アイ・グリッド・ソリューションズのIPO|優先株式の普通株式化とPPA事業の会計【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年7月29日、PPA型オンサイト太陽光発電と電力小売を手がける株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(証券コード603A)が東証グロース市場に上場しました。2004年に大阪で設立され、エネルギーマネジメント、電力小売を経て、商業施設や物流施設の屋根を活用した太陽光発電の開発・運営へと事業の軸足を移してきた会社です。新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)には、総合商社やファンド、リース会社など多様な株主が関わった資本政策、子会社の吸収合併による連結から単体への移行、設備を多く持つ事業ならではの会計上の見積りや借入契約の開示など、上場準備の実務に役立つ記載が数多く含まれています。

結論からいえば、アイ・グリッド・ソリューションズのⅠの部から学べるのは、①A種・B種優先株式を取得条項で普通株式に交換し、直後に株式分割と単元株制度の導入を行った種類株式の整理、②株式移動・第三者割当・ストック・オプション(SO)の価格と算定方法の示し方、③監査役全員を社外とし、社外取締役を半数とした監査役会設置会社のガバナンス、④その他の関係会社である伊藤忠商事との関係の開示、⑤資産除去債務や電力の未検針期間の売上高見積りなど設備型・電力事業に特有の会計上の見積りと、財務制限条項付き借入の開示の5点です。本記事では、Ⅰの部の記載をもとに、上場準備会社の目線でこれらを整理します。

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アイ・グリッド・ソリューションズはどのような会社で、どの市場に上場したのか

まず、会社と上場の概要を確認します。アイ・グリッド・ソリューションズは、東京都港区虎ノ門に本店を置く会社です。Ⅰの部の沿革によれば、2004年2月に大阪市北区で「株式会社コスト削減総合研究所」として資本金2,000万円で設立され、2008年9月に「株式会社環境経営戦略総研」、2015年11月に現在の商号へ変更しています。代表取締役社長は秋田智一氏で、2021年5月に代表取締役社長に就任しています。

決算期は6月30日で、最近事業年度は第22期(2025年6月期)です。セグメントは「GXソリューション事業」と「エナジートレーディング事業」の2つです。従業員数は2026年5月31日現在で153名、平均年齢40.3歳、平均勤続年数4.1年と記載されており、最近日までの1年間で22人増加した理由は事業拡大に向けた採用によるものと説明されています。セグメント別では、GXソリューション事業101名、エナジートレーディング事業11名、全社(共通・管理部門)41名です。

関係会社としては、伊藤忠商事株式会社が「その他の関係会社」(議決権の被所有割合24.7%)として記載されています。親会社はなく、子会社もありません。2024年6月期までは子会社があったため連結財務諸表を作成していましたが、子会社2社を吸収合併したことにより、2025年6月期からは単体の財務諸表のみの開示になっています。

項目 内容
会社名 株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(英訳名 i GRID SOLUTIONS Inc.)
証券コード・市場 603A・東証グロース市場
上場日 2026年7月29日
本店所在地 東京都港区虎ノ門
代表者 代表取締役社長 秋田 智一
設立 2004年2月(大阪市北区、資本金2,000万円)
決算期 6月30日(最近事業年度は第22期=2025年6月期)
事業 GXソリューション事業、エナジートレーディング事業
従業員数 153名(2026年5月31日現在、単体)
関係会社 その他の関係会社:伊藤忠商事株式会社(議決権被所有24.7%)
機関設計 監査役会設置会社(任意の指名・報酬委員会あり)
会計監査人 EY新日本有限責任監査法人

Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」では、2024年6月期(第21期)のみ連結経営指標が記載され、提出会社(単体)の経営指標は5期分が記載されています。また、第21期と第22期の財務諸表は有価証券上場規程第216条第6項に基づくEY新日本有限責任監査法人の監査を受けており、第18期から第20期は監査を受けていない旨が注記されています。上場申請では直前々期と直前期の2期分の監査が必要になるため、監査法人の選定と監査契約の時期は上場スケジュールの起点になります。詳しくは監査法人はいつまでに決めるかも参考にしてください。

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何で稼ぐ会社か:事業内容と収益モデル

アイ・グリッド・ソリューションズは「グリーンエネルギーがめぐる世界の実現」をビジョンに掲げ、自社を「GXプラットフォーマー」と位置づけています。Ⅰの部では、事業の中心を、FIT(固定価格買取制度)を使わないPPA型のオンサイト太陽光発電と説明しています。屋根面積がおおむね1,000㎡以上の商業施設などの屋根に太陽光発電設備を設置し、発電した電力をその施設に供給する仕組みで、顧客の初期費用はゼロとされています。

2026年3月末時点で、全国1,410施設・総容量約357MWの開発実績があり、このうち当社以外が所有する施設(提携先等)は344施設・約103MWと記載されています。また、GMS・スーパーでは東証プライム上場18社中11社に導入し、PPAの累計契約社数は389社、契約済の開発案件は373件と記載されています。施設で使い切れない余剰電力を当社が集約し、他の需要家へ供給する「余剰電力循環スキーム」を特徴としている点も、事業の内容の中で説明されています。

アイ・グリッド・ソリューションズの事業モデルアイ・グリッド・ソリューションズPPA型オンサイト太陽光の開発・運営PPAサービス設備は当社が保有電力供給の対価(約20年)インテグレーション設備は顧客企業が保有開発手数料+O&M等アライアンス設備はJV・パートナー帰属開発報酬+AM/O&M等ストック型の収益フロー収益(導入時)+継続収益フロー収益(導入時)+継続収益エナジートレーディング事業特別高圧・高圧・低圧の電力小売(法人・家庭)/余剰電力を集約して他の需要家へ供給AIプラットフォーム「R.E.A.L. New Energy Platform」で需要・発電・余剰電力を予測

図1 GXソリューション事業の3つの展開パターンとエナジートレーディング事業(Ⅰの部「事業の内容」をもとに筆者作成)

3つの展開パターンと収益の違い

GXソリューション事業は、設備の帰属先によって3つのパターンに分かれます。1つ目の「PPAサービス」は、設備を当社が保有し、PPA基本契約期間20年にわたって電力を供給して対価を受け取るストック型のモデルです。2025年6月期の売上総利益率は39.2%と記載されています。

2つ目の「インテグレーションサービス」は、設備を第三者企業が保有する形で、当社は機器調達・開発管理の手数料を一括で受け取り、その後もO&M(運用・保守)などのランニング手数料を受け取ります。流通小売向けの「GX Store」や物流向けの「GX Logistics」は、このインテグレーションサービスとして提供されています。

