※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
株式会社プレシャスパートナーズ(証券コード501A)は、2026年1月9日に上場申請が受け付けられ、1月26日に東京証券取引所から上場承認を受けて、2026年2月5日に TOKYO PRO Market(TPM)へ上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社です。2008年4月に求人広告の代理店として設立された会社で、現在は「バイトル」「マイナビ」「Indeed」などの求人広告商材の提案に加え、新卒採用の「WinC」、中途採用の「WinC PRO」、採用代行、採用ツール制作まで、企業の採用活動を幅広く支援しています。本記事では、上場に際して東証のウェブサイトで公表された書類を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、プレシャスパートナーズの事例は「公募も売出しも行わず、最近1年間の監査と少人数の管理体制でTPMに上場した中小規模の会社」の具体像を確認できる、TPM上場を検討する会社にとって参考になりやすいケースです。同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行わなかったため、上場時の書類は「特定証券情報」ではなく「発行者情報」に相当する情報として公表されています。監査を受けたのは直前の1事業年度と中間会計期間のみで、機関設計は取締役4名と社外監査役1名、内部監査の担当者は1名です。以下、書類の記載に沿って、TPMの仕組みとあわせて読み解いていきます。
この記事の見出し
会社と上場の概要
まず、書類と東証の新規上場会社情報から、会社と上場の基本情報を整理します。上場日・上場承認日・申請受付日・担当J-Adviserは、TPMの上場の流れを理解するうえで重要な情報です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社プレシャスパートナーズ(PRECIOUS PARTNERS Co., Ltd.) |
| 証券コード | 501A |
| 市場 | TOKYO PRO Market |
| 上場日 | 2026年2月5日 |
| 上場承認日 | 2026年1月26日 |
| 上場申請受付日 | 2026年1月9日(発行者情報の公表日も同日) |
| 担当J-Adviser | フィリップ証券株式会社 |
| 本店所在地 | 東京都新宿区西新宿二丁目6番1号 |
| 設立 | 2008年4月(東京都渋谷区で設立) |
| 代表者 | 代表取締役社長 CEO 髙﨑誠司 |
| 決算期 | 3月(事業年度は4月1日から翌年3月31日) |
| 事業 | 採用コンサルティング事業(単一セグメント) |
| 従業員数 | 162名(ほか臨時雇用者7名)、平均年齢29.0歳、平均勤続年数3.92年(2025年11月30日現在) |
| 子会社 | なし(連結財務諸表は作成していない) |
| 公募・売出し | なし(特定投資家向け取得勧誘・特定投資家向け売付け勧誘等を実施しない) |
| 会計監査 | 監査法人コスモス |
表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表する旨が書かれています。つまり、同社の上場時の書類は表題が「発行者情報」となっています。一般市場の新規上場であれば有価証券届出書や「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を読むところですが、TPMでは書類の名称と根拠が異なる点に注意が必要です。
東証の新規上場会社情報では、本記事が読む書類は特定証券情報の欄に掲載されています。ただし、本件の書類そのものの表題は「発行者情報」であり、本記事はこの発行者情報を読んでいます。
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
上場準備会社にとって最も気になるのは「なぜグロース市場やスタンダード市場ではなく、TPMを選んだのか」という点でしょう。ただし、同社の発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的を直接説明した記載は見当たりません。対処すべき課題には人財の採用と育成、組織体制の強化と営業体制の拡充、権限委譲の推進、協業先の確保、財務体質の強化、コーポレート・ガバナンスの推進が並んでいますが、これらを上場目的として結び付ける記述はありません。そこで本記事では、同社の理由を推測するのではなく、TPMという市場の一般的な特徴を整理します。
東証は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。東証が2026年6月15時点の開示状況をまとめた資料では、上場目的として多いのは社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は11社(10%)にとどまっています。TPM上場は資金調達の手段というより、信用力や採用力、管理体制の強化を目的として使われることが多い市場だといえます。
同社のように上場時に資金調達を行わない形は、こうしたTPMの使われ方の一例です。なお、同社は上場申請が2026年1月で、上記の要請(2026年4月)より前の上場であることも付け加えておきます。
図1 求人広告媒体の掲載枠などを仕入れて顧客企業に提案し、新卒・中途の自社サービスでは求職者・学生との接点も自ら持つ構造。単一セグメントで5つのサービスに大別される。発行者情報「事業の内容」をもとに作成
事業内容と収益モデル
同社は「仕事を通じて人々の人生を豊かにする」というミッションを掲げ、設立以来2万社超の採用を支援してきたと記載しています。セグメントは採用コンサルティング事業の単一セグメントですが、業務は「採用支援サービス」「新卒採用サービス」「中途採用サービス」「人事コンサルティングサービス」「採用ツール制作サービス」の5つに大別されています。
売上の中心は採用支援サービスで、2025年3月期の売上構成比は88.0%です。採用手法のプランニング、面接後や内定後のフォローアップのほか、「バイトル」「マイナビ」「Indeed」などの求人広告商材を企業の採用ニーズに合わせて提案しています。アルバイト・パート採用向けには、応募受付から面接設定までを自動化する「RECRAC(リクラク)」を提供し、AIによる録画面接機能も搭載しています。
