※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
2026年10月6日、株式会社RECEPTIONIST(証券コード660A)は東京証券取引所から上場承認を受け、2026年11月10日に東証グロース市場へ上場する予定です。同社は、来訪者が受付のタブレット端末から担当者を直接呼び出せるクラウド受付システム「RECEPTIONIST」を主力に、日程調整ツール「調整アポ」や会議室管理システム「予約ルームズ」などをSaaSの形で提供しています。本記事では、同社が提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに、上場準備を進める経営者・CFO・管理部門の方が実務で参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、RECEPTIONISTのⅠの部は「赤字と債務超過を経験したSaaS企業が、資本政策と管理体制をどう整えて上場申請までたどり着いたか」を具体的に追える教材です。第6期から第8期まで経常損失を計上し、第9期末まで純資産がマイナス(債務超過)だった同社は、第10期の第三者割当増資と黒字化で債務超過を解消しました。さらに、6種類の優先株式を取得条項によって普通株式に整理し、1:10の株式分割で投資単位を調整しています。兼務2名の内部監査に取締役会・監査役会への直接報告ルートを加えるなど、小規模組織ならではの体制づくりも読み取れます。
この記事の見出し
RECEPTIONISTはどんな会社で、どの市場に上場するのか?
まずは基本情報を確認しておきましょう。同社は2016年1月にディライテッド株式会社として東京都渋谷区で設立され、2020年3月に現在の商号である株式会社RECEPTIONISTに変更しました。決算期は10月で、Ⅰの部の「最近事業年度」は第10期(2024年11月1日から2025年10月31日まで)です。子会社はなく、財務諸表は単体のみで作成されています。事業はクラウドサービス事業の単一セグメントです。
従業員数は2026年8月31日現在で55名(臨時雇用者1名)、平均年齢35.4歳、平均勤続年数3.6年です。事業等のリスクでは「取締役4名、従業員55名と小規模な組織」であることが、独立したリスク項目として記載されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 株式会社RECEPTIONIST(英訳名 RECEPTIONIST, Inc.) |
| 証券コード・市場 | 660A・東京証券取引所グロース市場 |
| 上場承認日 | 2026年10月6日 |
| 上場予定日 | 2026年11月10日 |
| 設立 | 2016年1月(ディライテッド株式会社として設立、2020年3月に商号変更) |
| 本店所在地 | 東京都目黒区青葉台(2027年2月に渋谷区への本社移転を予定) |
| 決算期 | 10月31日 |
| 代表者 | 代表取締役CEO 橋本(大宮)真里子(創業者) |
| 従業員数 | 55名(2026年8月31日現在)、平均年齢35.4歳、平均年間給与6,567千円 |
| 事業 | クラウドサービス事業(単一セグメント) |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(取締役4名・監査役3名) |
| 会計監査人 | みおぎ監査法人(継続監査期間2年間) |
グロース市場は、高い成長可能性を有する企業向けの市場です。上場審査では、「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」が実質審査の観点になります。プライム市場・スタンダード市場で問われる「企業の継続性及び収益性」とは観点が異なり、成長可能性とその説明の合理性が重視される点に注意が必要です。考え方の全体像はIPOの実質審査基準とは、グロース市場特有の論点はグロース市場の「高い成長可能性」とはで解説しています。
なお、グロース市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードのうち「基本原則」のみが適用されます。ガバナンス体制を読むときは、この前提を押さえておくと、どこまでが義務でどこからが会社の任意の工夫なのかを区別しやすくなります。
RECEPTIONISTは何で稼いでいるのか?
同社は「ビジネスの不条理をなくす。」をミッションに掲げ、受付・日程調整・会議室管理といった、人と人とのリアルな接点で生じる定型業務をクラウドサービスで効率化しています。主なサービスは、クラウド受付システム「RECEPTIONIST」、日程調整ツール「調整アポ」、会議室管理システム「予約ルームズ」の3つで、これらは相互に連携でき、関連する特許も取得していると記載されています。2025年12月には電話自動応答(IVR)サービス「代表電話コネクト」、2026年2月にはイベント受付システム「招待レセプション」をリリースし、AIを組み込んだ「RECEPTIONIST Agent」(ワークフロービルダー)も一部顧客への先行提供を通じて開発を進めています。
収益モデルは、登録人数や登録部屋数などの利用アカウント数に応じた月額利用料(ストック収益)と、導入時の初期導入費用やタブレット端末・設置台などのハードウェア販売(スポット収益)の2本立てです。サービスは直販と多数の販売パートナー(代理店)を通じて提供されています。2025年10月期の売上高に占めるストック収益は93%で、売上の大半が継続課金から生まれる構造です。
図1 主力の受付システムを中心に複数のSaaSを直販と販売パートナー経由で提供し、月額利用料(ストック収益)と初期導入費用・ハード販売(スポット収益)を得る。Ⅰの部をもとに作成
契約企業数は2026年7月末時点で2,480社(2025年10月末は2,381社)です。主な相手先別の販売実績はいずれも総販売実績の10%未満とされており、特定の顧客への依存は見られません。一方で、売上高に占める「RECEPTIONIST」の割合は2025年10月期で約68%と高く、事業等のリスクでは「特定のサービスへの依存」が影響度「大」として記載されています。市場環境については、来訪者管理システム市場におけるベンダー別売上金額シェアが2024年度13.9%、2025年度14.3%でいずれも第1位であること、無人受付システムの普及率が2025年度時点で2.9%にとどまることなどが、外部調査を出典として示されています。
上場準備会社にとってのポイントは、市場規模やシェアの数値を「出典付き」で示し、そこから自社の成長戦略(未導入企業の新規開拓と、既存顧客でのアップセル・クロスセル)へ論理的につなげている点です。グロース市場の審査では事業計画の合理性が問われるため、市場データ・KPI・計画数値の整合を説明できるようにしておくことが重要です(IPO審査の「事業計画の合理性」も参照)。
設立から上場承認まで、どのような道のりだったのか?
沿革を見ると、同社は設立から約10年で上場承認に至っています。特徴的なのは、2016年9月に株式会社トレタからオフィス受付アプリ「Kitayon(キタヨン)」のソフトウエア等の知的財産を現物出資により引き継いでいる点です。株式会社トレタは現在も118,000株を保有する株主で、大株主上位10名に含まれています。その後、2017年1月に「RECEPTIONIST」、2018年12月に「調整アポ」をリリースし、2022年9月には情報セキュリティマネジメントシステム(ISO/IEC 27001)とクラウドセキュリティ(ISO/IEC 27017)の認証を取得しました。
図2 2016年の設立後、受付システムを起点にサービスを広げ、2025年の資金調達を経て2026年10月に上場承認を受けた。Ⅰの部「沿革」等をもとに作成
本店はこれまで複数回移転しており、2027年2月には渋谷区桜丘町への本社移転を予定しています。現在の本社オフィスの定期建物賃貸借契約が2027年7月31日で終了することが理由の一つとして示され、新本社の建物附属設備等への投資予定額110,000千円の資金調達方法は「増資資金」と記載されています。上場時の公募による調達資金の使途は、Ⅰの部の事業等のリスクでも「人件費、広告宣伝費等の運転資金、オフィス移転等の設備資金」とされています。資金使途を設備計画と結びつけて説明できるようにしておくことは、どの会社にも共通する準備事項です。
業績はどう推移し、どこで黒字化したのか?
Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」には、第6期(2021年10月期)から第10期(2025年10月期)までの5期分が記載されています。売上高は178,807千円から894,052千円へと毎期増加しました。一方、経常損益は第6期△280,415千円、第7期△338,331千円、第8期△151,596千円と3期連続で損失を計上し、第9期に23,557千円の経常利益へ転じ、第10期は45,237千円となっています。
注意したいのは、第9期と第10期の財務諸表はみおぎ監査法人の監査を受けている一方、第6期から第8期までの数値は会社計算規則に基づいて算出したもので、同監査法人の監査を受けていないと明記されている点です。また、第6期から第8期まではキャッシュ・フロー計算書を作成していないため、キャッシュ・フロー関連の指標は第9期以降のみの記載です。Ⅰの部で監査対象となるのは原則として直近2期であり、それ以前の期は参考情報という位置づけになります。
| 回次(決算年月) | 売上高 | 経常損益 | 当期純損益 | 純資産 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第6期(2021年10月) | 178,807 | △280,415 | △280,705 | △59,360 | △16.0% |
| 第7期(2022年10月) | 303,569 | △338,331 | △338,861 | △298,221 | △159.8% |
| 第8期(2023年10月) | 495,773 | △151,596 | △173,711 | △303,343 | △126.0% |
| 第9期(2024年10月) | 695,611 | 23,557 | 27,745 | △225,598 | △71.0% |
| 第10期(2025年10月) | 894,052 | 45,237 | 112,804 | 137,205 | 15.1% |
| 第11期 第3四半期累計(2026年7月) | 799,770 | 206,917 | 208,563 | 328,615 | - |
(単位:千円。第6期〜第8期は監査を受けていない数値。第11期第3四半期累計はⅠの部「その他」に掲載された四半期財務諸表の数値で、みおぎ監査法人による期中レビューを受けたものです。第11期の純資産は第3四半期会計期間末の金額です。)
損失が続いた理由について、Ⅰの部は「マーケティング等の先行投資や今後の成長に向けた人員増加に伴う給料手当の負担等」と説明しています。従業員数は第6期末25名から第7期末50名へと倍増しており、先行投資型のSaaS企業らしい推移です。グロース市場では赤字の会社でも上場は可能ですが、その場合も「なぜ赤字なのか」「いつ、どのように収益化するのか」を事業計画とKPIで説明できることが求められます。
図3 売上高は5期連続で増加。第6期から第8期は経常損失、第9期に黒字化した。第6〜8期の数値は監査を受けていない。Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」をもとに作成
KPIとして何を開示しているのか?
同社は、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)と解約率を主要な経営指標(KPI)としています。ARRは各月末時点のMRR(月間経常収益)を12倍して算定し、MRRにはハードウェア販売や初期導入費用などの一時収益を含めないと定義されています。解約率は、当月の解約で減少したARRを前月末のARRで除した月次解約率について、直近12か月の平均値を用いるとされています。
ARRは第6期の220,522千円から、第10期928,972千円、第11期第3四半期末(2026年7月末)1,079,096千円へと拡大しました。解約率は第9期0.53%、第10期0.56%、第11期第3四半期0.39%です。あわせて、ARRを契約企業数で除したARPA(顧客当たりの平均収益)が2026年7月末で435千円(2025年10月末は390千円)であること、2026年7月末のARRのうち「RECEPTIONIST」が73%を占めることも開示されています。
図4 ARRは各月末のMRRを12倍した金額で、ハード販売・初期導入費用等の一時収益を含まない。解約率は月次解約率の直近12か月平均。Ⅰの部をもとに作成
KPIの開示で実務上大切なのは、定義を明確にし、会計上の売上高との関係を説明できることです。同社のように「ARRには一時収益を含めない」「解約率は12か月平均」と算定方法を具体的に書いておくと、投資家や審査担当者が数値の意味を誤解しにくくなります。また、繰延税金資産の回収可能性の見積りでも、主要な仮定として「ARRの拡大予測」と「継続契約の解約率に関する予測」が使われており、KPIが会計上の見積りの前提にもなっている点は押さえておきたいところです。
第10期の黒字はどのように生まれたのか?
第10期の売上高894,052千円は前期比28.5%増でした。内訳は、ストック収益830,827千円(前期比25.0%増)、スポット収益63,225千円(同104.8%増)です。スポット収益の大幅な増加は、受付端末等のハードウェア販売が13,549千円から31,607千円へ、導入サポート売上が16,824千円から28,962千円へ増えたことによるもので、大手企業の導入が寄与したと説明されています。
費用面では、売上原価が93,692千円(うち商品売上原価28,651千円)、売上総利益率は89.5%と前期と同水準を維持しました。販売費及び一般管理費は753,845千円(前期比26.0%増)で、人員増加により給料手当が77,304千円増えた一方、展示会等の広告宣伝費の抑制やサーバー利用料等の見直しにより、売上高に対する販管費の比率は86.0%から84.3%へ下がりました。その結果、営業利益は46,514千円、営業利益率は5.2%(前期3.5%)となっています。
図5 売上総利益率89.5%を維持しつつ、販管費比率が86.0%から84.3%に下がり、営業利益率は5.2%となった。Ⅰの部「損益計算書」をもとに作成
第11期に入ると利益水準は大きく変わります。第11期第3四半期累計期間(2025年11月1日から2026年7月31日まで)の売上高は799,770千円、営業利益213,827千円、営業利益率は26.7%です。Ⅰの部は「販売費及び一般管理費の増加を抑制しつつ、利益の拡大に取り組みました」と説明しています。今後は新規上場に伴う調達資金も活用し、人材採用や広告宣伝への投資を行う方針で、投資と利益率のバランスを図りながらARRの拡大を目指すとしています。
上場準備会社にとっては、利益率が大きく変化する局面ほど、予算と実績の差異分析が重要になります。同社の監査役会が最近事業年度に検討した主な事項として「IPOに向けての予実分析内容(結果に対するアクションプラン)の検討状況」を挙げていることも、予実管理が審査上の重要論点であることを示しています。
資本政策と株主構成から何が読み取れるか?
RECEPTIONISTのⅠの部で最も読みごたえがあるのが、資本政策に関する記載です。優先株式による複数回の資金調達、J-KISS型新株予約権、5回にわたる資本金・資本準備金の減少、VCファンドの満期に伴う株式の移動、自己株式の取得、優先株式の普通株式への整理、株式分割と、上場準備で登場する論点の多くが1社の中に詰まっています。順に見ていきましょう。資本政策の全体像は上場準備の資本政策もあわせてご覧ください。
債務超過はどのように解消されたのか?
