ会社なのか――事業内容と収益モデル
NOSE SHOPは、世界各国の独立系ブランドから厳選したニッチフレグランスを扱うセレクトショップ「NOSE SHOP」を中核に、香りを軸としたリテール・体験事業を展開しています。書類では、単なる香水の販売にとどまらず、香りを通じた自己表現の文化を日本市場に定着させることを目指すと説明されています。
販売チャネルは、直営店舗事業、EC事業、卸売事業の3つです。直営店舗には、約90ブランド・1,500種以上の香水を扱う「NOSE SHOP」、香水に加えてリキッドソープ、ハンドクリーム、入浴剤、洗濯洗剤などを展開するオリジナルブランドの「KO-GU」、イタリアのブランド「Laboratorio Olfattivo」の単独店、そして渋谷のんべい横丁にある香りをテーマにしたバー「はな」の4つの形態があります。EC事業では公式オンラインストアを運営し、フランスのFaPa社が提供するAIツール「PERFUMIST」を導入して、好みの香りの傾向から商品を提案する仕組みを整えています。卸売事業では、正規輸入権を持つか販売契約を結んでいる一部のブランドを、セレクトショップや百貨店などに卸しています。
図1 海外の独立系ブランドとオリジナルブランド「KO-GU」の商品を、直営店舗・EC・卸売の3つのチャネルで販売する。金額は第14期(2025年6月期)の販売実績。発行者情報「事業の内容」「販売実績」をもとに作成
事業の特徴として書類が挙げるのは、①市場の立ち上がり期から参入したことによる先行者優位性とソーシング力(一部の有力ブランドの国内独占販売権の獲得や、有利な仕入条件の交渉)、②香りの背景にある文化や作り手の哲学を伝える「体験」重視の提案型販売、③実店舗・EC・卸売を組み合わせたオムニチャネル運営、の3点です。
店舗数は、書類の公表日(2026年2月24日)現在でNOSE SHOPが15店舗、KO-GUが5店舗、ブランド単独店が1店舗、バー「はな」が1店舗です。主要な販売先は不特定多数の一般消費者で、売上高の10%以上を占める相手先はありません。上場準備の観点では、特定の取引先に依存しない一方で、店舗という固定資産と人材への投資が事業の土台になっている点が、後で見る会計上の見積り(減損)や事業等のリスクにつながっています。
図2 店舗数は発行者情報の公表日現在の記載。合計22店舗は4形態の店舗数を合計したもの。2025年6月30日現在の「主要な設備の状況」では販売店舗等は全21店舗と記載されている。発行者情報をもとに作成
チャネル別の売上高を見ると、第14期は直営店舗事業が1,544,354千円(前年比26.8%増)、EC事業が321,914千円(同12.7%増)、卸売事業が38,824千円(同21.3%減)で、合計1,905,093千円です。直営店舗事業が売上高の約8割を占める、店舗中心の収益構造です。
上場準備会社にとってのポイントは、事業の説明と財務数値の「つながり」です。TPMでも一般市場でも、事業の内容に書いた販売チャネルの区分と、収益認識の注記で開示する収益の分解情報が一致していることは、開示の信頼性を支える基本です。NOSE SHOPでは「販売実績」と「収益認識関係」の注記で、同じ3区分の金額が示されています。
図3 直営店舗事業が売上高の約8割を占める。卸売事業は第14期に減少(前年比21.3%減)。収益認識関係の注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」をもとに作成
沿革と上場までの道のり――設立から約15年でのTPM上場
沿革を見ると、2011年の設立当初はオーガニックコスメの輸入販売会社であり、2014年6月にイタリア発のフレグランスブランドの販売を始めたことが、現在の事業の出発点になっています。2017年8月にNOSE SHOPの1号店(ニュウマン新宿店)を出し、2021年9月の関西(ルクアイーレ店)、2022年3月の中部(名古屋高島屋ゲートタワーモール店)、2023年3月の北海道(札幌パルコ店)、2024年2月の九州(福岡岩田屋店)と、出店エリアを広げてきました。2022年3月にはKO-GUの1号店、2025年3月にはブランド単独店とバー「はな」という新しい業態も始めています。
上場に向けた動きとしては、2025年11月の臨時株主総会と取締役会で単元株制度の導入と株式分割を決め、2025年12月17日に効力が生じています。また、取締役の任期は「2025年12月開催の臨時株主総会終結の時から」と記載されており、この時期に役員の選任も行われたことがわかります。管理部門では、監査法人と税理士法人での経験を持つ林寛之氏が2024年2月に取締役管理本部長に就任しており、書類の事務連絡者も同氏です。
図4 2011年の設立から約15年での上場。2025年12月の株式分割は上場準備の一環として行われた(重要な後発事象の注記)。発行者情報「沿革」等をもとに作成
なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
まず確認しておきたいのは、NOSE SHOPの書類には、TPMを上場先に選んだ理由や上場の目的を説明した記載が見当たらないことです。関連する記載としては、株式分割と単元株制度の導入の目的が「当社株式の流動性向上と投資家層の拡大を図ること」とされている点があります。本記事では、会社が記載していない上場の理由を推測することはせず、TPMという市場の一般的な特徴を説明するにとどめます。
東証は2026年4月3日にTPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、2026年4月以降の新規上場会社に対して、なぜTPMに上場するのか、どう活用するのかという「上場目的」を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。NOSE SHOPの上場(2026年3月17日)はこの要請の開始前です。
