ベルチャイルドのTOKYO PRO Market上場|公募なしの上場と株式の整理【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

株式会社ベルチャイルド(証券コード503A)は、2026年1月15日に上場申請を行い、1月29日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年2月5日に TOKYO PRO Market(TPM)へ上場しました。担当J-Adviserは株式会社日本M&Aセンターです。大阪市淀川区に本社を置き、保険業向けを中心とするシステム開発(システムインテグレーション)と、自社クラウドサービス「iBRESS」などのIoTサービスを手がけるソフトウェア開発会社です。本記事では、同社が上場に際して公表した書類を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできる点を整理します。

結論からいえば、ベルチャイルドは「公募・売出しを行わずにTPMへ上場した会社が、上場前に何を整えたか」を学ぶのに適した事例です。上場時に特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行わなかったため、同社が公表したのは「特定証券情報」ではなく「発行者情報に相当する情報」です。監査を受けた決算は直近1期のみ、株主は資産管理会社と役職員だけ、取締役は3名で社外取締役はいないという、一般市場の新規上場とは大きく異なる姿が、TPMの制度とどう結びついているのかが読み取れます。

ベルチャイルドはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか

まず基本情報です。ベルチャイルドは1999年4月にシステム開発を生業とする個人事業主として兵庫県西宮市で創業し、2000年4月に有限会社ベルチャイルドを設立、2002年7月に株式会社へ組織変更しました。現在の本店は大阪市淀川区宮原で、大阪・東京・仙台・京都の4拠点で事業を展開しています。代表者は創業者の代表取締役 社長執行役員 藤田好邦氏です。決算期は3月で、公表書類に掲載されている最近の事業年度は第25期(2025年3月期)、直近の期間は第26期中間連結会計期間(2025年4月〜9月)です。

グループは当社と連結子会社2社(京都市のバンテック株式会社、東京都港区の株式会社Puerto。いずれも議決権100%)で構成され、ソフトウェア開発事業の単一セグメントです。2025年12月31日時点の従業員数は連結246名(うち管理部門25名)、単体211名で、単体の平均年齢は40.2歳、平均勤続年数は7.4年、平均年間給与は5,301千円と記載されています。臨時雇用者はおらず、労働組合は結成されていません。親会社はなく、ベンチャーキャピタルなどの外部株主もいません。

項目 内容
会社名 株式会社ベルチャイルド(BellChild Co., Ltd.)
証券コード 503A
市場 TOKYO PRO Market
上場日 2026年2月5日
上場承認日 2026年1月29日
上場申請日(申請受付日) 2026年1月15日(公表書類の公表日も同日)
担当J-Adviser 株式会社日本M&Aセンター
上場時の公募・売出し なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない)
公表書類 発行者情報(特例第110条第3項に基づく、発行者情報に相当する情報)
本店 大阪市淀川区宮原四丁目2番10号
創業・設立 1999年4月創業(個人事業主)、2000年4月有限会社設立、2002年7月株式会社へ組織変更
決算期 3月
事業 ソフトウェア開発事業(システムインテグレーション、IoTサービス)
従業員数 連結246名、単体211名(2025年12月31日現在)
監査法人 監査法人やまぶき

上場までの流れを見ると、役員体制や株式の整理を先に進め、上場申請から短期間で上場に至っていることがわかります。2024年6月に取締役が執行役員を兼ねる体制とし、現在の監査役が就任しました。2024年7月には役員等の株式を資産管理会社や会社自身に移す株式の移動を行い、2025年9月に株式分割、2025年10月に単元株制度の採用と役員の選任を行っています。そのうえで2026年1月15日に上場を申請し、10営業日後の1月29日に上場承認を受けました。

上場までの主な出来事(2024年6月〜2026年2月)2024年6月執行役員就任監査役就任2024年7月株式の移動自己株式取得2025年9月株式分割1株→2,000株2025年10月単元株制度役員選任総会2026年1月15日上場申請発行者情報公表2026年1月29日 上場承認(申請から10営業日後)2026年2月5日 上場TOKYO PRO Market

図1 役員体制・株式の整理を先に進め、2026年1月15日の上場申請から10営業日後の1月29日に上場承認、2月5日に上場した。発行者情報をもとに作成

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何で稼いでいる会社なのか(事業内容と収益モデル)

ベルチャイルドのサービスは「システムインテグレーション」と「IoTサービス」の2つです。システムインテグレーションは、創業当初から取り組む保険業を中心に、製造業・物流業などのオープン系システム開発を主体としています。発行者情報では、アプリケーション開発とインフラ開発の両面をシームレスに提供できることを大きな特長の一つとして挙げています。

アプリケーション開発では業界別の業務知識を重視し、保険業界向けでは保険商品や約款の内容を読み解いて業務要件をシステムに落とし込むことを「業務知識」と説明しています。開発例として、保険の販売支援システムや契約管理システム(ビジネスルールを業務システムと切り離して管理するBRMSを導入)、製造業の生産管理・文書管理システム、物流業の宅配ロッカーシステムや出荷業務支援Webシステムが紹介されています。このほか、汎用機上のレガシーシステムをリライト・リホスト・リビルドで刷新するモダナイゼーションや、COBOLによる保守、モビリティデータ分析の概念実証にも取り組んでいます。インフラ開発では、オンプレミスとクラウドの両方の設計・構築と運用を行い、端末(クライアント)領域に特に強みがあるとしています。

IoTサービスは、自社ブランドのSaaS型サービス「iBRESS」と製品販売からなります。iBRESSはリモート監視、稼働状況の可視化、予防保全支援、異常アラート通知などの機能を備え、浄水設備監視、淡水化設備監視、ガス残量監視などで使われています。収益モデルは新規導入料、機能拡張開発料、月額利用料で、新規導入後はサブスクリプション型で提供すると記載されています。製品販売では、子会社Puertoが産業用通信規格OPC UAに関するPuertoブランドの4製品を開発・提供し、他社製のミドルウェアも取り扱っています。

ベルチャイルドグループの事業の構造協力会社(外注先)バンテック(京都・100%子会社)Puerto(OPC UA製品・100%)ベルチャイルド大阪・東京・仙台・京都アプリ開発インフラ開発IoTサービスSI顧客保険業中心製造・物流ほかIoT顧客iBRESSPuerto製品等SIの対価:請負・準委任による開発保守・運用IoTの対価:新規導入料・機能拡張開発料月額利用料(サブスクリプション)