同社の純資産は第6期末から第9期末までマイナスでした。第8期末は△303,343千円、第9期末は△225,598千円です。第9期の株主資本等変動計算書を見ると、期首の繰越利益剰余金は△951,697千円に達していました。
第10期には、純資産が137,205千円とプラスに転じ、自己資本比率は15.1%となりました。Ⅰの部は、主な要因を「株式の発行による増加300,000千円、当期純利益の計上による増加112,804千円」と説明し、「前事業年度末の債務超過(純資産△225,598千円)を解消し」たと記載しています。株式の発行300,000千円は、D種優先株式の第三者割当(250,000千円)と、J-KISS型新株予約権の行使によるC種優先株式の発行(資本金・資本準備金の増加額の合計50,000千円)から成ります。
図6 第6期末から第9期末まで純資産はマイナス(債務超過)。第10期の株式の発行300,000千円(D種優先株式の第三者割当250,000千円、J-KISS型新株予約権の行使50,000千円)と当期純利益112,804千円で解消した。第6〜8期は監査を受けていない数値、第11期3Q末は期中レビュー対象の四半期財務諸表の数値。Ⅰの部をもとに作成
先行投資型の上場準備会社では、累積損失によって純資産がマイナスになる局面が生じることがあり、財務基盤をどのように立て直すかは資本政策の重要なテーマになります。同社のケースは、増資による資本の積み増しと、黒字化による利益の積み上げを組み合わせて解消したパターンです。なお、1株当たり純資産額は第10期末でも△300.01円とマイナスですが、これは優先株式の払込金額(第10期末1,316,559千円)を純資産の部の合計額から控除して計算しているためで、算定上の基礎として注記に示されています。
どのような資金調達を重ねてきたのか?
「発行済株式総数、資本金等の推移」には、2020年12月以降の有償第三者割当が記載されています。B種優先株式は1株6,512円(主な割当先はAslead Strategic Value Fund等、グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合)、C種優先株式は1株6,840円(BIG2号投資事業有限責任組合、Salesforce Ventures LLC)、C-1種優先株式は1株4,542円(株式会社ジェイ・ウィル・インベストメント、De Capital株式会社、株式会社ベクトル)、D種優先株式は1株8,000円(RJバリューPlus1号投資事業有限責任組合)で発行されています。いずれも2026年7月の株式分割前の価格です。
図7 B種からD種まで優先株式とJ-KISS型新株予約権で資金を調達。C-1種は前後のラウンドより低い価格で発行されている。2026年7月に全優先株式を普通株式に整理し、1:10の株式分割を行った。Ⅰの部をもとに作成
| 払込日 | 種類・株数 | 発行価格(分割前) | 主な割当先 |
|---|---|---|---|
| 2020年12月18日 | B種優先株式 9,213株 | 6,512円 | Aslead Strategic Value Fund 等 |
| 2021年4月9日 | B種優先株式 21,498株 | 6,512円 | グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合 |
| 2022年9月30日 | C種優先株式 14,620株 | 6,840円 | BIG2号投資事業有限責任組合 |
| 2022年12月7日 | C種優先株式 8,568株 | 6,840円 | Salesforce Ventures LLC |
| 2023年4月〜6月 | C-1種優先株式 計24,215株 | 4,542円 | ジェイ・ウィル・インベストメント、De Capital、ベクトル |
| 2025年6月30日 | D種優先株式 31,250株 | 8,000円 | RJバリューPlus1号投資事業有限責任組合 |
D種優先株式については、「第三者割当等の概況」で、発行の目的が「安定株主及び取引先との関係強化」であり、発行価格は「DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)等により算出した価格を総合的に勘案して」決定したと記載されています。上場前の株価をどの方法で算定したかは、審査でも必ず確認される事項です。算定方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで整理しています。
J-KISS型新株予約権は財務諸表でどう表れたか?
同社は2023年11月30日に「第1回J-KISS型新株予約権」を発行し、株式会社ポーラ・オルビスホールディングスが50,000,000円で取得しています。目的となる株式はC種優先株式で、Ⅰの部では株式分割後の数値で73,100株、1株684円と「便宜的」に記載されています。この新株予約権は2025年3月25日に行使され、C種優先株式7,310株(分割前)が発行されました。
会計上の流れを財務諸表で追えるのが、このケースの学びどころです。第9期の貸借対照表では、純資産の部に「新株予約権」50,000千円が計上され、キャッシュ・フロー計算書には「新株予約権の発行による収入」50,000千円が計上されています。第10期に行使されると、新株予約権50,000千円が減少し、資本金25,000千円・資本準備金25,000千円が増加しました。J-KISSの仕組みや資本政策上の注意点はJ-KISSとは何かで解説しています。
5回の資本金・資本準備金の減少は何のためだったのか?
同社は、2021年、2023年、2024年、2025年、2026年の5回にわたり、資本金または資本準備金の額を減少させています。2021年から2024年までの3回は、減少額を欠損填補に充てたものです(いずれも目的は「財務体質の健全化」)。2024年10月30日には資本金90,000千円(減資割合90.0%)と資本準備金548,353千円を減少させ、これにより資本金は10,000千円となりました。
2025年10月30日には資本金150,000千円をその他資本剰余金に振り替え(第10期の株主資本等変動計算書では、同額を欠損填補に充当)、2026年1月29日には資本準備金150,000千円をその他資本剰余金に振り替えています。「発行済株式総数、資本金等の推移」の注記では、この2回も目的を「財務体質の健全化」としていますが、後者については、第10期の重要な後発事象として「資本政策の柔軟性、機動性を向上させることを目的」とし、「本減資等の効力発生後に自己株式取得を実行することを予定」していると記載されています。日程も、取締役会決議(2025年12月15日)、臨時株主総会決議(2025年12月23日)、債権者異議申述公告(12月26日)、最終期日(2026年1月26日)、効力発生(1月29日)と具体的に示されています。
図8 2021年から2024年までは減資等で生じた額を欠損填補に充て、2025年以降はその他資本剰余金へ振り替えている(第10期の株主資本等変動計算書では150,000千円を欠損填補に充当)。2026年1月の資本準備金の減少は、効力発生後に自己株式取得を行う予定と後発事象注記に記載。Ⅰの部をもとに作成
実務上のポイントを一般論として整理しておきます。資本金の額の減少は会社法447条、資本準備金の額の減少は448条に基づき、原則として株主総会決議と債権者保護手続(公告・催告と異議申述期間)が必要です。また、その他資本剰余金を繰越利益剰余金のマイナスに充てる「欠損填補」は、純資産の部の中での振替であり、それ自体で分配可能額が増えるわけではありません。一方、株主との合意による自己株式の取得は分配可能額の範囲内でしか行えないため(会社法461条1項)、取得のスケジュールと財源を早めに確認しておく必要があります。減資の手続きは1か月以上の期間を要するため、上場申請のスケジュールと重ならないよう逆算して計画することが大切です。
6種類の優先株式はどのように普通株式へ整理されたのか?
上場時には、通常、種類株式を普通株式に一本化します。同社は2026年6月11日の取締役会で、A種、A-1種、B種、C種、C-1種、D種の6種類の優先株式すべてを、定款に定める取得条項に基づき取得することを決議しました。2026年7月14日に自己株式として取得し、対価として普通株式合計233,379株を交付したうえで、同日付で取得した優先株式をすべて会社法178条に基づき消却しています。同日の臨時株主総会と各種類株主総会では、種類株式に関する定款の定めを廃止する定款変更も決議されました。
交付比率は、A種・A-1種・C-1種・D種が1株につき普通株式1株、B種が1.0404株、C種が1.0451株(1株未満切捨て)です。B種とC種だけ比率が1を上回っている点は、取得条項の対価が定款に定められた普通株式への転換請求権の比率に応じて決まることを示しています。どのような事由で比率が調整されたかはⅠの部に記載がありませんが、種類株式の条件(転換比率の調整条項など)が上場直前の株式数に影響することは、資本政策を設計する段階から意識しておくべき点です。
図9 6種類の優先株式を定款の取得条項に基づき取得し、対価として普通株式を交付したうえで消却。翌日に1:10の株式分割を行った。Ⅰの部「重要な後発事象」等をもとに作成
翌7月15日には普通株式1株を10株に分割し、発行済株式総数は3,995,790株、発行可能株式総数は15,000,000株となりました。あわせて単元株式数を100株とする単元株制度を採用しています。目的は「投資単位当たりの金額の引き下げ、当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大」とされています。種類株式の整理と株式分割を連続して行うと、新株予約権の目的となる株式数や行使価額の調整、1株当たり情報の遡及修正など、関連する記載が一斉に変わります。同社のⅠの部でも、分割後の数値への換算が随所で注記されています。種類株式の扱いの全体像は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかをご覧ください。
上場申請時点の株主構成はどうなっているか?