3つ目の「アライアンスソリューション」は、設備をJV(共同事業体)やパートナーに帰属させる形で、開発報酬を一括で受け取るとともに、AM(アセットマネジメント)・O&Mや余剰電力の買取などのストック収入を得るモデルです。当社が開発して完工後に譲渡する「アセット譲渡型スキーム」と、開発を受託する「開発受託型スキーム」があると説明されています。沿革では、JA三井リース・農林中央金庫との合同会社、栃木銀行との共同出資会社、東急不動産との「TLC VPP合同会社」、三菱UFJ信託銀行との「MT-VPP合同会社」の設立が記載されています。

Ⅰの部の「対処すべき課題」では、PPAサービスの原資が多額の協調融資であることを踏まえ、2023年6月期からインテグレーション・アライアンスを開始し、財務キャパシティにとらわれない展開を進める方針が示されています。設備を自社で持つモデルと、他社に持ってもらうモデルを組み合わせることで、資金負担と成長のバランスをとる考え方です。

エナジートレーディング事業とAIプラットフォーム

エナジートレーディング事業は、特別高圧・高圧・低圧のすべての電圧区分で、法人と家庭に電力を販売する事業です。日本卸電力取引所(JEPX)からの調達もあり、Ⅰの部では、調達コストが2022年6月期の10.53円/kWhから2023年6月期には19.21円/kWhへ上昇したこと、2023年1月に約款を改定してJEPXのスポット調達相当分を市場価格に連動させたこと、相対調達で調達コストを抑制していることが説明されています。KPIの分析では、電力販売量は2022年6月期以降、積極的な営業活動を行っていないため低下傾向にあるとされています。

電力の調達コストと電力販売量調達コスト(円/kWh)電力販売量(億kWh)2022/62023/62022/62023/62024/62025/610.5319.218.96.35.04.42023年1月に約款を改定し、JEPXのスポット調達相当分を市場価格に連動させた

図2 左は電力の調達コスト(円/kWh)、右は電力販売量(億kWh)。Ⅰの部「事業の内容」「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をもとに筆者作成

両事業を支えるのが、AIプラットフォーム「R.E.A.L. New Energy Platform」です。施設ごとのエッジ端末とAIモデルで需要・発電・余剰電力を予測し、インバランス(計画と実績の差)の回避に活用していると記載されています。予測の基礎として、約20年・8,000以上の施設の電力使用量データを挙げています。

主要な販売先とKPI

主要な販売先としては、TLC VPP合同会社(GXソリューション事業)が記載されています。売上高に占める割合は、2025年6月期が13.7%、2026年6月期第3四半期累計が21.6%です。2024年6月期は売上高の10%以上を占める相手先はありませんでした。アライアンスのアセット譲渡型スキームを拡大する方針のもとで、特定の販売先の割合が高まる可能性がある点は、事業等のリスクにも記載されています。

KPIとしては、累計開発容量・件数、契約済容量・案件数、フロー収益、電力販売量、売上総利益、EBITDAが開示されています。フロー収益は「アライアンス・インテグレーション導入時に一括計上する売上総利益(O&M等の継続収益は含まない)」と定義され、EBITDAは「営業利益+減価償却費+のれん償却費」と定義されています。そのうえで、EBITDAやセグメント別売上総利益などが第216条第6項の監査の対象外であることも明記されています。KPIの定義と監査対象かどうかを明示する書き方は、他社の参考になります。

沿革から見る上場までの道のり

アイ・グリッド・ソリューションズの沿革は、大きく3つの段階に分けて読むことができます。第1段階は、2004年の設立から、エネルギーマネジメントシステム「見えタロー」(2005年)、高圧法人向けの「スマート電力」(2014年)、2015年11月の小売電気事業者登録、低圧家庭向けの「スマ電」(2016年)へと続く、省エネと電力小売の時期です。

第2段階は、2017年6月に株式会社環境エネルギー投資との共同出資で株式会社VPP Japanを設立し、PPA型オンサイト太陽光事業を開始してからの時期です。2021年8月には余剰電力循環スキームを導入し、同年11月には伊藤忠商事株式会社が追加出資により発行済株式総数の20%以上を取得して、その他の関係会社となりました。2022年6月にはAIプラットフォームを商用化し、ブランドを「R.E.A.L.」に統一しています。

第3段階は、2023年2月のPPAアライアンス事業の開始以降、パートナーとの共同事業を広げながら、上場に向けてグループ構造と資本構成を整えた時期です。2023年7月にVPP Japanの全株式を追加取得して完全子会社化し、2024年6月にVPP Japanを、2024年7月に株式会社アイ・グリッド・ラボを吸収合併しています。その後、2024年9月に「R.E.A.L. Solar Power」の累計1,000施設、2025年7月に累計稼働容量300MWに到達したことが記載されています。

沿革と上場までの主な出来事2004年2月会社設立2015年11月現商号に変更小売電気事業者2017年6月VPP Japan設立PPA事業開始2021年余剰電力循環伊藤忠商事出資2023年2月アライアンス事業開始2023年7月VPP Japanを完全子会社化2024年6・7月子会社2社を吸収合併2025年1月優先株式転換株式分割2025年7月累計稼働300MW到達2026年7月東証グロース市場に上場

図3 設立から上場までの主な出来事(Ⅰの部「沿革」をもとに筆者作成。上場日は東京証券取引所の公表情報による)

上場準備の観点で注目したいのは、上場の直前2〜3年の間に、共同出資子会社の完全子会社化、子会社2社の吸収合併、優先株式の普通株式化と株式分割という、グループ構造と資本構成の大きな変更を順番に実施している点です。上場審査では、申請会社の企業グループの実態や、関係会社を含めた事業の合理性が確認されます。共同出資の子会社が残っていると、少数株主との利益相反や、親子間取引の条件の妥当性を説明する必要が生じます。上場前に組織再編でグループを簡素にしておくことは、審査対応の負担を減らす一つの方法です。上場準備の全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理しています。

業績はどのように推移してきたか

次に業績の推移を見ます。Ⅰの部の提出会社(単体)の経営指標は、次のとおりです。第18期から第20期は監査を受けていない数値であり、第21期は子会社があった期の単体の数値である点に注意して読む必要があります。

項目(単体) 第18期 2021/6 第19期 2022/6 第20期 2023/6 第21期 2024/6 第22期 2025/6
売上高(千円) 14,971,025 18,858,897 21,446,376 19,256,537 22,939,003
経常損益(千円) △1,949,749 △441,109 1,202,797 1,144,176 2,389,312
当期純損益(千円) △1,820,302 △499,004 1,554,593 △2,631,957 1,595,584
純資産(千円) 577,382 3,063,409 4,617,810 4,986,527 6,591,846
総資産(千円) 7,441,515 11,741,289 11,292,316 36,320,334 41,674,007
自己資本比率(%) 7.8 26.1 40.9 13.7 15.8
従業員数(名) 71 81 59 111 131

