エブリーのIPO|優先株式の整理と相互監査の内部監査体制【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年8月4日、レシピ動画メディア「デリッシュキッチン」を運営する株式会社エブリー(証券コード607A)が東京証券取引所グロース市場に上場しました。同社の「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」には、創業から10年あまりで先行投資期を抜け、直前期に損益がほぼ均衡し、申請期の中間期に黒字転換するまでの数字が、上場準備の実務を考えるうえで参考になる形で整理されています。

結論からいえば、このケースから学べる点は大きく3つあります。第一に、A種〜E種の5種類の優先株式を取得条項で普通株式に1対1で転換・消却し、単元株制度を導入するという、ベンチャーキャピタル(VC)出資を受けてきた会社の典型的な上場前整理の流れです。第二に、独立した内部監査部門を置かず、内部監査責任者と管理部門・事業部門の担当者の計3名で相互に監査する体制で上場審査に臨んでいる点です。第三に、資本業務提携先である事業会社株主との取引、収益認識、減損、誤謬の訂正といった会計・開示の論点が、Ⅰの部のどこにどう書かれているかを具体的に確認できる点です。本記事では、Ⅰの部の記載をもとに事実を整理し、上場準備会社にとっての実務上のポイントを解説します。

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エブリーはどんな会社で、どの市場に上場したのか?

株式会社エブリー(英訳名 every, Inc.)は、2015年9月に東京都渋谷区神宮前で設立された会社です。本店は東京都港区六本木三丁目にあります。Ⅰの部では、代表取締役社長の吉田大成氏と、取締役執行役員の菅原千遥氏がいずれも「共同創業」と記載されています。

決算期は6月30日で、事業年度は7月1日から翌年6月30日までです。Ⅰの部の「最近事業年度」は第10期(2025年6月期)で、申請期は第11期(2026年6月期)にあたります。子会社・関連会社はなく、親会社等もありません。そのため連結財務諸表は作成されておらず、財務情報はすべて単体ベースです。

従業員数は2026年5月31日現在で174名(ほかに臨時従業員19名)、平均年齢32.6歳、平均勤続年数4.1年と記載されています。労働組合は結成されていません。女性活躍に関する指標としては、管理職に占める女性労働者の割合25.0%、男性労働者の育児休業取得率100.0%が開示されています。

項目 内容
会社名 株式会社エブリー(every, Inc.)
証券コード/市場 607A/東京証券取引所グロース市場
上場日 2026年8月4日
設立 2015年9月(東京都渋谷区神宮前)
本店所在地 東京都港区六本木三丁目
決算期 6月30日(申請期=第11期 2026年6月期)
代表者 代表取締役社長 吉田 大成
従業員数 174名(臨時19名)※2026年5月31日現在
セグメント メディアプラットフォーム事業の単一セグメント
連結の範囲 子会社なし(単体のみ)/親会社等なし
機関設計 監査役会設置会社
会計監査人 有限責任 あずさ監査法人
株主名簿管理人 三井住友信託銀行株式会社

セグメントは「メディアプラットフォーム事業」の単一セグメントです。単一セグメントの会社でも、後で見るようにサービス区分別の売上高や重要業績評価指標(KPI)を開示することで、事業の中身が読み手に伝わるよう工夫されています。

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エブリーは何で稼いでいるのか?事業内容と収益モデル

Ⅰの部では、パーパスとして「明るい変化の積み重なる暮らしを、誰にでも。」、ミッションとして「前向きなきっかけを、ひとりひとりの日常にとどける。」が掲げられています。

主力は、管理栄養士が監修するレシピ動画メディア「デリッシュキッチン」です。2026年4月末時点で、累計レシピ動画は57,000本以上、月間利用者数は3,100万超、SNS総フォロワー数は1,300万超と記載されています。このほか、ファミリー向けメディア「トモニテ」(旧MAMADAYS)などを運営しています。

もう一つの柱が、スーパーマーケット等の店舗内に設置したデジタルサイネージ「ストアDX」を中心とするリテールメディアです。設置台数は2026年4月末時点で11,000台以上とされています。あわせて、小売企業向けのアプリ開発・導入支援も行っています。

売上は3つのビジネスに区分されている

Ⅰの部では、売上高をサービス別に次の3つに区分しています。

1つめは広告主向けの「Marketing Solutionビジネス」です。タイアップ広告(制作費と配信費)、ディスプレイ広告(表示回数に応じた配信費)、店頭サイネージに動画広告を配信するストアビジョン広告、送客数等に応じた成功報酬型のユーザーマッチング広告、外部プラットフォームへの出稿に係る運用型広告、アドネットワーク広告、そして小売企業向けDXの「retail HUB」(ストアDX、アプリ支援)が含まれます。

2つめはユーザー向けの「Consumerビジネス」で、月額480円のプレミアムサービスと、冷凍弁当「ミールズ」の定期便などのEコマースです。

3つめは「その他ビジネス」で、他社ECサイトのライブコマース機能のシステム保守・運用、番組制作、動画制作の受託などです。

エブリーの事業モデル(サービス区分と収益の流れ)ユーザー月間利用者数3,100万超エブリーデリッシュキッチントモニテストアDX 11,000台以上広告主顧客社数 588社小売企業・食品卸ISC・加藤産業 等レシピ動画広告費サイネージ・アプリMarketing Solution広告・retail HUB3,144,601千円Consumerプレミアム・EC436,020千円その他受託・番組制作670,311千円サービス区分別売上高(第10期 2025年6月期)

図1 Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成。数値は2026年4月末時点(顧客社数は第10期)。

会社は自社の強みとして、オンラインとオフラインの「食生活行動ビッグデータ」(1st party data)、コンテンツ制作力とリーチ力、店頭サイネージによるリテールメディア、食品卸(伊藤忠食品、加藤産業、旭食品)との連携、実店舗での購買効果の可視化を挙げています。

主要な販売先とKPI

主要な販売先として、auコマース&ライフ株式会社が開示されています。第9期(2024年6月期)は392,684千円(売上高の11.7%)、第10期(2025年6月期)は451,353千円(同10.6%)です。さらに事業等のリスクの欄では、au PAY マーケット上のライブコマース共同運営契約について、同社から2026年9月30日をもって終了する旨の通知を受領しており、以降同社への販売が減少する可能性が高いことが記載されています。