Ⅰの部の「株主の状況」によると、新株予約権による潜在株式を含めた株式総数は4,529,060株(自己株式32,380株を除く)で、筆頭株主は代表取締役CEOの橋本(大宮)真里子氏の649,720株(14.35%、うち新株予約権55,000株)です。続いて、RJバリューPlus1号投資事業有限責任組合529,240株(11.69%)、BIG2号投資事業有限責任組合528,050株(11.66%)、Salesforce Ventures LLC 453,580株(10.01%)、グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合223,660株(4.94%)と、ベンチャーキャピタル等が上位に並びます。事業等のリスクでは、ベンチャーキャピタル等の所有割合が本書提出日現在で合計58.5%であり、売却や投資家への現物分配により株式の需給に影響する可能性があると記載されています。
ここで注意したいのは、これらの比率はあくまでⅠの部の記載時点のもので、上場時の公募・売出し後の比率とは異なるという点です。また、事業会社として株式会社トレタ(2.61%)、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(1.69%)、株式会社ベクトル(1.46%)などが株主に名を連ね、社外取締役の小笠原治氏が代表取締役を務める株式会社Boundyも49,920株を保有しています。
図10 比率は新株予約権による潜在株式を含む株式総数4,529,060株(自己株式を除く)に対する割合で、Ⅰの部記載時点のもの(公募・売出し後の上場時の比率ではない)。橋本氏の比率には新株予約権1.21%分を含む。Ⅰの部「株主の状況」をもとに作成
上場時には、流通株式の数や比率が形式要件を満たしているかが確認されます。流通株式からは、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが除かれます。同社の株主の状況でも、株式会社Boundyなど3社が「役員等により総株主の議決権の過半数が所有されている会社」として特別利害関係者等に区分されています。計算の考え方は流通株式比率の計算式と調べ方、VCの持株の扱いはベンチャーキャピタルの持株は流通株式から除かれるかで解説しています。
VCファンドの満期は株式の移動にどう表れたか?
「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2025年6月から2026年7月までの移動が並んでいます。目立つのは、大和企業投資株式会社が無限責任組合員を務める2つのファンド(大和スタートアップ支援投資事業有限責任組合、大和ベンチャー1号投資事業有限責任組合)からの譲渡です。移動理由はいずれも「投資事業有限責任組合の存続期間満了に向けた保有株式の譲渡」で、譲受人はDE-SIGNキャピタル1号有限責任事業組合、スパークル1号投資事業有限責任組合、トレイダーズFinTech1号投資事業有限責任組合、JIA2号投資事業有限責任組合、三菱UFJキャピタル10号投資事業有限責任組合などです。2026年1月30日には、同ファンドから当社自身が普通株式685株・A種優先株式2,553株を総額19,154千円で取得しています(自己株式の取得)。
このほか、2025年6月30日には、代表取締役CEOの橋本氏が普通株式2,000株を1株5,600円でRJバリューPlus1号投資事業有限責任組合へ譲渡(「移動後所有者の取得希望に移動前所有者が応じたため」)し、同日、別のファンドからA種優先株式8,665株(1株6,000円)、同一グループが運営するファンドへの移管としてC-1種優先株式11,009株(1株6,400円)が同組合へ移動しています。同組合は同日にD種優先株式31,250株(1株8,000円)の割当ても受けています。移動価格は、いずれも「DCF法等により算出した価格を総合的に勘案して、譲渡人と譲受人が協議の上、決定」したとされています。
図11 大株主上位10名に該当していた大和企業投資の2ファンドが、存続期間の満了に向けて他のファンド等へ株式を譲渡し、一部は当社が自己株式として取得した。移動価格はDCF法等により算出した価格を総合的に勘案して当事者間で協議し決定。Ⅰの部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成
VCファンドには存続期間があり、上場前に満期を迎えると、ファンド間の譲渡(セカンダリー取引)や会社による買取りが必要になることがあります。上場準備会社としては、主要なVCファンドの満期時期を早めに把握し、誰がどの価格で引き受けるのか、自己株式取得で対応する場合の財源と手続きはどうするのかを、資本政策の一部として検討しておくことが重要です。また、同じ日に普通株式と優先株式が異なる価格で移動しているケースでは、種類ごとの価格差の合理性を説明できるよう、株価算定の資料を整理しておく必要があります。株式移動に伴う規制の概要は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。
継続所有の確約はどの割当てに付されているか?
東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則は、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に第三者割当等による募集株式の割当てを行っている場合に、割当先との間で継続所有等の確約を求めています(268条)。報酬として役員・従業員等に新株予約権を割り当てた場合も同様に確約が必要です(272条)。同社の基準事業年度の末日は2025年10月31日です。
Ⅰの部の「第三者割当等の概況」を見ると、2025年6月30日のD種優先株式の割当てには268条に基づく確約が付され、原則として割当日から上場日以後6か月を経過する日(その日に払込期日から1年を経過していない場合は1年を経過する日)まで所有する等の内容とされています。また、第9回②新株予約権(2024年11月1日発行)と第10回新株予約権(2026年5月29日発行)には、272条に基づく確約が付されています。一方、2023年11月30日発行の第8回新株予約権やJ-KISS型新株予約権、2024年10月1日発行の第9回①新株予約権は、確約欄が「-」となっています。
図12 基準事業年度の末日(2025年10月31日)から起算して1年前より後の割当てが確約の対象。D種優先株式は施行規則268条、報酬としての新株予約権は272条の確約を行っている。Ⅰの部「第三者割当等の概況」をもとに作成
ここで押さえておきたいのは、継続所有の確約は「上場前のすべての第三者割当」に必要なわけではなく、対象期間内の割当てに限られるという点です。また、継続所有の確約は取引所規則に基づく制度であり、主幹事証券との合意で行われるロックアップとは別の仕組みです。資本政策を組む際には、増資やストック・オプション付与のタイミングが確約の対象期間に入るかどうかを、上場申請スケジュールから逆算して確認しておきましょう。
ストック・オプションと潜在株式はどの程度か?