Ⅰの部では、各期の損失の要因も注記されています。第18期はJEPXの価格高騰による売上原価の増加、第19期は新規顧客の獲得費用の増加、第21期はVPP Japanの吸収合併に伴う抱合せ株式消滅差損の計上が要因とされています。

単体の純損失と連結の純利益:吸収合併の会計処理

第21期(2024年6月期)は、単体では2,631,957千円の当期純損失である一方、連結では親会社株主に帰属する当期純利益が867,705千円と記載されています。この違いは、単体の損益計算書でVPP Japanの吸収合併に伴う抱合せ株式消滅差損3,491,946千円を特別損失に計上していることによるものです。

親会社が子会社を吸収合併する場合、共通支配下の取引として、親会社が受け入れる子会社の資産・負債と、親会社が保有していた子会社株式の帳簿価額との差額を、抱合せ株式消滅差損益として損益に計上します。連結財務諸表上は、子会社の資産・負債はすでに取り込まれているため、同じ損益は生じません。2025年6月期には、アイ・グリッド・ラボの吸収合併で抱合せ株式消滅差益65,913千円が計上されています。

吸収合併で単体にだけ生じる損益受け入れる子会社の資産・負債保有していた子会社株式の帳簿価額差額=抱合せ株式消滅差損益単体:特別損失に計上2024年6月期 差損3,491,946千円連結:資産・負債は取込済み同じ損益は生じない2024年6月期:単体は当期純損失2,631,957千円、連結は親会社株主に帰属する当期純利益867,705千円

図4 本文の説明とⅠの部の財務諸表をもとに筆者作成

上場準備会社が子会社を吸収合併する場合は、単体の損益や分配可能額、財務制限条項の判定基準への影響を事前に試算しておくことが大切です。特に、単体の純資産や経常損益を基準とする財務制限条項がある場合、特別損失の計上が条項の判定に影響しないかを確認しておく必要があります。

KPIで見る成長性:ストックとフローの両立

KPIでは、GXソリューション事業の累計開発容量が、2022年6月期の81MWから2025年6月期には321MWへ増加しています。そのうちPPAサービスは81MWから243MW、アライアンスは2024年6月期の18MWから2025年6月期には57MWへ増えています。契約済容量は2024年6月期の88MWから2025年6月期には178MWになっています。

累計開発容量と契約済容量の推移累計開発容量契約済容量2022/62023/62024/62025/68113623432188178

図5 単位MW。2022〜2024年6月期は連結、2025年6月期は単体(Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をもとに筆者作成)

KPI 2022/6 2023/6 2024/6 2025/6
累計開発容量(MW) 81 136 234 321
累計開発件数(件) 390 614 973 1,259
契約済容量(MW) - - 88 178
フロー収益(百万円) - 152 1,291 1,891
電力販売量(億kWh) 8.9 6.3 5.0 4.4
売上総利益(百万円) 2,478 3,814 4,459 6,059
EBITDA(百万円) 436 2,561 3,515 5,059

※2022〜2024年6月期は連結、2025年6月期は単体の数値です。EBITDA等は監査の対象外とされています。

売上総利益とEBITDAの推移01,666.23,332.54,998.76,664.92022/62023/62024/62025/6売上総利益EBITDA

図6 売上総利益(棒)とEBITDA(線)の推移(百万円)。2022〜2024年6月期は連結、2025年6月期は単体。EBITDAは監査対象外の数値(Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をもとに筆者作成)

2025年6月期の単体の業績は、売上高22,939,003千円(前期比19.1%増)、売上総利益6,059,545千円(同75.1%増)、営業利益3,139,852千円(同145.9%増)、経常利益2,389,312千円(同108.8%増)です。経常利益の伸びが営業利益を下回っているのは、リースの増加に伴って支払利息が増えたためと説明されています。販売費及び一般管理費は2,919,692千円(同33.7%増)で、人件費、支払手数料、外形標準課税の適用開始、本社移転費用が増加要因として挙げられています。

セグメント別では、2025年6月期にGXソリューション事業の売上総利益の構成比が、エナジートレーディング事業を上回ったと記載されています。売上高ではエナジートレーディング事業のほうが大きいものの、利益の源泉がGXソリューション事業に移ってきていることが読み取れます。

セグメント別の売上総利益01,0002,0003,0005261,9522022/69062,9072023/62,0422,4162024/63,2402,8182025/6GXソリューション事業エナジートレーディング事業

図7 GXソリューション事業とエナジートレーディング事業の売上総利益(百万円)。2025年6月期にGXソリューション事業が上回った(Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をもとに筆者作成)

直近では、2026年6月期第3四半期累計(2025年7月〜2026年3月)で売上高18,543,068千円、営業利益2,653,914千円、四半期純利益1,499,494千円と記載されています。MD&Aでは、2026年3月末の累計を1,461施設・390MWと記載しています(事業の内容に記載の開発実績とは集計範囲が異なるとみられます)。

グロース市場では、上場時に「高い成長可能性」を事業計画とともに説明することが求められます。アイ・グリッド・ソリューションズのように、ストック型の収益とフロー型の収益を区分して開示し、開発容量や契約済容量といった先行指標を示すことは、成長の根拠を説明するうえで有効です。一方、Ⅰの部の事業等のリスクでは、第2四半期(10〜12月)と第4四半期(4〜6月)に新規稼働が集中する傾向や、6月予定の案件が翌期にずれ込む可能性も記載されています。季節性や案件の期ずれがある事業では、予算と実績の差異を説明できる管理体制が審査で重視されます。詳しくはグロース市場の「高い成長可能性」とはとIPO審査の「事業計画の合理性」をご覧ください。

資本政策と株主構成:多様な株主と種類株式をどう整理したか

アイ・グリッド・ソリューションズの資本政策の特徴は、総合商社、ファンド、電力会社、不動産会社、リース会社、損害保険会社など、多様な株主が関わっている点です。Ⅰの部の「発行済株式総数、資本金等の推移」と「株式公開情報」から、主な動きを確認します。

A種・B種優先株式の発行と3回の減資

2021年8月から11月にかけて、A種優先株式がTHE FUND投資事業有限責任組合、みずほ成長支援第4号投資事業有限責任組合、株式会社DGベンチャーズ、紀陽成長支援1号投資事業有限責任組合、伊藤忠商事株式会社に第三者割当で発行されています。発行価格は1株2,000,000円で、株式分割後に換算すると400円です。

