※本記事は2026年11月3日時点の公表資料に基づきます。
M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(証券コード669A)は、2026年10月29日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年12月3日に東京証券取引所グロース市場へ上場する予定です。中堅・中小企業の事業承継などを支援するM&A仲介を単一の事業として営み、2021年11月の設立から約5年で上場承認に至りました。同日に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」には、成功報酬型のビジネスモデル、急速な人員拡大と業績の関係、5回にわたる新株予約権の設計など、上場準備の実務に役立つ記載が多く含まれています。
結論からいえば、このⅠの部から上場準備会社が学べるのは、①M&Aの成立時点で一括して収益を認識する成功報酬型モデルと、それに伴う期末集中・業績変動の開示、②信託型の第1回新株予約権(2024年10月31日に全部放棄)と並行して、役職員等を対象とする第2回〜第5回の新株予約権を段階的な行使条件つきで発行してきた資本政策、③独立した内部監査部門を置かず、取締役2名による相互監査で自己監査を避ける内部監査体制、の3点です。
本記事では、公認会計士の立場から、M&AロイヤルアドバイザリーのⅠの部に書かれている事実を項目ごとに整理し、そのうえで上場準備会社が自社の準備にどう生かせるかを一般論として解説します。数値や日付はすべてⅠの部の記載によるもので、持株比率などは上場申請時点(Ⅰの部の提出日現在)の数値です。上場時の公募・売出しを経た後の比率ではありません。Ⅰの部の位置づけについては、Ⅰの部とⅡの部は何が違うかもあわせてご覧ください。
この記事の見出し
M&Aロイヤルアドバイザリーはどんな会社で、いつどの市場に上場するのか
まず、会社と上場の概要を表で確認します。当社は2021年11月30日に、M&A仲介業務を事業目的として東京都千代田区で設立されました(設立時の資本金は30百万円)。決算期は10月末日で、第1期は2021年11月30日から2022年10月31日までの11ヶ月と1日です。Ⅰの部の提出日は2026年10月29日で、上場承認日と同じ日です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(英訳名 M&A Loyal Advisory Co., Ltd.) |
| 証券コード | 669A |
| 市場 | 東京証券取引所 グロース市場 |
| 上場承認日 | 2026年10月29日 |
| 上場予定日 | 2026年12月3日 |
| 設立 | 2021年11月30日(資本金30百万円) |
| 本店所在地 | 東京都千代田区丸の内一丁目 |
| 代表者 | 代表取締役社長 橋場 涼 |
| 決算期 | 10月31日(2025年10月期=第4期) |
| 事業 | M&A仲介事業(単一セグメント) |
| 関係会社 | なし(連結財務諸表は作成していない) |
| 従業員数 | 215名〔臨時23名〕(2026年9月30日現在) |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(取締役8名うち社外2名、監査役3名全員社外) |
| 会計監査人 | 監査法人A&Aパートナーズ(継続監査期間2年) |
2026年9月30日現在の従業員215名の内訳は、アドバイザー(M&Aコンサルタント)120名、ミドルオフィス(提携支援部・コーポレートアドバイザリー部)39名、バックオフィス(インサイドセールス部を含むその他の部署)56名です。平均年齢は31.6歳、平均勤続年数は1.9年、平均年間給与は13,478千円と記載されています。最近日までの1年間で従業員数は33名増え、平均臨時雇用者数は27名減っており、その理由は正社員を中心とした採用に取り組み、アルバイトの採用を抑制したことと説明されています。
親会社等はなく、関係会社もありません。株主は2026年9月30日現在25名(その他の法人6名、個人その他19名)で、金融機関、金融商品取引業者や外国法人等の株主はいません。第四部「株主の状況」に記載された法人株主は、創業者2名の資産管理会社4社と、そのほかの法人2社です。
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何で稼ぐ会社なのか:分業型のM&A仲介と成功報酬
Ⅰの部によると、当社はM&A関連サービス(仲介、アドバイザリーなど)を主たる事業としており、非上場企業のM&A案件を中心に、上場企業のカーブアウト案件や投資ファンドのEXIT案件まで支援しています。創業から2026年7月末までの成約実績のうち、売り手企業の売上高が5億円以上の案件の割合は51.3%と記載されています。
特徴として挙げられているのが、コンサルタントの生産性を重視した分業体制です。インサイドセールス部が組織的に売り手候補を探索し、提携支援部が案件を受託したコンサルタントの依頼を受けて幅広い買い手候補に打診します。基本合意後は、公認会計士等が在籍するコーポレートアドバイザリー部と提携先の外部会計・税務専門家が、デューデリジェンスや契約交渉で取り決めた条件の実行支援(エグゼキューション)を主導し、資料作成や見込み顧客との関係維持(ナーチャリング)は企画部が支援します。その結果、コンサルタントは売り手と買い手の合意形成に注力できる、という説明です。
図1 コンサルタントの周囲に専門部隊を置く分業体制(Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成)
報酬体系は「エクイティレーマン方式」です。Ⅰの部では、レーマン方式のうちエクイティレーマン方式は純資産額等に基づく譲渡対価に応じた割合を報酬とするもので、移動総資産額に基づく総資産レーマン方式に比べて調整の余地が少なく、同一の料率なら低廉な報酬となることが想定される、と説明されています。原則として譲渡企業は完全成功報酬で、買い手企業からは相手先の確定(マッチング)時に中間報酬、M&A成立時に成功報酬を受け取ります。