提出日の前月末(2026年9月30日)時点で残っているストック・オプションは、第8回、第9回①、第9回②、第10回の4回分です。第1回新株予約権は2026年4月30日にすべて行使されています。潜在株式数は合計565,650株で、発行済株式総数3,995,790株の14.16%に相当すると、事業等のリスクに記載されています。
| 回次 | 決議・発行 | 付与対象者(決議時点) | 目的株式数(2026年9月30日) | 行使価額 | 行使期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第8回 | 2023年11月13日決議・11月30日付与 | 取締役5名・監査役3名・従業員48名 | 211,250株 | 167円 | 2025年11月22日〜2033年11月21日 |
| 第9回① | 2024年9月17日決議・10月1日付与 | 取締役5名・監査役3名・従業員51名 | 77,500株 | 174円 | 2026年9月26日〜2034年9月25日 |
| 第9回② | 2024年9月17日決議・11月1日付与 | 従業員3名 | 16,000株 | 174円 | 2026年9月26日〜2034年9月25日 |
| 第10回 | 2026年5月18日決議・5月29日発行 | 取締役3名・監査役3名・従業員57名 | 260,900株 | 560円 | 2028年5月27日〜2036年5月26日 |
(株式数・行使価額は2026年7月15日の株式分割後の数値です。)
行使条件は、権利行使時においても当社の取締役、監査役、従業員等の地位にあること(任期満了による退任・定年退職を除く)などで、その他の条件は「新株予約権付与契約」に定めるとされています。行使価額は、DCF法等により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。会計処理については、付与時点で未公開株式であるため単位当たりの本源的価値を見積る方法を採用し、株式の評価はDCF法によっており、ストック・オプションに係る費用計上はありません。第10期末の本源的価値の合計額は140,383千円と開示されています。
特徴的なのは、社外取締役2名と社外監査役3名にもストック・オプションを付与している点です。監査役へのインセンティブ報酬は、監査の独立性との関係で慎重に検討すべきという考え方もあるため、付与する場合は目的や数量の妥当性を説明できるようにしておくことが実務上のポイントです。退任・退職により役員・従業員23名の新株予約権4,625個(46,250株分)が喪失していることも記載されており、付与後の管理(失効の把握と台帳更新)の重要性もうかがえます。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例で解説しています。
コーポレート・ガバナンスはどう設計されているか?
同社は監査役会設置会社です。Ⅰの部は採用理由として、「当社事業に精通した取締役を中心とする取締役会が経営の基本方針や重要な業務の執行を自ら決定し、強い法的権限を有する監査役が独立した立場から取締役の職務執行を監査する体制」が経営の効率性と健全性の確保に有効だと説明しています。取締役会は取締役4名(うち社外取締役2名)、監査役会は監査役3名(常勤1名・非常勤2名、全員が社外監査役)で構成されています。
取締役会は毎月1回の定例開催に加えて必要に応じて臨時に開催され、第10期は15回開催、各取締役・監査役の出席率はいずれも100%でした。主要な審議事項として、年度業務運営方針、予算・決算、月次・四半期決算と予算の進捗、資本政策と資金調達、組織改編・業務分掌・重要な人事、コンプライアンス・ガバナンスに関する事項が挙げられています。このほか、取締役会の諮問機関として任意の指名報酬委員会(3名、うち社外取締役2名)、常勤取締役・執行役員・部長で構成する経営会議(原則月1回、常勤監査役がオブザーバー出席)が置かれています。
図13 取締役4名のうち2名が社外取締役、監査役3名は全員が社外監査役。任意の指名報酬委員会は社外取締役が委員長を務める。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成
機関設計の選び方は、会社の規模、社外役員の確保の見通し、監査の実効性などを踏まえて決めることになります。同社のように取締役4名・監査役3名という比較的小さな体制でも、社外取締役を2名置き、監査役を全員社外とすることで、外部の視点によるチェックを確保しています。上場にあたっては、一般株主と利益相反が生じるおそれのない独立役員を1名以上確保することが求められます。機関設計の比較は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。
役員にはどのような経歴の人がいるか?
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部より要約) |
|---|---|---|
| 代表取締役CEO | 橋本(大宮)真里子 | 2016年1月にディライテッド株式会社(現当社)を設立し代表取締役に就任。所有株式594,720株 |
| 取締役CFO | 川村 卓哉 | 監査法人トーマツ、事業会社3社を経て2024年7月に当社入社。執行役員CFOを経て2026年7月に取締役CFO就任 |
| 社外取締役 | 小笠原 治 | さくらインターネット設立時取締役、株式会社ABBALab代表取締役等。2016年5月から当社社外取締役 |
| 社外取締役 | 長谷部 潤 | 大和証券、大和総研、株式会社コロプラ取締役等。2021年1月から当社社外取締役 |
| 常勤監査役(社外) | 神田 康弘 | カード・コール・サービス(現GMOペイメントゲートウェイ)で常勤監査役等。2020年7月から当社常勤監査役 |
| 監査役(社外) | 坂下 尚弥 | 公認会計士。KPMGあずさ監査法人を経て会計事務所を開業。2022年1月から当社社外監査役 |
| 監査役(社外) | 持田 大輔 | 弁護士。法律事務所の代表パートナー。2025年9月から当社社外監査役 |
役員は男性6名・女性1名で、女性比率は14.3%です。CFOに監査法人出身者を迎え、監査役に公認会計士と弁護士を置く構成は、会計・開示と法務の両面で専門性を確保する典型的な形といえます。社外監査役の神田氏については「上場企業の監査役としての経験を通じてガバナンスに関する相当程度の知見を有して」いることが選任理由とされています。
第10期中には監査役の交代もありました。監査役の石原遥平氏が2025年9月30日に退任し、持田大輔氏が2025年9月25日の臨時株主総会で選任されています。また、役員報酬の注記からは、2025年1月27日の定時株主総会終結時に取締役2名が退任したことがわかります。上場準備期間中の役員の入れ替わりは珍しくありませんが、取締役会・監査役会の出席状況や在任期間がⅠの部に記載されるため、交代の経緯を説明できるようにしておくことが大切です。
関連当事者との取引は、第9期・第10期とも「該当事項はありません」とされています。社外取締役の関係会社である株式会社Boundyが株主であることは「社外役員の状況」で開示されていますが、それ以外の人的関係・資本的関係・取引関係はないと記載されています。上場審査では、役員やその近親者、役員が支配する会社との取引の有無と必要性が確認されます。詳しくはIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。
役員報酬はどのように決めているのか?
役員報酬の決定方針は、2024年8月15日の取締役会で改定を決議した『役員報酬内規』に定められています。取締役・監査役の報酬は金銭による基本報酬のみです。取締役の報酬は、株主総会で決議された総額の範囲内で、内規に定める役位ごとの上限額の範囲内において、市場水準や各取締役の役割・職責等を考慮し、指名報酬委員会の審議・答申を経て取締役会で決定します。監査役の報酬は、株主総会で決議された限度額の範囲内で監査役の協議により決定します。
報酬限度額は、2026年7月14日の臨時株主総会で取締役年額100,000千円以内(使用人分給与を含まない)、監査役年額25,000千円以内に改定されました。第10期の役員報酬の総額は、取締役(社外取締役を除く)29,670千円(3名)、社外役員18,550千円(6名)で、いずれも固定報酬のみです。指名報酬委員会は第10期に2回開催され、定時株主総会に付議する取締役候補者、取締役の個人別の報酬額、報酬制度・報酬設計を審議しています。
図14 取締役の報酬は株主総会の限度額と『役員報酬内規』の範囲内で、指名報酬委員会の審議・答申を経て取締役会が決定する。Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成
報酬の決定方針や決定プロセス、代表取締役への委任の有無などの開示は、有価証券報告書の記載事項として企業内容等の開示に関する内閣府令に基づいて求められるものです。上場後も毎年の有価証券報告書で同様の記載が必要になるため、上場準備の段階から内規・委員会の議事録・取締役会決議の流れを整えておくと、開示とその裏付け資料の両方を効率よく準備できます。ガバナンス全体の準備事項は上場準備のガバナンスにまとめています。
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内部監査と内部統制は小規模組織でどう回しているか?