KPIとしては、Marketing Solutionビジネスの売上高、顧客社数、顧客単価、そして顧客単価1千万円以上の「ロイヤル顧客」の社数が開示されています。

KPI 第9期(2024/6期) 第10期(2025/6期) 第11期 第3四半期累計
Marketing Solution売上高 2,268百万円 3,144百万円 3,020百万円
顧客社数 564社 588社 577社
うちロイヤル顧客 42社 62社 66社
顧客単価 4.0百万円 5.3百万円 5.2百万円

顧客社数は大きく変わらない一方で、ロイヤル顧客数と顧客単価が伸びていることが読み取れます。会社が経営戦略として掲げる「提供価値高度化による顧客単価向上」と、KPIの選び方が対応している点は、成長可能性の説明を組み立てるうえで参考になります。

ロイヤル顧客数と顧客単価の推移ロイヤル顧客数(社)第9期第10期第11期3Q累計426266顧客単価(百万円)第9期第10期第11期3Q累計4.05.35.2

図2 Ⅰの部「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」のKPIをもとに作成。ロイヤル顧客=顧客単価1千万円以上の顧客。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:KPIは「経営者が実際に追いかけている数字」であり、事業計画の前提と結び付いていることが重要です。審査では、KPIの定義(何を顧客1社と数えるか、単価の分母・分子は何か)、集計方法、過去実績の継続性が確認されます。いったん開示したKPIは上場後も継続して説明していくことになるため、定義を文書化し、毎月同じ方法で集計できる体制を早めに作っておくことをお勧めします。あわせて グロース市場の「高い成長可能性」とは も参考にしてください。

設立から上場まで、どのような道のりをたどったのか?

Ⅰの部の「沿革」と株式関係の記載から、主な出来事を時系列で整理します。

2015年9月の設立と同時に「DELISH KITCHEN」(現デリッシュキッチン)を開始し、2016年12月にアプリをリリースしました。2016年2月には「MAMADAYS」(現トモニテ)を開始しています。2017年8月24日には1株につき1,000株の株式分割を行っています。

2018年3月にKDDI株式会社と業務提携契約を締結し、同年8月にライブコマース「CHECK」を開始しました。2020年2月には「CHECK」を、auコマース&ライフが運営するau PAY マーケットのライブコマース機能に統合しています。

リテール領域では、2019年7月に伊藤忠食品株式会社(以下、ISC)と業務提携契約を締結し、2022年7月に加藤産業株式会社と業務提携に関する基本合意書を締結しました。同月には加藤産業と旭食品株式会社を割当先とするE種優先株式の第三者割当増資を行っています。2023年8月には小売向け統合ソリューション「retail HUB」をリリースし、同年9月に株式会社ベクトルワン(現セイノーラストワンマイル株式会社)から小売向けネットスーパーシステム提供事業を、2024年5月にピーシーフェーズ株式会社から小売向けアプリシステム提供事業を譲り受けています。2024年11月には店頭デジタルサイネージの設置台数が全国1万台を突破しました。

一方で、2020年7月には「KALOS」をクローズしています。新規事業の開始だけでなく撤退の判断も沿革に記載されている点は、事業の選択と集中の経緯を説明する材料になります。

上場直前の資本面の動きとしては、2023年5月26日の減資(欠損填補)、2026年2月24日の優先株式の取得と普通株式の交付、翌25日の優先株式の消却、2026年3月16日の単元株制度(100株)の採用と発行可能株式総数の引上げが続きます。

沿革:設立から上場まで2015/9設立・DELISHKITCHEN開始2018/3KDDIと業務提携2019/7伊藤忠食品と業務提携2022/7E種優先株式発行2023/8retail HUBリリース2023/9・2024/5小売向け事業を譲受(2件)2024/11サイネージ1万台突破2026/2優先株式を普通株式へ2026/3単元株制度採用2026/8/4グロース市場上場

図3 Ⅰの部「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに作成。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:沿革は、Ⅰの部の中でも審査担当者や投資家が最初に読む箇所のひとつです。業務提携、事業譲受、事業撤退、名称変更、本社移転、株式分割、種類株式の発行といった出来事を、議事録・契約書・登記と突き合わせて日付まで正確に整理しておく必要があります。とくに株式関係の沿革は、後述する「発行済株式総数、資本金等の推移」や第四部の「株式等の移動状況」と整合していなければなりません。上場準備の全体の流れは IPO準備の全体像(N-3期〜N期) で解説しています。

業績はどう推移してきたのか?赤字から黒字転換までの読み方

Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」では、第6期(2021年6月期)から第10期(2025年6月期)までの5期分の数字が開示されています。

項目(千円) 第6期 2021/6 第7期 2022/6 第8期 2023/6 第9期 2024/6 第10期 2025/6
売上高 2,092,802 2,425,447 2,579,809 3,359,709 4,250,933
経常損失 △1,372,118 △1,004,041 △544,249 △644,242 △30,306
当期純損失 △1,396,301 △1,056,985 △554,898 △771,364 △32,738
純資産額 1,299,428 242,443 2,091,912 1,320,548 1,287,809
総資産額 2,345,920 1,186,024 2,945,832 2,474,808 2,445,645
自己資本比率 55.39% 20.44% 71.01% 53.36% 52.66%
従業員数(臨時) 232(35) 208(31) 183(19) 193(29) 191(17)

売上高は5期で約2倍に伸びています。第6期から第10期までは、注記で「先行投資により経常損失・当期純損失を計上」と説明されています。経常損失は第6期の約13.7億円から段階的に縮小し、第10期には約30百万円とほぼ均衡するところまで来ました。

売上高と経常損失の推移(第6期〜第10期)売上高第6期第7期第8期第9期第10期2,0932,4252,5803,3604,251経常損失の額第6期第7期第8期第9期第10期△1,372△1,004△544△644△30

図4 Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」をもとに作成(単位:百万円)。下段は経常損失の額(△は損失)。