図2 ソフトウェア開発事業の単一セグメントで、システムインテグレーションとIoTサービスを提供する。製造費用に占める外注費の割合は6割を超えると記載されている。発行者情報「事業の内容」「事業等のリスク」をもとに作成

収益構造を読むうえで重要なのは、販売先の集中です。主要な販売先であるニッセイ情報テクノロジー株式会社向けの売上高は、第24期が2,277,736千円(連結売上高の51.9%)、第25期が2,598,521千円(同55.8%)、第26期中間が1,579,340千円(同60.7%)と、過半を占めています。会社は事業等のリスクで、同社との取引量を拡大しつつ他企業との取引も拡大し、同社への売上比率を相対的に低減させるよう進めていると説明しています。

もう一つの特徴は、協力会社(外注先)への依存度です。事業等のリスクでは、製造費用に占める外注費の割合が6割を超え、協力会社は事業の継続・拡大に重要な位置づけにあると記載されています。対処すべき課題でも、社員エンジニアとビジネスパートナーのエンジニアが一丸となってプロジェクトを推進していること、会議体による業務委託会社の総合的審査を行うことが挙げられています。売上の集中と外注依存は、受託開発会社が上場準備で必ず説明を求められる論点であり、同社はそれをリスク情報として正面から開示しています。

ニッセイ情報テクノロジー向け売上高の割合第24期(2024年3月期)51.9%2,277,736千円第25期(2025年3月期)55.8%2,598,521千円第26期中間60.7%1,579,340千円会社は、同社との取引を拡大しつつ他社との取引を拡大し、比率を相対的に低減させる方針と記載

図3 連結売上高に占める割合。第26期は中間連結会計期間(2025年4月〜9月)。発行者情報「販売実績」「事業等のリスク」より

沿革から見える上場までの道のり

沿革を見ると、ベルチャイルドはグループ会社の設立と吸収合併を繰り返しながら事業領域を広げてきたことがわかります。2003年にアプリケーション開発会社のアルトワン、2005年にネットワークインフラ開発会社のNICE、2007年に組み込み・制御系のプロフューチャを設立し、2008年10月にこの3社を吸収合併しました。その後も、関連会社の設立や子会社化を重ね、2019年4月にバンテック、2023年11月にPuertoを100%子会社化し、2024年2月にはビーエムエスを吸収合併しています。

認証や許認可も早い段階から取得しています。2006年2月にプライバシーマーク、2007年5月に労働者派遣事業の許可(有効期限は2030年12月31日)、2013年9月にISMS(ISO/IEC27001)の認証、2019年3月に電気通信事業者の届出を行いました。上場準備では、事業に必要な許認可の有効期限や更新手続を一覧で管理し、取消事由に該当する事実がないことを説明できるようにしておくことが欠かせません。同社も事業等のリスクで、労働者派遣法、中小受託取引適正化法(取適法)、電気通信事業法、労働基準法を法的規制として整理しています。許認可の見られ方はIPOで許認可はどこまで見られるかもご覧ください。

沿革のタイムライン1999年4月個人事業主として創業2000年4月有限会社設立2002年7月株式会社へ組織変更2008年10月グループ3社を吸収合併2013年9月ISMS認証取得2019年4月バンテック100%子会社化2023年11月Puerto100%子会社化2024年2月ビーエムエス吸収合併2025年9月株式分割1株→2,000株2026年2月TPM上場

図4 個人事業主としての創業から、グループ会社の設立・吸収合併・子会社化を経てTOKYO PRO Market上場に至る。発行者情報「沿革」をもとに作成

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

最初に確認しておきたいのは、ベルチャイルドの発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的についての記載がないという点です。会社のコーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方として「上場企業としてステークホルダーである株主・お客様・社員・社会に対して情報開示を行い、透明性の確保に努めます」との記載はありますが、なぜ一般市場ではなくTPMなのかは書かれていません。そのため本記事では、同社の理由を推測せず、TPMという市場の一般的な特徴を説明するにとどめます。

TPMは、2008年の改正金融商品取引法で導入された「プロ向け市場制度」に基づいて2009年6月に開設されたTOKYO AIMを前身とし、2012年7月から東京証券取引所が運営している市場です。法令上は「特定取引所金融商品市場」と呼ばれ、プライム・スタンダード・グロースという一般市場とは別の市場です。JPXの説明では、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。そのかわり、東証が資格を認めたJ-Adviserが上場適格性を調査・確認する仕組みになっています。

投資家の面では、TPMの株式を買い付けられるのは特定投資家等に限られます。特定投資家とは、適格機関投資家、国、日本銀行などのほか、一定の要件を満たして移行した法人・個人です。一般投資家は取引所に買い注文を出すことはできませんが、保有している株式を売却することはできます。「一般投資家は一切取引できない」という説明は正確ではありません。

TOKYO PRO Marketの主な特徴TOKYO PRO Market(特定投資家等向けの市場)形式基準なし株主数・利益等の数値基準がないJ-Adviserが上場適格性を調査・確認買付けは特定投資家等一般投資家は売却のみ開示は特定証券情報・発行者情報ベルチャイルドの発行者情報には、TPMを選んだ理由・上場目的の記載はない

図5 TPMは東証が運営する特定投資家等向けの市場(特定取引所金融商品市場)で、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場である。JPXのTPM概要・上場基準ページをもとに作成

東証は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、同時に、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう上場会社にお願いする取組みを始めました。これは東証の要請(お願い)であり、規程上の義務ではありません。2026年6月15時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。TPM上場は資金調達と同義ではない、という点は押さえておきたいところです。なお、ベルチャイルドの上場はこの取組みが始まる前の2026年2月であり、同社がその後に上場目的を開示しているかどうかは、本記事では確認していません。

TPMの上場の仕組みを、ベルチャイルドの記載に沿って読む

J-Adviserの調査と上場適格性

TPMには形式基準はありませんが、「上場審査がない」わけではありません。担当J-Adviserが、①企業としての相応性(法律・会計・税務の理解、予算統制、上場予定日から12か月間の運転資金の確保など)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること(関連当事者取引の牽制など)、③企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の整備・運用、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点、という5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。