同社の内部監査は、専任の内部監査部門を置かず、代表取締役CEOが任命した内部監査責任者1名と内部監査担当者1名の計2名が、他部門の業務を兼務しながら実施しています。Ⅰの部は、その理由を「会社組織が比較的小さく、人員に限りがあること」と説明し、独立性については「自己の属する部門を監査対象としないことで独立性を確保」するとしています。内部監査はCEOの承認を得た内部監査計画に基づいて行われ、監査結果をCEOに報告するとともに、被監査部門に改善の指摘を行い、後日改善状況を確認する流れです。
注目したいのは、2026年9月14日の取締役会で「内部監査規程」を改定し、内部監査責任者が代表取締役CEOだけでなく、取締役会と監査役会にも内部監査の結果を直接報告する仕組みを整備した点です。具体的には、内部監査報告書をCEOに提出するとともにその写しを監査役会に提出し、各事業年度において半期に1回以上、内部監査の実施状況と結果の概要を取締役会に報告します。これらの報告は「代表取締役CEOの指示によることなく行うことができる」とされています。
図15 専任部門は置かず、兼務の2名が自己の属する部門を監査対象としない形で独立性を確保。報告先はCEOに加えて取締役会・監査役会へ広げている。Ⅰの部「監査の状況」等をもとに作成
兼務の内部監査は、小規模な上場準備会社では一般的な選択肢です。その場合に審査で確認されやすいのは、(1)自分の所属部門を自分で監査する「自己監査」が生じていないか、(2)監査に必要な時間と能力が確保されているか、(3)監査結果が経営者だけで握りつぶされない報告経路があるか、という点です。同社の記載は、(1)を「自己の属する部門を監査対象としない」ことで、(3)を取締役会・監査役会への直接報告で手当てしていることが読み取れます。考え方の詳細は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と内部監査の報告先は社長だけでよいのかで解説しています。
三様監査はどのように連携しているか?
監査役監査は、常勤監査役1名と非常勤監査役2名の3名体制です。常勤監査役は、取締役会・監査役会に加えて経営会議にオブザーバーとして出席し、リスク管理委員会とコンプライアンス委員会にも出席しています。稟議書、決裁書類、契約書、重要な会議の議事録に加え、「接待交際費に係る支出関係書類」まで閲覧対象として明記されているのは、具体的で参考になる記載です。監査役会は第10期に14回開催され、主な検討事項として、各部門の内部統制の構築・整備・運用状況、組織管理体制の改変による権限・責任の再構築状況、社内のモチベーション(労務管理面を含む)、IPOに向けた予実分析の内容が挙げられています。
内部監査との連携については、内部監査担当者が内部監査の実施の都度、常勤監査役に報告するほか、監査役3名全員が出席する意見交換会を原則月1回開催し、内部監査の進捗、計画の見直し、指摘事項への対応方針、新たに認識されたリスク等を報告・協議しています。さらに、監査役、会計監査人、内部監査担当者による三様監査会議を開催し、監査役と会計監査人は期中の会計監査の報告を受けるほか適宜意見交換を行っていると記載されています。
図16 内部監査担当者は常勤監査役に都度報告し、監査役3名全員との意見交換会を原則月1回開催。三者による三様監査会議も開催している。Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成
三様監査の連携は、「会議を開いている」と書くだけでなく、頻度・出席者・協議内容まで具体的に説明できると説得力が増します。同社の記載は、月1回の意見交換会の協議内容まで書かれており、連携の実態をイメージしやすい例です。三様監査の役割分担は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)、監査役と内部監査の連携方法は監査役監査と内部監査の連携で整理しています。
リスク管理とコンプライアンスの体制はどうなっているか?
同社は、リスク管理委員会とコンプライアンス委員会を設置しています。いずれも代表取締役CEOを委員長とし、監査役3名を委員として構成し、原則3か月に1回開催されます。協議内容は代表取締役CEOと取締役会に報告され、重要な事項は監査役会にも共有されます。サステナビリティ関連のリスクと機会も、リスク管理委員会で協議されています。また、クラウドサービスで顧客の社員情報や来訪者の個人情報を預かる事業であることから、代表取締役、執行役員CPO、常勤監査役等が出席する情報セキュリティ委員会を四半期に1回開催しています。
| 会議体 | 委員長・構成 | 開催頻度 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| 取締役会 | 取締役4名(うち社外2名)、監査役3名も出席 | 毎月1回+臨時(第10期15回) | 法定事項の決議、重要事項の決定、業務執行の監督 |
| 監査役会 | 監査役3名(全員社外、常勤1名) | 毎月1回(第10期14回) | 監査の方針・方法の決定、監査結果の共有 |
| 指名報酬委員会(任意) | 委員長:社外取締役、CEO・社外取締役の3名 | 第10期2回 | 取締役候補者・報酬の審議と答申 |
| 経営会議 | 常勤取締役・執行役員・部長(常勤監査役がオブザーバー) | 原則月1回 | 業務執行状況の報告、是正・予防措置 |
| リスク管理委員会 | 委員長:CEO、委員:監査役3名 | 原則3か月に1回 | リスクの把握と対応、サステナビリティ課題の協議 |
| コンプライアンス委員会 | 委員長:CEO、委員:監査役3名 | 原則3か月に1回 | コンプライアンスの方針・計画・体制の協議 |
| 情報セキュリティ委員会 | 代表取締役、執行役員CPO、常勤監査役等 | 四半期に1回 | 情報セキュリティの方針、インシデント対応の確認 |
内部通報については、弁護士を窓口とする社外通報窓口と内部通報窓口を設置し、内部統制システムの基本方針では「監査役を報告経路に含めた内部通報窓口」を整備し、「内部通報規程」で通報者を保護すると記載されています。経営者が関与する不正の通報が経営者に握りつぶされないよう、監査役や社外窓口に直接届くルートを設けることは、審査でも確認されやすいポイントです(内部通報体制は上場審査でどこまで見られるか)。
財務報告の信頼性については、基本方針で「内部監査人が核となる評価チームにより、業務プロセスのリスク評価を継続的に実施するとともに、評価結果を代表取締役CEOに報告する」としています。上場後は内部統制報告制度(J-SOX)への対応が必要になるため、上場準備の段階から評価の担い手と手順を決めておくことが大切です。進め方はJ-SOXの進め方をご覧ください。
会計・開示ではどこがポイントになるか?
SaaSの収益認識はどう整理されているか?