TPMの一般的な特徴は、次の表のとおりです。株主数や利益の額などの形式基準(数値基準)がないこと、東証の審査に代えて担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認すること、上場前の監査期間が最近1年間であること、四半期開示や内部統制報告書が任意であることなど、一般市場(グロース市場・スタンダード市場)とは前提が大きく異なります。一方で、買付けができるのは特定投資家等に限られ、一般投資家は取引所で買付けをすることができません(保有株式の売却は可能です)。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 市場の性格 | 特定投資家等を対象とする市場(法令上は特定取引所金融商品市場) | 一般投資家も参加する市場 |
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、保有株の売却は可能) | 制限なし |
| 形式基準(数値基準) | なし(株主数・流通株式・利益の額などの基準がない) | 株主数・流通株式などの形式要件がある |
| 上場適格性の確認 | 担当J-Adviserが上場適格性要件(5項目)を調査・確認し、東証も面談 | 東証による上場審査(実質審査基準) |
| 申請から承認まで | 原則として上場申請から10営業日後に承認 | 東証の審査期間を要する |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 上場時・上場後の開示書類 | 特定証券情報/発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) | 有価証券届出書/有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 上場後に提出が必要 |
| 会計基準 | 日本基準・米国基準・IFRSと、これらと同等と認められる基準 | 日本基準・米国基準・IFRS等 |
| 助言・指導役 | 担当J-Adviser(契約の維持が上場維持の前提) | 主幹事証券会社(上場前の引受審査等) |
表のうち、コーポレートガバナンス・コードについては、JPXのコーポレートガバナンス・コードのページが適用対象として示しているのはプライム市場・スタンダード市場(全原則)とグロース市場(基本原則)であり、TPMについての記載はありません。TPMの会社について「コードを遵守している」「コードの基本原則が適用される」と書くことはできない点に注意が必要です。
TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを、NOSE SHOPの書類で確認する
ここからは、TPMの上場制度の要点を、NOSE SHOPの書類の記載と照らし合わせながら確認します。制度の説明は、東証の「上場ガイドブック TPM編」やTPMの概要ページなど、JPXの公表資料に基づいています。
J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
TPMには、株主数や利益の額といった形式基準がありません。その代わりに、東証から資格認証を受けたJ-Adviserが、上場を目指す会社の上場適格性を調査・確認します。上場適格性要件は、①企業としての相応性(上場予定日から12か月間の運転資金の確保などを含む)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンスと内部管理体制、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目です。J-Adviserは「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。
NOSE SHOPの書類にも、この要件に対応する記載があります。たとえば「運転資本」の項目では、上場予定日(2026年3月17日)から12か月間の運転資本は、現状の自己資金と金融機関からの借入による資金調達が可能であることから十分であると判断している、と記載されています。これは①の要件を意識した記載だと読むことができます。「形式基準がない=審査がない」ではなく、審査の主体と方法が違うのだと理解しておくことが大切です。
図5 J-Adviserの調査・確認と意向表明を経て上場申請し、東証は原則として申請から10営業日後に上場を承認する(東証「上場ガイドブック TPM編」)。日付はJPXの新規上場会社情報による
スケジュール面では、J-Adviserの調査・確認を経て、上場申請日の30営業日程度前までに東証へ意向表明を行い、東証の面談を経て上場申請に進みます。上場申請と同時に書類が公表され、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。NOSE SHOPでも、申請受付日(2026年2月24日)から上場承認日(2026年3月10日)まで10営業日でした。上場準備の期間の大半は、申請前のJ-Adviserによる調査と社内体制の整備に充てられることになります。
上場時の書類は「特定証券情報」――本件は「発行者情報に相当する情報」
TPMでは、一般市場の新規上場で使われる有価証券届出書や「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」の代わりに、金融商品取引法の「特定証券情報」の仕組みが使われます。特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等(いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)を行う発行者は、勧誘までに特定証券情報を提供又は公表しなければなりません(金融商品取引法第27条の31)。