今後注力するとしているのが新卒採用サービス「WinC(ウインク)」です。経営者が自ら企業理念やビジョンを発信し、「誰と働くか」という観点で学生と企業を結び付ける理念共感型のサービスで、就職情報サイト、経営者と学生が集まる新卒採用イベント「WinC Audition」、新卒人材紹介「WinC Agent」で構成されています。2025年7月には、エントリー後に社長・経営者とのカジュアル面談を必ず行うハイクラス向けの中途人材紹介「WinC PRO」を始めています。
図2 上段は2024年3月期、下段は2025年3月期。採用支援サービスが売上高の大半を占める。収益認識関係注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より作成
サービス別の売上高をみると、2025年3月期は採用支援サービスが1,195,771千円、新卒採用サービスが106,006千円、採用ツール制作サービスが37,319千円、人事コンサルティングサービスが20,473千円でした。2025年9月中間期からは中途採用サービス(7,082千円)が区分されています。なお、売上高の10%以上を占める販売先はないと記載されています。
収益認識:求人広告は「代理人」として純額で計上
採用支援の会社を読むときに確認したいのが、収益をどの時点で、いくらで認識しているかです。同社の重要な会計方針では、求人広告掲載について「代理人として履行義務である広告掲載を実施」し、広告を掲載した時点で、手数料部分を収益として認識すると記載されています。人材紹介は本人として求職者が内定した日に、イベント型は本人としてイベントを開催した時点に、人事コンサルティングはサービス提供開始時点に、採用ツール制作は納品時点に収益を認識しています。
図3 求人広告掲載は代理人取引として手数料部分のみを収益とし、人材紹介は求職者の内定日に収益を認識する。「記載なし」は発行者情報に本人・代理人の区分や計上額の記載がない項目。重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」をもとに作成
本人か代理人かの判断は、売上高の大きさを左右します。求人媒体の掲載枠を仕入れて顧客に提供する取引で、会社が代理人と判断されれば、顧客から受け取る対価の総額ではなく、媒体への支払いを差し引いた手数料部分(純額)が売上高になります。同社の2025年3月期の売上総利益率は約94%です。代理人として純額で計上する場合、売上高と売上原価はいずれも総額で計上する場合より小さくなるため、売上高や利益率を同業他社と比べるときは、収益の計上方法をそろえて読む必要があります。上場準備では、取引ごとに「財やサービスを顧客に提供する前に支配しているか」を整理し、会計方針として説明できるようにしておくことが求められます。詳しくは上場審査で問われる収益認識もご覧ください。
沿革と上場までの道のり
同社は2008年4月、求人広告の代理店事業(現在の採用コンサルティング事業)を目的に東京都渋谷区で設立されました。2012年3月にディップ株式会社から「バイトル TOP パートナー」の認定を受け、同年4月には有料職業紹介事業の許可を取得しています。2014年2月に本社を新宿区へ移し、2015年3月に名古屋、2016年10月に大阪、2018年1月に福岡に支社を開設しました。
新卒領域では、2015年11月に就職支援サイト(現在の「WinC」)、2018年9月に新卒人財紹介(現在の「WinC Agent」)、2019年3月に就職イベント(現在の「WinC Audition」)を立ち上げています。2020年10月にはアルバイト採用の応募受付・日程調整を自動化する「リクラク」をリリースし、2024年7月に人事コンサルティングサービス、2025年7月に中途人財紹介「WinC PRO」を始めました。2024年11月には Indeed の認定パートナー制度で「シルバー+パートナー」に認定されています。
図4 上段は事業の歩み、下段は上場準備期の主な出来事。発行者情報「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成
上場準備期の株式に関する動きとしては、2025年3月に代表取締役社長から同氏の資産管理会社への株式移動、2025年6月に1株を100株とする株式分割と単元株制度(1単元100株)の導入があり、2026年2月の上場につながっています。これらは後の「資本政策と株主構成」で詳しく見ます。
TOKYO PRO Marketの上場の仕組み
TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づいて2009年6月に開設された TOKYO AIM を前身とし、2012年7月から東証が運営している市場です。法令上は「特定取引所金融商品市場」と位置づけられ、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場です。ここでは、同社の記載に即してTPMの仕組みを確認します。
特定投資家向けの市場であること
TPMで株式を買い付けられるのは、原則として特定投資家等です。特定投資家は、適格機関投資家、国、日本銀行、投資者保護基金その他内閣府令で定める法人で、一定の要件を満たす個人も特定投資家へ移行できます。一般投資家は取引所で株式を買い付けることはできませんが、すでに保有している株式を売却することはできます。「一般投資家は一切取引できない」という説明は正確ではありません。
同社の発行者情報の冒頭にも「投資者に対する注意事項」として、TPMが特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合があること、発行者情報に虚偽の情報や重要な情報の欠落があった場合に、公表時の役員が金融商品取引法に基づく損害賠償責任を負うことなどが記載されています。
形式基準はなく、J-Adviserが上場適格性を調査する
