建物の改修費を修繕費で落としたところ、調査で「これは資本的支出です」と言われる。金額が大きいので一気に所得が増える。この指摘は、法人税の調査でくり返し出てくる論点です。
ただ、この論点は反論の順序が決まっています。条文が資本的支出としている部分はごく狭く、通達が用意している逃げ道には適用の優先順位があります。順序を踏まずに「維持のための工事です」と言い張っても、話は前に進みません。この記事では、施行令と通達の原文にもとづいて、反論を三つのステップに分けて整理します。指摘の全体像は税務調査で指摘される項目 別冊に、区分の基準そのものは修繕費と資本的支出はどちらか|20万円・60万円・10パーセントを使う順番にまとめています。
この記事の見出し
🧭 条文が資本的支出としているのは、二つの部分だけです
出発点は法人税法施行令第132条です。ここを読まずに通達だけを見ると、判断の軸を見失います。
内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
二 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額(法人税法施行令第132条)
条文が損金不算入としているのは、第1号の使用可能期間を延長させる部分と、第2号の価額を増加させる部分の二つだけです。しかも、どちらも「部分に対応する金額」と書かれています。工事全体を資本的支出と決めつける書き方にはなっていません。そして、両方に該当する場合はいずれか多い金額とされているので、二つを足し合わせるものでもありません。
ここから、反論の第一歩が出てきます。工事の中身を分けずに全額を資本的支出とした指摘であれば、まず「どの部分が使用可能期間を延長させ、どの部分が価額を増加させたのか」を尋ねることになります。
図1 施行令第132条の構造。工事全体ではなく、延長または増加に対応する部分だけが損金不算入になります。
📌 ステップ1 支出を一の修理、改良等の単位に分けます
次に通達を見ます。法人税基本通達7-8-1は資本的支出の例示で、(1)建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額、(2)用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額、(3)機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額を挙げています。注では、建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たるとしています。
これに対して7-8-2は修繕費に含まれる費用の例示で、建物の移えい又は解体移築に要した費用、地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するための地盛りに要した費用などを挙げています。いずれも原状の回復や通常の維持管理に当たるものです。
| 通達 | 挙げている例 |
|---|---|
| 7-8-1 資本的支出の例示 | 物理的に付加した部分の費用、用途変更のための改造や改装に直接要した費用、部分品を特に品質または性能の高いものに取り替えた場合の通常の取替費用を超える部分。注で、増築や拡張、延長は資産の取得に当たるとしている |
| 7-8-2 修繕費に含まれる費用 | 建物の移えいまたは解体移築に要した費用(解体移築は旧資材の70パーセント以上が再使用でき、従前と同一の規模および構造の建物を再建築するものに限る)、地盤沈下した土地の地盛り、現に使用している土地の砂利や砕石の敷設など |
ここで大事なのが判定の単位です。7-8-3は「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等」を「一の修理、改良等」と呼び、その注で、本文の「同一の固定資産」は、一の設備が2以上の資産によって構成されている場合には当該一の設備を構成する個々の資産とし、送配管、送配電線、伝導装置等のように一定規模でなければその機能を発揮できないものについては、その最小規模として合理的に区分した区分ごととするとしています。
つまり、一つの請求書にまとまっているからといって、それが判定の単位になるとはかぎりません。逆に、別の日付の工事でも一の計画に基づくものなら一つとして見られます。見積書の内訳を工事の中身ごとに分けて示せるかどうかが、この段階の勝負です。
図2 反論の三つのステップ。順序を飛ばすと、使えたはずの取扱いを自分から手放すことになります。
📐 ステップ2 20万円未満か、3年以内の周期かを見ます
7-8-3は、一の修理、改良等が次のいずれかに該当する場合には、その費用の額については7-8-1にかかわらず修繕費として損金経理をすることができるとしています。第1号がその費用の額が20万円に満たない場合、第2号がその修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合です。
注目したいのは「7-8-1にかかわらず」という書き方です。7-8-1の例示に当たる工事であっても、20万円未満であれば修繕費として処理できるということです。金額の小さい工事について、資本的支出かどうかの実質判断をする必要がなくなります。
第1号のかっこ書きは、その一の修理、改良等が2以上の事業年度にわたって行われるときは各事業年度ごとに要した金額とするとしています。工期が期をまたぐ場合は、各期の金額で判定します。
第2号の「おおむね3年以内の期間を周期として」は、既往の実績その他の事情から明らかであることを求めています。これから3年ごとにやる予定という計画だけでは足りません。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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🧮 ステップ3 明らかでない金額に形式基準を当てます
