規模の小さい会社では、内部統制の評価にかけられる人手が限られます。大企業と同じ深さで回すことは現実的ではないため、簡素化できる部分を探すことになります。
ただし、簡素化はどれも前提条件つきです。前提を示せないまま簡素化すると、評価の結論そのものが説明できなくなります。
この記事では、簡素化できる場面と前提、時間のかかり方の分析、削ってはいけない領域、準備に時間を使う考え方を整理します。
- 規模が小さい会社で使える6つの簡素化と、その前提条件
- どこに時間がかかっているかを分けて考える方法
- 文書化と証憑の入手と現場調整で打つ手が違う理由
- 拠点と統制を絞るときの条件
- 簡素化してはいけない5つの領域
- 準備に時間を使うと2年目以降の負担がどう変わるか
図 評価をどこまで簡素にできるかの判定
📌 結論 簡素化には前提条件がある
規模の小さい会社では、内部統制の評価にかけられる人手が限られます。同じ手順を大企業と同じ深さで回すことは現実的ではないため、簡素化できる部分を探すことになります。
ただし、簡素化はどれも前提条件つきです。拠点をまとめるなら業務が同一であることを示す必要があり、自動化された統制に寄せるならIT全般統制が有効である必要があります。前提を示せないまま簡素化すると、評価の結論そのものが説明できなくなります。
簡素化はどれも前提条件つき。前提を示せなければ使えない
🧭 どこに時間がかかっているか
簡素化を考える前に、どこに時間がかかっているかを分けます。文書化に時間がかかっているのか、証憑の入手に時間がかかっているのか、現場との調整に時間がかかっているのかで、打つ手がまったく違います。
簡素化のための準備に時間をかけたほうが、翌年以降が楽になる
文書化に時間がかかっている場合は、既存の資料を活用する余地があります。業務マニュアル、システムの操作手順書、経理規程には業務の流れが記述されている部分があり、ゼロから書くより早く進みます。ただし、実態と合っているかをウォークスルーで確かめてから使います。
証憑の入手に時間がかかっている場合は、システムから直接出力できる形にできないかを検討します。紙の伝票を探して写しを取るという作業は、件数が増えると膨大になります。承認の記録がシステムに残っていれば、一覧を出力するだけで済みます。
現場との調整に時間がかかっている場合は、依頼の仕方を見直します。年間の予定を先に共有し、依頼する資料を一覧にして渡せば、往復のやりとりが減ります。
📊 拠点と統制を絞る
拠点が複数ある場合、業務が同一であれば1つの単位としてまとめられる可能性があります。同じシステムを使い、同じ手順書に従い、同じ統制が働いているという事実を文書で示せることが条件です。
統制の数も絞れます。1つのリスクに複数の統制が対応している場合、そのうち最も効果的なものを評価の対象とし、他は補完的な位置づけにするという整理ができます。ただし、選んだ統制でリスクがカバーされていることを確かめる必要があります。
自動化された統制を優先して選ぶことも効きます。システムが行う処理は期を通じて同じであるため、IT全般統制が有効であれば、少ない件数で評価できます。手作業の統制を25件確かめるのに比べて、負担が大きく違います。
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🗂 削ってはいけないところ
一方で、簡素化してはいけない領域があります。評価範囲の決定の根拠、決算・財務報告プロセスの評価、経営者が関与する取引、不備が見つかった領域の再評価、そして証跡の確保です。
ここを削ると、作業は減るが結論が出せなくなる
評価範囲の根拠を省くと、範囲そのものが説明できなくなります。作業としては書類を作るだけですが、これがないと監査法人との協議も報告書の記載も成り立ちません。
決算・財務報告プロセスは、財務諸表に直結し、他の統制で代替できません。規模が小さくても、この領域だけは丁寧に評価します。むしろ小規模な会社ほど経理の人数が少なく、職務の分離が働きにくいため、リスクは高くなります。
証跡の確保も削れません。記録がなければ、何をしても評価できないためです。統制を簡素にすることはできても、記録を残さないという選択はできません。
⚖️ 準備に時間を使う
簡素化のほとんどは、前提となる準備を先に行う必要があります。IT全般統制を整えておけば自動統制に依拠できる、業務を共通化しておけば拠点をまとめられる、記録の仕組みを作っておけば証憑の入手が楽になるという関係です。
初年度は準備に時間がかかりますが、2年目以降の負担が大きく変わります。逆に、準備を省いて毎年同じ手作業を繰り返すと、負担は減りません。
上場準備の段階であれば、システムの導入や業務の設計を見直す機会があります。この時期に、評価のしやすさを設計に織り込んでおくと、上場後の負担が違ってきます。承認をシステム上で行う、記録が自動的に残る形にする、拠点間で手続を統一するといった設計は、業務の効率にも評価の負担にも同時に効きます。
❓ よくある質問
A. 簡素化できる部分はありますが、どれも前提条件つきです。前提を示せないまま簡素化すると評価の結論が説明できなくなります。
A. 既存の業務マニュアルや経理規程を活用します。ただし実態と合っているかをウォークスルーで確かめてから使います。
A. システムから直接出力できる形にできないかを検討します。承認の記録がシステムに残っていれば一覧を出力するだけで済みます。
A. 同じシステムを使い同じ手順書に従い同じ統制が働いているという事実を文書で示せれば、1つの単位としてまとめられる可能性があります。
A. 1つのリスクに複数の統制がある場合、最も効果的なものを評価の対象にできます。ただし選んだ統制でリスクがカバーされることを確かめます。
A. 評価範囲の根拠、決算・財務報告プロセス、経営者が関与する取引、不備が見つかった領域の再評価、証跡の確保です。
A. 逆です。経理の人数が少なく職務の分離が働きにくいため、リスクはむしろ高くなります。この領域は丁寧に評価します。
A. 簡素化のほとんどは準備が前提です。初年度は準備に時間がかかりますが、2年目以降の負担が大きく変わります。
📄 まとめ
簡素化はどれも前提条件つきです。前提を示せなければ、その簡素化は使えません。
まずどこに時間がかかっているかを分けます。文書化、証憑の入手、現場との調整で打つ手が違います。
拠点をまとめる、統制を絞る、自動統制に寄せるという方向が効きます。いずれも条件を文書で示すことが必要です。
評価範囲の根拠、決算プロセス、証跡の確保は削れません。ここを削ると作業は減っても結論が出せなくなります。
簡素化のほとんどは準備が前提です。上場準備の時期にシステムと業務の設計へ織り込んでおくと、上場後の負担が違います。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
評価範囲の決定
文書化
評価の実施
- 整備状況と運用状況の評価
- 期中評価とロールフォワード
- 評価の簡素化(この記事)
- 外部委託業務の評価
- 評価の外部委託
IT統制
不備と改善
整備と設計
報告と立て直し