ディープラスのTOKYO PRO Market上場|公募なし・1期監査と三者間スキーム【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

愛知県名古屋市に本店を置くディープラス株式会社は、2026年5月13日に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(TPM)へ上場しました。個人向けの新車カーリース(サブスク)を主力に、車検・整備、鈑金、買取・オークション販売までを店舗で一体的に提供している会社です。担当J-Adviserは名南M&A株式会社で、上場に際して公表された書類の表紙は「発行者情報」となっています。

結論からいえば、ディープラスの事例は「公募・売出しを行わずに上場する場合の開示書類の選び方」「直近1期の監査で上場する場合の決算期と監査対象期の組み立て方」「少人数の管理部門での内部監査と、J-Adviser契約を軸にした上場維持の考え方」を具体的に学べるケースです。本記事では、上場時に公表された発行者情報に書かれている事実だけをもとに、TPM上場の仕組みと上場準備の実務ポイントを公認会計士の立場から整理します。

ディープラスはどんな会社で、いつTPMに上場したのか

まず会社と上場の概要を押さえます。ディープラスは2011年4月に現在の代表取締役社長である苅谷大作氏が個人事業として自動車整備・中古車販売を始めたことに由来し、2013年7月に株式会社ビックとして法人化、2021年4月に現在の商号へ変更しています。発行者情報の公表日(2026年4月10日)時点で、東海地区・関西地区に16店舗を構えていると記載されています。

上場の日程は、JPXの新規上場会社情報によると、申請受付日が2026年4月10日、上場承認日が2026年4月24日、上場日が2026年5月13日です。発行者情報の公表日と申請受付日が同じ日になっているのは、TPMでは上場申請の段階で開示書類を公表する建付けになっているためです。

項目 内容
会社名 ディープラス株式会社(D-Plus Co., Ltd.)
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年5月13日
上場承認日 2026年4月24日
申請受付日 2026年4月10日(発行者情報の公表日も同日)
担当J-Adviser 名南M&A株式会社(J-Adviser契約締結日:2025年2月12日)
本店所在地 愛知県名古屋市中区
設立 2013年7月(株式会社ビックとして法人化)
決算期 11月30日(2024年に6月決算から変更)
事業 個人向け新車カーリース(サブスク)を中心とするカーリース事業の単一セグメント
従業員数 163名(臨時雇用者36名を外数)、平均年齢33.6歳(2026年3月31日現在)
上場時の勧誘 特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等は実施せず(公募・売出しなし)

J-Adviser契約の締結(2025年2月)から上場日までの流れを日付で並べると次のようになります。上場直前期にあたる第13期(2025年11月期)の決算を締め、監査を受けたうえで、株式分割と単元株制度の導入を済ませ、2026年4月に上場申請をしています。

J-Adviser契約から上場日までの日程2025/2/12J-Adviser契約2025/11/30第13期末(監査対象期)2026/2/51:5,000の株式分割2026/2/20定時株主総会単元株100株2026/4/10上場申請発行者情報公表2026/4/24上場承認2026/5/13TOKYO PRO Market上場申請受付から承認まで:2026年4月10日 → 4月24日(10営業日)

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報の日付をもとに作成。上場申請(申請受付)から上場承認までは10営業日

上場申請から上場承認までは10営業日です。後で詳しく見るとおり、TPMでは東証が原則として上場申請から10営業日後に上場を承認する仕組みになっており、ディープラスの日程もこれに沿っています。一方、その前段階には担当J-Adviserによる調査・確認と、上場申請の30営業日程度前までの意向表明があります。申請から承認までが短いからといって、準備期間が短いわけではない点に注意が必要です。上場準備全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

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ディープラスは何で稼いでいるのか(事業内容と収益モデル)

発行者情報の「事業の内容」によると、ディープラスは個人向けの新車カーリース業(サブスク)を主な事業としています。車両代だけでなく、車検代、自動車税、自賠責保険料、オイル交換代などの「維持費」をすべて毎月の定額料金に含めた料金体系(「定額モデル」)が特徴で、契約は月額5,000円から設定できると記載されています。

車両は、各自動車ディーラーから主に新車の軽自動車を仕入れるか、オークション市場から未使用車を仕入れて調達しています。店舗に来店した顧客に対して、リース提供、保険加入、車検等のアフターメンテナンス、事故時の鈑金サービス、契約満了後の再流通までをワンストップで提供する、というのが会社の説明です。

提携信販会社・リース会社を介した三者間スキーム

収益モデルを理解するうえで重要なのが販売方法です。発行者情報では、提携信販会社・リース会社による与信審査と融資を介した「三者間スキーム」と説明されています。顧客は「好きな車を、毎月定額で、メンテナンス付き」で利用でき、当社は車両引渡時に提携先から代金相当額を「一括払い」で受領することで、リスクを軽減しつつ効率の良い販売を実現している、と記載されています。

提携信販会社・リース会社を介した三者間スキーム一般消費者(リース利用者)提携信販会社・リース会社ディープラス(店舗)①与信審査 → ②融資(提携先)→ ③当社へ一括払い → ④顧客は提携先へ分割払い①与信審査④分割払い(リース料)③一括払い車両引渡し・整備等

図2 顧客の与信審査と融資は提携先が担い、当社は車両引渡時に提携先から代金相当額を一括で受け取る(発行者情報「事業の内容」「事業系統図」をもとに作成)