7-8-4は、一の修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において、その金額が次のいずれかに該当するときは修繕費として損金経理をすることができるとしています。第1号がその金額が60万円に満たない場合、第2号がその金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10パーセント相当額以下である場合です。
さらに7-8-5は、明らかでない金額(7-8-3または7-8-4の適用を受けるものを除く)について、法人が継続してその金額の30パーセント相当額と、その修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10パーセント相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、これを認めるとしています。継続して適用していることが前提です。
| 比べるところ | 7-8-3 | 7-8-4 |
|---|---|---|
| 対象 | 一の修理、改良等のために要した費用の額そのもの | そのうち資本的支出か修繕費か明らかでない金額 |
| 基準 | 20万円未満、またはおおむね3年以内の周期 | 60万円未満、または前期末における取得価額のおおむね10パーセント相当額以下 |
| 効果 | 7-8-1にかかわらず修繕費として損金経理できる | 修繕費として損金経理できる |
| 期をまたぐ工事 | 各事業年度ごとに要した金額で判定する | 同じ扱いによる |
数値で見ておきます。前期末における取得価額が4,000万円の建物について、外壁と屋上の改修に700万円を支出した場面です。
| 設例と計算 | 金額 |
|---|---|
| 前期末における建物の取得価額 | 4,000万円 |
| 改修に支出した金額 | 700万円 |
| うち資本的支出であることが明らかな部分 | 400万円 |
| うち資本的支出か修繕費か明らかでない金額 | 300万円 |
| 7-8-4の10パーセント相当額(4,000万円×10パーセント) | 400万円 |
| 300万円は400万円以下なので修繕費にできる | 300万円 |
明らかでない金額が300万円であれば、60万円は超えていますが、10パーセント相当額の400万円以下ですから、7-8-4の第2号により300万円を修繕費として損金経理できます。
一方、700万円の全額が明らかでない金額だとすると、700万円は400万円を超えるため7-8-4は使えません。そこで7-8-5を継続して適用している場合は、700万円の30パーセントである210万円と400万円のいずれか少ない金額、すなわち210万円を修繕費とし、残る490万円を資本的支出とすることになります。同じ700万円でも、内訳を示せるかどうかで修繕費になる金額が変わります。
タックスアンサーNo.5402(令和7年4月1日現在法令等)は、7-8-5の説明に続けて、20万円未満の場合やおおむね3年以内の周期であることが明らかな場合の費用、および60万円未満などの場合の支出額については、それぞれの取扱いが優先して適用されるとしています。
7-8-5を先に当てはめると、7-8-4なら全額が修繕費になったはずの明らかでない金額について、その70パーセントを自分から資本的支出にしてしまうことになります。順序を守ってください。
🔄 資本的支出とされても、損金が消えるわけではありません
反論が通らず資本的支出とされた場合でも、支出した金額がなくなるわけではありません。法人税法施行令第55条第1項は、施行令第132条により損金の額に算入されなかった金額がある場合には、その金額を取得価額として、その有する減価償却資産と種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとするとしています。
同条第2項は、その減価償却資産についてよるべき償却の方法として第48条第1項に規定する償却の方法を採用しているときは、第1項にかかわらず、支出した金額を既存の減価償却資産の取得価額に加算することができるとしています。
つまり動くのは損金になる時期です。当期の損金は減りますが、その後の事業年度の償却費として回収されていきます。調査の場で「全額を失う」という前提で焦らずに済みます。
図3 資本的支出とされたあと。失われるのは当期の損金であって、支出した金額そのものではありません。
⚖️ 反論材料と、そろえておく記録
国税不服審判所が公表している裁決事例要旨に、施行令第132条の当てはめを正面から扱ったものがあります。「市下水道工事による工場の操業能率低下に伴い取得した仮工場の取得価額のうち機能回復補償金相当額までの金額は修繕費等として損金算入することができるとした事例」(裁決事例集No.27・216頁、昭和59年3月22日裁決)です。要旨は、補償金が機械作業能率の著しい低下を復旧させるため一時的に取得する仮工場の建設費に主眼が置かれて支払われたものであるから、仮工場の取得価額のうち当該補償金の金額までの部分は実質的に機能復旧のための支出であって、施行令第132条に規定する資本的支出に当たらないとしています。
形の上では新しい資産を取得していても、実質が機能の復旧であれば資本的支出に当たらないと判断された例です。工事の目的を示す記録が効くのは、こうした場面です。
あわせて、7-8-6は災害により被害を受けた固定資産について、原状を回復するために支出した費用は修繕費に該当するとし、被災前の効用を維持するために行う補強工事等を修繕費とする経理を認め、明らかでないものについて30パーセント相当額を修繕費とする経理を認めています。7-8-6の2は、ソフトウエアのプログラムの修正等について、機能上の障害の除去や現状の効用の維持に該当するときは修繕費、新たな機能の追加や機能の向上に該当するときは資本的支出になるとしています。