NOSE SHOPの書類は、表紙の書類名が「発行者情報」となっています。その理由として、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表すると記載されています。つまり、上場時に新株の発行(資金調達)も既存株主による売出しも行わない上場です。本記事のタイトルを「発行者情報から読む上場準備」としているのは、この書類名によるものです。
図6 NOSE SHOPは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行わないため、特例第110条第3項により「発行者情報に相当する情報」を公表した(発行者情報の表紙)。本記事ではこの上場申請時の公表書類を読む
書類の冒頭には「投資者に対する注意事項」として、TPMが特定投資家等を対象とした市場であること、発行者情報の重要な事項に虚偽や欠落があった場合に公表時の役員が損害賠償責任を負うこと、J-Adviserが重要な役割を担うこと、東証は内容について表明・保証をしないことなどが記載されています。上場後は、年次と中間の「発行者情報」を、それぞれ期末後3か月以内に作成・公表することになります。TPMでは、これらを「有価証券報告書」「半期報告書」とは呼ばない点にも注意してください。
監査は「最近1年間」――第14期のみ監査を受けている
TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」です。NOSE SHOPの「主要な経営指標等の推移」の注記には、特例第110条第5項に基づき第14期の財務諸表について監査法人東海会計社の監査を受けているが、第12期と第13期の財務諸表は当該監査を受けていない、と明記されています。
これは、一般市場の新規上場で直前2期の監査が必要とされるのと大きく異なる点です。ただし、監査そのものが不要になるわけではありません。上場後の発行者情報でも監査報告書が必要で、中間の財務諸表についても中間監査の意見又はレビューの結論が付く建付けです。監査法人の選定から監査契約、初年度監査の期首残高の確認までの段取りは、TPMでも計画的に進める必要があります。監査法人選びの時期については監査法人はいつまでに決めるかも参考になります。
特定投資家向けの市場であることの意味
TPMで株式を買い付けることができるのは、適格機関投資家などの特定投資家と、一定の要件を満たして特定投資家へ移行した個人などに限られます。一般投資家は取引所で買付けをすることはできませんが、保有している株式を売却することはできます。NOSE SHOPの株主は上場時点で2名だけであり、上場時の勧誘も行っていないため、上場直後の株主構成は書類に記載された構成から出発することになります。
株式事務の面では、株主名簿管理人を株式会社アイ・アールジャパンとし、上場に伴って株式が振替株式となることが記載されています。単元未満株式の買取手数料が上場日から変わる旨の注記もあり、上場に合わせて株式事務の取扱いを整えていることがわかります。
業績の推移――増収が続き、第14期は営業利益が倍増
書類に掲載されている主要な経営指標は、第12期(2023年6月期)から第14期(2025年6月期)までの3期分です。中間期の財務諸表は掲載されていません。前述のとおり、監査を受けているのは第14期のみです。
| 項目(単位:千円) | 第12期(2023/6) | 第13期(2024/6) | 第14期(2025/6) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,053,463 | 1,553,112 | 1,905,093 |
| 経常利益 | 133,614 | 111,981 | 227,677 |
| 当期純利益 | 81,902 | 77,961 | 161,829 |
| 純資産額 | 306,430 | 384,392 | 546,221 |
| 総資産額 | 548,752 | 805,738 | 989,129 |
| 自己資本比率 | 55.8% | 47.7% | 55.2% |
| 自己資本利益率 | 26.7% | 22.6% | 34.8% |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | - | 73,804 | 178,535 |
| 従業員数〔臨時〕 | 56名〔38〕 | 58名〔60〕 | 71名〔66〕 |
図7 3期とも増収。第14期は前年比22.7%増。第12期・第13期の財務諸表は監査を受けておらず、監査を受けたのは第14期のみ。発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成
売上高は第12期の1,053,463千円から第14期の1,905,093千円へと、2期で約1.8倍になっています。一方、利益は一直線には伸びていません。第13期は売上高が前期より約5億円増えたにもかかわらず、経常利益は111,981千円と第12期(133,614千円)を下回りました。第14期は経常利益227,677千円、当期純利益161,829千円と、いずれも第13期の約2倍に増えています。
図8 第13期は売上高が伸びた一方で減益、第14期は経常利益227,677千円(第13期の約2倍)。発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成