第10期の損益をもう少し細かく見る

経営成績等の分析(MD&A)によると、第10期の売上高は4,250,933千円(前期比26.5%増)でした。売上原価は1,592,846千円(同36.8%増)で、広告売上原価の増加によるものと説明されています。一方、販売費及び一般管理費は2,682,364千円(同5.5%減)で、新規ユーザー獲得の効率化による広告宣伝費の減少が理由とされています。その結果、営業損失は24,277千円となり、前期の642,559千円から618,282千円改善しました。

第10期の売上高から営業損失まで売上高4,250,933売上原価-1,592,846販管費-2,682,364営業損失-24,277

図5 2025年6月期、単位千円(Ⅰの部「経営成績等の状況の概要」をもとに筆者作成)

サービス別の売上高を見ると、成長の中心がMarketing Solutionビジネスであることがわかります。

サービス区分(千円) 第9期 第10期(前期比) 第11期 中間 第11期 第3四半期累計
Marketing Solution 2,268,829 3,144,601(138.6%) 2,018,706 3,020,174
Consumer 400,740 436,020(108.8%) 233,171 350,488
その他 690,139 670,311(97.1%) 345,518 460,193
合計 3,359,709 4,250,933(126.5%) 2,597,395 3,830,856

申請期(第11期)は中間期で黒字転換

申請期である第11期については、中間会計期間(2025年7月〜12月)と第3四半期累計期間(2025年7月〜2026年3月)の財務諸表が掲載されています。中間期の売上高は2,597,395千円(前中間期比26.8%増)、営業利益244,193千円、中間純利益243,824千円で、MD&Aでは「黒字転換」と記載されています。第3四半期累計では売上高3,830,856千円(前年同期比21.5%増)、営業利益323,636千円、経常利益323,646千円、四半期純利益320,535千円です。

また、事業等のリスクの「業績の季節性」の項では、年末・年度末に広告出稿が増えるため、第2四半期(10〜12月)と第3四半期(1〜3月)の売上・利益が相対的に高くなる傾向があると説明されています。四半期ごとの数字を見るときは、この季節性を前提に読む必要があります。

項目(千円) 第11期 中間 第11期 第3四半期累計
売上高 2,597,395 3,830,856
売上総利益 1,584,937 2,350,833
販売費及び一般管理費 1,340,743 2,027,197
営業利益 244,193 323,636
経常利益 245,711 323,646
純利益 243,824 320,535
純資産 1,531,634 1,608,345

上場準備会社にとっての実務上のポイント:グロース市場では、赤字であること自体は上場の妨げになりません。ただし、審査では「事業計画が合理的に策定されているか」「計画どおりに進捗しているか」が確認され、上場後は「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が求められます。このケースのように、売上総利益率や広告宣伝費の効率化など、損益が改善した理由を具体的に説明できることが大切です。また、季節性のある事業では、四半期ごとの予実管理の精度が上場後の業績予想の信頼性に直結します。IPO審査の「事業計画の合理性」、IPO審査の「企業の継続性及び収益性」 もあわせてご覧ください。

資本政策と株主構成はどうなっているのか?

エブリーの資本政策は、創業者、複数のVC、事業会社株主が並ぶ構成になっています。ここでは、大株主の状況、種類株式の整理、減資、価格の推移、ストック・オプション(SO)の順に見ていきます。

大株主は創業者、事業会社、VC

第四部の「株主の状況」では、潜在株式を含む総数21,552,808株を分母として、各株主の所有株式数と割合が開示されています。上位は次のとおりです。

順位 氏名・名称 所有株式数 割合
1 吉田 大成(代表取締役社長) 4,631,900 21.49%
2 KDDI株式会社 2,822,202 13.09%
3 伊藤忠食品株式会社 2,351,835 10.91%
3 加藤産業株式会社 2,351,835 10.91%
5 WiL Fund II, L.P. 1,536,150 7.13%
6 DCM Ventures China Fund (DCM VIII), L.P. 1,462,060 6.78%
7 グロービス5号ファンド投資事業有限責任組合 894,438 4.15%
8 DBJキャピタル投資事業有限責任組合 579,061 2.69%
9 菅原 千遥(取締役) 382,100 1.77%
10 Globis Fund Ⅴ, L.P. 381,234 1.77%
11 味の素株式会社 341,297 1.58%

※割合は潜在株式を含む総数ベース。菅原氏の所有株式数には新株予約権による潜在株式165,000株を含みます。

主な株主の所有割合(潜在株式を含む総数ベース)吉田 大成(創業者)21.49%KDDI(事業会社)13.09%伊藤忠食品(事業会社)10.91%加藤産業(事業会社)10.91%WiL Fund II(VC)7.13%DCM VIII(VC)6.78%グロービス5号(VC)4.15%DBJキャピタル(VC)2.69%菅原 千遥(取締役)1.77%Globis Fund Ⅴ(VC)1.77%味の素(事業会社)1.58%

図6 Ⅰの部 第四部「株主の状況」をもとに作成。分母は潜在株式を含む21,552,808株。

2026年5月31日現在の株主数は31名で、所有者別ではその他の法人が43.19%、外国法人等が18.18%、個人その他が38.63%です。事業等のリスクの欄では、VC・投資事業組合・エンジェル投資家等の保有割合が31.43%であることが開示されています。自己株式は保有していません。

事業会社株主には、KDDI(2018年3月業務提携)、ISC(2019年7月業務提携)、加藤産業(2022年7月業務提携の基本合意)のほか、旭食品、味の素、セイノーホールディングスなどが名を連ねています。資本業務提携を通じて事業会社とのつながりを深めてきたことが、株主構成に表れています。

5種類の優先株式を普通株式に転換して消却

エブリーは、A種(2,201,000株)、B種(3,040,000株)、C種(2,112,370株)、D種(5,174,037株)、E種(2,105,401株)の計14,632,808株の優先株式を発行していました。

5種類の優先株式と主な株主種類株式数主な株主(移動状況・割当先の記載から)A種2,201,000株加藤産業 などB種3,040,000株DCM などC種2,112,370株WiL Fund II・DCM などD種5,174,037株KDDI・ISC などE種2,105,401株加藤産業・旭食品(2022年7月の割当先)合計14,632,808株取得条項で取得し、普通株式を1対1で交付交付後の発行済株式は普通株式19,632,808株(2026年2月24日取得、翌25日消却)