TPMには、株主数・流通株式・利益の額といった数値による形式基準がありません。その代わりに、東証が資格を認めたJ-Adviserが、上場申請会社の上場適格性を調査・確認します。上場適格性要件は、(1)企業としての相応性(法律・会計・税務の理解、予算統制、上場予定日から12か月間の運転資金の確保など)、(2)事業を公正かつ忠実に遂行していること、(3)コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していること、(4)企業内容等の開示を適正に行える体制、(5)反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5つです。
同社の発行者情報には、「上場予定日から12か月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分であると認識しております」という記載があります。上場適格性要件の一つである運転資金の確保に対応した記載だと読めます。「形式基準がない=審査がない」わけではなく、J-Adviserによる調査と東証の面談を経て上場が承認されることを押さえておきましょう。
図5 上場申請(2026年1月9日)から10営業日目の1月26日に上場承認、2月5日に上場した。申請前の流れはTPMの一般的な手順で、各段階の日付は発行者情報に記載がない。日付は東証の新規上場会社情報による
東証の上場ガイドブック(TPM編)によると、上場までの流れは、J-Adviser契約の締結、担当J-Adviserによる調査・確認、上場申請日の30営業日程度前までの意向表明(上場申請意向書の提出)、東証による担当J-QSとの面談を経て、上場申請(対外公表)に進みます。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。同社の場合、申請受付日が2026年1月9日、上場承認日が1月26日で、成人の日の休日を除くと申請から10営業日目に承認されています。承認から上場日の2月5日までは10日でした。
一般市場の新規上場では、東証の上場審査に数か月を要するのが一般的ですが、TPMでは審査の実質的な部分を申請前のJ-Adviserの調査が担うため、申請から承認までの期間が短くなっています。ただし、申請前の準備期間が短いという意味ではありません。同社の発行者情報には、J-Adviser契約の締結時期や調査期間は記載されていません。
開示書類:特定証券情報と発行者情報
特定投資家向け取得勧誘(いわゆるプロ私募)や特定投資家向け売付け勧誘等を行う場合、発行者は「特定証券情報」を提供又は公表する必要があります。同社は上場に際してこれらの勧誘を行わなかったため、先に見たとおり、特例第110条第3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表しています。
上場後の継続開示は「発行者情報」です。TPM上場会社は、事業年度と中間会計期間の末日から3か月以内に発行者情報を作成・公表します。一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは名称も根拠も異なる書類で、様式や内容は取引所規則で定められています。開示の言語は日本語又は英語を選べます。また、決算情報を含む適時開示の義務はありますが、四半期開示(決算短信)と内部統制報告書は任意とされています。
図6 上場後は年次と中間の年2回、それぞれ期末後3か月以内に発行者情報を公表する。有価証券報告書・半期報告書ではなく「発行者情報」という名称の書類である。四半期開示と内部統制報告書は任意。東証「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに作成
監査期間は「最近1年間」
TPMで新規上場する際に必要な監査期間は「最近1年間」です。同社の場合、監査法人コスモスの監査を受けているのは第17期(2024年4月1日から2025年3月31日)の財務諸表と、第18期中間会計期間の中間財務諸表(中間監査)です。「主要な経営指標等の推移」の注記には、第15期と第16期の財務諸表は監査を受けていないことが明記されています。また、第15期はキャッシュ・フロー計算書を作成していないため、その期のキャッシュ・フローの数値は記載されていません。
監査期間が1年で足りるとはいえ、監査を受けた期の期首残高(前期末の残高)の妥当性は監査人が確認する必要があり、監査初年度の対応は相応の負担になります。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかで詳しく解説しています。
一般市場(グロース・スタンダード)との違い
ここまでの内容を、一般市場との比較で整理します。TPMの欄は東証の公表資料に基づく内容です。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は売却のみ可能) | 一般投資家を含む |
| 数値による形式基準 | なし | 株主数・流通株式などの基準あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認し、東証が面談 | 東証の上場審査(実質審査) |
| 申請から承認まで | 原則10営業日 | 一般に数か月 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 上場時の開示書類 | 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) | 有価証券届出書など |
| 上場後の継続開示 | 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 取引所規則上の四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| コーポレートガバナンス・コード | JPXが示す適用対象の記載なし | グロースは基本原則、スタンダードは全原則 |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約 | - |
表のとおり、TPMは一般市場に比べて上場時の数値基準や開示の負担が軽い一方、担当J-Adviserとの契約が上場維持の前提になるという独自の仕組みがあります。この点は同社の事業等のリスクにも詳しく書かれており、後の章で取り上げます。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
業績の推移と読み方
