取締役会の運営を上場水準にする|付議基準と1週間前の招集通知

取締役会は開いている。議事録もある。それでも上場準備で指摘を受ける会社があります。理由はたいてい2つで、決めるべきことが取締役会に上がっていないか、招集の手続が条文どおりに踏まれていないかのどちらかです。

この記事では、付議基準の作り方と、招集から開催までの日程を条文に沿って整理します。会社法362条4項の列挙が付議基準の出発点で、363条2項が開催頻度の下限を決め、368条1項が招集通知の期限を定めています。

この記事でわかること

  • 取締役会に必ず上げなければならない事項(会社法362条4項の7号)
  • 少なくとも3か月に1回は開催することになる理由(363条2項と372条2項)
  • 招集通知の1週間前を定款でどこまで短縮できるか
  • 書面決議を使うために定款に何を書いておく必要があるか

付議基準の出発点は会社法362条4項

会社法362条2項は、取締役会の職務を、業務執行の決定、取締役の職務の執行の監督、代表取締役の選定および解職の3つと定めています。このうち業務執行の決定は範囲が広いため、どこまでを取締役に委ねてよいかが問題になります。

その線引きが同条4項です。次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定は取締役に委任することができない、として7つの号を挙げています。重要な財産の処分および譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任および解任、支店その他の重要な組織の設置と変更と廃止、募集社債に関する重要な事項、内部統制システムの整備、そして426条1項の定款の定めに基づく責任の免除です。

条文は重要とか多額とかの言葉しか置いていません。金額や規模の線を引くのは会社の仕事です。そこで実務では、資産規模や売上規模を勘案して取締役会規程や付議基準として社内の基準を定めます。上場準備では、この基準が文書化されていて、実際にその基準どおりに議案が上がっているかが見られます。基準だけあって運用が伴っていない状態が、いちばん指摘を受けます。

なお同条5項により、大会社である取締役会設置会社は、4項6号の内部統制システムの整備について決定しなければなりません。決定すべき体制の内容は会社法施行規則100条が定めています。

少なくとも3か月に1回は開くことになる

開催頻度について、会社法は何回開けとは書いていません。ただし363条2項が、代表取締役と、取締役会の決議によって業務を執行する取締役として選定された取締役は、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないと定めています。

ここで効いてくるのが372条です。同条1項は、取締役や監査役などが取締役および監査役の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、改めて取締役会へ報告することを要しないとしています。ところが同条2項が、この省略は363条2項の報告には適用しないと明記しています。

つまり、3か月に1回以上の職務執行状況の報告だけは書面で済ませることができません。結果として、取締役会設置会社は少なくとも3か月に1回は取締役会を実際に開くことになります。上場準備では月1回の定例化が通例ですが、条文上の下限がここにあることは押さえておいてください。

招集通知は1週間前。定款で短縮できるが下限の定めはない

会社法366条1項は、取締役会は各取締役が招集するとしたうえで、招集する取締役を定款または取締役会で定めたときはその取締役が招集すると定めています。多くの会社は代表取締役を招集権者にしています。

招集通知の期限は368条1項です。取締役会の日の1週間前までに、各取締役に対して通知を発しなければなりません。監査役設置会社では各監査役にも発します。かっこ書きで、これを下回る期間を定款で定めた場合にはその期間、とされています。

注意したいのは、条文上の下限が置かれていないことです。3日前まで短縮している会社が実務では多いのですが、それは条文が3日を認めているからではなく、定款でその期間を定めているからです。自社の定款に短縮の定めがないのに3日前で運用していれば、それは手続の瑕疵になります。定款を先に確認してください。

同条2項は、取締役および監査役の全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく開催できるとしています。急を要する場面の逃げ道ですが、常用する運用は上場準備では改めることになります。

取締役会の招集から開催までの3つの型原則取締役会の日の1週間前までに各取締役と各監査役へ通知(368条1項本文)短縮定款で1週間を下回る期間を定めた場合はその期間(条文上の下限はない)省略取締役と監査役の全員の同意があるとき(368条2項)。常用はしない