図7 Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」及び第四部「株式等の移動状況」等をもとに筆者作成

2026年2月24日、定款の取得条項に基づき全優先株式を自己株式として取得し、その対価として優先株式1株につき普通株式1株を交付しました。取得した優先株式は、翌2月25日の臨時取締役会決議により、会社法178条に基づいて消却されています。さらに2026年3月16日の臨時株主総会で種類株式に関する定款の定めを廃止し、発行可能株式総数を78,531,200株に引き上げ、同日から単元株制度(1単元100株)を採用しました。これにより、発行済株式は普通株式19,632,808株となっています。

第四部の「株式等の移動状況」には、この普通株式の交付が、KDDI(D種→普通)、ISC(D種→普通)、加藤産業(A種・E種→普通)、WiL Fund II(C種→普通)、DCM(B種・C種→普通)などの株主ごとに記載されています。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:普通株式しか上場できない一般的なケースでは、優先株式は上場前に普通株式へ転換しておく必要があります。取得条項(または取得請求権)の発動条件、転換比率、発動のタイミングは投資契約と定款で決まっているため、上場スケジュールから逆算して、株主総会・取締役会の決議、定款変更、登記の段取りを主幹事証券・司法書士と早めに確認しておくことが重要です。詳しくは 種類株式は上場前に普通株式へ戻すのか をご覧ください。

減資による欠損填補

2023年5月26日には、2023年3月28日の臨時株主総会決議に基づき、資本金1,202,183千円と資本準備金1,202,183千円を全額その他資本剰余金に振り替えています。目的は欠損填補(財務体質の健全化)と記載されています。この結果、資本金は50,000千円、資本準備金はゼロとなりました。

減資による欠損填補の流れ資本金1,202,183千円を振替資本準備金1,202,183千円を振替その他資本剰余金欠損填補(財務体質の健全化)振替後:資本金50,000千円、資本準備金ゼロ(2023年5月26日)

図8 Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに筆者作成

VCから多額の資金を調達し、先行投資で損失を計上してきた会社では、資本金が大きくなる一方で繰越利益剰余金のマイナスが膨らむことがあります。減資によってその他資本剰余金とし、欠損を填補する手続は、税務上の外形標準課税の判定や、上場後の配当可能額の考え方にも関係します。実施する場合は、債権者保護手続の期間も含めてスケジュールに織り込んでおく必要があります。

株価はどう決められてきたか

Ⅰの部には、株式や新株予約権の発行・移動の価格と、その算定方法が記載されています。

時期 取引 価格 算定方法等
2022年7月 E種優先株式の第三者割当(加藤産業・旭食品) 1株1,142円 優先株式の発行価格はDCF法を基礎に当事者間協議で決定
2022年12月 第8回新株予約権の付与 行使価額320円 -
2023年9月 元従業員から役員への株式移動(普通株式) 1株255円 DCF法で算出した価格を基礎に当事者間協議で決定
2023年9月 同(A種優先株式) 1株300円 同上
2025年5月 第9回新株予約権の発行 行使価額320円 DCF法及びオプション価格算定モデルによる価格を総合勘案
2026年3月 第10回新株予約権の発行 行使価額480円 DCF法により算出した価格を総合勘案

2023年9月の株式移動は、元従業員の退職に伴い、代表取締役の吉田氏と取締役の菅原氏がそれぞれ普通株式とA種優先株式を譲り受けたものです。理由は「移動前所有者の当社退職による」と記載されています。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:上場申請日の直前事業年度の末日の2年前から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式移動は、第四部で開示されます。価格の算定根拠が合理的に説明できること、同時期の他の取引価格との関係を説明できることが求められます。退職者の株式を役員が買い取る場面は多くの会社で起こりますが、算定方法と決定プロセスを記録しておくことが大切です。未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約) もご参照ください。

資本政策の主な出来事と価格の推移株式の発行・移動と価格2022/7E種優先株式1,142円2023/5減資(欠損填補)2023/9株式移動255円・300円2025/5第9回SO320円2026/3第10回SO480円上場前の株式の整理2026/2/24優先株式を取得普通株式を交付2026/2/25優先株式を消却2026/3/16種類株式の定め廃止・単元株2026/8/4グロース市場上場

図9 Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」及び第四部をもとに作成。価格は1株当たり(新株予約権は行使価額)。

ストック・オプションは第1回〜第10回、潜在株式比率は9.78%

エブリーは、設立2年目の2017年から2026年3月まで、第1回から第10回までの新株予約権をSOとして発行しています(第3回は、提出日現在で全新株予約権が放棄されています)。2026年5月末時点の潜在株式数は1,920,000株で、発行済株式総数19,632,808株に対して9.78%と記載されています。

回号 付与(発行)日 行使価額 2026年5月末の株式数 上場後の行使可能割合
第1回 2017年3月22日 90円 41,000株 上場後3ヶ月まで0%、以降100%
第2回 2017年9月27日 100円 32,000株 上場後6ヶ月まで0%、以降100%
第4回 2018年10月17日 310円 82,000株 6ヶ月まで0%、18ヶ月まで50%、以降100%
第5回 2019年11月20日 313円 224,500株 同上
第6回 2021年1月22日 313円 188,500株 同上
第7回 2021年6月30日 313円 140,500株 1年まで0%、2年まで40%、3年まで80%、以降100%
第8回 2022年12月21日 320円 383,000株 同上
第9回 2025年5月14日 320円 617,500株 1年まで0%、2年まで30%、3年まで60%、以降100%
第10回 2026年3月18日 480円 211,000株 18ヶ月まで0%、32ヶ月まで30%、42ヶ月まで60%、以降100%

いずれの回も、上場するまでは原則として行使できず、上場後も一定期間は行使できる割合が段階的に増えていく設計になっています。回を追うごとに行使制限の期間が長くなり、直近の第10回では上場後18ヶ月までは行使できず、42ヶ月経過後に100%行使可能となる設計です。上場後も役職員が長く在籍するインセンティブとして機能させる意図がうかがえる設計といえます。