第14期の増益について、書類は、世界的なインフレーションや円安による仕入コストの上昇という環境の中で、販売価格の見直し、取引先との協議による仕入価格の是正、在庫回転率の向上を目的としたKPIの設定、予算化に基づく効率的な販促施策を進めたと説明しています。損益計算書を見ると、売上総利益は第13期の967,722千円から第14期の1,332,414千円に増え、売上総利益率は約62.3%から約69.9%に上がっています(売上総利益÷売上高で計算)。販売費及び一般管理費も854,383千円から1,102,297千円に増えましたが、その増加を売上総利益の伸びが上回り、営業利益は113,339千円から230,116千円(前年比103.0%増)になりました。
販売費及び一般管理費の主な費目は、給料手当(296,955千円)と賃借料(237,118千円)です。店舗の家賃と人件費が大きな比重を占めるのは、商業施設に出店する小売業の典型的な構造です。この賃借料の大きさは、後で触れる新しいリース会計基準の影響を考えるうえでも重要です。
図9 売上総利益率は約69.9%(第13期は約62.3%)。「営業外・税」は営業外損益(純額△2,439千円)と法人税等(65,848千円)の合計。損益計算書をもとに作成
キャッシュ・フローを見ると、第14期は営業活動で178,535千円を獲得し、主に新規出店の内装工事などの有形固定資産の取得(44,764千円)や差入保証金(15,888千円)に充てています。財務活動では長期借入れ100,000千円の一方で、短期借入金55,000千円と長期借入金82,557千円を返済しました。期末の借入金は合計265,051千円(平均利率1.2%)で、現金及び現金同等物は396,522千円です。
TPMは数値基準がない市場ですが、だからといって業績の説明が軽くてよいわけではありません。上場後は年2回の発行者情報と決算情報の適時開示で、業績の変動理由を自ら説明していくことになります。利益の増減要因を「価格」「仕入」「在庫」「販促」のように分解して説明できるかは、上場準備の段階から管理会計を整えておくことで決まります。
図10 営業CFで178,535千円を獲得し、出店に伴う設備投資と借入金の返済をまかなった。現金及び現金同等物は81,095千円増加。キャッシュ・フロー計算書をもとに作成
資本政策と株主構成――株主2名、公募も売出しもない上場
NOSE SHOPの資本政策は、一般市場の上場事例と比べて非常にシンプルです。2025年12月31日現在の株主は2名で、代表取締役社長の中森友喜氏が510,000株(51.0%)、取締役副社長の林良美氏が490,000株(49.0%)を保有しています。ベンチャーキャピタルなどの外部株主はおらず、新株予約権(ストック・オプション)、自己株式、従業員持株会などの従業員株式所有制度もいずれも「該当事項なし」です。
書類の第三部「株式公開情報」でも、特別利害関係者等の株式等の移動状況、第三者割当等による株式等の発行はいずれも「該当事項なし」とされています。上場前の一定期間に株式を動かすと、その経緯や価格の説明が求められますが、NOSE SHOPではそもそも株式の移動や新株の発行がありません。上場前の株式の移動が審査でどう見られるかは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。
図11 発行済株式1,000,000株を代表取締役社長と取締役副社長の2名で保有する。上場に際して公募・売出しは行っていないため、書類に記載された株主構成は上場申請時点のもの。発行者情報「株主の状況」をもとに作成
上場に向けて行われたのは、株式数と売買単位の整備です。2025年11月16日の臨時株主総会で単元株制度の導入に伴う定款変更を決議し、2025年11月17日の取締役会で株式分割を決議して、2025年12月17日付で普通株式1株を10,000株に分割しました。これにより発行済株式総数は100株から1,000,000株に増え、発行可能株式総数は4,000,000株、単元株式数は100株となっています。目的は「当社株式の流動性向上と投資家層の拡大」と記載されています。
資本金は設立以来の1,000千円のままで、資本準備金はありません。純資産546,221千円のほとんどは利益剰余金(545,221千円)であり、外部からの出資に頼らず、利益の積上げと金融機関からの借入で成長してきたことが貸借対照表から読み取れます。配当は実施しておらず、当面は内部留保を充実させて財務体質の強化と事業拡大の投資に充てる方針です。なお、12月末日を基準日とする中間配当を取締役会決議で行える旨を定款に定めています。
図12 臨時株主総会で単元株制度導入の定款変更を、取締役会で株式分割を決議し、2025年12月17日に効力が生じた。目的は「株式の流動性向上と投資家層の拡大」と記載されている。重要な後発事象の注記をもとに作成
上場準備会社にとっての示唆は2つあります。1つ目は、TPMでは「上場=資金調達」ではないということです。東証が2026年6月15日時点で集計した上場目的の開示状況でも、「増資」を挙げた会社は11社(10%)にとどまり、社内体制の強化、営業力の強化、採用力の強化が上位でした。NOSE SHOPも上場時の勧誘を行っておらず、資金調達を伴わない上場です。
2つ目は、株式分割の規模感です。発行済株式100株のままでは単元株制度(100株)を導入しても1単元しか存在しないため、売買の単位として機能しません。上場前に十分な株式数にしておくことは、TPMでも必要な準備です。一方で、株主2名・持株比率51%と49%という構成のままでは、市場で取引される株式は限られます。一般市場では株主数や流通株式の形式要件があるのに対し、TPMにはそれがないことが、このような構成での上場を可能にしているといえます。資本政策の全体像は上場準備の資本政策にまとめています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
コーポレート・ガバナンス――取締役3名と社外監査役1名の小さな機関設計