| そろえておく記録 | それが示すこと |
|---|---|
| 工事の見積書と内訳明細 | 一の修理、改良等の単位と、部分ごとの金額 |
| 着工前と完成後の写真 | 物理的に付加した部分があるかどうか |
| 工事を決めた社内の記録 | 原状の回復が目的か、用途の変更が目的か |
| 過去の同種工事の履歴 | おおむね3年以内の周期に当たるかどうか |
| 固定資産台帳(前期末の取得価額) | 10パーセント相当額の計算根拠 |
| 過年度の処理の記録 | 7-8-5を使う場合に求められる継続適用 |
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
修繕費という勘定科目で処理していれば、修繕費として認められますか
認められません。タックスアンサーNo.5402(令和7年4月1日現在法令等)は、修繕費になるかどうかの判定は修繕費、改良費などの名目によって判断するのではなく、その実質によって判定するとしています。施行令第132条も「修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず」と書いています。勘定科目や請求書の但し書きではなく、工事の中身で決まります。
建物全体を大規模に改修しました。全額が資本的支出になりますか
施行令第132条が損金不算入としているのは、使用可能期間を延長させる部分と価額を増加させる部分に対応する金額です。金額の大きさそのものを基準にする定めではありません。したがって、工事の内訳を示し、原状の回復に当たる部分と、付加または改良に当たる部分を分けることが反論の中心になります。分けられない部分については、7-8-4と7-8-5の形式基準を当てることになります。
同じ工事を3年ごとにやっているので、7-8-3で修繕費にできますか
7-8-3の第2号は、おおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合としています。これから3年ごとに行う予定という計画だけでは、既往の実績には当たりません。前回と前々回の工事の日付と内容が分かる記録が残っていれば、この号を使う根拠になります。
10パーセントの基準は、いつの取得価額で計算しますか
7-8-4の第2号は「その修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額」としています。同通達の注2は、固定資産には当該固定資産についてした資本的支出が含まれるとしていますので、過去に資本的支出をしている場合はそれも含めた金額になります。固定資産台帳の前期末の残高ではなく取得価額で計算する点に注意してください。
資本的支出とされた場合、その分の消費税の仕入税額控除はどうなりますか
資本的支出と修繕費のどちらに区分されるかは、法人税の所得計算における損金算入の時期の問題です。この記事で確認したのは施行令第132条と第55条、法人税基本通達7-8-1から7-8-6の2までの内容であり、消費税の仕入税額控除については扱っていません。別に確認が必要です。
指摘を受け入れる場合、加算税はどうなりますか
国税通則法第65条第1項は、修正申告書の提出または更正があったときは、納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課するとしています。かっこ書きで、修正申告書の提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないときは100分の5としています。区分の判断を誤ったというだけであれば、同法第68条第1項が定める隠蔽または仮装の要件には触れません。
📄 まとめ
修繕費を資本的支出と指摘されたときの反論は、三つのステップに分かれます。ステップ1は、支出を一の修理、改良等の単位に分け、施行令第132条の二つの号と法人税基本通達7-8-1・7-8-2に当てはめること。ステップ2は、20万円未満かおおむね3年以内の周期かを見て7-8-3を使えないか確かめること。ステップ3は、資本的支出か修繕費か明らかでない金額について、60万円と前期末の取得価額の10パーセント相当額という7-8-4の基準を当てることです。
この順序には意味があります。7-8-3と7-8-4が使える支出には、それぞれの取扱いが優先して適用されるからです。7-8-5の30パーセントの経理を先に当てはめると、本来は全額が修繕費になったはずの金額を自分から資本的支出にしてしまいます。
そして、資本的支出とされても支出した金額が消えるわけではありません。施行令第55条により、以後の事業年度の償却費として損金になっていきます。反論を用意するうえでいちばん効くのは、工事の見積書の内訳と、着工前後の写真、そして工事の目的を示す社内の記録です。これは調査の連絡が来てからでは作れません。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第22条第3項
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索) 第55条第1項・第2項、第132条
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第65条第1項、第68条第1項
- 法人税基本通達 第7章第8節 資本的支出と修繕費(国税庁) 7-8-1から7-8-7まで
- タックスアンサー No.5402 修繕費とならないものの判定(国税庁) 令和7年4月1日現在法令等
- 公表裁決事例要旨 固定資産の取得価額(国税不服審判所) 昭和59年3月22日裁決ほか
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。