重要な事業拠点の選定は、評価範囲の決定のなかで最も作業量を左右する部分です。拠点が1つ増えれば、その拠点の業務プロセスの文書化と評価が丸ごと増えます。
従来は連結売上高に対する一定の割合という数値の目安が広く使われてきましたが、改訂では形式的に適用するのではなく企業の状況に応じた判断が求められる方向になっています。
この記事では、拠点の単位の決め方、選定の5段階、質的な観点での調整、長期間対象外の拠点の扱い、数を減らす工夫を整理します。
- 重要な事業拠点を選ぶ5段階と、数値の位置づけ
- 拠点をどの単位で捉えるかの判断基準
- 質的な観点で追加を検討する5種類の拠点
- 拠点の数を減らせる場合と増える場合
- 長期間評価の対象外になっている拠点の扱い
- 業務の共通化と集中処理で負担を減らす考え方
図 重要な事業拠点の選び方の判定
📌 結論 数値は出発点、判断は質から
重要な事業拠点の選定は、評価範囲の決定のなかで最も作業量を左右する部分です。拠点が1つ増えれば、その拠点の業務プロセスの文書化と評価が丸ごと増えます。
従来の実務では、連結売上高に対して一定の割合に達するまで、金額の大きい拠点から順に選ぶという方法が広く使われてきました。実施基準に示された例示にもとづくもので、機械的に処理できるため定着しました。
基準の改訂では、この数値を形式的に適用するのではなく、企業の状況に応じて判断することが求められる方向になっています。数値は出発点として使い、そこから質的な観点で調整するという進め方になります。
指標で並べるところまでは機械的にできる。判断は次の段階から
🧭 拠点の単位をどう決めるか
最初に決めるのが、拠点をどの単位で捉えるかです。連結子会社という単位が分かりやすいところですが、会社のなかに複数の事業があり、事業ごとに業務の流れが違う場合は、事業部を単位にすることもあります。逆に、支店が多数あっても業務が本社で集中処理されているなら、支店を個別の拠点として扱う意味は小さくなります。
判断の基準は、業務プロセスと統制が拠点ごとに異なるかどうかです。同じシステムで同じ手続を行っているのであれば、まとめて1つの単位として扱えます。この整理をしておくと、後の文書化と評価の作業がかなり減ります。
📊 質的な観点で調整する
金額で並べて候補を絞ったら、質的な観点で追加を検討します。過去に誤りや不正があった拠点、取得や新設から間もない拠点、見積りや非定型の取引が多い拠点、管理部門が手薄な拠点といったものです。
金額が小さくても、これらに当たる拠点は検討の対象に入れる
これらの拠点は、金額では小さくても、財務報告に誤りが生じるおそれが相対的に高い状態にあります。数値だけで対象外にしていると、その理由を説明できません。追加するかどうかは会社の判断ですが、少なくとも検討した記録は残しておきます。
減らす方向の判断ほど、根拠を丁寧に残しておく
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🗂 長期間対象外の拠点
基準の改訂で注目されているのが、長期間にわたって評価の対象外になっている拠点の扱いです。金額が小さいという理由で毎年対象外にしていると、その拠点の統制の状況が何年も把握されないままになります。
対応としては、数年に一度は対象に含めて評価するという運用が考えられます。毎年でなくても、一定の周期で見ることにすれば、統制の状況が把握できます。この周期を決めて、評価範囲の考え方に書いておくと、なぜ今年は対象外なのかの説明にもなります。
また、対象外の拠点についても、全社的な内部統制の評価は行われている場合があります。全社的な内部統制の評価を通じて、その拠点の統制環境や報告の仕組みは確かめられているという整理ができれば、業務プロセスの評価を行わないことの説明がしやすくなります。
⚖️ 選定を減らす方向の工夫
作業量を減らしたい場合、拠点の数を減らす方向で工夫できる余地があります。1つは、業務の共通化です。複数の拠点が同じシステムで同じ手続を行っているなら、代表的な拠点を評価して他の拠点に及ぼすという整理ができる場合があります。
もう1つが、集中処理です。支店で受注し本社で売上を計上するという形になっていれば、売上計上の統制は本社にあります。この場合、支店を個別に評価する必要は小さくなります。業務の設計そのものを見直して集中処理に寄せることは、評価の負担を減らす方向にも働きます。
ただし、減らす方向の判断は、根拠を丁寧に残す必要があります。業務が共通であることを示す資料、集中処理の流れを示す文書がなければ、監査法人との協議で説明できません。減らせるかどうかは、説明できるかどうかで決まります。
❓ よくある質問
A. 業務プロセスと統制が拠点ごとに異なるかどうかで判断します。同じシステムで同じ手続を行っているならまとめて1つの単位として扱えます。
A. 出発点としては使えます。形式的に適用するのではなく、そこから質的な観点で調整するという進め方になります。
A. 過去に誤りや不正があった、取得や新設から間もない、見積りや非定型の取引が多い、管理部門が手薄、本社の目が届きにくいといった観点です。
A. 質的な観点に当たるものがないかを検討し、少なくとも検討した記録を残します。数値だけで対象外にすると理由を説明できません。
A. 数年に一度は対象に含めて評価する運用が考えられます。周期を決めて評価範囲の考え方に書いておくと、対象外の年の説明にもなります。
A. 業務が共通化されている場合や本社で集中処理している場合には減らせる余地があります。ただし共通性や集中処理を示す資料が必要です。
A. 売上計上などの統制が本社に集まるため、拠点ごとの評価の必要性が下がります。業務設計の見直しは評価の負担を減らす方向に働きます。
A. 根拠を丁寧に残すことです。減らせるかどうかは、説明できるかどうかで決まります。
📄 まとめ
事業拠点の選定は作業量を最も左右します。数値は出発点で、そこから質的な観点で調整します。
拠点の単位は、業務プロセスと統制が異なるかどうかで決めます。共通なら1つにまとめられます。
金額が小さくても、過去に問題があった拠点や新設間もない拠点は検討の対象に入れ、記録を残します。
長期間対象外の拠点は、数年に一度は対象に含める周期を決めておくと説明がしやすくなります。
減らす方向の判断ほど根拠を丁寧に残します。説明できることが減らせる条件になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
評価範囲の決定
- 評価範囲の決め方
- 全社的な内部統制の評価
- 重要な事業拠点の選定(この記事)
- 勘定科目と業務プロセスの識別
- 決算・財務報告プロセスの評価
- 評価範囲外から不備が出たとき
文書化
評価の実施
IT統制
不備と改善
整備と設計
報告と立て直し