回収できない売掛金を落としたら、調査でその年度を否認された。この指摘は、貸倒れそのものを認めないという話と、落とす年度が違うという話の2つに分かれます。どちらを言われているのかを最初に切り分けないと、反論がかみ合いません。この記事では、法人税基本通達が定める3つの類型ごとに「いつ」が決まる仕組みを確認し、早すぎると言われたとき、遅すぎると言われたときに、それぞれ何を主張材料にできるのかを整理します。
この記事は、税務調査で指摘される項目を1本ずつ扱う別冊の一部です。全体像は税務調査で指摘される項目 別冊|26項目の指摘理由と反論の型をご覧ください。3類型そのものの要件は貸倒損失はいつ落とせるか|法律上・事実上・形式上の3区分で扱っています。
この記事の見出し
🧭 落とせるかと、いつ落とすかは別の問題です
貸倒損失の根拠は、法人税法第22条第3項第3号が損金の額に算入すべき金額として掲げる、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものです。条文は年度を当該事業年度と書いているだけで、どの年度が当該事業年度になるかは書いていません。そこを埋めているのが法人税基本通達9-6-1から9-6-3です。
3つの類型は、要件が違うだけでなく、年度の決まり方と損金経理の要否も違います。ここが調査で効いてきます。
年度がずれると何が起きるのかを先に押さえておきます。当期に落とした損失が前期のものだとされれば、当期の所得はその分だけ増えます。前期の申告をやり直せるなら差引きで戻りますが、やり直せる期限を過ぎていれば戻りません。つまり年度の争いは、金額の争いと同じだけの影響を持ちます。逆に、要件そのものが否定されれば、債権は貸借対照表に残ったままになり、放棄していた場合は寄附金の問題に移ります。
どの類型で処理したかで、年度の決まり方が変わります
| 類型 | いつの事業年度か | 経理処理の位置づけ |
|---|---|---|
| 9-6-1 切捨て | その事実の発生した日の属する事業年度 | その事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する、と定められている |
| 9-6-2 全額回収不能 | 全額が回収できないことが明らかになった事業年度 | その事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる、と定められている |
| 9-6-3 取引停止後1年等 | 事実が発生した場合に、法人が損金経理をしたとき | 売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を損金経理したときは、これを認める、と定められている |
9-6-1は、切捨てという外形的な事実が起きた年度が動かせません。更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定、債権者集会の協議決定などがその事実です。決定の日が分かる書類があるので、年度をずらす余地がほとんどありません。
9-6-2は、全額が回収できないことが明らかになった事業年度です。明らかになったのがいつかという評価が入るため、ここが調査で最も争われます。さらに、担保物があるときはその担保物を処分した後でなければ損金経理をすることはできないという条件が付いています。注記は、保証債務は現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないとしています。
9-6-3は、事実が発生し、かつ法人が損金経理をしたときに認める、という構造です。損金経理をしなければ、事実が発生しても損金になりません。逆に言えば、この類型は経理をした年度が起点になります。
つまり、年度の硬さは類型によって違います。9-6-1は事実の日付で決まるので動きません。9-6-2は評価が入るので幅がある代わりに、その幅がそのまま調査官との争点になります。9-6-3は経理が起点なので、事実が発生した年度に落とさなかったとしても、翌期以降に落とす余地が残ります。自社がどの類型に乗っているかを言えるようにしておくことが、最初の防御線です。
🚫 9-6-3は売掛債権にしか使えません
9-6-3の対象は、売掛債権に限られます。通達は次のように範囲を切っています。
その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(法人税基本通達9-6-3)
| 債権の種類 | 9-6-3を使えるか |
|---|---|
| 売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権 | 通達の対象に含まれる |
| 貸付金その他これに準ずる債権 | 含まないと明記されている |
| 担保物のある売掛債権 | (1)の取引停止後1年以上の場合は、担保物のある場合を除くとされている |
| たまたま取引を行った債務者への売掛債権 | 注記が、不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対する売掛債権にはこの取扱いの適用はないとしている |
(1)の1年の起点も間違えやすいところです。通達は、債務者との取引を停止した時とし、最後の弁済期又は最後の弁済の時がその停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時からとしています。最後に入金があった日を見落とすと、1年の計算がずれます。
注記はさらに、(1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうとしています。単に注文が来なくなった、こちらから取引をやめた、というだけでは条件を満たしません。