図2 Ⅰの部「事業の内容」の表を図にしたもの。エクイティレーマン方式は純資産額等に基づく譲渡対価に応じた割合を報酬とする方式
販売実績については、総販売実績の10%以上を占める相手先はないと記載されています。1件ごとの報酬が大きい一方で、特定の顧客への依存はない構造です。
KPIはどのように開示されているか
当社は経営上の目標の達成状況を判断する指標として売上高と営業利益率を重視し、これに影響する成約件数、成約平均単価、M&Aアドバイザー数を重要な指標として管理していると記載しています。Ⅰの部には、四半期ごとの成約件数、新規受託件数、受託残件数と、職種別の従業員数の推移が表で開示されています。
通期の成約件数は、2022年10月期2件、2023年10月期16件、2024年10月期42件、2025年10月期66件です。アドバイザーの期末人数は9名、27名、66名、104名と推移し、2026年10月期第3四半期末には115名となっています。受託残件数は2025年10月期第4四半期末に441件、2026年10月期第3四半期末に487件です。
図3 Ⅰの部「各種指標の推移」「従業員数の推移」から作成
成約単価(当該期間の売上高÷成約件数)は、2023年10月期と2024年10月期が79百万円、2025年10月期が61百万円で、2026年10月期は第3四半期累計で64百万円です。Ⅰの部は、手数料が対象会社の規模や取引形態によって案件ごとに大きく異なるため、成約平均単価は各期に成約した案件の構成で変動すると説明しています。グロース市場の審査では、こうしたKPIと業績の関係を事業計画の前提として説明できるかが問われます(IPO審査の「事業計画の合理性」)。
設立から上場承認までの道のり
沿革を見ると、当社は設立後、拠点を段階的に増やしてきました。2022年2月に日本橋オフィス、2023年5月に大阪支社、2024年6月に東京サテライトオフィス、2025年3月に日本橋第2オフィス、2026年1月に日本橋第3オフィスを新設しています。2022年2月には荒川有理氏が代表取締役に就任し、以後、代表取締役2名の体制です。
資金面では、2024年6月18日に政府関係金融機関他のシンジケート団と財務上の特約が付された金銭消費貸借契約を締結しています(2025年10月期末の残高315,000千円、弁済期限2029年4月末日、無担保)。株式面では、2025年3月31日の臨時株主総会で単元株制度(1単元100株)を導入し、発行可能株式総数を100,000,000株に減らす定款変更を行いました。
図4 Ⅰの部「沿革」「重要な契約等」「株式等の状況」から主な出来事を抜粋
上場準備の視点では、設立から上場承認までが5年弱と短いことに注目できます。Ⅰの部に財務諸表が掲載されるのは第3期と第4期で、この2期が監査法人A&Aパートナーズの監査を受けています(継続監査期間は2年)。監査法人との契約時期や監査対象期間の考え方は、監査法人はいつまでに決めるかやIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で解説しています。
業績はどう推移しているのか:増収減益の第4期と第5期の途中経過
主要な経営指標等の推移(単体)は次のとおりです。第1期・第2期は会社計算規則に基づく数値で、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準じた監査は受けていません。第3期・第4期の財務諸表は、有価証券上場規程第216条第6項に基づき、同項に準じて監査法人A&Aパートナーズの監査を受けています。
| 項目 | 第1期 2022年10月期 |
第2期 2023年10月期 |
第3期 2024年10月期 |
第4期 2025年10月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 234,075 | 1,257,318 | 3,320,319 | 4,010,914 |
| 経常利益(千円) | △89,395 | 214,547 | 940,653 | 296,309 |
| 当期純利益(千円) | △58,779 | 155,093 | 676,508 | 312,295 |
| 純資産額(千円) | △24,329 | 130,763 | 806,222 | 1,118,517 |
| 総資産額(千円) | 489,812 | 1,248,785 | 2,384,823 | 2,471,625 |
| 自己資本比率(%) | △5.2 | 10.4 | 33.8 | 45.3 |
| 営業活動によるCF(千円) | - | - | 1,060,829 | △64,057 |
| 従業員数(名) | 27 | 50 | 110 | 188 |
図5 主要な経営指標等の推移(百万円未満四捨五入)。第1期・第2期は金商法193条の2第1項に準じた監査を受けていない数値
第1期は経常損失89,395千円、当期純損失58,779千円で、期末の純資産はマイナス24,329千円でした。第2期には経常利益214,547千円を計上して純資産がプラスに転じ、第3期は売上高3,320,319千円、経常利益940,653千円まで伸びています。
第4期(2025年10月期)は、売上高が4,010,914千円(前期比20.8%増)と増加した一方で、営業利益は308,495千円(同68.5%減)、経常利益は296,309千円(同68.5%減)、当期純利益は312,295千円(同53.8%減)となりました。Ⅰの部はその理由を、将来のさらなる成長に向けた先行投資として人員数を110名から188名へ大幅に増やしたことなどにより、人件費を中心に費用が大きく増加したためと説明しています。
第4期の減益は何によるものか