ベルチャイルドの発行者情報にも、この要件と対応する記載が見られます。たとえば「運転資本」の項目では、上場予定日(2026年2月5日)から12か月間の運転資本は自己資本及び借入による資金調達が可能であり、十分であると認識していると書かれています。関連当事者取引については取締役会の承認を必要とする運用、内部管理体制については「事業規模の拡大に合わせて充実・強化させていく方針」がそれぞれ記載されています。

手続の面では、東証の上場ガイドブック(TPM編)によると、J-Adviserとの契約締結後、J-Adviserによる調査・確認(約30営業日)を経て、上場申請日の30営業日程度前までに東証へ意向を表明し、東証による面談を経て上場申請を行います。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。ベルチャイルドの場合、上場申請(申請受付)は2026年1月15日、上場承認は1月29日で、ちょうど10営業日後にあたります。一般市場のように「申請から承認まで数か月」という感覚とは異なり、TPMでは申請前のJ-Adviserの調査に実質的な時間がかかると理解しておくとよいでしょう。

TPMの上場プロセスとベルチャイルドの日程J-Adviser契約の締結(担当:日本M&Aセンター)J-Adviserの調査・確認(約30営業日)意向表明(申請の30営業日程度前)東証の面談上場申請2026年1月15日上場承認2026年1月29日上場2026年2月5日申請時に、J-Adviserが作成する「上場適格性に係る宣誓書」等を提出する

図6 上段は東証「上場ガイドブック TPM編」の手続の流れ、下段はベルチャイルドの実際の日程。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認する

公募・売出しのない上場と「発行者情報」

TPMでは、上場時に特定投資家を相手方とする取得勧誘(いわゆるプロ私募、法令上は特定投資家向け取得勧誘)や売付け勧誘等(特定投資家向け売付け勧誘等)を行う場合、有価証券届出書ではなく「特定証券情報」を提供・公表する必要があります(金融商品取引法第27条の31)。特定証券情報は、一般市場の新規上場時のⅠの部に相当する役割を担う書類です。

一方、ベルチャイルドは上場に際してこれらの勧誘を実施しないことから、「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表すると表紙に記載しています。つまり、同社の上場時の公表書類の名称は「発行者情報」であり、新株の発行も既存株主による売出しもない上場です。第四部の「第三者割当等の概況」もすべて「該当事項はありません」となっています。東証の新規上場会社情報ではこの書類は特定証券情報の欄に掲載されていますが、本記事が読むのは、表紙の書類名が「発行者情報」であるこの書類です。

上場後は、年次と中間の年2回、事業年度又は中間会計期間の末日から3か月以内に発行者情報を作成・公表します。書類の名称は「発行者情報」であり、一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは呼びません。表紙の次には、発行者情報の公表時の役員が、重要な事項の虚偽記載や記載漏れについて損害賠償責任を負う旨の注意事項が置かれています。簡素な開示制度であっても、記載内容に対する役員の責任がある点は一般市場と同じ考え方です。

上場時に公表する書類はどう決まるか上場時に特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金商法第27条の31)行わない場合(ベルチャイルド)発行者情報に相当する情報を公表(特例第110条第3項)上場後は、年次・中間の発行者情報を期末後3か月以内に公表する

図7 上場時に特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等(いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)を行う場合は特定証券情報が必要になる。ベルチャイルドは行わないため、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表した

監査期間は「最近1年間」

TPMで上場前に求められる監査期間は「最近1年間」です。ベルチャイルドの経営指標の注記では、特例第110条第5項に基づき、第25期の連結財務諸表について監査法人やまぶきの監査を受けているが、第24期の連結財務諸表については当該監査を受けていないと明記されています。第26期中間連結財務諸表は、同監査法人の期中レビューを受けています。監査が不要なのではなく、監査を受ける期間が一般市場の新規上場(直前2期の監査が求められるのが一般的)より短い、という理解が正確です。

監査の体制として、2025年3月期に監査を執行した公認会計士は平野泰久氏と高田雄介氏の2名で、いずれも継続監査年数は7年以内、補助者は公認会計士4名・その他3名と記載されています。最近連結会計年度の監査証明業務に基づく報酬は8,400千円で、非監査業務はありません。監査報酬は、事業規模等を勘案して監査法人から提示された見積書の内容を吟味し、監査役の同意を得て決定するとされています。監査法人選びの時期については監査法人はいつまでに決めるかも参考になります。

発行者情報に含まれる財務諸表と監査の範囲第24期(2024年3月期)連結初年度監査なし第25期(2025年3月期)監査法人やまぶきの監査第26期中間(2025年9月)監査法人やまぶきの期中レビュー特例第110条第5項に基づく監査。監査を執行した公認会計士2名(継続監査年数7年以内)補助者は公認会計士4名・その他3名。監査証明業務の報酬8,400千円(非監査業務なし)

図8 TPMで上場前に求められる監査期間は「最近1年間」。ベルチャイルドは第25期の連結財務諸表に監査法人やまぶきの監査、第26期中間連結財務諸表に期中レビューを受けている。第24期は監査を受けていない旨が注記されている

J-Adviser契約は上場維持の前提

TPMの上場会社は、担当J-Adviserとの契約を維持する必要があります。J-Adviserから契約解除の通知を受け、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約を締結できなかった場合は上場廃止となります。ベルチャイルドは事業等のリスクの最後に「担当J-Adviserとの契約の解除に関するリスク」を設け、日本M&Aセンターとの契約がTPMにおける新規上場と上場維持の前提となる契約であることを説明したうえで、契約の解除条項を詳細に開示しています。

開示されている条項は、日本M&Aセンターが即日無催告で解除できる20の事由(債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、法令違反及び上場契約違反等、反社会的勢力の関与など)と、事前催告に関する事項です。後者では、契約違反があった場合は1ヵ月の期間を定めて書面で是正を催告し、是正されなければ解除できること、合意によりいつでも解除できること、1ヵ月前の書面通知により解除できること、解除する場合は日本M&Aセンターがあらかじめ東証に通知することが定められています。発行者情報公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないと記載されています。

担当J-Adviser契約の解除条項(発行者情報の開示内容)日本M&Aセンターが即日無催告で解除できる事由(20項目)財務・事業の継続債務超過銀行取引の停止破産・再生・更生事業活動の停止組織再編・株式不適当な合併等完全子会社化全部取得・売渡請求株式併合・譲渡制限開示・法令発行者情報等の遅延虚偽記載・不適正意見法令・上場契約違反反社会的勢力の関与株主の権利ほか支配株主取引の毀損株主権利の不当な制限事務代行・振替機関その他契約違反は1ヵ月の書面催告後に解除可合意解除や1ヵ月前の書面通知による解除も可他のJ-Adviserを確保できなければ上場廃止

