評価を進めると必ず不備が見つかります。ここで押さえておきたいのが、不備には2つの区分があり、報告書に記載するのは開示すべき重要な不備に該当するものだけだという点です。
重要性の判断は金額から入りますが、それだけでは決まりません。補完する統制があるか、質的に重要な事情がないか、期末までに是正できるかという要素が絡みます。
この記事では、2つの区分、金額の見積り、補完する統制の確認、質的な重要性、是正の時期を整理します。
- 不備と開示すべき重要な不備の違い
- 重要性を判定する5段階の進め方
- 生じ得る誤りの金額をどう見積もるか
- 補完する統制があると結論がどう変わるか
- 金額が小さくても質的に重要とされる5つの状況
- 期末までに是正できるかが結論を左右する理由
📌 結論 すべての不備が報告書に載るわけではない
評価を進めると、必ず不備が見つかります。ここで押さえておきたいのが、不備には2つの区分があり、報告書に記載するのは開示すべき重要な不備に該当するものだけだという点です。
不備そのものは、統制が存在しないか機能していない状態を指します。これは改善の対象になりますが、報告書に記載する必要はありません。一方、開示すべき重要な不備は、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高いものであり、報告書にその内容と是正の状況を記載します。
すべての不備が報告書に載るわけではない
🧭 金額から判断する
重要性の判断は、まず金額から入ります。その不備によって生じ得る誤りの金額を見積もり、それが財務諸表に与える影響を判断します。実務では、連結税引前利益に対する一定の割合を目安とする考え方が広く使われています。
金額だけでなく、補完する統制の有無で結論が変わる
ここで難しいのが、生じ得る誤りの金額をどう見積もるかです。実際に誤りが発見されていれば、その金額が出発点になります。誤りが見つかっていない場合は、その統制が対象としている取引の金額から、起こり得る誤りの範囲を推定します。
たとえば、承認の統制に不備があった場合、承認を経ずに処理され得た取引の総額が上限になります。すべてが誤っているわけではないため、そこから合理的に絞り込みます。この見積りの過程を記録に残しておくことが、監査法人との協議で重要になります。
📊 補完する統制を確かめる
金額の見積りと同じくらい重要なのが、補完する統制があるかどうかです。ある統制に不備があっても、後工程の別の統制で誤りが検出されるのであれば、財務諸表に至る可能性は低くなります。
たとえば、発注の承認に不備があっても、支払の段階で請求書と発注データを照合する統制が働いていれば、誤った発注は支払の前に検出されます。この場合、不備ではあるが重要な不備には至らないという整理ができます。
補完する統制を主張するには、その統制が有効であることを確かめておく必要があります。評価の対象にしていない統制であれば、追加で評価することになります。この作業を見込んで、期中の早い段階で不備を見つけておくことが効いてきます。
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🗂 質的な重要性
金額が小さくても、質的に重要と判断される場合があります。経営者が関与する不正の兆候、決算・財務報告プロセスの不備、全社的な内部統制の不備、同じ不備が複数年続いている状態、監査法人が発見した誤りといったものです。
金額が小さくても、これらに当たれば重要な不備になり得る
特に、経営者による統制の無効化に関わる事象は、金額の大小にかかわらず重く扱われます。統制の設計がどれだけ整っていても、経営者がそれを無視できるのであれば、統制の前提そのものが崩れるためです。
また、監査法人が発見した誤りが会社の統制で検出できていなかったという事実も、質的な重要性の材料になります。会社の評価では有効としていた統制が、実際には誤りを検出できなかったということになるためです。
⚖️ 期末までに是正できるか
不備が見つかっても、期末までに是正され、是正後の統制が有効に運用されていることを確かめられれば、期末時点では有効という結論になります。したがって、いつ不備を見つけるかが結論を左右します。
是正が間に合うためには、改善して、その統制が期末までに十分な回数実施される必要があります。月次の統制であれば、期末の3か月前までに改善が完了していれば、3件の実施を確かめられます。
期末近くに見つかった不備については、是正が間に合わない前提で重要性を判断します。この場合、報告書に記載するかどうかの判断が必要になり、記載する場合は是正の計画も併せて示すことになります。
❓ よくある質問
A. 載せるのは開示すべき重要な不備に該当するものだけです。それ以外の不備は改善の対象にはなりますが、記載は不要です。
A. まず不備によって生じ得る誤りの金額を見積もり、財務諸表への影響を判断します。そのうえで補完する統制と質的な重要性を検討します。
A. その統制が対象としている取引の金額を上限として、起こり得る誤りの範囲を合理的に絞り込みます。見積りの過程を記録に残します。
A. 後工程で誤りが検出されるのであれば、財務諸表に至る可能性は低くなります。ただしその統制が有効であることを確かめておく必要があります。
A. 質的に重要と判断される場合があります。経営者が関与する不正の兆候や、決算プロセス、全社的な内部統制の不備などです。
A. 改善の仕組みが働いていないという評価につながり、質的な重要性の材料になります。
A. 会社の統制で検出できなかったという事実が残ります。有効としていた統制が実際には機能していなかったことになり、質的な重要性の材料になります。
A. 是正され、是正後の統制が期末までに十分な回数実施されていることを確かめられれば、期末時点では有効という結論になります。
📄 まとめ
不備には2つの区分があり、報告書に記載するのは開示すべき重要な不備に該当するものだけです。
重要性の判断は金額の見積りから入りますが、補完する統制があれば結論が変わります。
金額が小さくても、経営者の関与や決算プロセスの不備は質的に重要と判断され得ます。
期末までに是正され、是正後の統制が十分な回数実施されていれば、期末時点では有効になります。
いつ不備を見つけるかが結論を左右します。期中の早い段階で見つけるほど選択肢が広がります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。