損益計算書で見ると、売上原価は1,090,217千円から1,813,657千円(66.4%増)に増え、売上総利益は2,230,102千円から2,197,257千円(1.5%減)、売上高総利益率は67.2%から54.8%に低下しました。売上原価の主な内容は人件費(第4期1,458,508千円)で、Ⅰの部は、増員したアドバイザーの人件費が先行して発生する一方、成約への寄与は翌事業年度以降に生じること、提携先から紹介を受けた案件の成約が増えて案件紹介料(第4期194,284千円)が増えたことを要因に挙げています。
販売費及び一般管理費は1,251,929千円から1,888,762千円(50.9%増)に増えました。管理部門の人員増強に伴う人件費、採用関連費用、ダイレクトメール等による案件開拓の通信費、拠点の増設と増床に伴う地代家賃が主な理由です。この結果、売上高営業利益率は29.5%から7.7%に低下しています。
図6 損益計算書の売上総利益と販売費及び一般管理費の増減から作成(百万円未満四捨五入)
一方、第5期は中間会計期間(2025年11月〜2026年4月)に売上高3,151,907千円、営業利益759,300千円(売上高営業利益率24.1%)、中間純利益487,767千円、第3四半期累計期間(2025年11月〜2026年7月)に売上高4,304,545千円、営業利益793,106千円(同18.4%)、四半期純利益507,421千円を計上しています。中間会計期間の成約件数は45件で、Ⅰの部は前事業年度に増員したアドバイザーの稼働が本格化したことによると説明しています。なお、中間財務諸表と第3四半期の四半期財務諸表は、いずれも監査法人A&Aパートナーズの期中レビューを受けたもので、年度の財務諸表と同じ「監査」ではありません。
営業キャッシュ・フローがマイナスになった理由
第4期の営業活動によるキャッシュ・フローは64,057千円のマイナスでした(前期は1,060,829千円のプラス)。税引前当期純利益296,309千円、未払費用の増加154,281千円、契約負債の増加64,038千円などの増加要因に対し、法人税等の支払額449,528千円、売上債権の増加104,214千円、未払消費税等の減少119,116千円が上回ったためです。前期末の貸借対照表には未払法人税等280,582千円が計上されており、第3期の利益に対応する納税が第4期に行われています。中間会計期間の営業キャッシュ・フローは1,115,088千円のプラスで、中間期末の現金及び現金同等物は2,639,101千円です。
グロース市場の上場審査では、利益の額そのものではなく、事業計画の合理性や成長可能性の説明が重視されます。先行投資で利益率が下がった期がある場合は、その理由と回収の見通しを、KPI(ここではアドバイザー数・成約件数・単価)と結びつけて説明できるようにしておくことが大切です(グロース市場の「高い成長可能性」とは)。
資本政策と株主構成:創業者2名と資産管理会社、5回の新株予約権
当社の発行済株式は普通株式33,400,000株のみで、種類株式は発行していません。設立時に30,000,000株(発行価格1円)を発行し、2022年6月6日に個人4名を割当先とする有償第三者割当で3,400,000株(発行価格1円)を発行して、資本金は33,400千円となりました。それ以後、株式の発行や株式分割はなく、自己株式もありません。
創業者2名で74.8%を保有
事業等のリスク「大株主との関係に関するリスク」によると、本書提出日現在、代表取締役社長の橋場涼氏が資産管理会社を通じた間接保有を含めて10,566千株(発行済株式総数に対する所有割合31.6%)、代表取締役の荒川有理氏が14,406千株(同43.1%)を保有し、両氏の合計は24,972千株(同74.8%)です。この所有割合は、創業に際して行った資金調達で両氏が負担したリスクの程度を参考に決めたもので、2022年2月に荒川氏が代表取締役に就任した際に、橋場氏が保有株式の一部を荒川氏に譲渡したと記載されています。
図7 資産管理会社を通じた間接保有を含む。分母は発行済株式総数33,400,000株。上場時の公募・売出し後の比率ではない
両氏は今回の上場時の売出しで所有株式の一部を売却する予定ですが、引き続き大株主となる見込みとされています。Ⅰの部は、両氏が安定株主として一定の議決権を保有し、株主共同の利益と少数株主の利益に配慮する方針であること、一方で双方の意見が必ずしも一致するわけではないことを、リスクとして開示しています。
なお、第四部「株主の状況」の所有割合は、新株予約権の潜在株式7,979,578株を含む41,379,578株を分母として計算されており(荒川氏本人18.67%など)、上の発行済株式総数を分母とする比率とは異なります。どちらも上場申請時点の数値で、上場時の公募・売出しを経た後の比率ではない点に注意が必要です(創業者の持株比率はどこまで下げてよいか)。
上場前の株式移動と価格
第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2023年11月1日以後の株式の移動が記載されています。主な内容は次のとおりです。
| 移動年月日 | 移動の内容 | 単価 | 移動理由 |
|---|---|---|---|
| 2024年1月31日 | 橋場氏→㈱SH・㈱RH(各3,000,000株) 荒川氏→MOONLIGHT㈱・SUNRISE㈱(各3,340,000株) |
25円 | 所有者の事情による |
| 2024年10月31日 | 橋場氏→阿藤剛氏(取締役)42,312株、従業員4名(各42,312株) 荒川氏→阿藤氏57,688株、従業員4名(各57,688株) |
20円 | 経営参画への意識向上のため |
| 2026年4月25日 | 橋場氏→従業員2名(各101,000株) 荒川氏→従業員2名(各137,700株) |
158円 | 経営参画への意識向上のため |
移動後の所有者である㈱SH・㈱RHは橋場氏が、MOONLIGHT㈱・SUNRISE㈱は荒川氏が代表取締役を務める会社で、役員の所有株式数の注記では資産管理会社と説明されています。移動価格は、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案し、譲渡人と譲受人が協議のうえ決定したと記載されています。