同社は、収益をストック収益とスポット収益に区分し、それぞれの履行義務と収益認識の時点を重要な会計方針に記載しています。ストック収益(利用アカウント数等に応じた月額利用料等)の履行義務は「契約期間にわたり当該サービスを利用することができる状態とすること」で、時の経過に応じて充足されると判断し、サービスの提供期間にわたり収益を認識します。スポット収益のうち、初期導入費用等の役務は利用開始に必要な初期設定等を提供することが履行義務で、通常短期間で完了することから原則として役務の提供完了時に、タブレット端末や設置台などの商品は引渡時に顧客が支配を獲得するとして引渡時に収益を認識します。
収益認識関係の注記では、顧客との契約から生じる収益をストック収益とスポット収益に分解して開示しており、この区分は「生産、受注及び販売の実績」の区分と同一であると記載されています。契約負債(前受金)は第10期首232,141千円から期末287,543千円に増加し、当期に認識した収益のうち期首の契約負債に含まれていた金額は231,046千円です。当初に予想される契約期間が1年を超える重要な契約がないため、実務上の便法により残存履行義務に配分した取引価格の注記は省略されています。
図17 ストック収益はサービスの提供期間にわたり、初期導入の役務は提供完了時、ハードウェアは引渡時に収益を認識する。契約期間分を一括で受け取る契約があり、前受金(契約負債)が積み上がる。Ⅰの部「重要な会計方針」「収益認識関係」をもとに作成
同社では契約期間分の料金を一括で受け取る契約があるため、利益の計上に加えて前受金の増加が営業キャッシュ・フローの増加要因になる傾向がある、とMD&Aで説明されています。実際に第9期は、前受金の増加額が71,045千円あり、営業キャッシュ・フロー97,517千円が当期純利益27,745千円を大きく上回っています。SaaS企業では、売上高・ARR・前受金・営業キャッシュ・フローの関係を一貫して説明できるようにしておくことが、開示の信頼性を高めます。初期導入費用を一時点で認識するか、サービス期間にわたり認識するかは、役務が独立した履行義務かどうかの判断にかかわるため、審査や監査で論点になりやすい部分です。詳しくは上場審査で問われる収益認識で解説しています。
繰延税金資産の計上は利益にどう影響したか?
同社が識別している重要な会計上の見積りは、繰延税金資産の回収可能性です。第9期末の繰延税金資産は4,331千円でしたが、第10期末は72,502千円となり、第10期には法人税等調整額△68,171千円(利益の増加要因)を計上しました。その結果、経常利益45,237千円に対して当期純利益は112,804千円となっています。
税効果会計の注記によれば、第10期末の税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産459,229千円のうち、将来の課税所得の発生が見込まれる範囲内で70,611千円を認識し、残りには評価性引当額を計上しています。見積りの方法は「翌事業年度の課税所得の見積額に基づいて」繰延税金資産を算定するもので、課税所得の見積りは翌事業年度の事業計画に基づき、主要な仮定はARRの拡大予測と継続契約の解約率の予測です。注記では「経営者が承認した事業計画のもとで想定されたものであり、過去の計画と実績の推移からその実現可能性は高い」と判断の根拠も示されています。事業等のリスクでは、税務上の繰越欠損金が1,338百万円(2025年10月期)あることも記載されています。
図18 繰延税金資産の回収可能性の見直しにより法人税等調整額△68,171千円(利益の増加要因)を計上し、当期純利益は経常利益を上回った。Ⅰの部「損益計算書」をもとに作成
赤字から黒字に転換した直後の会社では、繰延税金資産の計上額が当期純利益に大きく影響します。事業計画の達成状況(予実)が繰延税金資産の回収可能性の判断に直結するため、予算の精度と見積りの前提を、監査法人と早い段階から議論しておくことが重要です。なお、2026年11月1日に開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異については、防衛特別法人税の創設に伴い法定実効税率を33.58%から34.43%に変更して計算しており、影響は軽微とされています。
その他の注記と監査法人には何が書かれているか?
このほかにも、上場準備会社が参考にしやすい注記があります。資産除去債務については、本社の原状回復義務を資産除去債務として認識しつつ、負債計上に代えて、敷金のうち回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当期の負担に属する金額を費用計上する方法(いわゆる簡便法)を採用しています。2027年2月の本社移転に関しては、現在の本社オフィスの定期建物賃貸借契約が2027年7月31日に終了することが後発事象として記載され、業績への影響は精査中とされています。また、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)は2028年10月期の期首から適用予定で、影響額は評価中と記載されています。
会計監査人はみおぎ監査法人で、継続監査期間は2年間、業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士8名です。監査報酬は最近事業年度・前事業年度とも監査証明業務に基づく報酬10,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬の額については、監査役会が会社法399条1項に基づく同意を行っています。第11期の中間財務諸表(第1種中間財務諸表)と第3四半期の四半期財務諸表は、同監査法人の期中レビューを受けています。
| 項目 | Ⅰの部の記載 |
|---|---|
| 会計監査人 | みおぎ監査法人(継続監査期間2年間) |
| 業務執行社員・補助者 | 公認会計士2名が業務を執行、補助者は公認会計士8名 |
| 監査報酬 | 前事業年度・最近事業年度とも監査証明業務10,000千円、非監査業務なし |
| 監査対象 | 第9期・第10期の財務諸表は監査、第11期中間・第3四半期は期中レビュー |
| 重要な会計上の見積り | 繰延税金資産の回収可能性(第10期末72,502千円) |
| 関連当事者との取引 | 第9期・第10期とも該当なし |
| 資産除去債務 | 敷金の回収不能見込額を費用計上する方法 |
| 未適用の会計基準 | リース会計基準(2028年10月期期首から適用予定) |
監査法人の選定時期や監査契約までの準備については、監査法人はいつまでに決めるかをご覧ください。
事業等のリスクには何が書かれ、審査では何が問われやすいか?
同社の事業等のリスクは、「事業環境・事業運営」「システム・情報セキュリティ・災害」「組織・体制」「法務」「財務」「株式・資本政策」の6区分・21項目で構成され、各項目に発生可能性、発生する可能性のある時期、影響度が付されています。記載内容は「取締役会・リスク管理委員会等の社内の会議体で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たもの」とされています。主な項目は次のとおりです。
| リスク項目 | 発生可能性/時期/影響度 | Ⅰの部の記載の要点 |
|---|---|---|
| 競争環境等 | 低/特定時期なし/大 | 市場が急拡大し新規参入が相次いだ場合、解約率の上昇や価格競争の激化による収益力の低下の可能性 |
| 特定のサービスへの依存 | 低/特定時期なし/大 | 売上高の約68%(2025年10月期)を「RECEPTIONIST」が占める |
| 自然災害、事故等 | 低/特定時期なし/大 | 主要拠点が東京都にあり、想定を超える災害時に影響 |
| 情報管理体制 | 低/特定時期なし/中 | 顧客企業の社員情報や来客者の個人情報を預かる。ISMS認証を取得 |
| 特定人物への依存 | 低/特定時期なし/中 | 創業者である代表取締役CEOが中心的な役割を担う |
| 税務上の繰越欠損金 | 低/数年以内/小 | 1,338百万円(2025年10月期)。業績が下振れした場合に期限切れの可能性 |
| グロース市場の上場維持基準 | 低/2032年10月期末以降/大 | 想定時価総額が、2030年3月1日以降の上場維持基準(時価総額100億円・上場5年経過後から適用)を下回る |
| ベンチャーキャピタル等の株式所有割合 | 高/数年以内/中 | 所有割合58.5%。売却や現物分配により需給に影響する可能性 |
| 新株予約権による希薄化 | 低/1年以内/小 | 潜在株式565,650株(発行済株式総数の14.16%) |
このうち、グロース市場の上場維持基準に関するリスクは、上場後の見通しを自ら開示している点で特徴的です。同社は、本書提出日現在において想定する時価総額が、上場5年経過後から適用される時価総額100億円の基準を下回っていると記載し、業績成長や開示・IR体制の充実により時価総額の向上を図るとしています。
審査の観点から見ると、同社のⅠの部からは、次のような点が確認対象になりやすいと考えられます。まず、利益水準が大きく変化している局面での事業計画と予実管理の精度です。次に、主力サービスへの依存度が高い中で、新サービスやアップセルをどう成長に結びつけるかという成長戦略の合理性です。さらに、個人情報を扱うクラウドサービス事業者としての情報セキュリティ体制、小規模組織での内部管理体制の実効性、優先株式の整理や株式移動に関する価格の妥当性なども、説明が求められる典型的な論点です。主幹事証券の審査で聞かれる事項は主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかでまとめています。
上場準備会社がRECEPTIONISTのⅠの部から学べることは?