この仕組みでは、毎月のリース料を受け取るのは提携先であり、ディープラスは車両の引渡時に代金相当額を受け取ります。後述するとおり、リース車両販売の収益は「リース契約に基づき自動車を顧客に引渡した時点」で計上されています。上場準備の観点では、このような取引構造が「誰が顧客か」「いつ履行義務を充足するか」という収益認識の論点に直結します。

車両のライフサイクルを自社で回す循環型モデル

会社は自社のビジネスを、個人向けカーリースを核に「車両のライフサイクル」を全方位でサポートするストック型ビジネスと説明しています。新規のリース成約を起点とし、その後の維持管理(整備・鈑金)を自社で引き受けることで顧客接点を維持し、リース満了や早期乗り換えのタイミングで顧客が使っていた車両を買い取り、新たなリース車両や中古車販売の在庫として再投入する、という循環です。

車両のライフサイクルを自社で回す循環型モデルリース成約(リース車両販売)整備・車検・鈑金(契約期間中の接点)リース満了・早期乗り換え買取・オークション車両販売/在庫投入購入から売却までを自社で完結仕入れから1か月以内に成約しない車両は再度オークションへ流し、在庫の鮮度を保つ

図3 リース成約を起点に、整備・鈑金で接点を保ち、満了・乗り換え時の買取車両を再流通させる流れ(発行者情報「業績等の概要」「事業の内容」をもとに作成)

オークション販売(買取)については、仕入れから1か月以内に成約に至らない車両は再度オークションへ流すことで在庫の鮮度を保っている、と記載されています。在庫回転を重視する方針は、後で見る「棚卸資産の評価」という会計上の見積りとも関係します。

なお、整備や保険取扱い等の付随業務は独立した収益源ではなく、カーリース契約の成約維持と顧客生涯価値(LTV)の最大化を目的とした一体的サービスと位置付けられ、カーリース事業の単一セグメントとされています。そのうえで、販売実績は「カーリース部門」と「整備鈑金部門」の事業部門別に開示されています。

部門別売上高と主要な販売先(第13期・千円)部門別売上高カーリース部門8,414,288整備鈑金部門844,327主要な販売先昭和リース4,195,647(45.3%)ユー・エス・エス1,647,269(17.8%)ジャックスリース851,913(9.2%)

図4 第13期(2024年12月〜2025年11月)の販売実績と、主な相手先別の販売実績(発行者情報「生産、受注及び販売の状況」より)。割合は総販売実績に対する比率

第13期の売上高9,258,615千円のうち、カーリース部門が8,414,288千円、整備鈑金部門が844,327千円です。主な相手先別の販売実績では、昭和リース株式会社が4,195,647千円(45.3%)、株式会社ユー・エス・エスが1,647,269千円(17.8%)、ジャックスリース株式会社が851,913千円(9.2%)と記載されています。三者間スキームでは、リース会社・信販会社が代金の支払者になるため、相手先別の販売実績にはリース会社やオークション運営会社が並ぶ形になります。

沿革からみる上場までの道のり

沿革の年表を主要なイベントに絞って並べると、次のようになります。自動車整備・中古車販売の個人事業から出発し、2016年6月に「フラット7」への加盟で新車リース販売業を開始、2020年9月には信販会社との提携を通じたオートリース取扱権限の取得によって新車リース業の基盤を構築したと記載されています。

沿革の主要イベント2011/4個人事業で創業2013/7株式会社ビックに法人化2016/6新車リース販売を開始2020/9オートリース取扱権限取得2021/4ディープラスに商号変更2023/2本社を名古屋市へ2024/10決算期を11月に変更2025/2J-Adviser契約締結2026/2株式分割・単元株導入2026/5/13TPMに上場

図5 個人事業の創業からTOKYO PRO Market上場まで(発行者情報「沿革」ほかをもとに作成)

店舗網は、2015年9月の岡崎248店を皮切りに、豊橋、名古屋みなと、一宮、小牧、刈谷、名古屋天白、岐阜、半田、四日市、瀬戸、浜松、名古屋インター、鈑金知立と広がり、2024年8月にはSUV専門店(ディープラス×SUV名古屋インター店)をリニューアルオープンしています。2025年4月に春日井店、2025年12月に豊田店、2026年2月には大阪府岸和田市の岸和田店を新規オープンしました。

上場準備の観点で注目したいのは、2024年10月2日の臨時株主総会で決算期を6月30日から11月30日に変更している点です。この結果、第12期は2024年7月1日から2024年11月30日までの5か月の変則決算となり、第13期(2024年12月1日〜2025年11月30日)が上場前の監査対象期になりました。決算期の変更と監査対象期の関係は、後の「会計・開示」の節で改めて取り上げます。

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

上場準備会社がまず知りたいのは「なぜグロース市場やスタンダード市場ではなくTPMなのか」という点でしょう。結論として、ディープラスの発行者情報には、上場目的やTPMを選んだ理由を直接説明した記載はありません。「対処すべき課題」に、経営管理体制及びコーポレート・ガバナンスを強化し、事業運営上の問題点の把握、コンプライアンスの徹底、適切な情報開示やIR活動に取り組むことが企業価値の向上につながる、という認識が書かれているのみです。本記事では、会社の理由を推測することはせず、TPMという市場の特徴を一般論として整理します。