2023年7月28日には、B種優先株式1,364株(分割後6,820,000株)が、THE FUND投資事業有限責任組合、伊藤忠商事、東急不動産、ES&Gパートナーズ投資事業有限責任組合、東京センチュリー、あいおいニッセイ同和損害保険、ちゅうぎん系のファンドなどに第三者割当で発行されています。発行価格は1株2,200,000円(分割後440円)で、総額3,000,800,000円です。Ⅰの部では、発行価格は「DCF法を用いた第三者算定機関による算定価格を総合的に勘案して決定」したと記載されています。

また、2021年6月、2022年6月、2024年6月の3回にわたって減資を行い、いずれも資本金を100,000千円に戻しています。減資の目的は、2021年と2024年が資本政策の柔軟性・機動性の確保、2022年が欠損填補と財務の健全化と記載されています。さらに、2025年6月期には、その他資本剰余金1,542,136千円を繰越利益剰余金に振り替えて欠損を填補しています。

増資のたびに資本金が増えると、資本金の額によって税務上の取扱い(外形標準課税の適用など)が変わる場合があります。減資による資本金の調整は上場準備会社でもよく見られる手続ですが、会社法上の債権者保護手続や株主総会の決議が必要になるため、スケジュールに組み込んでおく必要があります。

優先株式の普通株式化と株式分割

上場に向けた種類株式の整理として、2024年12月11日の臨時取締役会で、A種優先株式2,293株とB種優先株式1,364株のすべてを取得条項に基づいて取得し、対価として1株につき普通株式1株を交付することを決議しています。取得日は2025年1月6日で、取得した優先株式は同日に消却されました。交付後の普通株式は6,397株です。

その直後の2025年1月10日には、普通株式1株を5,000株に分割し、発行済株式総数は31,985,000株になりました。単元株式数100株とする定款変更は、2024年12月26日の臨時株主総会で決議されています。その後、新株予約権の行使で125,000株が増え、発行済株式総数は32,110,000株です。

種類株式・新株予約権の価格と株式の整理2021年8〜11月A種優先株式換算400円2023年7月B種優先株式440円2023年11月第8回SO行使価額400円2025年1月6日優先株式を普通株式へ2025年1月10日1株を5,000株に分割株式移動(2023年7月)VC間の譲渡:400円・430円DCF法・マルチプル法等を勘案し協議B種優先株式の発行価格DCF法を用いた第三者算定機関の算定価格を総合的に勘案して決定

図8 1株当たりの価格は株式分割後の換算。A種・B種優先株式は2025年1月に取得条項により普通株式へ1対1で交換(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「株式公開情報」をもとに筆者作成)

上場時には、種類株式を普通株式にそろえておくのが一般的です。取得条項付きの種類株式であれば、会社が取締役会決議などで一斉に取得し、普通株式を交付できるため、株主ごとに転換請求を集める手間を省けます。そのうえで、株式分割によって1株当たりの価格を上場後の流通に適した水準に調整し、単元株制度を導入するという順番は、多くの上場準備会社で採られている流れです。種類株式の整理については種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかでも解説しています。

株式移動・第三者割当・SOの価格と算定方法

Ⅰの部の「株式公開情報」には、上場前の一定期間における特別利害関係者等の株式移動、第三者割当、新株予約権の発行の状況が記載されます。アイ・グリッド・ソリューションズでは、次のような価格と算定方法が示されています(株式分割後の換算)。

時期 内容 1株当たり価格 価格の決め方(Ⅰの部の記載)
2023年7月10日 VCからシグマクシス・インベストメントへの株式譲渡(1,750,000株) 400円 DCF法等を勘案し協議
2023年7月31日 VCからJA三井リース・鈴与商事への株式譲渡(計1,800,000株) 430円 マルチプル法とDCF法を勘案し協議
2023年7月28日 B種優先株式の第三者割当(6,820,000株) 440円 DCF法を用いた第三者算定機関の算定価格を総合的に勘案
2023年11月15日 第8回新株予約権(SO)の発行(1,270,000株) 行使価額400円 (ストック・オプション注記では本源的価値法・DCF法)
2025年1月 第7回新株予約権の行使(取締役2名、計125,000株) 60.03円 DCF法により第三者機関が算定した価格に基づく行使条件

上場審査では、上場前の株式移動や新株発行の価格が、その時点の企業価値に照らして合理的かどうかが確認されます。特に、同じ時期に異なる価格で取引が行われている場合は、その理由(普通株式か優先株式か、取引の当事者や目的、算定時点の違いなど)を説明できるようにしておく必要があります。アイ・グリッド・ソリューションズのように、取引ごとに算定方法を記載しておくと、価格の背景がわかりやすくなります。未上場株式の算定方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前の株式移動の留意点は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

ストック・オプションの各回と潜在株式比率

提出日現在、未行使のSO(新株予約権)は3回分あります。第6回は取締役向けの有償SO、第7回は時価発行新株予約権信託を用いたSO、第8回は役職員向けのSOです。

回 付与対象・形態 目的株式数 行使価額 主な行使条件
第6回(2019年10月) 取締役3名(有償発行、1個1.5円) 2,000,000株 60円 2020〜2024年6月期のいずれかで連結営業利益3.3億円超
第7回(2019年10月) 時価発行新株予約権信託(受託者1名、有償) 1,145,000株 60円 第6回と同じ業績条件。受益者のみ行使可
第8回(2023年11月) 取締役3名・従業員14名 1,245,000株 400円 行使時に当社又は関係会社の役職員であること等

SOによる潜在株式は合計4,390,000株で、発行済株式総数の13.7%と記載されています。第7回は、取締役会長の本多聰介氏を委託者とする信託で、2023年12月にコタエル信託株式会社を受託者とする新しい信託へ移管されています。受益者は評価委員会が交付ガイドラインに従って選定し、ロックアップ期間中は役職員等を受益者に指定しないと記載されています。

時価発行新株予約権信託(第7回)の仕組み委託者取締役会長 本多聰介氏受託者コタエル信託受益者行使できるのは受益者のみ評価委員会交付ガイドラインで選定2023年12月に新しい信託へ移管第7回の目的株式数1,145,000株・行使価額60円ロックアップ期間中は役職員等を受益者に指定しない受益者を指定