図9 事業等のリスク「担当J-Adviserとの契約の解除に関するリスク」に、即日無催告解除の20項目と事前催告の条項が開示されている。項目名を4つに分類して作成(分類は筆者)

一般市場(グロース・スタンダード)と何が違うのか

TPMの欄はJPXの公表資料で確認できた内容に限っています。TPMは一般市場の「簡易版」ではなく、投資家の範囲と審査の担い手が異なる別の市場です。

論点 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
市場の位置づけ 特定取引所金融商品市場(プロ向け市場) 一般の投資家が参加する市場
買付けができる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可) 制限なし
形式基準(数値基準) なし 株主数・流通株式などの基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認し宣誓書を提出 取引所の上場審査(主幹事証券の引受審査を経る)
申請から承認まで 原則10営業日(申請前にJ-Adviserの調査と意向表明) 一般に数か月の審査期間
上場前の監査 最近1年間 直前2期の監査が一般的
上場時の公表書類 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報相当) Ⅰの部・有価証券届出書など
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期の開示 任意 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意 金商法上の内部統制報告書制度の対象
会計基準・開示言語 日本基準・米国基準・IFRS等、日本語又は英語 日本基準・米国基準・IFRS等、日本語
コーポレートガバナンス・コード JPXが示す適用対象の記載なし スタンダードは全原則、グロースは基本原則
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 上場維持基準への適合

表のうち、コーポレートガバナンス・コードについては、JPXのコードのページが適用対象をプライム・スタンダード・グロースについてのみ示していることを記載したもので、TPM上場会社への適用関係を規程の条文で確認したものではありません。また、取締役会や監査役会などの機関設計についても、一般市場のような形式的な必須要件はJPXの資料では示されておらず、「企業の規模や成熟度等に応じて」体制が整備・運用されていることが求められる、という整理にとどめます。上場準備全体の流れについてはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)もあわせてご覧ください。

業績はどう推移しているか

発行者情報に掲載されている連結の経営指標は、第24期(2024年3月期)、第25期(2025年3月期)、第26期中間(2025年4月〜9月)の3期間分です。同社は第24期から連結財務諸表を作成しており、それより前の連結数値はありません。また、先に見たとおり第24期は監査を受けていない数値です。

項目(千円) 第24期(2024年3月期) 第25期(2025年3月期) 第26期中間(2025年9月)
売上高 4,392,403 4,659,896 2,603,707
営業利益 96,058 153,739 185,739
経常利益 111,666 204,393 206,861
親会社株主に帰属する当期(中間)純利益 77,838 141,340 136,451
純資産額 921,974 916,659 1,000,367
総資産額 1,685,784 1,617,318 1,758,945
自己資本比率 54.7% 56.7% 56.9%
自己資本利益率 8.4% 15.4% 14.2%
営業活動によるキャッシュ・フロー 147,569 65,342 195,698
現金及び現金同等物の残高 809,731 745,889 875,107
従業員数(名) 217 226 242
連結業績の推移(百万円)売上高01,2502,5003,7505,000第24期第25期第26期中間4,3924,6602,604利益060120180240第24期第25期第26期中間営業利益経常利益純利益営業利益 96→154→186/経常利益 112→204→207/親会社株主に帰属する純利益 78→141→136

図10 第26期は中間連結会計期間(6か月)のため斜線色で表示。百万円未満四捨五入。第24期は連結初年度で監査を受けていない数値、第26期中間は期中レビュー済みの数値。発行者情報「主要な経営指標等の推移」より

第25期は、売上高が前期比6.1%増の4,659,896千円、営業利益が60.0%増の153,739千円、経常利益が83.0%増の204,393千円、親会社株主に帰属する当期純利益が81.6%増の141,340千円でした。業績の説明では、保険・共済・年金を対象とした契約管理業務で大型システムの本番稼働を大きなトラブルなく完了した一方、売上的には大きな山を越えた反動で一時的に落ち着いたこと、インフラでは保険会社のシステム開発のピークに伴い関連案件の受注が増加したこと、IoTサービスではサブスクリプションモデルによる契約が増加したことが挙げられています。

第26期中間は、売上高2,603,707千円、営業利益185,739千円、経常利益206,861千円、中間純利益136,451千円です。中間連結財務諸表の作成初年度のため前年同期との比較はありませんが、中間期の営業利益だけで第25期通期の営業利益を上回っています。保険業案件では一部に規模縮小や延期がありつつも保険共済関連や団体保険関連で受注が拡大し、インフラ開発も主要顧客のクラウド関連や基盤更新案件で好調だったと説明されています。

経常利益と営業利益の差にも注目しておきます。第25期は営業外収益が52,110千円あり、その内訳には保険解約返戻金36,480千円、助成金収入8,153千円が含まれています。第26期中間にも保険解約返戻金18,240千円が計上されています。上場準備の段階では、本業の利益(営業利益)と、保険の解約や助成金といった本業以外の要因を分けて説明できるようにしておくことが、J-Adviserや投資家との対話で役立ちます。

第25期 営業利益から当期純利益まで(千円)営業利益153,739営業外収益+52,110営業外費用-1,456経常利益204,393法人税等-63,053純利益141,340

図11 営業外収益52,110千円には保険解約返戻金36,480千円と助成金収入8,153千円が含まれる。特別損益はない。発行者情報「連結損益計算書」より

キャッシュ・フローを見ると、第25期の営業活動によるキャッシュ・フローは65,342千円と、税金等調整前当期純利益204,393千円に比べて小さくなっています。主な要因として、仕入債務の減少66,215千円が挙げられています。財務活動では、長期借入れによる収入56,767千円に対し、自己株式の取得による支出103,109千円と配当金の支払額53,240千円があり、122,446千円の支出超過でした。第26期中間は、仕入債務の増加45,718千円などにより営業キャッシュ・フローが195,698千円まで回復しています。外注比率の高い受託開発会社では、買掛金の支払タイミングが営業キャッシュ・フローを大きく動かすことがわかります。