TPMは、2008年の改正金融商品取引法で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する仕組みです。東証は2026年4月3日に、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、特に一般市場上場前の助走の場として使う企業を重点的に支援する方針を示しています。

また東証は2026年4月から、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは規程上の義務ではなく東証の「お願い」ですが、これからTPM上場を検討する会社は、上場目的を言葉にしておくことが実務上求められる流れにあるといえます。なお、2026年6月15日時点の東証の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまっています。TPM上場は必ずしも資金調達と結び付くものではありません。

公募・売出しを行わない上場と「発行者情報」

ディープラスの事例で最初に押さえたいのが、公表された書類の名称です。表紙には「発行者情報」とあり、「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表いたします」と記載されています。

上場時の勧誘の有無と公表する書類上場時に特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行うか行う特定証券情報を公表行わない発行者情報に相当する情報を公表(特例110条3項)上場後は年次・中間の発行者情報(各期末後3か月以内)ディープラスはこちら表紙の書類名は「発行者情報」はいいいえ

図6 ディープラスは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表した(発行者情報の表紙より)

TPMで株式の取得勧誘や売付け勧誘を行う場合、その相手方は特定投資家に限られ(金融商品取引法上の「特定投資家向け取得勧誘」「特定投資家向け売付け勧誘等」、いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)、有価証券届出書ではなく「特定証券情報」の提供・公表が必要になります。これに対し、ディープラスのように上場時に勧誘を行わない会社は、発行者情報に相当する情報を公表して上場しています。つまり、ディープラスは公募による資金調達も売出しも行わずに上場した会社です。

上場後は、年次と中間の年2回、事業年度または中間会計期間の末日から3か月以内に「発行者情報」を作成・公表します。一般市場の会社のように「有価証券報告書」「半期報告書」と呼ばない点にも注意してください。

TOKYO PRO Marketの上場の仕組みをディープラスの記載で確認する

ここからは、TPMの上場の仕組みを、ディープラスの発行者情報の記載に即して確認します。一般市場の上場準備に慣れた方ほど、「審査の主体」「監査期間」「誰が株式を買えるか」の3点で感覚がずれやすいところです。

J-Adviserの調査と上場適格性

TPMには形式基準がありませんが、「上場審査がない」わけではありません。東証から資格認証を受けた担当J-Adviserが、次の5つの上場適格性要件への適合性を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。

①企業としての相応性/市場評価を損なわないこと(法律・会計・税務の理解、予算統制、上場予定日から12か月間の運転資金の確保など)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していること、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5つです。

TOKYO PRO Marketの上場手続の流れJ-Adviser契約締結J-Adviserの調査・確認意向表明(申請の約30営業日前まで)上場申請書類の公表上場承認原則10営業日後担当J-Adviser上場適格性(5要件)を調査・確認「上場適格性に係る宣誓書」を提出東京証券取引所意向表明後に面談を実施申請から原則10営業日で承認

図7 JPX「上場ガイドブック TPM編」の手続の流れをもとに作成。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

ディープラスの発行者情報にも、①に対応する記載があります。「運転資本」の項目で、上場予定日(2026年5月13日)から12か月間の運転資本は、現状の自己資金及び金融機関からの借入による資金調達が可能であることから十分であると判断している、と書かれています。公募による資金調達を行わない会社にとっては、自己資金と借入枠で上場後1年間の資金繰りを説明できるかどうかが重要になります。

J-Adviser契約は上場維持の前提

TPMでは、上場後も担当J-Adviserとの契約を維持する必要があります。ディープラスは「事業等のリスク」で、2025年2月12日に名南M&A株式会社との間で担当J-Adviser契約を締結したこと、当該契約は新規上場及び上場維持の前提となる契約であり、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止となることを明記しています。そのうえで、契約解除に関する条項と事前催告に関する事項を詳しく開示しています。

J-Adviser契約の解除と上場維持の関係J-Adviser契約(2025/2/12締結)即日無催告解除債務超過・虚偽記載など18項目催告による解除是正期間は原則1か月合意解除/1か月前の書面通知他のJ-Adviserを確保できるか上場廃止※確保できれば上場は継続できない

図8 発行者情報「事業等のリスク(J-Adviserとの契約について)」をもとに作成。即日無催告解除に関する条項は①〜⑲(うち④は再建計画を開示した場合に原則として解除しない旨の定めで、解除事由は18項目)

即日無催告解除の事由としては、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、法令違反及び上場契約違反等、株式事務代行機関への委託、株式の譲渡制限、完全子会社化、指定振替機関における取扱い、株主の権利の不当な制限、全部取得、株式等売渡請求による取得、反社会的勢力の関与、その他の18項目が並んでいます(このほか④として、破産手続等に該当しても再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨が定められています)。

また事前催告に関する事項として、義務の不履行や契約違反があった場合は相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で是正を催告し、是正がなければ解除できること、合意によりいつでも解除できること、1か月前の書面通知で解除できること、解除する場合には特段の事情のない限りJ-Adviserが予め東証に通知することが記載されています。発行者情報の公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。

監査は「最近1年間」、市場は特定投資家向け

TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。ディープラスは、第13期(2024年12月1日〜2025年11月30日)の財務諸表について、特例第110条第5項の規定に基づき監査法人コスモスの監査を受けており、第11期と第12期の財務諸表は監査を受けていないと注記しています。監査期間が1年で済むとはいえ、監査そのものが不要になるわけではありません。上場後は、中間の発行者情報の財務諸表にも中間監査またはレビューの意見・結論が付く建付けです。