短縮するには定款の定めが要ります。運用だけを短くしても手続の瑕疵になります

書面決議を使うには定款の定めが要る

会社法370条は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をし、議決に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるとしています。

ここには条件が2つあります。ひとつは、定款にその旨の定めがあることです。定款に書いていない会社は、そもそも書面決議を使えません。もうひとつは、監査役設置会社では、監査役が当該提案について異議を述べたときは成立しないことです。かっこ書きに置かれているため見落とされがちですが、監査役に事前に回付する運用がなければ、この要件を満たしているかどうかを会社が確認できません。

書面決議で決めた事項も議事録に残します。会社法施行規則101条4項1号が、決議があったものとみなされた事項の内容、提案をした取締役の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載すべき事項として定めています。

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決議要件と特別利害関係

会社法369条1項は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって決議すると定めています。定款でこれを上回る割合を定めることもできます。同条2項は、決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないとしています。

役員退職慰労金の個別支給や、取締役が相手方となる取引の承認では、この2項が働きます。特別利害関係のある取締役を除いた人数で定足数と過半数を数え直すことになりますので、議事録にも当該取締役の氏名を記載します(施行規則101条3項5号)。

場面 根拠 実務での要点
開催の下限 363条2項・372条2項 職務執行状況の報告は省略できず、3か月に1回以上の開催になる
招集の短縮 368条1項かっこ書き 定款に定めがあればその期間まで。定めがなければ1週間前
書面決議 370条 定款の定めが必要。監査役の異議があれば成立しない

特別取締役という選択肢

会社法373条は、一定の要件を満たす取締役会設置会社について、あらかじめ選定した3人以上の取締役だけで、重要な財産の処分および譲受けと多額の借財を決議できる旨を定めることができるとしています。取締役の人数が多く、機動的な意思決定が必要な会社の制度です。

上場準備の段階でこれを使う会社は多くありませんが、取締役の員数が増えたときの選択肢として頭の隅に置いておくとよいでしょう。使う場合は登記事項になりますので、定款変更と登記をセットで考えます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 取締役会は毎月開かなければならないのですか。

A. 会社法は開催回数を直接定めていません。ただし363条2項の職務執行状況の報告は372条2項により省略できませんので、少なくとも3か月に1回は実際に開くことになります。上場準備では月1回の定例化が通例です。

Q. 招集通知を3日前にしたいのですが、定款を変えずにできますか。

A. できません。368条1項は1週間前を原則とし、これを下回る期間は定款で定めた場合に限るとしています。定款変更は株主総会の特別決議ですので、日程に織り込んで進めてください。

Q. 書面決議は監査役の同意も要るのですか。

A. 同意までは要りませんが、監査役設置会社では監査役が異議を述べたときは成立しません(370条かっこ書き)。実務では提案書を監査役にも回付し、異議がない旨を確認したうえで議事録を作成します。

📄 まとめ

取締役会の運営を上場水準にするとは、会社法362条4項の列挙を出発点に自社の付議基準を文書化し、そのとおりに議案を上げる状態を作ることです。あわせて、363条2項と372条2項から導かれる3か月に1回以上という開催の下限を満たします。

手続の面では、368条1項の1週間前を守るか、短縮するなら定款に定めを置くかのどちらかです。運用だけを短くしても手続の瑕疵になります。書面決議を使うのであれば、定款の定めと監査役への回付をセットで整えてください。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 会社法362条2項・4項・5項(取締役会の職務と、取締役に委任できない事項)
  • 会社法施行規則100条(内部統制システムとして決定すべき体制)
  • 会社法363条2項および372条1項・2項(3か月に1回以上の報告と、その省略の否定)
  • 会社法366条1項から3項、368条1項・2項(招集権者と招集通知の期限)
  • 会社法369条1項から3項・5項、370条(決議要件、特別利害関係、書面決議)
  • 会社法施行規則101条3項・4項(取締役会議事録の記載事項)
  • 会社法373条1項(特別取締役による取締役会)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。

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