資本政策と株主構成:公募なしで上場するための株式の整理

ベルチャイルドの資本政策の特徴は、上場時に新株の発行も売出しも行わず、上場前に既存株主の間で株式を整理したことにあります。第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」を見ると、2024年7月12日に、取締役・執行役員などから、代表取締役の資産管理会社である株式会社ビーブライト(2024年5月設立、代表取締役は藤田氏)への移動、会社自身(自己株式)への移動、役職員への移動がまとめて行われています。

ビーブライトへの移動は合計212,000株で、移動理由は「経営安定化と将来的な資金調達の効率化に係る資本政策のため」です。会社への移動は合計68,000株で、理由は「将来の資本政策のため自社株式化」です。役職員3名(和田有史氏、篠田匡史氏、本田寿明氏)への各4,000株の移動は「経営参画への意欲向上のため」とされています。移動価格はいずれも1株1,516.32円(2025年9月の株式分割後に換算した単価)で、純資産価額方式を参考として当事者間での協議の上決定した価格と注記されています。

2024年7月の特別利害関係者等の株式移動(株)譲渡人→ビーブライト→当社(自己株式)→役職員計藤田好邦132,000――132,000北國政則50,00016,0004,000(和田)70,000永田剛一10,00024,0004,000(篠田)38,000各務勝己10,00028,0004,000(本田)42,000藤原宗10,000――10,000合計212,00068,00012,000292,0002024年7月12日の移動(株数は分割後換算)。単価はいずれも1,516.32円価格は純資産価額方式を参考に、当事者間で協議して決定したと記載

図12 資産管理会社への集約、自己株式としての取得、役職員への譲渡を同じ日に同じ単価で行っている。第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成

会社による68,000株の取得は、2024年6月26日の株主総会決議に基づくもので、取得期間は2024年7月1日〜12日、取得価額の総額は103,109千円です(会社法第155条第3号に該当する取得)。分割前の株式数でいえば34株にあたります。取得した自己株式は消却や処分をしておらず、2025年12月31日現在も68,000株(発行済株式総数の12.3%)を保有したまま上場しています。

株価算定の方法については、同じ日に同じ単価で、資産管理会社・会社・役職員という異なる相手方との取引が行われている点が目を引きます。上場前の株式の移動では、価格の決め方と相手方ごとの整合性が必ず確認されます。発行者情報の注記には、特例第115条及び同施行規則第106条により、会社は上場日から5年間、2023年4月1日から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の譲受け・譲渡の状況の記録を保存することとされている旨も書かれています。株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前の株式の移動に伴う論点は上場前に株式を動かすとどうなるかで詳しく解説しています。

株主 所有株式数(株) 株式総数に対する割合 属性
株式会社ビーブライト 212,000 38.40% 代表取締役が議決権の過半数を所有する資産管理会社
藤田好邦 120,000 21.73% 代表取締役 社長執行役員
株式会社ベルチャイルド 68,000 12.32% 自己株式
永田剛一 60,000 10.87% 取締役 執行役員
各務勝己 60,000 10.87% 執行役員
北國政則 10,000 1.81% 取締役 執行役員
藤原宗 10,000 1.81% 執行役員
和田有史 4,000 0.72% 執行役員
本田寿明 4,000 0.72% 執行役員
篠田匡史 4,000 0.72% 従業員
計 552,000 100.00%

上場申請時点の株主は、自己株式を含めて10名です。代表取締役の所有株式数はビーブライト名義の212,000株を含めて332,000株と記載されており、株式総数の約60.1%、自己株式を除く議決権ベースでは約68.6%(いずれも筆者計算)になります。なお、この比率は上場時点のものとして書かれた数字ではなく、発行者情報に記載された株主の状況に基づくものです。ただし、同社は上場時に新株の発行も売出しも行っていないため、上場によって発行済株式数そのものは変わっていません。

株式数と単元の整え方も、上場前の典型的な手順です。分割前の発行済株式は276株で、2025年8月18日の取締役会決議により2025年9月1日付で1株を2,000株に分割し、発行済株式総数は552,000株、発行可能株式総数は2,208,000株となりました。さらに2025年10月29日の株主総会決議で1単元を100株とする単元株制度を採用しています。分割の目的は、投資単位当たりの金額を引き下げ、当社株式の流動性の向上と投資家層のさらなる拡大を図ることとされています。新株予約権やストック・オプションはなく、潜在株式もありません。

上場申請時点の株主構成(発行済株式552,000株)藤田氏+ビーブライト60.14%(332,000株)執行役員4名14.13%(78,000株)取締役2名(永田・北國)12.68%(70,000株)自己株式12.32%(68,000株)従業員1名0.72%(4,000株)自己株式を除く議決権ベース(484,000株)では、藤田氏関係は約68.6%(筆者計算)

図13 株主は資産管理会社・役職員と自己株式のみで、外部の株主はいない。比率は株式総数に対する割合(藤田氏関係は筆者合算)。第四部「株主の状況」より

上場に向けた株式数・単元の整え方分割前発行済276株2024年7月自己株式34株取得(分割後68,000株)2025年9月1日1株→2,000株発行済552,000株2025年10月29日単元株制度1単元100株議決権の数 4,840個(自己株式68,000株を除く484,000株)分割の目的:投資単位当たりの金額を引き下げ、流動性の向上と投資家層の拡大を図る

図14 分割前の発行済株式は276株。1株を2,000株に分割し、100株を1単元とする単元株制度を採用した。新株予約権・ストック・オプションはない。発行者情報「株式等の状況」「重要な後発事象」より

配当についても触れておきます。同社は2024年7月22日の取締役会決議で53,240千円(分割前1株当たり220,000円)、2025年6月25日の株主総会決議で53,240千円(同)の配当を行っており、第25期の配当性向は78.9%です。配当方針は年1回の期末配当を基本とし、中間配当は取締役会決議で行うことができる旨を定款に定めています。資本政策の全体像は上場準備の資本政策にまとめています。

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コーポレート・ガバナンス:取締役3名・監査役1名の機関設計

ベルチャイルドの取締役会は3名で構成されています。代表取締役 社長執行役員の藤田好邦氏、取締役 執行役員 管理本部長の北國政則氏、取締役 執行役員 保険システム開発本部長の永田剛一氏で、いずれも社内の取締役です。発行者情報には「当社は社外取締役を選任しておりません」と明記されています。北國氏は2000年の有限会社設立時から、永田氏は2007年から取締役を務めており、創業期からの経営陣で取締役会が構成されています。