もう一つの特徴が、TPMは特定投資家等を対象とした市場であることです。発行者情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TOKYO PRO Marketは特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合がある、と注意喚起されています。一般投資家は取引所で株式を買い付けることはできませんが、保有している株式を売却することは可能です。「一般投資家は一切取引できない」という説明は正確ではありません。

一般市場(グロース・スタンダード)と何が違うのか

TPMと一般市場の違いを、上場準備の実務で影響が大きい項目に絞って比較します。TPMはグロース市場の一種ではなく、プライム・スタンダード・グロースとは別の市場である点が出発点です。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
市場の性格 特定取引所金融商品市場(特定投資家等向け) 一般投資家も売買できる市場
株式を買える投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可) 制限なし
形式基準(数値基準) なし 株主数・流通株式などの数値基準あり
上場適格性の確認 担当J-Adviserが調査・確認し宣誓書を提出 東証の上場審査(主幹事証券の引受審査も)
申請から承認まで 原則10営業日(申請前に意向表明・面談) 東証の審査期間を経て承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS+同等と認められた基準 日本基準・米国基準・IFRS等
主な開示書類 特定証券情報、発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) 有価証券届出書、有価証券報告書、半期報告書
四半期の開示 任意 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意 提出が必要
J-Adviser 契約の維持が上場維持の前提 制度なし(上場準備では主幹事証券が関与)

ディープラスの記載と照らすと、「監査は第13期のみ」「上場時の書類は発行者情報」「J-Adviser契約の解除条項をリスクとして開示」といった点が、まさにTPMならではの部分です。一方で、TPMでも適時開示の義務はあり、決算情報や業績予想の修正、担当J-Adviserの異動なども適時開示の対象になります。「TPMだから開示が軽い」と考えるのではなく、「開示書類の種類と様式が違う」と理解しておくのが安全です。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

ディープラスの発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場変更についての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す場合の一般的な留意点だけを整理します。

TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場へ新規上場する手続として扱われます。2025年12月には、TPM上場会社がTPMを上場廃止した翌日にグロース市場へ新規上場した事例もあります。東証は2026年4月に、TPMでの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に進める予定と公表していますが、本記事の執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません。

観点 TPM上場時 一般市場の新規上場で改めて必要になること(一般論)
監査 最近1年間の監査 直前2期の監査
株主・流通株式 形式基準なし 株主数・流通株式などの形式基準を満たす資本政策
審査 担当J-Adviserの調査・確認 東証の上場審査(非上場会社と同様に一から確認されるとの東証の現状認識あり)
開示 発行者情報(年2回)・適時開示 有価証券報告書等の法定開示・四半期決算短信など

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業績と財務はどう推移しているのか

主要な経営指標等の推移は、第11期から第13期までの3期分が記載されています(連結財務諸表は作成していないため単体の数値です)。第12期は決算期変更により5か月間の変則決算である点、第11期・第12期は監査を受けていない点に注意して読む必要があります。

項目(千円) 第11期(2024年6月期) 第12期(2024年11月期・5か月) 第13期(2025年11月期)
売上高 6,782,462 3,915,621 9,258,615
経常利益又は経常損失(△) 29,516 △26,150 150,573
当期純利益又は当期純損失(△) 17,272 △27,615 92,016
純資産額 28,318 702 92,719
総資産額 2,628,554 2,654,448 3,245,836
自己資本比率(%) 1.1 0.0 2.9
営業活動によるキャッシュ・フロー - 237,734 59,193
従業員数(人) 117 133 163
監査 受けていない 受けていない 監査法人コスモスの監査
売上高と経常損益の推移02,5005,0007,50010,000第11期第12期(5か月)第13期売上高(百万円)経常損益(千円)第11期 29,516第12期 △26,150第13期 150,573第13期のみ監査法人の監査済み

図9 売上高は百万円未満四捨五入。第12期は決算期変更による5か月の変則決算。第11期・第12期は監査を受けていない数値です(発行者情報「主要な経営指標等の推移」より)

第13期は売上高9,258,615千円、営業利益186,007千円、経常利益150,573千円、当期純利益92,016千円でした。会社は、SUV専門店の出店によってSUVやハイブリッド車の需要を取り込む体制が整ったこと、認証不正問題に伴う出荷停止の解消で納車が進んだこと、高付加価値車両の提案に注力したことなどにより、リース車両販売の1台当たり利益が30%増となったと説明しています。車検・整備の1台当たり利益は14%増、鈑金は30%増と記載されています。前事業年度が5か月決算のため、前年同期との総額比較は記載されていません。

営業利益から当期純利益までの段階

第13期の損益計算書を営業利益から下に追うと、支払利息36,460千円を中心とする営業外費用39,632千円が営業外収益4,199千円を上回り、特別損益(投資有価証券売却益1,589千円、投資有価証券評価損2,805千円、会員権評価損2,000千円)を経て、法人税等合計55,341千円を差し引いた当期純利益は92,016千円となっています。

第13期 営業利益から当期純利益まで(千円)営業利益186,007営業外収益+4,199営業外費用-39,632特別損益-3,216法人税等-55,341当期純利益92,016

図10 第13期(2024年12月1日〜2025年11月30日)の損益計算書より。特別損益は投資有価証券売却益1,589千円から投資有価証券評価損2,805千円と会員権評価損2,000千円を差し引いた純額