図9 Ⅰの部「新株予約権等の状況」の記載をもとに筆者作成

信託型SOについては、2023年5月30日に国税庁が「ストック・オプションに対する課税(Q&A)」を公表し、権利行使時に給与課税されるとの見解を示しました。アイ・グリッド・ソリューションズでは、2024年12月26日の指名・報酬委員会で審議し、当初想定していなかった追加的な税負担の一部を、最近事業年度に一過性のものとして会社が負担したと記載されています。信託型SOを導入済みの会社では、課税関係の整理と、会社がどこまで負担するかの方針決定が必要になります。詳しくは信託型ストック・オプションはなぜ給与課税かをご覧ください。

株主構成:その他の関係会社とファンド、事業会社

「株主の状況」によれば、潜在株式を含む株式総数36,500,000株のうち、伊藤忠商事が7,940,000株(21.75%)で筆頭株主です。続いてTHE FUND投資事業有限責任組合(13.08%)、ES&Gパートナーズ投資事業有限責任組合(7.95%)、関西電力(7.12%)、シグマクシス・ホールディングス(4.79%)、芙蓉総合リース(4.11%)、JA三井リース(3.71%)の順です。

株主の状況(上位10位)伊藤忠商事21.75%THE FUND投資事業有限責任組合13.08%ES&Gパートナーズ投資事業有限責任組合7.95%関西電力7.12%シグマクシス・ホールディングス4.79%芙蓉総合リース4.11%JA三井リース3.71%本多 聰介(取締役会長)3.59%コタエル信託(第7回新株予約権)3.14%東急不動産2.95%

図10 潜在株式を含む所有割合。合計36,500,000株のうち潜在株式は4,390,000株。青:事業会社、緑:ファンド、橙:役員、灰:信託(Ⅰの部「株主の状況」をもとに筆者作成)

所有者別状況(2026年5月31日現在)では、株主数は65名で、金融機関が1.09%、金融商品取引業者が35.74%、その他の法人が23.60%、個人その他が39.57%です。自己株式は保有していません。役員の持株は計435,000株で、代表取締役社長の秋田氏は潜在株式を含めて850,000株(2.33%)と記載されています。

事業会社やファンドの持株比率が高い会社では、上場時の流通株式の基準を満たせるか、上場後に大株主がどのように株式を保有・売却していくかを、資本政策の段階で検討しておく必要があります。流通株式の考え方は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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コーポレート・ガバナンス:社外役員の比率が高い監査役会設置会社

アイ・グリッド・ソリューションズの機関設計は、株主総会、取締役会、監査役会、会計監査人を置く監査役会設置会社です。そのうえで、任意の諮問機関として指名・報酬委員会を設けています。

機関設計の全体像株主総会取締役会(原則月1回)取締役8名(うち社外取締役4名)監査役会(原則月1回)監査役4名(全員社外)指名・報酬委員会(任意)委員5名うち社外3名代表取締役社長経営会議会計監査人EY新日本有限責任監査法人内部監査担当者2名選任選任答申選定・監督任命・報告監査連携連携

図11 監査役会設置会社としての機関設計と任意の指名・報酬委員会、内部監査の位置づけ(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに筆者作成)

取締役会と監査役会の構成

取締役会は、議長を代表取締役社長の秋田智一氏とし、取締役8名で構成されています。社内取締役は秋田氏、取締役会長の本多聰介氏、取締役執行役員の加田木太朗氏・川野裕介氏の4名、社外取締役は有村俊秀氏、村上洋一氏、井上北斗氏、岩﨑真人氏の4名で、取締役の半数が社外取締役です。取締役会は原則月1回開催され、最近事業年度の開催回数は21回と記載されています。検討内容としては、月次業績、中期経営計画、IPO準備・上場スケジュール・資本政策、予算などが挙げられています。

監査役会は4名の監査役全員が社外監査役で、常勤監査役の石井雅之氏も社外監査役です。最近事業年度の監査役会は15回開催されています。各監査役の経歴として、石井氏は上場会社での管理部門管掌取締役・監査役の経験、大鹿博文氏は税理士、野原健太郎氏は経営・財務コンサルティング、鈴木亮子氏は弁護士としての知見が記載されており、会計・税務・法務の専門性をバランスよく配置していることがわかります。

区分 人数 構成・特徴
取締役 8名 社内4名(社長、会長、取締役執行役員2名)、社外4名
監査役 4名 全員社外(常勤監査役1名を含む)。税理士・弁護士を含む
執行役員(取締役でない者) 6名 DX推進、HR・コミュニケーション、管理、ソリューション営業、エナジートレーディング、GXマネジメントの各部長
指名・報酬委員会(任意) 5名 委員長は社外取締役。社外3名、監査役はオブザーバー
経営会議 - 議長は社長。常勤取締役・執行役員・部長等が出席し、常勤監査役も出席
リスク管理・コンプライアンス委員会 - 委員長は社長。取締役全員で構成し、原則四半期に1回開催

監査役会設置会社では、社外監査役を半数以上置く必要があり(会社法第335条第3項)、上場会社は独立役員を1名以上確保することが求められます。また、コーポレートガバナンス・コードでは、グロース市場の会社にも基本原則の適用が求められます。アイ・グリッド・ソリューションズのように社外取締役を半数とする構成は、上場時点としては手厚い体制といえます。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、社外取締役の人数については社外取締役は何人必要かもご覧ください。

指名・報酬委員会と役員報酬の決め方

指名・報酬委員会は、取締役会の常設の諮問・勧告機関で、委員長は社外取締役の井上北斗氏です。委員は5名で、そのうち3名が社外取締役です。取締役の選解任議案の原案と、個人別の報酬の原案を審議し、最近事業年度は4回開催されています。2025年4月18日に、委員を本多氏から川野氏へ変更したことも記載されています。

役員報酬は、取締役の報酬限度額が年額400,000千円以内(うち社外取締役40,000千円以内)、監査役が年額50,000千円以内と定められています。取締役の報酬は、報酬テーブルに基づく基本報酬と、前事業年度の「経常利益」と「EBITDA」の予算達成度に応じた業績連動報酬で構成されます。個人別の報酬は、指名・報酬委員会の答申を受け、取締役会決議で委任された代表取締役社長が決定する仕組みで、委任の理由は「各取締役の評価に代表取締役が最適任であるため」と記載されています。最近事業年度の報酬総額は、社外取締役を除く取締役4名で190,949千円(うち業績連動43,236千円)、社外役員7名で24,642千円です。

取締役報酬の決め方と構成指名・報酬委員会委員5名(うち社外3名)取締役会代表取締役社長に委任代表取締役社長個人別の報酬を決定取締役の報酬の構成基本報酬報酬テーブルに基づく業績連動報酬前期の経常利益・EBITDAの予算達成度+限度額:取締役 年400,000千円以内(うち社外40,000千円以内)/監査役 年50,000千円以内