上場後の経過月数と行使可能割合回〜6ヶ月〜12〜18〜24〜32〜36〜4242ヶ月〜第4〜6回0%50%50%100%100%100%100%100%第7・8回0%0%40%40%80%80%100%100%第9回0%0%30%30%60%60%100%100%第10回0%0%0%30%30%60%60%100%第1回は上場後3ヶ月まで、第2回は6ヶ月まで0%で、以降は100%回を追うごとに行使制限の期間が長くなっている

図10 Ⅰの部「新株予約権等の状況」の行使条件をもとに筆者作成。各列は上場後の経過月数の区間

会計処理の面では、いずれも未公開企業として本源的価値(評価は類似業種比準方式等)により算定しており、発行時の行使価額が評価額以上であるため費用計上はされていません。本源的価値の合計額は2025年6月末で21,343千円と注記されています。

第9回と第10回は、第四部の「第三者割当等の概況」にも記載されています。第9回は菅原氏に30,000株、従業員98名に587,500株、第10回は従業員66名に211,000株が割り当てられ、いずれも上場前の継続所有の確約(有価証券上場規程施行規則272条)が付されています。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:SOは、付与の時期と行使価額の決め方が、上場前の株価の説明と密接に関係します。直前期以降に発行するSOは第四部で開示されるため、算定方法(DCF法、オプション価格算定モデルなど)を外部評価で裏付けておくことが重要です。また、潜在株式比率が高すぎると上場後の希薄化が投資家から懸念されるため、全体の発行枠を資本政策の中で管理しておく必要があります。税制適格要件の確認も欠かせません。税制適格ストックオプション、ストック・オプションの注記の記載例 もあわせてご覧ください。

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コーポレート・ガバナンスはどう設計されているのか?

エブリーは監査役会設置会社です。Ⅰの部では、取締役会による業務執行の監督と、監査役による適法性監査の二重のチェック機能を持つ体制として、この機関設計を採用していると説明されています。

取締役6名のうち4名が社外取締役

役員は取締役6名と監査役3名の計9名で、うち女性は2名(22.2%)です。取締役6名のうち4名が社外取締役で、監査役3名は全員が社外監査役です。

役職 氏名 主な経歴等
代表取締役社長 吉田 大成 ヤフー、グリー(取締役執行役員常務)を経て2015年に当社を共同創業
取締役執行役員 菅原 千遥 グリーを経て2015年に当社を共同創業。デリッシュキッチンカンパニー長
社外取締役 佐伯 泰昌 伊藤忠商事出身。伊藤忠食品 常務執行役員(現任)
社外取締役 牧野 隆広 ミライプロジェクト/ミライプロジェクトインベストメント代表取締役(現任)
社外取締役 藤田 英輝 ジャフコ、グリー等を経て SEGNEL Ventures 創業Director(現任)
社外取締役 次家 成典 加藤産業 取締役常務執行役員管理本部長兼グループ管理担当(現任)
常勤監査役(社外) 髙橋 彩 監査法人トーマツ出身、公認会計士
監査役(社外) 平田 幸一郎 公認会計士。他社の社外監査役等を兼務
監査役(社外) 松本 拓生 弁護士。他社の社外監査役等を兼務

社外役員7名のうち、ISCの現任役員である佐伯氏と、加藤産業の現任役員である次家氏を除く5名を独立役員として届け出る予定と記載されています。独立性の判断について会社独自の基準は定めておらず、東証の基準を参考にしているとされています。また、ISCとの間に取締役の指名権に関する取り決めはないことも明記されています。

社外役員と独立役員の関係社外役員 7名社外取締役4名社外監査役3名独立役員として届出予定 5名独立役員としない 2名佐伯氏(ISC 常務執行役員)次家氏(加藤産業 取締役常務執行役員)独立性は東証の基準を参考に判断。ISCとの間に取締役の指名権に関する取り決めはない

図11 Ⅰの部「役員の状況」をもとに筆者作成

取締役会は月次の定時取締役会と必要に応じた臨時取締役会で運営され、第10期は14回開催されました。各取締役の出席状況も開示されています。

執行側の会議体:全社経営会議とリスクマネジメント委員会

執行側では、執行役員制度と社内カンパニー制度を採用し、各カンパニー長に執行役員を充てています。執行役員は7名(うち1名は取締役兼務)で、任期は1年です。

代表取締役の諮問機関として「全社経営会議」が置かれ、常勤取締役2名、執行役員、常勤監査役が出席して原則毎週1回開催されます。取締役会決議事項の事前審議などを行う場です。また、代表取締役直轄の「リスクマネジメント委員会」があり、委員長はCFOが務めています。常勤監査役は、全社経営会議とリスクマネジメント委員会に参加し意見を述べることができると規定されています。

エブリーの機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会6名(うち社外4名)監査役会3名(全員社外)代表取締役社長会計監査人(あずさ)全社経営会議毎週・諮問機関リスクマネジメント委員会内部監査3名・相互監査各カンパニー各部門選任選任選定・監督監査連携指示・報告

図12 Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成。

役員報酬と関連当事者取引

役員報酬については、取締役の報酬限度額を年額2億円以内(使用人分給与を含まない)、監査役の報酬限度額を年額3,000万円とすることが2026年3月16日の株主総会で決議されています。各取締役の具体的な金額は、取締役会決議により授権された代表取締役が決定し、監査役の報酬は監査役会の協議で決定するとされています。第10期の実績は、社外取締役を除く取締役2名に23,520千円、社外役員8名に12,200千円で、いずれも固定報酬のみです。

関連当事者との取引としては、法人主要株主であるKDDIとの動画コンテンツ制作・配信等(第10期198,457千円)、その子会社であるauコマース&ライフとのライブコマース番組制作等(同451,353千円)が注記されています。取引条件は独立第三者間取引と同様の一般的な条件と記載されています。

KDDIグループとの関連当事者取引KDDI(法人主要株主)動画コンテンツ制作・配信等auコマース&ライフ(KDDIの子会社)ライブコマース番組制作等エブリー第10期の取引額。取引条件は独立第三者間取引と同様の一般的な条件au PAY マーケットのライブコマース共同運営契約は2026年9月30日で終了する旨の通知を受領198,457千円451,353千円