販売費及び一般管理費2,623,500千円のうち、主要な費目は広告宣伝費738,751千円、給与手当633,413千円、賃借料281,480千円、減価償却費71,497千円です。店舗型の集客モデルであることが費用構成からも読み取れます。

貸借対照表と有利子負債

第13期末の総資産は3,245,836千円、純資産は92,719千円で、自己資本比率は2.9%です。資本金は10,000千円のまま変わっておらず、純資産の増加は当期純利益の計上によるものと説明されています。第12期末の純資産は702千円でした。

第13期末の貸借対照表の構成(百万円)流動資産2,070固定資産1,176流動負債1,855固定負債1,298純資産 93自己資本比率2.9%資産合計 3,246負債・純資産合計 3,246

図11 2025年11月30日現在。百万円未満四捨五入。固定資産には繰延資産(社債発行費)を含めています(発行者情報「貸借対照表」より)

負債側を見ると、短期借入金1,058,500千円、長期借入金(1年内返済予定を含む)1,344,703千円、社債(1年内償還予定を含む)105,000千円などがあり、借入金等明細表(割賦未払金を含む)の合計2,420,846千円と社債105,000千円を合わせると2,525,846千円になります。当座貸越契約は極度額900,000千円に対して全額が実行されています。また、短期借入金558,500千円などについて定期預金90,080千円が担保に供されています。

有利子負債の内訳(第13期末・千円)短期借入金1,058,5001年内返済予定の長期借入金213,250長期借入金1,131,453社債(1年内償還予定を含む)105,000割賦未払金(1年内を含む)17,643有利子負債 合計2,525,846純資産 92,719当座貸越 極度900,000(全額実行)

図12 借入金等明細表(割賦未払金を含む)と社債明細表をもとに作成。合計は両表の合計額を合算したもの

第13期のキャッシュ・フローは、営業活動が59,193千円の収入(税引前当期純利益147,358千円に対し、棚卸資産の増加137,809千円など)、投資活動が276,993千円の支出(有形固定資産の取得183,431千円、定期預金の預入66,400千円など)、財務活動が415,866千円の収入(長期借入れ631,000千円、長期借入金の返済254,349千円など)でした。新規出店の資金を借入で賄っている構図で、会社も「事業等のリスク」で有利子負債への依存と金利変動の影響を挙げています。

財務制限条項は上場後も管理が必要

もう一つ見落とせないのが、コミットメントライン契約(総借入限度額500,000千円、2021年12月17日締結)に付された財務制限条項です。主な内容は、(a)各決算期末の単体の貸借対照表の純資産の部の金額を0円以上に維持すること、(b)単体の損益計算書の経常損益を2期連続して損失としないこと、の2つで、抵触した場合は期限の利益を喪失する可能性があると記載されています。

コミットメントライン契約の財務制限条項(判定の流れ)各決算期末(単体)純資産の部が0円を下回るか経常損益が2期連続損失か抵触期限の利益を喪失する可能性条項を遵守第12期経常損失△26,150第13期経常利益150,573はいはいいいえいいえ

図13 融資枠500,000千円のコミットメントライン契約に付された主な財務制限条項。抵触した場合は期限の利益を喪失する可能性がある(発行者情報「重要な契約等」「財務制限条項」注記より)

第12期は経常損失26,150千円、純資産702千円でしたが、第13期は経常利益150,573千円を計上しています。純資産が小さい会社では、わずかな損失でも財務制限条項やJ-Adviser契約の解除事由(債務超過)に近づきます。上場準備会社にとっては、予算統制と月次の業績管理で財務制限条項の指標を継続的にモニタリングする体制が、上場適格性の「企業としての相応性」を説明するうえでも重要になります。

資本政策と株主構成はどうなっているのか

ディープラスの資本政策は、きわめてシンプルです。第三部「株式公開情報」では、特別利害関係者等の株式等の移動状況も、第三者割当等による株式等の発行も「該当事項はありません」とされています。新株予約権(ストック・オプション)、自己株式、種類株式もありません。

株式分割・単元株の導入と株主構成分割前発行済200株2026/2/51株→5,000株分割後1,000,000株2026/2/20単元株100株(10,000単元)株主の状況(2名で100%)苅谷大作(代表取締役社長)500,000株 50.00%株式会社YSS(資産管理会社)500,000株 50.00%上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等は実施せず(公募・売出しなし)

図14 発行者情報「株式の総数等」「株主の状況」より。上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等は実施していない

株主は、代表取締役社長の苅谷大作氏(500,000株、50.00%)と、同氏の資産管理会社である株式会社YSS(500,000株、50.00%)の2名です。役員の状況では、苅谷氏の所有株式数1,000,000株にYSSの所有分が含まれると注記されています。

上場前の株式の準備としては、2026年2月5日付で普通株式1株を5,000株に分割し、発行済株式総数を200株から1,000,000株にしています(発行可能株式総数も4,000,000株に変更)。さらに2026年2月20日の定時株主総会で定款を変更し、100株を1単元とする単元株制度を導入しました。重要な後発事象の注記では、株式分割と単元株制度の目的を「株式単位当たりの金額の引下げを行うことで株式の流動性を高めること、投資家層の拡充を図ること」と説明しています。