発行者情報の「主要な経営指標等の推移」には、第15期(2023年3月期)から第17期(2025年3月期)までの3期分と、第18期中間会計期間(2025年9月中間期)の数値が掲載されています。一般市場のⅠの部が5期分の推移を載せるのに比べると期間は短く、さらに監査を受けているのは第17期と中間期だけである点に注意して読む必要があります。
| 項目(千円) | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2025年9月中間期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 999,396 | 1,112,070 | 1,359,570 | 722,421 |
| 経常利益 | 66,651 | △2,326 | 72,985 | 2,390 |
| 当期(中間)純利益 | 44,471 | △3,946 | 39,691 | 2,083 |
| 純資産額 | 132,960 | 129,013 | 168,705 | 162,824 |
| 総資産額 | 1,074,087 | 1,047,822 | 1,190,946 | 1,090,396 |
| 自己資本比率 | 12.38% | 12.31% | 14.17% | 14.93% |
| 営業キャッシュ・フロー | - | △16,911 | 88,348 | △8,750 |
| 従業員数(臨時) | 116(6) | 147(8) | 146(7) | 162(7) |
| 監査 | 未監査 | 未監査 | 監査 | 中間監査 |
図7 2025年3月期は前期比22.2%増。2025年9月中間期は6か月分(初めて中間財務諸表を作成したため前年同期比較なし)。2023年3月期・2024年3月期は監査を受けていない数値。発行者情報「主要な経営指標等の推移」より作成
売上高は、2023年3月期の999,396千円から2025年3月期には1,359,570千円に増えています。2025年3月期は前期比22.2%の増収で、会社は採用コンサルティング事業が堅調に推移したことに加え、企業の採用意欲の回復を背景に2024年新卒社員の採用をはじめとする人財投資を積極的に実施したと説明しています。
利益面では、2024年3月期に営業損失21,903千円、経常損失2,326千円、当期純損失3,946千円を計上しましたが、2025年3月期は営業利益73,306千円、経常利益72,985千円、当期純利益39,691千円と黒字に戻っています。2024年3月期は従業員数が116名から147名に増えた期でもあります。2025年9月中間期は、売上高722,421千円に対して営業利益3,528千円、中間純利益2,083千円でした。中間期は初めて中間財務諸表を作成したため、前年同期との比較は記載されていません。
図8 2024年3月期は経常損失・当期純損失、2025年3月期に黒字へ回復した。中間期は6か月分。発行者情報「主要な経営指標等の推移」より作成
同社の事業等のリスクには、新卒採用に関する媒体の売上が決算月の3月に発生することが多いという季節的要因が挙げられています。中間期の利益水準を年間の利益にそのまま引き直して読むことはできない点に注意が必要です。
図9 売上総利益率は約94%と高く、販売費及び一般管理費(給料手当585,499千円など人件費が中心)が利益を左右する構造。特別損失は投資有価証券評価損9,974千円と固定資産除却損2,944千円。損益計算書より作成
2025年3月期の損益計算書を分解すると、売上高1,359,570千円に対して売上原価は77,798千円と小さく、販売費及び一般管理費1,208,465千円が利益を左右する構造です。販管費の主な内訳は、給料手当585,499千円、法定福利費104,666千円、地代家賃92,865千円、賞与引当金繰入16,960千円です。営業外収益には助成金・補助金収入3,494千円、特別損失には投資有価証券評価損9,974千円と固定資産除却損2,944千円(サービス終了に伴うソフトウエアの除却)が計上されています。
人件費が中心の事業では、採用・育成への投資が先行して費用になり、売上への貢献は後から表れます。上場準備会社が事業計画を作る際には、人員計画と売上計画の関係を説明できるようにしておくことが大切です。
図10 2025年3月期は営業CFがプラスに転じた一方、2025年9月中間期は法人税等の支払(28,941千円)などで営業CFがマイナス、借入返済と配当で現金残高が減少した。発行者情報「キャッシュ・フローの状況」より作成
財政状態をみると、2025年3月末の総資産1,190,946千円に対し純資産は168,705千円で、自己資本比率は14.17%です。事業等のリスクには、2025年3月期の有利子負債残高444,785千円、有利子負債依存度37.3%が記載され、必要資金を主に金融機関からの借入で調達していると説明されています。長期借入金の平均利率は0.89%、返済期限は2026年4月から2034年9月です。上場時に公募による資金調達を行っていないため、上場によって自己資本が増えるわけではない点も、一般市場の新規上場とは異なるところです。
資本政策と株主構成
同社の株式は普通株式のみで、種類株式、新株予約権、ストック・オプション、自己株式はいずれも「該当事項はありません」とされています。発行済株式総数は500,000株、資本金は30,000千円で、発行者情報に記載された期間に資本金の変動はありません。株主は6名で、所有者別状況では「その他の法人」1名が35.0%、「個人その他」5名が65.0%です。
図11 代表取締役社長と資産管理会社で88.00%(440,000株)を所有する。新株予約権・種類株式はなく、上場時に公募・売出しも行っていないため、記載時点の構成がそのまま上場時の出発点となる。発行者情報「株主の状況」より作成
| 株主 | 所有株式数(株) | 割合 |
|---|---|---|
| 髙﨑誠司(代表取締役社長CEO) | 265,000 | 53.00% |
| By3株式会社(同氏の資産管理会社) | 175,000 | 35.00% |
| 従業員持株会 | 25,000 | 5.00% |
| 佐伯昌哉(常務取締役COO) | 15,000 | 3.00% |
| 矢野雅(取締役) | 10,000 | 2.00% |
| 田中新也(取締役CFO) | 10,000 | 2.00% |
| 計 | 500,000 | 100.00% |