監査役は1名で、京セラ、京都パープルサンガ、ソフツーで管理部門の要職やCFOを務めた西村尚氏が2024年6月に就任しています。西村氏は会社法第2条第16号に定める社外監査役で、当社との間に特別な利害関係はないと記載されています。社外役員の独立性に関する基準や方針は特に定めていないものの、選任に際しては取引関係等を考慮しているとのことです。定款では取締役を5名以内、監査役を2名以内と定めています。

取締役会は毎月1回の定時開催に加え、必要に応じて臨時に開催し、法令・定款・社内規程で定めた事項や重要な業務に関する事項を決議します。それ以外の業務執行の意思決定は社内規程により代表取締役及び各担当取締役に委任し、その結果と執行状況を取締役会に報告する仕組みです。意思決定・監督と執行の分離のために執行役員制度を導入しており、執行役員は社長、管理本部長、保険システム開発本部長、クラウドサービス推進本部長、DX推進本部長、DX推進本部(技術推進)、経営管理室長、内部監査室長の8名です。

ベルチャイルドの機関設計株主総会監査法人やまぶき取締役会(3名・全員社内)毎月1回の定時開催監査役(1名・社外監査役)取締役会に出席代表取締役 社長執行役員経営会議(週次)議長:代表取締役執行役員8名4本部制内部監査室代表取締役の指示で監査選任選任連携

図15 取締役3名はいずれも社内の取締役で、社外取締役は選任していない。監査役は社外監査役1名。執行役員は8名。発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成(会計監査は監査法人やまぶき)

一般市場の上場会社を見慣れた方からすると、社外取締役がいない、監査役が1名という体制は珍しく映るかもしれません。ただ、前述のとおりTPMでは一般市場のような機関設計の形式要件はJPXの資料で示されておらず、ガバナンスと内部管理体制が「企業の規模や成熟度等に応じて」整備・運用されているかをJ-Adviserが調査する枠組みです。ベルチャイルドの事例は、取締役会設置会社・監査役設置会社という会社法上の機関設計を基本に、週次の経営会議と執行役員制度で業務執行を回す体制でTPMに上場したケースとして読むことができます。将来一般市場を目指す場合には、市場ごとの要件に照らして改めて機関設計を検討することになります。機関設計の選び方はIPO審査の「機関設計」とはをご覧ください。

役員報酬は、2025年3月期の総額が64,980千円で、内訳は取締役(社外取締役を除く)61,980千円(4名)、社外役員3,000千円(2名)と記載されています。いずれも基本報酬のみで、賞与や退職慰労金はありません。対象員数(取締役4名・社外役員2名)は現在の役員数と一致しませんが、発行者情報にはその内訳の補足説明はなく、報酬の決定方針についての記載も見当たりません。

関連当事者取引と支配株主との取引

関連当事者との取引の注記では、第24期に、代表取締役の藤田氏から当社の銀行借入に対する債務保証(期末の被保証残高13,598千円、保証料の支払なし)を受けていたこと、子会社Puertoの事務所賃貸借契約について同社代表取締役の本田寿明氏から債務保証(保証料の支払なし)を受けていたことが開示されています。第25期の関連当事者との取引は「該当事項はありません」です。代表者による債務保証は、上場準備で解消を求められることが多い典型的な取引です。社長個人と会社の取引の整理は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。

また、「支配株主との取引を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針」として、支配株主との取引は一般の取引条件と同等の条件に照らして決定すること、関連当事者取引は取締役会の承認を必要とし、取締役会で適時に把握して少数株主の利益を損なう取引を排除する体制を構築していることが記載されています。創業者グループが議決権の過半数を持つ会社にとって、この指針をどう運用するかは上場後も問われ続ける論点です。

内部監査・内部統制・リスク管理の体制

内部監査は、代表取締役の指示により内部監査室が各部門に対して実施しています。目的は、会社組織・制度及び業務が経営方針及び社内規程等を遵守し、適切に遂行されているかを検証・評価し、助言することにより業務改善を推進することとされています。内部監査室長は執行役員の中野誠司氏です。発行者情報には内部監査室の人数や兼務の有無の記載はありませんが、監査役及び会計監査人と連携しながら効果的・効率的な監査となるよう留意していると書かれています。

監査役の項目では、内部監査担当者、監査役、監査法人が、それぞれの監査計画や進捗状況、監査結果などに関する情報を交換し、効果的かつ効率的な監査の実施に努めているとされています。いわゆる三様監査の連携です。監査役が1名の体制では、内部監査室と監査法人の情報をどう監査役に集めるかが特に重要になります。三様監査の考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)を、内部監査の始め方は内部監査の始め方をご覧ください。

内部統制システムについては、職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを回避して内部牽制機能が働くよう努めていると記載されています。リスク管理は経営管理室を主管部署として情報を一元管理し、リスク管理規程に基づいて潜在的リスクの早期発見と事故・不祥事等への対応を行います。必要に応じて弁護士等の複数の専門家から助言を受ける体制もとっています。

リスク管理で特徴的なのは、代表取締役を議長とする「経営会議」の活用です。経営会議は常勤取締役、社外監査役、執行役員で構成され、週次で開催されており、コンプライアンスの遵守状況や事業におけるリスクの把握、改善についての意見交換と情報共有を行っています。社外監査役が週次の経営会議の構成員になっている点は、社外取締役がいない体制のなかで、外部の目を日常の業務執行に近い場所に置く工夫として読むことができます。

三様監査の連携とリスク管理の仕組み三様監査リスク管理監査役(社外・1名)内部監査室監査法人やまぶき計画・進捗・結果を相互に共有リスク管理の主管経営管理室経営会議(週次)常勤取締役・社外監査役・執行役員必要に応じて弁護士等の専門家の助言

図16 内部監査担当者・監査役・監査法人は監査計画や進捗、結果の情報を交換すると記載。リスク管理は経営管理室が主管し、週次の経営会議でコンプライアンスとリスクを把握する。発行者情報をもとに作成

会計・開示の論点

収益認識:請負・準委任の開発は進捗度で認識

ベルチャイルドグループは、主に請負契約又は準委任契約によるソフトウェア開発を提供しています。重要な会計方針では、ソフトウェア開発は開発中のシステム等を他の顧客又は別の用途に振り向けることができず、完了した作業に対する支払を受ける強制可能な権利を有していることから、一定の期間にわたり充足される履行義務であると判断し、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、その進捗度に基づき収益を認識すると記載されています。契約の開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い案件や、重要性が僅少な案件については、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識します。