ここまでの内容を、上場準備会社が自社に置き換えて使える示唆として整理します。
| 論点 | RECEPTIONISTの事実 | 上場準備会社への示唆 |
|---|---|---|
| 債務超過の解消 | 第10期の増資300,000千円と当期純利益で純資産がプラスに | 増資と収益化のどちらで、いつまでに財務基盤を整えるかを資本政策に組み込む |
| 減資・準備金の減少 | 5回実施。欠損填補と、自己株式取得前の振替 | 債権者保護手続の期間を含めてスケジュールを逆算する |
| 種類株式の整理 | 6種類を取得条項で取得し普通株式を交付、同日消却 | 転換比率の調整条項が最終的な株式数に影響することを設計段階で確認する |
| VCファンドの満期 | 存続期間満了に伴うファンド間譲渡と自己株式取得 | 主要株主の満期を把握し、受け皿と価格の根拠を準備する |
| 継続所有の確約 | D種は268条、2024年11月以降のSOは272条で確約 | 増資・SO付与のタイミングを確約の対象期間と照らして決める |
| 兼務の内部監査 | 2名兼務、自己部門は対象外、取締役会・監査役会へ直接報告 | 自己監査の回避と、経営者から独立した報告経路をセットで設計する |
| KPIと会計上の見積り | ARR・解約率の定義を開示し、繰延税金資産の仮定にも使用 | KPIの定義・算定方法を文書化し、事業計画・見積りとの整合をとる |
1つ目は、財務基盤の立て直しを資本政策の中で計画的に行うことです。同社は、累積損失による債務超過を、第三者割当増資と黒字化の組み合わせで解消しました。増資だけに頼るのか、収益化をどこまで進めるのかによって、株主構成や株価、上場時期が変わります。
2つ目は、純資産の部の手続きを早めに計画することです。減資や準備金の減少、欠損填補、自己株式の取得は、それぞれ会社法上の手続きと財源規制があり、債権者保護手続には1か月以上の期間が必要です。同社の後発事象注記のように、決議日から効力発生日までの日程を具体的に組んでおくことが大切です。
3つ目は、種類株式の条件を上場時から逆算して設計することです。同社ではB種・C種の交付比率が1を上回りました。転換比率の調整は既存株主の持株比率や上場時の株式数に影響するため、資本政策表で常にシミュレーションしておく必要があります。
4つ目は、株式の移動と価格の根拠を記録しておくことです。同社では、同じ日に普通株式・A種優先株式・C-1種優先株式が異なる単価で移動し、いずれもDCF法等を勘案した協議価格とされています。取引所規則により、移動状況の記録は上場日から5年間保存する必要があることもⅠの部に記載されています。
5つ目は、小規模組織の内部監査を「兼務だから弱い」と見られない設計にすることです。同社は、自己監査の回避、監査役との月1回の意見交換、取締役会・監査役会への直接報告を組み合わせています。人数を増やせない場合でも、独立性と報告経路を制度として明文化することで実効性を説明できます。
6つ目は、KPIを開示と会計の両方で一貫させることです。ARRや解約率の定義を明確にし、事業計画や繰延税金資産の回収可能性の見積りと整合させておくと、審査・監査の双方で説明がしやすくなります。
自社でも確認しておきたいチェックリスト
- 純資産がマイナスの場合、増資と収益化による解消の道筋と時期を資本政策に織り込んでいるか
- 減資・準備金の減少や自己株式の取得について、会社法上の手続き・財源・債権者保護手続の日程を確認しているか
- 種類株式の転換比率や取得条項の内容を、上場時の株式数のシミュレーションに反映しているか
- 上場前の第三者割当やストック・オプション付与が、継続所有等の確約の対象期間に入るかを確認しているか
- 兼務の内部監査で、自己監査の回避と取締役会・監査役会への報告経路を規程に明記しているか
- ARR・解約率などのKPIの定義と算定方法を文書化し、事業計画や会計上の見積りと整合させているか
よくある質問
2026年10月6日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年11月10日に東証グロース市場へ上場する予定です。証券コードは660Aです。
RECEPTIONISTの場合、発行した第9期に純資産の部の「新株予約権」として50,000千円が計上され、キャッシュ・フロー計算書では「新株予約権の発行による収入」として表示されました。第10期に行使されてC種優先株式が発行されると、新株予約権が減少し、資本金と資本準備金がそれぞれ25,000千円増加しています。
いいえ。有価証券上場規程施行規則268条の確約が必要なのは、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に行った第三者割当等による募集株式の割当てです。RECEPTIONISTでは、2025年6月30日のD種優先株式の割当てに268条の確約が付されています。一方、対象期間(2024年11月1日以降)より前の2023年11月30日発行の第8回新株予約権・J-KISS型新株予約権と、2024年10月1日発行の第9回①新株予約権は、確約欄が「-」です(2024年11月1日発行の第9回②新株予約権には272条の確約があります)。なお、主幹事証券との合意によるロックアップは別の制度です。
RECEPTIONISTは専任部門を置かず、兼務の2名で内部監査を行っています。その際、自己の属する部門を監査対象としないことで独立性を確保し、取締役会・監査役会への直接報告の仕組みも整備しています。兼務の場合は、こうした独立性の確保策と実効性を説明できることが重要です。
最初の一歩は、自社の「純資産の部」と「株主の満期」を一覧にすること
RECEPTIONISTのⅠの部は、資本政策の論点がいかに多くの手続きと期限に結びついているかを示しています。まずは、自社の資本金・準備金・剰余金の状況、種類株式の条件、主要なVCファンドの存続期間、過去と今後予定する増資・ストック・オプションの日付を一つの表にまとめてみてください。それだけで、債権者保護手続や継続所有の確約、株価算定の根拠資料など、いつまでに何を準備すべきかが見えてきます。全体の段取りはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
まとめ
株式会社RECEPTIONISTは、2026年10月6日に上場承認を受け、2026年11月10日に東証グロース市場へ上場する予定のSaaS企業です。Ⅰの部からは、第6期から第8期までの経常損失と第9期末までの債務超過を経て、第10期の増資と黒字化で財務基盤を立て直した経緯が読み取れます。資本政策では、優先株式とJ-KISSによる資金調達、5回の資本金・資本準備金の減少、VCファンドの満期に伴う株式移動と自己株式取得、6種類の優先株式の整理、株式分割と、上場準備で直面しやすい論点が一通りそろっています。
ガバナンスと内部管理では、監査役会設置会社のもとで社外取締役2名・社外監査役3名を置き、兼務2名の内部監査に取締役会・監査役会への直接報告を組み合わせています。会計面では、ストック収益とスポット収益の収益認識、前受金とキャッシュ・フローの関係、繰延税金資産の回収可能性が主なポイントです。自社の上場準備に当てはめる際は、「いつまでに、どの手続きを、どの根拠資料で行うか」という観点で読み直してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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