上場するには株式の譲渡制限を外さなければなりません。これ自体は誰もが知っている話ですが、いつ外すのかと聞かれると答えが分かれます。早すぎても遅すぎても支障が出るためです。
外した瞬間に、その会社は会社法2条5号の公開会社になります。公開会社には取締役会と監査役の設置義務がかかりますので、機関設計が整っていない段階では外せません。
この記事では、譲渡制限をいつ外すのかを申請期から逆算して整理します。あわせて、先に済ませておく株券不発行への変更と、上場日に効力を合わせるための附則の組み方を見ていきます。
- 譲渡制限の廃止が上場の形式要件であること
- 外す前に機関設計を整えておかなければならない理由
- 株券発行会社が先に済ませる手続と2週間という期間
- 株主総会から登記までの逆算のしかた
- 上場日に効力を合わせる附則の考え方
この記事の見出し
📌 譲渡制限の廃止は上場の形式要件
有価証券上場規程は、新規上場の形式要件として、株式の譲渡につき制限を行っていないことを求めています。単元株式数や株式事務代行機関の設置とならぶ、株式まわりの形式要件のひとつです。
形式要件ですから、審査で議論して認めてもらう性質のものではありません。満たしていなければ申請そのものが受け付けられません。したがって、いつ外すかという問いは、いつまでに外し終えるかという問いに置き換わります。
📌 外した瞬間に公開会社になるので、順番が決まる
会社法2条5号は、公開会社を、発行する全部または一部の株式の内容として譲渡制限の定めを設けていない株式会社と定義しています。譲渡制限を外すことと公開会社になることは同じ出来事です。
公開会社になると、会社法327条1項1号により取締役会が必置になり、同条2項により監査役も必置になります。監査等委員会設置会社を選ぶ場合は、同条4項により監査役を置いてはならないことになりますので、こちらも先に決めておく必要があります。
つまり、機関設計の移行が先、譲渡制限の廃止が後です。この順番を逆にすると、公開会社でありながら法定の機関を欠く状態が生じます。実務では、機関設計の移行を直前々期から直前期にかけて済ませ、譲渡制限の廃止は申請直前の株主総会に置く組み方が多く見られます。
機関設計の移行が先に来ます。譲渡制限の廃止だけを単独で前倒しすることはできません。
📌 株券発行会社は、先に株券をなくす
上場する株式は振替制度で扱われますので、株券を発行する旨の定款の定めは残せません。ここでも順番があります。
会社法218条1項は、株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款変更をしようとするときは、効力が生ずる日の2週間前までに、廃止する旨、効力発生日、その日に株券が無効となる旨を公告し、あわせて株主および登録株式質権者に各別に通知しなければならないと定めています。
2週間という期間が要りますので、株主総会で決議してすぐ効力を生じさせることはできません。公告の手配も含めると、実際にはもう少し余裕を見ることになります。なお同条2項により、株券は効力発生日に無効になります。
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📌 逆算の起点は申請日ではなく上場日
形式要件は申請の時点で満たしている必要がありますが、実務では譲渡制限の廃止の効力を上場日に合わせる組み方も用いられます。上場が実現しなかったときに、譲渡制限のない状態だけが残ることを避けるためです。
この場合、株主総会では定款変更を決議しつつ、附則で効力発生日を上場の日とし、あわせてその附則を効力発生後に削除する旨を定めます。条件の立て方によって登記の可否が変わりますので、法務局の取扱いを事前に確認したうえで、主幹事証券会社および司法書士と文言をそろえてください。
登記は会社法915条1項により、本店の所在地において2週間以内に行います。効力発生日を上場日に置いた場合、登記の起算点も上場日になります。
📌 種類株式が残っていると外し切れない
投資契約で発行した優先株式などの種類株式が残っていると、そこにも譲渡制限が付いているのが通常です。全部の株式について譲渡制限を外すには、種類株式そのものを整理しておく必要があります。
整理の手段は、取得条項に従って会社が取得して普通株式を交付する方法、株主との合意で普通株式に転換する方法などがあり、どれを使えるかは発行時の定款の定めで決まります。会社法322条により種類株主総会の決議が必要になる場面もあります。
ここは投資契約の条項と定款の定めが一致していないと動けません。譲渡制限の廃止から逆算するのではなく、種類株式の整理から逆算するくらいの余裕を見てください。
| 手続 | 決議など | 期間の定め |
|---|---|---|
| 機関設計の移行 | 株主総会の特別決議 | 定めなし |
| 株券不発行への変更 | 株主総会の特別決議 | 効力発生日の2週間前までに公告と通知 |
| 譲渡制限の廃止 | 株主総会の特別決議 | 定めなし |
| 変更の登記 | 取締役の決定など | 効力発生から2週間以内 |
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❓ よくある質問
A. 残せません。会社法2条5号は、発行する全部または一部の株式について譲渡制限の定めを設けていない会社を公開会社としていますので、1種類でも制限のない株式があれば公開会社にはなります。ただし上場の形式要件は、上場する株式について制限がないことを求めます。実務では全部の株式について外すことになります。
A. おすすめできません。会社法327条1項1号は公開会社に取締役会の設置を義務づけていますので、外した時点で義務が生じます。設置していない状態が生じると、登記も含めて整合が取れなくなります。機関設計を先に整えてください。
A. 株券を発行する旨の定款の定めがある会社は、株券を現実に交付していなくても株券発行会社です。ただし会社法218条3項は、株式の全部について株券を発行していない場合の特則を定めています。自社がどちらに当たるかは、定款の定めと株券の交付の実態を確認したうえで判断してください。
A. 制度としては可能ですが、決議が重くなります。会社法309条3項1号は、全部の株式の内容として譲渡制限を設ける定款変更について、株主の半数以上であって議決権の3分の2以上という特殊決議を求めています。外すときの特別決議とは要件が違います。
A. 附則の書き方によります。効力発生日を上場日としている場合、上場がなければ効力は生じないことになりますが、そのままにしておくと定款に宙に浮いた附則が残ります。延期が決まった時点で、附則の扱いを司法書士と確認してください。
📄 まとめ
譲渡制限の廃止は上場の形式要件です。審査で議論する性質のものではなく、いつまでに外し終えるかという日程の問題になります。
外した瞬間に公開会社になり、取締役会と監査役の設置義務が生じます。機関設計の移行が先、譲渡制限の廃止が後という順番は動かせません。
株券発行会社は、株券を発行する旨の定款の定めを先に廃止します。効力発生日の2週間前までの公告と各別の通知が必要です。
種類株式が残っていると全部の株式について外し切れません。逆算の起点は、譲渡制限ではなく種類株式の整理に置いてください。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法2条5号(公開会社の定義)、同107条1項1号(全部の株式の内容としての譲渡制限)
- 会社法327条1項1号・2項・4項(公開会社は取締役会必置、取締役会設置会社は監査役必置)
- 会社法218条1項・2項
- 会社法466条・309条2項11号(定款変更は特別決議)、同309条3項1号(譲渡制限を設ける定款変更は特殊決議)
- 会社法915条1項(変更の登記は本店の所在地において2週間以内)、同322条(種類株主総会)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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