上場準備会社にとってのポイントは、上場申請直前の時期にも株式の移動は可能であるものの、その日付・株数・価格・理由・算定方式がⅠの部で開示され、審査でも確認されることです。同じ時期に異なる価格で取引がある場合は、価格の違いを合理的に説明できる資料を残しておく必要があります(上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)、未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。
図8 上段は株式の発行・移動、下段は新株予約権(SO)。下段の日付は第1回が付与日、第2回〜第5回が決議日
新株予約権は5回、潜在株式は発行済株式の23.9%
当社はストック・オプション制度を採用しており、本書提出日現在の新株予約権による潜在株式数は7,979,578株で、発行済株式総数33,400,000株の23.9%に相当すると記載されています。現存するのは第2回〜第5回で、行使価額は第2回1円、第3回3円、第4回20円、第5回36円です。最も規模が大きいのは2024年10月31日に発行した第4回(発行時6,295,000株、付与対象は取締役3名・従業員110名)です。
図9 株式数は提出日の前月末(2026年9月30日)現在。新株予約権1個につき1株。第1回は2024年10月31日に全部放棄
各回に共通する行使条件として、上場するまでは行使できず、上場から2年以内は交付を受けた新株予約権の30%、その後1年間は60%、それ以降は100%まで行使できる、という段階的な条件が定められています。権利行使時にも当社の役職員等の地位にあることが求められ、期限までに上場しなかった場合(第2回は2032年10月31日まで等)は当社が無償で取得できる取得事由も置かれています。
図10 第2回〜第5回に共通の行使条件(Ⅰの部「新株予約権等の状況」注記をもとに作成)
ストック・オプションの会計処理については、注記で「ストック・オプションにかかる費用計上額」が第3期・第4期とも「該当事項はありません」とされています。第2回〜第4回は、当社株式が未公開株式であるため、公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値を見積る方法によっており、株式の評価は純資産価額方式です。本源的価値の合計額は第4期末で114,890千円と開示されています。未公開企業に認められたこの方法では、付与時の本源的価値がゼロであれば費用は生じませんが、注記の作成には付与日ごとの株式評価の根拠が必要になります(ストック・オプションの注記の記載例)。
信託型の第1回新株予約権は全部放棄
ストック・オプション等関係の注記には、すでに存在しない第1回新株予約権の内容も記載されています。第1回は2022年5月1日に付与された7,500,000株分(権利行使価格10円、付与日における公正な評価単価0.14円)で、個人を受託者とする信託に割り当てられ、信託期間満了時点の役職員等のうち受益者として指定された者に交付される仕組みでした。この第1回は2024年10月31日に全部放棄されており、第3期には権利不行使による失効として新株予約権戻入益1,050千円が特別利益に計上されています。第3期首の純資産には新株予約権1,050千円が計上されていました。
いわゆる信託型ストック・オプションについては、国税庁が2023年5月に、受益者である役職員等が権利を行使して得た経済的利益は給与として課税されるとの考え方を示し、制度の見直しを検討する会社が相次ぎました。当社がⅠの部で放棄の理由を説明しているわけではありませんが、既存の信託型を整理する場合には、税務・会計・開示(失効時の戻入益など)を一体で検討する必要があります(信託型ストックオプションはなぜ給与課税か)。
継続所有の確約は第5回だけ
第四部「第三者割当等の概況」には、第3回・第4回・第5回の新株予約権が記載されています。このうち保有期間等に関する確約が付されているのは第5回(2026年2月1日発行)だけです。有価証券上場規程施行規則第272条により、基準事業年度の末日(当社は2025年10月31日)から起算して1年前より後に役員・従業員等へ報酬として新株予約権を割り当てた場合、割当てを受けた者との間で所有等に関する確約を行うことが求められます。第4回の発行日(2024年10月31日)は、基準事業年度の末日の1年前の日(2024年11月1日)より前であり、第3回(2023年11月1日発行)とともに確約の欄は「-」となっています。
株式等の移動の記載(施行規則第266条)は基準事業年度の末日の2年前の日(2023年11月1日)から上場日の前日まで、役職員へのSO割当の確約(同第272条)は1年前より後の割当が対象、というように期間が異なります。どの取引がどの規制の対象になるかを、日付ベースの一覧で管理しておくことが実務上の要点です。なお、継続所有の確約は取引所規則に基づくもので、上場時に主幹事証券との間で結ぶロックアップの合意とは別の制度です。
図11 基準事業年度(Ⅰの部に財務諸表が載る最近事業年度)の末日は2025年10月31日。有価証券上場規程施行規則266条・272条に関するⅠの部の注記をもとに作成
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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コーポレート・ガバナンス:監査役3名全員が社外の監査役会設置会社
当社は会社法上の機関として、取締役会、監査役会及び会計監査人を設置しています。監査役会設置会社を採用した理由は、取締役会が適正かつ迅速に経営の基本方針や重要な業務執行の決定を行い、全員が社外監査役で構成される監査役会が独立した立場から取締役の職務執行を監査する体制が、経営の効率性と健全性の確保に有効と判断したため、と説明されています。
図12 本書提出日現在。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成