NOSE SHOPは監査役設置会社で、取締役3名と監査役1名の計4名(男性3名、女性1名)で構成されています。取締役はいずれも社内の取締役で、社外取締役はいません。監査役の中井直樹氏は社外監査役で、公認会計士事務所の所長を務めています。監査役会や監査等委員会は設置していません。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(書類の記載から抜粋) | 所有株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 中森 友喜 | 国税庁大阪国税局、株式会社ブランディング、ギルドコーポレーション株式会社代表取締役を経て、2011年7月から当社代表取締役 | 510千株 |
| 取締役副社長 | 林 良美 | 三喜商事株式会社、株式会社ブランディング、ギルドコーポレーション株式会社を経て2011年7月入社、2017年8月から取締役 | 490千株 |
| 取締役管理本部長 | 林 寛之 | あずさ監査法人、税理士法人青山パートナーズ、林会計事務所創設、Hay未来の税理士法人代表社員を経て2024年2月から現職 | - |
| 監査役(社外) | 中井 直樹 | 有限責任監査法人トーマツなどを経て中井直樹公認会計士事務所所長、2024年3月から当社監査役 | - |
取締役会は月1回の定例取締役会と必要に応じた臨時取締役会で運営され、職務権限規程や取締役会規程などで決議事項と報告事項を定めています。取締役会では取締役の職務執行状況を報告し、取締役会として監視・監督する体制です。監査役は月1回の定時取締役会に出席して取締役の職務執行状況を確認し、必要な意見を述べています。社外監査役と会社との間には、人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はないと記載されています。
TPMでは、一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされています。そのうえで、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じて」コーポレート・ガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが求められ、J-Adviserが取締役の員数や役割、取締役会や監査役の活動状況を調査します。NOSE SHOPの体制は、従業員77名規模の会社の実態に合わせた設計だと読むことができます。
図13 取締役3名(社外取締役なし)と社外監査役1名の体制。内部監査は管理本部が主管し、結果を代表取締役に報告する。代表取締役・監査役・監査法人と定期的に意見交換する。発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成
役員報酬は、株主総会で取締役と監査役の報酬限度額を定めており、2025年6月期の役員報酬の総額は59,700千円です。取締役の選任決議は、議決権を行使できる株主の3分の1以上が出席し、その議決権の過半数で行い、累積投票によらない旨を定款で定めています。また、取締役会の決議によって、取締役と監査役の会社法第423条第1項の損害賠償責任を、法令の要件に該当する場合に最低責任限度額を控除した額を限度として免除できる旨の定款の定めがあります。
関連当事者との取引では、第13期に代表取締役の中森友喜氏が会社の不動産賃借について債務保証をしていたことが開示されています(取引金額は年間賃借料の27,181千円、保証料の支払いはなし)。第14期の関連当事者との取引は「該当事項なし」となっており、上場前に解消されていることがわかります。店舗や事務所の賃貸借契約で代表者が連帯保証人になっているケースは多く、上場準備では解消が論点になりやすい項目です。解消の進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで詳しく解説しています。
機関設計の選び方は、一般市場を目指すかどうかで大きく変わります。一般市場の上場審査で求められる機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とはを参照してください。TPMの会社について、独立社外取締役の人数やコーポレートガバナンス・コードの原則を当てはめて評価することはできません。
内部監査・内部統制――専任部署を置かない「相互監査」
NOSE SHOPの内部監査は、管理本部を主管部署とし、管理本部長を責任者として実施されています。特徴的なのは、内部監査の担当者について「各部部長が相互に実施しており、相互に牽制する体制」と記載されている点です。各部の監査結果と改善点は、管理本部長から代表取締役に報告されます。
専任の内部監査部署を置く余裕がない規模の会社では、他部署の担当者が監査を行う「相互監査」がよく使われます。その際の要点は、監査担当者が自分の所属部署を監査しない(自己監査を避ける)組合せにすることです。NOSE SHOPの書類には具体的な組合せまでは記載されていませんが、「相互に牽制する体制」という表現はこの考え方に沿ったものです。内部監査担当者の兼務と自己監査の回避については内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で詳しく解説しています。
図14 専任の内部監査部署は置かず、管理本部が主管、管理本部長が責任者となり、各部の部長が相互に監査を実施して相互に牽制する体制。部門の名称・組合せは図示のための例で、書類には記載がない。発行者情報をもとに作成
三様監査の連携として、内部監査は代表取締役、監査役、監査法人とも定期的に意見交換を行い、課題・改善事項の情報を共有して各監査の実効性を高めるとしています。監査役が1名で常勤・非常勤の別が記載されていない体制では、内部監査と監査法人から情報を得ることが監査役監査の実効性を補う手段になります。三様監査の役割分担は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で整理しています。
