評価範囲の決定は、トップダウン型のリスクアプローチという考え方で行います。会社全体から出発して、拠点、勘定科目、業務プロセスへと段階的に絞り込んでいく方法です。
この順序で進める理由は、財務報告への影響が大きいところから見るためです。下から積み上げると、影響の大きい部分を見落とすおそれがあります。
この記事では、絞り込みの6段階、全社的な内部統制から始める理由、暫定と確定の2段階、選定の根拠の残し方、監査法人との協議を整理します。
- 評価範囲を決める6段階と、上から絞る理由
- 全社的な内部統制の評価を先に行う意味
- 各段階で使う判断の材料
- 暫定的な決定と期末の見直しという2段階の扱い
- 期末に範囲が広がることを避ける点検の時期
- 選定の根拠として残しておく4つの記録
図 トップダウン型で評価範囲を絞り込む流れ
📌 結論 上から順に絞り込む
評価範囲の決定は、トップダウン型のリスクアプローチという考え方で行います。会社全体から出発して、拠点、勘定科目、業務プロセスへと段階的に絞り込んでいく方法です。下から積み上げるのではなく、上から絞るという方向が重要になります。
この順序で進める理由は、財務報告に対する影響の大きいところから見ていくためです。金額の小さい取引を丁寧に見ても、財務諸表への影響は限られます。逆に、影響の大きい拠点や勘定科目を見落とすと、制度の目的が達成できません。
上から順に絞り込むので、途中を飛ばすと根拠が説明できなくなる
🧭 全社的な内部統制から始める
最初に決めるのは、全社的な内部統制の評価範囲です。全社的な内部統制は会社全体に及ぶものなので、原則としてすべての事業拠点が対象になります。ただし、財務報告に対する影響がきわめて小さい拠点については、除外を検討できます。
全社的な内部統制の評価を先に行う理由は、その結果が後の段階に影響するためです。全社的な内部統制が良好であれば、業務プロセスの評価を簡素化できる部分があります。逆に問題があれば、業務プロセスの評価を厚くする必要が生じます。
この関係があるため、全社的な内部統制の評価は期中の早い時期に終えておきます。期末近くに行うと、その結果を業務プロセスの評価に反映する時間がありません。
量的な指標だけで決めず、質的な観点を必ず加える
📊 暫定と確定
評価範囲は、計画の段階で暫定的に決め、期末に確定した数値で見直すという2段階になります。計画の段階では前年度の数値や見込みを使うため、期末の実績と差が出ることがあります。
暫定と確定の差が大きくならないよう、期中に一度点検する
実務で困るのは、期末の見直しで範囲が広がった場合です。新たに対象となった拠点やプロセスについて、評価する時間がありません。これを避けるには、期中に一度、直近の実績で範囲を点検します。上期の実績が出た時点で見直せば、下期のうちに追加の評価ができます。
また、暫定の段階で範囲をやや広めに取っておくという選択もあります。後から広げるより、広めに始めて絞るほうが対応しやすいためです。ただし広げすぎると作業量が増えるため、境界にある拠点だけを含めるといった調整をします。
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🗂 選定の根拠を残す
評価範囲の決定で最も重要なのは、なぜその範囲にしたのかを説明できることです。監査法人との協議でも、報告書の記載でも、根拠が問われます。
残しておくのは、対象とした拠点とその理由、対象外とした拠点とその理由、選んだ勘定科目とその理由、識別した業務プロセスの一覧です。数値の一覧だけでは、質的な観点をどう考慮したかが分かりません。
特に、対象外とした部分の理由は丁寧に書きます。含めた理由より、含めなかった理由のほうが後から問われます。金額が小さいという理由だけでなく、過去に問題がないこと、取引が単純であること、といった質的な観点も添えておくと説明が通りやすくなります。
⚖️ 監査法人との協議
評価範囲は会社が決めるものですが、監査法人の見解と大きくずれていると、後から追加の評価を求められます。基準の改訂でも、評価範囲について早い段階から協議することが求められる方向になっています。
協議の材料としては、選定の考え方をまとめた資料を用意します。どの指標を使ったか、どの水準で線を引いたか、質的な観点として何を考慮したかを1枚にまとめると、議論が具体的になります。
協議の時期は、暫定の範囲が決まった時点が最初で、期中の点検の後にもう一度が目安です。期末の確定まで協議しないと、そこで見解が分かれた場合に対応する時間がありません。早めに合意しておけば、期末は数値の当てはめだけで済みます。
❓ よくある質問
A. 全社的な内部統制の範囲からです。その評価結果が業務プロセスの評価の深さに影響するため、順序を逆にすると判断ができません。
A. 原則としてすべての事業拠点が対象です。ただし財務報告への影響がきわめて小さい拠点については除外を検討できます。
A. 期中の早い時期です。期末近くに行うと、その結果を業務プロセスの評価に反映する時間がありません。
A. 計画段階では暫定的に決め、期末に確定した数値で見直します。前年度の数値や見込みを使うため差が出ることがあります。
A. 期中に一度、直近の実績で点検します。上期の実績が出た時点で見直せば、下期のうちに追加の評価ができます。
A. 後から広げるより広めに始めて絞るほうが対応しやすいところです。ただし広げすぎると作業量が増えるため、境界にある拠点だけを含める調整をします。
A. 対象とした拠点と理由、対象外とした拠点と理由、選んだ勘定科目と理由、識別した業務プロセスの一覧です。
A. 暫定の範囲が決まった時点と、期中の点検の後の2回が目安です。期末まで協議しないと、見解が分かれたときに対応する時間がありません。
📄 まとめ
評価範囲はトップダウン型のリスクアプローチで、会社全体から拠点、勘定科目、業務プロセスへと絞り込みます。
全社的な内部統制の評価を先に行います。その結果が業務プロセスの評価の深さを左右するためです。
範囲は暫定と確定の2段階です。期中に一度点検しておけば、期末に範囲が広がって間に合わなくなる事態を避けられます。
対象外とした部分の理由は丁寧に残します。含めた理由より含めなかった理由のほうが後から問われます。
監査法人との協議は暫定の段階から始めます。期末に見解が分かれると対応する時間がありません。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
評価範囲の決定
- 評価範囲の決め方(この記事)
- 全社的な内部統制の評価
- 重要な事業拠点の選定
- 勘定科目と業務プロセスの識別
- 決算・財務報告プロセスの評価
- 評価範囲外から不備が出たとき
文書化
評価の実施
IT統制
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整備と設計
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