取締役会は取締役8名(うち社外取締役2名)で構成され、毎月1回定時に開催されています。第4期の取締役会は13回開催され、記載された取締役・監査役は全員が全回出席しています(2025年5月就任の社外取締役髙井孝佳氏は6回中6回)。具体的な検討内容として、経営方針、経営計画、月次予算実績差異分析、業務執行状況のほか、第4期は株式上場に向けた内部管理体制の整備、単元株制度の導入に伴う定款変更、M&Aアドバイザーの採用計画、新たな事業所の賃貸借契約の締結などが挙げられています。
このほか、取締役(社外取締役を除く)と常勤監査役で構成する経営会議を原則毎週1回、リスク・コンプライアンス委員会を原則四半期に1回(リスクやコンプライアンス違反の事象を識別した際は臨時)開催しています。リスク・コンプライアンス委員会は代表取締役社長が委員長で、業務執行取締役5名と常勤監査役を加えた7名で構成されています。
役員の構成
| 役職 | 氏名 | Ⅰの部に記載された主な経歴 |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 橋場 涼 | 三菱東京UFJ銀行、M&Aキャピタルパートナーズを経て2021年11月に当社設立 |
| 代表取締役キャピタルマーケッツ本部長 | 荒川 有理 | レコフ、ジャフコグループ、M&Aキャピタルパートナーズ等を経て2022年2月に就任 |
| 専務取締役投資銀行本部長 | 桜井 博一 | 三菱東京UFJ銀行、KPMG FAS、M&Aキャピタルパートナーズ。設立時から取締役CFO |
| 取締役企画本部長 | 阿藤 剛 | 2022年6月入社、2023年11月取締役 |
| 取締役経営管理室長 | 中田 一徳 | 大蔵省・金融庁を経て2025年8月入社、2026年2月取締役 |
| 取締役管理本部長 | 倉澤 瑞樹 | 東京三菱銀行を経て2022年7月入社、2023年2月取締役 |
| 社外取締役 | 髙井 孝佳 | エバラ食品工業の代表取締役副社長等 |
| 社外取締役 | 岡田 和弘 | 横浜銀行の取締役常務執行役員等 |
| 常勤監査役(社外) | 佐藤 瞬也 | 公認会計士(有限責任監査法人トーマツ出身) |
| 監査役(社外) | 嶋方 拓郎 | 公認会計士 |
| 監査役(社外) | 田原 一樹 | 弁護士 |
社外監査役のうち佐藤瞬也氏と嶋方拓郎氏は公認会計士として財務及び会計に関する相当程度の知見を、田原一樹氏は弁護士として企業法務に関する相当程度の知見を有すると記載されています。社外監査役の佐藤氏は第3回新株予約権6,000個を保有していますが、それ以外に社外役員5名と当社との間に人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はないとされています。独立性に関する基準又は方針は明確に定めていないものの、東京証券取引所が定める独立性基準に抵触しないと判断して選任している、という記載です。
グロース市場の会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードは基本原則のみで、独立社外取締役の人数に関する原則(2026年7月改訂後の原則4-10)は適用対象ではありません。ただし、上場規程上の独立役員(1名以上)の確保は必要です。また、東証の2026年7月の上場規則改正(7月10日施行)により、上場会社の主要株主(議決権の10%以上を保有する株主)やその業務執行者(最近において該当していた者を含む)等は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から、独立役員の要件を満たさないこととされました。社外役員の候補者を選ぶ際は、こうした最新の独立性基準と照らし合わせておくことが重要です(社外取締役は何人必要か、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?)。
役員報酬はどう決めているか
取締役の報酬は、固定報酬としての基本報酬と業績連動報酬等で構成され、社外取締役は基本報酬のみです。業績連動報酬等はアポイント取得の推進を担当する取締役が対象で、「企画本部長インセンティブ賞与支給規程」に基づき、企画本部が取得したアポイントのうち成約に至り売上計上された件数に、同規程で定める1件当たりの金額を乗じた額を賞与として支給します。目標値は設定しておらず、第4期の実績は42件と記載されています。
決定過程として、2025年1月17日の取締役会で個人別の基本報酬を、2026年1月28日の臨時取締役会で業績連動報酬(役員賞与)の額を、いずれも社外取締役の答申を踏まえて決議したとされています。株主総会で決議された報酬限度額は、取締役が年額1,000,000千円以内(使用人分給与を含まない、2026年1月28日決議)、監査役が年額30,000千円以内(2025年1月29日決議)です。第4期の報酬総額は、取締役(社外取締役を除く)5名に180,310千円(うち業績連動報酬12,600千円)、社外役員5名に22,200千円でした。
図13 Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成。金額は株主総会決議の上限(使用人分給与を含まない)
報酬の決定方針や業績連動報酬の指標の開示は、有価証券報告書の記載事項(開示府令)に基づくものです。任意の報酬委員会を置かない場合でも、社外取締役の意見をどの段階で聴くのかを議事録で確認できるようにしておくと、審査でも説明しやすくなります(上場準備のガバナンス)。
関連当事者との取引はない
関連当事者情報は、第3期・第4期とも「該当事項はありません」と記載されています。創業者が大株主である会社では、創業者個人との取引(賃貸借、債務保証、立替など)の有無が審査で確認されるのが一般的です。当社のように該当なしと開示するためにも、役員・大株主とその近親者、資産管理会社まで含めて取引を洗い出す手続を整えておく必要があります(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。
内部監査・内部統制:取締役2名による相互監査