代表取締役社長と資産管理会社を合わせた実質的な所有株式数は440,000株(88.00%)です。役員の状況でも、髙﨑氏の所有株式数は資産管理会社の所有分を含めた実質所有株式数(440,000株)で記載されています。従業員持株会が5.00%を所有している点も特徴の一つです。従業員持株会の設立時期については従業員持株会はいつ作るかで解説しています。
資産管理会社への株式移動と株式分割
第三部「株式公開情報」の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2025年3月17日に髙﨑氏からBy3株式会社(代表取締役 髙﨑誠司)へ1,750株(株式分割前)が1株16,817円、総額29,429,750円で移動したことが記載されています。移動理由は「個人資産の管理の一部として移動による」、価格は「ディスカウント・キャッシュフロー方式を参考として、当事者間での協議の上決定した価格」です。
同じ注記によると、TPM上場会社は特例第115条及び同施行規則第106条の規定により、上場日から5年間、直前事業年度の末日(2025年3月31日)の2年前(2023年4月1日)から上場日の前日までの期間に特別利害関係者等が行った株式等の譲受け・譲渡の状況について、記録を保存するものとされています。上場直前の株式移動は、価格の算定方法や理由が開示される前提で行う必要があります。株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかをご覧ください。
図12 第三者割当や新株予約権の発行はなく、資産管理会社への株式移動と株式分割・単元株制度の導入で上場に備えた。移動価格はディスカウント・キャッシュフロー方式を参考に当事者間で協議して決定(分割前1株16,817円)。発行者情報をもとに作成
その後、2025年6月24日付で普通株式1株を100株に分割し、発行済株式総数は5,000株から500,000株になりました。同日に定款を変更して1単元を100株とする単元株制度を導入しています。重要な後発事象の注記では、目的を「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大」としています。第三者割当等による株式の発行は「該当事項はありません」とされ、上場前に外部の投資家を迎え入れる資本政策はとっていません。
配当については、2025年6月24日の定時株主総会で1株当たり1,592.65円(株式分割前)、総額7,963千円の配当を決議しています。配当政策では、中間配当と期末配当の年2回を基本方針としつつ、当面は成長投資に備えて内部留保の拡充を図り、財政状態や事業計画を勘案して実施を検討するとしています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
コーポレート・ガバナンス:取締役4名と社外監査役1名
同社の機関設計は、取締役会と監査役を置く監査役設置会社です。取締役会は4名の取締役で構成され、社外取締役はいません。監査役は社外監査役1名(非常勤)で、監査役会は置いていません。定例取締役会を毎月1回開催し、必要に応じて臨時取締役会を開いて経営の重要事項を決定しています。監査役は取締役会に出席して適宜意見を述べるとされています。
図13 取締役4名(社外取締役なし)と社外監査役1名(非常勤)の体制。監査役会は置いていない。内部監査室は代表取締役社長CEOの直轄で、監査役・監査法人と情報交換する。発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報の記載から) | 所有株式数(株) |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 CEO | 髙﨑誠司 | ランドマークインベストメント、ディップ株式会社を経て2008年に当社設立。資産管理会社By3株式会社の代表取締役 | 440,000(資産管理会社分を含む実質所有) |
| 常務取締役 COO 兼 営業本部本部長 | 佐伯昌哉 | 2008年入社、2016年執行役員、2017年常務取締役 | 15,000 |
| 取締役 キャリア事業部部長 | 矢野雅 | 2008年の設立時から取締役。株式会社プレシャステクノロジーズ代表取締役 | 10,000 |
| 取締役 CFO 兼 管理本部本部長 | 田中新也 | 2015年入社、2018年執行役員CFO、2023年取締役CFO | 10,000 |
| 監査役(社外) | 俣野和仁 | 公認会計士・税理士。監査法人勤務を経て、監査法人の代表社員、他社の非常勤監査役などを兼務 | - |
TPMでは、一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされています。そのうえで、上場適格性要件として、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度等に応じて整備・機能していることが求められ、J-Adviserが取締役の員数・役割・適格性、取締役会や監査役会等の開催・議事録の状況などを調査します。同社の取締役4名・社外監査役1名という体制は、従業員160名規模の単体の会社がTPMに上場した実例として参考になります。
なお、コーポレートガバナンス・コードについて、JPXがコードの適用対象として示しているのはプライム・スタンダード・グロースの各市場で、TPMの記載はありません。同社の発行者情報にもコードへの対応状況の記載はありません。将来一般市場への上場を目指す場合は、社外取締役の選任など一般市場の要件を別途検討する必要があります。機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とはで整理しています。
執行役員制度と役員報酬
同社は意思決定・監督と執行の分離による取締役会の活性化のため、執行役員制度を導入しており、執行役員3名(新卒事業部部長、人事部部長、経営戦略部部長)がいます。対処すべき課題の「権限委譲の推進」でも、執行役員制度を設けて幹部社員の育成を進めていると記載されています。
2025年3月期の役員報酬は、取締役(社外取締役を除く)4名に基本報酬58,504千円、社外役員1名に1,800千円で、総額60,304千円です。賞与やストック・オプション等の支給はありません。報酬の決定方針や決定方法についての記載はありません。