図13 第10期(2025年6月期)の関連当事者取引の注記及び事業等のリスクをもとに筆者作成

上場準備会社にとっての実務上のポイント:事業会社株主の現任役員を社外取締役に迎える場合、その会社が主要な取引先に当たるなど東証の独立性基準に抵触すれば独立役員にはなれません。また、東証は2026年7月の上場規則改正(7月10日施行)で独立性基準を広げ、上場会社の主要株主(議決権10%以上)やその業務執行者(最近において該当していた者を含む)等は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会から独立役員の要件を満たさないこととなりました。独立役員の人数要件を満たしつつ、提携先の知見を取締役会に取り込むには、このケースのように独立した社外役員と提携先出身の社外役員を組み合わせる設計が考えられます。また、上場後は、有価証券報告書の「役員の報酬等」で、報酬等の決定方針や、個人別の報酬額の決定を代表取締役に委任する場合の権限の内容・委任の理由・適切な権限行使のための措置を開示することが求められます。株主との取引についても、取引条件の妥当性を取締役会で確認するプロセスを整えておくことが大切です。監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、社外取締役は何人必要か、IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引) もご覧ください。

内部監査・内部統制はどんな体制なのか?

独立部門を置かない「相互監査」方式

Ⅰの部の「監査の状況」によると、エブリーは独立した内部監査部門を設けていません。代表取締役の命を受けた内部監査責任者と、内部監査責任者が指名する内部監査担当者2名(管理部門1名、事業部門1名)の計3名が、内部監査規程に基づいて各部門に対して相互に内部監査を実施する体制です。

監査は原則として全部署を対象とし、結果は代表取締役に報告されます。代表取締役は被監査部門に改善を指示し、内部監査責任者は改善状況の報告書を受領します。あわせて、内部監査の結果は取締役会にも直接報告されると記載されています。

従業員170名台の会社で、専任の内部監査室を置かずに兼務者で内部監査を行う形は、グロース市場の上場準備会社でよく見られる形です。兼務で内部監査を行う場合に最も注意すべきなのは「自己監査」の回避です。たとえば管理部門の担当者が管理部門自身を監査すると、独立した立場からのチェックになりません。そのため、自部門は別の担当者が監査する「相互監査」の仕組みを取り、誰がどの部門を担当するかを年度の監査計画で明確にしておくのが一般的です。

また、報告先を代表取締役だけでなく取締役会(や監査役)にも置くことは、経営者自身が関与する事項についての監査の実効性を確保するうえで意味があります。

三様監査の連携と内部監査の相互監査監査役会常勤1名・非常勤2名内部監査責任者+担当者2名会計監査人あずさ監査法人定期的な会合内部監査の相互監査(自己監査の回避)管理部門の担当者事業部門の担当者事業部門を監査管理部門を監査

図14 Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成。三者は定期的な会合で情報共有。監査結果は代表取締役と取締役会に報告。

監査役監査と三様監査

監査役会は常勤監査役1名と非常勤監査役2名の3名で構成され、全員が社外監査役です。常勤監査役の髙橋氏と非常勤の平田氏は公認会計士、松本氏は弁護士です。監査役会は毎月開催され、第10期は13回開催されました。主な検討事項として、監査方針・監査計画、会計監査人の報酬・選任の同意、会計監査人の監査の相当性、新規上場にかかる各種事項を含む取締役会付議議案、内部統制システムなどが挙げられています。

監査役、内部監査担当者、会計監査人の三者は定期的に会合を持ち、情報共有と意見交換を行っているとされています。いわゆる三様監査の連携です。

内部統制システムとリスク管理・コンプライアンス

取締役会で決議した内部統制システムの基本方針には、内部通報窓口の設置、内部監査の実施、顧問弁護士の活用、反社会的勢力の排除、文書管理規程・情報管理基本規程・ITセキュリティ管理規程・個人情報取扱規程の整備、外部機関を活用した与信管理、取締役会規程・稟議規程・業務分掌規程・職務権限規程・決裁権限表による職務執行の効率化、監査役の補助使用人、監査役への報告体制と報告者の不利益取扱いの禁止、財務報告の信頼性確保のためのIT全般統制(ITGC)・IT業務処理統制(ITAC)の整備などが盛り込まれています。

子会社がないため、企業集団の内部統制に関する体制は定めていないと記載されています。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:内部監査は、上場審査で「運用実績」が確認される領域です。少なくとも1年分の監査計画、監査調書、報告書、改善状況のフォローの記録が揃っていることが求められます。兼務体制でも構いませんが、自己監査にならない担当の割り当てと、報告ルートの独立性を規程と実務の両方で示せることが重要です。内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、内部監査の人数と体制、内部監査の報告先は社長だけでよいのか、監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査) で詳しく解説しています。

会計・開示ではどこが論点になるのか?

広告商品ごとに収益の認識時点を区分

重要な会計方針の「収益及び費用の計上基準」では、商品・サービスの種類ごとに履行義務と収益認識の時点が整理されています。

区分 内容 収益認識の時点
Marketing Solution タイアップ広告等のうち制作を伴うもの 制作が完了し掲載(又は納品)された一時点
Marketing Solution 上記以外の広告掲載部分、ディスプレイ広告、ストアビジョン広告 掲載期間に応じて一定の期間にわたり
Marketing Solution ユーザーマッチング広告、アドネットワーク広告 データ提供時点、画面表示時点、又はバナークリック時点等
Consumer プレミアムサービスの月額利用料 契約期間に応じて一定の期間にわたり

支払条件は短期で、重要な金融要素は含まれていないとされています。収益認識関係の注記では、契約負債(前受金)が第9期末17,784千円から第10期末49,722千円に増加していること、主な内容がプレミアムサービス、ユーザーマッチング広告、タイアップ広告、ストアビジョン広告配信等の前受金であることが記載されています。残存履行義務は、契約期間が1年以内のため実務上の便法により記載を省略しています。

1つの広告案件の中に「制作」と「掲載・配信」が含まれる場合、それぞれを別の履行義務として識別し、取引価格を配分し、異なる時点で収益を認識するという整理になります。広告・メディアの会社では、この履行義務の識別と、期間にわたる収益の按分が、審査や監査で丁寧に確認される論点です。