当社は、比較的小規模の会社・組織であることから独立した内部監査部門を設置せず、代表取締役社長が選任した内部監査責任者1名(取締役管理本部長)と内部監査担当者1名(取締役企画本部長)が内部監査を行っています。内部監査責任者が所属する管理本部については、自己監査とならないよう取締役企画本部長が監査を実施する、相互監査の体制です。また、内部監査業務の補助を外部の専門家に委託しています。
内部監査責任者は監査結果を代表取締役社長に報告して改善提案を行い、その後の改善状況をフォローアップ監査で確認します。監査結果を含む活動状況は、代表取締役のほか取締役会と常勤監査役にも直接報告するものとされています。
図14 独立した内部監査部門は置かず、取締役2名が担う。Ⅰの部「内部監査の状況」をもとに作成
内部監査を兼務の取締役が担う体制は、規模の小さい上場準備会社でよく見られます。その場合のポイントは、①自分の所属部署を自分で監査しない(相互監査)、②監査結果の報告先を社長だけにしない、③外部専門家の活用などで監査の品質を補う、の3点を規程と運用の両面で示すことです(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、内部監査の報告先は社長だけでよいのか)。
三様監査とリスク管理の体制
監査役監査は社外監査役3名(常勤1名、非常勤2名)で行われ、第4期の監査役会は14回開催、3名とも14回出席しています。常勤監査役は経営会議などの主要な会議へ出席し、重要な決裁書類の閲覧や代表取締役との定期的な会合を行っています。三様監査については、常勤監査役を中心に会計監査人・内部監査担当者と半期ごとに三様監査会議を実施し、常勤監査役が内部監査の実施に立ち会うことで実効性を確保していると記載されています。
図15 常勤監査役を中心に半期ごとに三様監査会議を実施(Ⅰの部「業務の適正を確保するための体制」等)
内部統制システムの基本方針では、コンプライアンス規程、社外に通報窓口を設けた内部通報制度、文書管理規程・情報セキュリティ管理規程、リスク管理規程、職務権限規程・職務分掌規程、反社会的勢力排除規程などの整備が掲げられています。M&A仲介は顧客の機密情報を多く扱う事業であり、事業等のリスクでも情報管理(影響度:大)が挙げられています。業種特有のリスクに対応する規程と運用記録を、内部監査の対象に組み込んでおくことが重要です(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)、内部通報体制は上場審査でどこまで見られるか)。
会計・開示の論点:成立時点の収益認識と繰延税金資産
収益は株式譲渡等が成立した時点で認識
重要な会計方針によると、当社は売手・買手のM&A両当事者に対してアドバイザリー(仲介)契約に基づくM&A関連サービスを提供して報酬を得ており、売手と買手との間で株式譲渡・事業譲渡等に係る最終契約の締結が実現し、株式譲渡・事業譲渡等が成立した時点で履行義務が充足されると判断して、その時点で収益を認識しています。売上高は全額が顧客との契約から生じる収益で、対価は履行義務を充足してから概ね1ヶ月以内に受領し、重要な金融要素は含まないとされています。
図16 重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」と収益認識関係注記をもとに作成
収益認識関係の注記では、契約負債(履行義務を充足する前に顧客から受け取った対価)の残高が、第3期首59,565千円、第3期末56,336千円、第4期末120,375千円と開示されています。当期に認識した収益のうち期首の契約負債に含まれていた額は、第3期54,150千円、第4期45,615千円です。顧客との契約から生じた債権は第4期末104,500千円で、主な資産及び負債の内容では相手先4社の内訳と、回収率88.7%、滞留期間20.6日が示されています。
成功報酬型のビジネスでは、「いつ成立したといえるか」の判断が売上の計上時期を左右します。上場準備では、最終契約の締結、クロージング(株式の引渡しや対価の支払い)などのどの事象をもって履行義務の充足とするのかを社内規程と証憑で明確にし、期末日前後の案件の締め処理を監査法人と確認しておくことが重要です(上場審査で問われる収益認識、収益認識基準 完全ガイド)。
重要な会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性
重要な会計上の見積りとして識別されているのは、繰延税金資産の回収可能性です。第4期末の繰延税金資産は272,781千円(前期末156,468千円)で、その主な内訳は次のとおりです。
| 項目(第4期末) | 金額(千円) |
|---|---|
| 未払費用 | 134,210 |
| 繰越税額控除 | 215,952 |
| 減価償却超過額 | 14,182 |
| 賞与引当金/役員賞与引当金 | 4,004/4,358 |
| フリーレント賃借料/その他 | 5,574/13,984 |
| 繰延税金資産小計 | 392,267 |
| 評価性引当額 | △112,132 |
| 繰延税金負債(未収還付事業税) | △7,353 |
| 繰延税金資産の純額 | 272,781 |
評価性引当額の増加112,132千円は、賃上げ促進税制による税額控除の繰越控除に係る評価性引当額を認識したことによると説明されています。第4期の法人税等合計は15,985千円のマイナスで、税効果会計適用後の法人税等の負担率は△5.4%でした(法定実効税率34.6%に対し、繰越税額控除限度超過額に係る繰延税金資産の増減額△72.9%、評価性引当額の増減37.8%などの調整)。Ⅰの部は、法人税等合計がマイナスとなった主な理由を、賃上げ促進税制に関する税額控除の繰越控除に係る繰延税金資産を計上したことと説明しています。
人員を急拡大する会社では、賃上げ促進税制の税額控除が大きくなり、控除限度を超えた部分の繰越しと、その回収可能性(将来の課税所得の見積り)が論点になります。事業計画と税効果の見積りが整合しているかを、監査法人と早めにすり合わせておくことが望まれます。