TPMには株主数や流通株式の形式基準がないため、上場時点で株主が2名でも上場できています。一方で、配当政策は当面内部留保を充実させて成長投資に充当し、配当は行わない方針とされています。株主構成をどのように広げていくかは、TPM上場会社に共通する資本政策の論点といえます。資本政策の基本は上場準備の資本政策や資本政策はなぜやり直せないかで解説しています。

コーポレート・ガバナンスはどう組み立てられているか

発行者情報によると、ディープラスの機関は取締役会、監査役、会計監査(監査法人コスモス)で構成されています。取締役会は4名の取締役で構成され、定例取締役会を毎月1回、必要に応じて臨時取締役会を開催しています。監査役制度を採用し、監査役は2名で、3か月に1回の監査役協議会を開催するとともに、取締役会に出席して意見を述べる体制と記載されています。

役職 氏名 主な経歴(発行者情報の記載から抜粋)
代表取締役社長 苅谷 大作 名古屋トヨペット(現NTP名古屋トヨペット)入社、2011年4月トータルサポートビック代表、2013年7月より当社代表取締役社長
取締役 管理部長 井手 麻衣子 2016年12月当社入社、情報システム部部長を経て2024年8月より取締役管理部部長
取締役 営業部長 早崎 誠也 2021年3月当社入社、執行役員経営戦略部部長を経て2025年11月執行役員営業部部長
取締役(社外) 市川 昌広 東海銀行、東海東京証券(投資銀行カンパニー常務執行役員共同カンパニー長等)を経て2025年4月当社社外取締役
常勤監査役 太田 賢一 名古屋トヨペット入社、2019年10月当社入社、2021年4月監査役
監査役 山田 美典 公認会計士・税理士。あらた監査法人代表社員などを経て、2022年9月当社監査役

社外取締役は1名で、市川昌広氏と当社との間に人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はないと記載されています。社外取締役の独立性に関する基準又は方針について特段の定めはないものの、客観的・中立的な視点から経営監視機能が十分に発揮されるよう取引関係等を考慮して選任している、という説明です。監査役の山田美典氏は公認会計士・税理士の経歴を持っています。

TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされる一方で、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが求められます。ディープラスは、社外取締役1名と会計専門家の監査役を置き、取締役会を毎月開催するという体制をとっています。機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とは、監査役の要否や資質は常勤監査役は必要かと監査役に会計の知識は必要かも参考になります。

ディープラスの機関設計と管理体制株主総会取締役会(4名)うち社外取締役1名定例 毎月1回監査役(2名)うち常勤監査役1名監査役協議会 3か月に1回代表取締役社長リスク・コンプライアンス委員会(月1回)監査法人コスモス(会計監査)内部監査担当(2名)管理部1名・営業部1名選任選任選定・監督監査連携報告書・改善要望書内部監査報告

図15 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成。取締役会4名、監査役2名、監査法人による会計監査、内部監査担当2名、リスク・コンプライアンス委員会

役員報酬は、2025年11月期の総額が79,196千円(期中に退任した取締役1名を含む)で、取締役(社外取締役を除く)3名に65,310千円、監査役2名に10,186千円、社外役員1名に3,700千円が支払われ、いずれも基本報酬のみです。決定方針は、株主総会で承認された報酬額の範囲内で、取締役については取締役会、監査役については監査役が決定すると記載されています。

定款では、取締役の定数を5名以内、監査役を3名以内とし、取締役の選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席しその過半数で行うこと(累積投票によらない)、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和すること、取締役会決議による自己株式の取得、中間配当、取締役・監査役の責任免除(会社法426条1項)を定めています。

代表者による債務保証(関連当事者取引)

関連当事者との取引としては、代表取締役社長の苅谷大作氏が当社の仕入債務について債務保証をしていることが開示されています。期末残高(買掛金)は第12期末115,414千円、第13期末99,432千円で、保証料の支払いは行っていないと記載されています。発行者情報には、この保証の解消予定についての記載はありません。

代表者による債務保証は、上場準備の過程で「会社の信用だけで取引が成り立つか」「代表者への依存がないか」という観点から検討されることが多い論点です。一般的な整理は社長個人と会社の取引はどう解消するかや関連当事者との取引はどこまで開示するかで解説しています。

内部監査・内部統制はどう運用されているか

内部統制システムについて、ディープラスは職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを回避して、内部牽制機能が働くよう努めていると説明しています。

内部監査は、管理部の1名を主管担当者として各業務の監査を行い、管理部の業務監査については営業部の1名が担当することで、相互に牽制する体制を構築していると記載されています。監査結果と改善点は、この計2名の内部監査担当者から代表取締役社長に対して報告書及び改善要望書を直接提出する運用です。

内部監査担当2名による相互牽制代表取締役社長管理部 担当者1名(主管)営業部 担当者1名管理部以外の各業務(営業部・店舗など)管理部の業務報告書・改善要望書を直接提出自部門は監査しない監査監査

図16 管理部の担当者が各業務を監査し、管理部の業務は営業部の担当者が監査する。監査結果は代表取締役社長へ直接報告(発行者情報「内部監査及び監査役の状況」をもとに作成)

専任の内部監査部門を置けない規模の会社では、管理部の担当者が内部監査を兼務するケースがよくあります。その場合に問題になるのが、自分の部門を自分で監査する「自己監査」です。ディープラスのように、管理部の業務だけは別部門の担当者が監査する形にすると、少人数でも自己監査を避けることができます。内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)や内部監査の人数と体制も参考にしてください。

