内部統制を整えようとすると、承認の手続を増やす方向に向かいがちです。何重にもチェックされているように見えますが、それぞれの承認者が何を確かめているかを聞くと、下位が見ているから内容は見ていないという答えが返ってくることがあります。
この状態では、承認の数だけ手続が増え、実質的に確かめている人は誰もいないことになります。統制を増やすほど安全になるわけではありません。
この記事では、承認を減らせるかを見る4つの問い、自動化への置き換え、押印の扱い、減らすときの記録を整理します。
- 統制が多すぎることで生じる5つの弊害
- 承認を減らせるかを判断する4つの問い
- 何を確かめているかという問いが最も効く理由
- 定型的な確認を自動化し人は判断に集中する整理
- 押印と電子的な承認記録のどちらが統制として強いか
- 統制を減らすときに残しておく記録
📌 結論 内容を見ていない承認は統制ではない
内部統制を整えようとすると、承認の手続を増やす方向に向かいがちです。担当者が申請し、課長が承認し、部長が承認し、役員が承認するという流れを作れば、確かに何重にもチェックされているように見えます。
しかし、それぞれの承認者が何を確かめているのかを聞いてみると、下位の承認があるから内容は見ていないという答えが返ってくることがあります。この状態では、承認の数だけ手続が増え、実質的に確かめている人は誰もいないことになります。
統制を増やすほど安全になるわけではない
🧭 4つの問いで見直す
承認を減らせるかどうかは、4つの問いで判断できます。何を確かめているか、他の工程で検出できるか、金額の重要性はどうか、自動化できるかという問いです。
内容を見ていない承認は、統制ではなく手続の形だけになっている
何を確かめているかという問いが最も効きます。金額が予算の範囲内かを見ている、取引先が登録済みかを見ている、といった具体的な答えが返ってくれば、その承認は統制として機能しています。下位が見ているからという答えであれば、形だけになっています。
他の工程で検出できるかも重要です。発注の段階で承認していなくても、支払の段階で請求書と発注データを照合するのであれば、誤った発注はそこで見つかります。前工程と後工程で二重に確かめる必要があるかを検討します。
減らすときこそ、リスクがどう補われるかを書き残す
📊 自動化に置き換える
条件が明確な承認は、システムによる判定に置き換えられることがあります。取引先が登録済みであること、金額が与信限度の範囲内であること、単価がマスタと一致することといった条件は、人が見なくてもシステムで判定できます。
自動化すると、統制としての信頼性が上がるうえに、評価の負担も減ります。人の承認は頻度に応じた件数を確かめる必要がありますが、システムの判定は設定の確認と少数のサンプルで足ります。
ただし、判断が必要な部分は人が残る必要があります。この取引を行うべきかという事業上の判断、例外的な条件を認めるかという判断は、システムでは代替できません。定型的な確認を自動化し、人は判断に集中するという整理が望ましい形です。
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🗂 押印をどうするか
承認の記録として押印を使っている会社では、電子化との関係が論点になります。押印そのものが統制なのではなく、承認したという事実が記録されることが統制です。したがって、システム上で承認者と承認日時が記録されるのであれば、押印は不要になります。
むしろ、電子的な記録のほうが統制としては強くなります。押印は誰でも押せますが、システムの承認は本人のアカウントでしか行えません。承認の日時も自動的に記録されるため、後から確かめやすくなります。
紙と電子が混在している状態は避けたいところです。同じ業務で紙の承認と電子の承認が併存していると、どちらが正式なのかが分からず、評価の際にも両方を確かめることになります。移行するなら、業務単位で切り替えます。
⚖️ 減らすときの記録
統制を減らす判断をするときは、リスクがどう補われるかを記録に残します。この承認をなくしても、後工程の照合で誤りが検出されるという説明が書かれていれば、評価の際にも監査法人との協議でも使えます。
記録がないまま統制を減らすと、なぜこの工程に承認がないのかという質問に答えられません。減らす作業は、増やす作業より慎重な記録が必要になります。
また、統制を減らした後は、その領域で誤りが増えていないかを一定期間観察します。誤りの件数、後工程での差異の発生件数といった指標を見て、想定どおりに補われているかを確かめます。減らして終わりではなく、結果を見るところまでが設計の一部です。
❓ よくある質問
A. 承認者が内容を見ていなければ、数が増えても確かめている人はいません。処理の遅れ、形骸化、評価の負担増といった弊害のほうが大きくなります。
A. 何を確かめているか、他の工程で検出できるか、金額の重要性、自動化できるかの4つで判断します。
A. 具体的な答えが返るかを見ます。金額が予算の範囲内かを見ているという答えなら機能しており、下位が見ているからという答えなら形だけです。
A. 統制としての信頼性が上がり、評価の負担も減ります。人の承認は頻度に応じた件数が必要ですが、システムの判定は設定の確認と少数のサンプルで足ります。
A. 判断が必要な部分は人が残ります。この取引を行うべきかという事業上の判断や例外の許容は、システムでは代替できません。
A. 押印そのものが統制なのではなく、承認した事実が記録されることが統制です。システムで承認者と日時が記録されるなら押印は不要です。
A. どちらが正式か分からず、評価でも両方を確かめることになります。移行するなら業務単位で切り替えます。
A. リスクがどう補われるかを記録に残します。記録がないと、なぜこの工程に承認がないのかという質問に答えられません。
📄 まとめ
内容を見ていない承認は統制として機能していません。数を増やしても確かめている人はいないという状態になります。
減らせるかは、何を確かめているか、他で検出できるか、金額の重要性、自動化できるかの4つで判断します。
条件が明確な確認は自動化に置き換えられます。信頼性が上がり、評価の負担も減ります。
押印そのものではなく、承認した事実が記録されることが統制です。電子的な記録のほうが強くなります。
減らすときはリスクがどう補われるかを記録し、減らした後の誤りの発生を一定期間観察します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。