図12 Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに筆者作成

個人別報酬の決定を代表取締役に委任する場合は、委任する権限の内容、委任の理由、権限が適切に行使されるための措置(指名・報酬委員会への諮問など)を開示することが求められます。業績連動報酬の指標にEBITDAのような会社独自の指標を使う場合は、定義をKPIの開示とそろえておくと説明が一貫します。

その他の関係会社との関係と関連当事者取引

伊藤忠商事は、議決権の24.7%を保有する「その他の関係会社」です。関係会社の状況では、電力の仕入・販売、設備・資材の調達、業務委託料の支払などの関係があると記載されています。事業等のリスクでは、関連当事者取引について他社との取引条件の比較により適正性を確認していること、事業上の競合はないことが説明されています。また、社外取締役の村上洋一氏は伊藤忠商事の出身で、同社との取引条件は一般の取引先と同様であると記載されています。

その他の関係会社(伊藤忠商事)との関係伊藤忠商事その他の関係会社(24.7%)アイ・グリッド・ソリューションズ観点Ⅰの部の記載取引の内容電力の仕入・販売、設備・資材の調達、業務委託料取引条件他社との取引条件の比較で適正性を確認人的関係社外取締役1名が伊藤忠商事の出身事業上の競合なし関連当事者注記増資の引受646,800千円(2024年6月期)議決権を保有電力・資材等の取引

図13 Ⅰの部「関係会社の状況」「事業等のリスク」「関連当事者情報」をもとに筆者作成

2024年6月期の連結財務諸表の関連当事者注記には、伊藤忠商事による増資の引受(646,800千円)、主要株主であるTHE FUND投資事業有限責任組合による増資の引受(1,001,000千円)、その他の関係会社の子会社である青山ソーラー株式会社からの当社子会社株式の取得(646,015千円、第三者機関の価格算定書を参考に交渉で決定)が記載されています。

上場審査では、親会社等や大株主との取引について、取引条件の妥当性と、少数株主の利益を損なわない仕組みが確認されます。取引の必要性、条件の決め方(相見積りや市場価格との比較)、承認の手続を文書化しておくことが大切です。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)、親会社等からの独立性についてはIPO審査の「親会社等からの独立性」で解説しています。

社外役員の独立性の説明

社外役員の独立性について、アイ・グリッド・ソリューションズは独自の基準や方針は特に定めていないものの、東京証券取引所の独立役員の判断基準等を勘案していると記載しています。そのうえで、社外取締役の有村氏が当社主催の講座の講演料を他の講師と同額で受け取っていること、社外監査役の野原氏とその親族が所有する企業と代理店契約があり、手数料は僅少で他の代理店と同率であることなど、個別の関係を具体的に説明しています。

小さな取引でも、社外役員と会社の間に関係がある場合は、その内容と条件を開示し、独立性に影響しない理由を説明することが求められます。上場準備の段階で、社外役員候補者に利害関係の有無を確認する質問票を用意しておくと、開示の準備がスムーズになります。

このほか、社外取締役・社外監査役との責任限定契約、取締役・監査役を被保険者とするD&O保険(保険料は全額会社負担)、取締役の定数を10名以内とすること、取締役会決議で中間配当や自己株式の取得を行える旨の定款規定なども記載されています。

内部監査・内部統制:少人数の内部監査と三様監査の連携

内部監査の体制

アイ・グリッド・ソリューションズの内部監査は、代表取締役社長が任命した内部監査担当者2名が、内部監査を行う独立した組織として、全部署を対象に原則年1回以上実施する体制です。「内部監査規程」に基づき、リスクを反映したチェックリストを用いて毎年度計画的に監査を行い、監査報告書を社長に提出して決裁を受けます。特に重要な事項は取締役会にも報告され、被監査部門には改善方針を報告させてフォローアップしていると記載されています。

従業員153名の規模で内部監査担当者が2名という体制は、上場準備会社としては標準的な規模です。内部監査の人数に決まった基準はありませんが、全部署を年1回以上監査できる工数を確保できるか、監査の結果を経営と監査役に報告し改善までフォローできるかが重要です。担当者が他部門と兼務する場合には、自分の所属部門を監査しない「自己監査の回避」の手当ても必要になります。人数と体制の考え方は内部監査の人数と体制、兼務の留意点は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で解説しています。

三様監査の連携

Ⅰの部では、内部監査担当者が監査役会にオブザーバーとして毎回参加し、監査役や会計監査人と定期的な連絡会を持っていることが記載されています。さらに、社外監査役・内部監査担当者・会計監査人の三者による情報共有の場を設けていることも説明されています。常勤監査役は取締役会・経営会議等への出席、各部署の責任者との面談、内部監査担当者・会計監査人との定期的なコミュニケーション、部門別の往査、重要書類の閲覧を行っています。

三様監査の連携監査役会(4名全員社外)常勤監査役が取締役会・経営会議に出席内部監査担当者2名監査役会に毎回オブザーバー参加会計監査人EY新日本有限責任監査法人社外監査役・内部監査担当者・会計監査人の三者による情報共有の場を設置内部監査の報告監査計画・結果の説明定期的な連絡会

図14 監査役会・内部監査担当者・会計監査人の連携の仕組み(Ⅰの部「監査の状況」「社外役員の状況」をもとに筆者作成)

監査役会の検討内容としては、監査計画、監査報告書、会計監査人の監査計画と結果、会計監査人の報酬への同意、株主総会の議案、内部監査の計画と実施状況、内部統制の整備・運用状況などが挙げられています。内部監査の計画と結果が監査役会の議題として扱われている点は、内部監査と監査役監査の連携を具体的に示す記載です。三様監査の考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。

内部統制システムとリスク管理

内部統制システムの基本方針は2016年4月18日の取締役会で制定されています。組織規程・業務分掌規程・職務権限規程、リスク・コンプライアンス管理規程、内部通報制度運用規程(ホットライン)、情報セキュリティ管理規程、文書管理規程、関係会社管理規程、反社会的勢力への対応の基本方針とマニュアルなどが整備されていると記載されています。組織横断的なリスクの監視と全社的な対応は管理部が担当し、リスク管理・コンプライアンス委員会を原則四半期に1回開催するとともに、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士などの外部専門家の助言を受ける体制です。

上場審査では、規程が整備されているだけでなく、規程どおりに運用されている記録があるかが確認されます。委員会の議事録、内部通報の受付・対応記録、内部監査の指摘と改善の記録を残しておくことが大切です。社内規程の整備についてはIPO審査の「社内規程」も参考にしてください。