その他の特徴的な注記
資産除去債務については、オフィス等の原状回復義務について負債を計上する代わりに、賃借契約に関連する敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当事業年度の負担に属する金額を費用に計上する方法によっています。また、日本橋本町オフィス(仮称)への拠点の移転・集約(投資予定額798百万円、着手2026年8月、完了予定2027年5月)に伴い、既存の日本橋オフィス、日本橋第2オフィス及び東京サテライトオフィスの建物等の一部を、集約の予定年月までに全額償却又は除却する予定と記載されています。第4期の重要な会計方針では建物の耐用年数が2〜3年とされています。
シンジケートローン契約には、各事業年度末の純資産を2023年10月期末の純資産の75%以上に維持すること、2023年10月期以降の経常損益を2期連続して損失としないこと、という財務制限条項が付されています。未適用の会計基準等としては、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)を2028年10月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。
監査法人と監査報酬
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 監査法人 | 監査法人A&Aパートナーズ |
| 継続監査期間 | 2年 |
| 業務を執行した公認会計士 | 指定社員 業務執行社員 木間 久幸、松本 浩幸 |
| 補助者 | 公認会計士8名、その他7名 |
| 監査証明業務に基づく報酬 | 最近事業年度の前事業年度 13,860千円/最近事業年度 18,480千円 |
| 非監査業務に基づく報酬 | なし |
監査法人の選定にあたっては、監査法人の概要、監査日数、監査期間及び具体的な監査実施体制、監査報酬の見積額等に関する資料を入手し、質問・面談等を行ったうえで総合的に判断したと記載されています。中間会計期間と第3四半期は期中レビューを受けており、財務諸表等の適正性を確保するための特段の取組として、監査法人との緊密な連携、セミナーへの参加、会計専門書の購読が挙げられています(IPO審査の「企業内容等の開示の適正性」)。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
当社の事業等のリスクは、外部環境、事業内容、その他の3区分で15項目が挙げられ、それぞれに顕在化可能性、発生する可能性のある時期、影響度が記載されています。顕在化可能性が「高」とされているのは同業他社との競合(影響度:中)で、M&A仲介事業は許認可が存在せず大規模な設備投資を要しないため、参入障壁は比較的低いと説明されています。
図17 Ⅰの部「事業等のリスク」に記載された顕在化可能性と影響度で分類(「高×大」に該当する項目はない)
上場準備の観点で特に注目したいのは、「収益の計上時期による業績の偏重」です。当社は譲渡企業に完全成功報酬を採用し、M&Aの成約をもって収益を認識しているため、各四半期の業績は均等に推移せず、事業年度の末期に成約が集中する傾向があると記載されています。発生する可能性のある時期は「各事業年度末」とされ、期末付近に予定していた成約が翌事業年度にずれ込んだ場合の影響が開示されています。実際、2025年10月期の四半期別成約件数は14件、13件、14件、25件で、第4四半期が最も多くなっています。
図18 Ⅰの部「各種指標の推移」。成約件数は当該期間中にクロージングした件数
このようなビジネスでは、上場後の業績予想の精度が重要になります。受託案件ごとの進捗を営業会議・経営会議で確認しているという当社の記載のように、案件パイプラインの管理方法と、予想の修正が必要になった場合の適時開示の判断プロセスを、上場前から整えておくことが求められます(IPOの適時開示体制)。
このほか、M&A仲介業を制限する直接的な法的規制は現時点で存在しないものの、今後規制が適用された場合の影響(影響度:大)、人材の確保及び育成、代表取締役2名への依存、新株予約権の行使による希薄化(発生時期:直近1年〜3年以内)、大株主との関係などが記載されています。Ⅰの部では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン第3版」(2024年8月公表)などに準拠した教育プログラムに取り組んでいることも説明されています。業界の自主規制やガイドラインへの対応状況は、審査で確認されやすい事項の一つです(IPOの実質審査基準とは)。
グロース市場の実質審査基準は、「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」です。リスク情報について、発生可能性・時期・影響度と対応策を具体的に書けるかどうかは、このうち開示の適切性に直結します。
上場準備会社がこのケースから学べること
M&AロイヤルアドバイザリーのⅠの部から、上場準備会社が自社に置き換えて使える示唆を7つにまとめます。
- 成功報酬型の収益は「成立の定義」から固める。当社は株式譲渡・事業譲渡等が成立した時点で収益を認識しています。どの事象で履行義務が充足されるかを、契約書の条項と証憑で説明できるようにしておくことが出発点です。
- 期末集中の傾向は、リスク情報とKPIで先に開示する。四半期別の成約件数や受託残件数を示し、成約時期のずれ込みの影響をリスクとして書いておくことで、業績の変動を投資者に理解してもらいやすくなります。
- 先行投資による減益は、理由と回収の筋道をセットで示す。第4期は人員を110名から188名に増やして営業利益が68.5%減少しましたが、Ⅰの部は人件費が先行し成約への寄与が翌期以降になる構造を説明しています。
- 株式移動は日付・価格・算定方式を一覧で管理する。資産管理会社への移動(25円)、取締役・従業員への譲渡(20円)、従業員への譲渡(158円)のように、時期ごとの価格と算定方式がそのまま開示されます。