定款の定めと責任限定契約
定款では、取締役を7名以内、監査役を4名以内と定めています。取締役の選任決議と株主総会の特別決議は、定足数を議決権を行使できる株主の3分の1以上に緩和しています。また、取締役会決議による自己株式の取得(会社法165条2項)、取締役会決議による中間配当(同454条5項)、取締役会決議による役員の責任免除(同426条1項)を定款に定め、社外監査役との間で同427条1項に基づく責任限定契約を締結しています。株主が6名の段階から、上場後に株主が増えることを見据えた定款の整備が行われていることがわかります。
代表者との取引の解消
関連当事者情報には、2024年3月期に代表取締役の髙﨑氏(議決権の被所有割合91.0%)との取引として、銀行借入に対する債務被保証74,995千円と、資金の貸付17,200千円・資金の返済17,200千円が記載されています。注記によると、債務保証は2025年2月にすべて解消し、資金の貸借取引も返済が完了しています。2025年3月期の関連当事者との取引は「該当事項はありません」です。
また、支配株主との取引を行う際の少数株主保護の方策として、取引条件を一般の取引条件と同等の条件に照らして決定すること、関連当事者取引については経営の健全性・合理性・取引条件の適正性に留意し、取締役会の決議を必要とする方針であることが記載されています。代表者による債務保証の解消は、上場準備で早めに着手したいテーマの一つです。具体的な進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。
内部監査・内部統制
同社の内部監査は、代表取締役社長CEO直轄の内部監査室が主管部門となり、内部監査担当者1名が実施しています。内部監査規程と内部監査計画書に基づいて各部門の業務遂行状況を監査し、結果は内部監査報告書と改善要望書として代表取締役社長CEOと被監査部門に報告されます。被監査部門には改善事項を指摘し、改善状況を確認するとしています。
図14 内部監査担当者・監査役・監査法人は、監査計画、進捗状況、監査結果について情報交換すると記載されている。内部監査の結果は報告書と改善要望書で代表取締役社長CEOに報告される。発行者情報をもとに作成
内部監査担当者は監査役及び監査法人と面談を行い、監査に必要な情報を共有しています。三者はそれぞれの監査計画、監査の進捗状況や監査結果について情報交換を行い、効果的かつ効率的な監査を実施するよう努めていると記載されています。担当者1名の体制では、内部監査室自体の業務をだれが監査するか(自己監査の回避)も論点になりますが、同社の発行者情報にはこの点の記載はありません。一般論としての考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。
リスク管理と内部統制システム
リスク管理とコンプライアンスについては、代表取締役社長CEOを委員長とするリスク・コンプライアンス委員会を四半期に1回(必要に応じて臨時に)開催し、リスク管理の方針・施策やコンプライアンスに関する社内規程の制定・改廃などを議論しています。リスク管理の主管部署は管理本部で、情報を一元化しています。必要に応じて弁護士等の複数の専門家から助言を受ける体制もとっています。
注目したいのは、内部統制システムについて「会社法上の大会社に該当しないため、法令上内部統制システムの整備に関する取締役会決議を行っておりません」と明記している点です。そのうえで、職務分掌規程や職務権限規程の遵守により特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを避け、内部牽制が働くよう努めていると説明しています。会社法上の義務の有無と、上場会社として求められる管理体制の整備とを分けて記載している例といえます。なお、TPMでは内部統制報告書の提出は任意です。
会計・開示の論点
同社の財務諸表は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に基づき、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠して作成されています。TPMでは日本基準のほか米国基準やIFRSなども採用できますが、同社は日本基準を選んでいます。子会社がないため、連結財務諸表は作成していません。
監査法人と監査報酬
会計監査人に相当する監査は監査法人コスモスが行い、2025年3月期の業務執行社員は2名(いずれも継続監査年数7年以内)、補助者は公認会計士9名・その他3名です。最近事業年度の監査報酬は監査証明業務に基づく報酬が8,500千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬の決定方針は「事業規模等を勘案して監査報酬額を決定」と記載されています。TPMの上場準備でも、監査を受ける期の期首までに監査法人と契約できるかが日程を決める大きな要素になります。
重要な会計上の見積りと注記
重要な会計上の見積りとして挙げられているのは固定資産の減損で、2025年3月期末の有形固定資産55,106千円、無形固定資産56,706千円が対象です。各期末に減損の兆候の有無を把握し、兆候がある場合には割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較して認識の要否を判定すると説明しています。
そのほか、次のような注記が読み取れます。上場準備会社が自社の注記を整える際の参考になります。
| 注記 | 同社の記載内容 |
|---|---|
| 収益認識 | 求人広告は代理人として純額、人材紹介は内定日、イベントは開催時点、人事コンサルティングはサービス提供開始時点、採用ツール制作は納品時点 |
| 契約負債 | 前受金 2025年3月末14,063千円、2025年9月末21,577千円 |
| 税効果会計 | 繰延税金資産(純額)8,500千円、評価性引当額15,358千円。防衛特別法人税の創設に伴い法定実効税率を34.59%から35.43%に変更(影響は軽微) |
| 資産除去債務 | 原状回復義務について、敷金の回収が最終的に見込めない金額を合理的に見積り、当期の負担額を費用計上する方法 |
| 未適用の会計基準 | 新リース会計基準(企業会計基準第34号等)を2028年3月期の期首から適用予定。影響額は評価中 |