リスク管理については、リスク・コンプライアンス委員会を設置し、代表取締役社長を含む管理担当役員、監査役、社外取締役、各組織の所属長、内部監査担当が参加して、各拠点でのクレーム・トラブル報告と内部監査報告を月1回行っていると記載されています。店舗を多拠点で展開する会社にとって、拠点の情報を毎月集約する仕組みは、内部管理体制の実効性を説明するうえで具体的な材料になります。監査役監査・内部監査・会計監査の連携については監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で整理しています。

会計・開示で押さえたい論点

収益はすべて「一時点」で認識

重要な会計方針の「収益及び費用の計上基準」によると、カーリース部門のうちリース車両販売は、リース契約に基づき自動車を提供しており、自動車を顧客に引渡した時点で履行義務が充足されると判断して収益を計上しています。オークション車両販売は、オークションでの落札時点で自動車に対する支配が顧客に移転し履行義務が充足されると判断しています。整備鈑金部門は、サービスの提供完了時点で収益を計上しています。

収益を認識する時点リース車両販売顧客への車両引渡時点オークション車両販売オークションでの落札時点整備鈑金(車検・鈑金等)サービスの提供完了時点その他の収益(第13期 29,493千円)リース取引に関する会計基準(企業会計基準第13号)顧客との契約から生じる収益はすべて一時点で移転(第13期 9,229,122千円)

図17 発行者情報「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」「収益認識関係」注記をもとに作成

収益認識関係の注記では、顧客との契約から生じる収益はすべて一時点で移転される財又はサービスであるとされ、第13期はカーリース部門8,414,288千円、整備鈑金部門814,834千円、顧客との契約から生じる収益合計9,229,122千円、その他の収益29,493千円(「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)に基づき認識)と分解されています。契約負債(前受金)は第13期末3,938千円と小さく、残存履行義務については当初の契約期間が1年以内であるとして実務上の便法を適用しています。

三者間スキームのもとでは、「顧客は誰か」「当社は本人か代理人か」「いつ支配が移転するか」を契約書と業務フローから説明できるようにしておくことが大切です。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。

重要な会計上の見積りと未適用の会計基準

重要な会計上の見積りとして開示されているのは、①棚卸資産の評価(商品488,822千円、棚卸資産評価損440千円)と、②固定資産の減損(各店舗を独立したキャッシュ・フロー生成単位とし、有形固定資産916,712千円、無形固定資産59,158千円)の2つです。在庫回転を重視するビジネスと、店舗への設備投資を続ける出店戦略が、そのまま見積りの論点になっています。

また、未適用の会計基準等として、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を2028年11月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中と記載されています。賃借店舗を多く抱える会社では、借手のリースの資産・負債計上が貸借対照表に与える影響が大きくなり得るため、上場後の財務制限条項の管理とあわせて早めに試算しておきたい論点です。このほか、店舗の原状回復義務について資産除去債務53,936千円(使用見込期間20〜30年、割引率0.43%〜2.87%)が計上されています。

監査法人と監査報酬

発行者情報では、監査法人コスモスと監査契約を締結し、特例第110条第5項に基づき監査を受けていると記載されています。2025年11月期に監査を執行した公認会計士は2名(継続監査年数はいずれも7年以内)、補助者は公認会計士14名、その他4名です。監査報酬は監査証明業務に基づく報酬14,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかも参考にしてください。

事業等のリスクと上場適格性の観点で問われやすい点

発行者情報の「事業等のリスク」には12項目が挙げられています。上場準備の観点で、それぞれがどのような体制整備と結び付くかを整理すると次のとおりです(右列は一般論としての整理です)。

リスク項目(発行者情報) 記載の要点 上場準備で関係する体制(一般論)
仕入先について 半導体不足等で在庫不足に。新規仕入先の開拓で対応 仕入先の分散と在庫・発注管理
新規出店について 物件確保の遅れ、計画未達時の投資回収長期化・減損 出店の投資判断基準と店舗別損益管理
人材の確保と育成 採用難によるサービス力低下・人件費上昇 採用計画と教育体制
消費者の嗜好の変化 燃料価格の高騰やEVの普及で嗜好が変化 商品戦略と事業計画の見直し
特定人物への依存 創業者である代表取締役社長への依存 権限委譲と組織的な意思決定
個人情報 顧客の個人情報の漏洩 個人情報管理の規程と運用
法的規則等 古物営業法の許可、道路運送車両法の認証・指定など 許認可の一覧管理と更新手続
自然災害等 東海地方の大雪・台風・南海トラフ地震 事業継続の備え
有利子負債への依存 出店資金の借入と金利上昇の影響 資金繰り計画と財務制限条項の管理
税制改正について 軽自動車の自動車税率引上げによる購買意欲の低下 事業計画の感応度の把握
特定の地域への高い依存度 愛知県を中心とした出店集中 地域別の業績モニタリング
J-Adviserとの契約について 契約解除かつ後任を確保できない場合は上場廃止 J-Adviserとの継続的な情報共有

なかでも、法的規則等の項目に挙げられた古物営業法の許可や道路運送車両法の認証・指定は、店舗を増やすたびに手続が発生する許認可です。許認可の管理は一般市場の審査でもよく確認される論点で、IPOで許認可はどこまで見られるかで詳しく解説しています。また、特定人物への依存や有利子負債への依存は、J-Adviserが上場適格性を確認する際にも、組織的な経営体制や上場後12か月の資金繰りという形で説明が求められやすいテーマです。

