上場準備を始めると、定款は必ず一度は全面的に見直すことになります。どこを直すのかと聞かれて、譲渡制限を外すことだけを思い浮かべる方が多いのですが、実際にはそこから連鎖して決まる項目のほうが多くあります。
会社法2条5号は、公開会社を、発行する全部または一部の株式について譲渡制限の定めを設けていない株式会社と定義しています。つまり、譲渡制限を外すという1つの変更が、そのまま公開会社への移行を意味します。
この記事では、上場準備で直す定款を4つのかたまりに分けたうえで、公開会社になると何が連鎖して決まるのか、附則に何を書くのか、決議の種類はどうなるのかを条文にそって整理します。
- 上場準備で直す定款が4つのかたまりに分かれること
- 譲渡制限を外すと自動的に公開会社になる仕組み
- 公開会社になると連鎖して決まる4つのこと
- 附則に書く効力発生日と条件の考え方
- 定款変更の決議が特別決議になる場面と特殊決議になる場面
この記事の見出し
📌 直す定款は4つのかたまりに分かれる
上場準備の定款変更は、項目を1つずつ拾っていくと数が多く見えます。ただ、目的で分けると4つのかたまりに整理できます。順番にも意味があり、上から順に決めていくと後戻りが減ります。
| かたまり | 内容 |
|---|---|
| 株式の内容 | 譲渡制限の廃止、種類株式の整理、単元株式数の設定、発行可能株式総数 |
| 機関設計 | 取締役会、監査役会または監査等委員会、会計監査人の設置 |
| 運営のルール | 役員の任期、公告方法、株主名簿管理人、基準日 |
| 附則 | 効力発生日、効力が生じるための条件、経過的な定め |
このうち最初のかたまりが動くと、あとの3つが連鎖して動きます。理由は次の項で説明します。
📌 譲渡制限を外すことが、そのまま公開会社への移行になる
会社法107条1項1号は、株式会社がその発行する全部の株式の内容として、譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定めることができるとしています。非上場のオーナー企業では、ほぼ例外なくこの定めが置かれています。
一方、会社法2条5号は公開会社を、発行する全部または一部の株式の内容として譲渡制限の定めを設けていない株式会社と定義しています。裏返せば、1種類でも譲渡制限のない株式があれば公開会社です。
上場するには市場で自由に売買できる必要がありますから、譲渡制限は残せません。したがって、譲渡制限の廃止イコール公開会社への移行、という関係になります。ここを別々の論点と考えていると、あとの連鎖を読み違えます。
譲渡制限の廃止は単独では終わりません。公開会社になった瞬間に、機関設計と発行可能株式総数の制限が連鎖します。
📌 公開会社になると連鎖して決まる4つのこと
1つ目は取締役会です。会社法327条1項1号は、公開会社は取締役会を置かなければならないと定めています。取締役会を置けば取締役は3人以上必要になります。
2つ目は監査役です。同条2項は、取締役会設置会社は監査役を置かなければならないとしています。ただし書きで公開会社でない会計参与設置会社が除かれていますが、公開会社になった以上この例外は使えません。監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社を選ぶ場合は、同条4項により監査役を置いてはならないことになります。
3つ目は大会社になったときの上乗せです。会社法328条1項は、大会社で公開会社であるものは監査役会および会計監査人を置かなければならないと定めています。大会社は2条6号で、資本金5億円以上または負債200億円以上と定義されています。上場準備の途中で資本金が5億円を超える増資をすると、ここに一気に入ります。
4つ目が発行可能株式総数です。会社法113条3項は、公開会社が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合と、公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合について、変更後の発行可能株式総数は変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることができないと定めています。譲渡制限を外す定款変更そのものが、この制限の引き金になります。
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📌 附則には効力発生日と条件を書く
上場準備の定款変更でつまずきやすいのが附則です。譲渡制限の廃止や単元株式数の設定は、上場の日に効力を生じさせたい一方で、株主総会は上場よりかなり前に開くことになります。この時間差を吸収するのが附則です。