会計・開示の論点:設備型事業と電力事業に特有の論点

収益認識:一時点と一定期間の区分

2024年6月期の連結財務諸表の注記では、収益認識の方法が事業ごとに説明されています。エナジートレーディング事業は電力を供給した時点、PPAサービスは当社所有のオンサイトソーラーで発電した電力を供給した時点で収益を認識します。インテグレーションサービスとアライアンスソリューションは、開発案件を納品し検収が完了した時点で履行義務が充足されるとして検収日に収益を認識し、案件開発後のAM・O&Mなどは、一定の期間にわたり充足される履行義務としてサービスの提供に応じて収益を認識すると記載されています。

開発報酬のような一時点の収益と、O&Mのような一定期間の収益が同じ契約やスキームに含まれる場合は、履行義務の識別と取引価格の配分が論点になります。フロー収益が四半期ごとに大きく変動する事業では、検収の時期をどの証憑で確認するか、期末日前後の案件をどう管理するかが、売上の期間帰属の観点から重要です。上場審査で問われる収益認識もあわせてご覧ください。

重要な会計上の見積り

2025年6月期の単体財務諸表では、重要な会計上の見積りとして、資産除去債務、固定資産の減損、未検針期間の売上高の3項目が記載されています。

項目 2025年6月期の金額 主な内容・仮定
資産除去債務 3,402,794千円 PPAオンサイトソーラーと事務所の原状回復義務。撤去業者等の第三者情報、契約期間等に基づく
固定資産の減損 減損損失35,964千円 過年度実績、施設の稼働状況、売上高成長率、割引率等を仮定
未検針期間の売上高 437,085千円 決算月の検針日から期末日までの電力売上を、売上高予算と未検針期間の割合で見積り

資産除去債務は、屋根上に設置した太陽光発電設備を契約終了時に撤去する義務などを見積もったものです。2025年6月期には、直近の原状回復費用について新たな情報を入手したことによる見積りの変更で669,138千円増加したと記載されています。資産除去債務の見積りの変更は、同額を有形固定資産の帳簿価額に加減するため、変更時点の損益への直接の影響はなく、その後の減価償却を通じて費用化されます。

未検針期間の売上高は、電力小売に特有の見積りです。電力の検針日は月末とは限らないため、決算月の検針日から期末日までの供給分を見積もって売上高に計上します。この見積りによる未請求の売掛金は、主に契約資産として計上されていると説明されています。見積りの方法と前提を文書化し、翌期の実績との差異を検証する仕組みを整えておくことが、監査対応と内部統制の両面で重要です。

未検針期間の売上高の見積り決算月の検針日未検針期間検針日〜期末日の供給分期末日(6月30日)見積り:売上高予算×未検針期間の割合2025年6月期 437,085千円未請求の売掛金は主に契約資産として計上方法と前提を文書化し、翌期の実績との差異を検証する

図15 Ⅰの部「重要な会計上の見積り」をもとに筆者作成

リース・補助金・税効果に関する開示

太陽光発電設備の取得には、借入金に加えてリースも活用されています。2025年6月期のキャッシュ・フロー計算書では、セール・アンド・リースバックによる収入が3,620,241千円と記載され、リース債務は8,043,775千円です。新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等)については、2028年6月期の期首から適用する予定で、影響は評価中と記載されています。

補助金については、主に東京都の地産地消型再エネプロジェクトの助成金を補助金収入として特別利益に計上し、同額程度を固定資産圧縮損として計上する直接減額方式の圧縮記帳を行っています。税効果では、2025年6月期末に繰延税金資産と繰延税金負債を相殺した純額が繰延税金負債32,306千円となっていること、防衛特別法人税の創設に伴い実効税率を見直したことが記載されています。

会計監査人と監査報酬

会計監査人はEY新日本有限責任監査法人で、継続監査期間は2年間(2024年6月期以降)です。業務執行社員は2名、補助者は公認会計士9名、その他18名と記載されています。監査報酬は、2024年6月期が40,800千円、2025年6月期が44,400千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。選定理由としては、監査法人の規模とグローバルネットワーク、独立性、品質管理体制、専門性、監査報酬の水準、監査実績を総合的に判断したと説明されています。上場準備の費用感はIPOにかかる費用はいくらかで整理しています。

事業等のリスクと審査で問われやすい点

Ⅰの部の「事業等のリスク」では、各リスクについて、顕在化の可能性・時期と影響度を示したうえで、対応策が記載されています。主なものを、上場準備の観点から整理します。

借入金・リースと財務制限条項

財務リスクとして、2025年6月期末の自己資本比率が15.8%、短期借入金・長期借入金・リース債務の合計である有利子負債が273億円(総資産の65.7%)であることが記載されています。借入の過半は金利スワップで固定化するか、長期固定のリースを利用していると説明されています。

また、多くの借入契約に財務制限条項が付されていることが記載されています。財務諸表の注記では、契約ごとに、単体の純資産を直前期末の一定割合(75%や80%など)以上に維持すること、経常損益を損失としないこと、DSCR(元利金返済に対する返済原資の比率)を一定以上に保つことなどの条件が示されています。旧VPP Japanから承継した借入には、条件を満たす場合を除き配当を行わないことという条項も含まれています。事業等のリスクでは、2022年6月期の決算で一部の契約の経常損益に関する条件に抵触した事例があり、いずれも弁済の請求は受けていないことも開示されています。

財務制限条項は、抵触すると期限の利益を失うおそれがあるため、継続企業の前提や資金繰りの観点から審査で確認されます。上場準備会社では、借入契約ごとの条項を一覧にし、月次や四半期で判定の見込みを確認する仕組みを整えておくことが大切です。また、組織再編や配当方針の検討の際に条項への影響を確認する手順を設けておくと安心です。

財務制限条項の例と管理の流れ借入契約に付された条項の例単体の純資産を直前期末の一定割合(75%・80%など)以上に維持経常損益を損失としないDSCRを一定以上に保つ条件を満たす場合を除き配当を行わない(旧VPP Japan)管理の流れ条項を契約ごとに一覧にする月次・四半期で判定の見込みを確認組織再編・配当の検討時に影響を確認2025年6月期末の有利子負債は273億円(総資産の65.7%)

図16 Ⅰの部の財務諸表注記・事業等のリスク及び本文の説明をもとに筆者作成

特定の販売先・季節性・電力市場

事業面のリスクとしては、前述のTLC VPP合同会社への売上の集中、第2・第4四半期に新規稼働が多いことによる収益の偏り、JEPXの市場価格やインバランス料金の変動、出力制御、物価や資材価格・工事労務費の上昇、工事スケジュールの遅延などが挙げられています。工事の遅延については、構造計算で設置できない場合の中止や系統連系の遅れなどを想定し、中止係数や遅延の前提を事業計画に織り込んでいると記載されています。