内部統制システムについては、職務権限規程の遵守により業務と権限を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを避け、内部牽制が働くように努めていると記載されています。リスク管理体制は管理本部が主幹部門となり、必要に応じて弁護士等の専門家から助言を受けられる体制です。なお、TPMでは内部統制報告書の提出は任意とされています。
図15 内部監査は代表取締役・監査役・監査法人と定期的に意見交換し、課題・改善事項を共有して各監査の実効性を高めるとしている。監査役は月1回の定時取締役会に出席する。発行者情報をもとに作成
会計・開示の論点――収益認識、棚卸資産、店舗の減損、リース
財務諸表は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に基づき、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠して作成されています。TPMでは、日本基準のほか米国基準やIFRSなども使えますが、NOSE SHOPは日本基準を採用しています。
収益認識――店舗は引渡時、ECと卸売は出荷時
収益認識の方針は、履行義務を香水等の商品又は製品の提供とし、顧客に引き渡した時点で収益を認識するというものです。インターネット販売と卸売販売については、国内販売であり、出荷から支配が顧客に移転されるまでの時間が通常の期間であることから、出荷時点で収益を認識しています。収益認識適用指針の「出荷基準」の代替的な取扱いを使っている形です。
顧客との契約から生じた債権は、期首134,025千円、期末128,072千円です。期末の売掛金の内訳は商業施設が107,769千円、決済代行会社が15,655千円で、商業施設に出店する店舗の売上代金が商業施設を経由して入金される構造が読み取れます。上場審査で収益認識がどう問われるかは上場審査で問われる収益認識を参照してください。
図16 直営店舗は商品の引渡時、ECと卸売は国内販売で出荷から支配移転までが通常の期間であることから出荷時に収益を認識する。重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」をもとに作成
重要な会計上の見積り――棚卸資産・減損・繰延税金資産
重要な会計上の見積りとして、3つの項目が開示されています。1つ目は棚卸資産の評価です。商品は総平均法による原価法(収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)で評価し、営業循環過程から外れた一定の回転期間を超える商品について、品目ごとに回転期間に応じて規則的に帳簿価額を切り下げています。回転期間と切下げ率は主に過年度の実績を用いて設定しており、第14期末の商品は271,396千円、棚卸資産評価損は4,285千円です。高価格帯で少量生産の商品を多品種扱う会社にとって、在庫評価のルールを明文化しておくことは監査対応の基本です。
2つ目は固定資産の減損です。各店舗を独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位とし、営業活動から生ずる損益が過去2期連続でマイナスの場合、損益がマイナスで翌期予算も継続してマイナスの場合、店舗設備等の時価が著しく下落した場合、店舗閉鎖の意思決定をした場合などに減損の兆候があるとしています。第14期末の有形固定資産は88,884千円で、減損損失は計上されていません。将来キャッシュ・フローの見積りは店舗ごとの事業計画を基礎とし、販促活動等による店舗損益の改善予測などの仮定を含むと記載されています。
図17 各店舗を独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位とし、兆候があれば割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較する。第14期の減損損失はない。重要な会計上の見積りの注記をもとに作成
3つ目は繰延税金資産の回収可能性です。第14期末の繰延税金資産は16,811千円で、評価性引当額はありません。翌事業年度の事業計画を基礎に将来の課税所得を見積もっており、主要な仮定は売上高の予測です。税効果の内訳では、資産除去債務(6,501千円)と未払事業税(6,042千円)が大きな項目です。
このほか、資産除去債務については、賃貸借契約に関連する敷金のうち回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積もり、当期の負担に属する金額を費用に計上する簡便的な方法を採っています。また、未適用の会計基準として、新しい「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)を2028年6月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中とされています。第14期の賃借料は237,118千円で、商業施設への出店が中心の会社にとって、借手のリースを原則としてすべて貸借対照表に計上する新基準の影響は小さくない可能性があり、店舗契約の洗い出しを早めに始めることが重要です。
監査法人と監査報酬
会計監査は監査法人東海会計社が担当し、2025年6月期の監査を執行した公認会計士は2名(継続監査年数はいずれも7年以内)、補助者は公認会計士3名です。最近事業年度の監査証明業務に基づく報酬は7,800千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、会社の規模・事業内容と監査見積時間数を勘案して決めるとしています。上場準備の費用感をつかむにはIPOにかかる費用はいくらかも参考になります。