🔍 まず指摘の中身を切り分けます
調査官の言葉は、そのままでは何を否定されているのか分かりません。次の3つのどれなのかを確認してから答えてください。
| 指摘の言い方 | 実際に言われていること | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| まだ落とせる段階ではない | その年度には要件がそろっていない。類型そのものに該当しないという主張になることもある | 自社がどの類型で処理したのか。その類型の要件を全部書き出す |
| もっと前の年度の話だ | 損失の帰属年度が過去にある。当期の損金にはできないという主張 | 回収不能が明らかになった時期を示す資料の日付。前の年度の申告をやり直せる期限 |
| これは貸倒れではなく寄附金だ | 回収できる債権を放棄したという主張。年度ではなく性格の否定 | 放棄に相当な理由があったことを示す資料の有無 |
1つ目と2つ目は年度の話、3つ目は性格の話です。性格を否定されているのに年度の資料を出しても、話が進みません。
⏩ 早すぎると言われたとき
早すぎるという指摘の実質は、その年度には要件がそろっていなかった、つまりその年度の貸倒れではないという主張です。9-6-2の全額回収不能が固まっていなかった、担保物の処分が終わっていなかった、保証債務を履行していなかった、といった形で出てきます。
反論の順序は、まず自分が使った類型を特定し、その類型の要件を1つずつ事実で埋めることです。要件が複数あるものは、片方だけを示しても足りません。9-6-2なら、債務者の資産状況と支払能力を示す資料、担保物の有無と処分の状況の2つがそろって初めて議論になります。
指摘の向きが逆なので、反論材料も逆になります
国税不服審判所の公表裁決事例には、この場面の参考になるものがあります。平成28年2月8日裁決は、代表者に対する売掛金の放棄について、放棄が行われた事業年度末の前後における代表者の収入の状況と事業年度中の売掛金の回収の状況を考慮すると全額が回収不能とは認められないとし、あわせて、放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことから、書面により明らかにされた債務免除額はないとして、9-6-1の(4)に掲げる事実に該当しないと判断しています。
ここが実務で見落とされやすい点です。9-6-1の(4)は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を対象にしています。債務超過が相当期間継続していること、書面で明らかにしていること、この2つが両方必要です。口頭での免除や、社内の決議書だけでは足りません。
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⏪ 遅すぎると言われたとき
遅すぎるという指摘は、回収不能はもっと前の年度に確定していた、という主張です。損金の帰属年度が過去にあるとされると、当期の損金にはできません。
この指摘は、9-6-2で処理したときに出やすくなります。明らかになった事業年度という文言は、法人の判断した時期ではなく、事実として明らかになった時期を指しているためです。債務者が破産手続を終えていた、事業を完全に廃止していた、といった事実が前の年度にあれば、その年度が帰属年度になるという見方が立ちます。
平成15年2月19日裁決は、債務者が自己破産を申し立て、その手続が完結していたことなどから、債権は遅くとも平成元年3月期には回収不能になっていたと認められ、それを平成10年3月期の損金の額に算入することはできないとしています。前の年度に帰属するという認定は、このように外形的な事実から導かれます。
当期の損金にできないとしても、本来の年度で処理する道が残っているかを確認してください。国税通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者は、その申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、更正をすべき旨の請求をすることができるとしています。同項第2号の純損失等の金額に関するもののうち法人税に係る場合は10年以内です。
ただし、5年を超えた年度についてはこの請求ができません。遅すぎると認定された年度が5年より前であれば、その損失は税務上どこにも立たないまま終わることがあります。貸倒れは早く気づくほど選択肢が残ります。
🧾 年度を主張するための記録
年度の主張は、記録の日付で決まります。決算のときにまとめて作った書類は、その日付しか示せません。
| 類型 | 残しておく記録 | その記録で示せること |
|---|---|---|
| 9-6-1 | 決定書、協議決定の書面、債務免除の通知書と発送記録 | 切捨ての事実が発生した日と、書面で免除を明らかにした日 |
| 9-6-2 | 債務者の決算書、登記情報、督促の記録、担保物の処分に関する資料 | 全額回収不能が明らかになった時期と、担保物の処分が終わっていること |
| 9-6-3 | 取引履歴、最後の入金の記録、取引停止の経緯を記した社内資料 | 1年の起点と、資産状況の悪化により取引を停止したこと |
| 共通 | 回収活動の記録(訪問、電話、内容証明の控え) | 回収を試みた時期と、回収が見込めなくなった時期 |
とくに9-6-2は、明らかになった時期そのものが争点になります。時系列で並べた回収活動の記録があるかどうかで、主張できる幅が変わります。
もうひとつ、社内の決議だけで足りると考えないことです。9-6-1の(4)が求めているのは債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額なので、相手に届いたことが分かる形にしておく必要があります。内容証明や配達記録の控えは、日付と到達の両方を示せる資料になります。