事業計画にリスクの前提を織り込み、その根拠を説明できるようにしておくことは、審査で事業計画の合理性を説明するうえで有効です。また、許認可として、小売電気事業者の登録、電力広域的運営推進機関の会員、JEPXの取引会員が挙げられています。許認可が事業の前提となる会社では、取消事由に該当しないための管理体制が確認されます。IPOで許認可はどこまで見られるかもご覧ください。

人材・特定人物・大株主との関係

運営体制のリスクとしては、人材の獲得・育成、代表取締役社長への依存、伊藤忠商事との関係が挙げられています。代表取締役社長への依存については、指名・報酬委員会で選解任を審議する体制を整えていると記載されています。経営者への依存度が高い会社では、権限の委譲や後継者の育成、会議体による意思決定の状況が審査で確認されます。

上場準備会社が学べること

アイ・グリッド・ソリューションズのⅠの部から、上場準備会社が自社に応用できる示唆を7つに整理します。

このケースから学べることポイント1種類株式は転換と分割を一体で計画するポイント2株価の算定方法と根拠資料をそろえるポイント3重要な株主との取引は条件の妥当性を確認ポイント4多額の借入は財務制限条項を一覧で管理ポイント5設備型事業は見積りの前提を文書化するポイント6KPIは定義と監査対象かどうかを明示する

図17 アイ・グリッド・ソリューションズのⅠの部から引き出せる上場準備の主な示唆(筆者作成)

1. 種類株式の整理は、取得条項による交換・株式分割・単元株の導入を一体で計画する。取得条項付きの種類株式であれば、会社主導で普通株式にそろえられます。発行時点で取得条項を設計しておくことが、上場前の整理を円滑にします。

2. 株式の移動・発行ごとに算定方法と根拠資料をそろえる。同時期に異なる価格がある場合は、株式の種類や算定方法の違いを説明できるようにしておきます。

3. 組織再編は単体の損益と財務制限条項への影響を事前に試算する。吸収合併による抱合せ株式消滅差損益は単体にだけ表れるため、単体の数値を基準とする契約に注意が必要です。

4. 大株主との取引は、条件の妥当性を確認する手続を文書化する。他社との条件比較や承認手続の記録が、独立性と健全性の説明の土台になります。

5. 設備型事業は、資産除去債務や減損の見積りの前提を文書化する。見積りの変更が生じたときに、その理由と根拠を説明できる体制が重要です。

6. KPIは定義と監査対象かどうかを明示する。フロー収益とストック収益を分けて示すことで、成長の質を説明しやすくなります。

7. 三様監査の連携は、会議体と議題として具体化する。内部監査担当者の監査役会への出席や三者の情報共有の場は、少人数の体制でも実行しやすい方法です。

  • 種類株式の取得条項・転換条件を確認し、普通株式化と株式分割の時期を資本政策に組み込んでいる
  • 上場前の株式移動・増資・新株予約権の価格について、算定方法と根拠資料を保管している
  • 借入契約の財務制限条項を一覧にし、組織再編や配当の検討時に影響を確認している
  • 大株主・その他の関係会社との取引について、条件の比較と承認の記録を残している
  • 資産除去債務・減損・未請求売上などの見積りの方法と前提を文書化している
  • KPIの定義と集計方法を文書化し、監査対象の数値との関係を整理している

よくある質問

Q1. 大株主の総合商社から社外取締役を受け入れても問題ありませんか。

社外取締役の要件を満たしていれば選任できます。ただし、出身会社との取引がある場合は、取引条件が一般の取引先と同様であることなどを説明し、独立役員として届け出るかどうかを東証の判断基準に照らして検討する必要があります。アイ・グリッド・ソリューションズでも、伊藤忠商事出身の社外取締役について、同社との取引の内容と条件を記載しています。

Q2. 優先株式は上場前にすべて普通株式にする必要がありますか。

上場するのは普通株式であり、優先株式が残ったままでは株主間の権利関係が複雑になるため、上場前に普通株式へそろえるのが一般的です。取得条項や転換請求権の内容によって手続が異なるため、契約や定款の条項を早めに確認しておきましょう。

Q3. 財務制限条項に抵触した過去があると上場できませんか。

抵触の事実だけで上場できなくなるわけではありません。審査では、抵触の原因、金融機関との協議の状況、資金繰りへの影響、再発を防ぐ管理体制が確認されます。アイ・グリッド・ソリューションズも、過去の抵触事例と弁済請求がなかったことを開示しています。

Q4. 監査法人の継続監査期間が2年でも上場できますか。

上場申請には直前々期と直前期の2期分の監査が必要であり、その期間を満たしていれば申請できます。ただし、監査契約の前にショートレビューを受け、課題を解消する期間を確保しておくことが一般的です。

最初の一歩は、株式と借入契約の棚卸しから

アイ・グリッド・ソリューションズのように、種類株式、多数の株主、多額の借入やリースがある会社では、まず株主名簿・種類株式の条項・新株予約権の発行要項と、借入・リース契約の条項を一覧にすることから始めるのがおすすめです。どの株式をいつ普通株式にそろえるか、どの契約にどの条件が付いているかが見えれば、資本政策や組織再編、配当方針を無理なく計画できます。現状の課題を洗い出す方法としては、ショートレビューの活用も有効です。

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アイ・グリッド・ソリューションズのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

アイ・グリッド・ソリューションズの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

株式会社アイ・グリッド・ソリューションズは、PPA型オンサイト太陽光発電と電力小売を組み合わせ、2026年7月に東証グロース市場に上場しました。Ⅰの部からは、A種・B種優先株式の普通株式への交換と株式分割、取引ごとに算定方法を示した株価の開示、社外役員の比率が高い監査役会設置会社のガバナンス、その他の関係会社との関係の説明、資産除去債務や未検針期間の売上高といった業種特有の会計上の見積り、財務制限条項付き借入の開示など、上場準備の実務に直結する具体例を読み取ることができます。

特に、設備を自社で持つモデルと他社に持ってもらうモデルを組み合わせ、KPIでストックとフローを分けて示す開示は、設備投資が大きい事業を営む上場準備会社にとって参考になります。自社の状況に置き換えて、早い段階から論点を整理しておきましょう。資本政策の全体像は上場準備の資本政策で確認できます。

上場準備の体制づくりを相談したい方へ

ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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