評価する業務プロセスを識別するときは、まず勘定科目を決めます。事業目的に大きく関わる勘定科目を選び、その科目の残高や増減がどの業務で発生するかをたどるという順序です。
この順序を逆にして業務の一覧から重要そうなものを選ぼうとすると、なぜその業務を選んだのかに財務報告への影響という観点で答えられなくなります。
この記事では、勘定科目の選び方、プロセスの単位の切り方、効率化できる場面、質的に重要なプロセスの追加を整理します。
- 勘定科目から業務プロセスへたどる識別の5段階
- 業種によって変わる重要な勘定科目の選び方
- 勘定科目と業務プロセスの対応関係の例
- プロセスの始点と終点をどこで切るか
- 複数拠点の業務をまとめられる条件
- 勘定科目からは拾えない質的に重要なプロセス
図 評価対象の業務プロセスの選び方
📌 結論 勘定科目から業務へたどる
評価する業務プロセスを識別するときは、まず勘定科目を決めます。事業目的に大きく関わる勘定科目を選び、その科目の残高や増減がどの業務で発生するかをたどって、業務プロセスを特定するという順序です。
この順序を逆にして、業務の一覧から重要そうなものを選ぼうとすると、判断の根拠が曖昧になります。なぜこの業務を選んだのかという問いに、財務報告への影響という観点で答えられなくなるためです。
勘定科目を先に決めないと、業務プロセスの識別が漠然とする
🧭 どの勘定科目を選ぶか
実施基準では、事業目的に大きく関わる勘定科目として、売上高、売掛金、棚卸資産が例示されています。多くの会社では、この3つが出発点になります。
ただし、業種によって重要な科目は変わります。製造業であれば製造原価や固定資産、サービス業であれば仕掛品や前受金、金融業であれば貸付金や有価証券が重要になります。例示をそのまま使うのではなく、自社の事業の性質から考えます。
選ぶときの目安は、財務諸表における金額の大きさと、誤りが生じたときの影響です。金額が大きくても単純な取引しかない科目より、金額はやや小さくても見積りや判断が入る科目のほうがリスクは高い場合があります。
勘定科目から業務プロセスへ、という順に識別する
📊 プロセスの単位をどう切るか
業務プロセスの単位は、始点と終点で決めます。売上であれば、受注から始めるのか引合いから始めるのか、売上計上で終わるのか入金まで含めるのかという判断です。
実務では、売上計上までを1つのプロセスとし、入金と債権管理を別のプロセスとして切る例が多く見られます。担当する部署が異なり、統制の性質も違うためです。ただし、切り方に決まりはありません。自社の業務の流れに沿って切り、プロセス間に空白ができないようにすれば足ります。
切り方を決めたら、一覧にして漏れがないかを点検します。選んだ勘定科目のそれぞれについて、その残高が生まれる業務がすべて識別されているかを確かめます。売上高は識別したが、値引きや返品の処理がどのプロセスにも含まれていないという漏れが起きやすいところです。
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🗂 効率化できる場面
識別の段階で、その後の作業量を減らせる場面がいくつかあります。複数の拠点で同じ業務が行われている場合、代表的な拠点を評価して他の拠点に及ぼすという整理ができることがあります。
まとめる判断は、業務が同一であることを示せる場合に限る
この整理を使うには、業務が同一であることを示す必要があります。同じシステムを使い、同じ手順書に従い、同じ統制が働いているという事実を、文書で確かめておきます。担当者が違うだけで手続が同じであれば、まとめられる可能性があります。
取引の類型が複数ある場合も、絞り込みの余地があります。売上の計上基準が複数あるなら、量の多い類型を対象にし、それ以外の類型については別途リスクを検討するという形です。ただし、絞った類型のほうがリスクが高いということもあるため、量だけで決めないようにします。
⚖️ 質的に重要なプロセスの追加
勘定科目からたどる方法では拾えないプロセスがあります。見積りや判断が入る取引、非定型の取引、経営者が関与する取引といったものです。これらは、金額が小さくても財務報告に重要な影響を及ぼすおそれがあります。
具体的には、引当金の計上、減損の判定、関連当事者との取引、期末近くの大口の取引といった領域です。通常の業務プロセスの流れには乗らないため、別枠で識別して評価の対象に加えるかを検討します。
追加するかどうかは会社の判断ですが、検討したという記録は残します。監査法人との協議でも、質的に重要なプロセスをどう考えたかは必ず論点になります。検討の跡がないと、なぜ含めていないのかという質問に答えられません。
❓ よくある質問
A. 実施基準では売上高、売掛金、棚卸資産が例示されています。ただし業種によって重要な科目は変わるため、自社の事業の性質から考えます。
A. 金額の大きさと、誤りが生じたときの影響の両方で判断します。金額はやや小さくても見積りや判断が入る科目のほうがリスクは高い場合があります。
A. 決まりはありません。売上計上までを1つとし入金と債権管理を別に切る例が多く見られます。プロセス間に空白ができないようにします。
A. 選んだ勘定科目それぞれについて、その残高が生まれる業務がすべて識別されているかを点検します。値引きや返品の処理が漏れやすいところです。
A. 同じシステムを使い同じ手順書に従い同じ統制が働いているという事実を文書で示せる場合には、代表拠点の評価を他に及ぼす整理ができることがあります。
A. 量の多い類型に絞り、それ以外は別途リスクを検討します。ただし絞った類型のほうがリスクが高いこともあるため量だけで決めません。
A. 引当金の計上、減損の判定、関連当事者との取引、期末近くの大口取引などは別枠で識別し、評価の対象に加えるかを検討します。
A. 必要です。監査法人との協議で必ず論点になります。検討の跡がないと、なぜ含めていないのかという質問に答えられません。
📄 まとめ
業務プロセスの識別は勘定科目から始めます。順序を逆にすると選定の根拠が説明できません。
重要な勘定科目は業種によって変わります。例示をそのまま使わず、自社の事業の性質から考えます。
プロセスの単位は始点と終点で決め、一覧にして漏れを点検します。値引きや返品の処理が漏れやすいところです。
複数拠点の業務をまとめるには、業務が同一であることを文書で示せることが条件になります。
見積りや非定型の取引は勘定科目からたどれません。別枠で識別し、検討した記録を残します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
評価範囲の決定
- 評価範囲の決め方
- 全社的な内部統制の評価
- 重要な事業拠点の選定
- 勘定科目と業務プロセスの識別(この記事)
- 決算・財務報告プロセスの評価
- 評価範囲外から不備が出たとき
文書化
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