⚠️ 否認の先にあるもの
貸倒損失が否認されると、単に損金が減るだけでは終わらないことがあります。債権を放棄していた場合、その放棄が寄附金の額に当たると認定される場面があります。
法人税法第37条第7項は、寄附金の額について、名義を問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合の金額によるものとしています。回収できる債権を放棄したのであれば、無償の供与に当たるという整理です。
否認の理由によって、次の選択肢が分かれます
子会社に対する支援の場合は、法人税基本通達9-4-1と9-4-2が別の出口を用意しています。9-4-1は、子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴う損失負担等について、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、寄附金の額に該当しないものとしています。9-4-2は、再建の場面について、合理的な再建計画に基づくものである等相当な理由があると認められるときは寄附金の額に該当しないとしています。
平成28年4月14日裁決は、子会社に対する売掛債権の放棄について、有効に放棄したものと認められるとしたうえで、子会社の清算に伴う損失負担を行う理由は認められないので経済的合理性があるとはいえず、債務超過が相当期間継続した事実もないことから、放棄に係る損失の額は寄附金の額に該当すると判断しています。相当な理由は、計画の内容と支援の必要性を示す資料で立てるほかありません。
なお9-4-2の注記は、合理的な再建計画かどうかについて、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について個々の事例に応じ総合的に判断するとしたうえで、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は原則として合理的なものと取り扱うとしています。自社だけで作った計画よりも、取引銀行など外部の関係者を含めて合意した計画のほうが、主張の足場が固くなります。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
貸倒引当金を積んでいれば、年度の問題は避けられますか
貸倒引当金は貸倒損失とは別の制度で、繰入れができる法人の範囲も定められています。引当金を積んだことが、貸倒損失を落とす年度の根拠になるわけではありません。昭和57年7月21日裁決は、債権償却特別勘定について、法人が確定した決算に基づいて自ら繰入額の計算をすべき性格のものであり、原処分庁が法人の行った貸倒処理に代えて積極的に繰入額を認定計算の上計上すべき性質のものではないとしています。
相手が行方不明になった場合はどの類型になりますか
行方不明という事実を直接掲げた号は、確認した範囲では見当たりませんでした。9-6-2の全額が回収できないことが明らかになった場合に当たるかどうかを、資産状況と支払能力を示す資料で組み立てるほかありません。取引停止から1年以上経過していて売掛債権であれば、9-6-3の(1)で処理する道もあります。
9-6-3の1年は、取引を停止した日から数えればよいですか
通達は、取引を停止した時としたうえで、最後の弁済期又は最後の弁済の時がその停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時からとしています。停止後に入金があれば、その入金の時が起点になります。
前の年度の損金だと言われたら、必ず更正の請求ができますか
国税通則法第23条第1項は、法定申告期限から5年以内に限るとしています。同項第2号の純損失等の金額に関するもののうち法人税に係る場合は10年以内です。指摘された年度がこの期限より前であれば、請求はできません。
重加算税になることはありますか
国税通則法第68条第1項は、事実の隠蔽または仮装があり、かつ、その隠蔽または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことを要件としています。年度の判断を誤っただけであれば、条文の文言上はこの要件を満たしません。ただし、日付をさかのぼらせた書面を作るなどの事情があれば、判断は変わり得ます。
📄 まとめ
貸倒損失の年度は、どの類型で処理したかによって決まり方が変わります。9-6-1は切捨ての事実が発生した日の属する事業年度、9-6-2は全額が回収できないことが明らかになった事業年度、9-6-3は事実が発生し損金経理をしたときです。早すぎるという指摘は要件がそろっていないという主張、遅すぎるという指摘は帰属年度が過去にあるという主張で、必要な反論材料が違います。前の年度で処理する道は国税通則法第23条第1項の5年という期限に縛られるため、気づいた時点で年度を固めておくことが、選択肢を残す唯一の方法になります。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索)第22条、第37条
- 国税通則法(e-Gov法令検索)第23条、第68条
- 国税庁 法人税基本通達 金銭債権の貸倒れ(9-6-1から9-6-3)
- 国税庁 法人税基本通達 寄附金の範囲等(9-4-1、9-4-2)
- 国税庁 タックスアンサー No.5320 貸倒損失として処理できる場合
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨 貸倒損失及び債権償却特別勘定
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。