誤謬の訂正の開示

主要な経営指標等の推移の注記では、第6期と第8期について地代家賃の支払に関する前払費用と未払費用の相殺処理に係る誤謬の訂正を行ったこと、第10期について一部取引の収益計上時期に係る誤謬の訂正を行ったことが記載されています。これにより、定時株主総会で報告された計算書類の数値と一部異なる旨が注記されています。第3四半期の財務諸表の追加情報にも、収益計上時期に係る誤謬の訂正について記載があります。

上場準備の過程では、監査法人による監査や引受審査を通じて、過去の会計処理を見直す場面が少なくありません。見直しの結果を適切に訂正し、その旨をⅠの部で開示することは、財務報告の信頼性を確保するための正規の手続です。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:過年度の会計処理の誤りが見つかった場合は、影響額の算定、訂正の方法(修正再表示)、株主総会で報告済みの計算書類との関係、原因分析と再発防止策をセットで検討します。とくに収益計上時期の論点は、契約書・検収書・掲載実績などの証憑と会計処理の対応関係を、ショートレビューの段階から確認しておくことが有効です。過年度の会計処理に誤りが見つかったとき、上場審査で問われる収益認識 もご覧ください。

誤謬の訂正:内容と検討の流れ第6期・第8期地代家賃の前払費用・未払費用の相殺処理第10期一部取引の収益計上時期誤りが見つかったときに検討する点影響額の算定訂正の方法(修正再表示)株主総会報告済みの計算書類との関係原因分析と再発防止策

図15 Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」の注記及び本文の説明をもとに筆者作成

事業譲受で計上したのれんと減損

企業結合等関係の注記では、2件の事業譲受が開示されています。1件目はベクトルワン(現セイノーラストワンマイル)からのネットスーパー受注システム等の事業の譲受(2023年9月30日、対価は現金72,500千円)で、技術関連資産(ソフトウェア)50,000千円とのれん22,500千円が計上されています。2件目はピーシーフェーズからの小売アプリ運営事業の譲受(2024年5月31日、対価は現金45,480千円)で、全額がのれんとされています。

第9期(2024年6月期)には減損損失124,828千円が計上されています。内訳は、のれん63,339千円、ソフトウェア42,500千円、本社のリース資産9,001千円、工具器具備品(共用資産・事業用)などです。営業損益が継続してマイナスとなっている資産グループについて、使用価値をゼロとして回収可能価額まで帳簿価額を減額したと説明されています。第10期の減損損失は該当ありません。

事業譲受と減損損失ベクトルワン(2023年9月30日)対価 現金72,500千円ソフトウェア50,000千円・のれん22,500千円ピーシーフェーズ(2024年5月31日)対価 現金45,480千円全額をのれんとして計上第9期 減損損失124,828千円営業損益が継続してマイナスの資産グループ主な内訳:のれん63,339千円、ソフトウェア42,500千円、本社のリース資産9,001千円 など使用価値をゼロとして回収可能価額まで減額。第10期の減損損失は該当なし

図16 Ⅰの部「企業結合等関係」「減損損失」の注記をもとに筆者作成

上場準備会社にとっての実務上のポイント:M&Aや事業譲受で取得した無形資産やのれんは、取得後の事業計画どおりに収益が上がらなければ、短期間で減損の検討対象になります。取得時の価格算定の前提(PPA)と、取得後の実績の比較を定期的に行い、減損の兆候判定を毎期文書化しておくことが重要です。IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるか もご参照ください。

税効果、リース、重要な会計上の見積り

税効果会計の注記では、税務上の繰越欠損金が第10期末で3,895,827千円あり、全額に評価性引当額を計上しているため、繰延税金資産の計上額はゼロとなっています。黒字化した会社では、将来の課税所得の見込みに応じて、繰延税金資産の回収可能性の判断(企業の分類)を見直すことが今後の論点になります。

リース取引では、ファイナンス・リースの主な内容がストアDXのサイネージ機器であること、オペレーティング・リースの未経過リース料が第10期末で1,151,032千円であることが開示されています。新リース会計基準(企業会計基準第34号)は2028年6月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。資産除去債務は、本社の原状回復義務について、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額のうち当期の負担に属する金額を費用計上する方法を採用しています。

MD&Aの「重要な会計上の見積り」では、主に賞与引当金の評価等が挙げられ、実際の支給額との乖離が生じても翌期に重要な影響はないと判断していると記載されています。

監査法人と監査報酬

会計監査人は有限責任 あずさ監査法人で、継続監査期間は9年間です。補助者は公認会計士5名、公認会計士試験合格者4名、その他4名とされています。第9期と第10期の財務諸表は財務諸表等規則に基づいて作成され、金融商品取引法193条の2第1項の規定に準じて同監査法人の監査を受けています。第6期〜第8期は会社計算規則に基づく数値で、この監査は受けていません。キャッシュ・フロー計算書は第9期から作成されています。

区分 前事業年度(2024年6月期) 最近事業年度(2025年6月期)
監査証明業務に基づく報酬 17,000千円 25,900千円
非監査業務に基づく報酬 - -

上場準備にあたって、監査法人との契約は直前々期(N-2期)の期首までに締結しておくのが一般的です。このケースのように継続監査期間が長い場合、早い段階から監査法人との関係を築いてきたことがわかります。監査法人はいつまでに決めるか もご覧ください。

事業等のリスクでは何が開示され、審査で何が問われやすいか?

エブリーの事業等のリスクは、各項目に「発生可能性」「影響度」「発生時期」が付されている点が特徴です。主な項目を整理します。

項目 発生可能性 影響度 時期
業績の季節性 中 中 未定
大手プラットフォーマーの動向 小 大 長期
個人情報保護 小 大 未定
特定の人物(代表取締役)への依存 小 大 長期
ISCとの関係 小 大 未定
KDDIグループとの取引 大 中 短期
VC等の株式保有割合 大 小 未定
ストック・オプション(希薄化) 大 小 短期
事業等のリスク:発生可能性×影響度(主な項目)影響度小中大発生可能性大中小VC等の保有割合ストック・オプションKDDIグループとの取引--季節性・競合技術革新・人材確保--知的財産権係争・訴訟 等個人情報保護ISCとの関係代表者への依存