- 信託型SOなど過去の制度は、上場前に整理の方針を決める。第1回の信託型新株予約権は2024年10月31日に全部放棄され、戻入益が計上されています。税務・会計・開示を一体で検討することが必要です。
- SOの確約の対象期間を日付で確認する。施行規則272条の確約は、基準事業年度の末日の1年前より後の割当が対象です。発行日の設定次第で必要な手続が変わります。
- 兼務の内部監査は、相互監査と報告経路の複線化で補う。取締役管理本部長が責任者、取締役企画本部長が管理本部を監査し、結果を取締役会・常勤監査役にも直接報告する体制は、小規模組織の一つの型です。
資本政策の全体像は上場準備の資本政策、内部監査の立ち上げ方は内部監査の始め方でも詳しく解説しています。
- 収益を認識する時点(最終契約の締結か、株式譲渡等の成立か)を契約類型ごとに定め、期末前後の案件の締め手続を決めている
- 四半期ごとの成約件数・受託残件数などのKPIを、月次の予実管理と同じ定義で集計している
- 基準事業年度の末日の2年前以降の株式移動と、1年前より後のSO割当・第三者割当を日付つきの一覧で管理している
- 株式移動やSOの行使価額の算定方式(DCF法・純資産方式・類似会社比準方式など)と根拠資料を保存している
- 内部監査担当者が兼務の場合、所属部署を別の担当者が監査し、結果を取締役会と監査役にも報告する体制を規程化している
- 社外役員候補者が、2026年7月改正後の独立性基準(主要株主とその業務執行者等の扱い)に抵触しないかを確認している
よくある質問
M&Aロイヤルアドバイザリーは、売手と買手の間で株式譲渡・事業譲渡等に係る最終契約の締結が実現し、株式譲渡・事業譲渡等が成立した時点で履行義務が充足されると判断し、その時点で収益を認識しています。履行義務の充足前に受け取った対価は契約負債として計上されます。どの時点を「成立」とみるかは契約内容によって異なるため、会社ごとに定めて監査法人と合意しておくことが大切です。
譲渡そのものは可能ですが、基準事業年度の末日の2年前の日以後の特別利害関係者等の株式等の移動は、日付・株数・価格・理由がⅠの部に記載されます。当社の場合、2024年10月は1株20円、2026年4月は1株158円で、いずれもDCF法・純資産方式・類似会社比準方式による価格を総合勘案して決めたと記載されています。価格の根拠を説明できる資料を残しておくことが重要です。
未公開企業は、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値(株式の評価額-行使価格)で見積ることが認められており、付与時の本源的価値がゼロであれば費用は計上されません。当社も第2回〜第4回でこの方法を採用し、費用計上額は「該当事項はありません」と注記しています。ただし、有償ストック・オプションは実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じた会計処理が求められるなど、制度設計によって扱いが変わる点に注意が必要です。
専任部署がなくても、独立性と客観性が確保されていれば内部監査の体制として説明できる場合があります。当社は独立した内部監査部門を置かず、取締役2名が相互に監査し、外部の専門家に補助を委託しています。上場後の組織拡大に合わせた体制の見直しも含めて説明できるようにしておくことが大切です(内部監査の人数と体制)。
最初の一歩は、株式とSOの「日付一覧」を作ること
当社のように、設立後の短い期間に株式の移動と複数回の新株予約権の発行を重ねてきた会社では、どの取引がどの規制・開示の対象になるかを日付で整理することが準備の土台になります。まずは、設立以来の株式の発行・移動と新株予約権の付与・失効・放棄を一つの時系列表にまとめ、移動価格と算定方式、基準事業年度の末日から見た位置づけを書き込んでみてください。この一覧が、資本政策の見直し、Ⅰの部の作成、主幹事証券や監査法人との協議の出発点になります(資本政策はなぜやり直せないか)。
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まとめ
M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社は、2026年10月29日に上場承認を受け、2026年12月3日に東京証券取引所グロース市場へ上場する予定です。Ⅰの部からは、①分業体制による成功報酬型のM&A仲介と、株式譲渡等の成立時点での収益認識・期末集中のリスク開示、②人員を大幅に増やした第4期の増収減益と、第5期の中間会計期間・第3四半期累計期間の業績、③創業者2名で74.8%を保有する株主構成、資産管理会社や従業員への株式移動、信託型の第1回新株予約権の全部放棄と第2回〜第5回の新株予約権、④監査役3名全員が社外の監査役会設置会社と、取締役2名の相互監査による内部監査、という実務上の論点が読み取れます。
上場準備会社にとっては、これらを自社の事業や体制に置き換え、「いつまでに何を整えるか」を逆算する材料として活用していただければと思います。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 新規上場会社情報「M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(新規上場銘柄一覧)」
- 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
- 東京証券取引所「少数株主保護に関する上場制度の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」(2026年7月3日)
※本記事は、各社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」の公開情報に基づき、IPO実務の解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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