会計方針の変更として、「収益認識に関する会計基準」等を第25期の期首から適用したことも記載されています。これにより、従来は顧客から受け取る対価の総額で収益を認識していた取引のうち、顧客に移転する財又はサービスを支配しておらず手配のみを行う代理人取引と判断したものは、純額で収益を認識する方法に変更しました。経過的な取扱いに従い、前連結会計年度(第24期)は新たな表示方法による組替えを行っておらず、第24期の収益認識関係の注記も記載していません。収益の分解情報、契約資産・契約負債、残存履行義務については、重要性が乏しいとして記載を省略しています。

ソフトウェア開発の収益認識の判断請負契約・準委任契約によるソフトウェア開発期間がごく短い案件又は重要性が僅少な案件か完全に充足した時点で認識一定の期間にわたり充足される履行義務(他に転用できず、完了部分の支払を受ける権利あり)履行義務の充足に係る進捗度を見積り、収益を認識代理人取引は純額で認識はいいいえ

図17 請負・準委任によるソフトウェア開発は、一定の期間にわたり充足される履行義務として進捗度に基づき収益を認識する。第25期から収益認識会計基準を適用し、代理人取引と判断した取引は純額で認識する方法に変更した。発行者情報「重要な収益及び費用の計上基準」「会計方針の変更」より

上場準備の観点では、進捗度の見積りの方法(原価比例法を使うのか、工数で測るのか、見積総原価をいつ・誰が見直すのか)と、それを支える原価管理・プロジェクト管理の仕組みが重要です。同社は対処すべき課題で、プロジェクトの遂行組織から独立した専門部署による見積段階の内容チェック、案件の進捗管理、品質チェックを挙げており、事業等のリスクでも大型・複雑・短納期の開発で品質や納期を確保できない場合のコスト増大の可能性を挙げています。収益認識の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。

重要な会計上の見積りとその他の注記

重要な会計上の見積りとして開示されているのは、繰延税金資産の回収可能性の1項目です。繰延税金資産の計上額は第24期末33,133千円、第25期末17,969千円で、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に基づく企業の分類、将来の課税所得の見積り、将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリング等を考慮して回収可能と判断した金額を計上しています。評価性引当額はありません。税効果会計適用後の法人税等の負担率は、第24期26.39%、第25期30.85%です。

このほか、2023年11月30日に持分法適用関連会社だったPuertoの株式を追加取得して連結子会社とした企業結合の注記があります。議決権比率は32.8%から100.0%となり、取得原価は15,250千円(企業結合直前に保有していた株式の時価5,000千円と追加取得の支出10,250千円)、段階取得に係る差益は1,138千円で、のれん・負ののれんは発生していません。連結財務諸表は日本の会計基準に準拠して作成されており、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)は2028年3月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。TPMでは日本基準のほか米国基準やIFRSなども選択できますが、同社は日本基準を採用しています。

事業等のリスクと、上場準備で説明が求められやすい点

発行者情報の事業等のリスクには15項目が挙げられています。そのうち、上場準備の観点で説明が求められやすいものを表に整理します。

リスク項目 発行者情報の記載の要点 上場準備での論点
特定企業への依存 ニッセイ情報テクノロジー向けが2025年3月期で55.8% 取引の継続性、契約条件、依存度を下げる方針
協力会社の確保 製造費用に占める外注費の割合は6割超 外注先の選定・評価、取適法・派遣法の遵守
システム開発リスク 大型・複雑・短納期の開発で品質未達やコスト増の可能性 見積・進捗・品質の管理と収益認識の見積り
特定の人物への依存 代表取締役 藤田好邦氏が経営方針・事業戦略で重要な役割 権限委譲と情報共有、後継体制
人材の採用と育成 IT人材の獲得競争の激化 採用計画と人件費、定着策
法的規制 労働者派遣法(許可は2030年12月31日まで)、取適法、電気通信事業法、労働基準法 許認可の管理、長時間労働の防止
内部管理体制 成長途上で一層の充実が必要と認識 事業規模に応じた体制強化の計画
担当J-Adviserとの契約 契約の解除で他のJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止 解除条項の理解と継続的な適格性の維持

特に注目したいのは「内部管理体制について」の項目です。同社は、未だ成長途上にあり、事業が継続的に拡大成長するうえで必要な経験等が十分に蓄積されていないと考えており、事業規模の拡大に合わせて内部管理体制も充実・強化させていく方針だと記載しています。上場時点で体制が完成していることを示すのではなく、規模に応じて強化していく前提を明示する書き方は、「企業の規模や成熟度等に応じて」体制が整備されていることを求めるTPMの考え方と整合的です。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

ベルチャイルドの発行者情報には、将来グロース市場やスタンダード市場へ移ることについての記載はありません。そのため、同社がステップアップを予定しているかどうかは本記事では扱いません。ここでは、TPMを一般市場上場への助走の場として考えている会社向けに、制度上の一般論を整理します。

まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する手続として扱われます。実例として、AlbaLink(5537)はTPMの上場廃止日が2025年12月14日、グロース市場への新規上場日が2025年12月15日で、新規上場時に公募・売出しを行いました。東証の資料では、2025年11月時点でTPMから一般市場へ上場した企業は15社とされています。

次に、審査の負担です。東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場にあたっての審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ、相応の負担があるとの現状認識を示しました。そのうえで2026年4月の資料で、TPM実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定していると公表しています。2026年10月7日時点でこれらが実施済みかどうかは、本記事では確認していません。

ベルチャイルドの事例に即していえば、一般市場の新規上場では、監査を受けた期間、機関設計、社外役員、流通株式、ストック・オプションや従業員持株会の設計など、TPM上場時には求められなかった論点を改めて検討することになります。TPM上場中に発行者情報や適時開示を継続し、内部監査やリスク管理の運用実績を積み上げておくことは、どの道を選ぶにしても上場会社としての土台になります。

