内部統制報告制度は、上場会社が事業年度ごとに内部統制報告書を提出する仕組みです。経営者が自社の財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その結果を報告します。
制度の骨格は単純で、経営者が評価して報告する、その評価を監査人が監査するという2つだけです。複雑に見えるのは、範囲の決め方や確かめる深さに判断が多く含まれるためです。
この記事では、年間の流れ、関係者の役割、評価の3つの対象、そして上場準備の段階でやっておくことを整理します。
- 内部統制報告制度の年間の流れを5段階で整理
- 期中評価とロールフォワードに分ける理由
- 制度に関わる3者の役割と、負荷が集中する時期
- 評価の3つの対象と、それぞれの深さの違い
- 全社的な内部統制の評価が他の評価に与える影響
- 上場前から着手しておくべき作業
図 内部統制報告制度の対象かどうかの判定
📌 結論 制度の骨格は評価と報告
内部統制報告制度は、金融商品取引法24条の4の4にもとづき、上場会社が事業年度ごとに内部統制報告書を提出する仕組みです。経営者が自社の財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その結果を報告します。米国の制度になぞらえてJ-SOXと呼ばれることもあります。
制度の骨格は単純で、経営者が評価して報告する、その評価を監査人が監査するという2つだけです。複雑に見えるのは、評価の範囲をどう決めるか、何をどこまで確かめるかという実務の部分に判断が多く含まれるためです。
期末に近づくほど直せる余地が減るので、前倒しが効く
🧭 1年をどう回すか
年間の流れは、計画、文書化、評価、不備の改善、再評価と報告という順に進みます。上場して間もない会社では、この5つを1年のなかに収めるだけで手一杯になります。逆に何年も続けている会社では、文書化の作業が更新だけで済むため、評価と改善に時間を使えるようになります。
実務で最も苦しくなるのが、不備の改善に使える時間がないという状態です。期末に近づいてから不備が見つかると、直す時間も、直したことを確かめる時間も足りません。評価をできるだけ前倒しし、期中の早い段階で不備を洗い出す設計にしておくと、この苦しさが減ります。
そのために使われるのが、期中に一度評価し、期末までの期間について追加で確かめるという2段階の進め方です。期中評価で不備が見つかれば、残りの期間で改善して、期末までに有効な状態にできる可能性があります。
実施者の負担を軽くすることが、制度を続けられるかを決める
📊 誰がどこを担うのか
制度に関わるのは、統制を実際に行っている現場の担当者、評価を担当するチーム、そして監査法人の3者です。上場準備の会社では、評価を担当するチームが経理や内部監査と兼務になることが多くあります。
ここで見落とされやすいのが、現場の担当者の負荷です。評価のたびに証憑の提出を求められ、質問に答え、不備を指摘されるという立場になります。評価する側の効率だけを考えて依頼を重ねると、現場の協力が得られなくなり、結果として制度が回らなくなります。
依頼する資料は評価に必要なものだけに絞る、同じ資料を何度も求めない、依頼の時期を分散するといった配慮が、続けられる体制を作ります。
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🗂 何を評価するのか
評価の対象は、大きく3つに分かれます。会社全体に及ぶ全社的な内部統制、決算数値ができるまでの決算・財務報告プロセス、そして売上や仕入といった業務プロセスです。
全社的な内部統制の評価結果が、業務プロセスの評価の深さを左右する
この3つは並列ではなく、全社的な内部統制の評価結果が他の2つに影響します。全社的な内部統制が良好であれば、業務プロセスの評価を簡素化できる部分があります。逆に全社的な内部統制に問題があれば、業務プロセスの評価を厚くする必要が生じます。
この関係があるため、評価は全社的な内部統制から始めます。いきなり業務プロセスの文書化に入ると、どこまで確かめるべきかの判断ができません。
⚖️ 上場準備の段階でやっておくこと
制度が実際に適用されるのは上場後ですが、準備は上場前から始まります。申請の前に、評価範囲の考え方を整理し、主要な業務プロセスの文書化に着手しておくと、上場後の初年度が楽になります。
特に、業務の流れを文書にする作業は時間がかかります。担当者へのヒアリング、流れの確認、リスクと統制の洗い出しという工程を、主要なプロセスだけでも数か月を要します。上場が決まってから始めると、他の準備と重なって回りません。
また、評価範囲の考え方については、早い段階で監査法人と話しておく価値があります。どの拠点を対象にするか、どの勘定科目を重要とみるかという判断は、会社が行うものですが、監査法人の見解とずれていると後から範囲を広げることになります。準備の段階ですり合わせておけば、初年度の混乱を避けられます。
❓ よくある質問
A. 同じ制度を指します。米国の制度になぞらえてJ-SOXと呼ばれることがありますが、正式には内部統制報告制度です。
A. 上場後の事業年度から適用されます。ただし文書化には時間がかかるため、上場準備の段階から着手しておく必要があります。
A. 計画、文書化、評価、不備の改善、再評価と報告という順に進みます。上場して間もない時期はこの5つを1年に収めるだけで手一杯になります。
A. 期中に一度評価しておけば、不備が見つかっても残りの期間で改善し、期末までに有効な状態にできる可能性があるためです。
A. 全社的な内部統制、決算・財務報告プロセス、業務プロセスの3つです。全社的な内部統制の評価結果が、他の評価の深さに影響します。
A. 全社的な内部統制からです。いきなり業務プロセスの文書化に入ると、どこまで確かめるべきかの判断ができません。
A. 評価に必要な資料だけに絞る、同じ資料を何度も求めない、依頼時期を分散するといった配慮が必要です。現場の協力を失うと制度そのものが回らなくなります。
A. 準備の段階で評価範囲の考え方をすり合わせておきます。判断がずれていると後から範囲を広げることになり、初年度が混乱します。
📄 まとめ
内部統制報告制度の骨格は、経営者が評価して報告し、監査人がその評価を監査するという2つです。
年間の流れは計画、文書化、評価、不備の改善、再評価と報告の5段階です。評価を前倒しするほど改善に使える時間が増えます。
評価の対象は全社的な内部統制、決算・財務報告プロセス、業務プロセスの3つで、全社的な内部統制から始めます。
現場の担当者の負荷を軽くすることが、制度を続けられるかどうかを決めます。
上場前から文書化に着手し、評価範囲の考え方を監査法人とすり合わせておくと初年度が楽になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
- 内部統制報告制度とは(この記事)
- 4つの目的と6つの基本的要素
- 参照する基準と府令
- 内部統制基準の改訂
- 連結ベースの評価
- 評価のスケジュール
評価範囲の決定
文書化
評価の実施
IT統制
不備と改善
整備と設計
報告と立て直し