事業等のリスクと、J-Adviser契約の解除条項
事業等のリスクとして、16項目が挙げられています。発生可能性や影響度の段階的な記載はありませんが、海外からの仕入れに依存する輸入小売業ならではのリスクと、店舗と人材に支えられた事業モデルのリスクが中心です。
| 区分 | 主なリスク項目(書類の記載) | 書類に記載された対応 |
|---|---|---|
| 仕入・為替 | 為替相場の変動(ユーロ建て・米ドル建ての仕入)、カントリーリスク・地政学的リスク(仕入先が欧州に集中)、商品の供給(少量生産で欠品が生じやすい) | 為替ヘッジ手法の導入、販売価格への転嫁、複数ブランドとの取引、国内在庫の適正化 |
| 市場・競合 | 市場成長性、大手企業の参入による競争激化、独占販売権の喪失 | 新たな顧客体験の提供、独占販売権の獲得、ブランド力の強化 |
| 店舗・品質 | 出店政策・新業態開発(減損)、商品の品質 | 検品マニュアルの整備と品質基準による管理 |
| 人材・組織 | 人材確保・定着、代表取締役への依存、コーポレート・ガバナンス体制 | 教育制度の充実、代表取締役に過度に依存しない体制の構築 |
| 法令・情報 | 法的規制(医薬品医療機器等法、景品表示法)、SNSマーケティング(ステルスマーケティング)、知的財産権、個人情報管理、災害・有事 | 社内マニュアルと定期研修、投稿ガイドライン、事前の権利調査、セキュリティ対策 |
| TPM固有 | 担当J-Adviserとの契約の解除 | 解除条項と事前催告に関する事項を開示 |
TPMの会社に特有なのが、最後の「担当J-Adviserとの契約の解除に関する事項」です。J-Adviser契約は新規上場と上場維持の前提となる契約であり、契約が解除され、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止となります。NOSE SHOPの書類には、日本M&Aセンターとの契約で即日無催告解除ができる事由として、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、重大な法令違反、株式事務代行機関への委託をしないこと、株式の譲渡制限、完全子会社化、指定振替機関での取扱いの対象外、株主の権利の不当な制限、全部取得、反社会的勢力の関与、その他の17の事由が列挙されています(①〜⑱の番号のうち④は、再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨の定めです)。
あわせて、契約違反の場合は1か月の期間を定めた書面催告を経て解除できること、合意によりいつでも解除できること、1か月前の書面通知で解除できること、解除する場合は特段の事情のない限りJ-Adviserが予め東証に通知することも開示されています。上場準備会社にとっては、上場後もJ-Adviserとの関係を維持し続けることが上場維持の条件であることを、経営陣が理解しておく必要があります。
図18 担当J-Adviser契約はTPMでの新規上場と上場維持の前提となる契約で、契約が解除され他のJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止となる。発行者情報「事業等のリスク」をもとに作成
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
NOSE SHOPの書類には、将来、一般市場(グロース市場・スタンダード市場)へ移ることについての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す会社一般にとっての論点を整理します。
まず押さえておきたいのは、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではないことです。実例として、AlbaLink(5537)はTPMを申請により上場廃止した翌日(2025年12月15日)にグロース市場へ新規上場し、その際に公募・売出しを実施しています。東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場の審査は非上場企業と同様に一から確認が行われており相応の負担がある、と現状を認識しています。2026年4月の資料では、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定するとしていますが、本記事の執筆時点(2026年10月7日)で実施済みかどうかは確認できていません。
| 論点 | TPMでの現状(一般論) | 一般市場を目指す場合に追加で必要になる準備 |
|---|---|---|
| 監査期間 | 最近1年間の監査 | 直前2期の監査を受けられるよう、監査法人との契約を前倒しする |
| 形式基準 | 株主数・流通株式などの数値基準がない | 株主数・流通株式などの形式要件を満たす資本政策(公募・売出し等) |
| 審査 | J-Adviserによる上場適格性の調査・確認 | 東証の上場審査と主幹事証券の引受審査 |
| ガバナンス | 規模や成熟度に応じた柔軟な設計 | 市場区分に応じたコーポレートガバナンス・コードへの対応、独立役員の確保 |
| 開示 | 発行者情報(年2回)、四半期開示・内部統制報告書は任意 | 有価証券報告書・半期報告書、四半期決算短信、内部統制報告書(J-SOX) |
TPMの上場で整えた月次決算、内部監査、適時開示の体制は、一般市場を目指す場合にも土台になります。ただし、監査期間や内部統制報告制度など、追加で時間がかかる準備もあります。一般市場で求められる準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)を、J-SOXの進め方はJ-SOXの進め方を参照してください。
上場準備会社が学べること