TPMから一般市場へ移る場合の流れ(一般論)TPM上場発行者情報・適時開示を継続一般市場の上場準備・審査(改めて確認)TPMの申請による上場廃止一般市場へ新規上場事例:AlbaLink(5537)はTPM上場廃止日2025年12月14日、グロース市場への新規上場日2025年12月15日(新規上場時に公募・売出しを実施)東証は2026年4月に「26年秋めど」でTPM実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化を予定と公表(2026年10月7日時点の実施状況は本記事では確認していない)

図18 TPMから一般市場への移行は市場区分の変更ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われる(AlbaLinkの事例)。ベルチャイルドの発行者情報には将来の市場変更に関する記載はない

上場準備会社がベルチャイルドの事例から学べること

最後に、この事例から上場準備会社が引き出せる実務上の示唆をまとめます。いずれも同社の記載を出発点に、一般論として整理したものです。

1. 上場の目的と市場の選択を、最初に言語化する

同社の発行者情報にはTPMを選んだ理由の記載はありませんが、2026年4月以降、東証は新規上場時に上場目的を検討・開示するよう求めています。資金調達をしない上場であればなおさら、信用力、採用、ガバナンスの強化など、上場で何を実現したいのかを社内で整理しておくことが、市場の選択と上場後の開示の軸になります。

2. 公募・売出しをしない上場の書類と手続を理解する

上場時に特定投資家向けの勧誘を行わない場合、公表書類は発行者情報に相当する情報になります。新株を発行しない以上、上場時の資金は手元資金と借入で賄うことになり、同社も上場予定日から12か月間の運転資本は自己資本及び借入で十分と説明しています。資金計画を数字で示せることが前提です。

3. 「最近1年間」の監査を前提に、決算と連結の体制を早めに作る

同社は第24期から連結財務諸表を作成し、第25期に監査を受け、第25期の期首から収益認識会計基準を適用しています。監査期間が短いからといって準備期間が短くてよいわけではなく、連結決算、会計方針の整備、中間期のレビュー対応までを逆算して計画する必要があります。

4. 株式の移動は価格の根拠と目的を記録に残す

資産管理会社への集約、自己株式の取得、役職員への譲渡を同じ日に同じ単価で行い、価格は純資産価額方式を参考に協議で決めたと開示しています。移動の目的、価格の根拠、決議の手続を記録として残しておくことが、上場後5年間の記録保存の対象にもなります。

5. 機関設計は規模に応じて選び、外部の目をどこに置くかを工夫する

取締役3名・社外監査役1名という体制でも、週次の経営会議に社外監査役が加わり、三様監査で情報を交換する仕組みを作っています。形式要件がない市場だからこそ、牽制がどこで働いているのかを自社の言葉で説明できることが重要です。

6. 代表者の債務保証などの関連当事者取引は早めに解消する

第24期に開示されていた代表者による借入の債務保証は、第25期には関連当事者取引として「該当事項なし」となっています。関連当事者取引の洗い出しと解消、取締役会承認のルール化は、市場を問わず上場準備の早い段階で着手すべき項目です。

7. J-Adviserとの契約を「上場の前提」として管理する

TPMではJ-Adviserとの契約が上場維持の前提であり、同社は解除条項を詳細に開示しています。発行者情報の提出遅延や虚偽記載も解除事由に含まれるため、開示の期限管理と内容の正確性を担保する社内体制が、そのまま上場維持の条件になります。適時開示体制の作り方はIPOの適時開示体制をご覧ください。

上場準備のチェックリスト

  • 上場の目的と、TPM・一般市場のどちらを選ぶかの理由を、社内で言葉にしているか
  • 上場時に公募・売出し(特定投資家向けの勧誘)を行うかを決め、必要な公表書類と運転資金の計画を確認したか
  • 監査を受ける期間と、連結決算・収益認識などの会計方針の整備を逆算したスケジュールがあるか
  • 上場前の株式の移動について、目的・価格の根拠・決議の記録を残しているか
  • 取締役会・監査役・内部監査・監査法人の連携と、社外の目が入る場を説明できるか
  • 代表者の債務保証などの関連当事者取引を洗い出し、解消又は承認ルールを整備したか

よくある質問

Q1. TPMに上場するとき、必ず資金調達をするのですか。

いいえ。ベルチャイルドのように、上場時に特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行わずに上場する会社もあります。その場合、同社の表紙の記載のとおり、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表します。東証の集計でも、上場目的として「増資」を挙げる会社は1割程度です。

Q2. TPMでは上場審査がないのですか。

形式基準(数値基準)はありませんが、担当J-Adviserが上場適格性要件を調査・確認し、東証も意向表明後に面談を行います。上場申請から承認までは原則10営業日ですが、その前にJ-Adviserの調査が行われます。

Q3. TPMでは監査を受けなくてもよいのですか。

監査は必要です。上場前に求められる監査期間が「最近1年間」であるという点が一般市場と異なります。ベルチャイルドも第25期の連結財務諸表について監査法人の監査を、第26期中間について期中レビューを受けています。

最初の一歩は「上場の目的」と「株式の現状」の棚卸しから

TPMを含めて上場を検討し始めたら、まず「なぜ上場するのか」と「いま誰が何株を持っているのか」を1枚にまとめてみてください。上場の目的が決まれば市場と資金調達の要否が決まり、株主の現状がわかれば、資産管理会社の活用、自己株式の扱い、株式分割や単元株の設計といった資本政策の論点が見えてきます。ベルチャイルドの事例は、その2つを整理したうえで、監査・ガバナンス・開示の体制を規模に合わせて整えた一つのモデルといえます。

まとめ

株式会社ベルチャイルドは、保険業向けを中心とするシステム開発とIoTサービスを手がける大阪の会社で、2026年1月15日の上場申請、1月29日の上場承認を経て、2026年2月5日にTOKYO PRO Marketへ上場しました。担当J-Adviserは日本M&Aセンターです。上場時に特定投資家向けの勧誘を行わなかったため、公表書類は特例第110条第3項に基づく発行者情報に相当する情報であり、公募・売出しのない上場です。

公表書類からは、最近1年間の監査と中間の期中レビュー、資産管理会社への株式の集約と自己株式の取得、1株を2,000株とする株式分割と単元株制度の採用、取締役3名・社外監査役1名と週次の経営会議による体制、進捗度による収益認識、そしてJ-Adviser契約の解除条項の開示といった、TPM上場の実務が具体的に読み取れます。TPMという市場の特徴と自社の目的を照らし合わせながら、本記事のチェックリストを準備の確認にお使いください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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