| 有価証券 | 市場価格のない非上場株式について9,974千円の減損処理 |
| 後発事象 | 2025年6月24日付の株式分割(1株→100株)と単元株制度の採用 |
本社や支社の建物はすべて賃借で、年間の賃借料(税別)は91,432千円と記載されています。新リース会計基準の適用時には、こうした不動産の賃貸借契約を資産・負債として計上するかどうかの検討が必要になります。上場後の発行者情報でどのように開示されるかも注目点です。
事業等のリスクと上場準備で確認されやすい点
事業等のリスクには、事業環境(市場動向、競業)、事業内容(特定のサービスへの依存、季節的要因、訴訟等)、事業運営体制(代表者への依存、人的リスク、内部管理体制、情報漏えい)、法的規制(知的財産権)、その他(自然災害、有利子負債、配当政策、法令違反・法改正)、そしてJ-Adviserとの契約が並んでいます。
図15 左は発行者情報の「事業等のリスク」の項目、右はその項目で会社が記載している内容の要約。発生可能性・影響度の評価は記載されていない。発行者情報をもとに作成
「バイトル」への依存
最も具体的な数値が示されているのが、特定のサービスへの依存です。2025年3月期において、ディップ株式会社が運営する「バイトル」の求人広告媒体への仕入額が全体の45.7%、売上比率は49.7%を占めています。会社は複数の求人広告媒体を確保することでリスク分散を図るとともに、ディップ株式会社とは長年にわたり良好な関係を維持していると説明しています。経営上の重要な契約として、同社との販売代理店契約(2025年11月1日から2026年8月31日まで、以降1年ごとの自動更新)も記載されています。
図16 「バイトル」への仕入額が全体の45.7%、売上比率は49.7%。買掛金428,353千円のうち241,714千円がディップ株式会社向け。発行者情報「事業等のリスク」「主な資産及び負債の内容」より作成
貸借対照表の内訳をみても、2025年3月末の買掛金428,353千円のうち241,714千円がディップ株式会社向けで、未収入金62,087千円のうち58,085千円も同社に対するものです。特定の仕入先や媒体への依存がある場合、上場準備では契約の内容・更新条件・取引の継続性を説明できるよう整理しておくことが求められます。
J-Adviser契約に関するリスク
TPMならではのリスクとして、J-Adviserとの契約が記載されています。同社はフィリップ証券を担当J-Adviserに指定する取締役会決議に基づいて担当J-Adviser契約を締結しており、この契約は新規上場と上場維持の前提となる契約で、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は、TPMから上場廃止になります。
図17 担当J-Adviser契約は新規上場と上場維持の前提で、解除され他のJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止となる。公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないと記載されている。発行者情報「事業等のリスク(J-Adviserとの契約について)」をもとに作成
発行者情報には、J-Adviserが即日無催告で契約を解除できる事由として、債務超過、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、重大な法令違反・上場規程違反、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与など20項目が列挙されています。また、契約違反があった場合は相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、是正されなければ解除できること、当事者の合意や1か月前の書面通知によっても解除できること、解除する場合はJ-Adviserがあらかじめ東証に通知することも記載されています。公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとしています。
TPMでは、J-Adviser契約が解除された後、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなければ上場廃止となります。上場後もJ-Adviserとの関係を維持し、適時開示や発行者情報の公表を期限どおりに行う体制が欠かせません。適時開示体制の整え方はIPOの適時開示体制で解説しています。
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
同社の発行者情報には、将来の一般市場への上場(市場変更)についての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す会社にとっての一般的な留意点を整理します。
まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する手続として扱われています。実例として、AlbaLink(5537)は2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場しています。東証の2025年11月の資料では、TPMから一般市場へ上場した企業は15社とされ、TPMから一般市場への審査は「非上場企業の審査と同様、一から確認が行われており、相応の負担」との現状認識が示されています。東証は2026年4月に、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定していると公表していますが、本記事の執筆時点で実施状況は確認できていません。
一般市場では、監査期間(直前2期)、機関設計、社外役員、コーポレートガバナンス・コード、内部統制報告書などで、TPMより多くの要件が求められます。同社の例でいえば、監査を受けた期間、社外取締役がいない取締役会、1名体制の内部監査といった点は、一般市場の水準と比べて改めて検討が必要になる項目です。TPM上場を一般市場への準備の場として使う場合は、TPM上場後にどの項目をいつまでに整えるかを計画しておくとよいでしょう。
上場準備会社が学べること
最後に、プレシャスパートナーズの事例から、上場準備会社が自社に当てはめて考えられるポイントを整理します。