NOSE SHOPの書類から、上場準備会社が学べることを6つにまとめます。
1.資金調達をしない上場という選択肢がある。上場時の勧誘を行わない場合、書類は「発行者情報に相当する情報」として公表されます。上場の目的を資金調達以外に置く場合は、その目的を自社の言葉で説明できるようにしておくことが、2026年4月以降の東証の要請に照らしても重要です。
2.株式数と売買単位は上場前に整える。発行済株式100株を1:10,000で分割し、単元株式数100株を導入しています。株主総会決議と取締役会決議の順序と効力発生日を、上場スケジュールから逆算して決めておく必要があります。
3.監査は直前1期でも「初年度監査」の準備は必要。第12期・第13期は監査を受けておらず、第14期のみ監査を受けています。初年度の監査では期首残高の確認も必要になるため、在庫や固定資産の管理を早めに整えることが大切です。
4.管理部門の責任者の確保が要になる。監査法人・税理士法人の経験を持つ取締役管理本部長が、内部監査の責任者、リスク管理の主幹、事務連絡者を兼ねています。小規模な会社ほど、管理部門の中心人物の役割が大きくなります。
5.内部監査は相互監査でも牽制の仕組みを明確に。専任部署がなくても、各部の部長が相互に監査し、結果を代表取締役に報告し、監査役・監査法人と意見交換する体制を書類で説明しています。
6.代表者の債務保証などの関連当事者取引は、上場前に解消する。第13期にあった代表取締役による不動産賃借の債務保証は、第14期には関連当事者との取引として記載されていません。
- 上場の目的(資金調達の有無を含む)と、TPM・一般市場のどちらを選ぶかを経営陣で整理したか
- 担当J-Adviser候補と、上場適格性要件(5項目)に照らした課題を洗い出したか
- 直前1期(一般市場なら直前2期)の監査を受けられるよう、監査法人と契約したか
- 株式分割・単元株制度の導入など、株式数と売買単位を整える手続を日程に組み込んだか
- 代表者による賃貸借契約の債務保証など、関連当事者との取引を洗い出し、解消の計画を立てたか
- 内部監査の担当者が自部門を監査しない体制と、報告経路を規程に定めたか
よくある質問
いいえ。TPMで株式を買い付けることができるのは特定投資家等に限られ、一般投資家は取引所で買付けをすることができません。ただし、一般投資家が保有している株式を売却することは可能です。
形式基準(数値基準)がないだけで、審査がないわけではありません。担当J-Adviserが上場適格性要件を調査・確認して宣誓書を提出し、東証も意向表明後に面談を行います。上場申請から承認までは原則として10営業日です。
上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表した、と書類に記載されています。
TPMから一般市場への移行は、市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえでの一般市場への新規上場として扱われます。直前2期の監査や形式要件への対応など、追加の準備が必要です。
最初の一歩は、上場の目的を一文で書いてみること
NOSE SHOPの事例は、上場の形が一つではないことを示しています。資金調達を伴う一般市場への上場を目指すのか、まずはTPMで上場会社としての体制を整えるのかによって、資本政策、監査、機関設計の準備は大きく変わります。最初の一歩として、自社が上場で何を実現したいのかを一文で書き出し、それに合う市場と準備の範囲を専門家と一緒に確認してみてください。準備の全体像はIPO準備 完全ガイドで確認できます。
まとめ
NOSE SHOP株式会社は、ニッチフレグランスのセレクトショップ「NOSE SHOP」を中核に事業を展開し、2026年3月17日にTOKYO PRO Marketへ上場しました(申請受付日2026年2月24日、上場承認日2026年3月10日、担当J-Adviserは日本M&Aセンター)。第14期の売上高は1,905,093千円、営業利益は230,116千円で、増収と増益を両立しています。
上場は株主2名のまま、公募も売出しも行わない形で、書類は特例第110条第3項に基づく「発行者情報に相当する情報」として公表されました。資本政策は1:10,000の株式分割と単元株制度の導入、監査は直前1期、機関設計は取締役3名と社外監査役1名、内部監査は各部の部長による相互監査と、会社の規模に合わせた準備が行われています。
TPMは形式基準がない一方で、J-Adviserによる上場適格性の確認と、上場後の継続的な開示が求められる市場です。自社の目的に合った上場の形を考えるうえで、NOSE SHOPの書類は具体的な参考になる教材です。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「NOSE SHOP 特定証券情報」(書類名:発行者情報、2026年2月24日公表)
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 新規上場会社情報(2026年)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 東京証券取引所「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ「AlbaLink 新規上場(グロース市場)」公表(2025年11月11日)
- 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
- 金融商品取引法 第27条の31(e-Gov法令検索)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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