実務では、効力発生日を上場日とする定めや、株式会社東京証券取引所が上場を承認した日など、外部の事実を条件にする定めを置きます。あわせて、その附則自体を効力発生後に削除する旨も書いておきます。書かないと、登記された定款に不要な附則が残り続けます。
条件の書き方は登記の可否に直結します。法務局の取扱いを事前に確認したうえで、主幹事証券会社および司法書士と文言をそろえてください。
📌 決議の種類は、外すときと設けるときで違う
定款の変更は、会社法466条により株主総会の決議によります。決議要件は309条2項11号の特別決議で、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
ここで注意したいのが、309条3項1号です。同号は、その発行する全部の株式の内容として譲渡制限を設ける定款変更について、株主の半数以上であって株主の議決権の3分の2以上という、いわゆる特殊決議を求めています。頭数の要件が加わる重い決議です。
条文が対象にしているのは設けるときだけで、廃止するときは含まれていません。したがって、上場準備で譲渡制限を外す場面は特別決議で足ります。逆に、いったん外したものを戻す場面では特殊決議になります。この非対称は覚えておく価値があります。
| 場面 | 決議 | 条文 |
|---|---|---|
| 譲渡制限を廃止する | 特別決議 | 466条・309条2項11号 |
| 譲渡制限を設ける | 特殊決議 | 309条3項1号 |
| 単元株式数を増やす | 特別決議(株式分割と同時なら特則あり) | 466条・191条 |
| 単元株式数を減らす・廃止する | 取締役会決議 | 195条1項 |
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❓ よくある質問
A. 決まりはありません。実務では、機関設計の移行を先に済ませ、譲渡制限の廃止と単元株式数の設定を上場直前の株主総会でまとめて決議する組み方が多く見られます。ただし、譲渡制限の廃止は公開会社への移行を意味し、取締役会や監査役の設置義務が同時に生じますので、機関設計が整っていない段階では外せません。
A. 株券を発行している会社では、株券の取扱いも同時に整理することになります。上場する会社は振替制度の対象になりますので、株券を発行しない会社にする定款変更が別途必要です。手続の期限が定められている行為ですので、日程は司法書士と詰めてください。
A. 会社法113条3項は、定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数を基準にすると定めています。将来の増資を織り込んだ数ではありません。上場に向けて株式分割を予定している場合は、分割後の発行済株式を前提に枠を設計することになります。
A. 会社法2条6号は、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金または負債の額で判定するとしています。期中に資本金が5億円を超えても、その事業年度中はただちに大会社にはなりません。次の定時株主総会の時点で機関設計を整える必要が出てきます。
A. 実務では用いられている書き方ですが、登記の可否は文言と法務局の取扱いによります。上場が実現しなかった場合にどうなるかまで含めて、条件の立て方を司法書士と確認してください。この記事では一般的な考え方を示すにとどめます。
📄 まとめ
上場準備の定款変更は、株式の内容、機関設計、運営のルール、附則の4つに分かれます。最初のかたまりが動くと、あとの3つが連鎖します。
譲渡制限を全部外すことは、そのまま公開会社への移行を意味します。会社法2条5号の定義がそうなっているためです。
公開会社になると、取締役会の設置義務、監査役の設置義務、大会社なら監査役会と会計監査人の設置義務、発行可能株式総数の4倍の制限が同時にかかります。
決議は、譲渡制限を廃止するときは特別決議、設けるときは特殊決議です。条文が対象にしているのは設けるときだけという非対称に注意してください。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法2条5号(公開会社の定義)、同2条6号(大会社の定義)
- 会社法107条1項1号
- 会社法327条1項1号・2項・4項、同331条5項(取締役会設置会社の取締役は3人以上)、同331条5項(取締役会設置会社の取締役は3人以上)
- 会社法328条1項
- 会社法113条3項
- 会社法466条・309条2項11号(定款変更は株主総会の特別決議)、同309条3項1号(譲渡制限を設ける定款変更は特殊決議)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。