図17 Ⅰの部「事業等のリスク」の自己評価をもとに作成(一部項目を抜粋)。

とくに目を引くのは「KDDIグループとの取引」で、発生可能性を「大」、時期を「短期」と自ら評価しています。auコマース&ライフとの契約終了の通知を受領した事実を開示し、今後同グループ向けの売上高が減少する見込みであることを明記しています。また、ISCとの関係では、ストアビジョン広告が重要な収益源であること、ISCから社外取締役を受け入れていることが説明されています。

個人情報保護の項では、個人情報を取得・利用するだけでなく第三者提供も行っていることが記載されています。ユーザーマッチング広告のように、データを広告主に提供するビジネスでは、同意の取得や管理体制が重要になります。

上場準備会社にとっての実務上のポイント:審査では、特定の取引先や資本業務提携先への依存、その取引の継続性、取引条件の妥当性が確認されます。不利な事実であっても、把握している情報は具体的に開示し、業績予想や事業計画にどう織り込んでいるかを説明できることが大切です。発生可能性・影響度・時期を明示する書き方は、リスクの重要度を読み手に伝える方法として参考になります。IPOの実質審査基準とは、IPO審査の「企業内容等の開示の適正性」 もご覧ください。

このケースから上場準備会社は何を学べるか?

エブリーのⅠの部から、上場準備会社が実務に活かせるポイントを7つにまとめます。

1. 種類株式の整理は「取得→交付→消却→定款変更」の順で段取りする

5種類の優先株式を取得条項で取得し、普通株式を交付し、翌日に消却し、その後の株主総会で種類株式の定めを廃止して単元株制度を導入しています。各ステップに必要な機関決定と登記を、上場スケジュールから逆算して準備しておくことが重要です。

2. 株価の算定方法を取引ごとに説明できるようにする

優先株式の発行、株式移動、SOの発行のそれぞれについて、DCF法やオプション価格算定モデルといった算定方法が記載されています。価格が取引ごとに異なる場合でも、その理由と根拠を説明できるよう、評価書や議事録を残しておきましょう。

3. SOの行使制限は回ごとに設計を見直してよい

上場後の行使可能割合を段階的に増やす設計を、回を追うごとに長期化しています。採用・定着の方針に合わせてSOの設計を見直し、潜在株式比率を資本政策全体の中で管理することが大切です。

4. 兼務の内部監査は「相互監査」と「報告ルート」で独立性を確保する

専任部署がなくても、自己監査を避ける担当割りと、代表取締役・取締役会への報告ルートを明確にすれば、上場審査に耐える体制を作ることができます。

5. 提携先出身の社外役員と独立役員を組み合わせる

事業会社株主の現任役員を社外取締役に迎えつつ、独立役員は別に確保しています。提携先の知見と独立性の両立を、役員構成の段階から設計しておくことがポイントです。

6. 不利な事実も具体的に開示し、計画に織り込む

主要販売先との契約終了の通知を受けたことを、事業等のリスクで発生可能性「大」・時期「短期」として開示しています。把握した事実を早く開示に反映し、事業計画との整合を取ることが信頼につながります。

7. 収益認識と過年度の処理は早めに監査法人と確認する

広告商品ごとに収益認識の時点が異なるビジネスでは、契約と証憑の整理が欠かせません。過年度の処理の見直しが必要になった場合も、訂正と開示を適切に行えば上場準備を進めることができます。ショートレビューの段階から論点を洗い出しておきましょう(ショートレビューとは)。

  • 種類株式の取得条項・転換比率・発動時期を投資契約と定款で確認しているか
  • 株式移動・SO発行の価格算定方法と根拠資料を保存しているか
  • 潜在株式比率とSOの行使制限を資本政策の中で管理しているか
  • 内部監査で自己監査を避ける担当割りと報告ルートを規程化しているか
  • 主要取引先・株主との取引の条件の妥当性を取締役会で確認しているか
  • 商品・サービスごとの収益認識の時点を契約・証憑と対応づけているか

よくある質問

Q1. 専任の内部監査室がなくても上場できますか?

できます。エブリーのように、内部監査責任者と各部門から指名された担当者が相互に監査する体制で上場している例があります。ただし、自分の所属部門を自分で監査しない担当割り、監査計画・調書・改善報告の記録、代表取締役以外への報告ルートの確保が求められます。

Q2. 優先株式はいつ普通株式に転換すればよいですか?

上場申請前に転換を済ませるのが一般的です。エブリーは、提出日の約4か月前に取得条項によって全優先株式を取得し普通株式を交付しています。投資契約上の発動条件と、株主総会・取締役会決議、登記に要する期間を踏まえて、主幹事証券と時期を決めます。

Q3. 事業会社株主の役員を社外取締役にしても問題ありませんか?

可能です。ただし、その役員は独立役員としては扱われないのが通常です。エブリーでは社外役員7名(社外取締役4名・社外監査役3名)のうち、提携先の現任役員2名を除いた5名を独立役員として届け出る予定とされています。独立役員の人数と取締役会の構成を合わせて設計します。

Q4. 上場直前期に赤字でもグロース市場に上場できますか?

グロース市場には利益の額に関する形式基準はありません。エブリーも直前期(第10期)は経常損失でした。ただし、事業計画の合理性と成長可能性を説明できること、計画の進捗を示せることが重要です。

最初の一歩は「資本政策表と株価の根拠資料の棚卸し」から

VCや事業会社から出資を受けている会社は、まず現在の資本政策表に、種類株式の条件、過去の発行・移動の価格と算定方法、SOの発行状況と行使条件を一覧で書き出してみてください。Ⅰの部の第四部で開示が求められる項目を先に揃えておくことで、上場前の整理に必要な手続と期間が見えてきます。全体像は 上場準備の資本政策 で解説しています。

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エブリーのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

エブリーの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

株式会社エブリーのⅠの部は、レシピ動画メディアとリテールメディアを組み合わせた事業の説明、KPIの開示、5種類の優先株式の整理、10回にわたるSO、相互監査方式の内部監査、事業会社株主との関係、広告商品ごとの収益認識など、グロース市場を目指す会社にとって参考になる記載が多く含まれています。

上場準備では、ここで取り上げた論点の多くが、直前期よりもかなり前の段階での準備を必要とします。自社の状況と照らし合わせ、早めに論点を洗い出しておくことをお勧めします。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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