ディープラスの事例から上場準備会社が学べること

ディープラスの事例から学べること①勧誘の有無で公表書類が変わる②決算期変更と監査対象期を計画する③株式分割・単元株を上場前に整える④薄い資本と財務制限条項を管理⑤少人数でも自己監査を避ける⑥J-Adviser契約は上場維持の前提

図18 本記事で取り上げた論点の整理

①勧誘の有無で公表書類が変わる。TPMでは、上場時に特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行うかどうかで、公表する書類が「特定証券情報」か「発行者情報に相当する情報」かに分かれます。資金調達をするかどうかは、書類の準備にも直結します。

②決算期変更と監査対象期を計画する。ディープラスは決算期を6月から11月に変更し、5か月の変則決算を経て、第13期を監査対象期としました。TPMの監査期間は最近1年間ですが、どの期を監査対象にするかは、決算期・J-Adviser契約・申請時期とセットで逆算する必要があります。

③株式分割・単元株を上場前に整える。発行済株式200株の状態から1株を5,000株に分割し、100株単元を導入しています。株主が少ない会社でも、上場時の売買単位を整える手続は欠かせません。

④薄い資本と財務制限条項を管理する。自己資本比率2.9%、借入依存の出店という財務構造では、財務制限条項やJ-Adviser契約の解除事由(債務超過)を月次で意識した業績管理が重要です。

⑤少人数でも自己監査を避ける。内部監査を2名で回し、管理部の業務は営業部の担当者が監査する形は、専任部署を置けない会社の参考になります。

⑥J-Adviser契約は上場維持の前提。契約の解除条項を把握し、J-Adviserとの日常的なコミュニケーションを上場後の管理体制の一部として位置付けることが大切です。

TPM上場を検討する会社のチェックリスト

  • 上場時に特定投資家向けの勧誘(資金調達・売出し)を行うかを決め、公表書類(特定証券情報か発行者情報に相当する情報か)を確認した
  • 監査対象となる「最近1年間」の事業年度と、決算期・申請時期の関係を逆算した
  • 上場予定日から12か月間の運転資金を、自己資金・借入枠で説明できる
  • 株式分割・単元株制度など、上場時の株式の準備を済ませた
  • 内部監査で自己監査を避ける担当の割当てと、社長への報告ルートを決めた
  • J-Adviser契約の解除条項と、財務制限条項などの財務上の制約を一覧で把握した

よくある質問

Q1. TPMには上場審査がないのですか?

形式基準(数値基準)がないだけで、上場審査に当たるプロセスはあります。担当J-Adviserが上場適格性要件(5項目)への適合性を調査・確認して宣誓書を提出し、東証も意向表明後に面談を行います。ディープラスの場合も、2025年2月のJ-Adviser契約から2026年4月の上場申請まで1年以上の期間があります。

Q2. 公募をしないTPM上場では、どんな書類を公表するのですか?

ディープラスは、上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表しています。表紙の書類名は「発行者情報」です。勧誘を行う場合は特定証券情報の公表が必要になります。

Q3. TPM上場では監査は何期分必要ですか?

上場前の監査期間は「最近1年間」です。ディープラスは第13期(2024年12月〜2025年11月)について監査法人コスモスの監査を受け、第11期・第12期は監査を受けていないと注記しています。ただし監査そのものは必要で、上場後は中間の財務諸表にも中間監査またはレビューの意見・結論が求められます。

Q4. TPMに上場すれば、そのままグロース市場に移れますか?

TPMから一般市場への移行は市場区分の変更ではなく、TPMを上場廃止したうえで一般市場に新規上場する手続です。一般市場の形式基準や審査、直前2期の監査などを改めて満たす必要があります。なお、ディープラスの発行者情報には一般市場への上場についての記載はありません。

最初の一歩は「どの期を監査対象にするか」を決めること

TPM上場を検討し始めたら、まずJ-Adviserの候補と相談しながら、どの事業年度を監査対象の「最近1年間」にするのか、その期の監査を引き受けてくれる監査法人を確保できるのか、を決めるところから始めるのが現実的です。ディープラスのように決算期の変更を挟む場合は、変則決算の期間と監査対象期の関係を早い段階で整理しておくと、上場申請までの日程が組みやすくなります。準備の進め方はショートレビューとはも参考にしてください。

まとめ

ディープラスは、個人向け新車カーリースを主力に、整備・鈑金・買取までを自社で回す循環型モデルを持つ会社で、2026年5月13日にTOKYO PRO Marketへ上場しました。上場に際して特定投資家向けの勧誘は行わず、発行者情報に相当する情報を公表して上場しており、株主は代表取締役社長と資産管理会社の2名のままです。

発行者情報からは、直近1期(第13期)の監査、決算期変更による5か月の変則決算、1株を5,000株とする株式分割と単元株制度の導入、自己資本比率2.9%と借入による出店資金の調達、財務制限条項、2名の内部監査担当による相互牽制、そしてJ-Adviser契約の解除条項の詳細な開示といった、TPM上場ならではの実務の姿が読み取れます。これからTPM上場を検討する会社は、「どの書類で、どの期を監査対象に、どの体制で上場を維持するか」を早い段階で具体化しておくことをおすすめします。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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