図18 本記事で取り上げた論点を、上場準備会社が自社に当てはめて検討しやすいよう整理した
1. 資金調達をしなくても上場できる。同社は特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。TPMは、資金調達よりも信用力・採用力・管理体制の強化を目的に使われることが多い市場です。上場の目的を自社の言葉で説明できるようにしておくことが出発点になります。
2. 監査は「最近1年間」でも準備は前倒しで。同社が監査を受けたのは直前1期と中間期で、それ以前の2期は未監査と明記されています。監査期間が短い分、監査初年度に期首残高の確認や会計方針の整理が集中します。監査法人との契約時期から逆算した計画が必要です。
3. 規模に応じた機関設計の実例。取締役4名と社外監査役1名という体制で上場しています。TPMでは機関設計の形式要件は示されていませんが、J-Adviserは取締役会の運営や議事録の状況などを調査します。体制の大小よりも、実際に機能していることを示せるかが重要です。
4. 少人数の内部監査は三様監査で補う。内部監査の担当者は1名ですが、監査役・監査法人との情報交換を記載しています。担当者が少ない会社ほど、監査計画と結果の共有の仕組みを文書化しておくとよいでしょう。
5. 代表者との取引は上場前に整理する。代表者による銀行借入の債務保証は2025年2月にすべて解消され、資金の貸借取引も返済が完了しています。金融機関との交渉を伴うため、早めの着手が欠かせません。
6. 株式の整理は理由と価格を説明できる形で。資産管理会社への株式移動は、DCF方式を参考とした価格と移動理由が開示されています。株式分割と単元株制度の導入も上場前に済ませています。
7. 収益認識の本人・代理人の判断を固める。求人媒体の取引を代理人として純額で計上していることは、売上高の大きさに直結します。会計方針として一貫した説明ができるかを確認しましょう。
8. J-Adviser契約は上場維持の前提。解除事由や催告の手続まで発行者情報に記載されています。上場後も期限どおりの開示と、J-Adviserとの継続的なコミュニケーションが求められます。
- 上場の目的(なぜTPMか、上場をどう活用するか)を説明できる
- 監査を受ける事業年度と監査法人との契約時期を決めている
- 規模に応じた機関設計と、取締役会・監査役の運営記録を整えている
- 内部監査の担当者・計画・報告ルートと、監査役・監査法人との情報交換の場を決めている
- 代表者による債務保証や代表者との資金取引の解消計画がある
- 収益認識の時点と本人・代理人の判断を会計方針として整理している
よくある質問
必ずしも必要ではありません。プレシャスパートナーズは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・特定投資家向け売付け勧誘等を実施せず、特例第110条第3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表して上場しています。
新規上場時に必要な監査期間は「最近1年間」です。同社は第17期(2025年3月期)の財務諸表について監査、第18期中間会計期間について中間監査を受けており、第15期・第16期は監査を受けていないと記載されています。
TPMで株式を買い付けられるのは原則として特定投資家等で、一般投資家は買付けができません。ただし、すでに保有している株式を売却することはできます。一定の要件を満たす個人は特定投資家へ移行することができます。
市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する手続として扱われています。東証はTPMでの実績を勘案した審査の効率化を予定と公表していますが、実施状況は最新の公表資料で確認してください。
最初の一歩は「上場目的」と「監査開始の時期」を決めること
TPM上場を検討するなら、まず「なぜ上場するのか」「上場をどう活用するのか」を経営陣で言語化し、そのうえで監査を受ける事業年度とJ-Adviserとの相談開始時期を決めることから始めましょう。同社のように監査期間が1年でも、監査初年度に会計方針や内部管理の整備が集中します。現状の課題を洗い出すには、ショートレビューとはで紹介している課題抽出の手法も有効です。
まとめ
株式会社プレシャスパートナーズは、採用コンサルティング事業を営む2008年設立の会社で、2026年1月9日の上場申請、1月26日の上場承認を経て、2026年2月5日に TOKYO PRO Market に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行わず、上場時の書類は発行者情報に相当する情報として公表されています。
発行者情報からは、最近1年間の監査と中間監査、取締役4名・社外監査役1名の機関設計、1名体制の内部監査と三様監査の情報交換、代表者による債務保証の解消、資産管理会社への株式移動と株式分割、求人広告の代理人取引としての収益認識、「バイトル」への依存、そしてJ-Adviser契約が上場維持の前提であることなど、TPM上場の実務を具体的に読み取ることができます。TPM上場を検討している会社は、本記事のチェックリストで自社の準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「プレシャスパートナーズ 特定証券情報」(書類の表題は「発行者情報」、2026年1月9日公表)
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報(2026年)
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 東京証券取引所「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Marketの機能発揮に向けた対応」
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ「上場廃止の決定:(株)AlbaLink」(2025年11月11日。TPMの上場廃止日とグロース市場への新規上場予定日を記載)
- 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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